説明

固体酸化物セル及び固体酸化物セルスタック

【課題】より劣化しにくい固体酸化物セルを提供する。
【解決手段】燃料電極層を燃料電極支持層の上に堆積させ、安定化ジルコニアを含む電解質層を燃料電極層の上に堆積させて、燃料電極支持体、燃料電極及び電解質のアセンブリを提供し、任意に、燃料電極支持体、燃料電極及び電解質のアセンブリを一緒に焼結して、予備焼結されたハーフセルを提供し、そのハーフセルの電解質層の上に一つ以上の酸素電極層を堆積させて、完全な固体酸化物セルを提供する。一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つがランタン−ストロンチウム−マンガナイト、及び安定化ジルコニアの複合体を含み、一つ以上の酸素電極層を予備焼結されたハーフセルと一緒に焼結して、焼結された完全な固体酸化物セルを提供し、焼結された完全な固体酸化物セルの一つ以上の酸素電極層をマンガンで含浸して、マンガン含浸固体酸化物セルを提供する方法によって得ることができる固体酸化物セル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解生成物の形成が低減された固体酸化物セル(SOCs)に関する。より詳細には、本発明は、ランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)を含む酸素電極の分解が抑制されている固体酸化物型燃料電池及び固体酸化物型電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物セルはまた、可逆性の固体酸化物セルとしても知られており、固体酸化物型燃料電池として、及び固体酸化物型電解セルとして使用することができる。固体酸化物セルは基本的に3つの異なる層からなり、酸化物イオンを誘導する電解質である中間層は気密性であって、電極層の間に挟まれている。電極層は多孔質であって、電子とイオンを誘導し、各固体酸化物セルは酸素電極と燃料電極を有する。固体酸化物型燃料電池を以下に説明する。
【0003】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、電気化学反応から直接電気を発生する高温燃料電池であり、その全体は固体状態の酸化物材料、典型的にはセラミックスから構成される。この構成により、SOFCsは、他の種類の燃料電池、例えばPEM燃料電池よりもずっと高い温度で運転することが可能となる。典型的な運転温度は600℃〜1000℃である。
【0004】
固体酸化物型燃料電池において酸素電極はカソードであり、そこでは酸素から酸素イオンへの還元が生じる。燃料電極はアノードであり、そこでは水素から水素イオンへの、そして水への酸化が起こる。電気化学エネルギーの変換が固体酸化物型燃料電池中で生じ、それにより、外部から供給された燃料(アノード側)と酸化剤(カソード側)から電力が発生される。そのため、これらは電解質の存在下において電極で反応する。
【0005】
通常、アノードを流れる反応物は、水素又はメタンのような燃料である。メタンが燃料として使用される場合、アノード表面において内部改質が起こり、それにより
蒸気の存在下で、メタンは水素と一酸化炭素に改質される。水素はその後電気化学反応において転化される。カソードを流れる酸化剤は、通常空気又は酸素である。
【0006】
固体酸化物型燃料電池は、固体酸化物型電解セル(SOEC)が水素又は合成ガス(水素、H及び一酸化炭素、COの混合物)を生成する、HO及び/又はCOの電気分解を逆行するように、可逆性モードで運転することができる。
【0007】
固体酸化物型電解セル中においては、酸素電極はアノードであり、そこでは酸素イオンの酸素への酸化が起こる。燃料電極はカソードであり、そこでは水から水素への還元が起こる。
【0008】
従来の複合酸素電解質は、ランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)のような電子誘導材料、及びイットリア安定化ジルコニア(YSZ)のような酸素イオン誘導材料を用いて製造される。これら酸素電極は、YSZのような酸素イオン誘導固体酸化物から製造された密な電解質の表面上に堆積される。
【0009】
還元−酸化反応は、主として、電極、電解質、及び酸素又は水素が相互に接触する三元相の境界で起こる。そのため、三元相の境界は、電極と電解質との間の界面で生じる反応の影響を受ける。従って、効率的なガスの拡散と、電解質と電極との間の高められた接触面積が重要である。
【0010】
酸素電極の性能は、主として、酸素電極−電解質の界面に存在する抵抗によって決定される。界面の抵抗を低減し、かつ三元相の境界面の発生を高めることが望ましい。そのために、電極の分極抵抗は低減され、酸素電極の性能全体が向上する。セルの運転温度と酸素電極チャンバ中の酸素分圧もまた、酸素電極の性能に影響を与える。上記因子の不適切な制御が、三元相の境界における分解生成物の形成を招き、そのためSOFC又はSOECの性能が低減する場合がある。
【0011】
酸素電極と電解質との間の高められた接触抵抗による既知の分解生成物は、ジルコニウム酸ランタン、LaZr(LZOと略す)である。この望ましくない分解生成物は、ランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)酸素電極と、イットリ
ア安定化ジルコニア(YSZ)電解質との間の界面で形成され、そしてその形成は、例えば、SOFCの焼結中などの、高温でのSOFCの加熱によって増加する。LZOの形成はまた、セル試験中の高い分極のもとでも増加する。
【0012】
その他の公知の分解生成物は、ジルコニウム酸ストロンチウム(SZO)、及びLa−Zr−Si、及びSr−Zr−Siの酸化物化合物類である。
【0013】
