説明

固体電解質ドープの製造方法、固体電解質フィルム及びその製造方法、電極膜複合体、燃料電池

【課題】固体電解質を溶媒に溶解したドープを連続的にフィルム化して、一定品質かつイオン伝導性に優れた固体電解質フィルムを製造する。
【解決手段】乾燥装置55で予め乾燥された固体電解質と、精製装置で予め精製されて水及び他の不純物を除去された溶媒とを混合して混合液16とする。そして固体電解質を溶解して溶液としてからろ過し、ドープ24とする。このドープ24を流延ダイ81から走行する流延バンド82に流延する。流延膜を流延バンド82から固体電解質を含むフィルム62として剥がす。これをテンタ66と乾燥室69とにより乾燥する。この方法によると、連続的に安定して固体電解質フィルムを製造することができ、かつその品質は均一であり不純物を含まず、燃料電池に用いると優れたイオン伝導性を発現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質ドープの製造方法と、固体電解質フィルム及びその製造方法、固体電解質フィルムを用いた電極膜複合体、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器等の電源として利用できるリチウムイオン電池や燃料電池が活発に研究されており、その部材である固体電解質についても活発な研究が行われている。固体電解質は、例えばリチウムイオン伝導材料やプロトン伝導材料である。
【0003】
一般に、プロトン伝導材料としてはフィルム状のものがあり、燃料電池等の電池の固体電解質層として用いるためのフィルム状固体電解質及びその製造方法が提案されている。そして、固体電解質には、高いイオン伝導性や耐久性等が求められている。
【0004】
フィルム状固体電解質の製造方法として、例えば、特許文献1では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を電解質と可塑剤との混合溶液に浸漬する方法が提案されている。また、特許文献2では、スルホン酸基をもつ芳香族系高分子材料を含有した溶液中で、無機化合物を合成して、溶媒を除去することによりプロトン伝導膜を製造する方法が提案されている。この方法では細孔を改良するためにケイ素酸化物、リン酸誘導体等が添加されている。特許文献3では、イオン交換樹脂を含む溶液に金属酸化物前駆体を添加して、この前駆体を加水分解及び重縮合反応させて得られる液体をキャストし、これによりイオン交換膜を製造する方法が提案されている。
【0005】
そして、特許文献4では、溶液流延法、つまり溶液製膜法によりプロトン伝導性をもつポリマーフィルムを製造し、このフィルムを、水に可溶で沸点が100℃以上の有機化合物水溶液中に浸漬して平衡膨潤させ、加熱により水を蒸発させることによりプロトン伝導膜を製造する方法が提案されている。特許文献5では、アニオン性イオン性基を有するポリベンズイミダゾールを主成分とする化合物を、水酸化テトラアルキルアンモニウムを含む沸点90℃以上のアルコール系溶媒に溶解してこれにより固体電解質膜を得る方法が提案されている。また、特許文献6では、スルホン化ポリアリーレンと、プロトン伝導性をもつテトラフルオロエチレン共重合体と、有機溶媒とを主成分とする重合体組成物が提案され、この重合体組成物は、キャスティング法、つまり溶液製膜法によりフィルム化され、プロトン伝導膜となる、と記載されている。そして、このプロトン伝導膜は高いイオン伝導性をもつとともに経時的に低下することがない、と特許文献6にはある。
【0006】
ところで、ポリマーをフィルム化する方法としては、周知のように溶融製膜方法と溶液製膜方法とがある。前者は、溶媒を使わずにフィルムを製造することができるが、加熱によるポリマーの変性や、原料ポリマー中の不純物がそのままフィルム中に残るという問題がある。一方、後者は、溶液の製造設備及び溶媒回収設備等の設備的な問題があるものの、加熱における温度が低くてもよく、また、溶液製造工程でポリマー中の不純物を除去することが可能という利点がある。さらに、後者では、前者によるフィルムよりも平面性及び平滑性に優れたフィルムを製造することができるという利点もある。そこで、固体電解質フィルムを溶液製膜方法により製造し、流延に供する溶液の溶媒を、貧溶媒である第1の化合物と良溶媒である第2の化合物との混合物とし、第2の化合物の重量を第1の化合物に対して10重量%以上とする方法が提案されている(特許文献7参照)。
【特許文献1】特開平9−320617号公報
【特許文献2】特開2001−307752号公報
【特許文献3】特開2002−231270号公報
【特許文献4】特開2004−79378号公報
【特許文献5】特開2004−131530号公報
【特許文献6】特開2002−37966号公報
【特許文献7】特開2005−248128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、溶液製膜方法が否定され、原材料に含まれる不純物がフィルム中に残る問題は解消されていない。特許文献2〜5の方法はいずれも少規模スケールでの製造方法であり、大量生産を意識した方法とはされていない。そして、特許文献2の方法は、ポリマーと無機化合物とからなる複合体の分散が困難であるという問題がある。特許文献3の方法は、製膜工程が複雑という問題がある。特許文献4は、水に浸漬させることにより細孔がフィルムに発生してしまい、均一なフィルムを得ることができないという問題があり、これを解消する方法は記載されていない。また、溶液製膜方法で多種の固体電解質フィルムを製造できると記載されているものの、具体的な方法の記載もない。特許文献5は用いる原料を限定しており、他の優れた性能をもつ材料を用いて製造できるような記載はされていない。特許文献6の重合体組成物については、溶液製膜の具体的条件は記載されていない。そして、特許文献7の方法によると、大量生産する場合もしくは連続して製造する場合への適用方法に関しては具体的記載がなく、また示唆もない。
【0008】
そして、溶液製膜の条件の決定にあたっては、通常は、流延すべき液に含まれるポリマーの化学構造及び物性等を考慮しなければならないとされており、さらに、流延する液の製造法については、流延に適した性状につくる必要がある。特に、溶液製膜を連続で実施して長尺フィルムを製造する場合には、流延する液の性状や原料の性状を考慮しないと、平面性に欠けた不均一なフィルムとなったり、あるいは製膜自体が困難となることがある。その意味では、特許文献2〜6はいずれも、流延すべき液の作り方について具体的には記載していない。
【0009】
そこで、本発明は、固体電解質を連続的にフィルム化し、一定品質であってイオン伝導性と耐久性とに優れた固体電解質フィルム、及びその固体電解質フィルムを安定して連続製造する方法とそのフィルム製造に使うドープの製造方法、そして、この固体電解質を用いた電極膜複合体及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明の固体電解質ドープの製造方法は、固体電解質を乾燥する乾燥工程と、溶媒を精製する精製工程と、前記乾燥工程を経た固体電解質と精製工程を経た溶媒とを混合して混合液とする混合工程と、固体電解質を溶媒に溶解して前記混合液を溶液とする溶解工程と、溶液をろ過することにより異物を除去して、溶液製膜に供される固体電解質ドープとするろ過工程と、を有することを特徴として構成されている。
【0011】
上記製造方法では、溶液を濃縮して前記固体電解質の濃度を高くする濃縮工程を実施することが好ましい。乾燥工程では、固体電解質を100℃以上に加熱することにより乾燥することが好ましい。精製工程は、溶媒に予め含まれている水分を溶媒から除去する水分除去工程を有することが好ましい。さらに、この水分除去工程では溶媒の水分含有率が2重量%以下となるようにすることが好ましい。
【0012】
濃縮工程では、溶液の水分含有率が2重量%未満となるようにすることが好ましい。ろ過工程では、孔径20μm未満のろ過手段により前記溶液をろ過することが好ましい。
【0013】
また、本発明は、予め乾燥された固体電解質と予め精製された溶媒とを混合して混合液とする混合工程と、この混合液中の固体電解質を溶媒に溶解して溶液をつくる溶解工程と、この溶液をろ過することにより異物を除去して固体電解質ドープとするろ過工程と、この固体電解質ドープを走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、この流延膜をフィルムとして剥がす流延工程と、フィルムを乾燥するフィルム乾燥工程と、を有することを特徴とする固体電解質フィルムの製造方法を含んで構成されている。
【0014】
上記の固体電解質フィルムの製造方法は、溶液を濃縮して固体電解質濃度を高くする濃縮工程を有することが好ましい。固体電解質の乾燥は、100℃以上の加熱によりされたことが好ましい。溶媒の精製により、溶媒の水分含有率を2重量%以下とすることが好ましい濃縮工程では、溶液における水分含有率が2重量%未満となるように濃縮することが好ましい。
【0015】
固体電解質の貧溶媒である化合物を第1の溶媒、固体電解質の良溶媒である化合物を第2の溶媒とすることが好ましく、第1及び第2の溶媒の重量の和に対する第1の溶媒の重量が10%以上100%未満であることがより好ましい。第2の溶媒はジメチルスルホキシドを含み、第1の溶媒は炭素数が1〜5のアルコールを含むことが好ましい。
【0016】
固体電解質は、炭化水素系ポリマーであることが好ましく、炭化水素系ポリマーは、スルホン酸基を有する芳香族系ポリマーであることがより好ましく、この芳香族系ポリマーは、化3の一般式(I)〜(III)で示される各構造単位からなる共重合体であることがさらに好ましい。そして以上の方法により得られた固体電解質フィルムを本発明は含む。
【化3】

(ただし、XはH、YはSO2 、Zは化4の(I)または(II)に示す構造であり、nとmとは0.1≦n/(m+n)≦0.5を満たす。)
【化4】

【0017】
また、本発明は、上記の方法により製造された固体電解質フィルムを含んで構成される。
【0018】
本発明の電極膜複合体は、上記の固体電解質フィルムと、この固体電解質フィルムの一方の面に密着して備えられ、外部から供給される水素含有物質からプロトンを発生するためのアノード電極と、固体電解質フィルムの他方の面に密着して備えられ、固体電解質フィルムを通過したプロトンと外部から供給される気体とから水を合成するカソード電極と、を有することを特徴として構成されている。
【0019】
さらに、本発明は、上記の電極膜複合体と、この電極膜複合体の電極に接触して備えられ、アノード電極及びカソード電極と外部との電子の受け渡しをする集電体とを有することを特徴とする燃料電池を含んで構成されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、固体電解質を連続的にフィルム化するために好適なドープを製造することができるとともに、一定品質であってイオン伝導性と耐久性とに優れた固体電解質フィルムを連続的に製造することができる。そして、この固体電解質を用いた電極膜複合体が燃料電池に用いられると、この燃料電池は優れた起電力を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。まず、本発明の固体電解質フィルムについて説明し、その後、そのフィルムの製造方法について述べるものとする。
【0022】
[原料]
本発明は、後述の製造法によりフィルムとする固体電解質として、プロトン供与基をもつポリマーを用いている。プロトン供与基をもつポリマーは、特に限定されないが、酸残基をもち、プロトン伝導材料として公知であるものを用いることができる。中でも好ましいポリマーは、酸残基をもつものであり、例えば、側鎖にスルホン酸を有する付加重合高分子化合物、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルエーテルケトンをスルホン化したスルホ化ポリエーテルエーテルケトン、スルホ化ポリベンズイミダゾール、ポリスルホンをスルホン化したスルホ化ポリスルホン、耐熱性芳香族高分子化合物のスルホ化物などが挙げられる。側鎖にスルホン酸を有する付加重合高分子化合物としては、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸や、スルホ化スチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンなどがあり、耐熱性芳香族高分子のスルホ化物としてはスルホ化ポリイミド等がある。
【0023】
パーフルオロスルホン酸の好ましい例としては、例えば特開平4−366137号公報、特開平6−231779号公報、特開平6−342665号公報に記載される物質が挙げられ、中でも、化5に示す物質が特に好ましい。ただし、化5において、mは100〜10000であり、200〜5000が好ましく、500〜2000がより好ましい。そして、nは0.5〜100であり、5〜13.5が特に好ましい。また、xはmに略同等であり、yはnと略同等である。
【0024】
【化5】

【0025】
スルホ化スチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンの好ましい例としては、特開平5−174856号公報、特開平6−111834号公報に記載される化合物や化6に示される物質が挙げられる。
【0026】
【化6】

【0027】
耐熱性芳香族高分子のスルホ化物の例としては、例えば、特開平6−49302号公報、特開2004−10677号公報、特開2004−345997号公報、特開2005−15541号公報、特開2002−110174号公報、特開2003−100317号公報、特開2003−55457号公報、特開平9345818号公報、特開2003−257451号公報、特表2000−510511号公報、特開2002−105200号公報に記載される物質が挙げられ、中でも前記化3と、以下の化7、化8に示される物質が特に好ましいものとして挙げられる。
【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
