説明

圧力容器およびそのライナーの製造方法

【課題】 溶着部における不具合の発生が抑えられた圧力容器を提供すること。
【解決手段】 本発明の圧力容器は、溶着される端部21,21をもつ一対のライナー分体2,2と、各ライナー分体2,2の各端部21,21の内部に配置された一対の環状部材3,3と、を熱板溶着で溶着してなるライナー1をもつ。そして、このライナー1は、各ライナー分体2,2同士、各環状部材3,3同士、および各ライナー分体2,2と各環状部材3,3の少なくとも一部が溶着していることを特徴とする。本発明の圧力容器は、環状部材3によりライナー分体2の変形が抑えられたことで、ライナー1の溶着部における不具合の発生が抑えられている。この結果、本発明の圧力容器は、高圧の加圧物質の貯留に効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CNG(圧縮天然ガス)等の各種圧縮ガス、LNG(液化天然ガス),LPG(液化石油ガス)等の各種液化ガス、水素ガス等のその他の各種加圧物質を充填するための圧力容器および圧力容器に用いられるライナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種圧縮ガスや各種液化ガス等の種々の加圧物質を充填して保存するための容器に圧力容器がある。圧力容器のひとつに、中空形状の樹脂製のライナーに金属製の口金部を取り付けた構成をした容器がある。
【0003】
中空形状の樹脂製のライナーは、たとえば射出成形により成形された二つのライナー分体を熱板溶着して製造している。熱板溶着を用いたライナーは、たとえば、特許文献1に示されている。
【0004】
圧力容器のライナーように体格の大きな成形体を得るときには、溶着される分体自体の体格も大きくなっていた。ライナー分体自体の体格が大きくなると、ライナー分体の成形時の精度の誤差や、分体自身の重量による変形が生じやすくなっていた。このため、樹脂製の分体を熱板溶着で溶着するときには、分体の溶着面にズレが生じやすくなっていた。溶着面にズレが生じると、溶着部に段差が発生して溶着面積が減少して十分な溶着強度が得られなくなる。特に、耐圧性が要求される圧力容器においては、設計どおりの溶着強度が得られないことは、大きな問題となっていた。
【0005】
また、圧力容器においては、その内部に多量の加圧物質が充填できることが求められており、ライナーの薄肉化が進められている。ライナーの薄肉化は、ライナー分体自体の薄肉化によりなされる。ライナー分体が薄肉化されると、ライナー分体の剛性が低下し、溶着部におけるズレがより生じやすくなるという問題があった。
【0006】
また、熱板溶着は、二つのライナー分体のそれぞれの溶着面を熱板に当接して溶融させ、溶融した部分を圧接した状態で冷却することで行われている。熱板溶着は、ライナー分体が溶着した溶着部にバリが発生するという問題があった。バリは、溶着部において繰り返しの応力集中により発生するクラックの起点になる。特に、圧力容器のライナーは、圧力容器に加圧物質を充填することで内部の熱や圧力が変化しやすく、繰り返しの応力によるクラックが発生しやすくなっている。このため、クラックの発生しないライナーが求められている。
【特許文献1】特開2004−211783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、溶着部における不具合の発生が抑えられたライナーをもつ圧力容器およびそのライナーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らは圧力容器について検討を重ねた結果、ライナー分体の溶着される端部に環状部材を配した状態で熱板溶着を行ったライナーをもつ圧力容器とすることで上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の圧力容器は、溶着される一方の端部をもつ一方のライナー分体と、一方のライナー分体の一方の端部の内部に配置された一方の環状部材と、溶着される他方の端部をもつ他方のライナー分体と、他方のライナー分体の他方の端部の内部に配置された他方の環状