説明

土木用遮水シート

【課題】 加工性、機械強度、耐熱性、柔軟性、施工性および熱融着性に優れた土木用遮水シートを提供する。
【解決手段】 下記(A)〜(D)の要件を満たすポリエチレン系樹脂を用い、成形する。(A)密度が890kg/m以上980kg/m以下、(B)炭素数6以上の長鎖分岐数が1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下、(C)190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(1) MS190>22×MFR−0.88 (1)を満たすと共に、160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(2)を満たし、 MS160>110−110×log(MFR) (2)(D)示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つである

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリエチレン系樹脂からなる土木用遮水シートに関する。さらに詳しくは、加工性、機械強度、耐熱性、柔軟性、施工性および熱融着性に優れる土木用遮水シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物処分場、産業廃棄物処分場、トンネル、治水工事、河岸工事、貯水池における遮水を目的に用いられている土木用遮水シート用の材料としては、エチレンプロピレンゴム、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、高密度ポリエチレンなどが用いられている。土木用遮水シートには、長期間の風雨や日光の暴露に耐え得る耐候性、酸・アルカリなどに耐え得る耐薬品性、環境温度変化に耐え得る耐熱性・耐寒性、大きな機械強度、現場におけるシート端部の接合時のシール性、施工する地面形状に追随する柔軟性などの性質が要求される。しかし、従来の土木用遮水シートは、上記の必要条件を十分に具備しているとは言えなかった。例えば、ポリ塩化ビニルは、長期間の日光暴露により可塑剤が揮散して柔軟性を失い、耐候性が低下するとともに、加熱シールした界面に可塑剤がブルーミングすることにより、経時でシール強度が低下する。エチレンプロピレンゴムは、接着剤による接合のためシール性に劣り、シール部よりの漏水事故が多い。ポリオレフィン系樹脂は、耐候性、耐薬品性、シール性に優れるなどの利点を有している。しかし、エチレン−酢酸ビニル共重合体は、耐寒性、柔軟性、耐候性に優れるものの機械強度に劣る。高密度ポリエチレンは、耐熱性に優れ、高い強度を有するものの柔軟性がなく、地面形状の追随性に劣るという問題点を有している。また、近年、特定のエチレン−α−オレフィン共重合体を土木用遮水シートに用いる例が見られる(例えば、特許文献1,2参照)。この特定のエチレン−α−オレフィン共重合体を用いたシートは、柔軟性を有し、強度は高いが、共重合体の分子量分布が狭いため、シートの加工性に劣るという問題を有している。
【0003】
【特許文献1】特開平8−253632号公報
【特許文献2】特開平9−216974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の土木用遮水シートの欠点を改良した、すなわち、加工性、機械強度、耐熱性、柔軟性、施工性および熱融着性に優れたポリエチレン系樹脂よりなる土木用遮水シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の目的に対して鋭意検討した結果、見出されたものである。すなわち、本発明は、下記(A)〜(D)の要件を満たすポリエチレン系樹脂からなることを特徴とする土木用遮水シートに関するものである。
(A)密度が890kg/m以上980kg/m以下、
(B)炭素数6以上の長鎖分岐数が1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下、
(C)190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(1)
MS190>22×MFR−0.88 (1)
を満たすと共に、160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(2)を満たし、
MS160>110−110×log(MFR) (2)
(D)示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つである
以下、本発明について詳細に説明する。
【0006】
本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂の密度は、JIS K6922−1(1997)に準拠して密度勾配管法で測定した値として、890kg/m以上980kg/m以下である。890kg/m未満では、剛性が不足し、シート物性として必要な引裂強度が劣り、980kg/mを超えると耐ストレスクラッキング性が低下する恐れがある。
【0007】
