説明

圧力ヒューズ

【課題】マイクロチップに試料溶液を送液する配管が詰まったとき等の異常時に配管内の圧力を制御することができると共に、正常時の測定を精度よく行うことができる圧力ヒューズを提供する。
【解決手段】マイクロ化学システム1は、流路2及びこれに合流する圧力ヒューズ3を内部に備えるマイクロチップ100と、マイクロチップ100に試料溶液を供給するチューブ71と、外部にマイクロチップ100内の試料溶液を排出するチューブ72と、チューブ71に試料溶液を送液するシリンジポンプ7とを備える。シリンジポンプ7による試料溶液の送液中に、流路2に異物等が混入して詰まった場合などでチューブ71内部の試料溶液にかかる圧力P1がPgmの最大値(10kPa)以上になると、圧力ヒューズ3内に試料溶液を流れ込ませることにより圧力P1を下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力ヒューズに関し、特にマイクロチップに用いられる圧力ヒューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化学反応を微小空間で行うための集積化技術が、化学反応の高速性や微少量での反応、オンサイト分析等の観点から注目されており、そのための研究が、世界的に精力的に進められている。
【0003】
化学反応の集積化技術の1つとして微細な流路の中で試料溶液の混合、反応、分離、抽出、検出等を行う所謂マイクロ化学システムがある。このマイクロ化学システムは、上記流路を形成するマイクロ化学システム用チップ(以下単に「マイクロチップ」という。)、試料溶液を配管内に送液するシリンジポンプ、配管をマイクロチップ内の流路に接続するコネクタ、及びシリンジポンプと配管を接続するバルブ等を備える(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−291187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、マイクロチップは外部からの異物が混入すると、流路が微細であるためすぐに詰まってしまう。さらには、詰まった状態でポンプを作動させると上記配管内の試料溶液の圧力が上昇するため、コネクタやバルブで液漏れが発生し、マイクロチップやその他のマイクロ化学システムの部品が使用不能に至ってしまう。例えば、上記試料溶液として塩の水溶液を流路に流しているときにバルブで液漏れが発生すると、漏れた液の乾燥によりバルブ周りに塩が析出するため、バルブが使用不能になる。また、上記試料溶液として酸やアルカリを流路に流しているときにコネクタで液漏れが発生すると、コネクタだけでなく周辺部材も腐食して使用不能になる。さらには、マイクロ化学システムにこのような液漏れが発生すると、オペレータにとっても危険となる。
【0005】
この問題は、上記配管に圧力計を付けておき、一定値以上の圧力が配管にかかったときにオペレータがシリンジポンプのポンプ動作を停止することにより回避することができる。しかし、このような圧力計を付けることにより生じるデッドボリュームの部分に試料溶液が入り込むと、これを排出することが容易にできなくなる為、次に送液された試料溶液との混ざり込みが発生し反応等に悪影響を及ぼす。
【0006】
本発明の目的は、システム全体の寿命がのび、安全性を向上させることができる圧力ヒューズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の圧力ヒューズは、液体を流す主流路から分岐する、流体を充填する副流路からなり、前記副流路の下流部は、前記液体に対する濡れ角が90度以上であることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の圧力ヒューズは、請求項1記載の圧力ヒューズにおいて、前記流体は前記液体との相溶性がないことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の圧力ヒューズは、請求項1又は2記載の圧力ヒューズにおいて、前記副流路の下流部は、前記副流路の上流部を構成する流路に入れ込まれた管であることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の圧力ヒューズは、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の圧力ヒューズにおいて、前記下流部は、前記上流部よりその接液長に対する断面積の比が小さいことを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の圧力ヒューズは、請求項3又は4記載の圧力ヒューズにおいて、前記下流部は、前記上流部に複数接続することを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の圧力ヒューズは、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の圧力ヒューズにおいて、前記下流部に前記液体が存在することを検出する検出器を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