説明

圧接型GTOサイリスタ

【課題】均一なターンオフ動作をさせ、ターンオフ動作の失敗による素子の破壊を抑制可能な圧接型GTOサイリスタを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる圧接型GTOサイリスタは、半導体基体12と半導体基体12上に平面視環状に配置されてカソード電極18を形成するエレメントパターンと、環状の中央近傍において、半導体基体12上に圧接されたゲート電極38と、ゲート電極38の所定方向の側面に接続されたゲートリード44とを備え、環状の中心位置である第1平面中心Aが、ゲート電極38の平面視における中心位置である第2平面中心Bに対し、所定方向にずれて位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧接型GTO(Gate Turn Off)サイリスタの構造に関するものであり、特に、電力用、工業用の製鉄圧延機駆動用インバータ、その他高電圧・大容量スイッチ等に適用されるセンターゲートタイプの圧接型GTOサイリスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のセンターゲートタイプの圧接型GTOサイリスタとしては、例えば特許文献1に示すようなものがある。特許文献1においては、熱膨張係数の違いによる異種材料間の接触部あるいは接合部に発生する熱応力を緩和し、かつ低加圧でも均一に加圧できる圧接型GTOサイリスタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−124948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のセンターゲートタイプの圧接型GTOサイリスタにおいて、半導体基体上に平面視環状に配置されてカソード電極を形成するエレメントパターンの環状の中心位置(第1平面中心)と、環状の中央近傍において半導体基体に圧接されるゲート電極の平面視における中心位置(第2平面中心)とは、同じ位置に配置されている。
【0005】
センターゲートタイプの圧接型GTOサイリスタでターンオフ動作を行う際には、カソード電極及びゲート電極より遮断電流が流れるが、この時電流はゲート電極のゲートリード引き出し側に偏って流れ始めるため、それに伴って半導体基体上に形成されたエレメントパターンの、ゲートリード引き出し側と、それと相反する側との間で動作の時間差が生じ(具体的には、相反する側の動作が遅れる)、ターンオフ動作に失敗し素子の破壊が起こる場合があるという問題があった。
【0006】
本発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、均一なターンオフ動作をさせ、ターンオフ動作の失敗による素子の破壊を抑制可能な圧接型GTOサイリスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる圧接型GTOサイリスタは、半導体基体と前記半導体基体上に平面視環状に配置されてカソード電極を形成するエレメントパターンと、前記環状の中央近傍において、前記半導体基体上に圧接されたゲート電極と、前記ゲート電極の所定方向の側面に接続されたゲートリードとを備え、前記環状の中心位置である第1平面中心が、前記ゲート電極の前記平面視における中心位置である第2平面中心に対し、前記所定方向にずれて位置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる圧接型GTOサイリスタによれば、半導体基体と前記半導体基体上に平面視環状に配置されてカソード電極を形成するエレメントパターンと、前記環状の中央近傍において、前記半導体基体上に圧接されたゲート電極と、前記ゲート電極の所定方向の側面に接続されたゲートリードとを備え、前記環状の中心位置である第1平面中心が、前記ゲート電極の前記平面視における中心位置である第2平面中心に対し、前記所定方向にずれて位置することにより、均一なターンオフ動作をさせ、素子の破壊を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態1にかかる圧接型GTOサイリスタの断面図である。
【図2】実施の形態1にかかる圧接型GTOサイリスタのエレメントパターンの上面図である。
【図3】実施の形態1にかかる圧接型GTOサイリスタの圧接部拡大断面図である。
【図4】実施の形態2にかかる圧接型GTOサイリスタの断面図である。