本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂の直鎖状ポリエチレン換算の重量平均分子量(M)は、10,000以上1,000,000以下であり、好ましくは20,000以上700,000以下であり、さらに好ましくは25,000以上300,000以下である。Mが10,000未満の場合は溶融張力が小さくなりすぎてドローダウンが激しくなり、シート成形ができない。また1,000,000を越えると溶融粘度が高すぎて押出負荷が大きいばかりでなく、土木用遮水シートの外観(表面肌)を損なう恐れがある。
【0008】
本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂の190℃、2.16kg荷重におけるMFRは、0.005〜10g/10分、好ましくは0.05〜5g/10分である。0.005g/10分未満の場合は溶融粘度が高すぎて押出負荷が大きいばかりでなく、土木用遮水シートの外観(表面肌)を損なう恐れがある。10g/10分を超えると溶融張力が小さくなりすぎてドローダウンが激しく成形できないばかりか、引張強さが高密度タイプの規格(410N/cm:日本遮水工協会)または低密度タイプ(300N/cm:日本遮水工協会)の規格を満足しない恐れがある。
【0009】
本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂の長鎖分岐数は、1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下である。0.01個未満ではシート成形を行うことが著しく困難になるため、土木用遮水シートを得られない恐れがある。また、3個を超えるとエチレン系樹脂層が強度に劣る遮水シートとなる恐れがある。なお、長鎖分岐数とは、13C−NMR測定で検出されるヘキシル基以上(炭素数6以上)の分岐の数である。
【0010】
本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂の190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)は、下記式(1)
MS190>22×MFR−0.88 (1)
で示される関係にあり、好ましくは下記式(1’)
MS190>30×MFR−0.88 (1’)
で示される関係にあり、さらに好ましくは下記式(1”)
MS190>5+30×MFR−0.88 (1”)
で示される関係にある。(1)式を満たさない場合、溶融張力が低くなり、シート成形を行うことが著しく困難になるため、土木用遮水シートを得られない恐れがある。
【0011】
また、本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂の160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)は、下記式(2)
MS160>110−110×log(MFR) (2)
で示される関係にあり、好ましくは下記式(2’)
MS160>130−110×log(MFR) (2’)
で示される関係にあり、さらに好ましくは下記式(2”)
MS160>150−110×log(MFR) (2”)
で示される関係にある。(2)式を満たさない場合、シート成形を行うことが著しく困難になるため、土木用遮水シートを得られない恐れがある。
【0012】
本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂は、示差走査型熱量計(DSC)による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つであることを特徴とし、これによって得られる土木用遮水シートは弾性率の温度依存性が小さく、かつ、耐熱性に優れる。吸熱曲線は、アルミニウム製のパンに5〜10mgのサンプルを挿填し、DSCにて昇温することによって得られる。なお、昇温測定は、予め230℃で3分間放置した後、10℃/分で−10℃まで降温し、その後、10℃/分の昇温速度で150℃まで昇温することにより行われる。
【0013】
本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)/固有粘度計によって評価した収縮因子(g’値)が0.1以上0.9未満、さらには0.1以上0.7以下であることが好ましく、これによってポリエチレン系樹脂をシート成形する際のドローダウンが小さくなるため、土木用遮水シートの成形が可能となる。本発明における収縮因子(g’値)とは、長鎖分岐の程度を表すパラメータであり、重量平均分子量(M)の3倍の絶対分子量における本ポリエチレン系樹脂の固有粘度と、分岐が全くない高密度ポリエチレン(以下にHDPEと略す)の同じ分子量における固有粘度との比である。また、このg’値とGPC/光散乱計によって評価した収縮因子(g値)との間には、好ましくは式(3)、さらに好ましくは式(3’)で示される関係があり、これによって土木用遮水シートの歩留まりはさらに低減する。なお、g値はMの3倍の絶対分子量における本ポリエチレン系樹脂の慣性半径の二乗平均と、分岐が全くないHDPEの同じ分子量における慣性半径の二乗平均との比である。