の圧力ヒューズは、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の圧力ヒューズにおいて、前記主流路は、マイクロチップの内部の流路であることを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の圧力ヒューズは、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の圧力ヒューズにおいて、前記主流路は、マイクロチップに前記液体を供給する配管であることを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の圧力ヒューズは、請求項7又は8記載の圧力ヒューズにおいて、前記マイクロチップの内部の流路は断面積が1mm以下であることを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項10記載の送液システムは、請求項6記載の圧力ヒューズを備える送液システムであって、前記検出器による検出があったときに、前記主流路への前記液体の送液を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の圧力ヒューズによれば、液体を流す主流路から分岐する、流体を充填する副流路からなり、その下流部は、主流路の液体に対する濡れ角が90度以上であるので、主流路への液体の送液中に主流路に異物等が混入して詰まった場合などで液体にかかる圧力が一定値以上になると、副流路の下流部に液体を流れ込ませることによりその圧力を下げて、主流路を構成する接続部等で液漏れが生じるのを防止することができ、ひいては圧力ヒューズを備えるシステム全体の寿命がのび、安全性を向上させることができる。
【0018】
請求項2記載の圧力ヒューズによれば、副流路の流体は主流路の液体との相溶性がないので、主流路の液体が一定速度で流れているときは、副流路の下流部に液体が流れ込むのを防止することができる。
【0019】
請求項3記載の圧力ヒューズによれば、副流路の下流部は、副流路の上流部を構成する流路に入れ込まれた管であるので、簡単に圧力ヒューズを組み立てることができる。
【0020】
請求項4記載の圧力ヒューズによれば、下流部は、上流部よりその接液長に対する断面積の比が小さいので、主流路を流れる液体を下流部流路の境界で確実に留めることができる。
【0021】
請求項5記載の圧力ヒューズによれば、下流部は上流部に複数接続するので、1つの下流部が異物等で詰まり、非常時において圧力ヒューズの役目を果たさないようになってしまっても、他の下流部が圧力ヒューズの役目を果たすことができ、より安定した圧力ヒューズを提供することができる。
【0022】
請求項6記載の圧力ヒューズによれば、下流部に液体が存在することを検出する検出器を備えるので、その検出により主流路が詰まっている等の理由で液体に圧力がかかっていることを確実に知ることができる。
【0023】
請求項7記載の圧力ヒューズによれば、主流路は、マイクロチップの内部の流路であるので、主流路に液体を送液するポンプ等より下流に圧力ヒューズを配置することができ、確実に圧力ヒューズとしての機能を副流路が発揮できる。
【0024】
請求項8記載の圧力ヒューズによれば、主流路は、マイクロチップに液体を供給する配管であるので、主流路に液体を送液するポンプ等より下流であればどこにでも圧力ヒューズを配置することができ、装置設計が簡単となり、確実に圧力ヒューズとしての機能を副流路が発揮できる。
【0025】
請求項9記載の圧力ヒューズによれば、マイクロチップの内部の流路は断面積が1mm以下であるので、少量の液体を試料溶液として混合、反応、分離、抽出、検出等を行うことができる。
【0026】
請求項10記載の送液システムによれば、上記圧力ヒューズを備え、上記検出器による検出があったときに、主流路への液体の送液を停止するので、副流路の下流部に液体が流れ込んだときに、オペレータ自身が主流路への液体の送液を停止させる必要がなくなり、主流路を構成する接続部等で液漏れが生じることをより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、圧力ヒューズが、液体を流す主流路から分岐する、流体を充填する副流路からなり、副流路の下流部は、上記液体に対する濡れ濡れ角が90度以上であると、主流路への液体の送液中に主流路に異物等が混入して詰まった場合などで液体にかかる圧力が一定値以上になると、副流路の下流部に液体を流れ込ませることによりその圧力を下げて、主流路を構成する接続部等で液漏れが生じるのを防止することができ、ひいてはマイクロ化学システム全体の寿命がのび、安全性が向上する圧力ヒューズを提供することができることを見出した。
【0028】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述する。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態に係る圧力ヒューズを備えるマイクロ化学システム用チップ(以下単に「マイクロチップ」という)を含むマイクロ化学システムの概略構成を示す図である。ここで、圧力ヒューズとは、定格以上の圧力となった試料溶液からマイクロ化学システムを保護する部品をいう。