部材と、を熱板溶着で溶着してなり、各ライナー分体同士、各環状部材同士、および各ライナー分体と各環状部材の少なくとも一部が溶着したライナーをもつことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の圧力容器のライナーの製造方法は、片方の端部が縮径した円筒形状をもつ一対のライナー分体を形成する分体形成工程と、一対のライナー分体の他の片方の端部同士を熱板溶着により溶着する溶着工程と、を有する圧力容器のライナーの製造方法であって、熱板溶着が、各ライナー分体の他の片方の端部の端面の内周形状と一致する外周形状をもつ環状部材を配設した状態で行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の圧力容器は、ライナー分体の端部に環状部材を配した状態で熱板溶着を行うことで、熱盤により加熱したライナー分体の端部が変形を生じようとしてもこの環状部材が外形の変形を規制し、溶着部の溶着面積の減少を抑えている。溶着部の溶着面積の減少が抑えられたことで溶着強度の減少が抑えられる。また、少なくとも一部がライナー分体と溶着した環状部材同士が溶着することで、溶着部の溶着面積が増加し、溶着強度が増加している。さらに、その後の工程で溶着により発生した外周に発生したバリを取り除くことで、クラックの起点となるバリを除去できる効果を発揮できる。すなわち、本発明の圧力容器は、溶着部における不具合の発生が抑えられたことで、高圧の加圧物質の貯留に効果を発揮するライナーを備えている。
【0012】
本発明の圧力容器のライナーの製造方法は、溶着面となるライナー分体の端部に環状部材を配した状態で熱板溶着を行うことで、溶着部におけるライナー分体の変形が発生しなくなっている。また、その後の工程で溶着により発生した外周に発生したバリを取り除くことで、クラックの起点となるバリを除去できる効果を発揮できる。すなわち、本発明の製造方法は、溶着部における不具合の発生が抑えられたことで、高圧の加圧物質の貯留に効果を発揮するライナーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の圧力容器は、溶着される端部をもつ一対のライナー分体と、各ライナー分体の各端部の内部に配置された一対の環状部材と、を熱板溶着で溶着してなるライナーをもつ。そして、このライナーは、各ライナー分体同士、各環状部材同士、および各ライナー分体と各環状部材の少なくとも一部が溶着している。
【0014】
一対のライナー分体は、溶着される端部をもつ。そして、この端部において溶着されたときにライナーを形成できる形状に形成されている。ライナー分体は、片方の端部が縮径した円筒形状をもつ部材である。そして、このライナー分体の他の片方の端部同士を溶着することで、両端部が縮径した円筒形状のライナーを形成できる。
【0015】
一対の環状部材は、ライナー分体の端部の内部に配置される。環状部材が配置されることでライナー分体の端部が変形したときに環状部材に当接して、これ以上の端部の変形が規制される。環状部材は、ライナー分体の端部の端面の内周形状と一致する外周形状をもつことが好ましい。ここで、ライナー分体の端部の端面は、略円筒形状のライナーの断面形状である円形を有しており、環状部材は円環状を有することが好ましい。
【0016】
そして、一対のライナー分体の端部に一対の環状部材を配置した状態で熱板溶着が行われる。この熱板溶着は、環状部材を配置したライナー分体を溶着できる熱板溶着であればその条件や方法などは特に限定されるものではない。すなわち、従来から熱板溶着として知られている方法を用いることができる。
【0017】
本発明の圧力容器のライナーは、熱板溶着により、ライナー分体同士、各環状部材同士、および各ライナー分体と各環状部材の少なくとも一部が溶着している。ライナー分体と環状部材の少なくとも一部が溶着することで、ライナー分体と環状部材が一体となり、溶着部の溶着面積が増加する。そして、溶着強度が増加する。
【0018】
