説明

圧延機および圧延方法

【課題】軸方向位置において上下で互いに補完し合うS字形状のロールクラウンを有し、互いに逆向きに軸方向に移動させてロールギャップの修正を行うことができる一対のワークロールを備える4重式圧延機の圧延において、狭幅材の圧延においては高いクラウン制御能力を保つことができ、広幅材の圧延においては逆クラウンを防止し、安定な通板が可能となる圧延機および該圧延機を使用した圧延方法を提供する。
【解決手段】一対のワークロールのロールクラウンが4次以上の高次関数で規定されるS字形状であると共に、該上下一対のワークロールの軸方向への移動量が0である時のロールギャップ形状が、ロール端部においてロールギャップが最大かつ該ギャップの変化率(勾配)がほぼ0となるようにロールクラウンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向位置において上下で互いに補完し合うS字形状のロールクラウンを有し、互いに逆向きに軸方向に移動させてロールギャップの修正を行うことができる一対のワークロールを備える4重式圧延機および該圧延機を使用する圧延方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の熱間圧延(熱延や厚板圧延)、あるいは冷間圧延においては、被圧延材の板クラウンや形状を制御する方法として、凸や凹形状のイニシャルクラウンをワークロールに付与する方法、ワークロールを水平面内で互いにクロスさせる方法、ロールベンディングによる方法、ワークロールをロール軸方向に上下で互いに逆向きに移動させる方法が採用されている。
【0003】
特許文献1には、被圧延材の板クラウンや形状を制御する方法として、図1に示すように、一対のバックアップロール5、6を備える4重式圧延機に、ロールクラウン3、4がS字形状に形成された上下一対のワークロール1、2を圧延スタンドに組み込んで、ワークロール1、2の軸方向に互いに逆向きに移動させる方法が開示されている(以下において、ワークロールを単に「ロール」ということがある)。
図1において、符号Bはロールバレル長を、δはワークロールの軸方向での移動量(シフト量)、Aは被圧延材を、Wは被圧延材の幅を、CLは圧延中心(ミル中心)を、それぞれ示している。
このようなロールは、ロール1、2を互いにロール軸方向に逆向きに移動すると、図1中符号Aで示す被圧延材の位置でのロールギャップの形状が変化するように上下で互いに補完し合うロールクラウンを有する。
【0004】
特許文献2には、同様に形状制御能力が高い圧延方法として、イニシャルクラウンが2次以下の項を含む3次関数曲線で表されるS字形状に形成されたワークロールを組み込んだ圧延機の圧延方法の発明が、また、特許文献3には、イニシャルクラウンが4次式以下の項を含む5次関数曲線で表されるワークロールを組み込んだ圧延機の圧延方法の発明がそれぞれ記載されている。このような高次奇関数の曲線で形成されたイニシャルクラウンを有するワークロールは、形状制御能力が高いことで知られており、上下ワークロールが形成する板幅方向ロールギャッププロフィルは、2次元曲線等の偶関数をプロフィルとする左右対称な凸型あるいは凹型のイニシャルクラウンをもつ上下ワークロールの板幅方向ロールギャップと同じ分布とすることができる。なお、このときのワークロールのイニシャルクラウンを等価ロールクラウン、あるいは等価イニシャルロールクラウンという。
このように、ロールクラウンが高次関数で表されるワークロールを配置して組み込まれた圧延機では、シフト量δに対応して2次曲線等の偶関数で表される左右対称な凸形の等価イニシャルロールクラウンから凹形の等価イニシャルロールクラウンにまで変更可能である。
【0005】
