説明

土木建築資材およびその製造方法

【課題】 軽量でありながら、長手方向に高強度・高剛性な土木建築資材を提供するを提供する。
【解決手段】 スプル14に流入した溶融樹脂21は、矢印で示すように、スプル14の下端からランナ15に流入して扇状に広がった後、ランナ15の下流端からフィルムゲート16を経てキャビティ11に流入する。溶融樹脂21は、キャビティ11内を図中右方に向けて流れるが、その際に溶融樹脂21中のフィブリル(高分子鎖の束)22が溶融樹脂21の流れ方向に配向する。溶融樹脂21は、成型金型10内で冷却・固化することにより横矢板1となるが、フィブリル22の配向は完成品の横矢板1においても保持され、外周フランジ3や横リブ4が形成されていることも相俟って、横矢板1の長手方向における強度および剛性が著しく高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留め工事等に用いられる土木建築資材に係り、詳しくは、軽量かつ高強度・高剛性な土木建築資材を提供するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物等の施工に際して根掘りを行う場合、周囲の土砂の崩壊を土留め壁によって防ぐ必要がある。土留め壁は、鋼矢板工法や親杭横矢板工法、連続地中壁工法等により形成されるが、比較的小規模な根掘りにおいては、土中にU字鋼矢板や直線鋼矢板を連続的に打設して土留め壁を形成する鋼矢板工法(例えば、特許文献1参照)と、土中に所定間隔でH形鋼等の親杭を打設した後に隣接する親杭間に横矢板(一般的には、木矢板)を上方から挿入して土留め壁を形成する親杭横矢板工法(例えば、特許文献2参照)とが広く採用されている。
【0003】
しかしながら、鋼矢板工法に用いられる鋼矢板は、重量が大きく搬送や取り扱いが困難である他、錆びやすいという欠点を有していた。また、親杭横矢板工法に用いられる木矢板も、鋼矢板ほどではないがやはり重量が大きくなる他、水や土砂に触れることで腐りやすく、再利用が難しいという欠点を有していた。そこで、鋼矢板や木矢板に代わるものとして、熱可塑性樹脂を素材とし、内層部の発泡倍率を表層部の発泡倍率より大きくした発泡成形品の矢板(樹脂製発泡矢板)が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−192446号公報(段落0028、図5)
【特許文献2】特開平9−95938号公報(段落0009、図1)
【特許文献3】特開2000−218646号公報(段落0028、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献3の樹脂製発泡矢板は、鋼矢板や木矢板と比較すると軽量であり、耐久性等の点でも優れているが、いまだ重量が大きかった。樹脂製発泡矢板では、高密度(例えば、90%程度)の表層部によって剛性を確保するため、土圧に抗する強度や剛性を得るには表層部の間隔を大きくすべく十分な厚みが必要となる。したがって、内層部を低密度(例えば、10〜30%程度)にしても、総体としての重量はさほど小さくならず、搬送や取り扱いを容易にすべく更なる軽量化が求められていた。
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、軽量でありながら、長手方向に高強度・高剛性な土木建築資材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る土木建築資材は、配向性の高い結晶性樹脂を射出成形してなる長方形状の土木建築資材であって、長尺側と短尺側とを有する長方形状の本体に対し外周部を枠状に囲繞する外周フランジと、当該外周フランジの相対向する長尺側部分を互いに連結する横リブとを備え、前記結晶性樹脂の高分子鎖が前記長尺側に沿って配向されている。
【0006】
また、本発明に係る土木建築資材の製造方法は、配向性の高い結晶性樹脂を射出成形して長方形状の土木建築資材を製造する製造方法であって、長尺側と短尺側とを有する長方形状のキャビティを備えた成形金型を用い、溶融した前記結晶性樹脂を前記キャビティの前記短尺側から前記キャビティの前記長尺側に沿って充填させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、結晶性樹脂中の高分子鎖が長手方向に配向するため、肉厚が小さく軽量でありながら、長尺方向に高い強度や剛性を有する土木建築資材が得られる。また、外周フランジと横リブとを有するため、短尺方向にも十分な強度や剛性を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照し、親杭横矢板工法に用いられる横矢板の製造に本発明を適用した実施形態を詳細に説明する。
図1は実施形態に係る横矢板の斜視図である。図2は実施形態の横矢板を製造するための成形金型の概略構成を示す縦断面図であり、図3は図2中のA−A断面図であり、図4は実施形態に係る横矢板の製造工程を示す図であり、図5は実施形態に係る横矢板の正面図であり、図6は実施形態に係る横矢板の使用形態を示す斜視図である。
なお、横矢板の説明にあたっては、外周フランジやリブの形成された側の面を裏面と記し、裏面と反対側の面を表面と記す。
【0009】
図1に示すように、横矢板1は、長方形を呈する矢板本体2と、矢板本体2の裏面側の辺縁に全周にわたって立設された外周フランジ3と、外周フランジ3の内側に形成されて外周フランジ3の相対向する長尺側部分を連結する横リブ4と、外周フランジ3の内側に形成されて外周フランジ3の相対向する短尺側部分を連結する縦リブ5とからなっている。横矢板1は、矢板本体2、外周フランジ3および両リブ4,5の肉厚がそれぞれ薄く(例えば、2〜5mm程度)形成されているため、その重量が非常に小さくなっている。
【0010】