【0031】
図1において、マイクロ化学システム1は、マイクロチップ100と、マイクロチップ100に試料溶液を供給するチューブ71と、外部にマイクロチップ100内の試料溶液を排出するチューブ72とを備える。
【0032】
マイクロチップ100は、内部に幅100μm、深さ50μmの流路2と、これに合流する幅15μm、深さ5μmの圧力ヒューズ3を内部に備える。流路2の端部は貫通孔21a,21bと接続する。また、圧力ヒューズ3は、図2で後述する疎水化処理が端部30に施されている。ここで、流路2は断面積が1mm以下であって、少量の液体を試料溶液として混合、反応、分離、抽出、検出等を行うことができるものであれば、上記大きさ・形状に限定されるわけでない。
【0033】
さらに、チューブ71は貫通孔21aと接続しており、シリンジポンプ7により送液される試料溶液を流路2に供給する。貫通孔21bはチューブ72と接続しており、流路2中の試料溶液を外部に排出する。シリンジポンプ7は、試料溶液を夫々保持する試料タンク73,74とバルブ75を介して接続している。バルブ75は、試料タンク73,74のいずれか一方に保持されている試料溶液のみが送液される切替機構を有する。
【0034】
マイクロチップ100は、ガラス製であって、ソーダライムガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラスのいずれを用いてもよいが、親水性が最も高い石英ガラスを用いるのがより好ましい。
【0035】
図2は、図1におけるマイクロチップ100の製造処理を説明するのに用いられる図である。
【0036】
図2において、先ず、板状基板6の表面に、流路2、圧力ヒューズ3を構成する流路となる溝20をフッ酸エッチング法により一括に又は個別に形成し(図2(a))、板状基板5にはドリルによる孔開け加工でマイクロチップ7内の流路に試料溶液等を供給・排出するための貫通穴21a,21bを形成する(図2(b))。
【0037】
板状基板6に形成された溝20の表面のうち、図1の流路2となる部分と、流路2及び圧力ヒューズ3が合流する部分とからなる領域22にマスキング剤を塗布後、ポリジメチルポリシロキサン(PDMS)等の有機シロキサンを溝20の表面全体に塗布して加熱重合させ、次に、塗布したマスキング剤を除去する。これにより、溝20の表面のうち、図1の圧力ヒューズ3の端部となる部分23に疎水化処理を行う(図2(c))。また、疎水化処理にパーフロロアルキルシランなどのフッ素化有機シラン化合物を用いてもよい。この処理の結果、部分22における純水の接触角は20度以下であり、部分23における純水の接触角は90度以上と親水性が低くなる、即ち疎水性が高くなる。
【0038】
最後に、溝20の流路2となる部分の両端部の位置に貫通孔21a,21bの位置が合うように、板状基板6に板状基板5を貼り合わせ、マイクロチップ100を作成する(図2(d))。
【0039】
次に、マイクロ化学システム1における圧力ヒューズの圧力制御機構を検証するための実験を行った。この実験では、チューブ71の内部の純水にかかる圧力P1を測定するため、シリンジポンプ7の下流に不図示の圧力計を設置した。
【0040】
図1の試料タンク74に試料溶液として純水を入れ、バルブ75を試料タンク74側の試料溶液が送液されるよう切り替え、シリンジポンプ7を押すことにより、貫通孔21aから流路2に純水を供給する。また、マイクロチップ100内は予め空気を充填させておく。
【0041】
このとき、流路2に供給された純水は親水性の高い部分(図2の部分22)を流れていくが、圧力ヒューズ3の端部30(図2の部分23)には流れ込むことなく、貫通孔21bからチューブ71bを介して外部に純水が排出される。これは、図3(a)に示すように圧力ヒューズ3の端部30の境界において純水を留めようとする圧力Pgmが発生するからである。この現象は、純水のような親水性の液体で濡れ性が高いものは、親水性の高い部分で界面との接触を広げようとする一方、疎水性の高い部分で界面との接触を狭めようとする、いわゆる表面張力により生じる。
【0042】
次に、チューブ72を折ることで、流路2に供給された純水が外部に排出できないようにする。その後、シリンジポンプ7を押すことにより、貫通孔21aから流路2に純水を供給する。
【0043】
このとき、最初のうちは、流路2に供給された純水は親水性の高い部分(図2の部分22)を流れていく。しかし、流路2に供給された純水は外部に排出されないため、圧力計により測定される圧力P1の値は徐々に上昇する。この圧力P1の上昇に伴い、圧力Pgmも大きくなっていく。しかし、圧力計で測定される圧力P1の値が圧力Pgmの最大値10kPaとなると、純水を圧力ヒューズ3の端部30の境界において留めることができなくなり、圧力ヒューズ3の端部30に純水が流れ込む。この流れ込みにより、圧力計で測定される圧力P1の値は急下降する。
【0044】
すなわち、シリンジポンプ7による試料溶液の送液中に、流路2に異物等が混入して詰まった場合などでチューブ71内部の試料溶液にかかる圧力P1がPgmの最大値(10kPa)以上になると、圧力ヒューズ3内に試料溶液を流れ込ませることにより圧力P1を下げるので、チューブ71と貫通孔21aの接続部等で液漏れが生じるのを防止することができる。ひいては、マイクロ化学システム1全体の寿命がのび、安全性が向上させることができる。
