説明

固体電解質、膜電極接合体および燃料電池

【課題】燃料電池用途において高いプロトン伝導性、改良された機械的強度を示す固体電解質等を提供する。
【解決手段】スルホン化芳香族系高分子と、フィラーを含有し、前記スルホン化芳香族系高分子は、芳香族系高分子が有する芳香環に、少なくとも1個のスルホネート部分が結合している、固体電解質を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料として純水素、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、メタノールまたは化石燃料からの改質水素などを直接用い、空気や酸素を酸化剤とする燃料電池に関するものであり、特に、固体高分子型燃料電池において用いられる固体電解質ならびに、これを用いた膜電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の電源として利用できる、燃料電池が活発に研究されており、その部材である、プロトン伝導材料である固体電解質についても活発な研究が行われている。
【0003】
一般に、プロトン伝導材料としてナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が用いられているが、プロトン伝導度がまだ十分ではなく、プロトン伝導度を上げるため高分子構造中のスルホン酸基量を上げると、機械的強度の低下および水性溶媒への可溶化を引き起こしてしまう。また高温状態(100℃以上)では軟化が起こりプロトン伝導度が低下してしまうため、高温域(100℃以上、さらには140℃以上)での使用に問題がある。さらに使用するモノマーが比較的高価であり、また製造工程が複雑なため製造コストが高くなるといった問題も残る。
【0004】
燃料電池における新たな関心および高温での難題のために、Nafion(登録商標)に代わる可能性があるものとして、新しい膜材料が開発されている。以前の研究は、スルホン化ポリスチレン、スチレン−ブタジエンブロック共重合体またはポリ(アリーレンエーテル)(例えば、PEEK)に集中していた。一般的に、これらの重合体は、全て、ポストスルホン化重合体修飾反応により製造されていたが、この場合、そのスルホン酸基は、既に形成された重合体骨格に結合されている。
【0005】
ポストスルホン化重合反応により製造されたスルホン化ポリ(アリーレンエーテルスルホン)は、NoshayおよびRobesonの先駆的な研究以来、関心が持たれ、市販のビスフェノール−Aベースのポリ(エーテルスルホン)用の穏やかなスルホン化手法が開発されている。この手法は、逆浸透用の脱塩膜の領域および関連した水精製領域で、相当に重要であることが分かった。このポストスルホン化重合反応では、スルホン酸基の結合は、重合体鎖の特定の位置に制約されてしまう。例えば、スキームAに示したビスフェノールAベースのシステムでは、そのスルホン酸基は、殆ど常に、その芳香族エーテル結合に対してオルトの活性化位置に制約されてしまう。さらに、このシステムは、典型的には、1繰り返し単位あたり1個のスルホン酸基しか結合できない。
【0006】
スキームA
【化1】

スキームAは、ビスフェノールAベースのシステムであって、ここで、xは、−C(CH32−、nは任意の正の数である。
【0007】
一方、特許文献1および非特許文献1においては上記と異なり非活性化芳香環上にスルホネート部分を含有するスルホン化ポリスルホンが開示されている。主鎖骨格の特性上高い機械的強度を有するが、長期耐久性が十分とは言えず、さらに高い強度が求められている。
【0008】
【特許文献1】特表2004−509224号公報
【非特許文献1】PolymerPreprints(2000),41(1),237
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、燃料電池用途において高いプロトン伝導性、改良された機械的強度を示す固体電解質およびこれを用いた膜電極接合体および燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、下記手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
(1)スルホン化芳香族系高分子と、フィラーを含有し、前記スルホン化芳香族系高分子は、芳香族系高分子が有する芳香環に、少なくとも1個のスルホネート部分が結合している、固体電解質。
(2)前記フィラーは繊維状であり、平均繊維径が0.1〜40μm、平均繊維長が1〜50mm、フィラーの添加量が固体電解質の重量に対し1〜50重量%の範囲である(1)に記載の固体電解質。
(3)前記芳香族系高分子は、ポリスルホンであり、該ポリスルホンのスルホン官能基に隣接した非活性化芳香環に、前記スルホネート部分が結合している、(1)または(2)に記載の固体電解質。
(4)前記スルホン化芳香族系高分子が、下記式(1)で表される繰り返し単位またはその塩を含む、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の固体電解質。
式(I)
【化2】

(式(1)中、mおよびnはそれぞれ正の整数であり、n/(n+m)は0.001〜1の範囲であり、Yはそれぞれ−S−、−S(O)−、−S(O)2−、−C(O)−、−P(O)(C65)−およびそれらの組合せからなる群から選択され、Zは単結合、−C(CH32−、−C(CF32−、−C(CF3)(C65)−、−C(O)−、−S(O)2−および−P(O)(C65)−からなる群から選択され、Aはスルホネート基または式(II)で表される化合物から選択される。)
式(II)
【化3】

(式(II)中、B1およびB2は、それぞれ、連結基を表し、Xはイオウ原子を含む基を表し、Mはカチオンを表し、m1は1以上の整数を表す。)
(5)前記式(1)において、n/(n+m)は0.1〜0.8の範囲であり、Yは−SO2−またはーCO−であり、Zは単結合または−C(CF32−である、(4)に記載の固体電解質。
(6)前記スルホネート部分が、プロトン型、ナトリウム型またはカリウム型である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の固体電解質。
(7)前記電極膜の少なくとも一方が、触媒金属の微粒子を含む炭素材からなる導電材料とバインダーとを含み、かつ、該バインダーが、前記式(I)で表される繰り返し単位を含み、かつ、前記バインダーを、体積平均粒子サイズが1nm〜200nmであるイオン性ポリマー粒子を含む分散液として用いた、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の固体電解質。
(8)膜状である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の固体電解質。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の固体電解質を含む膜電極接合体。
(10)(9)に記載の膜電極接合体を含む燃料電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固体電解質は、スルホン化芳香系高分子を含む固体電解質において、伝導度を維持しつつ、かつ、強度を高めることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本発明の固体電解質は、スルホン化芳香族系高分子と、フィラーを含有する。以下これらについて詳細に説明する。
【0014】
(フィラー)
本発明で用いるフィラーは、特定の機能を強化するための固体充填剤であって、添加された時に不均一な固体状態で存在する物をいう。フィラーとしては、例えば、粒子状のもの、繊維状のものを採用できる。
粒子状のフィラーとしてはシリカ、チタニア、アルミナ等の酸化物、ペロブスカイト、スピネル等の複合酸化物、石英、ケイ酸塩ガラス等のガラス、炭化チタン、炭化ケイ素等の炭化物、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の窒化物、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ化樹脂等のプラスチック等などが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。粒子状のフィラーの平均粒子サイズは、10nm〜100μmが好ましく、50nm〜1μmがより好ましい。
【0015】
繊維状フィラーとしては、天然繊維、半合成繊維、ガラス繊維および合成繊維の群から選ばれた少なくとも1種からなることが好ましい。
繊維状フィラーは、短繊維であっても、長繊維であってもよく、また、これらの繊維からなる、不織布、織布、編布などであってもよい。
繊維状フィラーの素材としては、天然繊維としてセルロース、羊毛、絹などが、また、半合成繊維として酢酸セルロースなどが、合成繊維としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチル−ペンテン)、ポリ(1,2−シクロペンテン)などのオレフィンもしくはシクロオレフィンの単独重合体のほか、これら重合体のランダムまたはブロック共重合体、ポリテトラフルオロエチレンなどのポリパーフルオロオレフィン、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、液晶性ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。
【0016】
ガラス繊維としては、一般に、SiO2、B23、P25、Al23等を主成分とした無機材料で、通常、軟化温度をさげるためにNa2O、K2Oなどのアルカリ成分が配合される。本発明では、耐酸性ガラスが好ましく、上記したNa2O、K2Oなどのアルカリ成分の比率が小さいものが好ましい。例えば、主に、SiO2で構成される石英ガラスや、SiO2、B23等を主成分とするほう珪酸ガラスが好適に使用される。
【0017】
繊維状フィラーが、不織布、織布、編布等の場合、好ましくは上記素材から構成された、スパンレース法やメルトブロー法などで製造されたものが好ましい。
不織布、織布、編布等の場合、繊維状フィラーの空隙間率が、好ましくは30〜95%、より好ましくは60〜85%である。また、これらの厚さは、好ましくは、10〜50μm、より好ましくは10〜20μmである。
繊維状のフィラーの平均繊維径は、好ましくは0.1〜40μmであり、より好ましくは0.11〜10μmである。平均繊維長は、1〜50mmが好ましく、5〜40mmが特に好ましい。
但し、短繊維状の繊維状フィラーを用いる場合、その平均繊維径は10nm〜10μm程度のものまで好ましく使用できる。この場合の平均繊維長は、好ましくは1〜70mm、より好ましくは3〜50mmである。
【0018】
本発明におけるフィラーの添加量は固体電解質の重量に対し1〜50重量%の範囲が好ましく、5〜40重量%の範囲がさらに好ましく、10〜30%重量の範囲が特に好ましい。
【0019】
(スルホン化芳香族系高分子)
本発明で用いるスルホン化芳香族系高分子は、芳香族系高分子が有する芳香環に、少なくとも1個のスルホネート部分が結合している。さらに、本発明で用いる香族系高分子は、ポリスルホンであることが好ましく、該ポリスルホンのスルホン官能基に隣接した非活性化芳香環に、スルホネート部分が結合していることがより好ましい。
本明細書におけるポリスルホンとは芳香族化合物(フェニレン、ナフチレン、ヘテリレン等)が2価の電子吸引性基(−SO2−、−SO−、−CO−、−PO(C65)−等)と2価の電子供与性基(−O−、−S−等)とによって連結されてなる繰り返し単位を含む高分子であり、該繰り返し単位中に一つの−SO2−と、一つあるいは二つの−O−を含むものが好ましい。
また、スルホネート部分はプロトン型(スルホン酸等)または塩型(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等)が好ましい。
本発明における非活性化芳香環は、電子吸引性基である置換基を有する芳香環である。
ここで、電子吸引性基としては、特に定めるものではないが、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、ニトロ基、スルホン(−SO2−)基、スルホキシド基(−SO−)、ケト基、ホスホノ基が挙げられ、スルホン基が特に好ましい。これらの電子吸引性基のほかに電子供与性基(アルキル基、酸素原子、硫黄原子)が置換していてもよい。芳香環としてはフェニレン基、ナフチレン基、ヘテリレン基が好ましく、特に1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基が好ましい。
【0020】
本明細書中で使用する「スルホネート」または「スルホン化」は、スルホネート基、すなわち、SO3を意味し、これは、酸形態(−SO3H、スルホン酸)または塩形態(−SO3Na)のいずれかである。この塩形態のカチオンは、1価もしくは2価のカチオンが好ましく、1価のカチオンがさらに好ましい。アルカリ金属類(リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム)、アルカリ土類金属類(カルシウム、マグネシウム等)または他の金属、無機カチオンまたは有機カチオン(アンモニウム等)等が例示される。特に、リチウム、ナトリウム、カリウム塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩である物が特に好ましい。これらのカチオンおよびプロトンの群から複数の物を採用してもよい。
また、原料あるいは合成、製膜の過程で混入したアニオン類(臭化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等)が含まれていてもよい。
【0021】
さらに、「重合体」との用語は、使用するとき、広義に使用され、単独重合体、ランダム共重合体およびブロック共重合体を含む。
【0022】
本発明で用いるスルホン化芳香族系高分子は、式(1)で表される繰り返し単位またはその塩を含むことが好ましい:
【0023】
式(1)
【化4】