特に、化3に示す物質のフィルムは、吸湿膨張率とプロトン伝導度とを両立させる。n/(m+n)<0.1である場合には、スルホン酸基が少なすぎて、プロトン伝導路、いわゆるプロトンチャンネルを十分に形成することができないことがある。そのため、得られるフィルムは実用に十分なプロトン伝導性を発現しないことがある。また、n/(m+n)>0.5である場合には、フィルムの水分吸収性が高くなってしまうため、吸水による膨張率、つまり吸水膨張率が大きくなり、フィルムが劣化しやすくなる。
【0031】
上記化合物を得る過程におけるスルホン化反応は、公知文献の各種合成法に従って行うことができる。スルホン化剤としては、硫酸(濃硫酸)、発煙硫酸、ガス状あるいは液状物の三硫化硫黄、三硫化硫黄錯体、アミド硫酸、クロロスルホン酸等を用いることができる。溶媒としては、炭化水素(ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジオキセタン等)、ハロゲン化アルキル(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等)等を用いることができる。反応温度は、−20℃〜200℃の範囲でスルホン化剤の活性に応じて決定するとよい。また、別の方法として、モノマーにメルカプト基、ジスルフィド基、スルフィン酸基を予め導入しておいて、酸化剤による酸化反応によってスルホン化物を合成することもできる。このときには、酸化剤として、過酸化水素、硝酸、臭素水、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、過マンガン酸カリウム、クロム酸等を用いることができ、溶媒としては、水、酢酸、プロピオン酸等を用いることができる。この方法における反応温度は、室温(例えば、25℃)〜200℃の範囲で酸化剤の活性に応じて決定するとよい。また、さらに別の方法として、モノマーにハロゲノアルキル基を予め導入しておいて、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩等による置換反応をしてスルホン化物を合成してもよい。このときには溶媒として、水、アルコール類、アミド類、スルホキシド類、スルホン類等を用いることができる。反応温度は、室温(例えば、25℃)〜200℃の範囲で決定するとよい。なお、以上のスルホン化反応における溶媒は、2種以上の物質を混合した混合物であってもよい。
【0032】
また、スルホン化物への反応工程では、アルキルスルホン化剤を用いてもよく、一般的な方法としてはスルトンとAlClを用いたフリーデルクラフツ反応がある(Journal of Applied Polymer Science,Vol.36,1753−1767,1988)。フリーデルクラフツ反応を行うためにアルキルスルホン化剤を用いた場合は、溶媒として炭化水素(ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、アセトフェノン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等)、ハロゲン化アルキル(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン等、)等を用いることができる。反応温度は、室温から200℃の範囲で決定するとよい。なお、反応における溶媒は、2種以上の物質を混合した混合物であってもよい。
【0033】
化3の構造を有する固体電解質フィルムを製造する場合には、化3のXがH以外のカチオン種であるポリマー(以降、前駆体と称する)を含むドープをつくり、これを支持体上に流延して前駆体を含むフィルム(以降、前駆体フィルムと称する)として剥ぎ取り、この前駆体フィルムをプロトン置換してXのカチオン種をHに置き換えることにより、化3の構造を有するポリマーからなる固体電解質フィルムを製造することができる。
【0034】
カチオン種とは、電離したときにカチオンを生成する原子または原子団を意味する。このカチオン種は1価である必要はない。プロトン以外のカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオンが好ましく、カルシウムイオン、バリウムイオン、四級アンモニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンがより好ましい。なお、化3におけるXをHとせずにカチオン種のままとしてフィルムを製造してもそのフィルムは固体電解質としての機能をもつ。しかし、そのプロトン伝導性は、Xのカチオン種のうちHに置換された割合が多いほど高くなる。その意味では、XはHであることが特に好ましい。
【0035】
固体電解質としては、以下の諸性能をもつものが好ましい。イオン伝導度は、例えば25℃、相対湿度70%において、0.005S/cm以上であることが好ましく、0.01S/cm以上であるものがより好ましい。さらに、50%メタノール水溶液に18℃で一日浸漬した後のイオン伝導度が0.003S/cm以上であることが好ましく、0.008S/cm以上であるものがより好ましく、特に、浸漬前に対する浸漬後のイオン伝導度の低下率が20%以内であるものが好ましい。そして、メタノール拡散係数が4×10−7cm/s以下であることが好ましく、2×10−7cm/s以下であるものが特に好ましい。
【0036】
強度については、弾性率が10MPa以上であるものが好ましく、20MPa以上であるものが特に好ましい。なお、弾性率の測定方法については、特開2005−104148号公報の段落[0138]に詳細に記されており、弾性率の上記値は、東洋ボールドウィン社製の引っ張り試験機による値である。したがって、他の試験方法や試験機を用いて弾性率を求める場合には、上記試験方法や試験機による値との相関性を予め求めておくとよい。
【0037】
耐久性については、50%メタノール中に一定温度で浸漬する経時試験の前後で、重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が、それぞれ20%以下であるものが好ましく、15%以下であるものが特に好ましい。さらに過酸化水素中における経時試験の前後でも、同様に重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が20%以下であるものが好ましく、10%以下であるものが特に好ましい。また50%メタノール中、一定温度での体積膨潤率が10%以下であるものことが好ましく、5%以下であるものが特に好ましい。
【0038】
さらに、安定した吸水率および含水率をもつものが好ましい。また、アルコール類、水、アルコールと水との混合溶媒に対し、溶解度が実質的に無視できる程に小さいものであることが好ましい。また上記液に浸漬した時の重量減少、形態変化についても実質的に無視できる程小さいものであることが好ましい。
【0039】
固体電解質フィルムのイオン伝導性能は、イオン伝導度とメタノール透過係数との比であるいわゆる指数により表される。そして、ある方向における指数が大きいほど、その方向におけるイオン伝導性能が高いといえる。また、固体電解質フィルムの厚み方向においては、イオン伝導度は厚みに比例し、メタノール透過係数は厚みに反比例するので、厚みを変えることにより固体電解質フィルムのイオン伝導性能を制御することができる。燃料電池に用いる固体電解質フィルムでは、一方の面側にアノード電極、他方の面側にカソード電極が設けられることになるので、固体電解質フィルムの厚み方向における指数が他の方向における指数よりも大きいことが好ましい。固体電解質フィルムの厚みは10〜300μmが好ましい。例えば、イオン伝導度とメタノール拡散係数とが共に高い固体電解質の場合には、厚みが50〜200μmとなるようにフィルムを製造することが特に好ましく、イオン伝導度とメタノール拡散係数とが共に低い固体電解質の場合には、厚みが20〜100μmとなるようにフィルムをする製造することが特に好ましい。
【0040】
耐熱温度については、200℃以上であるものが好ましく、250℃以上のものがさらに好ましく、300℃以上のものが特に好ましい。ここでの耐熱温度は、1℃/分の測度で加熱していったときの重量減少5%に達した温度を意味する。なお、この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
【0041】
さらに、固体電解質をフィルムとしてこれを燃料電池に用いる場合には、その最大出力密度が10mW/cm以上である固体電解質であることが好ましい。
【0042】
以上の固体電解質を用いることにより、フィルムの製造に好適な溶液を製造することができるとともに、燃料電池として好適な固体電解質フィルムを製造することができる。フィルムの製造に好適な溶液とは、例えば、粘度が比較的低く、ろ過により異物を予め除去しやすい溶液である。なお、得られる溶液を、以下の説明ではドープと称することとする。
【0043】
ドープの溶媒としては、固体電解質としてのポリマーを溶解させることができる有機化合物であればよい。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)、及び窒素を含有する化合物(N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)など)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。なお、溶媒は、複数の物質を混合した混合物であってもよい。
【0044】
ドープの溶媒は、複数の物質を混合した混合物であってもよい。溶媒を混合物とする場合には、固体電解質の良溶媒と貧溶媒との混合物とすることが好ましい。化3の構造を有する固体電解質フィルムをつくる場合にプロトン化をフィルム製造工程で実施する場合には、前駆体の良溶媒と貧溶媒との混合物を溶媒として使うとよい。固体電解質が全重量の5重量%となるように溶剤と固体電解質とを混合して、不溶解物の有無により、使用した溶剤がその固体電解質の貧溶媒であるか良溶媒であるかを判断することができる。固体電解質の良溶媒、つまり固体電解質を溶解する物質は、溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的高い方であり、一方、貧溶媒は溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的低い方である。したがって、貧溶媒を良溶媒に混合することにより、フィルム製造工程における溶媒除去の効率及び効果を高めることができ、特に、流延膜の乾燥効率について大きく向上することができる。
【0045】
良溶媒と貧溶媒との混合物においては、貧溶媒の重量比率が大きいほど好ましく、具体的には10%以上100%未満であること好ましい。より好ましくは、(良溶媒の重量):(貧溶媒の重量)が90:10〜10:90であることが好ましい。これにより、全溶媒の重量における低沸点成分の割合が大きくなるので、固体電解質フィルムの製造工程における乾燥効率及び乾燥効果をより向上させることができる。
【0046】
良溶媒成分としてはDMF、DMAc、DMSO、NMPが好ましく、中でも、安全性や沸点が比較的低いという点からDMSOが特に好ましい。貧溶媒成分としては、炭素数が1以上5以下であるいわゆる低級アルコール、酢酸メチル、アセトンが好ましく、中でも炭素数が1以上3以下の低級アルコールがより好ましく、良溶媒としてDMSOを用いた場合にはこれとの相溶性が最も優れる点からメチルアルコールが特に好ましい。
【0047】
固体電解質をフィルムとしたときの各種フィルム特性を向上させるためには、添加剤をドープに加えることができる。添加剤としては、酸化防止剤、繊維、微粒子、吸水剤、可塑剤、相溶剤等が挙げられる。これら添加剤の添加率は、ドープ中の固形分全体を100重量%としたときに1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。ただし、添加率及び物質の種類は、イオン伝導性に悪影響を与えないものとする。以下に添加剤について具体的に説明する。
【0048】
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価または二価のイオウ系、三価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号の各公報に記載の化合物が挙げられる。
【0049】
繊維としては、パーフルオロカーボン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等が好ましい例として挙げられ、具体的には特開平10−312815号公報、特開2000−231938号公報、特開2001−307545号公報、特開2003−317748号公報、特開2004−63430号公報、特開2004−107461号の各公報に記載の繊維が挙げられる。
【0050】
微粒子としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が好ましい例として挙げられ、具体的には特開2003−178777号、特開2004−217931号の各公報に記載の各種微粒子が挙げられる。
【0051】
吸水剤、つまり親水性物質としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、合成ゼオライト、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には特開平7−135003号、特開平8−20716号、特開平9351857号の各公報に記載の吸水剤が挙げられる。
【0052】
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には特開2003−288916号、特開2003−317539号の各公報に記載の可塑剤が挙げられる。
【0053】
相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上の物が好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
【0054】