【0045】
また、流路2に供給した試料溶液は純水であったが、アルコール等の親水性の高い液体であればこれに限定されるものではない。
【0046】
また、本実施の形態では、部分23における純水の接触角は90度以上であったが、試料溶液に対する濡れ角がなるべく大きいことが好ましい。これにより、流路2の試料溶液が一定速度で流れているときは、端部30に試料溶液が流れ込むのを防止することができる。
【0047】
一方、本実施の形態では、マイクロチップ100内に予め空気を充填していたが、流路2を流れる流体との相溶性がない流体であればこれに限定されず、他の気体又は液体であってもよい。これにより、流路2内を流れる流体が圧力ヒューズ3内に溶け出すことを防止できる。また、この圧力ヒューズ3に液体を供給する場合、疎水性を有する有機溶媒、具体的にはベンゼン、トルエン、ケロシン等が例示できる。
【0048】
さらに、本実施の形態では、圧力ヒューズ3を構成する流路は端部30もそれ以外の部分もほぼ同一の形状としたが、端部30をその他の部分よりその接液長に対する断面積の比を小さくするのが好ましい。これにより、流路2から流れこむ試料溶液を端部30の境界で確実に留めることができる。
【0049】
図4は、図1のマイクロ化学システム1の変形例の構成概略を示す図である。
【0050】
図4において、マイクロ化学システム1’は、圧力ヒューズ3の端部30に設置される気体検出装置31と、気体検出装置31からの信号に基づきシリンジポンプ7の駆動を制御する駆動部32とを取り付けてある点を除き、基本的に図1のマイクロ化学システム1と同一である。従って、同一の構成には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0051】
気体検出装置31は、図4に示すように、シングルモードファイバ305から出射された光をマイクロチップ100の圧力ヒューズ3の端部30に集光するロッドレンズ300と、端部30を透過した光の一部を通過させる不図示のピンホールを有するピンホール板302と、ピンホール301を通過した光を検出する検出器304とから成る。
【0052】
空気と純水の屈折率は異なるので、図5(a)に示すように、端部30に純水を満たした場合は、端部30を透過した光の広がりは小さくなり、ピンホール301を透過する光の強度は大きくなる。一方、図5(b)に示すように、端部30に空気を満たした場合は、端部30を透過した光の広がりは大きくなり、ピンホール301を透過する光の強度は小さくなる。したがって、検出器304によりピンホール301を透過した光の強度を検出することにより、端部30中の気体の有無を検出することができる。
【0053】
また、駆動部32は、シリンジポンプ7を駆動しているときに、気体検出装置31により端部30中に気体がない旨の信号を受信したときに、シリンジポンプ7の駆動を停止する。
【0054】
次に、マイクロ化学システム1’における圧力ヒューズの圧力制御機構を説明する。
【0055】
まず、図1の試料タンク74に試料溶液として純水を入れ、バルブ75を試料タンク74側の試料溶液が送液されるよう切り替え、シリンジポンプ7を押すことにより、貫通孔21aから流路2に純水を供給する。また、マイクロチップ100内は予め空気を充填させておく。
【0056】
このとき、純水は流路2内を流れ、貫通孔21bからチューブ72を介して外部に純水が排出される。図3で説明したように、このとき、純水は圧力ヒューズ3の端部30には流れ込むことはないので、気体検出装置31は端部30中に気体があることを検出する。従って、駆動部32が駆動中のシリンジポンプ7を停止させることはない。
【0057】
その後、チューブ72を折ることで、流路2に供給された純水が外部に排出できないようにした状態で、シリンジポンプ7を押して、貫通孔21aから流路2に純水を供給する。
【0058】
このとき、純水は、最初のうちは流路2内を流れるが、外部に排出されないためその圧力P1は徐々に上昇する。その後、圧力P1が上述の圧力Pgmより大きくなると、圧力ヒューズ3の端部30に純水が流れ込む。このとき、気体検出装置31は端部30中に気体がないことを検出し、その旨の信号を駆動部32に送信する。この信号を駆動部32が受信したとき、駆動中のシリンジポンプ7を停止させる。
【0059】
すなわち、マイクロ化学システム1’は圧力ヒューズ3だけでなく、気体検出装置31を有しているので、その検出により流路2が詰まっている等の理由で試料溶液に圧力がかかっていることを確実に知ることをできる。さらには、マイクロ化学システム1’は駆動部32を有しているので、圧力ヒューズ3の端部30に試料溶液が流れ込んだときに、オペレータがシリンジポンプ7のスイッチをオフする必要がなくなり、チューブ71と貫通孔21aの接続部等で液漏れが生じることをより確実に防止することができる。
【0060】