(式(1)中、mおよびnはそれぞれ正の整数であり、n/(n+m)は0.001〜1の範囲であり、Yはそれぞれ−S−、−S(O)−、−S(O)2−、−C(O)−、−P(O)(C65)−およびそれらの組合せからなる群から選択され、Zは単結合、−C(CH32−、−C(CF32−、−C(CF3)(C65)−、−C(O)−、−S(O)2−および−P(O)(C65)−からなる群から選択され、Aはスルホネート基または式(II)で表される化合物から選択される。)
式(II)
【化5】

(式(II)中、B1およびB2は、それぞれ、連結基を表し、Xはイオウ原子を含む基を表し、Mはカチオンを表し、m1は1以上の整数を表す。)
【0024】
n/(n+m)は、0.1〜0.8が好ましく、0.3〜0.7がより好ましい。
Yは、それぞれ、−SO2−または−CO−が好ましく、−SO2−がより好ましい。
Zは、単結合、−C(CH32−、−C(CF32−、−CO−、−SO2−が好ましく、単結合、−C(CF32−がより好ましい。
【0025】
本発明で用いるスルホン化芳香族系高分子は、スルホン化ポリスルホンと他の高分子との共重合体であってもよく、このような高分子としては、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルケトンおよびポリ(アリーレンエーテルホスフィンオキシド)、ポリフェニレンが挙げられる。
【0026】
本発明では、式(II)で表される基が結合していることが好ましい。
式(II)
【0027】
【化6】

(式(II)中、B1およびB2は、それぞれ、連結基を表し、Xはイオウ原子を含む基を表し、Mはカチオンを表し、m1は1以上の整数を表す。)
【0028】
式(II)中、B1およびB2はそれぞれ連結基を表す。
連結基としては、好ましくはアルキレン基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、メチルエチレン基、プロピレン基、メチルプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基)、アリーレン基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリーレン基、例えば1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、4−フェニレンメチレン基、1,4−ナフチレン基)、アルケニレン基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルケニレン基、例えばエテニレン基、プロペニレン基、ブタジエニレン基)、アルキニレン基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルキニレン基、例えば、エチニレン基、プロピニレン基)、アミド基、エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸エステル基、ウレイド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオエーテル基、エーテル基、カルボニル基、ヘテリレン基(好ましくは炭素原子数1〜26のヘテリレン基、例えば、6−クロロ−1,3,5−トリアジル−2,4−ジイル基、ピリミジン−2,4−ジイル基、キノキサリン−2,3−ジイル基)、または、これらの2以上組み合わせて構成される炭素原子数0〜100(より好ましくは炭素原子数1〜20)の連結基を表す。これらの基は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において置換基を有していてもよいが、置換基を有さない方が好ましい。これらの中でもより好ましくは、アルキレン基、アルキニレン基、アリーレン基、チオエーテル基、エーテル基を含む基であり、さらに好ましくは、アルキレン基、アリーレン基、チオエーテル基、エーテル基を含む基である。
【0029】
式(II)中、Xは、1つまたは2つ以上のイオウ原子を含み、イオウ原子のみから構成されていてもよいし、イオウ原子と他の原子から構成されていてもよい。好ましくは、−S−、−SO−および−SO2−の少なくとも1つを含む基である。
【0030】
式(II)中、Mは、カチオンを表し、好ましくはプロトン、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム)カチオン、アルカリ土類金属(カリウム、ストロンチウム、バリウム)カチオン、第四級アンモニウム(トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム)カチオン、有機塩基(トリエチルアミン、ピリジン、メチルイミダゾール、モルホリン、トリブチルアンモニウム、トリス(2−ヒドロキシエチル)アミン)のプロトン化体からなる群から選択され、より好ましくはプロトンである。
式(II)中、m1は、好ましくは、1〜6の整数であり、より好ましくは、1〜3の整数である。
【0031】
式(II)が塩を形成する場合、酸残基のプロトンが以下のカチオンに置換されているものが好ましく、その置換比(カチオン/酸残基比)は0〜1であって、固体電解質の合成の過程では特に制限はないが、燃料電池用の固体電解質として用いる場合は0.1以下のものが好ましい。塩を形成するカチオンとしては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム)カチオン、アルカリ土類金属(カリウム、ストロンチウム、バリウム)カチオン、第四級アンモニウム(トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム)カチオン、有機塩基(トリエチルアミン、ピリジン、メチルイミダゾール、モルホリン、トリブチルアンモニウム、トリス(2−ヒドロキシエチル)アミン)のプロトン化体が好ましく、アルカリ金属カチオンまたはアンモニウムカチオンがさらに好ましく、アルカリ金属カチオンが特に好ましい。
【0032】
以下に式(II)の例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。
【化7】

