説明

圧力吸収能を備えた容器のレトルト圧力制御方法とその支援システム

【課題】 本発明が解決しようとする課題は、容器内圧計算をより現実に即したものとし、更に容器の圧力吸収部位の吸収能をも加味して容器の永久変形を生じさせることのない圧力制御範囲を演算して自動制御可能なレトルト釜の圧力制御を実現させると共にその支援システムを提供することにある。
【解決手段】 本発明のレトルト圧力制御方法は、0.5%以上10.0%以下の圧力吸収パネルを胴部の少なくとも一部に付与したプラスチック容器を用いて、パネル陰圧吸収状態にある容量最小時の内圧を圧力制御の上限圧力、パネル陽圧吸収状態にある容量最大時の圧力を下限圧力となる範囲内で圧力制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧力吸収パネル(陰圧・陽圧吸収)を付与したプラスチック密封容器のレトルト殺菌処理における、合理的な圧力制御に関する。
【背景技術】
【0002】
食品詰め密封容器の多くは、密封充填後にレトルト釜で加熱殺菌することによって、長期間の品質保持を可能にしている。レトルト釜での殺菌は、容器詰め飲料の場合多くは、バッチ式、即ち密封容器をバスケット内に密集して並べ、それを多段に重ねた状態で収納して、レトルト釜内で所定時間蒸気又は熱水(以下、加熱媒体という)を循環させて接触させることにより容器を加熱して殺菌を行っている。このレトルト釜での加熱殺菌は常温から加熱し、所定時間高温を保った後冷却して常温に戻すという工程を踏む。容器内は内容物が充填されてるだけではなくヘッドスペース(以下HSと略称する。)と呼ばれる部分に気体が存在している。容器が加熱されると容器自体も内容物も気体も熱膨張する。特に気体は熱変化の影響が大きくそれが容器の内圧となって作用する。そのため、従来からボイルシャルルの法則を用いて槽内温度から容器内圧を計算し、その圧力に見合う圧力を容器外面にかけるように槽内圧力を制御する、所謂等圧制御が行われている。
【0003】
しかしこの容器内圧の計算式は封入ガス量の熱変化だけが対象であり、内容物(液体)の熱膨張は要素に入れられておらず、充填時のHS量の影響、圧力吸収部位(パネルや蓋)の影響は計算要素に入れられていない。そのため、実際の容器内圧値と計算値との差が大きく容器の変形を起こさせる外観不良を起こさせる危険性が高い。プラスチック容器をレトルト殺菌する場合、ガラス転移点以上では剛性は低く金属缶と比較すると全くないようなものであるので、容器の内外で圧力差が生じると、容易に永久変形してしまう。この圧力差を吸収する手段としてカップ容器では蓋部や底部に凹凸形状を持たせたり、ボトルの場合には胴部に凹凸形状を形成した圧力吸収パネルを設けるようにしている(特許文献1、2参照)。しかし、その差圧吸収能力も決して大きいものではないため、カップ容器をレトルト殺菌する場合、容器に圧力差を与えないように等圧制御で槽内圧力パターンを設定している。
【0004】
また、上記の容器内圧計算では、内容物の品温を槽内温度と等しいものとして計算しているため、実際の内圧との誤差を生じこれも外観不良を起こさせる危険性を高くしている。この誤差を小さくするためには、昇温時、冷却時の温度勾配を緩くする、すなわち、昇温時間、冷却時間を長く設定し、内容物の品温と槽内温度との差を少なくする必要があった。この問題点を解決するものとして特許文献3が提示されている。この発明はレトルト滅菌機内に収納された加熱滅菌される含気容器内の液状物について、気相部温度と、液相部の表面温度と、液相部の液底温度とをそれぞれ測定し、前記気相温度からガス分圧を計算し、液表面温度から飽和蒸気圧を計算し、液表面温度と液底部温度との平均温度から液膨張による圧力を計算し、含気容器内圧を演算してレトルト滅菌機の槽内圧力を制御するようにした圧力制御方法である。この発明は内容液の熱膨張、HS温度、品温を計算要素としているため、実際の容器内圧との誤差が比較的少ないという効果を奏するものの、充填時のHS量の影響、容器の圧力吸収部位の影響は計算要素に入れられていないので、より厳密な圧力制御ができないと容器の外観不良を起こさせる危険性が高いという問題を持っている。
【0005】
また、特許文献4には内容液の品温を槽内温度から逐次伝熱計算式を用いて算出して等圧制御する方法が開示されている。すなわち、昇温・定加熱・冷却処理のレトルト工程において、逐次伝熱計算式を利用して、槽内温度より含気容器内の水分の温度を求めて含気容器内圧を導き出し、この圧力に基づきレトルト処理の圧力制御をする含気形態の密封容器製品のレトルト処理方法とした。この方法では含気容器内の水分の温度すなわち、品温を求めてその値で容器内圧を計算しているので、実際の容器内圧との誤差は小さくなり、それに起因する外観不良の危険性は低くなった。また、品温をもとに計算するため槽内温度との差を小さくする必要はなく昇温時間や冷却時間を短く設定することができる効果がある。しかしこの発明でも容器内圧の計算式は封入ガス量の熱変化だけが対象であり、内容物(液体)の熱膨張や、充填時のHS量の影響、圧力吸収部位(パネルや蓋)の影響は計算要素に入れられていない点では従来のものと同様であり、実際の容器内圧値との差が大きく容器の変形を起こさせる外観不良を起こさせる危険性が高いという問題を持っている。
【0006】
そういう状況の下で、従来の等圧制御の圧力パターンの設定は、昇温→定加熱→冷却というレトルト工程における製品ごとにカップ蓋材の凹凸またはボトルの圧力吸収パネルの変形を人が槽内を観察しながら、最適な圧力パターンを手動で設定するという手間暇の掛かる作業を必要としている。また、等圧制御に用いられている容器内圧の計算は、内容物の体積は変化しない(熱膨張なし)とした条件で計算しているので、HS量と容器内圧の関係を捉えていないという問題を持っている。
