説明

土留め構造体及び土留め施工方法

【課題】構築作業が容易であるとともに、構造が安定した土留め構造体を提供する。
【解決手段】地盤1に設置される上部が開口した複数のセル15、15、…、19、19、…が略水平方向に連続して形成されている土留め用枠体11と、これらのセルに充填される土のう12、12、…とを備える土留め構造体10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面及び擁壁の構築に好適に用いられる土留め構造体及び土留め施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山間部の傾斜面における土砂崩れ又は土砂流出の防止、若しくは河川における護岸のために、土留めが施されている。土留めには、一般的に急な勾配を形成する擁壁と、緩やかな勾配を形成する法面とがある。従来、法面及び擁壁はコンクリートで構築されていたが、土留めをしている地盤又は盛り土が自然沈下することで法面及び擁壁が崩壊することがあった。そのため、特許文献1には、不織布又は布からなる帯状基材でセルを多数連続して形成し、かつ一端側の帯状基材に瀝青材を含浸させた土工事用枠体を盛り土の上に敷設し、各セル内に粒状物又は固化物を転圧しながら充填する法枠工法が開示されている。かかる技術によれば、各セル内に充填された粒状物又は固化物がセル内に確実に保持されて流出しないため、きわめて安定した盛り土構造物を構築できる、とされている。
【0003】
また、近年、土留めは自然保護の観点から自然と調和した土留め構造が用いられている。そのため、特許文献2には、複数枚の樹脂製ネットを結合して樹脂製ネット構造組立体を調製し、樹脂製ネット構造組立体を広げて平面形状がハニカム状である空間を形成して地面に固定し、この空間部分に土壌及び/又は砂礫を充填する法面の構築方法が開示されている。かかる技術によれば、雑草が自生し易すく、耐久性がある擁壁又は法面を容易に構築することができる、とされている。
【0004】
さらに、大型土のうを積み上げたり、並べたりして設置することで、法面又は擁壁を構築することも行われている。大雨による河川の洗掘や斜面の崩落などに対する災害復旧では、本工事着手までの間、大型土のうを設置して法面又は擁壁を構築し、災害の拡大を防止している。また、複数の樹脂製ネットで形成された層の各層間に土のうを載置することも行われている。
【特許文献1】特開平11−172678号公報
【特許文献2】特開平11−100849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の法枠工法では、各セル内に粒状物又は固化物を転圧しながら充填する必要があるため、作業負担が大きいという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載の法面の構築方法でも、樹脂製ネット構造組立体に形成された空間部分に土壌及び/又は砂礫を充填する必要があるため、作業負担が大きいという問題があった。
【0007】
さらに、大型土のうの設置や、複数の樹脂製ネットで形成された層の各層間に土のうを載置する場合では、作業は容易であるが個々の大型土のうが独立しているため、土圧などの外部荷重に弱く、崩れることがあるという問題があった。また、土のうは耐候性に劣るため、土のうを設置しただけでは、時間の経過とともに土圧などの外部荷重に耐えられなくなる虞があった。
【0008】
そこで、本発明は、構築が容易であるとともに、構造が安定した土留め構造体及び土留め構造体の施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて適宜付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0010】
請求項1に記載の発明は、地盤(1)に設置される上部が開口した複数のセル(15、15、…、19、19、…(以下「15、19、…」という。))が略水平方向に連続して形成されている土留め用枠体(11)と、セルに充填される土のう(12、12、…)とを備えることを特徴とする土留め構造体(10)を提供することにより前記課題を解決する。
【0011】
