説明

固体高分子型燃料電池用セパレータ及びその製造方法

【課題】軽量で且つ体積抵抗が低く、更には耐食性が高く、低コストで製造することができる固体高分子型燃料電池用セパレータを提供する。
【解決手段】ポリメチルペンテンの含有率が6〜11質量%で且つ黒鉛粉の含有率が89〜94質量%である導電性樹脂組成物からなる固体高分子型燃料電池用セパレータである。該セパレータは、ポリメチルペンテン及び黒鉛粉を混合して、ポリメチルペンテン含有率が6〜11質量%で且つ黒鉛粉含有率が89〜94質量%の導電性樹脂組成物を調製し、該導電性樹脂組成物を小型ペレット状又は小型チップ状に1次成形し、得られた1次成形体を溝形状を有する金型に充填し、温度200〜300℃且つ圧力30〜50MPaで1〜15分間2次成形することで製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用セパレータ及びその製造方法に関し、特に軽量で且つ体積抵抗が低く、耐食性が高く、低コストで製造することができる固体高分子型燃料電池用セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発電効率の優れた電池として、固体高分子型燃料電池が注目を集めている。該固体高分子型燃料電池は、アノード用セパレータに、アノード電極、触媒、固体高分子膜、触媒、カソード電極、カソード用セパレータを順次積層して構成されおり、水素又はメタノール等の燃料と酸素とを用いて発電が可能である。ここで、セパレータは、燃料と酸素とを別々にアノード極側とカソード極側に供給する流路として機能すると共に、燃料の酸化反応によって生じる電子を伝える通電体としての機能も有する。そのため、セパレータの導電性は、燃料電池の性能に大きく影響する。
【0003】
従来、上記アノード用セパレータ及びカソード用セパレータとしては、国際公開第01/085849号(下記特許文献1)に記載のような、熱硬化性樹脂をバインダーとした黒鉛製セパレータが主に用いられている。しかしながら、該熱硬化性樹脂を用いた黒鉛製セパレータにおいては、精密な機械加工が必要なため、製造コストが非常に高くならざるを得ないという問題がある。
【0004】
また、上記黒鉛製セパレータの他にも、金属製のセパレータが知られており、該金属製セパレータには、導電性に優れるという利点がある。しかしながら、固体高分子型燃料電池のセパレータは、使用環境がpH=1程度と非常に過酷で、濃硫酸中と同等の環境で使用されるため、通常の金属からなるセパレータでは、腐食し溶解してしまうため、耐食性の点で問題がある。また、燃料電池は複数のセルを積層して使用されることが多く、軽量化の要請が強いのに対し、金属製セパレータを使用すると燃料電池の重量増加が大きいため、金属製セパレータの使用は重量の点でも問題がある。
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/085849号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、軽量で且つ体積抵抗が低く、更には耐食性が高く、低コストで製造することができる固体高分子型燃料電池用セパレータを提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリメチルペンテン及び黒鉛粉を特定の割合で含む導電性樹脂組成物から製造した固体高分子型燃料電池用セパレータが、耐食性が高く、軽量で且つ体積抵抗が低く、更には低コストで製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータは、ポリメチルペンテンの含有率が6〜11質量%で且つ黒鉛粉の含有率が89〜94質量%である導電性樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの好適例においては、前記導電性樹脂組成物における黒鉛粉の体積含有率が70〜85%である。
【0010】
本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータにおいて、前記黒鉛粉は、平均粒径が25〜60μmであり、粒径分布が5〜500μmの範囲にあることが好ましい。
【0011】
本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの他の好適例においては、抵抗率が2×10-1Ωcm以下である。固体高分子型燃料電池用セパレータの抵抗率が2×10-1Ωcm以下であれば、実用上十分な性能を得ることができる。
【0012】