LSM−YSZの分解は、過酷な試験条件下、すなわち低温及び高い電流密度でのセル分解に対して主に寄与することが確認された。バーフォード等(Barfod et al.)の固体状態の電気化学の進歩、材料科学に関する第26回リソ国際シンポジウム、リソ国立研究所、ロスキルデ、第121頁(2005年)(非特許文献1、Barfod et al. Solid State Electrochemistry Proc. 26th Riso International Symposium on Materials Science, Riso National Laboratory, Roskilde, page 121 (2005))は、分解速度が、固体酸化物型燃料電池中のカソード側に対する酸素分圧に非常に依存し、分解速度は純粋な酸素中よりも空気中の方が著しく高いことも指摘している。
【0014】
クッサー,ディー等の固体状態のイオン性78(1995年)79(非特許文献2、Kuscer, D. et al. Solid State Ionics 78 (1995) 79)、によって、LZOとLaシリケートの両方が、LaMnO/YSZ境界面において1450℃でのエージング中に形成することが報告されている。
【0015】
研究(エィ・ハンゲン等の電気化学学会会議、vol.2007−07、No.1、第301〜309頁(非特許文献3、A. Hagen et al. Electrochemical Society Transactions, vol. 2007−07, No. 1, page 301−309))は、LZOが、長時間試験された固体酸化物型燃料電池中で、局所的に、そして好ましくはLSM/電解質接触領域に分布されたナノサイズの粒子として存在することを示している。カソードと電解質との間の境界面におけるナノサイズのジルコニウム酸ストロンチウム(SZO)粒子の形成もまた可能であろう。LZO相及びSZO相の両方は、ジルコニア電解質と比較した場合のそれらの低い導電性に起因する絶縁特性を有し、そしてそれらの存在によりカソードと電解質の電気接触が弱まる。
【0016】
ジルコニウム酸ランタンの形成を抑制するべく、様々な試みがなされてきた。米国特許第7141329B2号明細書(特許文献1)は、多孔質なイオン導電性酸化セリウムの膜コーティングを備えた、拡張された三元相の境界の微小構造を有する電極を開示している。このコーティングは、CeOポリマーゾル又は粒子ゾルから選択される一種またはより多くのドープされた酸化物ゾルから作製され、ゾル−ゲル法を用いて低温で製造でき、その結果、望ましくない境界面反応生成物の生成を防止することができる。
【0017】
Umemura, F.等は、電極材料の焼結と反応を調査するために、劣化した空気電極の微視的特性を評価した(非特許文献4、電気化学及び工業物理化学(電気化学と工業物理化学(日本)第63巻第2号(1995年2月5日)第128頁から第133頁)(Denki Kagaku Oyobi Kogyo Butsuri Kagaku (Electrochemistry and Industrial Physical Chemistry)(Japan) v63:2.(5 Feb 1995) page 128−133))。La0.9Sr0.1MnOと、8%Y−安定化ジルコニアを添加した時に得られる8YSZによってハーフセルを作製して、測定した。YSZの添加により、電極と電解質との間の境界面におけるLaZrの生成が制御された。
【0018】
固体酸化物型燃料電池のためのLa1−xSrMnOの電気化学特性、及びジルコニウム酸ランタンの形成もまた、Lee,H.M.によって研究された(非特許文献5、材料の化学と物理、2003年、V77、N3(1月30日)、第639〜649頁(Materials Chemistry and Physics, 2003, V77,N3 (Jan 30), page 639−646))。固体酸化物型燃料電気のカソード材料のためのLa1−xSrMnO中のSrの最適量が、電荷移動抵抗、電気伝導度、及び電解質との反応性を観察することによって研究された。電解質とLa1−xSrBO(B=Cr、Mn、Co)との間の反応性が調査され、Srの置換量が50モル%の時に二次相、LaZrは形成されないことがわかった。
【0019】
LZOとSZOの形成を制御するためのその他公知の試みは、SOFC中に、余剰のMnを含有するLSMカソードを利用することを含む。製造中、LSMカソードは、マンガンにおいて超化学量論的であるため、マンガン酸化物が二次相としてカソード中に存在する。
【0020】
日本特許出願第5190183号明細書(特許文献2)は、イットリア安定化ジルコニアを含有する燃料電極を有する固体酸化物型燃料電池を開示している。続いて、粉末化イットリア安定化ジルコニア粉末とMnOx粉末とのスラリーが製造され、このスラリーが、固体電解質の表面に塗布され、その後か焼される。そのため、マンガンが、燃料電極、固体電解質、及び気相からなる三相域中に存在する。燃料電極の活性化分極はより小さくなり、SOFCセルの出力は向上した。
【0021】
LSMとYSZの化学反応性及び相互拡散が、Roosmalen, J.A.M.等によって研究された(非特許文献6、固体状態イオン、52(1992年)、第303〜312頁(Roosmalen, J.A.M. et.al, Solid State Ionics 52 (1992) page 303 - 312))。彼らは、反応生成物のLZOとSZOの形成を観察し、得られたLZOとSZOを含む反応層が、SOFCのオーム抵抗と分極の両方を損失させる結果を招き得ることを提言している。彼らは、抵抗損失が反応生成物の低い導電性に起因し、そして、分分極の損失が、カソード、電解質、及び酸素間の三相境界における酸素移動の阻止に起因することを示唆している。LSM中の(La、Sr):Mn比を減少させることによって、La及び/又はSrの活性を低減することが提案されている。
【0022】