本発明の圧力容器のライナーは、熱板溶着時に環状部材をライナー分体の端部の端面に配置したことで、この端面におけるライナー分体の形状変化が規制されている。この結果、熱板溶着時にライナー分体の端部の端面の形状変化が生じなくなり、形状変化による溶着面積の低下を生じさせることなく溶着している。
【0019】
また、環状部材を配置した状態で熱板溶着を行ったことで、加熱された分体および環状部材が溶融・流動してバリが発生する。バリはクラックの起点となることから、バリを除去することで溶着部にクラックが発生しなくなる。すなわち、本発明の圧力容器のライナーは、溶着後に溶着部に生じたバリを除去したことが好ましい。この結果、溶着部における不具合の発生が抑えられたライナーとなる。ライナーの外周面に形成されたバリは、切削加工等で簡単に除去することができる。
【0020】
本発明の圧力容器において、一対のライナー分体を構成する樹脂は、熱板溶着により溶着が可能な樹脂であり、かつライナー内に充填される加圧物質を透過しない樹脂であれば限定されるものではない。また、環状部材の材質についても、熱板溶着により溶着が可能な樹脂であり、かつライナー分体と溶着する樹脂であれば特に限定されるものではない。
【0021】
各ライナー分体および各環状部材はいずれも同じ樹脂よりなることが好ましい。環状部材がライナー分体を構成する樹脂と同じ樹脂よりなると、熱板溶着を行ったときには環状部材がライナー分体の端部の内周面と溶着したときの溶着強度にすぐれることとなる。この溶着により、ライナー分体と環状部材とが一体になり、一対のライナー分体の溶着部の溶着面積が増加する。溶着面積の増加は、溶着強度の増加を示す。なお、環状部材の径方向内方にバリが発生しても、環状部材の径方向の突出量によりバリとライナーとの距離が確保でき、このバリにおけるクラックの影響を抑えることができる。
【0022】
環状部材の断面形状については、分体の他方の端部の内周面と略一致する外周面をもつことができる形状であれば、特に限定されるものではない。たとえば、方形状や三角形状の断面形状とすることができる。
【0023】
環状部材がライナー分体を構成する樹脂と同じ樹脂よりなるときには、方形状の断面をもつことが好ましい。環状部材が方形状の断面を有するときに、環状部材の径方向の突出量は、分割面における分体の厚さの1〜2倍であることが好ましい。径方向の突出量が分体の厚さより小さくなると分割面における形状の保持が困難となるとともに環状部材の内周面側に形成されるバリとライナーとが近接するようになる。また、径方向の突出量が分体の厚さの2倍を超えると突出長さが過剰となり、ライナー内部の容積が減少する。
【0024】
環状部材の厚さ(ライナーの軸方向における厚さ)は、分割面における分体の厚さの1.5〜4倍であることが好ましい。環状部材の厚さが分体の厚さの1.5倍より小さくなると分割面における形状の保持が困難となる。また、環状部材の厚さ分体の厚さの4倍を超えると厚さが過剰となり、ライナー内部の容積が減少する。
【0025】
ライナーの外周に、内部に繊維を備えた樹脂よりなる補強層を有することが好ましい。ライナーの外周に補強層をもつことで、ライナー内に高圧の加圧物質を充填したときに胴部が径方向外方に変形してライナーが破裂することを抑えることができる。本発明の圧力容器において、繊維は幅方向に配列した複数の炭素繊維よりなり、樹脂は熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂よりなることが好ましい。
【0026】
ライナーの外周に補強層を形成する方法は、限定されるものではない。従来、フィラメントワインディングと呼ばれる方法により補強層を形成することが好ましい。フィラメントワインディングは、フィラメントを撚糸せずに束状にしたものに樹脂を含浸させ、ライナーに巻き付けて成形する成形方法である。
【0027】
補強層の外周に熱収縮チューブが収縮してなる被覆樹脂層を有することが好ましい。被覆樹脂層をもつことで、補強層のフィラメントのズレが生じなくなり、圧力容器の破裂圧力が低下が抑えられる。
【0028】