【図5】実施の形態2にかかる圧接型GTOサイリスタのエレメントパターンの上面図である。
【図6】実施の形態2にかかる圧接型GTOサイリスタの圧接部拡大断面図である。
【図7】前提技術としての圧接型GTOサイリスタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の前提技術としての圧接型GTOサイリスタは、図7に示すように、半導体基体12と、半導体基体12上に平面視環状に配置されてカソード電極18を形成するエレメントパターンと、環状の中央近傍において、半導体基体12上に圧接されたゲート電極38と、ゲート電極38の側面に接続されたゲートリード44と、ゲート電極38を支持するゲート支持体40と、カソード電極18上に形成されたカソード金属板30と、半導体基体12下に形成されたアノード電極14と、アノード電極14下に形成されたアノード金属板20と、半導体基体12の外縁を覆って形成されたエンキャップ材としての絶縁ゴム100とを備える。
【0011】
図7に示すYは、エレメントパターンの環状の中心位置(第1平面中心)であり、かつ、ゲート電極38の平面視における中心位置(第2平面中心)である。図の矢印に示すように、ターンオフ動作の際には、ゲート電極38中のゲートリード44側に偏った領域を電流が流れる。よって、Yから同心円状に形成されたエレメントパターンでは、ゲートリード44とは相反する側に位置するパターンの遮断電流の引きが悪くなり(図7のX参照)、動作の時間差が生じてしまう。よって、ターンオフ動作に失敗し、ゲートリードと反対側の素子の破壊が起こる。以下に示す実施の形態は、上記の問題を解決するものである。
【0012】
<A.実施の形態1>
<A−1.構成>
図1は本発明にかかる圧接型GTOサイリスタの構造を示した図である。図1に示すように圧接型GTOサイリスタは、半導体基体12と、半導体基体12上に平面視環状に配置されてカソード電極18を形成するエレメントパターンと、環状の中央近傍において、半導体基体12上に圧接されたゲート電極38と、ゲート電極38の側面に接続されたゲートリード44と、ゲート電極38を支持するゲート支持体40と、カソード電極18上に形成されたカソード金属板30と、半導体基体12下に形成されたアノード電極14と、アノード電極14下に形成されたアノード金属板20と、半導体基体12の外縁を覆って形成されたエンキャップ材としての絶縁ゴム100とを備える。アノード金属板20、カソード電極18は、モリブデン等の半導体基体12と線膨張係数が近い材料で形成されている。アノード金属板20には、支持ピン21で位置決めされた主電極22が固着されている。アノード電極14、ゲート電極38、カソード電極18は、例えばアルミニウムで形成することができる。エンキャップ材としては、形状、材質等は図に示すものに限られず、特に備えない場合があってもよい。
【0013】
さらに、カソード金属板30上に形成された主電極32と、ゲート電極38を圧接する皿バネ42と、ゲートリード44を包む絶縁筒46と、フランジ52を介して全体を支持するセラミックパッケージ50とを備える。
【0014】
図1に示すように、第1平面中心Aと、第2平面中心Bとは、ずれた位置になっており、第1平面中心Aが第2平面中心Bよりもゲートリード44側へずれた(偏心した)構造となっている。ゲート電極38と半導体基体12との接触面のうち、最もゲートリード44寄りの点が、第1平面中心と同じ位置となる。
【0015】
図2は、圧接型GTOサイリスタのエレメントパターンの上面図である。カソード電極18が環状のエレメントパターンを形成しており、その中心位置である第1平面中心Aは、半導体基体12の外縁を覆うエンキャップ材としての絶縁ゴム100の平面視における中心位置とは、ずれた位置となっている。なお絶縁ゴム100の平面視における中心位置は、ゲート電極38の第2平面中心Bと同じ位置である。
【0016】
ここで、半導体基体12の平面視における中心位置とその上に形成されるエレメントパターンの環状の中心位置である第1平面中心Aとは一致している。よって、半導体基体12は、絶縁ゴム100に対してゲートリード44側にずれて位置しており、絶縁ゴム100に覆われる割合が対称ではない構造となっている。エレメントパターンを形成した半導体基体12を偏らせた状態で絶縁ゴム100を形成することで、このような構造が容易に製作可能である。
【0017】