ドープにはさらに、(1)フィルムの機械的強度を高める目的、(2)膜中の酸濃度を高める目的で、種々のポリマーを含有させてもよい。
【0055】
上記の目的のうち(1)には、分子量が10000〜1000000程度であり、固体電解質と相溶性のよいポリマーが適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、およびこれらのうち2以上のポリマーの繰り返し単位を含むポリマーが好ましい。また、フィルムとしたときの全重量に対し1〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。なお、相溶剤を用いることにより固体電解質との相溶性を向上させてもよい。相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上であるものが好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
【0056】
上記目的のうち(2)には、プトロン酸部位を有するポリマー等が好ましい。このようなポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子化合物のスルホン化物等を例示することができる。また、フィルムとしたときの全重量に対し1〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。
【0057】
さらに、得られる固体電解質フィルムを燃料電池に用いる場合には、アノード燃料とカソード燃料の酸化還元反応を促進させる活性金属触媒をドープに添加してもよい。これにより、固体電解質フィルムの中に一方の極から浸透した燃料が他方の極に到達することなく固体電解質中で消費されるので、クロスオーバー現象を防止することができる。活性金属触媒は、電極触媒として機能するものであれば特に限定されないが、白金または白金を基にした合金が特に適している。
【0058】
[ドープ製造]
図1にドープ製造設備を示す。ただし、本発明はここに示すドープ製造装置及び方法に限定されない。ドープ製造設備10は、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、固体電解質を供給するためのホッパ12と、添加剤を貯留するための添加剤タンク15と、溶媒と固体電解質と添加剤とを混合して混合液16とする混合タンク17と、混合液16を加熱するための加熱装置18と、加熱された混合液16の温度を調整するための温度調整器21と、温度調整器21を出た混合液16をろ過するろ過装置22と、ろ過装置22からのドープ24の濃度を調整するためのフラッシュ装置26と、濃度調整されたドープ24をろ過するためのろ過装置27とを備える。そしてドープ製造設備10には、さらに、溶媒を回収するための回収装置28と、回収された溶媒を再生するための再生装置29とが備えられている。そして、このドープ製造設備10は、ストックタンク32を介してフィルム製造設備33に接続されている。なお、送液量を調節するためのバルブ36〜38と、送液用のポンプ41,42とがドープ製造設備10には設けられているが、これらが配される位置及び数の増減については適宜変更される。
【0059】
ドープ製造設備10を用いるときにはドープ24は以下の方法で製造される。バルブ37を開とすることにより、溶媒は溶媒タンク11から混合タンク17に送られる。次に、固体電解質がホッパ12から混合タンク17に送り込まれる。このとき、固体電解質は、計量と送出とを連続的に行う送出手段により混合タンク17に連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段により混合タンク17に断続的に送り込まれてもよい。また、添加剤溶液は、バルブ36の開閉操作により必要量が添加剤タンク15から混合タンク17に送り込まれる。
【0060】
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体である場合には、その液体状態のままで混合タンク17に送り込むことができる。また、添加剤が固体の場合には、ホッパ等を用いて混合タンク17に送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、複数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れ、それぞれ独立した配管により混合タンク17に送り込むこともできる。
【0061】
前述した説明においては、混合タンク17に入れる順番が、溶媒、固体電解質、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、固体電解質を混合タンク17に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも混合タンク17で固体電解質と溶媒と混合することに限定されず、後の工程で固体電解質と溶媒との混合物にインライン混合方式等で混合されてもよい。
【0062】
混合タンク17には、その外表を包み込み、混合タンク17との間に伝熱媒体が供給されるジャケット46と、モータ47により回転する第1攪拌機48と、モータ51により回転する第2攪拌機52が取り付けられていることが好ましい。混合タンク17は、ジャケット46の内側に流れ込む伝熱媒体により温度調整され、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃の範囲である。第1攪拌機48,第2攪拌機52のタイプを適宜選択して使用することにより、固体電解質が溶媒により膨潤した混合液16を得る。第1攪拌機48は、アンカー翼を有するものであることが好ましく、第2攪拌機52は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
【0063】
次に、混合液16は、ポンプ41により加熱装置18に送られる。加熱装置18は、管本体(図示せず)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケットとを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液16を加圧する加圧部(図示せず)を有することが好ましい。このような加熱装置18を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で混合液16中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、このように加熱により固形成分を溶媒に溶解する方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、混合液16を60℃〜250℃となるように加熱することが好ましい。
【0064】
なお、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を溶媒に溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液16を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、混合液16を−100℃〜−10℃の温度に冷却することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法により固体電解質を溶媒に十分溶解させることが可能となる。
【0065】
混合液16を温度調整器21により略室温とした後に、ろ過装置22によりろ過して不純物や凝集物等の異物を取り除きドープ24とする。ろ過装置22に使用されるフィルタは、その平均孔径が50μm以下であることが好ましい。
【0066】
ろ過後のドープ24は、バルブ38によりストックタンク32に送られて一旦貯留された後、フィルムの製造に用いられる。
【0067】
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、固体電解質の溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。例えば、バルブ38により、ろ過装置22でろ過されたドープ24をフラッシュ装置26に送り、このフラッシュ装置26でドープ24の溶媒の一部を蒸発させることによりドープ24を濃縮することができる。濃縮されたドープ24はポンプ42によりフラッシュ装置26から抜き出されてろ過装置27へ送られる。ろ過の際のドープ24の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。ろ過装置27で異物を除去されたドープ24は、ストックタンク32へ送られ一旦貯留されてからフィルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ24には気泡が含まれていることがあるので、ろ過装置27に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ24に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
【0068】
また、フラッシュ装置26でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)を備える回収装置28により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置29によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点があるとともに、閉鎖系で実施されるために人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
【0069】
以上の製造方法により、固体電解質濃度または前駆体濃度が5重量%以上50重量%以下であるドープ24を製造することができる。固体電解質濃度または前駆体濃度は10重量%以上40重量%以下の範囲とすることがより好ましい。また、添加剤の濃度は、ドープ中の固形分全体を100重量%とすると1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0070】
さらに好ましい様態のドープを製造するための方法について、以下に説明する。
(固体電解質及び溶媒の混合前処理)
固体電解質は、予め乾燥装置55で十分に乾燥される。100℃以上に固体電解質を加熱することにより乾燥することができるが、ペレット状あるいは粉体状の固体電解質を均一に、かつ、ムラなく乾燥するためには、静置して加熱するよりも、撹拌下で加熱する方が好ましい。撹拌しながら加熱する加熱装置55としては、パドルドライヤが好ましい。
【0071】
溶媒は、精製装置56により精製される。この精製工程では、溶媒に含まれている水分と不純物とが除去される。精製装置56としては蒸留装置(分留装置)が挙げられる。蒸留装置として複段の蒸留装置を用いると、水とその他の不純物とが互いに分けられて、不純物毎の後処理をする場合に効率的である。また、複段の蒸留装置を用いると、蒸留条件を精緻に制御できるために、ロットが異なる溶媒毎に蒸留条件を変化させ、消費エネルギーを節約することができる。
【0072】
以上のように固体電解質と溶媒とから予め十分に水分を除去しておくことにより、ドープ24中で固体電解質がゲル化してしまうことが抑制される。溶媒の水分含有率は少ないほど好ましいが、精製装置56の精製精度と精製効率とゲル化発生との関係を考慮すると2重量%が概ね上限といえる。さらに、上記の方法によると、溶媒の精製工程で、水以外の不純物も除去することができるために、得られるドープを燃料電池の固体電解質部材として用いたときに、イオン伝導を阻害することがなくなるという効果がある。なお、本実施形態によると、固体電解質と溶媒とから水分を除去するだけでなく、ドープ24からも上記のフラッシュ装置によりさらに水分が除去されるのでゲル化防止効果がさらに向上する。なお、フラッシュ装置によりドープの水分含有率は2重量%未満に低減される。
【0073】
(加熱溶解法)
まず、室温近辺の温度、具体的には−10〜55℃で、固体電解質を溶媒中に撹拌しながら徐々に添加する。この工程は、例えば、図1における混合タンク17で行うことができる。溶媒として複数の物質の混合物を用いる場合には、溶媒の各成分と固体電解質との混合順序は特に限定されない。例えば、主溶媒中に固体電解質を添加した後に、他の溶媒(例えばアルコールなどの膨潤化溶媒など)を添加する第1の方法、固体電解質を膨潤化溶媒と予め混ぜて膨潤物とし、その後で主溶媒等の他の溶媒を加える第2の方法がある。このような第1及び第2の方法は、不均一溶解の防止に有効である。このように、本発明では、固体電解質を予め膨潤させることが好ましい。膨潤をより効率的に実施するために、混合タンク17の外周には伝熱媒体が通るためのジャケットを設け、温度調整された伝熱媒体を連続的にジャケット内に供給することが好ましい。なお、2種以上の溶媒で固体電解質を予め膨潤させ、その後に残りの溶媒を加えても良い。この膨潤工程では、加圧や減圧をすることにより、さらに溶解時間を短縮することが出来る。加圧や減圧を実施するためには、耐圧性容器あるいはラインが用いられる。
【0074】
固体電解質とその貧溶媒とを混合して混合物とし、貧溶媒を分離することなく、混合物に固体電解質の良溶媒を混合してから溶解させる方法は、作業効率を向上させ、かつ危険性を小さくして生産性も向上させるために有効である。この場合には、固体電解重量と全溶媒量との比率を5〜40重量%とすることが好ましい。固体電解質と貧溶媒とを予め混合する装置は、一般の撹拌機付きの容器であれば制限なく使用できるが、貧溶媒の固体電解質に対する混合割合が小さい場合には、ニーダーやエクストルーダーのような密閉系でしかも混練しながら送り出すタイプの耐圧容器が好ましい。このタイプのものに備えられ、せん断力を与える撹拌手段としては、プロペラ型、タービン型、パドル型、螺旋型、アンカー型等のものが例示される。なお、固体電解質と貧溶媒との混合物と、良溶媒とを混合する際には、混合物に良溶媒を加えて溶解させてもよいが、混合物を良溶媒の中に加える方が溶解時間を短縮出来るために好ましい。