【0033】
本発明で用いるスルホン化ポリスルホンの合成方法の一例を挙げる。すなわち、少なくとも1個のスルホネート基および少なくとも2個の脱離基を有するモノマーと、少なくとも2個の脱離基を有するコモノマーとを反応させて、これらの脱離基の縮合により除去される工程を包含する。
スルホネート基および少なくとも2個の脱離基を有するモノマーとしては、3,3'−ジスルホン化4,4'−ジクロロジフェニルスルホンが挙げられる。また、該モノマーは2種類以上の混合物でもよく、例えば、0.001〜0.999の範囲のモル比で、3,3'−ジスルホン化4,4'−ジクロロジフェニルスルホンおよび4,4'−ジクロロジフェニルスルホンを混合したものを用いてもよい。
2個の脱離基を有するコモノマーとしては、4,4'−ビフェノール、ヒドロキノン、4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールおよびフェニルホスフィンオキシドビスフェノールからなる群から選択されるものが好ましく、4,4'−ビフェノールおよび4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールがより好ましい。
スルホネート基は、スルホン酸基であってもよいし、その塩形状であってもよい。
【0034】
本発明で用いるスルホン化芳香族系高分子は、スルホン化活性化芳香族モノマー、非スルホン化活性化芳香族モノマーおよびコモノマー(例えば、ビスフェノール)を直接重合してスルホン化芳香族系高分子を形成することが好ましい。これらのモノマーの活性化基には、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−および−PO(C65)−が挙げられ得る。これらのモノマーは、ジハライド形態またはジニトロ形態が例示される。ハライドには、Cl、FおよびBrが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
このスルホン化活性化芳香族ジハライドは、当業者に公知のスルホン化方法により、対応する活性化芳香族ジハライドをスルホン化することにより、調製される。このスルホン化活性化芳香族ジハライドは、次いで、このスルホン化共ポリスルホンの形成で使用され得る。このスルホン化ポリスルホンを形成する一般反応スキームは、以下のスキーム1で示されている。
【0036】
スキーム1
【化8】

【0037】
スキーム1では、Yは、脱離基Xを活性化する基であり、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、−PO(C65)−またはそれらの組合せである。このスルホン化モノマーの活性化基は、非スルホン化モノマーの活性化基と同一であっても異なっていてもよい。
Xは、任意の活性化脱離基(例えば、ジハライド基またはジニトロ基)であることが好ましく、ジハライド基(Cl、FまたはBr等)がより好ましい。
Zは、単結合、−C(CH32−、−C(CF32−、−C(CF3)(C65)−、−CO−、−SO2−または−PO(C65)−である。
kは繰り返し単位の数である。
【0038】
活性化芳香族モノマーに対するスルホン化活性化芳香族モノマーのモル比は、0.001〜0.999の範囲であることが好ましい。このコモノマー(例えば、ビスフェノール)は、スルホン化ポリスルホンを生成するために、十分に化学量論的な量で使用される。
【0039】
本発明において、スルホン化ポリスルホンは、所望のスルホン化モノマー(好ましくは、ジハライド)を選択または合成し、次いで、適切なコモノマー(例えば、ビスフェノール)と縮合することで形成される。このスルホン化モノマーは、単独で、または非スルホン化モノマーと共に添加され得る。特に好ましいスルホン化モノマーには、3,3'−ジスルホン化−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン(SDCDPS)であり、これは、構造3で示される。4,4'−位に置換している塩素原子はフッ素原子や臭素原子であってもよいが、塩素原子、フッ素原子が特に好ましい。
【0040】
構造3
【化9】

【0041】
非スルホン化モノマーは、このスルホン化モノマーと共にスルホン化ポリスルホンを形成するものが好ましく、この非スルホン化モノマーは、得られる重合体または膜の所望の特性に依存して、選択できる。特に好ましい非スルホン化モノマーには、4,4'−ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)がある。非スルホン化モノマーに対するスルホン化モノマーの相対モル比は、その材料の所望の特性に依存して変わり、例えば、0.001〜1、好ましくは、0.3〜0.6の範囲である。
【0042】
このスルホン化ポリスルホンを形成するのに使用されるコモノマーもまた、得られる膜の所望の特性および用途に依存して、選択できる。好ましいコモノマーとして、4,4'−ビフェノール、ヒドロキノン、4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノール、フェニルホスフィンオキシドビスフェノールまたは他の芳香族ビスフェノールを使用することができる。さらに、このビスフェノールは、脂肪族置換基または芳香族置換基を含有していてもよい。特に、4,4'−ビフェノール、4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールは好ましい。
【0043】
本発明で用いる、スルホン化芳香族系高分子は、上記のほか、公知の方法(例えば、PolymerPreprints(2000),41(1),237)に準じて合成できるが、特に、芳香族求電子化合物と、芳香族求核化合物から選ばれる各々一つまたは複数の化合物とを塩基性条件下で重縮合させる方法が好適に用いられる。
本発明では、例えば、スキーム2で示すように、3,3'−ジスルホン化4,4'−ジクロロジフェニルスルホンおよびジクロロジフェニルスルホンと4,4'−ビフェノールとを直接縮合して、スルホン化ポリ(アリーレンエーテルスルホン)が合成できる。
【0044】
スキーム2
スルホン化ポリ(アリーレンエーテルスルホン)の合成
【化10】

【0045】
本発明において、スルホン酸基導入前の高分子化合物を合成する方法の一例として、下記式(III)で表される化合物と、下記式(IV)で表される化合物とを重合(好ましくは、重縮合)させる製造方法が挙げられる。
式(III)
【0046】
【化11】

式(III)中、X1は、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子)またはニトロ基を表す。2つのX1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0047】
式(IV)
【0048】
【化12】

式(IV)中、Aは、上記式(I)におけるZと同義であり、好ましい範囲も同義である。mは0、1または2である。RおよびRiは、それぞれ、炭素原子数1〜10のアルキル基であり、メチル基あるいはエチル基が好ましい。sおよびsiは、それぞれ、0〜4の整数であり、0または1が好ましい。
【0049】
式(III)で表される化合物の具体例としては、以下に表される化合物を挙げることができる。
【0050】
【化13】