セルとは、枠で区切られたそれぞれの空間である。セルは上部が開口されているが、土のうの充填が可能であれば、開口の範囲が上部の全部又は一部であるかについては限定されない。土留め用枠体の材質は限定されず、例えば合成樹脂、繊維、金属などを用いることができる。この土留め用枠体を枠でセルに区切ったり、単独で製造されたセルの枠を結合したりすることで、土留め用枠体ではハニカム状にセルが形成される。ここで、セルの枠とは、複数のセルを区切る枠を意味する。セルは、枠に結合部を設けたり、枠を溶着、接着、縫製又は溶接したりすることなどにより結合される。セルの平面形状は特に限定されず、多角形、円形などにすることができる。また、同一形状又は形状の異なるセルを組み合わせることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の土留め構造体(10)において、土のう(12、12、…)が充填容量2m以下の土のうであることを特徴とする。土のうとしては、汎用品を用いることが可能である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の土留め構造体(10)において、セル(15、19、…)の枠(13a〜13d、17)が可撓性を有することを特徴とする。
【0014】
ここで、「可撓性を有する」とは、曲げ剛性が、通常、1.7×10〜3.5×10g・cm、好ましくは、2.0×10〜3.0×10g・cmであることをいう。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の土留め構造体(10)において、セル(15、19、…)の枠(13a〜13d、17)が伸縮性を有することを特徴とする。
【0016】
ここで、「伸縮性を有する」とは、セル(15、19、…)の枠(13a〜13d、17)に、常温で引張応力を加えた時の残留ひずみが10%以下、好ましくは5〜10%であることをいう。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の土留め構造体(10)において、セル(15、19、…)の枠(13a〜13d、17)の側面全面に網目状の開口部(24、24、…)が設けられることを特徴とする。
【0018】
網目状の開口部は、その密度及び形状は限定されない。開口部の密度は、セルの枠に必要とされる強度との関係から決定される。セルの枠は、土留め構造体の強度を確保するために、「ジオテキスタイルを用いた補強土の設計・施工マニュアル:(財)土木研究センター」の表2.5に記載の試験方法により、35kN/m以上、あるいはJIS L 1908で規定されている試験方法により、40kN/m以上の引張強度を有することが好ましい。開口部の形状は、長方形、正方形などの多角形、円形若しくは楕円形、又はこれらの組み合わせとすることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の土留め構造体(10)において、セル(15、19、…)の枠(13a〜13d、17)の材質が合成樹脂であることを特徴とする。
【0020】
合成樹脂は特に限定されず、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ビニロン、繊維強化樹脂、アラミド繊維、ポリエステルを用いることができるが、耐錆性、耐酸性、耐アルカリ性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の土留め構造体(10)において、合成樹脂がカーボンブラックを含むことを特徴とする。
【0022】
なお、合成樹脂におけるカーボンブラックの含有量は、重量で、通常3〜15%、好ましくは4〜10%、更に好ましくは4〜6%である。これによれば、合成樹脂の紫外線による劣化を抑制する効果が大きい。カーボンブラックの含有量が、重量で3%未満であると、合成樹脂が紫外線により劣化する傾向にあり、その結果、セルの枠の引張強度、曲げ強度が低下する傾向にある。
【0023】
請求項8に記載の発明は、請求項5〜7のいずれか一項に記載の土留め構造体(10)において、開口部(24、24、…)が縦ストランド(22、22、…)及び横ストランド(23、23、…)により形成され、一のセル(15、19、…)の開口部に他のセルの縦ストランドを挿入して形成された空間に棒状部材(32)を挿入することで、セルの枠(13a〜13d、17)が結合された土留め用枠体(11)を備えることを特徴とする。
【0024】
請求項9に記載の発明は、請求項5〜8のいずれか一項に記載の土留め構造体(10)において、土留め(40、50)の表面となるセル(15、19、…)の上部及び側面に緑化マット(41、41、…)を設置すること、及び/又は表面を形成するセルに充填される土のうを緑化土のう(42、42、…)とすることを特徴とする。
【0025】