しかしながら、マンガンを超化学量論量で導入するこれらの工程は、ジルコニウム酸塩の形成を低減させるのに効果的であることを示しているが、固体酸化物セルが長期間強い分極で運転される場合に、それら中のLSMを含む酸素電極とYSZ電解質との間の三元相の境界における界面でLZOとSZOとの形成を回避するには十分ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】バーフォード等(Barfod et al.)の固体状態の電気化学の進歩、材料科学に関する第26回リソ国際シンポジウム、リソ国立研究所、ロスキルデ、第121頁(2005年)(Barfod et al. Solid State Electrochemistry Proc. 26th Riso International Symposium on Materials Science, Riso National Laboratory, Roskilde, page 121 (2005))
【非特許文献2】クッサー,ディー等の固体状態のイオン性78(1995年)79(Kuscer, D. et al. Solid State Ionics 78 (1995) 79)
【非特許文献3】エィ・ハンゲン等の電気化学学会会議、vol.2007−07、No.1、第301〜309頁(A. Hagen et al. Electrochemical Society Transactions, vol. 2007−07, No. 1, page 301−309)
【非特許文献4】電気化学及び工業物理化学(電気化学と工業物理化学(日本)(第63巻第2号(1995年2月5日)第128頁から第133頁)(Denki Kagaku Oyobi Kogyo Butsuri Kagaku (Electrochemistry and Industrial Physical Chemistry)(Japan) v63:2.(5 Feb 1995) page 128−133))
【非特許文献5】Lee,H.M.、材料の化学と物理、2003年、V77、N3(1月30日)、第639〜649頁(Materials Chemistry and Physics, 2003, V77,N3 (Jan 30), page 639−646))
【非特許文献6】Roosmalen, J.A.M.等、固体状態イオン、52(1992年)、第303〜312頁(Roosmalen, J.A.M. et.al, Solid State Ionics 52 (1992) page 303 - 312))
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第7141329B2号明細書
【特許文献2】日本特許出願第5190183号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
従って、本発明の課題は、より劣化しにくい固体酸化物セルを提供することである。
【0026】
本発明のさらなる課題は、向上された長期性能を示す固体酸化物セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
これらの課題、並びにその他の課題は、
− 燃料電極層を燃料電極支持層の上に堆積させる工程、
− 安定化ジルコニアを含む電解質層を燃料電極層の上に堆積させて、燃料電極支持体、燃料電極及び電解質のアセンブリを提供する工程、
− 任意に、上記の燃料電極支持体、燃料電極及び電解質のアセンブリを一緒に焼結して、予備焼結されたハーフセルを提供する工程、
− 上記の予備焼結されたハーフセルの上記の電解質層の上に、一つ以上の酸素電極層を堆積させて、完全な固体酸化物セルを提供する工程であって、その一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つがランタン−ストロンチウム−マンガナイト、及び安定化ジルコニアを含む、前記工程、
− 上記の一つ以上の酸素電極層を、上記の予備焼結されたハーフセルと一緒に焼結して、焼結された完全な固体酸化物セルを提供する工程、
− 上記の焼結された完全な固体酸化物セルの一つ以上の酸素電極層をマンガンで含浸して、マンガン含浸固体酸化物セルを提供する工程、
を含む方法によって得ることができる固体酸化物セルを提供することによって達成される。
【0028】
予備焼結されたハーフセルを提供するために、燃料電極支持体、燃料電極、及び電解質のアセンブリを一緒に焼結することは任意である。もし、焼結が行われない場合には、燃料電極支持体、燃料電極、及び電解質のアセンブリはハーフセルを与える。
【0029】
この場合、後続の工程は次の通りである。
− ハーフセルの電解質層の上に、一つ以上の酸素電極層を堆積して、完全な固体酸化物セルを提供する工程であって、その一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つがランタン−ストロンチウム−マンガナイト及び安定化ジルコニアの複合体を含む、前記工程、
− 上記の一つ以上の酸素電極層を上記のハーフセルと一緒に焼結して、焼結された完全な固体酸化物セルを提供する工程、及び、
− 上記の焼結された完全な固体酸化物セルの一つ以上の酸素電極層をマンガンで含浸して、マンガン含浸固体酸化物セルを提供する工程。
【0030】
従って、本発明は、燃料電極支持体層の上に堆積された燃料電極層及びこの燃料電極層の上に堆積された、安定化ジルコニアを含む電解質層、及び該電解質層の上に堆積された一つ以上の酸素電極層であって、その一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つがランタン−ストロンチウム−マンガナイト及び安定化ジルコニアの複合体を含む固体酸化物セルを包含し、そして燃料電極、燃料電極支持体層、電解質層及び一つ以上の酸素電極層が同時に焼結され、そして焼結された一つ以上の酸素電極層がその後更にマンガンで含浸される。
【0031】
従って、本発明は、次の工程を含む、固体酸化物セルの製造方法を包含する。
− 燃料電極支持層の上に、燃料電極層を堆積する工程、
− 安定化ジルコニアを含む電解質層を燃料電極層の上に堆積させて、燃料電池支持体、燃料電極及び電解質のアセンブリを提供する工程、
− 任意に、上記の燃料電極支持体、燃料電極及び電解質のアセンブリを一緒に焼結して、予備焼結されたハーフセルを提供する工程、