【0014】
0.2<log(g’)/log(g)<1.3 (3)
0.5<log(g’)/log(g)<1.0 (3’)
さらに、Mの3倍の絶対分子量におけるg値(g3M)とMの1倍の絶対分子量におけるg値(g)の間には、式(4)、好ましくは式(4’)、さらに好ましくは式(4”)で示される関係があることが、ドローダウンを小さくするために望ましい。
【0015】
0<g3M/g≦1 (4)
0<g3M/g≦0.9 (4’)
0<g3M/g≦0.8 (4”)
本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂は、エチレンを重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン重合体、またはエチレンと炭素数3以上のオレフィンを共重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン共重合体であり、
(E)Mが2,000以上であり、
(F)M/Mが2以上5以下である
マクロモノマーの存在下に、エチレンおよび任意に炭素数3以上のオレフィンを重合することによって得られたものであることが望ましい。マクロモノマーとは、末端にビニル基を有するオレフィン重合体であり、好ましくはエチレンを重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン重合体、またはエチレンと炭素数3以上のオレフィンを共重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン共重合体であり、さらに好ましくは炭素数3以上のオレフィンに由来する分岐以外の分岐のうち、長鎖分岐(すなわち、13C−NMR測定で検出されるヘキシル基以上の分岐)が、主鎖メチレン炭素1,000個当たり0.01個未満である、末端にビニル基を有する直鎖状エチレン重合体または直鎖状エチレン共重合体である。
【0016】
炭素数3以上のオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテンもしくはビニルシクロアルカン等のα−オレフィン、ノルボルネンもしくはノルボルナジエン等の環状オレフィン、ブタジエンもしくは1,4−ヘキサジエン等のジエンまたはスチレンを例示することができる。また、これらのオレフィンを2種類以上混合して用いることもできる。
【0017】
マクロモノマーとして、末端にビニル基を有するエチレン重合体または末端にビニル基を有するエチレン共重合体を用いる場合、その直鎖状ポリエチレン換算の数平均分子量(M)は、2,000以上であり、好ましくは5,000以上であり、さらに好ましくは10,000以上である。直鎖状ポリエチレン換算の重量平均分子量(M)は、4,000以上であり、好ましくは10,000以上であり、さらに好ましくは15,000より大きい。また、重量平均分子量(M)とMの比(M/M)は、2以上5以下であり、好ましくは2以上4以下であり、さらに好ましくは2以上3.5以下である。M/Mが5を超えると引張強さが高密度タイプの規格(410N/cm:日本遮水工協会)または低密度タイプの規格(300N/cm:日本遮水工協会)を満足しない恐れがある。下記一般式(5)
Z=[X/(X+Y)]×2 (5)
(ここで、Xはマクロモノマーの主鎖メチレン炭素1,000個当たりのビニル末端数であり、Yはマクロモノマーの主鎖メチレン炭素1,000個当たりの飽和末端数である。)
で表されるビニル末端数と飽和末端数の比(Z)は0.25以上1以下であり、好ましくは0.50以上1以下である。XおよびYは、H−NMR、13C−NMRまたはFT−IR等で求められる。例えば、13C−NMRにおいて、ビニル末端は114ppm、139ppm、飽和末端は32.3ppm、22.9ppm、14.1ppmのピークにより、その存在および量が確認できる。
【0018】
本発明におけるマクロモノマーの製造方法に関して特に限定はないが、マクロモノマーとして末端にビニル基を有するエチレン重合体または末端にビニル基を有するエチレン共重合体を製造する場合は、例えば周期表第3族、第4族、第5族および第6族から選ばれる遷移金属を含有するメタロセン化合物を主成分として含む触媒を用いてエチレンを重合する方法を用いることができる。助触媒としては、有機アルミニウム化合物、プロトン酸塩、ルイス酸塩、金属塩、ルイス酸および粘土鉱物等が挙げられる。
【0019】
本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂は、例えば周期表第3族、第4族、第5族および第6族から選ばれる遷移金属を含有するメタロセン化合物を主成分として含む触媒を用いて、マクロモノマーの存在下に、エチレンおよび任意に炭素数3以上のオレフィンを重合することによって得られる。また、マクロモノマーの製造と同様に、助触媒を用いることができる。
【0020】