土留めとは、法面及び擁壁を含む上位概念である。土留めの表面は、土留め構造体の外部に露出する部分であり、他の土留め構造体、地盤又は盛り土と接触しないセルの上部及び側面が該当する。そのため、この部分に緑化マットを設置すること、及びこの部分を有するセルの土のうを緑化土のうとすることの少なくともいずれか一方を行う。緑化マット、緑化土のうは、内部に草の種子、肥料などを含んだマット、土のうである。これにより、これらのマット、土のうから草が生え、容易に緑化がされる。
【0026】
請求項10に記載の発明は、上部が開口した複数のセル(15、19、…)が略水平方向に連続して形成されている土留め用枠体(11)を地盤(1)に設置して、セルに土のう(12)を充填して土留め構造体(10a)を形成する工程と、地盤に沿って複数の土留め構造体(10b〜10d)を形成する工程とを有することを特徴とする土留め施工方法を提供することにより前記課題を解決する。
【0027】
請求項11に記載の発明は、上部が開口した複数のセル(15、19、…)が略水平方向に連続して形成されている土留め用枠体(11)を地盤(1)に設置して、セルに土のう(12)を充填して土留め構造体(10e)を形成する工程と、この土留め構造体の上に同様の土留め構造体(10f〜10h)を形成する工程とを有することにより、複数段の土留め構造体を形成することを特徴とする土留め施工方法を提供することにより前記課題を解決する。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に記載の発明によれば、土留め用枠体のセルに土のうを充填することで、現場でセル内に粒状体である盛土材料などを充填する必要がないため、作業負担が軽減されるとともに、迅速に施工することができる。そのため、災害復旧に対しても迅速な対応が可能である。更に土のうの耐候性が経時的に劣っても、土留め用枠体によって耐土圧性を有することが可能である。
【0029】
請求項2に記載の発明によれば、セルに充填する土のうを2m以下の土のうとすることで、通常の大きさの土のうを充填する場合に比べ、作業負担が軽減されるとともに、迅速に施工することができる。また、それぞれの土のうが土留め用枠体で一体化されるため、土のうのみを設置した場合に比べ、土留めを安定させることができる。
【0030】
請求項3に記載の発明によれば、セルの枠が可撓性を有することで、枠体が変形可能となる。そのため、地盤1の凹凸に沿って枠体を設置することができる。また、土のうの形状に合わせてセルの枠が変形するため、セルへの土のうの効率的な充填作業が可能である。
【0031】
請求項4に記載の発明によれば、セルの枠が伸縮性を有することにより、土のうがセルより大きい場合であっても、枠が伸びて土のうをセルへ充填することが可能である。これにより、セルへ土のうを充填する作業効率が向上する。
【0032】
請求項5に記載の発明によれば、セルの枠の側面全面に網目状の開口部が設けられることで、セルの枠に可撓性及び伸縮性を与えること、又はこれらを向上させることができる。これにより、作業効率が向上する。また、開口部から排水されるため、セルの排水性能を向上させることができる。
【0033】
請求項6に記載の発明によれば、セルの枠の材質を合成樹脂とすることにより、可撓性及び伸縮性を有するとともに、軽量で安価な土留め用枠体とすることができる。また、錆が発生せず、腐食しにくいため、金属及び繊維に比べて耐用年数を長くすることができる。
【0034】
請求項7に記載の発明によれば、合成樹脂がカーボンブラックを含むことによりセルの枠が耐候性を有し、土留め構造体の耐用年数を向上させることが可能である。
【0035】
請求項8に記載の発明によれば、開口部が縦ストランド及び横ストランドにより形成され、一のセルの開口部に他のセルの縦ストランドを挿入して形成された空間に棒状部材を挿入してセルの枠を結合することにより、セルの枠が容易に結合される。そのため、工場だけでなく現場においても、土留め用枠体を迅速に組み立てることができる。
【0036】
請求項9に記載の発明によれば、土留めの表面となるセルの上部及び側面に緑化マットを設置すること、及び/又は表面を形成するセルに充填される土のうを緑化土のうとすることにより、土留めの表面を草で覆うことができる。これにより、土留め用枠体及び土のうに紫外線が当たることが防止されるため、土留め構造体の耐候性を向上させることができる。また、施工後の土留めにおいて、自然の景観を回復することができる。
【0037】
請求項10に記載の発明によれば、土留め用枠体のセルに土のうを充填して土留め構造体を形成し、地盤に沿って複数の土留め構造体を形成する土留め施工方法とすることで、現場でセル内に粒状体である盛土材料などを充填する必要がないため、作業負担が軽減されるとともに、迅速な施工が可能である。