尚、上記実施の形態では、流路2に本実施の形態の圧力ヒューズ3を構成する分岐流路を設けていたが、流路の一部が撥水処理された部品がシリンジポンプ7の下流側に配置されており、圧力ヒューズ3としての機能を確実に発揮できるのであれば、これに限定されるものでない。例えば、流路2に上記分岐流路を形成せず、図6に示すように、チューブ71を内径1.8mmのT字型のガラスチューブ71’とし、その一端60aに内径0.02mmの撥水処理したガラスチューブ61を入れ込んだものを圧力ヒューズとしてもよい。
【0061】
このとき、ガラスチューブ71’の一端60bからシリンジポンプ7により純水を流すと、一端60c側に純水は流れ込む一方、一端60a側に流れ込んだ純水は、ガラスチューブ61の先端で純水は止まる。しかし、一端60cを塞いで、一端60bからシリンジポンプ7により純水を流すと、ガラスチューブ71’内部の純水の圧力P1は徐々に上昇し、圧力P1が約0.1気圧となったときに、ガラスチューブ61内に純水が流れ込むことがわかった。
【0062】
すなわち、図6に示すように、ガラスチューブ61をガラスチューブ71’に入れ込むだけで、簡単に圧力ヒューズを組み立てることができる。また、かかる構成にすると、圧力ヒューズの下流部を構成するガラスチューブ61は、圧力ヒューズの上流部を構成するガラスチューブ71’の一端60aよりその接液長に対する断面積の比が小さくなり、ガラスチューブ71’を流れる試料溶液をガラスチューブ61の境界で確実に留めることができる。
【0063】
また、図6に示す変形例では、圧力ヒューズとなるガラスチューブ61は1つであったが、図7に示すように、複数のガラスチューブ61を入れ込むことが可能なガラスチューブ71”をチューブ71の代わりに用いても良い。この場合、1つのガラスチューブ61が異物等で詰まり、非常時において圧力ヒューズの役目を果たさないようになってしまっても、異物等で詰まりやすい部分にガラスチューブ61を複数形成しておけば、他のガラスチューブ61が圧力ヒューズの役目を果たすことができる。これにより、より安定した圧力ヒューズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る圧力ヒューズを備えるマイクロチップを含むマイクロ化学システムの概略構成を示す図である。
【図2】図1におけるマイクロチップの製造処理を説明するのに用いられる図である。
【図3】図1における圧力ヒューズの圧力制御機構を説明するのに用いられる図である。
【図4】図1のマイクロ化学システムの変形例の概略構成を示す図である。
【図5】図4の気体検出装置による気体検出機構を説明するのに用いられる図である。
【図6】図1のマイクロ化学システムの他の変形例の概略構成を示す図である。
【図7】図6のガラスチューブの変形例の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1 マイクロ化学システム
2 流路
3 圧力ヒューズ
7 シリンジポンプ
71,72 チューブ
100 マイクロチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を流す主流路から分岐する、流体を充填する副流路からなり、前記副流路の下流部は、前記液体に対する濡れ角が90度以上であることを特徴とする圧力ヒューズ。
【請求項2】
前記流体は前記液体との相溶性がないことを特徴とする請求項1記載の圧力ヒューズ。
【請求項3】
前記副流路の下流部は、前記副流路の上流部を構成する流路に入れ込まれた管であることを特徴とする請求項1又は2記載の圧力ヒューズ。
【請求項4】
前記下流部は、前記上流部よりその接液長に対する断面積の比が小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の圧力ヒューズ。
【請求項5】
前記下流部は、前記上流部に複数接続することを特徴とする請求項3又は4記載の圧力ヒューズ。
【請求項6】
前記下流部に前記液体が存在することを検出する検出器を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の圧力ヒューズ。
【請求項7】
前記主流路は、マイクロチップの内部の流路であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の圧力ヒューズ。
【請求項8】
前記主流路は、マイクロチップに前記液体を供給する配管であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の圧力ヒューズ。
【請求項9】
前記マイクロチップの内部の流路は断面積が1mm以下であることを特徴とする請求項7又は8記載の圧力ヒューズ。
【請求項10】
請求項6記載の圧力ヒューズを備える送液システムであって、前記検出器による検出があったときに、前記主流路への前記液体の送液を停止することを特徴とする送液システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−164452(P2008−164452A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354630(P2006−354630)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】