エレメントパターンを形成した半導体基体12を陰極、陽極、ゲート電極38を内装したパッケージ(図1参照)に装着する際、ゲートリード44側に第1平面中心Aが位置されるようにする。パッケージに装着した際は、絶縁ゴム100内径部にて位置決めされる。
【0018】
<A−2.動作>
図3は、圧接型GTOサイリスタの圧接部拡大断面図である。図3に矢印で示すように、ターンオフ動作を行った場合には、ゲート電極38のゲートリード44側に偏った位置に遮断電流が集中し、流れ始める。よって、ゲート電極38の第2平面中心Bからゲートリード44側にずらした位置がエレメントパターンの第1平面中心Aとなるように構成する。このように構成することにより、ターンオフ動作により電流が流れる際にエレメントパターンの環状中心近傍から遮断電流が流れ出すことになり、エレメントパターンに均一に電流が流れ、電流の偏りによる動作の遅れが生じることを抑制することができる。よって、ターンオフ動作の失敗を抑制し、素子の破壊が起こることを抑制できる。
【0019】
<A−3.効果>
本発明にかかる実施の形態1によれば、圧接型GTOサイリスタにおいて、半導体基体12と半導体基体12上に平面視環状に配置されてカソード電極18を形成するエレメントパターンと、環状の中央近傍において、半導体基体12上に圧接されたゲート電極38と、ゲート電極38の所定方向の側面に接続されたゲートリード44とを備え、環状の中心位置である第1平面中心Aが、ゲート電極38の平面視における中心位置である第2平面中心Bに対し、所定方向にずれて位置することで、第2平面中心Bよりもゲートリード44側にずれた第1平面中心Aを中心としたエレメントパターンを形成でき、第1平面中心A近傍から遮断電流が流れ出すことができるので、均一なターンオフ動作をさせ、素子の破壊を抑制することが可能となる。
【0020】
また、本発明にかかる実施の形態1によれば、圧接型GTOサイリスタにおいて、ゲート電極38と半導体基体12との接触面のうち最も前述の所定方向寄りの点が、第1平面中心と同じ位置であることで、より均一なターンオフ動作をさせることができる。
【0021】
また、本発明にかかる実施の形態1によれば、圧接型GTOサイリスタにおいて、第1平面中心Aは、半導体基体12の平面視における中心位置と同じ位置であることで、半導体基体12の平面視における中心位置から同心円状にエレメントパターンを形成したものを利用して、容易に第1平面中心Aと第2平面中心Bとをずらした構造を実現することができる。
【0022】
また、本発明にかかる実施の形態1によれば、圧接型GTOサイリスタにおいて、半導体基体12の外縁を覆って形成されたエンキャップ材としての絶縁ゴム100をさらに備え、絶縁ゴム100の平面視における中心位置は、第2平面中心Bと同じ位置であることで、半導体基体12等を装着するパッケージに対する絶縁ゴム100の位置関係は変更せずに、第1平面中心Aと第2平面中心Bとをずらした構造を実現することができる。
【0023】
<B.実施の形態2>
<B−1.構成>
図4は本発明にかかる圧接型GTOサイリスタの構造を示した図である。図1の構造と同様の構成要素であるが、半導体基体12のゲート電極38に対する位置関係が異なっている。他の構造については実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0024】
図1の構造とは半導体基体12の位置関係は異なるが、第1平面中心Aと、第2平面中心Bとは、ずれた位置になっており、第1平面中心Aが第2平面中心Bよりもゲートリード44側へずれた(偏心した)構造となっている。
【0025】
図5は、圧接型GTOサイリスタのエレメントパターンの上面図である。カソード電極18が環状のエレメントパターンを形成しており、その中心位置である第1平面中心Aは、半導体基体12の外縁を覆うエンキャップ材としての絶縁ゴム100の平面視における中心位置とは、ずれた位置となっている。なお絶縁ゴム100の平面視における中心位置は、ゲート電極38の第2平面中心Bと同じ位置である。
【0026】
ここで、半導体基体12の平面視における中心位置と絶縁ゴム100の平面視における中心位置とは一致している。半導体基体12の平面視における中心位置は、その上に形成されたエレメントパターンの第1平面中心Aに対してゲートリード44と相反する側にずれて位置しており、外縁において絶縁ゴム100に覆われる割合は対称な構造となっている。この構造では、エレメントパターンがずれる方向に半導体基体12が突出してしまうことがなく、突出部分の冷却効果が損なわれることがない。よって、半導体基体12のパッケージに対する位置関係は対称のまま保たれ均一な冷却が可能となり、熱暴走等の抑制に効果がある。