本実施形態の横矢板1は、結晶性樹脂である液晶ポリマを素材としており、射出成形法を用いて製造される。図2〜図4に示すように、横矢板1を成形するための成型金型10は、キャビティ型12とコア型13とからなっており、横矢板1と同一形状のキャビティ11がキャビティ型12とコア型13との間に形成されている。キャビティ型12には、図示しない射出成型機のノズルに接続するスプル14と、スプル14に接続してキャビティ11の幅に広がった扇状のランナ15と、ランナ15とキャビティ11との間に形成されたフィルムゲート16とを有している。コア型13には、横矢板1に外周フランジ3を形成するためのフランジ形成部17と、横矢板1に横リブ4を形成するための横リブ形成部18と、横矢板1に縦リブ5を形成するための縦リブ形成部19とが設けられている。
【0011】
成型金型10が図示しない射出成型機にセットされ、横矢板の製造が開始されると、射出成型機の射出ノズルから溶融樹脂(液晶ポリマ)が射出され、この溶融樹脂がスプル14に流入する。スプル14に流入した溶融樹脂21は、図5中に矢印で示すように、スプル14の下端からランナ15に流入して扇状に広がった後、ランナ15の下流端からフィルムゲート16を経てキャビティ11に流入する。溶融樹脂21は、キャビティ11内を図5中右方に向けて流れるが、その際に溶融樹脂21中のフィブリル(高分子鎖の束)22が溶融樹脂21の流れ方向に配向する。溶融樹脂21は、成型金型10内で冷却・固化することにより横矢板1となるが、図5に示すように、フィブリル22の配向は完成品の横矢板1においても保持され、外周フランジ3や横リブ4が形成されていることも相俟って、横矢板1の長手方向における強度および剛性が著しく高くなる。
【0012】
横矢板1は、親杭横矢板工法の資材として、土木あるいは建設現場におけるコンクリート打設や土砂止め等に用いられる。横矢板1は、図6に示すように、土中に所定の間隔で打設された複数本の親杭(H型鋼等)41間に横向きに挿入され、背面土42による大きな土圧を受ける。しかしながら、本実施形態の横矢板1は、上述したように長手方向の強度および剛性が著しく高いため、土圧による変形(反り)がごく小さく抑えられる。なお、横矢板1はその両端が親杭41に拘束されているため、土圧による幅方向の反りは殆ど問題とならない。
【0013】
本実施形態では、以上述べたような構成を採ったことにより、錆びや腐りが発生せず繰り返しての使用が可能であり、十分な強度および剛性を有しながら非常に軽量で搬送や取り扱いが容易な横矢板1を得ることができた。なお、本実施形態では、横矢板1の素材素材として光ファイバのフェルール等の製造工程で発生する液晶ポリマの廃材(ランナ屑等)を用いるため、素材コストを低く抑えて安価に製造できるだけでなく、廃材を処理するための廃棄処理設備も不要となり環境保全にも役立つ。
【0014】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は、本発明を横矢板に適用したものであるが、前述した鋼矢板工法に用いる矢板等、他種の土木建築資材に本発明を適用するようにしてもよい。また、上記実施形態では、土木建築資材の素材として液晶ポリマを採用したが、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等、他の結晶性樹脂を採用してもよく、その場合にも同様の効果が得られる。また、強度や剛性を更に高めるべく、結晶性樹脂にグラスファイバ等の強化繊維を充填したものを素材としてもよいし、図7に示すように斜めリブ6を追加するようにしてもよい。その他、成型金型の構成や成型方法等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る横矢板の斜視図である。
【図2】実施形態の横矢板を製造するための成形金型の概略構成を示す縦断面図である。
【図3】図2中のA−A断面図である。
【図4】実施形態に係る横矢板の製造工程を示す図である。
【図5】実施形態に係る横矢板の正面図である。
【図6】実施形態に係る横矢板の使用形態を示す斜視図である。
【図7】実施形態の一部変形例に係る横矢板の斜視図である。
【符号の説明】
【0016】
1 横矢板(土木建築資材)
2 矢板本体
3 外周フランジ
4 横リブ
5 縦リブ
6 斜めリブ
10 成型金型
11 キャビティ
12 キャビティ型
13 コア型
14 スプル
15 ランナ
16 フィルムゲート
17 フランジ形成部
18 横リブ形成部
19 縦リブ形成部
21 溶融樹脂
22 フィブリル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向性の高い結晶性樹脂を射出成形してなる長方形状の土木建築資材であって、長尺側と短尺側とを有する長方形状の本体に対し外周部を枠状に囲繞する外周フランジと、当該外周フランジの相対向する長尺側部分を互いに連結する横リブとを備え、前記結晶性樹脂の高分子鎖が前記長尺側に沿って配向されていることを特徴とする土木建築資材。
【請求項2】
配向性の高い結晶性樹脂を射出成形して長方形状の土木建築資材を製造する製造方法であって、長尺側と短尺側とを有する長方形状のキャビティを備えた成形金型を用い、溶融した前記結晶性樹脂を前記キャビティの前記短尺側から前記キャビティの前記長尺側に沿って充填させることを特徴とする土木建築資材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−192767(P2006−192767A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7605(P2005−7605)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(501251219)株式会社アクトワン (23)
【Fターム(参考)】