【0075】
次に混合液16は、0.2MPa〜30MPaの加圧下で60〜250℃に加熱される。加熱温度は、60〜220℃とされることがより好ましい。なお、この工程は、図1における加熱装置18で行うことができる。加熱は、例えば高圧蒸気や電気熱源を用いて実施することができる。上記のような加圧下条件とするためには、耐圧容器や耐圧ラインが必要とされるが、その素材は特に限定されず、鉄やステンレス、その他の金属等でよい。
【0076】
さらに、高温高圧とされた混合液中に二酸化炭素を封入して、いわゆる超臨界液としてもよい。この場合には、二酸化炭素と溶媒との比率は5/95〜70/30であることが好ましく、10/90〜60/40であることがより好ましい。
【0077】
上記のように加熱された溶液は、高温であるのでそのままでは流延せずに、流延前に冷却される。具体的には、使用された溶媒の沸点のうち、最も低い沸点以下の温度に冷却する。例えば、−10〜55℃に冷却し、かつ常圧に戻す。このような冷却工程は、図1における温度調整器21で実施することができる。冷却は、混合液16が入っているあるいは通過する高圧高温容器やラインを室温に放置するだけでもよいが、冷却水などの冷媒をにより冷却してもよい。
【0078】
なお、固体電解質の溶解効率をより高めるために、上記の加熱工程と冷却工程とを繰り返してもよい。溶解が十分であるかどうかは、目視により液の概観を観察するだけで判断することができる。なお、このような加熱溶解方法では、溶媒の蒸発を避けるために、密閉容器が用いられることは言うまでもない。
【0079】
また、流延を高速で行う場合でも未溶解物やゲル等の発生を抑えるためには、加熱装置18に代えてタンク(図示せず)を用い、混合タンク17に混合液16を1分以上滞留させて混合及び膨潤させて、代わりに設けた前記タンクに送りここで完全溶解及び均一化させる方法がある。その場合には、以下の3つの条件(1)〜(3)がより好ましい条件である。
(1)混合タンク17に供給する固体電解質の粒径d0を、5×10−2mm≦d0≦20mmとすること。
(2)加熱装置18の代わりに設けたタンクにおける加熱終了時の温度(T2)とこのタンクで混合する前の温度(T1)とが共に、混合気16中の溶媒の沸点のうち最も低い常圧での沸点以上であること。
(3)加熱装置18の代わりに設けたタンクに混合液16を供給した後、タンクに設けられる撹拌機の撹拌翼の周速を0.5m/sec以上として30分以上撹拌すること。
【0080】
混合タンク17としてはコンパクトで分散能に優れたものが好ましい。また、加熱装置18の代わりのタンクとしては、耐圧性のものが好ましい。温度を溶媒の沸点以上の状態にすることがあるために、加熱装置18の代わりのタンクには圧力をかけるからである。さらに混合タンク17から加熱装置18の代わりのタンクに混合液16を送る際には、タンク内の圧力よりも高い圧力で混合液16を送りこむ必要がある。そこで、凝集物の発生を抑え、溶解に要する時間全体を短縮するために混合液16を圧入する。具体的には、加圧ポンプを用いて送り込む方法、窒素ガスにより加圧しながら送りこむ方法等があり、ニーダーあるいはエクストルーダーのような混合分散しながら送り込む方法がより好ましい。なお、混合タンク17そのものもがエクストルーダーのような機能を有していてもよい。加熱装置18の代わりのタンクは耐圧性の密閉容器であればよいが、使用溶媒のうち最も低い沸点の溶媒の沸点から40〜50℃位高く容器内の温度を上げることが出来、かつ、その圧力に耐えるものが好ましい。混合タンク17から加熱装置18の代わりのタンクに送り込む際には、加熱装置18の代わりのタンク内の混合液16の温度を、予め溶媒の沸点以上にしておくことが好ましく、これにより混合液16における凝集物の発生を抑え、溶解時間を極端に短縮することができる。なお、加熱装置18の代わりのタンクに撹拌機を備える場合には、攪拌機の撹拌翼の先端における周速を0.5m/sec以上とすることができるものが好ましく、具体的には、プロペラ型、タービン型、パドル型、螺旋型、アンカー型、ディスパー型等の撹拌機を使用出来る。
【0081】
(ろ過工程)
混合液16は、ろ過装置22により金網やネルなどの各種フィルタを用いて、未溶解物やゴミ、不純物などの異物を除去され、ドープ24とされる。ろ過装置22のフィルタの絶対ろ過精度は0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上20μm未満であることがより好ましい。ろ過圧力は16×10N/cm以下、より好ましくは12×10N/cm以下、さらには10×10N/cm以下、特に好ましくは2×10N/cm以下とすることが好ましい。
【0082】
ろ過されるときの混合液16の粘度は10000P以下とされることが好ましく、1000P以下がより好ましく、500Pであることがさらに好ましく、100P以下であることが特に好ましい。フィルタの素材としては、ガラス繊維、セルロース繊維、濾紙、四フッ化エチレン樹脂などのフッ素樹脂等の公知であるものでよいが、セラミックス、金属等がより好ましい。フィルタはサーフェスタイプでもデプスタイプでもよいが、デプスタイプの方が比較的目詰まりしにくいのでより好ましい。
【0083】
ドープ製造中には、各液、例えば混合液16やドープ24等の流量を変更する場合がある。そのような場合には、フィルタに捕らえられていた異物が流量変化によりドープ24中に流出する場合がある。そこで、流量を変更する前には、液の流量を最大流量して一次この流量を保ってフィルタを通過させ、これにより捕らえられていた異物を流しだし、フィルタの厚みが薄くなるまでのろ液をそのろ過装置の上流に戻し、その後所定流量に変更するとよい。この方法は、ろ過装置22以外の他のろ過装置にも適用することができる。
【0084】
ろ過装置22は、複数が並列に備えられていることが好ましい。これにより、切り換え使用することができる。このような切り換えによる使用開始時においても、上記のような異物がドープ24に混入することがあるので、上記の流量変更前の処理と同じ方法で異物流出を抑制することが好ましい。ろ過装置22以外の他のろ過装置についても同様である。
【0085】
図示は略すが、添加剤液がインライン添加される場合にもインライン混合前に添加剤液をろ過することが好ましい。添加剤液のろ過工程については、以下の条件の少なくともいずれかひとつを満たすことが好ましい。
・添加剤液は2種類以上のデプスフィルターでろ過されること、ろ過する回数は3〜10回であること、
・JISZ 8901に規定される試験用粉体1の8種の0.5ppm水分散液をろ過したときに、5〜10μmの粒子捕集率が20〜60%であるカートリッジフィルタを添加剤液をろ過するフィルタとして用いること、
・ポリプロピレンまたはステンレス鋼よりなるコアに長繊維を巻きつけた糸巻きタイプの第1のフィルタでろ過した後、絶対ろ過精度が30〜60μmであり、かつ、空孔率εが60〜80%である金属製の第2のフィルタ(例えば、日本精線(株)製ファインポアNFシリーズのNF−10、同NF−12、同NF−13等)でろ過すること。
さらに好ましい態様としては、
・フィルタ1cmあたりのろ過流量を10ml/min以下とすること、
・インライン添加される直前にろ過する場合には、そのフィルタ1cmあたりのろ過流量を1ml/min以下とすること、
・ろ過装置における1次側と2次側との圧力差を200kPa以下とすること、
・ろ過時における添加剤液の温度を30〜110℃とすること、
・添加剤液が二酸化珪素微粒子等の各種微粒子を含んでいる場合には、微粒子の1次平均粒子径が20nm以下であり、見かけ比重が70g/リットル以上であること。
【0086】
サーフェスタイプのフィルタは長時間使用されると、捕らえられていた異物同士が接触して大きく成長する。そして、フィルタ孔がつまって圧力が上昇しすぎると、大きく成長した異物がフィルタを通過してしまう。そのため、ドープ中の異物を増加させてしまうことがある。なお、サーフェスタイプとしては、例えばアドバンテック東洋(株)製濾紙プリーツカートリッジフィルターTCタイプやふるいに使用されている金属メッシュなどがあげられる。これに対し、デプスタイプのフィルタは、ある程度の厚みをもって形成されていることから、捕らえられていた凝集物同士の接触可能性が、サーフェスタイプに比べて低い。このために、ゲル状の凝集物等も長期間除去することができる。デプスタイプとしては、例えばアドバンテック東洋(株)製ワインドカートリッジフィルターTCWタイプ、デプスカートリッジフィルターTCPDタイプや日本精線(株)製ファインポアNFシリーズなどがあげられる。
【0087】
インラインされる添加剤液に凝集物が含まれている場合には、その凝集物は2次凝集、3次凝集のゲル状物である。メンブランタイプ(アドバンテック東洋(株)製メンブランカートリッジフィルターTCFタイプ、プリーツカートリッジフィルターTCPEタイプ等)のフィルタではこのような凝集物が抜けやすいため、糸巻きタイプ(アドバンテック東洋(株)製ワインドカートリッジフィルターTCWタイプ)のものが好ましい。
【0088】
また、インライン添加する直前の金属フィルタに添加剤液を送る場合には、送液用のポンプとして、ダイアフラムポンプやプランジャーポンプ等(富士テクノ工業(株)製プランジャーポンプHYSA−16、日揮装(株)製ミルフロー制御容量ポンプC23Y−1.5F−14D1D等)の往復動ポンプを用い、これを2連、もしくは3連にシリンダー数を増やすことがより好ましい。これによりフィルタへの負荷を大幅に低減できる。
【0089】
なお、添加剤液は、ろ過工程を含めて、混合液16やドープ24中に添加されるまで閉鎖系で移送されることが好ましい。
【0090】
なお、フィルタに残留した固体電解質等の固形分は、原料として再利用することができる。また、個別にろ過された複数の固体電解質ドープを同時流延法により共流延することにより、フィルム内部に境界面のない、かつ表面が平滑な固体電解質積層フィルムを製造することができる。
【0091】
以上のようなろ過工程を実施することにより、フィルムとしたときに、大きさが50μmを越える異物を面積250mm当たり実質上0個とすることができ、さらには5〜50μmの異物を面積250mm当たり200個以下とすることができる。なお、上記異物の大きさ及び個数は、光学顕微鏡の透過型測定法による。
【0092】
なお、フィルム中の異物としては、ドープに含まれていた異物の他に、ドープ中に気泡がありこれをこのまま流延して泡が残りそれがフィルム表面に現れることによるピンホール等も挙げられる。そのため、ドープ24は流延前に予め脱泡されることが好ましい。以下に脱泡処理について詳細に説明する。
【0093】
(脱泡)
フィルムにおける0.3μm以上の気泡をなくすために下記(1)〜(3)の工程を実施されたドープを使用する方法も挙げられる。なお、下記の方法においては6分以上の静置後直ぐに昇温して溶解を完結させてもよいし、静置時間を一晩あるいはそれ以上としてもよい。
(1)耐圧容器中でドープ24を沸点(b.p)付近にまで昇温し、
(2)その温度で6分以上静置したまま耐圧容器内部の加圧を解除し、
(3)その後に、耐圧容器内部を密閉して、加圧下でドープ24の温度を(b.p+20)℃〜(b.p+50)℃にする。
【0094】
フィルムにおける0.3μm以上の気泡をなくす方法としては次の条件をさらに加えることが好ましい。フレーク、つまり大きめの粉体である固体電解質と有機溶媒等とを耐圧容器で混合してから溶解し、上記(2)における静置時間を10分以とすることである。その間に、耐圧容器の加圧を解除して大気にさらす。そして耐圧容器内上部の空間の空気を有機溶媒の蒸気で置換し、所定の時間静置した後で、b.p以上にこれを昇温させて固体電解質の溶解を完結させる。これを冷却した後に、ろ過を実施し、後述の方法により製膜する。これにより、気泡を含まない固体電解質フィルムを得ることができる。
【0095】
なお、混合液16をつくるための添加剤液についても、固体電解質等と混合する前に予め脱泡しておくことが好ましい。これは、混合タンク17以外の場所で添加される添加剤液についても同様である。特に、設備的あるいは時間的余裕がある場合には、脱泡を行うことが好ましい。添加剤液の脱泡方法としては、例えば、容器に入れた添加剤液を昇温させる方法、長時間静置する方法、添加剤液に振動を与える方法、これらを組み合わせる方法がある。振動を与える方法では、出来るだけ周期の短い、強い振動を与えることが好ましく、そのような振動としては超音波振動が例示される。添加剤液が通る配管や添加剤液をろ過するろ過器に、超音波振動子を配して超音波をかける方法も有効である。その場合には、配管やろ過器の各内部の金属部分に振動子を付けることもある。振動装置の振動周波数としては100Hz〜40kHzが好ましく、超音波振動素子の周波数としては10〜40kHzが好ましい。
【0096】
[フィルム製造]
固体電解質フィルムを製造する方法を説明する。図2はフィルム製造設備33の概略図である。ただし、本発明は、ここに示すようなフィルム製造方法及び設備に限定されるものではない。フィルム製造設備33には、ストックタンク32から送られてくるドープ24から異物を除去するろ過装置61と、このろ過装置61でろ過されたドープ24を流延して固体電解質フィルム(以下、単にフィルムと称する)62とする流延室63と、フィルム62の両側端部を保持してフィルム62を搬送しながら乾燥するテンタ64と、フィルム62の両側端部を切り離す耳切装置67と、フィルム62を複数のローラ68に掛け渡して搬送しながら乾燥する乾燥室69と、フィルム62を冷却するための冷却室71と、フィルム62の帯電量を減らすための除電装置72と、側端部にエンボス加工を施すナーリング付与ローラ対73と、フィルム62を巻き取る巻取室76とが備えられる。
【0097】
ストックタンク32には、モータ77で回転する攪拌機78が取り付けられており、撹拌によりドープ24の固形分の析出や凝集が抑制される。そしてこのストックタンク32はポンプ80を介してろ過装置61と接続する。ろ過装置61に使用されるフィルタは、その平均孔径が10μm以下であるものが好ましい。これにより、プロトン伝導性の初期性能の悪化及びプロトン伝導性の経時劣化の要因となる不純物がフィルムに混入することを防ぐことができる。なお、不溶解物等の不純物の有無は、ストックタンク32からサンプリングしたドープに蛍光灯で光を照らすことにより目視で評価することができる。