【特許文献1】特表平6−500979号公報 「高パネル力レトルトプラスチック容器」 平成6年2月3日公表
【特許文献2】特表2004−519394号公報 「レトルト可能なプラスチック容器」 平成16年7月2日公表
【特許文献3】特開平4−20276号公報 「含気容器詰の液状処理物の加熱滅菌時における圧力制御方法」 平成4年1月23日公開
【特許文献4】特開2001−54375号公報 「含気形態の密封容器製品のレトルト処理方法」 平成13年2月27日公開
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プラスチック容器をレトルト殺菌する場合、等圧制御の圧力パターンの設定は、容器の変形を観察しながら最適な圧力パターンを手動で設定していることに鑑み、本発明が解決しようとする課題は、容器内圧計算をより現実に即した緻密なものとし、更に容器の圧力吸収部位の吸収能をも加味して容器の永久変形を生じさせることのない圧力制御範囲を演算して自動制御可能なレトルト釜の圧力制御を実現させると共にその支援システムを提供すること、また、殺菌時の釜内圧力を可能な範囲で低く抑えると共に、圧力パターンの設定工数を少なくして設備コストの低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレトルト圧力制御方法は、圧力吸収能が0.5%以上5.0%以下の圧力吸収パネルを胴部の少なくとも一部に付与したプラスチック容器を用いて、レトルト時にパネル陰圧吸収状態にある容量最小時のレトルト釜の内圧を圧力制御の上限圧力、パネル陽圧吸収状態にある容量最大時の圧力を下限圧力となる範囲内で圧力制御する。
本発明のレトルト圧力制御方法は、更に、パネル陰圧吸収状態にある容量最小時の内圧、パネル陽圧吸収状態にある容量最大時の内圧を、充填温度、HS量、封入ガス量、容器の熱収縮量を要素とした計算で設定した圧力を用いるようにした。
本発明のレトルト圧力制御方法は、容量最小時の設定内圧は式(a)(Y<0)、容量最大時の設定内圧は式(a)(Y>0)で算出した圧力値P(単位MPa)を用いるようにした。
P=Pa+Pw−0.1
=0.098×(1.03×T×X×Z)÷293{D×X+Y+100(1−D)}+Pw−0.1
‥‥‥‥‥‥ (a)
ここで、Pa:ガス圧で、Pw:飴和水蒸気圧 (単位は共にMPa)
T:レトルト温度(単位はK)
D:D=Dtl/Dt2(Dtl:充填温度の内容液の比重、Dt2:レトルト温度の内容液の比重)
X:充填直後のヘッドスペース(以下HS)のボトル容量に占める割合%
Y:圧力吸収パネルのボトル容量に占める割合%(陽圧吸収Y>0、陰圧吸収Y<0)
Z:HSと封入ガス量Aの比で Z=A/HS
なお、式中の0.1は大気圧で、P値をゲージ圧値に合わせるためのもの。
また、本発明のレトルト圧力制御方法は、式(a)の圧力吸収能のボトル容量に占める割合Yがレトルト殺菌中の熱収縮量を引いた値とすることで容器の熱収縮量を計算要素に取り込むようにした。
【0009】
本発明のレトルト殺菌処理をする容器の充填方法は、レトルト釜内圧力、容器の圧力吸収能、レトルト殺菌の温度パターンに対して、適正圧力パターンの範囲となるような充填条件(充填温度、HS量、封入ガス量)を式(a)に基づいて算定したテーブルを準備し、そのテーブルに基づいて充填条件を選定するようにした。
本発明のレトルト釜内の圧力制御支援システムは、入力手段、記憶手段、演算手段とディスプレイとを備え、圧力吸収能を含む容器に関するデータと、充填条件を入力すると共に釜内温度パターンを特定するデータ入力一覧表をディスプレイ上に表示させ、各該当欄に値を入力手段を用いてこの表に必要情報が入力されたならば、演算手段は記憶手段に記憶された演算式に基づいて演算を実行し、上限圧力値と、下限圧力値とを算出させる機能を備えたものである。
さらに、演算された上限圧力値と下限圧力値のカーブと共に、レトルト釜内温度と品温実測値、そして定容量制御の圧力値パターンを時間軸を合わせてグラフ表示画面でディスプレイ上に表示させ、この表示画面において上限圧力値と下限圧力値の間で適宜の圧力値をプロットすればその点を曲線または直線で繋ぐ制御パターンを特定することが出来る機能を備えたものである。
また、本発明のレトルト殺菌する容器の圧力吸収能設計支援システムは、入力手段、記憶手段、演算手段およびディスプレイとを備え、前記記憶手段には式(a)が蓄積され、前記入力手段によって入力されたレトルト釜内の上限圧力及び下限圧力設定値と、充填温度、HS量、封入ガス量を含む充填条件を基に、前記演算手段により式(a)に基づいて必要な圧力吸収能を算出し、その結果を前記ディスプレイに表示する機能を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレトルト圧力制御方法は、圧力吸収パネルを胴部の少なくとも一部に付与したプラスチック容器の圧力吸収能を積極的に利用したものであるから、殺菌時の釜内圧力を低く抑えることが出来、設備のコストを低くできる。また、HS量を小さくすることができ、ホットパック製品の封入ガス量と同等程度にすることができる。具体的にはパネル陰圧吸収状態にある容量最小時の内圧を圧力制御の上限圧力、パネル陽圧吸収状態にある容量最大時の圧力を下限圧力となる範囲内で圧力制御するため、従来のように容器の変形を観察しながら最適な圧力パターンを手動で設定する必要がなくなり、自動制御による稼働が可能となった。また、容器に永久変形を来すことがない圧力パターンの幅が広がり、圧力パターンの設定工数を低減できる。