【0051】
これらの化合物は単独であるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0052】
また前記式(IV)で表される化合物の具体例としてはハイドロキノン、レゾルシン、2−メチルハイドロキノン、2−エチルハイドロキノン、2−プロピルハイドロキノン、2−ブチルハイドロキノン、2−ヘキシルハイドロキノン、2−オクチルハイドロキノン、2−デカニルハイドロキノン、2,3−ジメチルハイドロキノン、2,3−ジエチルハイドロキノン、2,5−ジメチルハイドロキノン、2,5−ジエチルハイドロキノン、2,6−ジメチルハイドロキノン、2,3,5−トリメチルハイドロキノン、2,3,5,6−テトラメチルハイドロキノン、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2'−ジヒドロキシビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、3,3',5,5'−テトラクロロ−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、3,3'−ジブロモ−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、3,3',5,5'−テトラブロモ−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、3,3'−ジフルオロ−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、3,3',5,5'−テトラフルオロ−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、4,4'−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2'−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3'−ジメチル−4,4'−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3',5,5'−テトラクロロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3'−ジブロモ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3',5,5'−テトラブロモ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3'−ジフルオロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3'5,5'−テトラフルオロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3',5,5'−テトラクロロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3'−ジブロモ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3',5,5'−テトラブロモ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3'−ジフルオロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3',5,5'−テトラフルオロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,2'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3'−ジメチル−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3',5,5'−テトラクロロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3'−ジブロモ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3',5,5'−テトラブロモ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3'−ジフルオロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3',5,5'−テトラフルオロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3'−ジメチル−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3',5,5'−テトラクロロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3'−ジブロモ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3',5,5'−テトラブロモ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3'−ジフルオロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3',5,5'−テトラフルオロ−4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、α,α'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α'−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α'−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α'−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α'−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α'−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α'−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。これらの芳香族ジオール類は単独であるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0053】
また、前記式(III)で表される化合物とおよび式(IV)で表される化合物の好ましい配合割合は、式(IV)で表される化合物1モルに対して、式(III)で表される化合物は、0.7〜1.3モルが好ましく、0.9〜1.1モルがより好ましく、0.95〜1.05モルがさらに好ましい。
【0054】
前記式(III)で表される化合物と、前記式(IV)で表される化合物とを重縮合して本発明のプロトン酸基含有ポリスルホン(固体電解質)を合成する場合、塩基性化合物存在下で重縮合させる方法が好適に用いられる。
【0055】
反応剤の種類や反応条件等は特に規定されることはなく、公知の反応剤や反応条件等を適用できる。反応剤としてはアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類金属(カリウム、ストロンチウム、バリウム)、酸化亜鉛などの塩基性金属化合物、各種金属の炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム)、酢酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム)、水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム)、第四級アンモニウム塩(トリメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド)、有機塩基(トリエチルアミン、ピリジン、メチルイミダゾール、モルホリン、トリブチルアンモニウム、トリス(2−ヒドロキシエチル)アミン)などが挙げられる。
【0056】
これら反応剤の使用量は、縮合するモノマーのモル数の和1モルに対して、0.05〜10.0モルが好ましく、0.1〜4.0モルがより好ましく、0.5〜2.5モルが特に好ましい。
【0057】
本発明の固体電解質を製造する反応は、通常、溶媒中で行う。好ましい溶媒としては、下記のようなものが挙げられる。
【0058】
1)エーテル系溶媒
1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン等。
2)非プロトン性アミド系溶媒
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド等。
3)アミン系溶媒
ピリジン、キノリン、イソキノリン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、イソホロン、ピペリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンン等。
4)その他の溶媒
ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール等。
【0059】
上記の溶媒中で、特に好ましい溶媒は、上記2)項の非プロトン性アミド系溶媒と4)項のジメチルスルホキシド、スルホランが挙げられ、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホランがより好ましい。
【0060】
これらの溶媒は、単独または2種以上混合して用いても差し支えない。また、下記5)項に示す溶媒を用いて、それら1種または2種以上とをさらに混合して用いることもできる。混合して用いる場合は、必ずしも任意の割合で相互に溶解するような溶媒の組み合わせを選択する必要はなく、混合し合わない不均一な状態でも差し支えない。また、反応濃度、反応液粘度の調整のために反応途中で溶媒を溜去、添加してもよい。濃度プロファイルは、仕込み時は溶解のために低濃度とし、中期は反応促進のために高濃度とし、終期は流動化のために再び低濃度とすることが好ましい。
【0061】
これらの溶媒中で行う反応の濃度(以下、重合濃度と称する。)に制限はないが、低濃度では反応速度が低下し、高濃度では粘度が高くなりすぎ攪拌が困難になる。適当な濃度は固形分濃度として、例えば1%〜100%(無溶媒)であり、好ましくは5%〜70%であり、より好ましくは10%〜50%である。
【0062】
雰囲気は空気、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴンが用いられ特に制限はないが、不活性気体である窒素やアルゴンが好ましい。
さらに、反応の前処理として原料に含まれる水分を系外に除く為に、別の溶媒を共存させることが好ましい。ここで用いられる溶媒としては、下記5)項のようなものが挙げられる。
5)ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、p−ジブロモベンゼン、o−クロロトルエン、m−クロロトルエン、p−クロロトルエン、o−ブロモトルエン、m−ブロモトルエン、およびp−ブロモトルエンなど、が挙げられる。これら溶媒は、単独または2種以上混合して用いても差し支えない。
【0063】
本発明の固体電解質を製造する反応の温度、時間および圧力には、特に制限はなく公知の条件が適用できる。すなわち、反応温度は、50℃〜300℃が好ましく、100〜270℃がより好ましく、130〜250℃がさらに好ましい。また、反応時間は、使用するモノマーの種類、溶媒の種類、および反応温度により異なるが、1〜72時間が好ましい。より好ましくは3時間〜48時間であり、さらに好ましくは、5〜24時間である。反応圧力については加圧下、減圧下でもよいが、常圧で構わない。
【0064】
本発明の固体電解質は、スルホン化芳香族系高分子(特に、スルホン化ポリスルホン)および無機ヘテロポリ酸の混合物を溶液注型して形成してもよい。無機ヘテロポリ酸は、リンタングステン酸、リンモリブデン酸およびリン酸ジルコニウム水素からなる群から選択されるものが好ましい。
【0065】
本発明において、スルホン酸基導入前の高分子化合物にスルホン酸基を導入する方法としては、以下のような導入方法を用いることができる。また、該高分子化合物にスルホン酸基を直接導入する方法のほか、モノマーに導入後に高分子化してもよい。
例えば、式(II)のB1がメチル基の場合には後記するクロロメチルメチルエーテル等のハロゲノメチル化剤を用いてハロゲノメチル化ポリスルホンとした後、チオエーテル結合をアルキル鎖に含んだ化合物、例えば下記の3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウムや2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウムを反応させる方法などが挙げられる。
【0066】
【化14】