【0038】
請求項11に記載の発明によれば、土留め用枠体のセルに土のうを充填して土留め構造体を形成し、この土留め構造体の上に同様の土留め構造体を形成する土留め施工方法とすることで、現場でセル内に粒状体である盛土材料などを充填する必要がないため、作業負担が軽減されるとともに、迅速な施工が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面に示す実施形態に基づき、本発明に係る土留め構造体及び土留め構造体の施工方法について説明するが、以下に説明するものは本発明の実施形態の一例であって、本発明はその要旨を超えない限り以下の説明になんら限定されるものではない。
【0040】
図1は、本発明に係る土留め構造体10を模式的に示す平面図である。土留め構造体10では、整地された地盤1に設置された土留め用枠体11のセル15、15、…に土のう12、12、…が充填される。なお、図1では、図の見易さのために、一部のセル15、15、…に土のう12が充填されていない状態を示す。また、図1において同一の部材(部分)が繰り返し現れる場合には、一部の部材(部分)のみに符号を付して、他の部材(部分)の符号は省略する。以下、各部材及び土留め構造体10の施工について説明する。
【0041】
(土留め用枠体11)
土留め用枠体11には、上部が開口した複数のセル15、15、…が略水平方向に連続して形成されている。土留め用枠体11は、後述する複数の帯状部材13a〜13dにより形成される。帯状部材13a〜13dは、その幅方向が土留め用枠体11の高さ方向(紙面垂直方向)となるように配置されている。そして、隣接する帯状部材13a〜13dが結合部14、14、…で結合された後に、土留め用枠体11の幅方向(紙面上下方向)へ伸展される。これにより、土留め用枠体11では、帯状部材13a〜13dを枠とし、上部及び下部の全部が開口した複数のセル15、15、…が略水平方向に連続して形成される。ここでは、一つのセル15は略菱形であり、セル15、15、…全体でハニカム状となっている。結合部14については、後述する。土留め用枠体11は、外周部において固定杭16、16、…により地盤1に固定されることが好ましい。これによれば、セル15、15、…の上部が開口した状態で土留め用枠体11が固定されるため、セル15、15、…に土のう12、12、…を充填する作業効率が向上する。
【0042】
土留め構造体10では、法面又は擁壁などの土留めにおいて、外観視される側面に帯状部材17を設置することが好ましい。これによれば、土留めの側面が平面となるため、外観を良くすることができる。帯状部材13aと帯状部材17とは、結合部18、18、…で結合され、セル19、19、…を形成する。結合部18については、後述する。なお、土留め構造体10では、帯状部材13a〜13dを用いたが、一の帯状部材を折り返すことで、これらの一部又は全部を一の帯状部材とすることが可能である。
【0043】
(帯状部材13a〜13d、17)
図2は、帯状部材13aの平面21aの一部を模式的に示す図である。なお、図2において同一の部材(部分)が繰り返し現れる場合には、一部の部材(部分)のみに符号を付して、他の部材(部分)の符号は省略する。帯状部材13aの材質は合成樹脂であり、ポリエチレンが用いられている。また、帯状部材13aは、平面21aにおいて縦ストランド22、22、…と横ストランド23、23、…とにより網目が形成されることで、網目状に開口部24、24、…が設けられている。帯状部材13aは、原料樹脂を押出機で溶融させて未延伸シートとして押出し、この未延伸シートに一定間隔で貫通孔を設け、長さ及び/又は幅方向に延伸することで製造することができる。これにより、帯状部材13aは可撓性及び伸縮性を有し、軽量であり、かつ安価に製造される。なお、図2では帯状部材13aについて説明したが、他の帯状部材13b〜13d、17についても同様である。帯状部材13a〜13d、17としては、例えば三菱化学産資株式会社製の「テンサー」(テンサーは商品名)を用いることができる。
【0044】
かかる構成により、土留め用枠体11は変形可能であるため、地盤1の凹凸に沿って設置可能である。また、各セル15、15、…の枠が可撓性及び伸縮性を有するため、セル15、15、…への土のう12、12、…の充填作業が効率的である。さらに、開口部24、24、…を設けることで、セル15、15、…の排水性能が向上する。
【0045】