また、本発明のレトルト圧力制御方法は、レトルト時にパネル陰圧吸収状態にある容量最小時のレトルト釜の内圧値と、パネル陽圧吸収状態にある容量最大時の内圧値を、充填温度、HS量、封入ガス量を含む充填条件を要素とした緻密な計算で求めるものであるから、適正圧力制御幅を数値化することができ、人の観察を必要としない自動制御を精度よく行うことができる。
式(a)の圧力吸収能のボトル容量に占める割合Yがレトルト殺菌中の熱収縮量を引いた値とすることで、容器の熱収縮量を計算要素に取り込む更に緻密な計算を実現した。
【0011】
本発明のレトルト殺菌処理をする容器の充填方法は、レトルト釜内圧力、容器の圧力吸収能、レトルト殺菌の温度パターンに対して、適正圧力パターンの範囲となるような充填条件(充填温度、HS量、封入ガス量)を式(a)に基づいて算定したテーブルを予め準備しておくことにより、そのテーブルに基づいて充填条件を容易に選定することができる。
本発明のレトルト釜内の圧力制御支援装置は、ディスプレイ上に表示されたデータ入力一覧表上に圧力吸収能を含む容器に関するデータと、充填条件を入力すると共に釜内温度パターンを特定するという簡単な操作を行うだけで記憶手段に記憶された演算式に基づいて演算を実行し、上限圧力値と、下限圧力値とを算出する機能を備えているので、熟練技術者でなくても容易に必要データを取得することが出来る。
更に、演算された上限圧力値と下限圧力値のカーブと共に、レトルト釜内温度と品温実測値、そして定容量制御の圧力値パターンを時間軸を合わせてグラフ表示画面でディスプレイ上に表示させ、この表示画面において上限圧力値と下限圧力値の間で適宜の圧力値をプロットすればその点を曲線または直線で繋ぐ制御パターンを特定することが出来る機能を備えたものであるので、熟練技術者でなくてもレトルト圧力制御パターンを容易に設定することが出来る。
また、本発明のレトルト殺菌する容器の圧力吸収能設計支援システムは、入力手段、記憶手段、演算手段およびディスプレイとを備え、前記記憶手段には式(a)が蓄積され、前記入力手段によって入力されたレトルト釜内の上限圧力及び下限圧力設定値と、充填温度、HS量、封入ガス量を含む充填条件を基に、前記演算手段により式(a)に基づいて必要な圧力吸収能を算出し、その結果を前記ディスプレイに表示する機能を備えたものであるから、使用する容器の圧力吸収能を簡単に設計することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を導き出す基礎として、レトルト時のボトル内圧計算式の詳細についてまず説明しておく。
充填前の空ボトルの容量をVc、充填温度T1、ヘッドスペースガス分圧P1、HS量V1は、VcのX%とすると、
V1=Vc×X÷100, 充填容量VL1は VL1=(1−X÷100)×Vc
充填重量Bは B=(1−X÷100)Vc×Dt1で表される。
ここで、Dt1は充填温度T1の内容液の比重である。
まず、レトルト殺菌中のヘッドスペースをV2、内容液容量をVL2とし、容器容量はレトルト殺菌中一定値Vcであると仮定すると共に、レトルト殺菌時のヘッドスペース温度をレトルト温度と仮定すると、レトルト殺菌温度がT2である時のガスの容器内圧P2は、ボイルシャルルの法則より、
P2=(P1×V1×T2)÷(T1×V2) ‥‥‥‥‥‥ (1)
また、V2=Vc−VL2で表されるから、
V2=Vc−B÷Dt2=Vc−(1−X÷100)Vc×Dt1÷Dt2
={1−(1−X÷100)Dt1÷Dt2}×Vc、
ここでDt2はレトルト殺菌温度がT2である時の内容液の比重である。D=Dt1/Dt2とすると、
V2=(X×D÷100+1−D)×Vc ‥‥‥‥‥‥ (2)
(1)、(2)式より、
P2=(T2×P1×V1)÷{T1×Vc×(X×D÷100+1−D)}‥‥(3)
充填冷却後の20℃の容器のヘッドスペースガス分圧をP3、HS量をV3、封入ガス量をAとすると、ボイルシャルルの法則より、
(P1×V1)÷T1=(P3×V3)÷293=0.098×1.03×A÷293
常温20℃に戻ったところでガス圧は大気圧になるものとして、これをMPaで表した。
P1×V1=0.098×1.03×A×T1÷293 ‥‥‥‥‥‥ (4)
(3)、(4)式より、
P2=(0.098×1.03×T2×A×T1÷293)÷{T1×Vc×(X×D÷100+1−D)}
=(0.098×1.03×T2×A÷293)÷{Vc×(X×D÷100+1−D)}
Z=A÷V1とすると、A=X×Z×Vc÷100で表されるから
P2={(0.098×1.03×T2×X×Z×Vc)÷(100×293))÷{Vc×(X×D÷100+1−D)}=(0.098×1.03×T2×X×Z)÷293{D×X+100(1−D)}
が導かれる。
【0013】
次ぎに、レトルト殺菌工程中の密封容器に影響する諸現象についての考察をしておく。
圧力吸収パネルが陽圧吸収能力を備えていれば加熱殺菌中パネルが凸状態となることで、HS量が大きくなり、ボトル内の圧力上昇は軽減される。このことは結果としてレトルト釜内圧力を小さくできることとなり、加圧設備のコストを低減することに繋がる。そこで、その陽圧吸収能力の程度とその容器における内圧値を比較測定した。その結果を表1に示す。このデータは吸収能力0%、0.1%、0.5%、1%、3%の5種類の容器を準備し、内容液の充填温度を85℃、HS量を容器容積の3%、封入ガス量とHS量の比を0.6とした条件の下で充填封入し、温度115℃、120℃、125℃の状態で測定したものである。なお、本発明ではヘッドスペース(HS)量は充填量から求める。また、封入ガス量はヘッドスペースのガス分圧から求める。
【表1】