被圧延材が圧延される位置でのロールギャップの修正は、ロールシフト機構を設けることにより比較的簡易な設備で行える。換言すれば、この技術はロールシフト機構さえ有していれば適用可能であるため、ロール摩耗やサーマルクラウンの分散を目的とした比較的移動距離の短いシフト能力しか持たない既存の圧延機(ミル)であっても容易にクラウン制御能力を拡大できるという利点があった。
【0006】
一方、前記のように摩耗やサーマルクラウン分散を目的としたシフト能力しか持たないいわゆるショートストロークシフトミルにおいては、ワークロールの胴長とバックアップロールの胴長が大略等しいのが通例である。例えば、バックアップロール胴長が2000mmの圧延機において±100mmのワークロールシフト能力を持つミルでのワークロール胴長は2000〜2100mm程度である。
【0007】
したがって、このようなワークロール胴長とバックアップロール胴長がほぼ等しい圧延機に高次関数のロールクラウンを有するワークロールを適用した場合、狭幅の材料に対しては図1に示すように問題なく所望の板クラウンや形状制御を行うことができる反面、被圧延材の幅がロール胴長に近い広幅材料に対しては、図2に示すように、被圧延材の両側縁部(エッジ部)が両ロール端部近くまで達するため、ワークロールを互いに逆方向に軸方向にシフトを行うと圧延可能幅が減少してしまうため、シフト量は制限されることになる。
【0008】
一般に、圧延により鋼板等の板材を製造する圧延方法においては、幅方向の板厚の板クラウンがフラットになるように成形するが、上下のワークロールは圧延時に撓み、板クラウンは凸状(凸レンズ形)に成形される傾向にある。
【0009】
ロールクラウンが高次関数で規定できる、S字形状に形成されるワークロールにおいても、被圧延材の板クラウン量を低減するため、高次関数ロールのロール軸方向へのシフト量が0の状態での等価イニシャルロールクラウンは凸側に設定して、被圧延材の板クラウンをフラットにすることが要望される。
【0010】
しかしながら、上記のように広幅材の圧延においてはロールのたわみも小さくなる。たとえば、非特許文献1の図4.25に示されるように、圧延荷重が板クラウンに及ぼす影響は板幅がロール胴長の60%程度の時に最大であり、被圧延材が広幅になるにつれて減少する。このため、等価イニシャルロールクラウンが凸であると、被圧延材が幅広である場合、ロールの撓みが小さいため、被圧延材に逆クラウン、すなわち凹状の板クラウンが発生するばかりか、腹伸びなどの形状不良およびそれに起因する蛇行が発生し、通板安定性が損なわれるといった重大な問題があった。
なお、図1や図2、後述する図3では、ロールクラウン(ロールバレル形状)や被圧延材の板クラウンは、その特徴を強調するために、ロール半径の変化や板厚の変化を誇張して描いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭57−91807号公報
【特許文献2】特公平05−71322号公報
【特許文献3】特公平07−102377号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「板圧延の理論と実際」社団法人日本鉄鋼協会、昭和59年9月 1日、p.102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はかかる問題を有利に解決する手段を提供するものであって、軸方向位置において上下で互いに補完し合うS字形状のロールクラウンを有し、互いに逆向きに軸方向に移動させてロールギャップの修正を行うことができる一対のワークロールを備える4重式圧延機の圧延において、狭幅材では高いクラウン能力を保つことができ、広幅材の圧延においても、被圧延材の板クラウンが逆クラウンになることを防止し、また、安定な通板を可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の手段を採用する。