− 上記の予備焼結されたハーフセルの電解質層の上に、一つ以上の酸素電極層を堆積させて、完全な固体酸化物セルを提供する工程であって、その一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つが、ランタン−ストロンチウム−マンガナイト及び安定化ジルコニアの複合体を含む、前記工程、
− 上記の一つ以上の酸素電極層を上記の予備焼結されたハーフセルと一緒に焼結して、焼結された完全な固体酸化物セルを提供する工程、
− 上記の焼結された完全な固体酸化物セルの一つ以上の酸素電極層をマンガンで含浸して、マンガン含浸固体酸化物セルを提供する工程。
【0032】
さらに、本発明は、一つ以上の固体酸化物型燃料電池、あるいは一つ以上の固体酸化物型電解セルを含む、固体酸化物セルスタックを提供する。
【0033】
本発明の実施態様において、一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つは、ランタン−ストロンチウム−マンガナイト及び安定化ジルコニアの複合体を含み、マンガンと、上記のランタン−ストロンチウム−マンガナイト中のランタン及びストロンチウムとの原子比は1より大きい。この実施態様は、上記並びに下記の実施態様のいずれかと組み合わせることができる。
【0034】
本発明の実施態様において、ジルコニアは、イットリア、スカンジア(scandia)、マグネシア又は酸化カルシウムで安定化される。
【0035】
本発明の好ましい実施態様においては、ジルコニアはイットリアで安定化される。
【0036】
本発明の実施態様において、マンガンによる一つ以上の酸素電極層の含浸は、上記の一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つが所定量のマンガンで含浸されるまで繰り返し行われる。
【0037】
本発明の実施態様において、マンガンによる上記の一つ以上の酸素電極層の含浸は、ランタン−ストロンチウム−マンガナイトと安定化ジルコニアの複合体を含む上記の酸素電極層が所定量のマンガンで含浸されるまで、繰り返し行われる。この実施態様は、上記又は下記で開示される実施態様のいずれかと組み合わせることができる。
【0038】
本発明の実施態様において、上記の一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つの表面上に、マンガンは0.5〜5mg/cmの濃度で含浸される。
【0039】
本発明の実施態様において、マンガンは、マンガン(II)塩の水溶液を用いて含浸される。
【0040】
本発明の実施態様において、上記の塩は硝酸塩、硫酸塩、又は塩化物である。
【0041】
本発明の実施態様において、上記の一つ以上の酸素電極層は、スクリーン印刷、噴霧、テープ成形又は噴霧熱分解によって、電解質層の上に堆積される。本発明の実施態様において、固体酸化物セルスタックは一つ以上の固体酸化物セルを含む。この固体酸化物セルスタックは、少なくとも二つの固体酸化物セルを含むことができる。
【0042】
本発明の実施態様において、固体酸化物セルは固体酸化物型燃料電池又は固体酸化物型電解セルである。
【0043】
本発明の固体酸化物セルは、酸素電極と電解質との間に、マンガンリッチな界面を有することを特徴とする。マンガンは過剰に存在しており、これは電解質、酸素電極及び酸素ガスの間の三元相の境界に局所的に存在させるか、あるいは酸素電極と電解質の間に配置された層として存在させることができる。
【0044】
層として、あるいは三元相の境界に局所的にマンガンが過剰に存在することによって、酸素電極/電解質境界面は、燃料電池スタックの運転中に酸素電極中のLSMと電解質中の安定化ジルコニアとの間の反応性が低減することによって劣化するのを効果的に防止する。ジルコン酸塩形成の危険性が低減される。
【0045】
本発明は固体酸化物セルにおける劣化を低減させることに関する。本発明は固体酸化物型燃料電池及び固体酸化物型電解セル中のLSM/NSZ(安定化ジルコニア(ここでNは異なる安定化成分を示す))タイプの複合電極を含むランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)型の電解質における劣化の抑制に関連する。
【0046】
劣化は、LSM適用範囲の損失及び三重相境界長さの損失として確認されていた。これは、絶縁相LZO、SZO及びSr−Zr−Si酸化物化合物のうちの少なくとも一つの形成に起因する個々のLSM/電解質接触領域の寸法減少及び三元相の境界長さにおける減少によって観察される。絶縁相は、局所的に、そして好ましくはLSM/電解質接触領域中に分布したナノ粒子として存在する。
【0047】
本発明の固体酸化物セルは、固体酸化物型燃料電池又は固体酸化物型電解セルのいずれとしての使用にも適している。これは、従来の酸素電極を有する固体酸化物セルと比較した時、低減された濃度の絶縁相LZO(最重要)、SZO及びLa−Zr−Si又はSr−Zr−Si酸化物化合物の一つ以上を有する。低減された濃度は、強い分極及び延長された運転期間のような過酷な運転条件に曝される前と後の両方で観察される。
【0048】
更に、本発明の固体酸化物セルの酸素電極と電解質との間の接着性は、LSM粒子が安定化ジルコニア電解質表面から剥離するのが防止されるため、向上する。
【0049】
固体酸化物セルは、絶縁相の形成におけるこの低減を容易にするために特定の方法で改質された。この改質は、酸素電極層を堆積させてから酸素電極層をマンガン溶液に含浸させた後で固体酸化物セルを焼結することを含む。
【0050】
本発明の固体酸化物セルの製造を、以下に詳述する。
【0051】
燃料電極支持体層は、好ましくはテープ成形によって製造される。燃料電極層は、燃料電極支持層の上に、例えば噴霧や従来公知のその他の方法によって堆積される。燃料電極層と燃料電極支持体層は、固体酸化物セルの製造に有用な通常の材料のいずれかであることができる。
【0052】
固体酸化物セルに関して、燃料電極支持体層は、例えば、Ni−NSZ複合体であることができ、ここで、NはMg、Ca、Y、Sc、又は当該技術において公知のその他の元素、例えば、Ce及びGdを意味することができる。
【0053】