表中*印となっているところは測定限界値0.5MPaを越えたものである。この表から確認できるように吸収能力が高ほど内圧上昇が抑制されており、0.5%以下のものでは125℃では測定限界値0.5MPaを越えてしまう。
【0014】
次ぎにHS量を変えたときの影響を検証する実験を行った結果を表2に示す。このデータは陽圧吸収能力1%、1.5%、3%、5%の4種類の容器を準備し、内容液の充填温度を85℃、封入ガス量とHS量の比を0.6とし、HS量を容器容積の0.1%、1%、2%、3%、4%、5%、10%として充填封入し、温度125℃の状態で測定したものである。
【表2】

この結果から、HS量は少ないほど加熱殺菌時の容器内圧が高くなること、しかし、吸収能力が高ければその内圧上昇を抑えることが出来ることが分かる。非圧縮性流体である内容液の熱膨張分は圧力吸収パネルの吸収能力でカバーできることにより、HS量をホットパック充填品と同等(3%以下)の充填条件で行ってレトルト殺菌が可能となる。
【0015】
次ぎに、圧力吸収パネルの陰圧吸収作用について考察する。レトルト殺菌工程において密封容器は、加熱昇温→定加熱→冷却という温度変化と周囲雰囲気からの圧力変化とを受ける。その過程の中で、状況に応じ容器は陽圧状態となったり陰圧状態となったりすることとなり、レトルト釜内圧力が容器内圧を超えた場合には陰圧状態となる。圧力吸収パネルが陰圧吸収能力を備えていることは陽圧吸収能力と同様に等圧制御における圧力パターンに許容幅を持たせるものとなり、充填条件、容器製造、品温等のバラツキによる容器内圧の差に対しても外観不良を防ぐことが出来る。
圧力吸収能力を持たない容器と圧力吸収能力が−1.5%、−3%の容器を準備し、充填条件として充填温度を85℃、HS量を3%、封入ガス量とHS量の比を0.6とし、熱水シャワーで昇温時間20分、殺菌を125℃で30分、そして冷却時間20分としてレトルト殺菌処理を行った。このとき、充填条件と品温にバラツキを持たせてレトルト後の容器外観を観察した。HS量のバラツキは±10%、容器容量のバラツキは±1.5%、品温のバラツキは±20℃とし、それぞれの容器に充填温度を±2℃と±5℃本来の充填温度とのバラツキがあるもので試験した。この結果を表3に示す。
【表3】

表中で○印は外観に変形がなかったもの、×印は外観に肩部変形や底バックリングといった変形が認められた容器である。圧力吸収能力を持たない容器ではいずれの場合のものも外観変形をきたすものが生じ、圧力吸収能力が−1.5%のものでは充填温度が2℃だけのバラツキの幅の方は変形しなかったが5℃バラツキを持ったものでは変形が認められた。また、−3%の圧力吸収能力を有する容器では充填温度が2℃のバラツキだけでなく5℃のバラツキを持ったものでも変形しなかった。充填温度、HS量、封入ガス量とHS量の比といった充填条件を適正に設定することで、内容液の熱膨張の影響を低くし、温度の高い殺菌工程でのHS量を大きくし、封入ガス密度低くできるので、レトルト釜内圧力を小さくでき、加圧設備のコストを低く抑えることが出来る。
なお、本明細書では、圧力吸収能(Y%)は、容器の外観の不良を起こさない範囲においてまず、20℃の水を容器に満注充填した状態にして、20℃の水を注入器により更に注入できる量Xを測定する。また、上記満注充填した状態において吸引器を用いて吸引できる体積Xを測定する。その結果から下式により求めるものとする。
圧力吸収能(Y%)=(X÷Vc)×100
但し、ここでVcは容器容量である。
【0016】
次ぎに、容器膨張時に2%の圧力吸収能力を持った容器を用い、熱水シャワーで20分昇温、125℃30分殺菌、20分冷却というレトルト殺菌を行い容器の外観不良を起こさない下限レトルト釜内圧力を充填条件を変えて実験した。充填条件はまず、充填温度について65℃と85℃の2種類、HS量についてはそれぞれ2%と3%に設定、封入ガス量とHS量の比は0.8、0.6、0.4の3種類とし、それぞれの組み合わせて実験した。結果は表4に示すようであった。
【表4】