【0027】
エレメントパターンを形成した半導体基体12を陰極、陽極、ゲート電極38を内装したパッケージ(図1参照)に装着する際、ゲートリード44側に第1平面中心Aが位置されるようにする。パッケージに装着した際は、絶縁ゴム100内径部にて位置決めされる。
【0028】
<B−2.動作>
図6は、圧接型GTOサイリスタの圧接部拡大断面図である。図6に矢印で示すように、ターンオフ動作を行った場合には、ゲート電極38のゲートリード44側に偏った位置に遮断電流が集中し、流れ始める。よって、ゲート電極38の第2平面中心Bからゲートリード44側にずらした位置がエレメントパターンの第1平面中心Aとなるように構成する。このように構成することにより、ターンオフ動作により電流が流れる際にエレメントパターンの環状中心近傍から遮断電流が流れ出すことになり、エレメントパターンに均一に電流が流れ、電流の偏りによる動作の遅れが生じることを抑制することができる。よって、ターンオフ動作の失敗を抑制し、素子の破壊が起こることを抑制できる。
【0029】
<B−3.効果>
本発明にかかる実施の形態2によれば、圧接型GTOサイリスタにおいて、第2平面中心Bは、半導体基体12の平面視における中心位置と同じ位置であることで、半導体基体12のパッケージに対する位置関係は対称のまま保たれ均一な冷却が可能となり、熱暴走等の抑制に効果がある。
【0030】
また、本発明にかかる実施の形態2によれば、圧接型GTOサイリスタにおいて、半導体基体12の外縁を覆って形成されたエンキャップ材としての絶縁ゴム100をさらに備え、絶縁ゴム100の平面視における中心位置は、第2平面中心Bと同じ位置であることで、半導体基体12上に形成されたエレメントパターンのみがゲートリード44側にずれた構造となり、半導体基体12の外縁において、絶縁ゴム100に覆われる割合は対称な構造とすることができる。よって均一な冷却が可能となり、熱暴走等の抑制に効果がある。
【符号の説明】
【0031】
12 半導体基体、14 アノード電極、18 カソード電極、20 アノード金属板、21 支持ピン、22,32 主電極、30 カソード金属板、38 ゲート電極、40 ゲート支持体、42 皿バネ、44 ゲートリード、46 絶縁筒、50 セラミックパッケージ、52 フランジ、100 絶縁ゴム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基体と、
前記半導体基体上に平面視環状に配置されてカソード電極を形成するエレメントパターンと、
前記環状の中央近傍において、前記半導体基体上に圧接されたゲート電極と、
前記ゲート電極の所定方向の側面に接続されたゲートリードとを備え、
前記環状の中心位置である第1平面中心が、前記ゲート電極の前記平面視における中心位置である第2平面中心に対し、前記所定方向にずれて位置することを特徴とする、
圧接型GTOサイリスタ。
【請求項2】
前記ゲート電極と前記半導体基体との接触面のうち最も前記所定方向寄りの点が、前記第1平面中心と同じ位置であることを特徴とする、
請求項1に記載の圧接型GTOサイリスタ。
【請求項3】
前記第1平面中心は、前記半導体基体の前記平面視における中心位置と同じ位置であることを特徴とする、
請求項1に記載の圧接型GTOサイリスタ。
【請求項4】
前記第2平面中心は、前記半導体基体の前記平面視における中心位置と同じ位置であることを特徴とする、
請求項1に記載の圧接型GTOサイリスタ。
【請求項5】
前記半導体基体の外縁を覆って形成されたエンキャップ材をさらに備え、
前記エンキャップ材の前記平面視における中心位置は、前記第2平面中心と同じ位置であることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれかに記載の圧接型GTOサイリスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−69639(P2012−69639A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211885(P2010−211885)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】