[1]軸方向位置において上下で互いに補完し合うS字形状のロールクラウンを有し、
互いに逆向きに軸方向に移動させてロールギャップの修正を行うことができる一
対のワークロールを備える4重式圧延機であって、該一対のワークロールのロー
ルクラウンが4次以上の高次関数で規定されるS字形状であると共に、該上下一
対のワークロールの軸方向への移動量が0である時のロールギャップ形状が、ロ
ール端部においてロールギャップが最大かつ該ギャップの変化率(勾配)がほぼ
0となるようにロールクラウンが形成されていることを特徴とする4重式圧延機。
[2]前記ロールクラウンが4次の関数式で与えられ、2次の係数Cと4次の係数
とが
=−(C/2)
の関係にあることを特徴とする、[1]に記載の4重式圧延機。
[3]前記ロールクラウンが6次の関数式で与えられ、2次の係数C、4次の係数C
および6次の係数C
=−C
=(C/3)
の関係にあることを特徴とする、[1]に記載の4重式圧延機。
[4]複数のスタンドからなるタンデム式圧延機において、少なくとも1スタンド以上
の圧延機に、請求項1〜3のいずれかに記載の4重式圧延機を配備したことを特
徴とするタンデム式圧延機。
[5]複数のスタンドからなるタンデム式圧延機において、被圧延材の進行方向に対し
て、上流側の少なくとも1スタンド以上の圧延機に、[1]〜[3]のいずれか
に記載の4重式圧延機を配備したことを特徴とするタンデム式圧延機。
[6][1]〜[3]のいずれかに記載の4重式圧延機により被圧延材を圧延する圧延
方法。
[7][4]または[5]に記載のタンデム式圧延機により被圧延材を圧延する圧延方
法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一対のワークロールのロールクラウンを4次以上の高次関数で規定されるS字形状とするとともに、該上下一対のワークロールの軸方向への移動量が0である時のロールギャップ形状がロール端部においてロールギャップが最大かつ該ギャップの変化率(勾配)がほぼ0となるように、ロールクラウンを形成したことにより、狭幅材の圧延においては高いクラウン能力を保つことができるのみならず、広幅材の圧延においても、被圧延材の板クラウンが逆クラウンになることを防止して、また、安定な通板をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】高次関数からなるロールクラウンを有するワークロールを用いて狭幅材を圧延する場合を示す。
【図2】高次関数からなるロールクラウンを有するワークロールを用いて広幅材を圧延する場合を示す。
【図3】高次関数からなるロールクラウンを有するワークロールの座標系を示す。
【図4】従来技術によるロールギャップの分布を示す。
【図5】本発明によるロールギャップの分布を示す。
【図6】本発明によるロールギャップの分布を示す。
【図7】従来技術によって圧延を行った場合の板厚プロフィル(板クラウン)を示す。
【図8】本発明によって圧延を行った場合の板厚プロフィル(板クラウン)を示す。
【図9】本発明によって圧延を行った場合の板厚プロフィル(板クラウン)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、S字形状のロールクラウンが高次関数で規定できることを踏まえ以下の知見を得た。
まず、図3に示すような座標系で、高次関数ワークロールのロールクラウン(ロールバレルの外形カーブ)rが式(1)のような3次関数である場合を考える。
【0018】
上下のワークロールは、ロールクラウンが点対称になるように配されるから、上下のワークロールのrをそれぞれr、rとすると、
【数1】