また、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法は、ポリメチルペンテン及び黒鉛粉を混合して、ポリメチルペンテン含有率が6〜11質量%で且つ黒鉛粉含有率が89〜94質量%の導電性樹脂組成物を調製し、該導電性樹脂組成物を小型ペレット状又は小型チップ状に1次成形し、得られた1次成形体を溝形状を有する金型に充填し、温度200〜300℃且つ圧力30〜50MPaで1〜15分間2次成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリメチルペンテン及び黒鉛粉を特定の割合で含み、金属製セパレータに比べ耐食性が高く且つ非常に軽量で、熱硬化性樹脂をバインダーとした黒鉛製セパレータに比べ非常に低コストで製造することができ、更には、体積抵抗が十分に低い固体高分子型燃料電池用セパレータを提供することができる。また、かかる固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータは、ポリメチルペンテンと黒鉛粉とを含み、ポリメチルペンテンの含有率が6〜11質量%で且つ黒鉛粉の含有率が89〜94質量%である導電性樹脂組成物からなることを特徴とする。セパレータに用いる導電性樹脂組成物中のポリメチルペンテン及び黒鉛粉の含有率を上記の範囲にすることで、セパレータの体積抵抗を十分に低減することができる。
【0015】
また、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータは、ポリメチルペンテン及び黒鉛粉を主成分とするため、金属製のセパレータよりも軽量で、且つ耐食性も高い。また、熱可塑性樹脂であるポリメチルペンテンを用いているため、リサイクルが可能である上、精密な機械加工が不要であり、熱硬化性樹脂をバインダーとした従来の黒鉛製セパレータに比べ非常に低コストで製造することができる。
【0016】
本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータにおいて、ポリメチルペンテンは、バインダーとして作用し、セパレータの機械強度を向上させる役割を果たす。ここで、セパレータに用いる導電性樹脂組成物中のポリメチルペンテンの含有率が6質量%未満では、セパレータの強度が不十分となり、一方、11質量%を超えると、セパレータの導電性が低下して、体積抵抗が大きくなる。なお、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータに用いるポリメチルペンテンは、耐熱性、耐溶剤性、剛性、寸法安定性に優れ、また、該ポリメチルペンテンとしては、特に限定されるものではなく、種々の融点及び分子量のものを利用することができる。
【0017】
また、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータに用いる導電性樹脂組成物中の黒鉛粉の含有率が89質量%未満では、セパレータの導電性が低下して、体積抵抗が大きくなり、一方、94質量%を超えると、セパレータの強度が不十分となる。なお、セパレータ中の黒鉛粉の体積含有率は、70〜85%の範囲が好ましい。黒鉛粉の体積含有率が70〜85%の範囲であれば、導電性樹脂組成物中の黒鉛粉の含有率を89〜94質量%の範囲にすることができ、また、図1に示すように、セパレータの抵抗率を十分に低減することができる。
【0018】
本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータに用いる黒鉛粉は、特に限定されるものではなく、従来、樹脂に導電性を付与するために用いられている黒鉛粉を用いることができる。なお、該黒鉛粉は、平均粒径が25〜60μmであることが好ましく、60μmであることが特に好ましく、また、粒径分布が5〜500μmの範囲にあることが好ましい。黒鉛粉の平均粒径が25μm以上であれば、セパレータが十分な導電率を確保することができ、60μm以下であれば、ポーラスになり難く、強度的に低くなり過ぎることがない。また、黒鉛粉の粒径分布が5〜500μmの範囲を外れると、黒鉛粉を高含有率で樹脂と混合することが難しくなる。
【0019】
本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータは、抵抗率が2×10-1Ωcm以下であることが好ましい。抵抗率が2×10-1Ωcm以下であれば、固体高分子型燃料電池の内部抵抗を十分に低減することができる。
【0020】
本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータは、例えば、(1)工程:ポリメチルペンテン及び黒鉛粉を混合して、ポリメチルペンテン含有率が6〜11質量%で且つ黒鉛粉含有率が89〜94質量%の導電性樹脂組成物を調製し、(2)工程:該導電性樹脂組成物を小型ペレット状又は小型チップ状に1次成形し、(3)工程:得られた1次成形体を溝形状を有する金型に充填し、温度200〜300℃且つ圧力30〜50MPaで1〜15分間2次成形することで製造することができる。
【0021】