あるいはまた、燃料電極層はFe−Cr合金粒子をベースとする多孔質金属であることができる。更には、この燃料電極層はドープされたSrTiOのようなセラミックであることができる。固体酸化物型燃料電池としては好ましくは、Ni−NSZ複合体及びFe−Cr合金粒子をベースとする多孔質金属であり、そして固体酸化物型電解セルとして好ましいのは、ドープされたSrTiOのようなセラミックである。
【0054】
固体酸化物セルについて、燃料電極層は、例えば、(1)NがMg、Ca、Y、Scを意味する、Ni−NSZ複合体であり、及び(2)ドープされたSrTiOのようなセラミックである。
【0055】
固体酸化物型燃料電池として好ましいのは、1)及び2)であり、そして固体酸化物型電解セルとしては2)である。
【0056】
電解質層は燃料電極層の上に堆積される。電解質層は、一般にNSZと略される安定化ジルコニアであり、ここでNは安定化させる元素を意味する。Nはイットリウム、スカンジウム、マグネシウム又はカルシウムを意味する。固体酸化物型燃
料電池及び固体酸化物型電解セルの両方に関して、好ましくはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)であり、そしてより好ましくはY0.15Zr0.851.925(TZ8Yと略される)である。
【0057】
堆積は、噴霧、スクリーン印刷、噴霧熱分解、テープ成形、又は当該技術で公知のその他の方法によって好ましく行うことができる。
【0058】
燃料電極支持体層、燃料電極層、及び電解質のアセンブリは、一般にハーフセルと呼ばれる。これらの構成要素に基づいて得られるハーフセルは、任意に焼結することができ、予備焼結とも呼ばれる。典型的には、このハーフセルは焼結されて、予備焼結されたハーフセルを提供する。焼結は、1200℃を超える温度で行うことができる。この焼結工程を含むことの利点は、後続の工程のために強いハーフセルを形成させることであって、その場合には酸素電極の適用方法及び焼結温度を広い範囲内で選択することができる、。
【0059】
一つ以上の酸素電極層は、その後ハーフセル又は予備焼結されたハーフセルの電解質層の上に堆積され、そして、少なくとも一つの酸素電極層は、ランタン−ストロンチウム−マンガナイトと、NSZの複合体(LSM−NSZ)を含み、ここでNは、Mg、Ca、Y、Sc及びそれら元素の混合物からなる群から選択される。LSMはマンガンに関して化学量論的又は超化学量論的である。マンガンは、そのため、酸素電極組成物中に過剰に存在し得る。好ましくは、マンガンは10重量%までの量で過剰に存在する。
【0060】
化学量論的とは、原子比Mn/(La+Sr)が1であること、すなわち、材料は、元素の濃度が完全なペロブスカイトの一つに匹敵するように合成されることを意味する。構造体(La、Sr)中のA部位になる元素、及びB部位(Mn)になる元素の等量(原子%)がある。
【0061】
超化学量論的とは、化合物が、化学量論的化合物の1:1の比に関して過剰のMnが存在するように、すなわち、マンガンと、ランタン及びストロンチウムとの比(Mn/(La+Sr))が1より大きく(原子%)なるように合成されることを意味する。
この不均衡によって材料中に空のA部位及び/又は少量の二次Mn酸化物相、例えばMnO、MnO又はその他が形成される。
【0062】
酸素電極層として適当なLSM−NSZ層の例は50重量%LSM−50重量%YSZである。
【0063】
完全な固体酸化物セルは、一つ以上の酸素電極層がハーフセル又は予備焼結されたハーフセルの電解質層の上に堆積される時に得られる。
【0064】
酸素電極層はまた、二つ又はより多くの異なる組成の層からなる複合多層であり、ここで少なくとも一つの層はLSM−NSZの複合体であり、ここでNは例えばイットリウムである。二元酸素電極層の一例は、LSM−NSZの第一の酸素電極層と、LSMの第二の酸素電極層からなることができるである。本発明の好ましい実施態様において、Nはイットリウムである。
【0065】
酸素電極層は、ハーフセル又は予備焼結されたハーフセルの電解質層の上に、異なる方法、例えばスクリーン印刷、テープ成形、噴霧、噴霧熱分解又は当該技術において公知のその他の類似方法によって堆積させることができる。
【0066】
LSM−NSZの複合体である酸素電極層は、5〜40ミクロンの厚さを有することができ、そしてLSM−NSZの複合体ではない酸素電極層は10〜100ミクロンの厚さを有することができる。電解質層は1〜20ミクロンの厚さを有することができる。燃料電極層は1〜20ミクロンの厚さを有することができ、燃料電極支持体層は、200〜1000ミクロンの厚さを有することができる。
【0067】
所定量の一つ以上の酸素電極層を電解質層の上に堆積させた後、一つ以上の酸素電極層が堆積されたハーフセル又は予備焼結されたハーフセルは焼結されて、焼結された完全な固体酸化物セルを提供する。この工程は酸素電極の電解質に対する接着性を確実にするために重要である。焼結は900〜1300℃、好ましくは950〜1100℃の温度で行われる。
【0068】
焼結後、焼結された完全な固体酸化物セルの一つ以上の酸素電極層は、マンガンで含浸される。この含浸は、マンガン塩、例えば、マンガン(II)塩の水溶液であることができるマンガン溶液を用いて行うことができる。この塩は、例えば硝酸塩、硫酸塩、塩化物又はマンガン塩の水溶液の形成に適当なその他の慣用の塩であることができる。好ましくは硝酸塩である。マンガンで含浸された固体酸化物セルが得られる。
【0069】
Mn(II)の酸素電極上への含浸はまた、燃焼合成工程によっても行うことができる。例えば次の通りである:水溶液中でグリシンとMn−硝酸塩を結合させる前駆体を、セルの加熱中に酸素電極上に滴下することができる。この前駆体はまた、過剰な水を蒸発させるために加熱され、それによって、粘性液を生じさせることができる。約180℃への更なる加熱は前駆体の液を自動発火させて、Mn(II)を酸素電極中に含浸させる。
【0070】