【0067】
【化15】

【0068】
本発明において、ハロゲノアルキル基としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、クロロエチル基、ブロモエチル基、ヨードエチル基、クロロプロピル基、ブロモプロピル基、ヨードプロピル基、クロロブチル基、ブロモブチル基、ヨードブチル基、クロロペンチル基、ブロモペンチル基、ヨードペンチル基、クロロヘキシル基、ブロモヘキシル基、ヨードヘキシル基等のハロゲノアルキル基(炭素原子数が1〜6である)が挙げられ、ハロゲノメチル基が好ましい。
【0069】
本発明において好ましいハロゲノメチル基を芳香環に導入(芳香環のハロゲノメチル化反応)するには、公知反応が広く使用できる。例えばクロロメチル化剤として、クロロメチルメチルエーテル、1,4−ビス(クロロメトキシ)ブタン、1−クロロメトキシ−4−クロロブタンなどを用い、触媒として塩化スズ、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化チタンなどのルイス酸やフッ化水素酸などを用いてクロロメチル化反応を行うことにより、芳香環にクロロメチル基を導入することができる。溶媒には、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼンなどを用い、均一系で反応を行うことが好ましい。また、パラホルムアルデヒドと塩化水素、もしくは臭化水素などを用いてハロゲノメチル化反応を行うこともできる。
【0070】
本明細書中で使用する「ヘテロポリ酸」、「無機ヘテロポリ酸」および「HPA」は、当業者に公知の意味を有し、特に、Katsoulis,D.E.,「A Survey of Applications of Polyoxometalates」Chemical Reviews,1巻、359〜387ページ(1998)で述べられている。また、これらの文献に記載の内容を参酌して本明細書を理解することができる。
【0071】
スルホン化芳香族系高分子(特に、スルホン化ポリスルホン)に対するヘテロポリ酸の重量比は、10%〜60%の範囲であることが好ましい。この比は、使用するスルホン化芳香族系高分子の種類およびヘテロポリ酸の種類に依存して適宜定めることができる。ヘテロポリ酸の種類には、リンタングステン酸、リンモリブデン酸およびリン酸水素ジルコニウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
本発明におけるスルホン化芳香族系高分子中のスルホン酸基量は、重合体を構成する単位(B)の1ユニットに対して、通常、0.05〜6個、好ましくは0.3〜4個である。0.05個以上とすることにより、プロトン伝導性がより向上し、一方6個以下とすることにより、親水性が向上して水溶性ポリマーとなったり、水溶性に至って耐久性が低下したりするのをより効果的に抑止できる。
【0073】
また、本発明で用いるスルホン化芳香族系高分子のスルホン化前の前駆体のポリマーの分子量は、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)によって求めることができ、ポリスチレン換算重量平均分子量で、好ましくは1,000〜1,000,000、より好ましくは100、000〜400,000である。1,000以上とすることにより、成形膜のクラックの発生を抑止できる傾向にあり、また、塗膜性が良好になる傾向にあり、さらに強度的性質も向上する傾向にあり好ましい。一方、1,000,000以下とすることにより、溶解性が良好となる傾向にあり、溶液粘度が低くなる傾向にあり、加工性が良好になる傾向にある。
また、数平均分子量は、好ましくは、500〜500、000、より好ましくは30,000〜150,000である。このような範囲とすることにより、重量平均分子量と同様クラック発生、塗膜性、強度的性質、溶解性、溶液粘度、加工性を満たすという利点があり好ましい。
【0074】
なお、本発明で用いるスルホン化芳香族系高分子の構造は、赤外線吸収スペクトルによって、1,030〜1,045cm-1、1,160〜1,190cm-1のS=O吸収、1,130〜1,250cm-1のC−O−C吸収、1,640〜1,660cm-1のC=O吸収などにより確認でき、これらの組成比は、スルホン酸の中和滴定や、元素分析により知ることができる。また、核磁気共鳴スペクトル( 1H−NMR)により、6.8〜8.0ppmの芳香族プロトンのピークから、その構造を確認することができる。
【0075】
本発明で用いる固体電解質を製膜する工程においては、スルホン化芳香族系高分子化合物およびフィラーを融点より高い温度に保持した液体、または溶媒を用いて溶解した液体を用いて、押出成型によって製膜してもよいし、これらの液体をキャスト、または塗布して製膜してもよい。これらの操作はカレンダーロール、キャストロール等のロールまたはTダイを用いたフィルム成形機で行なうことができ、プレス機器を用いたプレス成形とすることもできる。さらに延伸工程を追加し、膜厚制御、膜特性改良を行ってもよい。
【0076】
さらに製膜工程を経た後に表面処理を行なってもよい。表面処理としては、粗面処理、表面切削、除去、コーティング処理を行なってもよく、これらは電極との密着をより良好にできる傾向にあり好ましい。
【0077】
本発明の固体電解質は、多孔質基材の細孔に、スルホン化芳香族系高分子形成のための反応液を含浸させて膜を形成することが可能である。すなわち、フィラーを含めない反応液を調整し、該反応液を細孔を有する基材上に塗布含浸させるか、基材を反応液に浸漬し、細孔内に反応液を満たして膜を形成してもよい。細孔を有する基材の好ましい例としては、多孔性ポリプロピレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、多孔性架橋型耐熱性ポリエチレン、多孔性ポリイミドなどが挙げられる。
【0078】
(本発明の固体電解質の他の成分)
本発明の固体電解質は、膜特性を向上させるため、必要に応じて、酸化防止剤、吸水剤、可塑剤、相溶剤等を添加してもよい。これら添加剤の含有量は固体電解質の全体量に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0079】
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価ないし二価のイオウ系、三価および五価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0080】
吸水剤(親水性物質)としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、シリカゲル、合成ゼオライト、アルミナゲル、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には特開平7−135003号公報、特開平8−20716号公報、特開平9−251857号公報に記載の吸水剤が挙げられる。
【0081】
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、脂肪族一塩基酸エステル系化合物、脂肪族二塩基酸エステル系化合物、二価アルコールエステル系化合物、オキシ酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、カーボネート類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には特開2003−197030号公報、特開2003−288916号公報、特開2003−317539号公報に記載の可塑剤が挙げられる。
【0082】
さらに本発明の固体電解質には、(1)膜の機械的強度を高める目的、および(2)膜中の酸濃度を高める目的で種々の高分子化合物を含有させてもよい。
(1)機械的強度を高める目的には、分子量10,000〜1,000,000程度で本発明の電解質膜と相溶性のよい高分子化合物が適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、およびこれらの2以上の重合体が好ましく、含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上のものが好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
(2)酸濃度を高める目的には、ナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するポリ(メタ)アクリレートなどのプトロン酸部位を有する高分子化合物などが好ましく、含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0083】
本発明の固体電解質の特性としては、以下の諸性能を持つものが好ましい。イオン伝導度は例えば25℃95%RHにおいて、0.005S/cmであることが好ましく、0.01S/cm以上であるものが特に好ましい。
強度としては例えば引っ張り破断強度が75MPa以上であることが好ましく、80MPa以上であるものが特に好ましい。また破断伸度については40%以下であるものが好ましく、35%以下が特に好ましい。
【0084】
本発明の固体電解質は安定した吸水率および含水率を持つものが好ましい。また、アルコール類、水およびこれらの混合溶媒に対し、溶解度は実質的に無視できる程度である物が好ましい。また上記溶媒に浸漬した時の重量減少、形態変化も実質的に無視できる程度である物が好ましい。
膜状に形成した場合のイオン伝導方向は表面から裏面の方向が、それ以外の方向に対し高い方が好ましいが、ランダムであっても良い。
【0085】
本発明の固体電解質の耐熱温度は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上がさらに好ましく、300℃以上が特に好ましい。耐熱温度は例えば1℃/分の測度で加熱していったときの重量減少5%に達した時間として定義できる。この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
【0086】
さらに、本発明の固体電解質を燃料電池に用いる場合、アノード燃料とカソード燃料の酸化還元反応を促進させる活性金属触媒を添加してもよい。これにより、電解質膜中に浸透した燃料が他方極に到達すること無く電解質膜中で消費され、クロスオーバーを防ぐことができる。用いられる活性金属種は、電極触媒として機能するものであれば制限は無いが、白金または白金を基にした合金が適している。
【0087】
本発明の固体電解質が膜状に形成された場合、その厚みは10〜300μmが好ましい。厚みが小さいほどイオン抵抗が小さく好ましいが、それにつれて強度が低下する傾向にあるため、20〜200μmの範囲がさらに好ましく、30〜100μmの範囲が特に好ましい。
本発明の固体電解質の耐熱温度は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上がさらに好ましく、300℃以上が特に好ましい。耐熱温度は例えば1℃/分の測度で加熱していったときの重量減少5%に達した時間として定義できる。この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
【0088】
燃料電池
本発明の固体電解質は、膜電極接合体(Membrane and Electrode Assembly)(以下「MEA」という)および、該膜電極接合体を用いた燃料電池に用いることができる。
図1は本発明の膜電極接合体の断面概略図の一例を示したものである。MEA10は、膜状の固体電解質11と、それを挟んで対向するアノード電極12及カソード電極13を備える。
アノード電極12とカソード電極13は、多孔質導電シート(例えばカーボンペーパー)12a、13aと触媒層12b、13bからなる。触媒層12b、13bは、例えば、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子(例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等)をプロトン伝導材料(例えば、ナフィオン等)に分散させた分散物からなる。触媒層12b、13bを固体電解質11に密着させるために、多孔質導電シート12a、13aに触媒層12b、13bを塗設したものを、固体電解質11にホットプレス法(好ましくは、120〜250℃、2〜100kg/cm2)で圧着するか、適当な支持体に触媒層12b、13bを塗設したものを、固体電解質11に転写しながら圧着した後、多孔質導電シート12a、13aで挟み込む方法を一般に用いる。
【0089】
図2は燃料電池構造の一例を示す。燃料電池はMEA10と、MEA10を挟持する一対のレパレータ17からなる集電体17およびガスケット14とを有する。アノード極側の集電体17にはアノード極側給排気口15が設けられ、カソード極側の集電体17にはカソード極給排気口16設けられている。アノード極側給排気口15からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側給排気口16からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
【0090】
アノード電極およびカソード電極には、カーボン材料に白金などの活性金属粒子を担持した触媒が用いられる。通常用いられる活性金属の粒子サイズは、2〜10nmの範囲であり、粒子サイズが小さい程単位質量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが、小さすぎると凝集させずに分散させることが難しくなり、2nm程度が限度と言われている。
【0091】
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極(水素極)に比べ、カソード極(空気極)が大きい。これは、アノード極に比べ、カソード極の反応(酸素の還元)が遅いためである。酸素極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料に一酸化炭素を含む化石燃料改質ガスを用いる燃料電池においては、COによる触媒被毒を抑制することが重要である。この目的のために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。
【0092】
活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC−72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
【0093】
触媒層の機能は、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質に輸送すること、である。(1)のために触媒層は、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性であることが必要である。(2)は上記で述べた活性金属触媒が、(3)は同じく上記で述べたカーボン材料が担う。(4)の機能を果たすために、触媒層にプロトン伝導材料を混在させる。
【0094】
触媒層のプロトン伝導材料としては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、固体電解質に用いられる酸残基を有する高分子化合物、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾール等の耐熱芳香族高分子、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリオキセタン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンスルフィド、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリフェニレンの膜が挙げられ、具体的には、特開2002−110174号公報、特開2002−105200号公報、特開2004−10677号公報、特開2003−132908号公報、特開2004−179154号公報、特開2004−175997号公報、特開2004−247182号公報、特開2003−147074号公報、特開2004−234931号公報、特開2002−289222号公報、特開2003−208816号公報に記載のものが挙げられる。本発明の固体電解質を触媒層に用いると、固体電解質と同種の材料となるため、固体電解質と触媒層との電気化学的密着性が高まりより有利である。