当然のことながら充填温度は高いほど、HS量は大きいほど、そして封入ガス量とHS量の比は低いほど設備圧力は低くてよいことになる。
【0017】
続いて、圧力吸収能力を備えた容器におけるHS量と容器内圧との関係を示す。すなわち、圧力吸収能力が0%、0.5%、2%、3%の4種類の容器に充填温度を85℃とし、HSと封入ガス量Aの比Z(A/HS)を0.6に設定、充填温度の内容液とレトルト温度の内容液の比重の比Dは125℃の時1.03、100℃の時1.01であり、飽和蒸気圧は125℃の時0.23、100℃の時0.10である条件の下で、HS量に対して計算で得られる容器内圧値を図1のグラフに示す。図中Aは125℃殺菌温度へ持っていったときの値で、標準的なHS量の3%であるとすると膨張パネル能力が2%以上の容器であれば、容器の凸変形によってボトル内圧は0.3MPa以内に収まることが判る。また、図のBに示すグラフは125℃殺菌温度から冷却し100℃まで持ってきたときの値であるが、冷却により容器内が陰圧となっても圧力吸収能力を持った容器は凹変形し内圧は0.5MPa以上を示し低くならないことを示している。すなわち、圧力吸収能力を備えた容器では永久変形を起こしにくいことが示されている。
【0018】
以上考察してきた諸現象を勘案し、本発明ではこの圧力吸収能力によって差圧許容幅が広くなることに着目し、圧力吸収パネルの作用で容器の容積変化を伴うときの内圧変化を計算に取り込むことにした。そこで、容器容量はレトルト殺菌中VcのY%膨張、または収縮するものとした場合(膨張Y>0、収縮Y<0)の内圧変化を考察する。この場合、レトルト中の容器容量は(1+Y÷100)Vcで表され、レトルト殺菌中のHS量V2は次式で表される。
V2=(1+Y÷100)Vc−VL2=(1+Y÷100)Vc−B÷Dt2
=(1+Y÷100)Vc−(1−X÷100)Vc×Dt1÷Dt2
=(X×D÷100+Y÷100+1−D)Vc ‥‥‥‥‥‥(5)
(1)、(5)式より、レトルト中の容器内圧P2は次式で表される。
P2=(T2×P1×V1)÷{T1×Vc×(X×D÷100+Y÷100+1−D)}‥‥(6)
(4)、(6)式より、
P2=(0.098×1.03×T2×X×Z)÷293{D×X+Y+100(1−D)}
=0.098×(1.03×T2×X×Z)÷293{D×X+Y+100(1−D)} ‥‥‥‥(7)
が導き出される。
【0019】
容器が内外差圧によって永久変形されない限界値は圧力吸収能力に対応するので、容器の膨張限界と圧縮限界との間で雰囲気圧力が制御されれば、等圧制御としては問題が無く適正となる。そこで、本発明のレトルト殺菌方法では圧縮限界に相当する容量最小時の設定内圧と、膨張限界に相当する容量最大時の設定内圧は式(7)に基づいて計算するものとし、レトルト釜内圧力を制御する。前者のときのY値は負であり、後者のときのY値は正の数である。式(7)で算出した圧力値P(単位MPa)を用いる。
P=Pa+Pw−0.1
=0.098×(1.03×T×X×Z)÷293{D×X+Y+100(1−D)}+Pw−0.1
‥‥‥‥‥‥ (a)
ここで、Pa:ガス圧で、Pw:飽和水蒸気圧 (単位は共にMPa)
T:レトルト温度(単位はK)
D:D=Dtl/Dt2(Dtl:充填温度の内容液の比重、Dt2:レトルト温度の内容液の比重)
X:充填直後のヘッドスペース(以下HS)のボトル容量に占める割合%
Y:圧力吸収能力のボトル容量に占める割合%(陽圧吸収Y>0、陰圧吸収Y<0)
Z:HSと封入ガス量Aの比で Z=A/HS
なお、式中の‘0.1’は大気圧で、P値をゲージ圧値に合わせるためのもの。
【0020】
今、圧力吸収能力が膨張および圧縮について2%である容器に85℃の内容液をHS量3%の状態で充填密封し、10分掛けて常温から100℃までレトルト釜内を昇温し、次ぎの10分で125℃まで昇温、そのまま125℃を30分保って殺菌し、20分掛けて常温に戻す処理を行うものとして、従来の等圧制御に基づく釜内温度データと従来の等圧制御に基づく品温データを本発明の手法で解析してみたものを図2のAにグラフで示す。まず、図中●印の線がレトルト釜内温度、◎印の線が品温実測値である。そして、図中○印の線が従来の等圧制御に基づく釜内温度データであり、△印が従来の等圧制御に基づく品温データである。容器の圧力吸収能を考慮した本発明の解析法による式(a)の計算で下限圧力値と上限圧力値を計算してグラフに記入した。図中、下限圧力値は☆印の線と上限圧力値★印の線がそれである。このグラフから判るように○印の線で示された槽内温度データに基づく従来の等圧制御による圧力値も、△印で示された品温データに基づく従来の等圧制御による圧力値も共に殺菌期間中に下限圧力値を下回ってしまっているのが見て取れる。すなわち、この状態では容器に永久変形を残してしまうことになり、自動制御は行えない。従って、従来は人が容器の変形を観察しつつ手動で圧力調整を行っていたわけである。
【0021】
同じように、圧力吸収能力が膨張および圧縮について2%である容器に85℃の内容液をHS量5%の状態で充填密封し、10分掛けて常温から100℃までレトルト釜内を昇温し、次ぎの10分で125℃まで昇温、そのまま125℃を30分保って殺菌し、20分掛けて常温に戻す処理を行うものとして、槽内温度データに基づく従来の等圧制御と品温データに基づく従来の等圧制御を本発明の手法で解析してみたものを図2のBにグラフで示す。HS量を3%から5%に増やした例である。この場合は○印の線で示された槽内温度データに基づく従来の等圧制御による圧力値も、△印で示された品温データに基づく従来の等圧制御による圧力値も共に殺菌期間中ほぼ下限圧力値に等しくなっているので自動制御を行っても大きな問題を生じない状態であることがわかる。すなわち、従来法による制御であってもHS量値を5%まで大きく採れば自動制御が可能となることが判る。