具体的には、フィラメントワインディングは、フィラメントに樹脂を含浸させてライナーに巻き付けた後に加熱して樹脂を硬化している。加熱時に熱収縮チューブでライナーに巻き付けられたフィラメントを被覆することで、フィラメントに含浸した樹脂がフィラメントから垂れ落ちることを抑えることができる。すなわち、樹脂の垂れ落ちによる体積減少により生じるフィラメントの繊維のズレの発生を抑えることができる。
【0029】
また、従来はフィラメントの末端同士を結んでおり、含浸した樹脂がフィラメントから垂れ落ちると、フィラメントの結び目近傍の繊維にズレが発生することで結び目がゆるんでいた。結び目がゆるむと、フィラメントにおいて張力が維持できなくなり、圧力容器のライナーの破裂圧力が低下するという問題が発生していた。これに対して、熱収縮チューブでライナーを被覆するとフィラメントのズレが生じなくなり、圧力容器の破裂圧力の低下が抑えられる。
【0030】
さらに、熱収縮チューブでライナーの胴部を被覆すると、フィラメントの繊維のズレによる外周形状の変化が抑えられるため、圧力容器の外周形状が一定となる。圧力容器の外周形状が一定となると、さまざまな箇所への搭載性が向上する。
【0031】
また、本発明の圧力容器のライナーの製造方法は、片方の端部が縮径した円筒形状をもつ一対のライナー分体を形成する分体形成工程と、一対のライナー分体の他の片方の端部同士を熱板溶着により溶着する溶着工程と、を有する圧力容器のライナーの製造方法であって、熱板溶着が、各ライナー分体の他の片方の端部の端面の内周形状と一致する外周形状をもつ環状部材を配設した状態で行われる。このライナーの製造方法により、上記した圧力容器のライナーを製造することができる。
【0032】
本発明の圧力容器のライナーの製造方法において、環状部材は、ライナーを構成する樹脂と同じ樹脂よりなることが好ましい。
【0033】
本発明の圧力容器のライナーの製造方法は、各ライナー分体の溶着後に溶着部に生じたバリを除去する除去工程を有することが好ましい。
【0034】
ライナーの外周面にフィラメントワインディングを行う工程を有することが好ましい。フィラメントワインディングを行う工程は、フィラメントを撚糸せずに束状にしたものに樹脂を含浸させ、ライナーに巻き付ける工程と、加熱されると収縮する材質よりなる熱収縮チューブで少なくともフィラメントが巻き付けられた部分を被覆する被覆工程と、ライナーを加熱する加熱工程と、を有することが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0036】
本発明の実施例として、圧力容器を製造した。
【0037】
(実施例)
まず、予め成形した口金を金型内に配置し、この金型内に溶融したガス低透過性樹脂を射出してライナー1の分体2,2を成形する。ライナー分体2は、片方の端部20が縮径した円筒形状を有している。また、この縮径した片方の端部20に口金部22が形成された。ライナー分体2の端部21の端面210は円形である。また、一対のライナー分体2,2は、互いの分割面が同じ形状になるように形成されている。ライナー分体2の端部21での厚さは3mmである。ライナー分体2を図1に示した。
【0038】
一対のライナー分体2,2のそれぞれの端部21に環状部材3を配設する。この環状部材3は、軸方向の厚さ5mm、径方向の幅3mmの長方形状の断面の環状を有している。環状部材3は、径方向外方の表面3aがライナー分体2の端部21の内周面21aと一致するように形成されている。環状部材3が配設されたライナー分体2の端部21は、真円形状に保持されている。環状部材3が配設されたライナー分体2の断面を図2に示した。
【0039】
そして、環状部材3をライナー分体2の端部21に配設した状態で、各ライナー分体2,2の端面210,210を所定の温度に保持された熱盤4に当接し、端部21を加熱した。この加熱により、環状部材3およびライナー分体2の端部21を構成する樹脂が溶融し、樹脂が軟化して流動性が生じるようになった。所定時間加熱した後、各ライナー分体2,2を熱盤4から取り外し、お互いの端部21,21を当接して押圧した。このとき、各ライナー分体2,2の端部21の端面210,210は、環状部材3が配設されたことで、それぞれ真円形状が維持されている。ライナー分体2,2を熱盤4に当接した状態の端部21,21近傍の断面を図3に、ライナー分体2,2同士を端部21,21同士で当接した状態の端部21,21近傍の断面を図4に示した。