帯状部材13b〜13d、17には、カーボンブラックが加えられた合成樹脂を用いることが好ましい。これによれば、紫外線による合成樹脂の劣化が抑制されることで土留め用枠体11が耐候性を有し、土留め構造体の耐用年数を延ばすことができる。
【0046】
(結合部14)
図3は、帯状部材13a、13bの結合部14の一部を模式的に示す斜視図である。なお、図3において同一の部材(部分)が繰り返し現れる場合には、一部の部材(部分)のみに符号を付して、他の部材(部分)の符号は省略する。帯状部材13a、13bの平面21a、21bにおいて、帯状部材13bの幅方向(紙面上下方向。以下、図3において同じ。)に並んだそれぞれの開口部24b、24b、…に、帯状部材13aの幅方向に並んだそれぞれの縦ストランド22a、22a、…を挿入し、帯状部材13aの縦ストランド22a、22a、…及び帯状部材13bの縦ストランド22b、22b、…の間に空間を形成する。そして、この空間に棒状部材32を挿入することで、帯状部材13a、13bは結合される。これにより、土留め構造体10において、セル15、15、…の枠が結合される。なお、図3では帯状部材13a、13bの結合部14について示したが、帯状部材13b〜13dによる結合部14、14、…についても同様である。
【0047】
このように結合部14、14、…を構成することで、セル15、15、…の枠を容易に結合することができるため、工場だけでなく現場においても土留め用枠体11を迅速に組み立てることができる。また、現場の状況や土のう12、12、…の大きさに合わせて結合位置の変更をすることで、容易にセル15、15、…(図1参照)の大きさ及び形状を調節することが可能であることから、現地での作業性を向上させることができる。さらに、帯状部材の配置及び結合状況により、同一の帯状部材から異なる形態の土留め用枠体を製造できるため、生産効率が良い。
【0048】
なお、帯状部材13aと帯状部材17との結合部18は、結合部14と同様に構成することができる。ただし、土留め用枠体11が固定杭16で地盤1に固定される場合は、棒状部材32に代えて固定杭16を用いることができる。
【0049】
(土のう12)
図1において、土のう12、12、…は、容量及び材質などにより限定されず、汎用品を用いることが可能である。また、土のう12、12、…への充填物も特に限定されず、土、砂、礫の他に、土留め現場での発生土、又は建築廃棄物などを用いることができる。ただし、透水性など土留め構造体10に必要とされる性能を考慮して、土のう12、12、…への充填物を決定することが好ましい。一のセル15へは、一又は複数の土のうが充填される。同一セル又は他のセルに充填される土のうで、その大きさが同一であっても異なっていても良い。
【0050】
本発明に係る土留め構造体では、土のう12、12、…として大型土のうを用いることが好ましい。図1では、一のセル15に一の大型土のうが充填されている。大型土のうとしては、例えば堺商事株式会社製の「サカイジャンボ土のう」(サカイジャンボ土のうは商品名)を挙げることができる。このように大型土のうを用いることで、通常の大きさの土のうを充填する場合に比べて作業負担が軽減されるとともに、迅速に施工をすることができる。また、それぞれの大型土のうが土留め用枠体で一体化されるため、大型土のうのみを設置した場合に比べ、土留め構造体を安定させることができる。
【0051】
なお、帯状部材13aと帯状部材17とを枠とするセル19、19、…は、セル15、15、…より小さい。そのため、大型土のうが充填できない場合には、小型土のう、盛土材などを充填する。
【0052】
(土留め構造体10の施工)
土留め構造体10の施工について、図1を用いて説明する。最初に、整地された地盤1に土留め用枠体11を設置する。土留め用枠体11は、帯状部材13a〜13dを現場において結合しても良いが、作業軽減の観点から工場で予め結合しておき、現場で伸展されることが好ましい。土留め用枠体11を幅方向に伸展してセル15、15、…の上部を開口させ、必要に応じて土留め用枠体11の外周部に固定杭16、16、…を打ち込み、土留め用枠体11を地盤1に固定する。また、土留め構造体10が土留めにおける外観視される側面を有するときは、外観を良好にするために、その側面に帯状部材17を設置することが好ましい。そして、各セル15、15、…に、土のう12、12、…を充填する。ここでは、1のセル15に1の大型土のうが充填されている。また、帯状部材17を設置した場合は、帯状部材13aと帯状部材17とによって形成されるセル19、19、…に、小型土のう又は盛土材などを充填する。このように、セル15、15、…に土のう12、12、…を充填することで、現場でセル内に粒状体である盛土材料などを充填する必要がないため、作業負担が軽減されるとともに、迅速な施工をすることができる。そのため、災害復旧に対しても迅速な対応が可能である。