【0022】
本発明のレトルト殺菌処理における圧力制御信号の決め方は、使用する容器の容量(ml),圧力吸収能(%)といった容器に関するデータと、充填温度(℃),HS量(ml),封入ガス量(ml)といった充填条件、そして釜内温度条件として昇温→殺菌→冷却の温度と時間の設定をすることにより、(a)式に基づいて上限圧力値と、下限圧力値とを算出する。この算出結果から上限圧力値と下限圧力値の間を制御値として採用すれば外観変形を起こすことのないレトルト殺菌処理が行える。ただし、上記の容器に関するデータや充填条件には大なり小なりのバラツキを伴うため、それを考慮して計算を行うとその分だけ上限圧力値と下限圧力値の間は狭くなる。容器の許容膨張限界である下限圧力値を少し越えた状態で圧力制御を行えば、レトルト釜内の圧力を小さく抑えることが出来る。
圧力吸収能が2%の容器に85℃の内容液をHS量3%、封入ガス量とHS量との比を0.6として充填し、10分掛けて常温から100℃までレトルト釜内を昇温し、次ぎの10分で125℃まで昇温、そのまま125℃を30分保って殺菌し、20分掛けて常温に戻すレトルト処理を行う場合であって、等圧制御を容器の容量不変とする本来の等圧制御を行うときの圧力信号値を算出しグラフに示したものを図3に示す。□印が付いた線で示された容量一定の圧力はこの様に◎印で示される上限圧力値と△印の線で示された下限圧力値のほぼ中央値を取ったものとなる。この値を採用すれば各設定データのバラツキに対しても安全率が高いものとなるが、圧力下限値よりかなり高めの設定となるので、その分設備には高い圧力を出せるものが必要となる。
【0023】
圧力吸収能が3%の容器に85℃の内容液をHS量3%、封入ガス量とHS量との比を0.6として充填し、10分掛けて常温から100℃までレトルト釜内を昇温し、次ぎの10分で115℃まで昇温、そのまま15℃を30分保って殺菌し、20分掛けて常温に戻すレトルト処理を行う場合であって、容器の容量不変とする等圧制御を行うときの圧力信号値を算出したものと、一定の圧力パターンをグラフに示したものを図4に示す。この場合も◎印が付いた線で示される容量不変の等圧制御の値は、□印の線で示された上限圧力値と△印の線で示された下限圧力値のほぼ中央値を取ったものとなる。また、この例のような圧力上限値と圧力下限値のカーブが得られたものでは●印が付いた線で示される一定の圧力を所定時間印加するだけの単純パターンで圧力制御しても容器に永久変形を起こすことがないことが判る。要するに、等圧制御パターンは圧力上限値と圧力下限値の中間値を採れば良いわけで、ステップ状の制御であっても折れ線形態の制御であってもよく、必要に応じて適宜の設定が可能である。なお、図中の〇印の線はレトルト釜内温度を示す。
【実施例1】
【0024】
本発明のレトルト殺菌方法を実施する際に等圧制御のための制御圧力設定を支援するシステムについて説明する。この支援システムは入力手段、記憶手段、演算手段とディスプレイとを備えた汎用のパソコンを用いて実現できる。キーボード等の入力手段から使用する容器の容量(ml),圧力吸収能(%)といった容器に関するデータと、充填温度(℃),HS量(ml),封入ガス量(ml)といった充填条件を入力する。この入力はディスプレイ上に図5の上側に示されるようなデータ入力一覧表を表示させ、各該当欄に値を入力する。釜内温度条件として昇温→殺菌→冷却の温度と時間の設定は複数の標準パターンを記憶させておきその中から選択出来るようにする。これに加え、温度と時間とを入力して自由パターンを設定できるようにしてもよい。また、各値にはバラツキが伴うことを勘案し、その幅を入力する欄を設けるようにしても良い。この表に必要情報が入力されたならば、実行キーをクリックし演算手段によって(a)式に基づいて上限圧力値と、下限圧力値とを算出させる。また、容器の容量を変化させない定容量制御の圧力値も算出させる。演算結果は図5の下側に示されるようなグラフ表示画面で上限圧力値と下限圧力値のカーブ、レトルト釜内温度と品温実測値、そして定容量制御の圧力値パターンを時間軸を合わせて表示させる。操作者はこの表示画面において上限圧力値と下限圧力値の間で適宜の圧力値をプロットすればその点を曲線または直線で繋ぐ制御パターンを特定することが出来る。また、定容量制御の圧力値パターン上を複数箇所プロットすると定容量制御の圧力値パターンが特定され、グラフ表示画面上に表示される。このようにして圧力制御パターンが特定されたならば、実行キーを押し、レトルト釜内の圧力制御を特定された圧力制御パターンに従って自動制御される。その際には操作者がレトルト釜内を観察しながら圧力の調整を行う必要はなく、容器の外観変形を起こすことのないレトルト殺菌処理が行える。
なお、レトルト殺菌工程での容器の変形は、加熱による容器の熱収縮によっても起こるため熱収縮率が2%以下であるボトルを用いる必要があるが、この例では1%のものを用いた。
なお、本明細書では、容器の熱収縮量は、125℃×30minのオートクレープ試験において、
熱収縮量%=100×(Vc−V)÷Vc
から求めるものである。ここでVc:容器容量,V:オートクレープ試験後の容器の容量
また、計算要素としては充填温度、HS量、封入ガス量といった充填条件の他、容器の熱収縮量、レトルト時のHS温度、内容物の溶存ガス量、レトルト殺菌中に発生するガス量などを採用するとさらに緻密な計算が出来る。
【0025】
以下に、本発明の手法によってレトルト殺菌を行う際、レトルト釜内圧力が0.35MPaまで可能なもの、0.3MPaまで可能なもの、0.2MPaまでしか対応できないものとしたとき、圧力吸収能が0.5≦Y<1.5,1.5≦Y<2.0,2.0≦Y<3.0,3.0≦Yの容器についての充填条件を算出したものを以下表に示す。表5に示したものはレトルト温度を125℃とし、HS量を0.5〜5%の場合である。
【表5】