【0040】
加熱された一対のライナー分体2,2を互いに近接する方向に押圧すると、加熱により流動性が付与された樹脂同士が押されあい、ライナー分体2の表面近傍を構成していた樹脂は流動してライナー分体2の外部に押し出される。また、同様に流動性が付与された環状部材3を構成する樹脂は、環状部材3の径方向内方に向かって押し出される。
【0041】
そして、この状態で保持、冷却した。これにより、ライナー分体2,2の端部21,21を構成する樹脂が硬化し、一対のライナー分体2,2が溶着された。
【0042】
つづいて、溶着された溶着体の外周面に形成されたバリを切削加工で取り除いた。
【0043】
以上の方法により、本実施例の圧力容器のライナー1が製造できた。
【0044】
ライナー1の溶着部近傍の断面を図5に示した。図5に示したように、ライナー1は、一対のライナー分体2,2の端部21,21の端面210,210同士を、溶着面積の減少が抑えられた状態で溶着できている。また、溶着部においては、ライナー分体2,2と環状部材3とがお互いに溶着するとともに、ライナー分体2,2同士および環状部材3,3同士が溶着していることから、広い溶着面積をもつことがわかる。つまり、高い溶着強度で溶着している。
【0045】
また、切削加工により、ライナー1の外表面には、クラックの起点となるバリが存在していない。つまり、ライナー1の外表面側からのクラックの発生が抑えられている。また、ライナー1の内部に形成されたバリは、環状部材3の径方向の内部に形成されており、ライナー1との間には環状部材3が存在している。つまり、ライナー1の内部に形成されたバリは、環状部材3によりライナー1との間隔が保持されており、仮に内部のバリにクラックが発生してもその影響がライナー1に伝達されなくなっている。このことから、実施例のライナー1は、バリに発生するクラックの影響を受けなくなっている。
【0046】
その後、多数の炭素繊維を撚糸せずに束状にしたものにエポキシ樹脂を含浸させ、ライナーの胴部に巻き付けた。具体的には、7μmの太さの炭素繊維24000本を撚糸せずに、断面が0.6×3mmの束状に形成された炭素繊維を3本同時にライナーに巻き付けた。このとき、ライナーに巻き付けられた炭素繊維の末端は、結ばれておらず、ライナーに巻き付けられた炭素繊維とライナー表面との間に位置している。つまり、炭素繊維の末端の外周に炭素繊維が巻き付けられ、この末端が抑えられている。
【0047】
炭素繊維が巻き付けられたライナーを熱収縮チューブの内部に挿入し、ライナーの外周面を熱収縮チューブで被覆した。熱収縮チューブは、加熱により収縮して縮径するチューブである。
【0048】
つづいて、熱収縮チューブで被覆されたライナーを加熱して炭素繊維に含浸したエポキシ樹脂を硬化させる。エポキシ樹脂の硬化のための加熱を行うと、まず、熱収縮チューブが収縮して縮径する。この熱収縮チューブの収縮により、炭素繊維およびエポキシ樹脂がライナー表面に圧着される。そして、この状態でエポキシ樹脂が硬化する。これにより、ライナーの外周に炭素繊維を内部に配置したエポキシ樹脂よりなる補強層が形成された。
【0049】
ライナーの表面に形成された補強層は、熱収縮チューブで炭素繊維を固定した状態でエポキシ樹脂を硬化して形成している。つまり、ライナーに巻き付けた状態で炭素繊維が固定されている。さらに、熱収縮チューブが炭素繊維に含浸したエポキシ樹脂が垂れ落ちることを防止している。この結果、エポキシ樹脂の垂れ落ちや炭素繊維のズレによる不具合が生じなくなっていることを示す。
【0050】
具体的には、炭素繊維がライナーに巻き付けられた状態で固定されたことで、炭素繊維のズレによる美観の低下が抑えられている。また、炭素繊維の末端に結び目がないことから、圧力容器の外周に結び目による突出部が存在しなくなり、圧力容器の外周形状が略真円形状となった。外周形状が一定となることで、搭載性が向上した。
【0051】
さらに、炭素繊維からのエポキシ樹脂の垂れ落ちが抑えられたことで、エポキシ樹脂層においても十分な厚みが得られた。すなわち、エポキシ樹脂層が破裂圧力を向上させた。