重合温度は、−70〜300℃、好ましくは0〜250℃、さらに好ましくは20〜150℃の範囲である。エチレン分圧は、0.001〜300MPa、好ましくは0.005〜50MPa、さらに好ましくは0.01〜10MPaの範囲である。また、重合系内に分子量調節剤として水素を存在させても良い。
【0021】
本発明において、マクロモノマーの存在下に、エチレンと炭素数3以上のオレフィンを重合する場合、エチレン/炭素数3以上のオレフィン(モル比)は、1〜200、好ましくは3〜100、さらに好ましくは5〜50の供給割合を用いることができる。
【0022】
また、本発明の土木用遮水シートは単層または多層とすることができる。多層の場合、層の構成は特に限定されないが、2種3層で使用する場合は中間層に本ポリエチレン系樹脂を使用するのが効果的である。
【0023】
本発明の中密度タイプ(密度が930kg/m以上940kg/m以下)や低密度タイプ(密度が900kg/m以上930kg/m以下)の土木用遮水シートは、本発明に使用するポリエチレン系樹脂(イ)が10〜90重量%、メタロセン触媒を使用して製造されたエチレン−α−オレフィン共重合体(ロ)が90〜10重量%である樹脂組成物を成形して得ることも可能であり、ポリエチレン系樹脂(イ)が20〜80重量%、エチレン−α−オレフィン共重合体(ロ)が80〜20重量%であることが好ましい。
【0024】
ポリエチレン系樹脂(イ)が10重量%未満では、溶融張力が低く加工性に劣り、90重量%を超えると、柔軟性と施工性が劣ってくる恐れがある。
【0025】
本発明の中密度タイプや低密度タイプの土木用遮水シートに用いられる、メタロセン触媒を使用して製造されたエチレン−α−オレフィン共重合体(ロ)は、エチレンと炭素数が3〜20のα−オレフィンからなるエチレン−α−オレフィン共重合体である。当該触媒で製造されたエチレン−α−オレフィン共重合体は、従来のチーグラー系触媒やフィリップス触媒で製造されたものに比べて組成分布および分子量分布が狭く、それゆえに機械的特性に優れている。
【0026】
本発明の土木用遮水シートに用いられる樹脂組成物の密度は、900kg/m以上940kg/m以下であり、900kg/m以上930kg/m以下であることが好ましく、さらに好ましくは、905kg/m以上920kg/m以下である。密度が900kg/m未満の樹脂組成物からなる土木用遮水シートは、シート物性として必要な引裂強さが劣り、940kg/mを超えた組成物からなる土木用遮水シートは、柔軟性が不十分で施工性に劣る恐れがある。本発明の土木用遮水シートに用いる樹脂組成物の製造は、特に限定されるものではないが、ポリエチレン系樹脂(イ)とエチレン−α−オレフィン共重合体(ロ)を配合することにより製造できる。具体的には、単軸または二軸押出機、ブラベンダーミキサー、バンバリーミキサーなどを用いて溶融混練することで、樹脂組成物が得られる。
【0027】
本発明の土木用遮水シートの製造方法は、特に限定されるものではない。通常のTダイ成形によってシート化されるのが一般的であるが、カレンダー成形、プレス成形、インフレーション成形によってもシート化は可能である。また、本発明の配合比に従い、ポリエチレン系樹脂(イ)とエチレン−α−オレフィン共重合体(ロ)をドライブレンドしたものを、直接、Tダイ付きの押出機などで成形することも可能である。例えば、本発明に使用するポリエチレン系樹脂を180〜210℃に設定した115mmφの押出スクリューを有するシート成形機(東芝機械社製)に投入し、スクリュー回転数700rpmでシートを押出し、25℃に設定されたチルロールで挟み込み、引取回転数200rpmで引き取ることによって、厚み1.5mmのシートが得られる。
【0028】
本発明の土木用遮水シートを構成するポリエチレン系樹脂およびその樹脂組成物には、必要に応じて酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、滑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、有機・無機顔料等、通常ポリオレフィンに使用される添加剤を添加しても構わない。特にカーボンブラックの添加は、耐候性を上げるため、土木用遮水シートには一般的に用いられており、その添加量は、本発明に使用する樹脂組成物100重量部に対して、0.5〜5.0重量部、好ましくは2.0〜3.0重量部である。樹脂中に上記の添加剤を混合する方法は特に制限されるものではないが、例えば、重合後のペレット造粒工程で直接添加する方法、また、予め高濃度のマスターバッチを作製し、これを成形時にドライブレンドする方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によって得られる土木用遮水シートは、加工性、機械強度、耐熱性、柔軟性、施工性および熱融着性に優れ、一般廃棄物処理場、産業廃棄物処理場、トンネル、治水工事、河岸工事、貯水池などの遮水を目的に用いられる遮水シートとして好適に利用できる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