この表の見方はレトルト釜内圧力が0.35MPaまで可能な設備であれば、充填温度が20〜95℃範囲で、かつZ値すなわち封入ガス量とHS量の比が0.1〜1.0の範囲まで圧力吸収能が0.5≦Y<1.5,1.5≦Y<2.0,2.0≦Y<3.0,3.0≦Yの容器すべてについて対応可能である。レトルト釜内圧力が0.3MPaまで可能な設備であっても、充填温度が20〜95℃範囲で、かつZ値が0.1〜1.0の範囲まで圧力吸収能が0.5≦Y<1.5,1.5≦Y<2.0,2.0≦Y<3.0,3.0≦Yの容器すべてについて対応可能である。そして、レトルト釜内圧力が0.2MPaまでしか可能でない設備であっても、充填温度が20〜95℃範囲で、かつZ値が0.1〜0.4の範囲であれば圧力吸収能が0.5≦Y<1.5,1.5≦Y<2.0の容器について本発明によるレトルト殺菌が可能であること、更に圧力吸収能2.0≦Y<3.0,3.0≦Yの容器についてはZ値が0.1〜1.0の範囲まで対応可能であることを示している。
表6に示したものはレトルト温度を125℃とし、HS量を0.5〜3%の場合である。
【表6】

この表からは、レトルト釜内圧力が0.35MPaまで可能な設備であれば、圧力吸収能が0.5≦Y<1.5の容器では充填温度が70〜95℃範囲で、かつZ値すなわち封入ガス量とHS量の比が0.1〜1.0の範囲まで対応が可能、圧力吸収能が1.5≦Y<2.0の容器では充填温度が50〜95℃範囲で、かつZ値すなわち封入ガス量とHS量の比が0.1〜1.0の範囲まで対応が可能、そして圧力吸収能が2.0≦Y<3.0,3.0≦Yの容器については充填温度が20〜95℃範囲で、かつZ値が0.1〜1.0の範囲まで圧力吸収能が対応可能である。レトルト釜内圧力が0.3MPaまで可能な設備では、圧力吸収能が0.5≦Y<1.5の容器については充填温度が70〜95℃範囲で、かつZ値が0.1〜0.8の範囲であれば対応可能であり、圧力吸収能が1.5≦Y<2.0の容器については充填温度が50〜95℃範囲で、Z値が0.1〜1.0の範囲で対応可能であり、圧力吸収能が2.0≦Y<3.0,3.0≦Yの容器については充填温度が20〜95℃範囲で、Z値が0.1〜1.0の範囲で対応可能であること。そして、レトルト釜内圧力が0.2MPaまでしか可能でない設備であっても、圧力吸収能が0.5≦Y<1.5の容器では充填温度が70〜95℃範囲で、かつZ値が0.1〜0.3の範囲まで対応が可能、圧力吸収能が1.5≦Y<2.0の容器では充填温度が60〜95℃範囲で、かつZ値が0.1〜0.4の範囲であれば、本発明によるレトルト殺菌が可能であること、圧力吸収能が2.0≦Y<3.0の容器については充填温度が40〜95℃範囲で、Z値は0.1〜1.0の範囲にわたって本発明によるレトルト殺菌が可能であること、更に圧力吸収能が3.0≦Yの容器については充填温度が20〜95℃範囲で、かつZ値が0.1〜1.0の範囲まで対応可能であることを示している。
【0026】
レトルト温度123℃とし、HS量を0.5〜5%の場合を表7に示す。
【表7】