上記(1)工程における導電性樹脂組成物の調製は、例えば、ポリメチルペンテン粉末と黒鉛末粉とを混合したり、ポリメチルペンテンを溶融し、該溶融したポリメチルペンテン中に黒鉛粉を加え混練することで実施することができる。
【0022】
また、上記(2)工程における1次成形は、上記導電性樹脂組成物を射出成形、プレス成形、押出成形等することで実施することができる。
【0023】
更に、上記(3)工程で溝形状を有する金型を用いることで、セパレータ表面に燃料及び酸素等を流すための流路を形成することができる。また、温度200〜300℃且つ圧力30〜50MPaで1〜15分間2次成形することで、十分な機械強度を有する固体高分子型燃料電池用セパレータを製造することができる。
【0024】
本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータは、アノード用セパレータ及びカソード用セパレータとして用いることができ、例えば、アノード用セパレータ、アノード電極、触媒、固体高分子電解質膜、触媒、カソード電極、カソード用セパレータの順に積層して固体高分子型燃料電池を作製することができる。また、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータは、通常、表面に燃料及び酸素等を流すための流路を形成して用いられ、セルを積層して使用する場合は、両面に流路を形成して用いられることが好ましい。該固体高分子型燃料電池は、セパレータの体積抵抗が低いため、電池特性に優れ、また、軽量である。
【0025】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
ポリメチルペンテン[三井化学製RT−18]11質量%と黒鉛粉[日本カーボン製GA−40]89質量%(体積含有率75%)を混合して導電性樹脂組成物を調製し、該導電性樹脂組成物を板状に1次成形した。次に、得られた1次成形体を溝形状を有する金型に充填し、温度250〜290℃、圧力30〜50MPaで、10〜20分間2次成形して、固体高分子型燃料電池用セパレータを作製した。次に、得られたセパレータの体積抵抗率を三菱化学製ロレスタ4端針式抵抗計で測定した。その結果、該セパレータは、体積抵抗率が1.9×10-1Ωcmであった。
【0027】
(実施例2〜3及び比較例1)
ポリメチルペンテン及び黒鉛粉の含有率を表1に示すように代える以外は、実施例1と同様にして固体高分子型燃料電池用セパレータを作製し、得られたセパレータの体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0028】
(比較例2)
ポリメチルペンテンに代えてポリフェニレンサルファイド[PPS:大日本インキ化学製FZ−2200]を用いる以外は、実施例1と同様にして固体高分子型燃料電池用セパレータを作製し、得られたセパレータの体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】固体高分子型燃料電池用セパレータに用いた導電性樹脂組成物中の黒鉛粉の体積含有率と抵抗率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメチルペンテンの含有率が6〜11質量%で且つ黒鉛粉の含有率が89〜94質量%である導電性樹脂組成物からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記導電性樹脂組成物における黒鉛粉の体積含有率が70〜85%であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
前記黒鉛粉は、平均粒径が25〜60μmであり、粒径分布が5〜500μmの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
抵抗率が2×10-1Ωcm以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
ポリメチルペンテン及び黒鉛粉を混合して、ポリメチルペンテン含有率が6〜11質量%で且つ黒鉛粉含有率が89〜94質量%の導電性樹脂組成物を調製し、該導電性樹脂組成物を小型ペレット状又は小型チップ状に1次成形し、得られた1次成形体を溝形状を有する金型に充填し、温度200〜300℃且つ圧力30〜50MPaで1〜15分間2次成形することを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−222014(P2006−222014A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35986(P2005−35986)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】