【0052】
補強層が形成された状態でのライナーの溶着部の断面を図6に示した。図6に示したように、ライナー1の外周に補強層5が、補強層5の外周に熱収縮チューブが収縮してなる被覆樹脂層6が形成されている。
【0053】
その後、一方の口金部をメクラ栓で目詰めした。
【0054】
以上の方法により本実施例の圧力容器が製造できた。
【0055】
本実施例の圧力容器は、一対のライナー分体を熱板溶着してライナーを製造している。このライナーは、溶着部においてライナー分体の端部の変形による溶着面積の減少が抑えられている。そして、分体と環状部材とで溶着している。すなわち、溶着面積の増加により溶着部の溶着強度が高くなっている。また、ライナーに近接した位置にバリが存在しないため、バリにおいて生じるクラックの発生が抑えられている。さらに、ライナーの外周に補強層が形成されており、破裂圧力が向上されている。また、補強層に炭素繊維がズレなく配列されたことで美観の向上とともに各種装置への搭載性が向上している。すなわち、本実施例の圧力容器は、高圧の加圧物質の貯留に効果を発揮する圧力容器となっている。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】分体を示した斜視図である。
【図2】環状部材が配設された分体の断面図である。
【図3】一対の分体が熱盤に当接した状態を示した図である。
【図4】一対の分体の他方の端部同士を当接した状態を示した図である。
【図5】ライナーの溶着部の断面図である。
【図6】圧力容器のライナーの溶着部の断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1…ライナー
2…分体 20…一端の端部
21…他端の端部 210…他端の端部の端面
22…口金部
3…環状部材 3a…径方向外方の表面
4…熱盤
5…補強層
6…被覆樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶着される一方の端部をもつ一方のライナー分体と、
該一方のライナー分体の該一方の端部の内部に配置された一方の環状部材と、
溶着される他方の端部をもつ他方のライナー分体と、
該他方のライナー分体の該他方の端部の内部に配置された他方の環状部材と、
を熱板溶着で溶着してなり、
各該ライナー分体同士、各該環状部材同士、および各該ライナー分体と各該環状部材の少なくとも一部が溶着したライナーをもつことを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記ライナーの外周に、内部に繊維を備えた樹脂よりなる補強層を有する請求項1記載の圧力容器。
【請求項3】
前記補強層の外周に熱収縮チューブが収縮してなる被覆樹脂層を有する請求項2記載の圧力容器。
【請求項4】
各前記ライナー分体および各前記環状部材はいずれも同じ樹脂よりなる請求項1記載の圧力容器。
【請求項5】
片方の端部が縮径した円筒形状をもつ一対のライナー分体を形成する分体形成工程と、
一対の該ライナー分体の他の片方の端部同士を熱板溶着により溶着する溶着工程と、
を有する圧力容器のライナーの製造方法であって、
該熱板溶着が、各該ライナー分体の該他の片方の端部の端面の内周形状と一致する外周形状をもつ環状部材を配設した状態で行われることを特徴とする圧力容器のライナーの製造方法。
【請求項6】
前記環状部材は、前記ライナーを構成する樹脂と同じ樹脂よりなる請求項5記載の圧力容器のライナーの製造方法。
【請求項7】
各前記ライナー分体の溶着後に溶着部に生じたバリを除去する除去工程を有する請求項5記載の圧力容器のライナーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−153176(P2006−153176A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346004(P2004−346004)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】