レトルト温度123℃とし、HS量を0.5〜3%の場合を表8に示す。
【表8】

レトルト温度120℃とし、HS量を0.5〜5%の場合を表9に示す。
【表9】

レトルト温度120℃とし、HS量を0.5〜3%の場合を表10に示す。
【表10】

レトルト温度118℃とし、HS量を0.5〜5%の場合を表11に示す。
【表11】

レトルト温度118℃とし、HS量を0.5〜3%の場合を表12に示す。
【表12】

レトルト温度115℃とし、HS量を0.5〜5%の場合を表13に示す。
【表13】

レトルト温度115℃とし、HS量を0.5〜3%の場合を表14に示す。
【表14】

以上のデータからの分かるように、本発明では容器の圧力吸収能力を有効に活用し、容器内圧の計算についても関連するデータを計算要素に組み込んだ緻密な計算を実行するようにしたため、レトルト釜内圧力が0.2MPaまでのものであっても、115℃以上の高温レトルト殺菌を行える。この様に予め式(a)を用いて、レトルト設備圧力、容器の圧力吸収能、レトルト殺菌の温度パターンに対して、適正圧力パターンの範囲となるような充填条件(充填温度、HS量、封入ガス量)を式(a)に基づいて算定した表5乃至表14にようなテーブルを準備しておけば、そのテーブルに基づいて充填条件を容易に選定することができる。
【0027】
本発明では、レトルト釜内の温度、圧力パターン、容器データおよび充填条件の関係が精度良く数値化できることから、レトルト釜内の上限圧力及び下限圧力設定値と、充填温度、HS量、封入ガス量を含む充填条件から、レトルト殺菌する容器として必要とされる圧力吸収能を算出することが可能である。
上記の制御圧力の設定を支援するシステムと同様な入力手段、記憶手段、演算手段およびディスプレイとを備えたパーソナルコンピュータをハードウエアとし、前記記憶手段には前述した式(a)を蓄積しておき、前記入力手段によってレトルト釜内の上限圧力及び下限圧力設定値と、充填温度、HS量、封入ガス量を含む充填条件が入力されたときに、前記演算手段により式(a)に基づいて必要な圧力吸収能を算出する。その結果を前記ディスプレイに表示させる機能を備えておけば、レトルト殺菌する容器の圧力吸収能設計支援システムが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】圧力吸収能を備えた容器の膨張時と収縮時のHS量と容器内圧の関係を示すグラフである。
【図2】演算された上限圧力値と下限圧力値のカーブと共に、レトルト釜内温度と品温実測値、そして従来の等圧制御圧力パターンを時間軸を合わせて表示したグラフである。
【図3】レトルト温度125℃の容器に永久変形を起こさせない圧力パターンの範囲を示すグラフである。
【図4】レトルト温度115℃の容器に永久変形を起こさせない圧力パターンの範囲を示すグラフである。
【図5】本発明に係るレトルト釜内の圧力制御支援装置におけるディプレイ表示画面の例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力吸収能が0.5%以上5.0%以下の圧力吸収パネルを胴部の少なくとも一部に付与したプラスチック容器を用いて、レトルト時にパネル陰圧吸収状態にある容量最小時のレトルト釜の内圧を圧力制御の上限圧力、パネル陽圧吸収状態にある容量最大時の圧力を下限圧力となる範囲内でレトルト釜内の圧力を制御することを特徴とするレトルト圧力制御方法。
【請求項2】
パネル陰圧吸収状態にある容量最小時の内圧値と、パネル陽圧吸収状態にある容量最大時の内圧値を、充填温度、ヘッドスペース(HS)量、封入ガス量を含む充填条件を要素とした計算で求めることを特徴とする請求項1に記載のレトルト圧力制御方法。
【請求項3】
容量最小時の設定内圧値は負の値であるYを用い、容量最大時の設定内圧値は正の値であるYを用いて式(a)で算出した圧力値P(単位MPa)を用いることを特徴とする請求項2に記載のレトルト圧力制御方法。
P=Pa+Pw−0.1
=0.098×(1.03×T×X×Z)÷293{D×X+Y+100(1−D)}+Pw−0.1
‥‥‥‥‥‥ (a)
ここで、Pa:ヘッドスペースガス圧で、Pw:飽和水蒸気圧であり単位は共にMPa
T:レトルト温度(単位はK)
D:D=Dtl/Dt2(Dtl:充填温度の内容液の比重、Dt2:レトルト温度T時の内容液の比重)
X:充填直後のヘッドスペース(HS)のボトル容量に占める割合%
Y:圧力吸収能力のボトル容量に占める割合%(陽圧吸収Y>0、陰圧吸収Y<0)
Z:HSと封入ガス量Aの比で Z=A/HS
【請求項4】
式(a)の圧力吸収能のボトル容量に占める割合Yがレトルト殺菌中の熱収縮量を引いた値とすることで容器の熱収縮量を計算要素に取り込むことを特徴とする請求項3に記載のレトルト圧力制御方法。
【請求項5】
レトルト釜内圧力、容器の圧力吸収能、レトルト殺菌の温度パターンに対して、適正圧力パターンの範囲となるような充填条件(充填温度、HS量、封入ガス量)を式(a)に基づいて算定したテーブルを準備し、そのテーブルに基づいて充填条件を選定することを特徴とする充填方法。
【請求項6】
入力手段、記憶手段、演算手段とディスプレイとを備え、圧力吸収能を含む容器に関するデータと、充填条件を入力すると共にレトルト釜内温度パターンを特定するデータ入力一覧表をディスプレイ上に表示させ、各該当欄に値を入力手段を用いてこの表に必要情報が入力されたならば、演算手段は記憶手段に記憶された演算式に基づいて演算を実行し、上限圧力値と、下限圧力値とを算出させる機能を備えたものであるレトルト釜内の圧力制御支援システム。
【請求項7】
演算された上限圧力値と下限圧力値のカーブと共に、レトルト釜内温度と品温実測値、そして定容量制御の圧力値パターンを時間軸を合わせてグラフ表示画面でディスプレイ上に表示させ、この表示画面において上限圧力値と下限圧力値の間で適宜の圧力値をプロットすればその点を曲線または直線で繋ぐ制御パターンを特定することが出来る機能を備えたものである請求項6に記載のレトルト釜内の圧力制御支援システム。
【請求項8】
入力手段、記憶手段、演算手段およびディスプレイとを備え、前記記憶手段には式(a)が蓄積され、前記入力手段によって入力されたレトルト釜内の上限圧力及び下限圧力設定値と、充填温度、HS量、封入ガス量を含む充填条件を基に、前記演算手段により式(a)に基づいて必要な圧力吸収能を算出し、その結果を前記ディスプレイに表示する機能を備えたことを特徴とするレトルト殺菌する容器の圧力吸収能設計支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−122023(P2006−122023A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318369(P2004−318369)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】