硝酸マンガンが、酸素電極/電解質界面において、1cm当たり0.5〜5mgMnに相当する、0.5〜5mg/cmの濃度で酸素電極層の表面上に堆積されたものが本発明の好ましい実施態様である。この濃度において、マンガンは、電解質、酸素電極、及び酸素ガスの三元相の境界において局部的に過剰に存在するか、あるいは酸素電極と電解質との間に配置する層として存在する。より好ましくは、0.5〜3mg/cmの濃度で堆積される。
【0071】
含浸は、酸素電極層の表面上に所定濃度のマンガンを得るために繰り返し行うことができる。必要であれば、真空で行うことができる。
【0072】
マンガンによる含浸後、得られた固体酸化物セルは、300℃までの温度で加熱することによって乾燥される。乾燥後、得られた固体酸化物セルは、固体酸化物型燃料電池スタック又は固体酸化物電解質スタックにおいて使用するのに適している。
【0073】
本発明の方法によって得られた固体酸化物型燃料電池を固体酸化物型燃料電池スタックに適用することによって、過酷な運転条件に曝された後の、酸素電極、
電解質及びガスの間の三元相の境界中の分解生成物LZO、SZO、La−Zr−Si及びSr−Zr−Si少なくとも一つの含有量が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、標準的なSOCセル及び本発明のSOCセルの老化試験を示す。
【図2】図2は、空気中又は窒素中において加熱処理した後のYSZ/LSM粉末混合物のX線回折図を示す。
【図3】図3は、1500時間の試験後の本発明のSOCセルの電解質/酸素電極界面のSEM像を示す。
【図4】図4は、1500時間の試験後の標準的なSOCセルの電解質/酸素電極界面のSEM像を示す。
【図5】図5は、図3と同じSOCセルの電解質/酸素電極界面のSEM像を拡大して示す。
【図6】図6は、1500時間の試験後の本発明のSOCセルから酸素電極を除去した後の電解質表面のSEM像を示す。
【図7】図7は、1500時間の試験後の標準的なSOCセルから酸素電極を除去した後の電解質表面のSEM像を示す。
【実施例】
【0075】
例1:過剰濃度のマンガンを含む固体酸化物セルの製造
酸素電極/電解質界面が過剰濃度のMnを含む固体酸化物セルは、以下の工程で製造される。
【0076】
(1) 燃料電極支持体層(AS)をテープ成形する、
(2) 燃料電極層(A)を燃料電極支持体層の表面上に噴霧する、
(3) 8%Y−安定化ジルコニア(TZ8Y)の10ミクロン電解質層(E)を、燃料電極層の表面上に噴霧して、ハーフセルを得る、
(4) ハーフセルを1200℃を超える温度で焼結する、
(5) 電解質層の表面上に、20〜30ミクロンの厚さのLSM−YSZ酸素電極層をスクリーン印刷する、
(6) ハーフセルと、このハーフセルの上に堆積されたLSM−YSZ酸素電極層とを同時に焼結する、
(7) 100mlの蒸留水中に10gのMn−硝酸塩を溶解させることによって調製されたMn−硝酸塩水溶液を用いて、酸素電極層を含浸する。含浸されたセルにおいて0.5〜5mgMn/cmの濃度が得られるまで含浸工程を繰り返す、
(8) 含浸されたセルを80℃の温度で加熱することによって乾燥して、固体酸化物セル得る。
【0077】
次の詳細な説明は、例1の製造工程に関する。
テープ成形のための懸濁液は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルブチラール(PVB)、及び添加剤としてのエタノール(EtOH)とメチルエチルケトン(MEK)を用いる粉末のボール粉砕によって製造される。懸濁液は、両刃型ドクターブレード機構及びテープを用いるテープ成形によって堆積され、そしてこのテープは引き続き乾燥される。
【0078】
(1) AS層:45体積%イットリア安定化ジルコニア(YSZ)及び55体積%NiO粉末を含んでいた。未焼結のテープ成形層の厚さは、400μmの範囲内であった。焼結及び還元後のこの層の多孔度は30%の範囲内であった。
(2) A層:A層のスラリーは、40体積%YSZ及び約60体積%NiO粉末を含んでいた。噴霧及び焼結後のA−層の厚さは約10μmであった。焼結及び還元後のこの層の多孔度は約25%であった。
【0079】
(3) E層:E層のスラリーは、TZ8Yを含んでいた。噴霧及び焼結後のE層の厚さは、約10μmであった。
【0080】
(4) 燃料電極支持体層、燃料電極層及び電解質層からなるハーフセルは、炉内で1200℃を超える温度で、100℃/時の上昇で焼結され、約12時間放置されて室温まで冷却されて、焼結されたハーフセルが形成された。
【0081】
(5) 酸素電極層は、1:1の重量比のLaO.75SrO.25Mn1.053−δとYSZとの混合物を含むインキを電解質層(E)の表面上にスクリーン印刷することによって焼結されたハーフセルの上に堆積された。焼結前の酸素電極層の厚さは20〜30μmであった。
【0082】
(6) 酸素電極層を堆積させたハーフセルを、炉内で約1100℃で2時間焼結して、その後室温まで冷却すること。
【0083】
(7) 酸素電極層をマンガンで含浸すること:Mn−硝酸塩水溶液は、10gのMn−硝酸塩(純度99.999%)を100mlの蒸留水中に溶解することによって調製された。この溶液は、点眼器によって多孔質酸素電極層の表面上に滴下された。固体酸化物セルに、酸素電極表面上に0.5〜5mgMn/cmの濃度を与えるように含浸工程を少なくとも二回繰り返して、固体酸化物セルを得た。
【0084】
(8) 含浸された固体酸化物セルを、ホットプレート上で約80℃で5分間加熱することによって乾燥する。
【0085】
例2:過剰濃度のマンガンを含む固体酸化物セルの製造
工程7における含浸を真空で行った以外は、例1について上記で要点を述べたようにしてセルを製造した。
【0086】
酸素電極の表面上に0.5〜5mgMn/cmの濃度を与えるように含浸工程を少なくとも二回繰り返して、セルを得た。
【0087】
例3:過剰濃度のマンガンを含む固体酸化物セルの製造
工程7で真空を用いて、100mlMn−硝酸塩溶液中に1gTriton−X100を溶解することによって調製された、界面活性剤Triton−X100を含むMn−硝酸塩溶液で多孔質の酸素電極層を含浸すること以外は、例1について上記で要点を述べたようにして固体酸化物セルを製造した。