【0098】
流延室63には、ドープ24を流出する流延ダイ81と、走行する支持体としての流延バンド82とを備える。流延ダイ81の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率は2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有し、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じないような耐腐食性を有するものが好ましい。なお、流延ダイ81は、鋳造後1ヶ月以上経過した素材を研削加工することにより作製されることが好ましく、これにより、流延ダイ81の内部をドープ24が一様に流れ、後述する流延膜24aにスジなどが生じることが防止される。流延ダイ81のドープ24と接するいわゆる接液面は、その仕上げ精度が表面粗さで1μm以下、真直度がいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ81のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ81のリップ先端の接液部の角部分について、その面取り半径Rは、流延ダイ81の全巾にわたり一定かつ50μm以下とされている。流延ダイ81はコートハンガー型のダイが好ましい。
【0099】
流延ダイ81の幅は特に限定されるものではないが、最終製品であるフィルム62の幅の1.1倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、製膜の際のドープ24の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ81の温度を制御する温度コントローラが流延ダイ81に取り付けられることが好ましい。さらに、流延ダイ81には、幅方向に所定の間隔で複数備えられた厚み調整ボルト(ヒートボルト)と、このヒートボルトによりスリットの隙間を調整する自動厚み調整機構が備えられることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)81の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。ドープの送り量を精緻に制御するために、ポンプ80は高精度ギアポンプであることが好ましい。また、フィルム製造設備33中には、例えば赤外線厚み計のような厚み測定機を設け、厚みプロファイルに基づく調整プログラムと厚み測定機による検知結果とにより、自動厚み調整機構へのフィードバック制御を行ってもよい。製品としてのフィルム62の両側端を除く任意の2つの位置での厚み差が1μm以内となるように、先端リップのスリット間隔を±50μm以下に調整できる流延ダイ81を用いることが好ましい。
【0100】
流延ダイ81のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができ気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつドープ24との親和性や密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al、TiN、Crなどが挙げられるが、中でも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0101】
ドープ24が流延ダイ81のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端に溶媒を供給するための溶媒供給装置(図示しない)をリップ先端近傍に取り付けることが好ましい。溶媒が供給される位置は、流延ビードの両端部とリップ先端の両端部と外気とにより形成される三相接触線の周辺部が好ましい。供給される溶媒の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。これにより、異物、例えばドープ24から析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜24a中に混合してしまうことを防止することができる。なお、溶媒を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0102】
流延ダイ81の下方の流延バンド82は、回転ローラ85,86に掛け渡され、少なくともいずれか一方の回転ローラの駆動回転により連続的に搬送される。
【0103】
流延バンド82の幅は特に限定されるものではないが、ドープ24の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは20m〜200m、厚みは0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。
【0104】
流延バンド82の素材は、特に限定されるものでないが、ステンレスであることが好ましい。その他の素材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ナイロン6フィルム、ナイロン6,6フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルムなどの不織布のプラスチックフィルムが挙げられる。使用する溶剤、製膜温度に対応できるような化学的安定性と耐熱性とをもつ長尺物であることが好ましい。
【0105】
回転ローラ85,86には、伝熱媒体を回転ローラ85,86に供給してローラの表面温度を制御する伝熱媒体循環装置87が取り付けられていることが好ましく、これにより流延バンド82の表面温度を所定の値にする。本実施形態では、回転ローラ85,86に伝熱媒体流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ85,86の温度が所定の値に保持されるものとなっている。流延バンド82の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ24の濃度等に応じて適宜設定する。
【0106】
回転ローラ85,86、及び流延バンド82に代えて回転ドラム(図示せず)を支持体として用いることもできる。この場合には、回転速度ムラが0.2%以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。回転ドラムは、表面の平均粗さが0.01μm以下であることが好ましく、表面がハードクロムメッキ処理等を施されているものが好ましい。これにより、十分な硬度と耐久性とを向上させることができる。なお、回転ドラム、流延バンド82、回転ローラ85,86は、表面欠陥が最小限に抑制されていることが好ましい。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m以下であることが好ましい。
【0107】
流延ダイ81の近傍には、流延ダイ81から流延バンド82にかけて形成される流延ビードの流延バンド82走行方向における上流側を圧力制御するために減圧チャンバ90が備えられることが好ましい。
【0108】
バンド53の近傍には、流延膜24aの溶媒を蒸発させるために風を吹き付ける送風ダクト91〜93と,流延膜24aの形状を乱すような風が流延膜24aにあたることを抑制するための遮風板94とが備えられる。
【0109】
流延室63には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置97と、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)98とが設けられる。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置99が流延室63の外部に設けられている。
【0110】
流延室63の下流の渡り部101には、送風機102が備えられる。また、耳切装置67には、切り取られたフィルム62の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ103が備えられる。
【0111】
乾燥室69には、フィルム62から蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置106が取り付けられている。そして、図2においては乾燥室69の下流に冷却室71が設けられているが、乾燥室69と冷却室71との間にフィルム62の含水量を調整するための調湿室(図示しない)を設けてもよい。除電装置72は、除電バー等の強制除電装置であり、フィルム62の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整できるものである。除電装置72については、冷却室71の下流側に配される例を図示しているが、この設置位置に限定されるものではない。ナーリング付与ローラ対73は、フィルム62の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与するものである。巻取室76の内部には、フィルム62を巻き取るための巻取ロール107と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ108とが備えられている。
【0112】
次に、以上のようなフィルム製造設備33を使用してフィルム62を製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ24は、攪拌機78の回転により常に均一化されている。ドープ24には、この攪拌の際にも各種添加剤を適宜混合させることもできる。
【0113】
ドープ24はストックタンク32に送られて、流延に供されるまで固形分の析出や凝集が撹拌により抑制される。そして、ろ過装置61でのろ過により、所定粒径以上のサイズの異物やゲル状の異物が取り除かれる。
【0114】
そしてドープ24は、流延ダイ81から流延バンド82に流延される。流延バンド82に生じるテンションが10N/m×10N/mとなるように、回転ローラ85と回転ローラ86との相対位置、及び少なくともいずれか一方の回転速度が調整される。また、流延バンド82と回転ローラ85,86との相対速度差は、0.01m/min以下となるようにされる。流延バンド82の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド82が一周する際に生じる幅方向における蛇行は1.5mm以下とされることが好ましい。この蛇行を抑制するために、流延バンド82の両端の位置を検出する検出器(図示しない)とこの検出器による検出データに応じて流延バンド82の位置を調整する位置調整機(図示なし)とを設けて、流延バンド82の位置をフィードバック制御することがより好ましい。さらに、流延ダイ81直下における流延バンド82について、回転ローラ85の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以内となるようにすることが好ましい。また、流延室63の温度は、温調装置97により−10℃〜57℃とされることが好ましい。なお、流延室63の内部で蒸発した溶媒は回収装置99により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0115】
流延ダイ81から流延バンド82にかけては流延ビードが形成され、流延バンド82上には流延膜24aが形成される。流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアが所定の圧力値となるように減圧チャンバ90で制御されることが好ましい。減圧値は、ビードに関し下流側のエリアよりも−2500Pa〜−10Paとすることが好ましい。なお、減圧チャンバ90にジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つために、流延ダイ81のエッジ部に吸引装置(図示せず)を取り付けてビードの両側を吸引することが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/min.〜100L/min.の範囲であることが好ましい。
【0116】
流延膜24aは、自己支持性をもつようになった後に、剥取ローラ109で支持されながら流延バンド82から剥ぎ取られる。剥ぎ取られたときのフィルム62は溶媒を含んだ状態となっている。このフィルム62は、複数のローラに支持されて渡り部101を搬送された後に、テンタ64に送られる。渡り部101では、下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度よりも速くすることにより、フィルム62にドローテンションを付与させることが可能である。また、渡り部101では、送風機102から所望の温度の乾燥風がフィルム62近傍に送られ、またはフィルム62に直接吹き付けられ、フィルム62の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20℃〜250℃であることが好ましい。
【0117】
テンタ64に送られたフィルム62は、その両端部がクリップ64a等の保持手段により把持されて搬送されながら乾燥される。クリップに代えてピンとし、ピンによりフィルムを突き刺して保持してもよい。また、テンタ64の内部を異なった温度ゾーンに区画分割して、その区画毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。なお、テンタ64では、フィルム62を幅方向に延伸させることが可能とされている。このように、渡り部101とテンタ64との少なくともいずれかひとつにおいては、フィルム62の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を、延伸前の寸法に対し100.5%〜300%の寸法となるように延伸することが好ましい。
【0118】