変性ヘクトライトの調製、マクロモノマー製造用触媒の調製、マクロモノマーの製造、ポリエチレンの製造および溶媒精製は、全て不活性ガス雰囲気下で行った。変性ヘクトライトの調製、マクロモノマー製造用触媒の調製、マクロモノマーの製造、ポリエチレンの製造に用いた溶媒等は、全て予め公知の方法で精製、乾燥、脱酸素を行ったものを用いた。ジフェニルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリドは公知の方法により合成、同定したものを用いた。トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)は東ソー・ファインケム(株)製を用いた。
【0032】
さらに、実施例および比較例におけるポリエチレン系樹脂の諸物性は、以下に示す方法により測定した。
【0033】
〜分子量および分子量分布〜
重量平均分子量(M)および数平均分子量(M)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としては東ソー(株)製 HLC−8121GPC/HTを用い、カラムとしては東ソー(株)製 TSKgel GMHhr−H(20)HTを用い、カラム温度を140℃に設定し、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLの濃度で調製し、0.3mL注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正されている。なお、MおよびMは直鎖状ポリエチレン換算の値として求めた。
【0034】
〜収縮因子(g’値)〜
収縮因子(g’値)は、GPCによって分別したポリエチレン系樹脂の[η]を測定する手法で求めたMの3倍の絶対分子量における[η]を、分岐が全くないHDPEの同一分子量における[η]で除した値である。GPC装置としては東ソー(株)製 HLC−8121GPC/HTを用い、カラムとしては東ソー(株)製 TSKgel GMHhr−H(20)HTを用い、カラム温度を145℃に設定し、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は2.0mg/mLの濃度で調製し、0.3mL注入して測定した。粘度計は、Viscotek社製 キャピラリー差圧粘度計210R+を用いた。
【0035】
〜収縮因子(g値)〜
収縮因子(g値)は、GPCによって分別したポリエチレン系樹脂を、光散乱によって慣性半径を測定する手法で求めた。本発明の樹脂キャップに用いるポリエチレン系樹脂のMの3倍の絶対分子量における慣性半径の二乗平均を、分岐が全くないHDPEの同一分子量における慣性半径の二乗平均で除した値である。光散乱検出器としては、Wyatt Technology社製 多角度光散乱検出器DAWV EOSを用い、690nmの波長で、29.5°、33.3°、39.0°、44.8°、50.7°、57.5°、64.4°、72.3°、81.1°、90.0°、98.9°、107.7°、116.6°、125.4°、133.2°、140.0°、145.8°の検出角度で測定した。
【0036】
〜Z値〜
ビニル末端、飽和末端などのマクロモノマーの末端構造は、日本電子(株)製 JNM−ECA400型核磁気共鳴装置を用いて、13C−NMRによって測定した。溶媒はテトラクロロエタン−dである。ビニル末端数は、主鎖メチレン炭素(化学シフト:30ppm)1,000個当たりの個数として114ppm、139ppmのピークの平均値から求めた。また、飽和末端数は、同様に32.3ppm、22.9ppm、14.1ppmのピークの平均値から求めた。このビニル末端数(X)と飽和末端数(Y)から、Z=[X/(X+Y)]×2を求めた。
【0037】
〜密度〜
密度は、JIS K6922−1(1997)に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0038】
〜MFR〜
MFRは、JIS K6922−1(1997)に準拠して190℃、2.16kg荷重で測定した。
【0039】
〜長鎖分岐数〜
ポリエチレン系樹脂の長鎖分岐数は、日本電子(株)製 JNM−GSX270型核磁気共鳴装置を用いて、13C−NMRによって測定した。
【0040】
〜溶融張力(MS)〜
溶融張力(MS)の測定に用いたポリエチレン系樹脂は、予め耐熱安定剤としてイルガノックス1010TM(チバスペシャリティケミカルズ社製)1,500ppm、イルガフォス168TM(チバスペシャリティケミカルズ社製)1,500ppmを添加し、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、商品名:ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで3分間混練したものを用いた。溶融張力(MS)は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、商品名:キャピログラフ)に、長さ(L)が8mm、直径(D)が2.095mm、流入角が90°のダイを装着し測定した。MSは、温度を160℃または190℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、延伸比を47に設定し、引き取りに必要な荷重(mN)をMSとした。