【0088】
含浸工程は、最終的な固体酸化物セルのために、酸素電極表面上に0.5〜5mgMn/cmの濃度を与えるように少なくとも二回繰り返した。
【0089】
例4:過剰濃度のマンガンを含む固体酸化物セルの製造
工程3においてE−層がスクリーン印刷されたこと以外は、例1について上記で要点を述べたようにして固体酸化物セルを製造した。電解質層の厚さは約10μmであった。
【0090】
工程5においては、1:1の重量比のLaO.75SrO.25Mn1.053−δとYSZとの混合物を含むスラリーを電解質層(E)の表面の上に噴霧することによって、焼結されたハーフセルの上に酸素電極層を堆積させた。焼結前の酸素電極層の厚さは20〜30μmであった。
【0091】
酸素電極の表面上に0.5〜5mgMn/cmの濃度を与えるように含浸工程を少なくとも二回繰り返して、最終的な固体酸化物セルを得た。
【0092】
例5:過剰濃度のマンガンを含む固体酸化物セルの製造
工程7において含浸が真空で行われたこと以外、例4のようにして固体酸化物セルを製造した。
【0093】
酸素電極表面上に0.5〜5mgMn/cmの濃度を供給するように含浸工程を少なくとも二回繰り返して固体酸化物セルを得た。
【0094】
例6:
工程7において真空を用いて、100mlMn−硝酸塩溶液中に1gTriton−X100を溶解することによって調製された、界面活性剤Triton−X100を含むMn−硝酸塩溶液で多孔質酸素電極層を含浸した以外は、例4のようにして、固体酸化物セルを製造した。
【0095】
酸素電極表面上に0.5〜5mgMn/cmの濃度を供給するようにして含浸工程を少なくとも二回繰り返して、固体酸化物セルを得た。
【0096】
例7〜12:含浸に硫酸マンガンを用いた過剰濃度のマンガンを含む固体酸化物セルの製造
これらの例は例1〜6におけるのと同じ方法で行った。しかしながら、含浸のための水溶液を調製するのにMn−硝酸塩の代わりにMn−硫酸塩が使用された。
【0097】
例13〜18:塩化マンガンを用いた過剰濃度のマンガンを含む固体酸化物セルの製造
これらの実験は、例1〜6におけるように行ったが、含浸のための水溶液を調製するのにMn−硝酸塩の代わりにMn−塩化物が使用された。
【0098】
例19:過剰濃度のマンガンを含む固体酸化物セルの製造
工程1における懸濁液がFe−Cr合金粉末、有機バインダー及び細孔形成体を含む以外は、例1のようにして、固体酸化物セルを製造した。未焼結の燃料電極支持体テープ成形層の厚さは約400μmであった。焼結後のこの層の多孔度は20〜30%の範囲内であった。
【0099】
酸素電極表面上に0.5〜5mgMn/cmの濃度を供給するようにして含浸工程を少なくとも二回繰り返して固体酸化物セルを得た。
【0100】
例20:燃焼合成による過剰濃度のマンガンを含む固体酸化物セルの製造
工程7において、Mn(II)を酸素電極上に含浸させるために燃焼合成工程が使用されたこと以外は、例1のようにして固体酸化物セルを製造した。セルを加熱する間に水溶液中でグリシンをMn−硝酸塩に結合させる前駆体を、酸素電極上に滴下した。この前駆体を加熱して過剰な水を蒸発させることによって、粘性液を得た。約180℃へ更に加熱することによって前駆体液を自然発火させ、Mn(II)を酸素電極中に含浸させた。
【0101】
Mn(II)を含む水溶液で含浸することによって、電解質/酸素電極界面へのMn(II)の添加の肯定的な効果が、次の五つの図に記録される。
【0102】
図1は、二つの標準的な(従来の)固体酸化物セルA及びB、並びに本発明の三つの固体酸化物セルC、D及びEの老化試験を示す。セル電圧は、運転時間の関数としての定電流で記録された。これらのセルは、強い分極(電流密度、i=0.75A/cm)下の750℃の下に1500時間の試験の下で老化させた。
【0103】
本発明の三つの固体酸化物セルC、D及びEは、酸素電極層の堆積及び焼結後にマンガンで含浸されて、0.5〜5mgMn/cmの範囲内の濃度を有していた。C、D及びEが、運転時間全体を通じてセル電圧が低下し続けるA及びBより
もずっと早くセル電圧に関して安定することがわかる。従って、本発明の固体酸化物セルの性能は、強い劣化を示す試験された標準的セルよりも良好な長期の耐久性を示す。
【0104】
酸素電極層をMnで含浸することの有益な効果は、前述のLa−ジルコニウム酸塩及びSr−ジルコニウム酸塩、及びその他の分解生成物の形成を抑えることが推測可能であることである。標準的なセルに観察された強い分解がジルコニウム酸塩の形成に関連する可能性は、図2に再現された発見によって支持される。
【0105】
図2は、空気中又は窒素中での様々な加熱処理後のYSZ/LSM粉末混合物のX線回折図を示す。試料Fは、YSZ−LSM粉末混合物を、窒素中で1000℃に9週間曝した後に得られた結果を示し、一方、試料Gは、YSZ−LSM粉末混合物を、窒素中で1000℃に9週間曝した後、空気中で1000℃に4週間曝した後に得られた結果を示す。
【0106】
ここに、粉末反応性試験の結果が示されており、試料F及び試料Gの両方が、YSZについてのピーク(2θ≫30.1において)、及びLSMについてのピーク(2θ≫32.4、32.6において)を示すことがわかる。しかしながら、試料Fは、2θ≫30.9においてSrZrOについての追加のピークを示している。同じピークはまた、試料Gについても観察された。しかしながら、これは4週間空気にさらされた後に消滅した。
【0107】
そのため、ジルコニウム酸塩の形成は、酸素分圧、pOに強く依存することが示される。粉末混合物がN中で加熱処理される場合に、ジルコニウム酸塩分解生成物が形成する。これは、粉末が引き続いて空気中で加熱処理される場合に消滅する。この発見は、分極の増加が酸素電極−粒子−電解質界面における、pOの低減に相当するため、セルの分解速度が、分極の増加に伴って増加するという理由が、ジルコニウム酸塩の形成に関連するという作業仮説を支持する。酸素電極/電解質境界における酸素分圧、pOが、空気の特徴に非常に近い低い電流密度(i=0.25A/cm)において、分解は全く観察されない。