フィルム62は、テンタ64で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、その両側端部が耳切装置67により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ103に送られる。クラッシャ103により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。なお、この両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0119】
一方、両側端部を切断除去されたフィルム62は、乾燥室69に送られ、さらに乾燥される。乾燥室69の内部温度は、特に限定されるものではないが、固体電解質の耐熱性(ガラス転移点Tg、熱変形温度、融点Tm、連続使用温度等)に応じて決定され、Tg以下とすることが好ましい。乾燥室69では、フィルム62はローラ68に巻き掛けられながら搬送され、ここで蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置106により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室69の内部に乾燥風として再度送られる。なお、乾燥室69は、送風温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置67と乾燥室69との間に予備乾燥室(図示せず)を設けてフィルム62を予備乾燥すると、乾燥室69でフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室69でのフィルム62の形状変化を抑制することができる。
【0120】
フィルム62は、冷却室71で略室温にまで冷却される。なお、乾燥室69と冷却室71との間に調湿室を設ける場合には、調湿室では所望の湿度及び温度に調整された空気をフィルム62に吹き付けることが好ましい。これにより、フィルム62のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良を抑制することができる。
【0121】
溶液製膜方法では、支持体から剥ぎ取られたフィルム(固体電解質フィルム)を巻き取るまでの間に、乾燥工程や側端部の切除除去工程などの様々な工程が行われている。これらの各工程内、あるいは各工程間では、フィルムは主にローラにより支持または搬送されている。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。
【0122】
除電装置72により、フィルム62が搬送されている間の帯電圧を所定の値とする。除電後の帯電圧は−3kV〜+3kVとされることが好ましい。さらに、フィルム62は、ナーリング付与ローラ対73によりナーリングが付与されることが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmであることが好ましい。
【0123】
フィルム62は、巻取室76の巻取ロール107で巻き取られる。プレスローラ108で所望のテンションをフィルム62に付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましく、これによりフィルムロールにおける過度な巻き締めを防止することができる。巻き取られるフィルム62の幅は100mm以上であることが好ましい。また、本発明は、フィルムの厚みが5μm以上300μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0124】
本発明では、ドープ24を流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させる方法を用いてもよい。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一層が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれて流延されるように各ドープの濃度を予め調整しておくことが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接する、つまり露出するドープが内部のドープよりも貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
【0125】
なお、固体電解質をフィルム化する上記方法に代えて、細孔が複数形成されているいわゆる多孔質基材の細孔に固体電解質を保持させて、固体電解質が細孔に入ったフィルムを製造しても、上記実施形態とは異なる固体電解質フィルムを製造することができる。このような固体電解質フィルムの製造方法としては、固体電解質が含まれるゾル−ゲル反応液を多孔質基材上に塗布して細孔に固体電解質を入れる方法、多孔質基材を固体電解質が含まれるゾル−ゲル反応液に浸漬し、細孔内に固体電解質を満たす方法等がある。多孔質基材の好ましい例としては、多孔性ポリプロピレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、多孔性架橋型耐熱性ポリエチレン、多孔性ポリイミドなどが挙げられる。また、固体電解質を繊維状に加工し、繊維中の空隙を他の高分子化合物等で満たし、その繊維を用いてフィルム状とすることにより固体電解質フィルムを形成することもできる。この場合には、空隙を満たすための他の高分子化合物の例としては、本明細書における添加剤として挙げた物質を挙げることができる。
【0126】
本発明の固体電解質フィルムは、燃料電池用、特に特に直接メタノール型燃料電池用のプロトン伝導膜として好適に利用することができる他に、燃料電池の2つの電極に挟まれる固体電解質フィルムとして用いることができる。さらに、各種電池(レドックスフロー電池、リチウム電池等)における電解質、表示素子、電気化学センサー、信号伝達媒体、コンデンサ、電気透析、電気分解用電解質膜、ゲルアクチュエーター、塩電解膜、プロトン交換樹脂としても本発明の固体電解質フィルムを用いることができる。
【0127】
(燃料電池)
以下に、固体電解質フィルムを電極膜接合体(Membrane and Electrode Assembly,以下、MEAと称する)に使用する例と、この電極膜接合体を燃料電池に用いる例とを説明する。ただし、ここに示すMEA及び燃料電池の様態は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されない。図3は、MEAの断面概略図である。MEA131は、フィルム62と、このフィルム62を挟んで対向するアノード電極132及びカソード電極133とを備える。
【0128】
アノード電極132は多孔質導電シート132aとフィルム62に接する触媒層132bとを有し、カソード電極133は多孔質導電シート133aとフィルム62に接する触媒層133bとを有する。多孔質導電シート132a,133aとしては、カーボンペーパー等がある。触媒層132b,133bは、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子をプロトン伝導材料に分散させた分散物からなる。カーボン粒子としては、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等があり、プロトン伝導材料としては、例えばナフィオン等がある。
【0129】
MEA131の製造方法としては、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:活性金属担持カーボン、プトロン伝導材料、溶媒を含む触媒ペースト(インク)をフィルム62の両面に直接塗布し、多孔質導電シート132a,133aを(熱)塗布層に圧着して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒層132b,133bの材料を含んだ液、例えば触媒ペーストを、多孔質導電シート132a,133aの表面に塗布し、触媒層132b,133bを形成させた後、フィルム62と圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(3)Decal法:触媒ペーストをPTFE上に塗布し、触媒層132b,133bを形成させた後、フィルム62に触媒層132b,133bのみをうつし、3層構造を形成し、これに多孔質導電シート132a,133aを圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクをフィルム62、多孔質導電シート132a,133aあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを含む液にフィルム62を含浸させ、白金粒子をフィルム中で還元析出させて触媒層132b,133bを形成させる。触媒層132b,133bを形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEA131を作製する。
【0130】
ただし、MEAの作り方としては、上記の方法には限定されず、公知の各種方法を適用することができる。例えば、上記の(1)〜(4)の方法の他に次の方法がある。触媒層132b,133bの材料を含んだ塗布液を予めつくり、この塗布液を支持体に塗布して乾燥する。触媒層132b,133bが形成された支持体を、触媒層132b,133bがフィルム62に接するようにフィルム62の両面にそれぞれ重ねて圧着する。そして支持体を剥がしてから、触媒層132b,133bが両面に形成されたフィルム62を多孔質導電シート132a,133aで挟み込む。そして、多孔質導電シート132a,133aと触媒層132b,133bとを密着させてMEAを製造することができる。
【0131】
図4は、燃料電池の概略図である。燃料電池141は、MEA131と、MEA131を挟持する一対のセパレータ142,143と、これらのセパレータ142,143に取り付けられたステンレスネットからなる集電体146と、パッキン147とを有する。アノード極側のセパレータ142にはアノード極側開口部151が設けられ、カソード極側のセパレータ143にはカソード極側開口152設けられている。アノード極側開口部151からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側開口部152からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
【0132】
アノード電極132およびカソード電極133には、カーボン材料に白金などの活性金属粒子が担持された触媒が用いられる。通常用いられる活性金属の粒子サイズは、2〜10nmの範囲である。ただし、粒子サイズが小さいほど単位重量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが小さすぎると凝集させることなく分散させることが難しくなるために、2nm程度が小ささの限度といわれている。
【0133】
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極、つまり水素極に比べ、カソード極、つまり空気極の方が大きい。これは、カソード極の反応、つまり酸素の還元反応の速度がアノード極に比べて遅いためである。酸素極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料にメタノール水溶液を用いる直接メタノール燃料電池においては、メタノールの酸化過程で生じるCOによる触媒被毒を抑制するために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC−72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
【0134】
触媒層132b,133bは、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体146に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質、つまりフィルム62に輸送すること、という機能をもつ。(1)のために触媒層132b,133bは、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性とされる。(2)についてはカーボン材料に担持される活性金属触媒が担い、(3)は同じくカーボン材料が担う。そして、(4)の機能を果たすために、触媒層132b,133bにプロトン伝導材料を混在させる。触媒層のプロトン伝導材料としては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、フィルム62に用いられるような酸残基を有する高分子化合物、例えばナフィオンに代表されるパーフルオロスルホン酸、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性芳香族高分子のスルホン化物等が好ましく用いられる。フィルム62の材料とされる固体電解質を触媒層132b,133bに用いると、触媒層132b,133bとフィルム62とが同種の材料となるため、固体電解質と触媒層との電気化学的密着性が高まり、イオン伝導の点でより有利である。活性金属の使用量を0.03〜10mg/cmの範囲とすることが、電池出力と経済性との観点から適する。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の重量に対して1〜10倍であることが好ましい。プロトン伝導材料の量は、活性金属担持カーボンの重量に対して、0.1〜0.7倍が好ましい。
【0135】
触媒層132b,133bは、電極基材、透過層、あるいは裏打ち材とも呼ばれ、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
【0136】
MEAは電池に組み込み、燃料を充填した状態での交流インピーダンス法による面積抵抗値が3Ωcm以下のものが好ましく、1Ωcm以下のものがさらに好ましく、0.5Ωcm以下のものが最も好ましい。面積抵抗値は実測の抵抗値とサンプルの面積の積から得られる。