【0053】
図4は、法面40の断面を示す図である。法面は、地盤の勾配が1割程度より緩やかな場合に、地盤に沿って土留め構造体を並べて形成する土留めである。法面40では、整地された地盤1に沿って土留め構造体10a〜10dが形成され、周囲には法面40と同じ高さに盛り土がされている。図4では、各土留め構造体10a〜10dについて、図1のA−A断面に対応する断面が示されている。結合部14及び固定杭16は、図示省略する。なお、図1と同じ構成を採るものについては、図1にて使用した符号を付し、その説明を省略する。また、図4において同一の部材(部分)が繰り返し現れる場合には、一部の部材(部分)のみに符号を付して、他の部材(部分)の符号は省略する。土留め構造体10a〜10dは、上述した土留め構造体10(図1参照)の構成において、帯状部材17が設置されておらず、法面40の表面となる全てのセル15、15、…の上部に緑化マット41、41、…が設置され、全てのセル15、15、…に緑化土のう42、42、…が充填されている。なお、緑化マット41、41、…及び緑化土のう42、42、…は、いずれか一方のみを用いても良い。このように緑化マット41、41、…及び/又は緑化土のう42、42、…を備えることで、法面40の表面が草で覆われて土留め用枠体11及び土のう42に紫外線が当たることが防止されるため、土留め構造10a〜10dの耐候性を向上させることができる。また、施工後の法面40において、自然の景観を回復することができる。
【0054】
法面40の施工方法は、最初に上述した土留め構造体10の施工と同様にして、地盤1に土留め構造体10aを形成する。この時、セル15、15、…では、上部に緑化マット41、41、…が設置され、緑化土のう42、42、…が充填される。同様にして土留め構造体10b、10c、10dを、この順に形成する。これにより、現場でセル15、15、…に粒状体である盛土材料などを充填する必要がないため、作業負担が軽減され、法面40の迅速な施工が可能である。
【0055】
法面40では、土留め構造体10a〜10dを接して形成し、土留め構造体10a〜10dの間に形成されたセルに土のうを充填することが好ましい。また、土留め構造体10a〜10dを結合部43、43、…で結合することがより好ましい。これによれば、複数の土留め構造体10a〜10dが一体化するため、土圧などの外的負荷に対して安定した法面40を形成することができる。結合部43は、結合部14又は結合部18と同様の構造とすることができる。
【0056】
図5は、擁壁50の断面を示す図である。擁壁は、地盤の勾配が1割程度より急な場合に、地盤に面して土留め構造体を複数段に積み重ねて形成する土留めである。擁壁50は、整地された地盤1から斜面に面して土留め構造体10e〜10hが形成されている。図5では、各土留め構造体10e〜10hについて、図1のB−B断面に対応する断面が示されている。結合部14は図示省略する。なお、図1と同じ構成を採るものについては、図1にて使用した符号を付し、その説明を省略する。また、図5において同一の部材(部分)が繰り返し現れる場合には、一部の部材(部分)のみに符号を付して、他の部材(部分)の符号は省略する。土留め構造体10e〜10hは、上述した土留め構造体10(図1参照)の構成において、擁壁50の表面となるセル15、19、…の上部及び側面の内部に緑化マット41、41、…が設置さている。また、土留め構造体10hでは、擁壁50の表面となるため、全てのセル15、15、…に緑化土のう42、42、…が充填されている。なお、土留め構造体10hのセル15、15、…では、緑化マット41、41、…及び緑化土のう42、42、…のいずれか一方のみを用いても良い。このように緑化マット41、41、…及び/又は緑化土のう42、42、…を備えることで、擁壁50の表面が草で覆われて土留め用枠体11及び土のう42に紫外線が当たることが防止されるため、土留め構造体10e〜10hの耐候性を向上させることができる。特に、セル19、19、…の側面に全面に渡って網目状の開口部が設けられているため、側面において草が均一に生えることで、耐候性が向上されている。また、施工後の擁壁50において、自然の景観を回復することができる。
【0057】