【0095】
また、バインダーがスルホン化ポリスルホンの場合、体積平均粒子サイズが1nm〜200nmであるイオン性ポリマー粒子を含む分散液を用いることが好ましい。イオン性ポリマー粒子分散液の調整方法の一例を説明する。イオン性ポリマー粒子分散液は、イオン性ポリマーが難溶である貧溶媒と、貧溶媒と混和性を有し、かつ、イオン性ポリマーが易溶である良溶媒にイオン性ポリマーを溶解させたイオン性ポリマー溶液とを連続的に混合することにより、イオン性ポリマー粒子を生成することができる。ここで、連続的に混合とは、貧溶媒とイオン性ポリマー液がそれぞれ流動した状態で混合し、時間ともに新しい混合が生まれ続いている状態を表す。
【0096】
ここで、本発明におけるイオン性ポリマーが難溶である貧溶媒とは、例えば、イオン性ポリマーの溶解度が10mg/mL以下のものをいう。
貧溶媒は、1種類または2種類以上を混合してもよい。本発明で用いる貧溶媒としては、水が好ましい。
【0097】
良溶媒としては、イオン性ポリマーを溶解しかつ貧溶媒と混和する溶媒であれば、特に定めるものではなく、2種類以上の良溶媒の混合溶媒であってもよい。
本発明で用いる良溶媒は、イオン性ポリマー粒子分散液から、容易に除去が可能な有機溶媒が好ましい。かかる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、n−メチルピロリドン、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、エチレンジアミン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキサイド、ジクロロメタン、ジメチルアセトアミドが挙げられる。
【0098】
また、例えば、1〜200nmのイオン性ポリマー粒子を含有するためには、貧溶媒とイオン性ポリマー溶液を混合する際、貧溶媒と良溶媒の体積流量比(前者:後者)を1:1〜100:1に設定するのが好ましく、5:1〜100:1に設定するのがより好ましく、10:1〜100:1に設定するのがさらに好ましい。さらに、より粒子サイズが小さく、分散安定性に優れたイオン性ポリマー粒子分散液を得るためには、貧溶媒またはイオン性ポリマー溶液に、分散安定剤を含有させるのが好ましい。
【0099】
触媒層にはさらに撥水剤を含むものが好ましく、撥水剤としては、撥水性を有する含フッ素樹脂が好ましく、耐熱性および耐酸化性に優れたものがより好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を挙げることができる。
【0100】
活性金属の使用量は、0.03〜10mg/cm2の範囲が電池出力と経済性の観点から適している。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の質量に対して、1〜10倍が適している。プロトン伝導材料の量は、活性金属担持カーボンの質量に対して、0.1〜0.7倍が適している。
【0101】
電極基材、透過層、あるいは裏打ち材とも呼ばれ、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
【0102】
本発明の燃料電池用触媒材料は、白金粒子等の触媒金属(電極触媒)の担体として好ましく用いられる。触媒金属を担持する方法としては、熱還元法、スパッタ法、パルスレーザーデポジション法、真空蒸着法などが挙げられる(例えば、国際公開WO2002/054514号パンフレットなど)。
【0103】
電極の作製方法について説明する。ナフィオンに代表される固体電解質を溶媒に溶解し、触媒金属を担持した本発明の燃料電池用触媒材料と混合した分散液を分散する。分散液の溶媒はヘテロ環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン、N−メチルピロリドン等)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、非極性溶媒(トルエン、キシレン等)、塩素系溶媒(メチレンクロリド、エチレンクロリド等)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセタミド等)、水等が好ましく用いられ、この中でもヘテロ環化合物、アルコール類、多価アルコール類、アミド類が好ましく用いられる。
【0104】
分散方法は、攪拌による方法でも良いが、超音波分散、ボールミル等を用いることもできる。得られた分散液はカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等の塗布法を用いて塗布することができる。
【0105】
分散液の塗布について説明する。塗布工程においては、上記分散液を用いて、押出成型によって製膜してもよいし、これらの分散液をキャストまたは塗布して製膜してもよい。この場合の支持体は特に限定されないが、好ましい例としては、ガラス基板、金属基板、高分子フィルム、反射板等を挙げることができる。高分子フィルムとしては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系高分子フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のエステル系高分子フィルム、ポリトリフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系高分子フィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。塗布方式は公知の方法でよく、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等を用いることができる。特に、支持体として導電性多孔質体(カーボンペーパー、カーボンクロス)を用いると直接触媒電極が作製できる。
【0106】
これらの操作はカレンダーロール、キャストロール等のロールまたはTダイを用いたフィルム成形機で行なうこともでき、プレス機器を用いたプレス成形とすることもできる。さらに延伸工程を追加し、膜厚制御、膜特性改良を行ってもよい。この他の方法として、上記のようにペースト状にした電極触媒を通常のスプレー等を用いて高分子電解質膜に直接噴霧して触媒層を形成する方法等も用いることができる。噴霧時間と噴霧量を調節することで均一な電極触媒層を形成することができる。
【0107】
塗布工程の乾燥温度は乾燥速度に関連し、材料の性質に応じて選択することができる。好ましくは−20℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。乾燥時間は短時間であるほうが生産性の観点から好ましいが、あまり短時間であると気泡、表面の凹凸等の欠陥の原因となる。このため、乾燥時間は1分〜48時間が好ましく、5分〜10時間がより好ましく、10分〜5時間がさらに好ましい。また湿度の制御も重要であり、25〜100%RHが好ましく、50〜95%RHがさらに好ましい。
【0108】
塗布工程における塗布液(分散液)中には金属イオンの含量が少ない物が好ましく、特に遷移金属イオン、中でも鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオンは少ない物が好ましい。遷移金属イオンの含量は500ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。従って、前述の工程で使用する溶媒も、これらのイオンの含量の低い物が好ましい。
【0109】
さらに塗布工程を経た後に表面処理を行なってもよい。表面処理としては、粗面処理、表面切削処理、除去処理、コーティング処理を行なってもよく、これらは固体電解質膜あるいは多孔質導電体との密着を改良できることがある。
【0110】
本発明の膜電極接合体が有する触媒層の厚さは5〜200μmが好ましく、10〜100μmが特に好ましい。
【0111】
MEAの作製には、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:活性金属担持カーボン、プロトン伝導材料、溶媒を基本要素とする触媒ペースト(インク)を固体電解質の両側に直接塗布し、多孔質導電シートを熱圧着(ホットプレス)して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒ペーストを多孔質導電シート表面に塗布し、触媒層を形成させた後、固体電解質と熱圧着(ホットプレス)し、5層構成のMEAを作製する。塗布の支持体が異なる以外は上記(1)と同様である。
(3)Decal法:触媒ペーストを支持体(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート等)上に塗布し、触媒層を形成させた後、固体電解質に触媒層のみを熱圧着(ホットプレス)により転写させ3層のMEAを形成させ、多孔質導電シートを圧着し、5層構成のMEAを作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクを固体電解質、多孔質導電シートあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを当該固体電解質に含浸させ、白金粒子を膜中で還元析出させて触媒層を形成させる。触媒層を形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEAを作製する。
【0112】
上記、ホットプレスを行なう場合は、以下のものが好ましい。
ホットプレス温度は、固体電解質の種類によるが、通常は100℃以上であり、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上である。
固体電解質はスルホン酸を置換基として持つプロトン型でもよいし、特開2004−165096号公報、特開2005−190702号公報に記載されているように、スルホン酸が塩形態である塩型であっても良い。塩型である場合のスルホン酸のカウンターカチオンは、1価もしくは2価のカチオンが好ましく、1価のカチオンがさらに好ましい。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カリウムが好ましく、これらのカチオンおよびプロトンの群から複数の物を採用してもよい。ナトリウム塩、カリウム塩である物が特に好ましい。
【0113】
上記塩を用いる場合にはさらに以下の工程が必要である。
燃料電池用途として使用するには、固体電解質がプロトン伝導性を有する必要性がある。そのために、酸との接触によって、固体電解質の塩置換率を接触する前の99%以下にする。電極触媒と固体電解質を接合した後に酸と接触させることによって、電極接合時に受ける熱履歴による膜の含水率およびイオン伝導性の低下を回復させることができる。
【0114】
酸と接触させる方法としては、塩酸、硫酸、硝酸、有機スルホン酸のような酸性水溶液に浸漬または酸性水溶液を噴霧する公知の方法を使用することができる。使用する酸性水溶液の濃度は、イオン伝導性の低下状況、浸漬温度、浸漬時間等にも依存するが、例えば、0.0001〜5規定の酸性水溶液を好適に用いることができる。浸漬温度は多くの場合は室温であれば十分に転化することができ、浸漬時間を短縮する場合は、酸性水溶液を加温してもよい。浸漬時間は、酸性水溶液の濃度および浸漬温度に依存するが、概ね10分間〜24時間の範囲で好適に実施することができる。
【0115】
燃料電池運転の際に、膜の内部を移動するプロトンが酸として機能することによって置換したカチオンが洗い流され、より高いイオン伝導性を発現させる方法等も用いることができる。このようにして製造された膜電極接合体を用いて燃料電池を製造する方法を説明する。
【0116】
固体高分子電解質型燃料電池は、MEA、集電体、燃料電池フレーム、ガス供給装置等より構成される。このうち、集電体(バイポーラプレート)は、表面等にガス流路を有するグラファイト製または金属製の流路形成材兼集電体である。こうした集電体の間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池スタックを作製することができる。
【0117】
燃料電池の作動温度は、高温であるほど触媒活性が上がるために好ましいが、通常は水分管理が容易な50℃〜120℃で運転させる。酸素や水素の供給圧力は、高いほど燃料電池出力が高まるため好ましいが、膜の破損等によって両者が接触する確率も増加するため適当な圧力範囲例えば1気圧から3気圧の範囲に調整することが好ましい
【0118】
本発明の固体電解質を用いる燃料電池の燃料として用いることのできるのは、アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
【0119】
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層に供給する方法には、(1)ポンプ等の補機を用いて強制循環させる方法(アクティブ型)と、(2)補機を用いない方法(例えば、液体の場合には毛管現象や自然落下により、気体の場合には大気に触媒層を晒し供給するパッシブ型)の2通りがあり、これらを組み合わせることも可能である。前者は、反応ガスの加圧調湿等を行い、高出力化ができる等の利点がある反面、より小型化がし難い欠点がある。後者は、小型化が可能な利点がある反面、高い出力が出にくい欠点がある。
【0120】
燃料電池の単セル電圧は一般的に1.2V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたレパレータを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
【0121】
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、水素型燃料電池は、高出力が得られる利点を活かし、様々な家庭用給湯発電装置、輸送機器の動力、携帯電子機器のエネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる給湯発電装置としては、家庭用、集合住宅用、病院用、輸送機器としては、自動車、船舶、携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。さらに非常用電源の用途も提案されている。
【実施例】
【0122】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0123】
[平均分子量]
本発明で用いるスルホン化芳香族系高分子の平均分子量は、溶媒にN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
【0124】
[イオン交換容量]
本発明で用いるスルホン化芳香族系高分子を所定量はかり取り、1NのNaOH水溶液に12時間浸漬し、過剰量のNaOHをpHメーターを用いて、1N塩酸により中和滴定した。初期のNaOHのモル量と中和に要したHClのモル量の差から、本発明で用いるスルホン化芳香族系高分子中のスルホン酸量を計算した。これを上記はかり取った所定量で割ることにより単位重量あたりのイオン交換容量を計算した。
【0125】
[引っ張り強度]
引っ張り強度は得られた膜状の固体電解質(固体電解質膜)を所定の長方形に裁断し、引っ張り強度試験機を用いて室温で測定を行い、破断強度および破断伸度を記録した。
【0126】
[イオン伝導度]
Journal of the Electrochemical Society 143巻4号1254−1259頁(1996年)に従い、4端子交流法を用いて測定を行なった。固体電解質膜を長さ2cm、幅1cmに切り抜き、PTFE板に5mm間隔に白金線を4本固定し、この上に上記電解質膜を載せ、さらにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を積層、ビス固定することで試験セルを組み立てた。インピーダンスアナライザーとしてソーラトロン製1480型および1255B型を組み合わせて80℃水中で交流インピーダンス法により測定を行なった。以下の式に従い、イオン伝導度を求めた。
【化16】