【0041】
〜吸熱ピークの数〜
DSC(パーキンエルマー社製、商品名:DSC−7)を用いて測定を行なった。5〜10mgのポリエチレン系樹脂をアルミニウムパンに挿填し、DSCに設置した後、80℃/分の昇温速度で230℃まで昇温し、230℃で3分間放置する。その後、10℃/分の降温速度で−10℃まで冷却し、再度10℃/分の昇温速度で−10℃から150℃まで昇温する手順で昇温/降温操作を行い、2回目の昇温時に観測される吸熱曲線のピーク数を評価した。
【0042】
〜シート成形加工性評価〜
50mm径の押出機を有する田辺プラスチック機械(株)製のTダイ単層シート成形機(Tダイ幅300mm)を用い、ダイス温度180℃、リップ開度1.65mm、回転数35rpm、冷却ロール温度30℃の条件下で、厚み1.5mmのシートを作製した。この時の成形が可能なものに○、成形できないものを×とした。
【0043】
〜引張強さ〜
上記の成形で得られたシートをJIS K7113−1995の2号試験片で打抜き、密度が940kg/m以上の場合は試験速度を50mm/分、密度が940kg/m未満の場合は引張速度を200mm/分にて測定を実施した。
【0044】
〜引裂強さ〜
上記の成形で得られたシートをJIS K6251−1993に準拠し、試験片として切込み無しアングル形を用い、試験速度200mm/分にて測定を実施した。
【0045】
〜曲げ弾性率〜
JIS K6922−2−1997に準拠して、測定を実施した。
【0046】
実施例1
[変性ヘクトライトの調製]
水60mLにエタノール60mLと37%濃塩酸2.0mLを加えた後、得られた溶液にN,N−ジメチルオクタデシルアミン 6.55g(0.022mol)を添加し、60℃に加熱することによって、N,N−ジメチルオクタデシルアミン塩酸塩溶液を調製した。この溶液にヘクトライト20gを加えた。この懸濁液を60℃で3時間撹拌し、上澄液を除去した後、60℃の水1Lで洗浄した。その後、60℃、10−3torrで24時間乾燥し、ジェットミルで粉砕することによって、平均粒径5.2μmの変性ヘクトライトを得た。元素分析の結果、変性ヘクトライト1g当たりのイオン量は0.85mmolであった。
【0047】
[マクロモノマー製造用触媒の調製]
上記変性ヘクトライト8.0gをヘキサン29mLに懸濁させ、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)46mLを添加し、室温で1時間攪拌することにより、変性ヘクトライトとトリイソブチルアルミニウムの接触生成物を得た。一方、ジフェニルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド151mg(320μmol)をトルエンに溶解させたものを添加し、室温で一晩攪拌することにより、触媒スラリー(100g/L)を得た。
【0048】
[マクロモノマーの製造]
10Lオートクレーブに、ヘキサン6,000mLとトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/L)5.0mLを導入し、オートクレーブの内温を85℃に昇温した。このオートクレーブに、上記触媒スラリー0.88mLを添加し、エチレンを分圧が1.2MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が1.2MPaに保たれるようにエチレンを連続的に導入した。また、重合温度を85℃に制御した。重合開始90分後に、内温を50℃まで降温してオートクレーブの内圧を0.1MPaまで脱圧した後、オートクレーブに窒素を0.6MPaになるまで導入して脱圧、窒素置換した。この操作を5回繰り返した。オートクレーブから抜き出したこのマクロモノマーのM=14,400、M/M=3.02であり、13C−NMRによりマクロモノマーの末端構造を解析したところ、ビニル末端数と飽和末端数の比(Z)はZ=0.65であった。また、13C−NMRにおいてメチル分岐が1,000炭素原子当たり0.41個、エチル分岐が1,000炭素原子当たり0.96個検出された。さらに、13C−NMRにおいて長鎖分岐は検出されなかった。
【0049】
[ポリエチレンの製造]
上記で製造したマクロモノマーが含まれる10Lオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/L)1.4mLとジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド 7μmolを導入し、オートクレーブの内温を60℃に昇温後、30分間攪拌した。続いてオートクレーブの内温を90℃に昇温後、エチレン/水素混合ガス(水素1,000ppm)を分圧が0.3MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.3MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を90℃に制御した。重合開始230分後に、オートクレーブの内圧を脱圧した後、内容物を吸引ろ過した。乾燥後、1,008gのポリマーが得られた。得られたポリエチレン(以下「A−1」と略す)のMFRは0.3g/10分、密度は955kg/m、Mは13.1×10、M/Mは5.7、長鎖分岐数は0.03個/1,000炭素であった。その他の物性を表1〜3に示す。