【数2】

となる。
【0019】
ロール軸方向の座標x、xはそれぞれ上ワークロール1、下ワークロール2のミル中心CL(圧延時に被圧延材の幅方向でのセンターラインが位置する。)からの距離を示し、右方向を正とする。
ただし、xはワークロール胴長の半幅で除した無次元化座標であり、胴長端部で±1の値をとる。
なお、図2からも分かるように、上ワークロール1と下ワークロールのロールクラウンは点対称、すなわちr(−x)=−r(x)になっているので、rの奇数次元の項には−(マイナス)符号がついている。
【0020】
上下ワークロール1、2を互いに逆方向にそれぞれδだけシフトした場合のロールギャップgは式(3)で与えられる。
【数3】

ただし、
【数4】

である。
【0021】
この時、式(3)の右辺第2項は圧延機中心(ミル中心)について対称な偶関数であり、イニシャルクラウン(圧延時にワークロールが撓むことを考慮して付与されている直径あたりのロールクラウン量)と等価と見なすことができる。なお、ロールの撓みは、放物線状であるので、偶関数で表現できる。
【0022】
シフト量δが最大の時、0の時、最小の時のそれぞれについて、等価イニシャルロールクラウン量Crは、
【数5】

となる。
【0023】
図4は最大等価イニシャルロールクラウン量Crmaxを1000μm、最小等価イニシャルロールクラウン量Crminを−400μmと設定した場合のロールギャップ形状を示したものである。なお、この場合、δmax=−δmin=0.05Bとして、C=−0.15mm、C=1.17mmである。
図4から分かるように、シフト量0の時においては300μm凸カーブと等価のロールで圧延することとなり、広幅材圧延時においてはロールのたわみも小さくなることから逆クラウンや腹伸びが発生しやすくなるという問題があったことは前述のとおりである。
【0024】
本発明者らは、このような事情に鑑み、圧延荷重がクラウンに及ぼす影響の大きい狭幅材圧延時には充分なクラウン制御能力を保持しつつ、圧延荷重による影響の小さい広幅圧延時には等価イニシャルロールクラウンを低減しうる高次ロールカーブを検討した結果、4次あるいは6次などのより高次の偶次係数を付与し、ロール端部においてロールギャップが最大となり、かつ、該ギャップの変化率(勾配)が0となるように設定することによって上記の課題が解決しうることを見出した。
【0025】
ここで、ロール端部においてロールギャップを最大とする理由は、胴長内で最大となるようなロールクラウンとすると、広幅材の圧延ではロールの撓みが比較的小さいために、胴長内での腹伸びおよび耳伸びの複合伸びを生じる恐れがあるためである。また、ロール端部でロールギャップの変化率(勾配)を0とする理由は、前記ロール端部においてロールギャップを最大とする条件においてロール端部のロールギャップをできるだけ小さくするためである。
【0026】
すなわち、本発明では、一対のワークロールのロールクラウンが4次以上の高次関数で規定されるS字形状であると共に、該上下一対のワークロールの軸方向への移動量が0である時(δが0の時)のロールギャップ形状がロール端部においてロールギャップが最大かつ該ギャップの変化率(勾配)がほぼ0となるように、ロールクラウンを形成する。
【0027】
また、本発明では、ロールクラウンの高次関数式を4次式で与え、2次の係数Cと4次の係数
とが
【数6】

の関係となるようにすることができる。
【0028】
さらに、ロールクラウンの高次関数式を6次式で与え、2次の係数C、4次の係数Cおよび6次の係数Cとが
【数7】

の関係となるようにすることができる。
【0029】
本発明について、さらに以下に詳述する。
まず最初に、より一般的に6次の高次関数からなるロールクラウンについてロールギャップ形状を導く。
上下ワークロールのロールクラウンr、r
【数8】

【数9】

であるので、
【0030】
【数10】

したがって、シフト量0の時、ロールギャップ形状gは下式で与えられる。
【0031】
【数11】

このようにシフト量0の時、ロールギャップ形状は偶数次の係数のみによって決まる。
これらの係数は、当然低次の方がロール中央部に及ぼす影響が大きいため、2次の係数は元々狭幅材圧延において所望されるクラウン制御能力範囲から決定した値のままとすべきであり、それより高次の4次あるいは6次係数のみをロール端部での変化率(勾配)が0となるように定めればよい。
【0032】
すなわち、シフト量0におけるロールギャップの変化率(勾配)は
【数12】

であるので、ロール端部、すなわちξ=±1における変化率(勾配)0の条件は
【数13】

である。
【0033】
したがって、最高次数が4次の場合には簡単に条件が定まって、
【数14】

とすることによってロール端部でのロールギャップ拡大を抑止することができる。
【0034】
この時、ロール端部でのロールギャップは
【数15】

となり、従来に較べてロールクラウンの半減が可能となるのである〔式(5)参照〕。
【0035】
このように高次係数Cを付加した場合のロールギャップの分布を図5に示す。細線が従来のギャップ形状、太線が本発明によるギャップ形状であり、計算条件は図4と同じである。ミル中央の±600mm程度の領域においては従来とまったく遜色ないクラウン可変性能が保たれており、かつ、シフト0時にはロール端部でのギャップ拡大が著しく抑止されていることがわかる。
【0036】
次に、最高次数が6次の場合についてであるが、この場合において仮に4次の係数を0とすると、この場合も簡単に
【数16】

と求まるが、この時のロール端部でのロールギャップは
【数17】

となり、上記の4次の場合よりも拡大抑止効果は少なくなってしまう。
【0037】
6次までの高次関数のロールクラウンにおいて、ロール端部での勾配を0としつつ、最もロールギャップを減少しうる条件は、式(12)の勾配が0となる条件がξ=0およびξ=±1でのみ成立する時である。
すなわち、式(12)が0となる条件をξについて解くと、
【数18】