擁壁50の施工方法は、最初に上記土留め構造体10の施工と同様にして、土留め構造体10eを地盤1に形成する。この時、擁壁50の表面となるセル15、19、…の上部及び側面の内部に緑化マット41、41、…が設置される。同様にして、土留め構造体10eの上に土留め構造体10f、10g、10hをこの順で積み重ねて設置する。土留め構造体10hでは、セル15、15、…に緑化土のう42、42、…を充填し、緑化マット41、41、…を設置する。これにより、現場でセル15、15、…に粒状体である盛土材料などを充填する必要がないため、作業負担が軽減され、擁壁50の迅速な施工が可能である。
【0058】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う土留め構造体及び土留め施工方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る土留め構造体を模式的に示す平面図である。
【図2】帯状部材の平面の一部を模式的に示す図である。
【図3】帯状部材の結合部の一部を模式的に示す斜視図である。
【図4】法面の断面を示す図である。
【図5】擁壁の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 地盤
10、10a〜10h 土留め構造体
11 土留め用枠体
13a〜13d 帯状部材
14 結合部
15 セル
16 固定杭
17 帯状部材
18 結合部
19 セル
22、22a、22b 縦ストランド
23 横ストランド
24、24b 開口部
32 棒状部材
40 法面
41 緑化マット
42 緑化土のう
50 擁壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に設置される上部が開口した複数のセルが略水平方向に連続して形成される土留め用枠体と、
前記セルに充填される土のうと
を備えることを特徴とする土留め構造体。
【請求項2】
前記土のうが充填容量2m以下の土のうであることを特徴とする請求項1に記載の土留め構造体。
【請求項3】
前記セルの枠が可撓性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の土留め構造体。
【請求項4】
前記セルの枠が伸縮性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の土留め構造体。
【請求項5】
前記セルの枠の側面全面に網目状の開口部が設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の土留め構造体。
【請求項6】
前記セルの枠の材質が合成樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の土留め構造体。
【請求項7】
前記合成樹脂がカーボンブラックを含むことを特徴とする請求項6に記載の土留め構造体。
【請求項8】
前記開口部が縦ストランド及び横ストランドにより形成され、一の前記セルの前記開口部に他の前記セルの前記縦ストランドを挿入して形成された空間に棒状部材を挿入することで、前記セルの前記枠が結合された前記土留め用枠体を備えることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の土留め構造体。
【請求項9】
土留めの表面となる前記セルの上部及び側面に緑化マットを設置すること、及び/又は前記表面を形成する前記セルに充填される土のうを緑化土のうとすることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の土留め構造体。
【請求項10】
上部が開口した複数のセルが略水平方向に連続して形成される土留め用枠体を地盤に設置して、前記セルに土のうを充填して土留め構造体を形成する工程と、
前記地盤に沿って複数の前記土留め構造体を形成する工程と
を有することを特徴とする土留め施工方法。
【請求項11】
上部が開口した複数のセルが略水平方向に連続して形成される土留め用枠体を地盤に設置して、前記セルに土のうを充填して土留め構造体を形成する工程と、
前記土留め構造体の上に同様の土留め構造体を形成する工程とを有することにより、複数段の土留め構造体を形成することを特徴とする土留め施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−144440(P2008−144440A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331766(P2006−331766)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000236159)三菱化学産資株式会社 (101)
【Fターム(参考)】