【0108】
超化学量論量のマンガンの添加は、分解の低減をもたらすことが知られている。しかしながら、この低減は、固体酸化物セルの運転が長期間又は高い分極で行われる場合には、長期間効果的ではない。
【0109】
図3は、750℃、i=0.75A/cmにおける1500時間の試験後の本発明のSOFCセルの電解質/酸素電極界面のSEM像を示す。界面の微小構造は、標準的SOFCセルとは大きく異なっている(図4を参照)。増加したMn含有量を有する層は、本発明のセルにおいてEDSによって観察されるが、標準的セルでは観察されない。本発明のセル中の酸素電極は、標準的なセルよりも良好に電解質に接着する。
【0110】
図4は、750℃、i=0.75A/cmでの1500時間の試験後の標準的なSOFCセルの電解質/酸素電極界面のSEM像を示している。
【0111】
図5は、図3におけるのと同じセルの電解質/酸素電極界面のSEM像を拡大して示す。二次相が界面領域に見られる。
【0112】
図6は、750℃、i=0.75A/cmでの1500時間の試験後の本発明のSOFCセルの、酸素電極を除去した後の電解質表面のSEM像を示す。図7に示す標準的なセルとは異なって、LSMクレーターのほとんどはナノ粒子を含まない。LSMクレーターに加えて、不規則な形状の多数のインプリントもまた存在する。これらは、Mn含浸により境界に導入された新たな相に起因し、そして酸素電極を電解質にしっかりと固定するのを助けるものと思われる。
【0113】
図7は、750℃、i=0.75A/cmでの1500時間の試験後のセルの、酸素電極を除去した後の電解質表面のSEM像を示している。小型のLSMクレーターが、そのクレーターの縁におけるジルコニウム酸塩のナノ粒子と共に観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 燃料電極層を燃料電極支持層の上に堆積させる工程、
− 安定化ジルコニアを含む電解質層を燃料電極層の上に堆積させて、燃料電極支持体、燃料電極及び電解質のアセンブリを提供する工程、
− 任意に、上記の燃料電極支持体、燃料電極及び電解質のアセンブリを一緒に焼結して、予備焼結されたハーフセルを提供する工程、
− 上記の予備焼結されたハーフセルの上記電解質層の上に一つ以上の酸素電極層を堆積させて、完全な固体酸化物セルを提供する工程であって、その一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つがランタン−ストロンチウム−マンガナイト、及び安定化ジルコニアの複合体を含む、前記工程、
− 上記の一つ以上の酸素電極層を上記予備焼結されたハーフセルと一緒に焼結して、焼結された完全な固体酸化物セルを提供する工程、
− 上記の焼結された完全な固体酸化物セルの一つ以上の酸素電極層をマンガンで含浸して、マンガン含浸固体酸化物セルを提供する工程、
を含む方法によって得ることができる固体酸化物セル。
【請求項2】
前記の一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つが、ランタン−ストロンチウム−マンガナイト及び安定化ジルコニアの複合体を含み、そしてランタン−ストロンチウム−マンガナイトにおける、マンガンの、ランタン及びストロンチウムに対する原子比が1よりも大きい、請求項1に記載の固体酸化物セル。
【請求項3】
前記のジルコニアが、イットリア、スカンジア、マグネシア又は酸化カルシウムで安定化されている、請求項1又は2に記載の固体酸化物セル。
【請求項4】
前記のジルコニアがイットリアで安定化されている、請求項3に記載の固体酸化物セル。
【請求項5】
前記の一つ以上の酸素電極層のマンガンによる含浸が、前記の一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つが所定量のマンガンで含浸されるまで繰り返し行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の固体酸化物セル。
【請求項6】
前記の一つ以上の酸素電極層のマンガンでによる含浸が、ランタン−ストロンチウム−マンガナイト及び安定化ジルコニアの複合体を含む前記酸素電極層が、所定量のマンガンで含浸されるまで繰り返し行われる、請求項5に記載の固体酸化物セル。
【請求項7】
前記の一つ以上の酸素電極層の少なくとも一つの表面上に、0.5〜5mg/cmの濃度でマンガンが含浸される、請求項5又は6に記載の固体酸化物セル。
【請求項8】
マンガン(II)塩の水溶液を用いてマンガンが含浸される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の固体酸化物セル。
【請求項9】
前記塩が、硝酸塩、硫酸塩又は塩化物である、請求項8に記載の固体酸化物セル。
【請求項10】
前記の一つ以上の酸素電極層が、スクリーン印刷、噴霧、テープ成形又は噴霧熱分解によって電解質層の上に堆積される、請求項1に記載の固体酸化物セル。
【請求項11】
前記の固体酸化物セルが、固体酸化物型燃料電池又は固体酸化物型電解セルである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の固体酸化物セル。
【請求項12】
請求項1に記載の固体酸化物セルを一つ以上含む固体酸化物セルスタック。
【請求項13】
前記の固体酸化物セルが、固体酸化物型燃料電池又は固体酸化物型電解セルである、請求項12に記載の固体酸化物セルスタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−177187(P2010−177187A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−274262(P2009−274262)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(509332501)テクニカル・ユニヴァーシティ・オブ・デンマーク (2)
【Fターム(参考)】