であるので、これに式(13)を代入すれば、ξ=±1となる条件は
【数19】

となる。
【0038】
よって、
【数20】

式(11)より、
【数21】

となる。
【0039】
この時、ロール端部でのロールギャップは
【数22】

となり、従来の1/3にまでロールギャップを縮小することができるのである。
【0040】
このように高次係数CおよびCを付加した場合のロールギャップの分布を図6に示す。図5と同様、細線が従来のギャップ形状、太線が本発明によるギャップ形状である。従来と遜色ないクラウン可変性能が保たれている範囲は図5のものより若干縮小するものの、シフト量が0の時においてロール端部でのロールギャップ拡大に対してはさらに著しい抑止効果があることがわかる。
なお、奇数次の係数C、C、Cについては、式(11)から分かるように、シフト量0の時はロールギャップ形状に関与しないため説明を省略したが、特許文献3などに記載されている従来技術にしたがって、これらの係数を決めればよい。
【0041】
以上のように、本発明によれば、高次関数からなるロールクラウンにおいて、上下ワークロールの位置が一致した時のロールギャップ形状が、ロール端部においてロールギャップが最大かつ該ギャップの変化率(勾配)がほぼ0となるようにロールクラウンを決定することにより、ワークロール胴長とバックアップロール胴長がほぼ等しい圧延機において、広幅材の圧延において逆クラウンの発生を防止し、またそのことにより腹伸びなどの形状不良およびそれに起因する蛇行を生じることなく、安定な通板が可能となる。
【0042】
また、上記を満たす高次関数として、最高次数が4次までのワークロールのロールクラウンにおいては、2次の係数Cと4次の係数Cとが
【数23】

の関係にあることが好適であり、最高次数が6次までのロールクラウンにおいては、
2次の係数C、4次の係数Cおよび6次の係数Cとが
【数24】

の関係にあることが好適である。
【0043】
なお、上記の係数は本発明を適用するに最適な条件を示したものであり、若干の係数の増減を行ったとしても本発明に準ずるものであることは言うまでもない。
また、本発明において、ロール端部におけるロールギャップの変化率を「ほぼ0」と限定しているが、0あるいは実質的に0に近い値をも含むものとして、このように限定されている。
【実施例】
【0044】
以下において、本発明を熱延鋼帯の仕上圧延ラインにおけるタンデム式圧延機列に適用した実施例を説明する。
なお、本発明は以下の実施例に限られるものではなく、被圧延材として鋼以外の金属材料に、また圧延機としては単スタンドからなる圧延機にも適用できることはいうまでもない。
【0045】
実施例では、高次関数からなるロールバレル形状を有するワークロールを熱延鋼帯の仕上圧延ラインにおける7スタンドの4重式圧延機からなるタンデム式圧延機に本発明を適用した。
ロール胴長はワークロール、バックアップロールともに2400mmであり、ワークロールシフト可能量は±120mmである。
高次関数からなるロールバレル形状を有するワークロールをクラウン制御能力を必要とする前段のスタンドF1〜F3に適用した。表1に示すようにF1、F2には前記説明と同様に最大等価イニシャルロールクラウン量Crmaxを1000μm、最小等価イニシャルロールクラウン量Crminを−400μmとなるロールクラウンが設定され、F3には最大等価イニシャルロールクラウン量Crmaxを600μm、最小等価イニシャルロールクラウン量Crminを−200μmとなるロールクラウンが設定されている。また、後段のスタンドのF4〜F7は、S字状ではない通常のワークロールを備えた4重式圧延機であり、ワークロールベンディングのみの制御となっている。
【0046】
【表1】

【0047】
本タンデムミルを用いて、2種の素材(粗圧延直後の鋼板に相当)をそれぞれ、仕上寸法2.0mm厚×1200mm幅の高張力熱延鋼帯(「製品1」という)および5.0mm厚×2150mm幅の極低炭熱延鋼帯(「製品2」という)に圧延した。なお、素材の厚みは製品1では32mm、製品2では46mmである。
ワークロールシフト量は、表2に示すように製品1(1200mm幅)についてはほぼ制御能力最大であり、製品2(2150mm幅)については、被圧延材の幅寸法が胴長長さに近く、ワークロールをシフトする余裕がなく、シフト量を0mmとした。
【0048】
【表2】