【0050】
得られたポリエチレンを用い、シート成形加工性評価を実施し、そのシートの引張強さ、引裂強さ、曲げ弾性率の測定を実施した。その結果を表4に示す。
【0051】
比較例1
MFRが0.36g/10分、密度が956kg/m、M/Mが15.0、長鎖分岐数が0.01個/1,000炭素の高密度ポリエチレン(三井化学(株)製 ハイゼックス 6200B、以下「A−2」と略す)を用い、実施例1と同じ方法でシートを得た。試験結果を表4に示す。この場合は、引張強さが規格の410N/cmを満足していない。
【0052】
実施例2
実施例1で得られたポリエチレン(A−1)50重量%、MFRが2.0g/10分、密度が913kg/mであるエチレン−1−ヘキセン共重合体(三井化学(株)製 エボリュー SP1520、以下「B−1」と略す)50重量%について、実施例1と同じ方法で樹脂組成物のシートを得た。試験結果を表4に示す。
【0053】
比較例2
MFRが0.36g/10分、密度が956kg/m、M/Mが15.0、長鎖分岐数が0.01個/1,000炭素の高密度ポリエチレン(A−2)50重量%、MFRが2.3g/10分、密度が914kg/mのエチレン−α−オレフィン共重合体(三井化学(株)製 ウルトゼックス1520L、以下「B−2」と略す)50重量%について、実施例1と同じ方法で樹脂組成物のシートを得た。試験結果を表4に示す。この場合は、引張強さが規格の410N/cmを満足していない。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(D)の要件を満たすポリエチレン系樹脂からなることを特徴とする土木用遮水シート。
(A)密度が890kg/m以上980kg/m以下、
(B)炭素数6以上の長鎖分岐数が1,000個の炭素原子当たり0.01個以上3個以下、
(C)190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(1)
MS190>22×MFR−0.88 (1)
を満たすと共に、160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)と2.16kg荷重のMFR(g/10分、190℃)が、下記式(2)を満たし、
MS160>110−110×log(MFR) (2)
(D)示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが一つである
【請求項2】
エチレンを重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン重合体、またはエチレンと炭素数3以上のオレフィンを共重合することによって得られる末端にビニル基を有するエチレン共重合体であり、
(E)Mが2,000以上であり、
(F)M/Mが2以上5以下である
マクロモノマーの存在下に、エチレンおよび任意に炭素数3以上のオレフィンを重合することにより得られる請求項1に記載のポリエチレン系樹脂を用いることを特徴とする土木用遮水シート。
【請求項3】
(A’)密度が940kg/m以上980kg/m以下、
(G)引張強さが410N/cm以上、
(H)伸び率が560%以上である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の土木用遮水シート。
【請求項4】
少なくとも1種の樹脂層が請求項1〜3のいずれかに記載の土木用遮水シートからなることを特徴とする土木用多層遮水シート。
【請求項5】
請求項1に記載のポリエチレン系樹脂(イ)が10〜90重量%、MFRが0.1〜20g/10分の範囲であるメタロセン触媒を使用して製造されたエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンからなるエチレン−α−オレフィン共重合体(ロ)が90〜10重量%である樹脂組成物からなることを特徴とする土木用遮水シート。
【請求項6】
(A”)密度が930kg/m以上940kg/m以下、
(G’)引張強さが410N/cm以上、
(H’)伸び率が560%以上である
ことを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物からなる土木用遮水シート。
【請求項7】
(A”’)密度が900kg/m以上930kg/m以下、
(G”)引張強さが300N/cm以上、
(H”)伸び率が650%以上である
ことを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物からなる土木用遮水シート。

【公開番号】特開2006−316155(P2006−316155A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139376(P2005−139376)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】