【0127】
(比較例1)
(スルホン化ポリスルホン1)
PolymerPreprints(2000),41(1),237を参考に、所望のスルホン化モノマーを調製した。
4,4'−ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)を発煙硫酸と反応させたのに続いて、塩化ナトリウムおよび水酸化ナトリウムで中和した。この求電子性芳香族置換プロセスにより、スルホニル基がメタ位置にあり塩素基がオルト位置にある誘導体が得られる。この化学構造を、1H−NMRおよびC−NMR、ならびに質量分析法、赤外スペクトルおよび元素分析により確認した。80%近い収率で、予想された構造が得られた。この化合物をSDCDPSと称する。
【0128】
スルホン化ポリ(アリーレンエーテルスルホン)1を、ジハライド(DCDPS+SDCDPS)の全濃度に対して40%のSDCDPSで、ビフェノールと反応させ合成した。この重合体合成(スキーム1)は、NMP(共沸剤として、トルエンを含有)中にて、制御した量のスルホン化活性化ハライド(SDCDPS)、4,4'−ジクロロジフェニルスルホンおよびビフェノールを縮合する工程を包含する。置換した活性化ハライドは、明らかに反応性が低く、溶解性が低いことが認められた。それゆえ、高分子量に必要な温度は、通常よりもある程度高かった(約190℃)。これらの重合は、SDCDPSのナトリウム塩形態で行い、そのスルホン酸塩の非常に高い安定性を利用した。以上の操作によりスルホン化ポリスルホン1を得た。そのNMRスペクトルからほぼ仕込み比どおりの共重合体が得られていることが分かった。DMF溶媒にてGPCを用いて分子量分布を測定したところ、数平均分子量として76,000、重量平均分子量として211,000の値が得られれた。これらのナトリウムスルホネート基の導入は、FT−IRスペクトルでも確認し、この場合、1030cm-1および1098cm-1での強力で特徴的なピークは、SO3Naの対称ストレッチおよび非対称ストレッチに帰属した。
【0129】
【化17】

【0130】
スルホン化ポリスルホン1をN,N−ジメチルアセトアミドに分散後攪拌することで溶解させ、20重量%のドープを得た。これを平均孔径0.45μmのPTFE製ミクロフィルターでろ過した後、ガラス板上に流延、アプリケータ−を用いて展開した。これを室温から徐々に温度を上げて乾燥を行なった。ガラス板から剥離することでスルホン化ポリスルホン1の塩型の膜が得られた。これを希塩酸中に浸漬し、プロトン型に変換した後、水洗、乾燥することでプロトン型のスルホン化ポリスルホン1の膜を得た。製膜およびプロトン型に交換した後のイオン交換容量は1.28meq/gであった。
【0131】
(比較例2)
(スルホン化ポリスルホン2)
比較例1において、ビスフェノールを等モル換算で4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールに置き換え、他は同様に行いスルホン化ポリスルホン2を得た。そのNMRスペクトルからほぼ仕込み比どおりの共重合体が得られていることが分かった。DMF溶媒にてGPCを用いて分子量分布を測定したところ、数平均分子量として68,000、重量平均分子量として200,000の値が得られた。ナトリウムスルホネート基の導入は、FT−IRで確認した。製膜およびプロトン型に交換した後のイオン交換容量は1.25meq/gであった。
【0132】
(比較例3)
(スルホン化ポリスルホン3)
【化18】

【0133】
(スルホン化ポリスルホン3の合成)
モノマーとして、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−クロロフェニルフェニル)スルホンを用い、丸善:第4版実験化学講座、28巻、高分子合成、P.357に記載の一般的な重合法に従い、ポリスルホンを合成した。
その後、SnCl4を加えたクロロメチルメチルエーテル(ClCH2OCH3)を、前記ポリスルホンを1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶かした溶液に加えた。
カリウム−tert−ブトキシド((CH33COK))および3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(HS−(CH23−SO3Na)を入れ、脱水ジメチルホルムアミド(DMF)を加えた。
上記で合成したクロロメチル化ポリスルホンを脱水DMFに溶かしたものを、上記で作製した溶液が入った三口フラスコに滴下ロートを用いて加え、反応させた。その後、吸引ろ過を行い沈殿部とろ液に分け、沈殿部を乾燥させ、スルホン化ポリスルホン3化合物を得た。
スルホン化ポリスルホン3をN,N−ジメチルアセトアミドに分散後攪拌することで溶解させ、20重量%のドープを得た。これを平均孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製ミクロフィルターでろ過し、ガラス板上に流延、アプリケータ−を用いて展開した。これを室温から徐々に温度を上げて乾燥を行なった。ガラス板から剥離することでスルホン化ポリスルホン3のナトリウム塩型の膜が得られた。これを希塩酸中に浸漬し、プロトン型に変換した後、水洗、乾燥することでプロトン型のスルホン化ポリスルホン3のイオン交換膜を得た。製膜およびプロトン型に交換した後のイオン交換容量は1.29meq/gであった。
【0134】
【化19】