【0049】
まず、比較例として、表3に示すように高次の偶次係数を0としてロールクラウンを設定して圧延を行った。図7に圧延の結果得られた板厚プロフィル(板クラウン)を示す。
図7から分かるように、製品1(1200mm幅)については問題なく良好な板厚プロフィル(板クラウン)を得ることができたが、製品2(2150mm幅)ついては約100μmの逆クラウンとなった。また、通板も不安定であり、F2、F3で腹伸び形状となるとともに、蛇行に起因してウェッジ(幅方向中央部の板厚に対する幅方向の両端部側に存在する板厚差)が発生した。
【0050】
【表3】

【0051】
次に、本発明例1として、表4に示すように4次の偶次関数を式(13)に従ってロールクラウンを設定して圧延を行った。図8に圧延の結果得られた板厚プロフィルを示す。
図8から分かるように、1200mm幅の製品については比較例とほぼ同じ良好なクラウンを得ることができるとともに、2150mm幅の製品についてはわずかな逆クラウンは残ったものの、板クラウンは比較例に比べて著しい改善が得られ、スタンド間の形状不良や蛇行などの圧延不安定現象はなく、通板も良好であった。
【0052】
【表4】

【0053】
さらに、本発明例2として、表5に示すように4次および6次の偶次関数を式(19)および式(20)に従ってロールクラウンを設定して圧延を行った。図9に圧延の結果得られた板厚プロフィルを示す。
【表5】

【0054】
図9から分かるように、製品1(1200mm幅)については比較例とほぼ同じ良好な板クラウンを得ることができるとともに、製品2(2150mm幅)についてはさらに板厚プロフィル(板クラウン)が改善され、ほぼフラットな製品が得られるとともに、スタンド間の形状不良や蛇行などの圧延不安定現象も皆無であり、通板も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明の適用によって、ワークロール胴長とバックアップ胴長がほぼ等しい圧延機においても、狭幅材の圧延においては、高いクラウン制御能力を保ちつつ、広幅材の圧延においては、逆クラウンを防止し、安定な通板が可能となる圧延機および圧延方法を提供することができ、鋼板等の金属材の圧延技術の向上に寄与することができる。
【符号の説明】
【0056】
1:上ワークロール
2:下ワークロール
3:上ワークロールのロールクラウン
4:下ワークロールのロールクラウン
5:上バックアップロール
6:下バックアップロール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向位置において上下で互いに補完し合うS字形状のロールクラウンを有し、互いに逆向きに軸方向に移動させてロールギャップの修正を行うことができる一対のワークロールを備える4重式圧延機であって、該一対のワークロールのロールクラウンが4次以上の高次関数で規定されるS字形状であると共に、該上下一対のワークロールの軸方向への移動量が0である時のロールギャップ形状が、ロール端部においてロールギャップが最大かつ該ギャップの変化率(勾配)がほぼ0となるようにロールクラウンが形成されていることを特徴とする4重式圧延機。
【請求項2】
前記ロールクラウンが4次の関数式で与えられ、2次の係数Cと4次の係数Cとが
=−(C/2)
の関係にあることを特徴とする、請求項1に記載の4重式圧延機。
【請求項3】
前記ロールクラウンが6次の関数式で与えられ、2次の係数C、4次の係数Cおよび6次の係数C
=−C
=(C/3)
の関係にあることを特徴とする、請求項1に記載の4重式圧延機。
【請求項4】
複数のスタンドからなるタンデム式圧延機において、少なくとも1スタンド以上の圧延機に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の4重式圧延機を配備したことを特徴とするタンデム式圧延機。
【請求項5】
複数のスタンドからなるタンデム式圧延機において、被圧延材の進行方向に対して、上流側の少なくとも1スタンド以上の圧延機に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の4重式圧延機を配備したことを特徴とするタンデム式圧延機。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の4重式圧延機により被圧延材を圧延する圧延方
法。
【請求項7】
請求項4または5に記載のタンデム式圧延機により被圧延材を圧延する圧延方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−91219(P2012−91219A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242723(P2010−242723)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】