【0137】
燃料電池の燃料として用いることのできるものを説明する。アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
【0138】
直接メタノール型燃料電池では、アノード燃料として、メタノール濃度3〜64重量%のメタノール水溶液が使用される。アノード反応式(CHOH+HO→CO+6H+6e)により、1モルのメタノールに対し、1モルの水が必要であり、この時のメタノール濃度は64重量%に相当する。メタノール濃度が高い程、同エネルギー容量での燃料タンクを含めた電池の重量および体積が小さくできる利点がある。しかしながら、メタノール濃度が高い程、メタノールが固体電解質を透過しカソード側で酸素と反応し電圧を低下させる、いわゆるクロスオーバー現象が顕著となり、出力が低下する傾向にある。そこで、用いる固体電解質のメタノール透過性により、最適濃度が決められる。直接メタノール型燃料電池のカソード反応式は、(3/2)O+6H+6e→HOであり、燃料として酸素(通常は空気中の酸素)が用いられる。
【0139】
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層132b,133bに供給する方法としては、(1)ポンプ等の補助機器を用いて強制的に送りこむ方法(アクティブ型)と、(2)補助機器を用いない方法、例えば、燃料が液体である場合には毛管現象や自然落下により、気体である場合には大気に触媒層をさらして供給するパッシブ型との2通りの方法があり、また、(1)と(2)とを組み合わせることも可能である。(1)は、カソード側で生成する水を抜き出すことにより、燃料として高濃度のメタノールを使用することができ、空気供給による高出力化ができる等の利点がある反面、燃料供給系を備える事により小型化がし難い欠点がある。(2)は、小型化が可能な利点がある反面、燃料供給が律速となり易く高い出力が出にくい欠点がある。
【0140】
燃料電池の単セル電圧は一般的に1V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレータを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
【0141】
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、直接メタノール型燃料電池は、小型、軽量化が可能であり充電が不要である利点を活かし、様々な携帯機器やポータブル機器用エネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラ、PDA、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、モバイルサーバー、ウエラブルパソコン、モバイルディスプレイなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器、懐中電灯、電動(アシスト)自転車などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。
【実施例1】
【0142】
次に、本発明の実施例を説明する。以下の各実施例では、詳細を実施例1で説明し、実施例2〜8については、実施例1と異なる条件のみを説明する。なお、実施例1〜3及び実施例7,8は本発明の実施様態の例であり、実施例4〜6は実施例1〜3に対する比較実験である。
【0143】
[ドープ製造]
(1)原料準備
原料Aをフラッシュ装置26でフラッシュ濃縮した。その後、濃縮物をパドルドライヤで乾燥した。パドルドライヤでは、120℃の風を濃縮物に送りつつ、100分間乾燥した。乾燥後の含水率は0.5重量%であった。この乾燥物を固体電解質として用いた。この乾燥物が再び外気から水分を吸収しないように、風送によりホッパ13へ供給した。溶媒としてのパーフルオロヘキサンを蒸留により精製して、水分含有率を0.2重量%にした。なお、原料Aは、20%Nafion(登録商標)Dispersion Solution DE2020(米デュポン社製)である。
【0144】
(2)ドープ仕込み
・乾燥後の原料A; 100重量部
・溶媒;パーフルオロヘキサン 400重量部
図1に示すドープ製造ライン10を用いてドープ24を調製した。攪拌羽根を備える200Lのステンレス製混合タンク17へ、精製済みの溶媒を送った。なお、固体電解質としての乾燥後の原料Aと溶媒との配合は上記の通りである。次に、固体電解質をホッパ13から混合タンク17へ徐々に入れた。最初は、ディゾルバータイプの偏芯攪拌機52の周速を5m/sec、回転軸にアンカー翼をもつ攪拌機48を周速1m/secとして、混合液16を30分間攪拌し、固体電解質を溶媒に分散させた。そして、攪拌機48のアンカー翼の周速を0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、固体電解質を膨潤させて膨潤液としての混合液16を得た。膨潤終了までは、混合タンク17内を0.12MPaになるように窒素ガスにより加圧した。加圧された混合タンク17の内部は、酸素濃度が2vol%未満であり、防爆上問題のない状態を保った。
【0145】
(3)溶解・ろ過
膨潤状態にある混合液16を混合タンク17からポンプ41を用いてジャケット付配管である加熱装置18に送った。加熱装置18では、混合液16は2MPaの加圧下で90℃まで加熱され、固体分散液は完全に溶解した。加熱装置18での加熱時間は30分であった。加熱装置18を経た混合液16を、温度調整器21により30℃に降温し、その後、公称孔径8μmのフィルタが備えられたろ過装置22を通過させてドープ24を得た。この際、ろ過装置22における1次側圧力を1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとした。高温にさらされるフィルタ、ハウジング及び配管は優れた耐食性をもつハステロイ(商品名)合金製とされるとともに、これらには保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットが備えられた。
【0146】
(4)ろ過・脱泡
ドープ24を、フラッシュ装置26のタンク本体(図示なし)へ濃縮することなく単に移液した。タンク本体には攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機(図示しない)を設け、周速0.5m/secの回転条件とされた攪拌機によりドープ24を攪拌して脱泡した。このタンク本体内におけるドープ24の平均滞留時間は50分であった。次に、このドープ24に弱い超音波を照射することにより泡抜きを続けた。その後、ポンプ42により1.5MPaに加圧した状態で、ろ過装置27を通過させた。ろ過装置27には2つのフィルタが備えられ、上流側及び下流側のそれぞれは互いに同じフィルタとした。このフィルタは、公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタである。それぞれの1次側圧力は1.5MPa、1.2MPaであり、2次側圧力は1.0MPa、0.8MPaであった。ろ過後のドープ24の温度を30℃に調整して500Lのステンレス製ストックタンク32にドープ24を送って貯蔵した。ストックタンク32は中心軸にアンカー翼を備えた攪拌機78を有しており、ドープ24は周速0.3m/secで常時攪拌された。ここで得られたドープ24の濃度は23重量%であり、これをドープAとする。
【0147】
[固体電解質フィルム62の製造]
ドープAを走行する流延バンド82へ流延ダイ81から流延して流延膜とし、送風ダクト91〜93により30〜50℃の乾燥風を吹き付け、原料Aの固形分、つまり固体電解質の重量に対して溶媒含有率が30重量%になるまで流延膜24aを乾燥した。流延膜24aが自己支持性をもったところで、この流延膜を流延バンド82からフィルム62として引き剥がした。このフィルム62は、テンタ64に送られて、クリップ64aでその両側端部を把持されながらテンタ64の内部を搬送された。テンタ64では、固形分に対して溶媒含有率が15重量%になるまで、50℃の乾燥風によりフィルム62を乾燥した。テンタ64の出口でクリップ64aから離脱されたフィルム62は、クリップ64aに把持された両側端部を、テンタ64の下流に備えられる耳切装置67により切断除去された。両側端部が除去されたフィルム62を乾燥室69に送り、複数のローラ68で搬送しながら50〜70℃で乾燥した。そして、溶剤含有率が3%未満とされた固体電解質フィルム62を得た。
【0148】
得られたフィルム62について、以下の各評価を実施した。評価結果については表1に示す。なお、表1における評価項目の番号は、以下の各評価項目に付した番号に対応する。
【0149】
1.厚み
アンリツ電気社製の電子マイクロメーターを用いて600mm/分の速度にて連続的にフィルム62の厚みを測定した。測定により得られたデータは、縮尺1/20、チャート速度30mm/分にてチャート紙上に記録された。そして定規によりデータ曲線に関して計測を実施したのちに、その計測値を基に厚みの平均値とこの平均値に対する厚みのばらつきとを求めた。表1においては、(a)は厚みの平均値(単位;μm)、(b)は(a)に対する厚みのばらつき(単位;μm)を表す。
【0150】
2.ドープ24の水分含有率
ドープ24を3ccサンプリングして、カールフィッシャー法で水分重量を測定した。用いた水分測定器と試料乾燥装置は共に三菱化学(株)製であり、前者は型式CA−03、後者は型式VA−05である。そして、求められた水分量を、サンプリング重量で除して、水分含有率を算出した。
【0151】
3.欠陥箇所数
フィルム62の全幅×1mのエリアに光をあてて反射させ、その反射光により変形等の欠陥箇所を目視にて検出した。その後、目視で検出された欠陥箇所を偏光顕微鏡で確認し、1mm当たりの欠陥箇所数をカウントした。なお、サンプリング後につけられた変形、例えばキズ等はカウントから除外した。
【0152】
4.イオン導電率測定
得られた固体電解質フィルム62について、長手方向に沿って1mおきに10個の測定箇所を選んだ。その10箇所を直径13mmの円形サンプルとして打ち抜いた。各サンプルを2枚のステンレス板で挟み、ソーラトロン社1470および1255Bを用いて交流インピーダンス法によりイオン伝導度を測定した。測定は80℃、相対湿度95%の条件下で実施した。イオン伝導度は、表1に示すように交流インピーダンスの値(単位;S/cm)として示される。
【0153】
5.燃料電池141の出力密度
フィルム62を用いて燃料電池141を作製し、その燃料電池141の出力を測定した。燃料電池141の作製方法及び出力密度の測定方法は、下記の方法による。
【0154】
(1)触媒層132b,133bとされる触媒シートAの作製
白金担持カーボン2gと固体電解質15g(5%DMF溶液)とを混合し、超音波分散器で30分間分散させた。分散物の平均粒子径は約500nmであった。得られた分散物を、厚さ350μmのカーボンペーパー上に塗布して乾燥した後、このカーボンペーパーを直径9mmの円形に打ち抜き、触媒シートAを作製した。なお、上記白金担持カーボンは、VulcanXC72に白金50wt%が担持されたものであり、固体電解質は、フィルム62を製造するためのものと同じものとした。
【0155】
(2)MEA131の作製
固体電解質フィルム62の両面に、塗膜がフィルム62に接するように触媒シートAを張り合わせ、80℃、3MPa、2分間で熱圧着し、MEAを作製した。
【0156】
(3)燃料電池141の出力密度
(2)で得られたMEAを図3に示す燃料電池にセットし、アノード極側の開口部151に15重量%のメタノール水溶液を注入した。このとき、カソード極側の開口部152は大気と接するようにした。アノード電極132とカソード電極133とを、マルチチャンネルバッテリ評価システム(ソーラトロン社1470)で接続させて、出力密度(単位;W/cm)を測定した。
【実施例2】
【0157】
[ドープ製造]
1.原料準備
固体電解質としてスルホン化度が35%であるスルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンを用い、これを原料Bとした。まず、原料Bを以下の合成方法で製造した。
(1)4−(4−(4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシメチル)スチレンの合成
下記の配合の物質を100℃、7時間反応させた後、得られた反応液を室温まで冷却して、これに水を加え晶析させた。晶析液をろ過した後、得られたろ液を、水/アセトニトリル=1/1とした水溶液で洗浄、風乾して、4−(4−(4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシメチル)スチレンを得た。
・4−(4−ペンチルシクロヘキシル)フェノール 14重量部
・4−クロロメチルスチレン 9重量部
・炭酸カリウム 11重量部
・N,N−ジメチルホルムアミド 66重量部
【0158】
2.グラフト共重合物の合成
下記配合の混合物を60℃まで加熱した。
・ポリブタジエンラテックス 100重量部
・ロジン酸カリウム 0.83重量部
・デキストローズ 0.50重量部
・ピロリン酸ナトリウム 0.17重量部
・硫酸第1鉄 0.08重量部
・水 250重量部
【0159】
その後上記混合物に対して、下記配合の混合物を60分かけて滴下し、重合反応を実施した。
・アクリロニトリル 21重量部
・4−(4−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシメチル)スチレン 62重量部
・t−ドデシルチオール 0.5重量部
・クメンヒドロパーオキシド 3.0重量部
【0160】
滴下終了後、これにクメンヒドロパーオキシド0.2重量部を加え、その後1時間冷却しラテックスを得た。得られたラテックスを、60℃、1%の硫酸中に入れて、90℃まで昇温し凝固させた。これを十分に水洗した後に乾燥し、グラフト共重合体を得た。
【0161】
3.グラフト共重合物のスルホン化による原料Bの合成