【0135】
(実施例1)
比較例1においてドープ濾過後、ガラス繊維(平均繊維径0.3μm、平均繊維長20mm)をスルホン化ポリスルホン1に対し、10重量%添加した他は同様に行い、製膜を行なった。
(実施例2)
比較例1においてドープ濾過後、ガラス繊維(平均繊維径0.3μm、平均繊維長20mm)をスルホン化ポリスルホン1に対し、30重量%添加した他は同様に行い、製膜を行なった。
(実施例3)
比較例2においてドープ濾過後、ガラス繊維(平均繊維径0.3μm、平均繊維長20mm)をスルホン化ポリスルホン2に対し20重量%添加した他は同様に行い、製膜を行なった。
(実施例4)
比較例2においてドープ濾過後、高密度ポリプロピレンフィブリル(平均繊維径0.5μm、平均繊維長30mm)をスルホン化ポリスルホン2に対し10重量%添加した他は同様に行い、製膜を行なった。
(実施例5)
比較例2においてドープ濾過後、高密度ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィブリル(平均繊維径0.5μm、平均繊維長30mm)をスルホン化ポリスルホン2に対し30重量%添加した他は同様に行い、製膜を行なった。
(実施例6)
比較例2においてドープ濾過後、流延をガラス板上に固定した膜厚12μm、空隙率75%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維からなる不織布上に行なった他は同様に行い、製膜を行なった。
(実施例7)
比較例3においてドープ濾過後、ガラス繊維(平均繊維径0.3μm、平均繊維長20mm)をスルホン化ポリスルホン3に対し、30重量%添加した他は同様に行い、製膜を行なった。
(実施例8)
比較例3においてドープ濾過後、高密度ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィブリル(平均繊維径0.5μm、平均繊維長30mm)をスルホン化ポリスルホン3に対し30重量%添加した他は同様に行い、製膜を行なった。
【0136】
上記実施例1〜8および比較例1〜3で得られた膜について引っ張り強度試験(破断強度、破断伸度)およびイオン伝導度試験を行なった結果を以下に示した。
【0137】
【表1】

【0138】
(実施例9) 燃料電池の作製
(1)触媒膜の作製
(1−1) 触媒膜1の作製
白金担持カーボン(VulcanXC72(キャボット(株)製)に白金50質量%が担持)2gとナフィオン溶液(5%アルコール水溶液)15gを混合し、超音波分散器で30分間分散させた。分散物の平均粒子サイズは約500nmであった。得られた分散物を補強材入りポリテトラエチレンフィルム(サンゴバン製)上に塗設し、乾燥した後、所定の大きさに打ち抜き、触媒膜を作製した。
【0139】
(1−2) 触媒膜2の作製
上記プロトン型スルホン化ポリスルホン3化合物の良溶媒であるN−メチルピロリドンに溶解し、3%のイオン性ポリマー溶液を得た。貧溶媒とイオン性ポリマー溶液を連続的に混合してイオン性ポリマー粒子分散液を得た。貧溶媒としては水を使用した。イオン性ポリマー溶液と貧溶媒の供給流量はそれぞれ20ml/minと50ml/minとした。ここで、イオン性ポリマー液の温度は、45℃で、貧溶媒は25℃で、供給した。このイオン性ポリマー粒子分散のイオン性ポリマー粒子の体積平均粒子サイズが170nmであった。上記イオン性ポリマー溶液を濃縮し、n−プロピルアルコールにより溶媒置換して5重量%溶液としてバインダー溶液を調整した。
白金担持カーボン(VulcanXC72に白金50質量%が担持)2gと前記イオン性ポリマー粒子分散液15gを混合し、超音波分散器で30分間分散させた。得られた分散物を補強材入りポリテトラフルオロエチレンフィルム(サンゴバン製)上に塗設し、乾燥した後、所定の大きさに打ち抜き、触媒膜を作製した。
【0140】
(2)MEAの作製
作製した電解質膜(塩型)の両面に上記で得られた触媒膜を塗布面がプロトン伝導膜に接するように張り合わせ、190℃、5MPa、3分間で熱圧着し、圧力をかけたまま降温した後、触媒層のベースを剥離することで順に、MEAを作製した。プレス後の状態を目視にて記録した。
【0141】
(3)燃料電池特性
(2)で得られたMEAに電極と同サイズにカットしたE−TEK製ガス拡散電極を積層し、エレクトロケム社製標準燃料電池試験セルにセットし、試験セルを燃料電池評価システム((株)エヌエフ回路設計ブロック製、As−510)に接続した。アノード側に加湿した水素ガスを、カソード側に加湿した模擬大気を流し、電圧が安定するまで運転した。その後、アノード電極12とカソード電極13間に、負荷をかけて電流−電圧特性から最大出力を記録した。
【0142】
【表2】

【0143】
プレス後の変形も無く、電池としての最大出力も高いことが分かった。膜が変形しにくいため、燃料ガスの透過等の問題が起こり難いためと理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】本発明の高分子電解質膜を用いた触媒電極接合膜の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の燃料電池の構造の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0145】
10・・・燃料電池膜電極接合体(MEA)
11・・・固体電解質膜
12・・・アノード電極
12a・・・アノード極多孔質導電シート
12b・・・アノード極触媒層
13・・・カソード電極
13a・・・カソード極多孔質導電シート
13b・・・カソード極触媒層
14・・・ガスケット
15・・・アノード極ガス給排口
16・・・カソード極ガス給排口
17・・・集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン化芳香族系高分子と、フィラーを含有し、前記スルホン化芳香族系高分子は、芳香族系高分子が有する芳香環に、少なくとも1個のスルホネート部分が結合している、固体電解質。
【請求項2】
前記フィラーは繊維状であり、平均繊維径が0.1〜40μm、平均繊維長が1〜50mm、フィラーの添加量が固体電解質の重量に対し1〜50重量%の範囲である請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記芳香族系高分子は、ポリスルホンであり、該ポリスルホンのスルホン官能基に隣接した非活性化芳香環に、前記スルホネート部分が結合している、請求項1または2に記載の固体電解質。
【請求項4】
前記スルホン化芳香族系高分子が、下記式(1)で表される繰り返し単位またはその塩を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質。
式(I)
【化1】

(式(1)中、mおよびnはそれぞれ正の整数であり、n/(n+m)は0.001〜1の範囲であり、Yはそれぞれ−S−、−S(O)−、−S(O)2−、−C(O)−、−P(O)(C65)−およびそれらの組合せからなる群から選択され、Zは単結合、−C(CH32−、−C(CF32−、−C(CF3)(C65)−、−C(O)−、−S(O)2−および−P(O)(C65)−からなる群から選択され、Aはスルホネート基または式(II)で表される化合物から選択される。)
式(II)
【化2】

(式(II)中、B1およびB2は、それぞれ、連結基を表し、Xはイオウ原子を含む基を表し、Mはカチオンを表し、m1は1以上の整数を表す。)
【請求項5】
前記式(1)において、n/(n+m)は0.1〜0.8の範囲であり、Yは−SO2−またはーCO−であり、Zは単結合または−C(CF32−である、請求項4に記載の固体電解質。
【請求項6】
前記スルホネート部分が、プロトン型、ナトリウム型またはカリウム型である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項7】
前記電極膜の少なくとも一方が、触媒金属の微粒子を含む炭素材からなる導電材料とバインダーとを含み、かつ、該バインダーが、前記式(I)で表される繰り返し単位を含み、かつ、前記バインダーを、体積平均粒子サイズが1nm〜200nmであるイオン性ポリマー粒子を含む分散液として用いた、請求項1〜6のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項8】
膜状である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の固体電解質を含む膜電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜電極接合体を含む燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−294436(P2007−294436A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84840(P2007−84840)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】