上記2で得られたグラフト共重合体100重量部を、塩化メチレン1300重量部に溶解し、得られた溶液を0℃以下に保ちながら、これに濃硫酸13重量部をゆっくり加えた。そしてこれを6時間攪拌して沈殿を生じさせた。溶媒を除去した後に沈殿物を乾燥し、原料B、つまり固体電解質としてのスルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンを得た。滴定によるスルホン酸基の導入率は35%であった。
【0162】
乾燥装置55としてのパドルドライヤで原料Bを乾燥した。パドルドライヤでの乾燥条件は実施例1と同じであり、乾燥後の含水率は0.5重量%であった。この乾燥物を固体電解質として用いた。実施例1と同様に、溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミドを蒸留により精製して、水分含有率を0.2重量%にした。
【0163】
乾燥後の原料Bと溶媒とを下記の配合で混合して原料Bを溶媒に溶解し、23重量%の固体電解質ドープ24を製造した。このドープ24を以降の説明ではドープBと称する。
・原料B; 100重量部
・溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド 400重量部
【0164】
[固体電解質フィルム62の製造]
混合液16は加熱装置18において2MPa加圧下で120℃まで加熱され、固体分散液は完全に溶解した。送風ダクト91〜93からの風の温度を80〜120℃とした。テンタ64における乾燥風の温度を140℃とした。耳切装置67により側端部が除去されたフィルム62を、乾燥室62で140〜160℃の温度下で乾燥し、溶媒含有率が3%未満である固体電解質フィルム62を得た。得られたフィルム62についての評価結果は、表1に示す。
【実施例3】
【0165】
[ドープ製造]
(1)原料準備
固体電解質としてスルホン化度が35%であるスルホプロピル化ポリエーテルスルホンを用い、これを原料Cとした。まず、原料Cを特開2002−110174号公報に記されている合成方法に基づいて合成した。
【0166】
乾燥装置55としてのパドルドライヤで原料Cを乾燥した。パドルドライヤでの乾燥条件は実施例1と同じであり、乾燥後の含水率は0.5重量%であった。この乾燥物を固体電解質として用いた。実施例1と同様に、溶媒としてのN−メチルピロリドンを蒸留により精製して、水分含有率を0.2重量%にした。
【0167】
乾燥後の原料Cと溶媒とを下記の配合で混合して原料Cを溶媒に溶解し、20重量%の固体電解質ドープ24を製造した。このドープ24を以降の説明ではドープCと称する。
・原料C; 100重量部
・溶媒;N−メチルピロリドン 400重量部
原料Cと溶媒とを下記の配合で混合して原料Cを溶媒に溶解し、20重量%の固体電解質ドープ24を製造した。このドープ24を以降の説明ではドープCと称する。
【0168】
[固体電解質フィルム62の製造]
送風ダクト91〜93からの風の温度を80〜140℃とした。テンタ64における乾燥風の温度を160℃とした。耳切装置67により側端部が除去されたフィルム62を、乾燥室62で160〜180℃の温度下で乾燥し、溶媒含有率が3%未満である固体電解質フィルム62を得た。得られたフィルム62についての評価結果は、表1に示す。
【実施例4】
【0169】
固体電解質の乾燥と、溶媒の精製とを実施せず、ろ過装置27でのフィルタを1枚のみとした。その他の条件は実施例1と同じである。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【実施例5】
【0170】
固体電解質の乾燥と、溶媒の精製とを実施せず、ろ過装置27でのフィルタを1枚のみとした。その他の条件は実施例2と同じである。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【実施例6】
【0171】
固体電解質の乾燥と、溶媒の精製とを実施せず、ろ過装置27でのフィルタを1枚のみとした。その他の条件は実施例3と同じである。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【実施例7】
【0172】
化3に示す化合物を固体電解質として用いた。ただし、化3の化合物を得るためのプロトン化、つまり酸処理は、ドープ製造前ではなく、下記のようにフィルム製造工程にて実施した。化3の未プロトン化物、つまり固体電解質の前駆体を原料Dとする。また、この原料Dを溶媒に溶解して、流延に供するドープとした。このドープのつくり方は実施例1におけるドープ24のつくり方と同じである。溶媒は、溶媒成分1と溶媒成分2との混合物である。溶媒成分1は原料Dの良溶媒であり、溶媒成分2は原料Dの貧溶媒である。また、本実施例7では化3におけるXはNa、YはSO2 、Zは化4の(I)、nは0.33、mは0.67、数平均分子量Mnは61000、量平均分子量Mwは159000である。
・原料D; 100重量部
・溶媒成分1;ジメチルスルホキシド 256重量部
・溶媒成分2;メタノール 171重量部
【0173】
ドープを流延して流延バンド82から剥がしたものは原料Dよりなるので前駆体フィルムと称するものとする。実施例1と同様の条件を経て耳切装置67で両側端部が除去された前駆体フィルムは、酸処理によりプロトン化された後、洗浄工程に供された。酸処理とは、前駆体フィルムを酸の水溶液に接触させる工程であり、この酸処理により、前駆体の構造は化3の一般式に示す構造、つまり固体電解質となる。接触は、液槽に酸の水溶液を連続供給してこの水溶液に固体電解質よりなるフィルムを浸積させる方法によって行った。酸処理の後の洗浄は、水により実施した。洗浄工程を終えたフィルム62を乾燥室69に送った。得られたフィルム62についての評価結果については表1に示す。
【実施例8】
【0174】
化3に示す化合物であり、実施例7とは異なる化合物を固体電解質として用いた。ただし、化3の化合物を得るためのプロトン化は、実施例7と同様に、ドープ製造前ではなくフィルム製造工程にて実施した。ドープ成分として用いた前駆体を原料Eとする。溶媒は、下記に示すように、溶媒成分1と溶媒成分2との混合物である。溶媒成分1は原料Eの良溶媒であり、溶媒成分2は原料Eの貧溶媒である。また、本実施例8では、化3におけるXはNa、YはSO2 、Zは化4の(I)及び(II)、nは0.33、mは0.67、数平均分子量Mnは68000、量平均分子量Mwは200000である。なお、化4において(I)は0.7モル%、(II)は0.3モル%である。その他の条件は実施例7と同じである。
・原料E; 100重量部
・溶媒成分1;ジメチルスルホキシド 200重量部
・溶媒成分2;メタノール 135重量部
【0175】
【表1】

【0176】
以上の実施例の結果より、本発明によると、固体電解質を連続的にフィルム化するために好適なドープを製造することができるとともに、一定品質であってイオン伝導性と耐久性とに優れた固体電解質フィルムを連続的に製造することができることがわかる。そして、得られる固体電解質フィルムは、燃料電池の固体電解質層として好適に使用することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】ドープ製造設備の概略図である。
【図2】フィルム製造設備の概略図である。
【図3】電極膜複合体の断面図である。
【図4】燃料電池の断面図である。
【符号の説明】
【0178】
10 ドープ製造設備
24 ドープ
18 加熱装置
22,27 ろ過装置
26 フラッシュ装置
33 フィルム製造設備
55 乾燥装置
56 精製装置
62 固体電解質フィルム
69 乾燥室
131 電極膜複合体(MEA)
132 アノード電極
133 カソード電極
141 燃料電池
146 集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質を乾燥する乾燥工程と、
溶媒を精製する精製工程と、
前記乾燥工程を経た前記固体電解質と前記精製工程を経た前記溶媒とを混合して混合液とする混合工程と、
前記固体電解質を前記溶媒に溶解して前記混合液を溶液とする溶解工程と、
前記溶液をろ過することにより異物を除去して、溶液製膜に供される固体電解質ドープとするろ過工程と、
を有することを特徴とする固体電解質ドープの製造方法。
【請求項2】
前記溶液を濃縮して前記固体電解質の濃度を高くする濃縮工程を有することを特徴とする請求項1記載の固体電解質ドープの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程では、前記固体電解質を100℃以上に熱することにより乾燥することを特徴とする請求項1または2記載の固体電解質ドープの製造方法。
【請求項4】
前記精製工程は、前記溶媒に予め含まれている水分を前記溶媒から除去する水分除去工程を有することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の固体電解質ドープの製造方法。
【請求項5】
前記水分除去工程では前記溶媒の水分含有率を2重量%以下とすることを特徴とする請求項4記載の固体電解質ドープの製造方法。
【請求項6】
前記濃縮工程では、前記溶液の水分含有率を2重量%未満とすることを特徴とする請求項2ないし5いずれか1項記載の固体電解質ドープの製造方法。
【請求項7】
前記ろ過工程では、孔径20μm未満のろ過手段により前記溶液をろ過することを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の固体電解質ドープの製造方法。
【請求項8】
予め乾燥された固体電解質と予め精製された溶媒とを混合して混合液とする混合工程と、
前記混合液中の前記固体電解質を前記溶媒に溶解して溶液をつくる溶解工程と、
前記溶液をろ過することにより異物を除去して固体電解質ドープとするろ過工程と、
前記固体電解質ドープを走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、この流延膜をフィルムとして剥がす流延工程と、
前記フィルムを乾燥するフィルム乾燥工程と、
を有することを特徴とする固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記溶液を濃縮して前記固体電解質濃度を高くする濃縮工程を有することを特徴とする請求項8記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記固体電解質の乾燥は、100℃以上の加熱によりされたことを特徴とする請求項8または9記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記溶媒の前記精製により、前記溶媒における水分含有率を2重量%以下とすることを特徴とする請求項8ないし10いずれか1項記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記濃縮工程では、前記溶液における水分含有率が2重量%未満となるように濃縮することを特徴とする請求項9ないし11いずれか1項記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記固体電解質の貧溶媒である化合物を第1の前記溶媒、前記固体電解質の良溶媒である化合物を第2の前記溶媒とすることを特徴とする請求項8ないし12いずれかひとつ記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記第1及び第2の溶媒の重量の和に対する前記第1の溶媒の重量が10%以上100%未満であることを特徴とする請求項13記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記第2の溶媒はジメチルスルホキシドを含み、前記第1の溶媒は炭素数が1〜5のアルコールを含むことを特徴とする請求項13または14記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記固体電解質は、炭化水素系ポリマーであることを特徴とする請求項8ないし15いずれかひとつ記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記炭化水素系ポリマーは、スルホン酸基を有する芳香族系ポリマーであることを特徴とする請求項16記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項18】
前記芳香族系ポリマーは、化1の一般式(I)〜(III)で示される各構造単位からなる共重合体であることを特徴とする請求項17記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【化1】

(ただし、XはH、YはSO2 、Zは化2の(I)または(II)に示す構造であり、nとmとは0.1≦n/(m+n)≦0.5を満たす。)
【化2】

【請求項19】
請求項8ないし18いずれか1項記載の製造方法により製造されたことを特徴とする固体電解質フィルム。
【請求項20】
請求項19記載の固体電解質フィルムと、
前記固体電解質フィルムの一方の面に密着して備えられ、外部から供給される水素含有物質からプロトンを発生するためのアノード電極と、
前記固体電解質フィルムの他方の面に密着して備えられ、前記固体電解質フィルムを通過した前記プロトンと外部から供給される気体とから水を合成するカソード電極と、
を有することを特徴とする電極膜複合体。
【請求項21】
請求項20記載の電極膜複合体と、
前記電極膜複合体の電極に接触して備えられ、前記アノード電極及び前記カソード電極と外部との電子の受け渡しをする集電体と、
を有することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−42581(P2007−42581A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89804(P2006−89804)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】