説明

圧着端子、端子付電線及びその製造方法

【課題】電線に対する圧着端子の圧着高さを軸方向に大きく変えることなく、端子付電線の機械的強度の確保と、電線と圧着端子との間の接触抵抗の低下を両立させることを可能にする。
【解決手段】圧着端子10は、電線の導体22に圧着される導体バレル16を有する。導体バレル16は、その曲げ加工に伴って導体22に密着する内側面17を有する。この内側面17は、そのうち導体22の先端側部分に密着する面17bが導体22の根元側部分に密着する面17aよりも内方に突出する形状を有し、その曲げ加工により導体22の先端側部分を根元側部分よりも高圧縮させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に配索される電線の端末に圧着される圧着端子と、当該圧着端子を有する端子付電線及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁電線の端末に端子を装着するための手段として、圧着技術が多用されている。この圧着は、予め前記端子に形成されている導体バレルを金型によって前記絶縁電線の導体の端末にかしめることにより、行われる。
【0003】
しかし、この圧着技術では、前記導体バレルの圧着高さ(クリンプハイト)の設定が難しい。当該圧着高さを小さく設定すると、当該導体バレルと前記電線の導体との接触抵抗が下がるという利点が得られる半面、導体断面積の減少率が高いために機械的強度、特に衝撃的な荷重に対する引張強度(より具体的には圧着端子が電線を保持する強度)が低下するという不都合が生じる。逆に、前記圧着高さを大きく設定すると、機械的強度は高く維持することが可能である半面、当該導体バレルと前記電線の導体との接触抵抗が大きくなるという不都合が生じる。
【0004】
特に近年は、電線に含まれる導体の材質としてアルミニウムまたはアルミニウム合金の使用が検討されており、その使用にあたって前記圧着高さの設定が非常に難しいものとなっている。具体的に、当該アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面には接触抵抗低下の要因となる酸化皮膜が形成されやすく、その酸化皮膜の形成にかかわらず接触抵抗を十分に低下させるためには圧着高さを低くする設定しなければならない事情がある。従って、このようなアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導体をもつ端子付電線の機械的強度と接触抵抗の双方を満足させるような圧着高さの設定及び管理は容易ではない。
【0005】
そこで、特許文献1では、前記導体バレルに、圧着高さの大きい部分と圧着高さの小さい部分とを同時に形成する技術が開示されている。前記圧着高さの大きい部分は、導体の先端側部分に形成され、機械的強度の維持に寄与する。一方、前記圧着高さの小さい部分は、接触抵抗の低下に寄与する。
【特許文献1】特開2005−50736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載される端子付電線では、その端子のうち圧着高さの大きい部分と圧着高さの小さい部分との間に不連続な段差が存在する。この段差が大きくなるほど、端子に亀裂等の損傷が生じ易くなる。また、当該段差の大きい端子付電線を単一の圧着用金型にて製造することは事実上困難であり、実際には互いに圧着高さの異なる部分についてそれぞれ別の圧着用金型を用いなければならず、その管理はきわめて面倒である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、電線に対する圧着端子の圧着高さを軸方向に大きく変えることなく、端子付電線の機械的強度の確保と、電線と圧着端子との間の接触抵抗の低下を両立させることを可能にする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、相手方の端子と嵌合して電気的に接続される電気接続部と、端末において導体が露出する電線の当該端末に圧着される電線圧着部とを有する圧着端子であって、前記電線圧着部は、前記電気接続部から軸方向に延びる基部と、この基部から前記軸方向と交差する方向に延びる金属板からなり、前記電線の端末において露出する導体を抱き込むように曲げ加工される導体バレルとを有し、前記導体バレルは、その曲げ加工に伴って前記導体に密着する内側面を有し、この内側面は、当該内側面のうち前記導体の先端側部分に密着する面が前記導体の根元側部分に密着する面よりも内方に突出し、前記曲げ加工により前記導体の先端側部分を当該導体の根元側部分よりも高圧縮させる形状を有するものである。
【0009】
ここで「高圧縮」とは、圧着端子の電線圧着部が電線の導体を圧着する際の力を高くすることである。電線の導体が圧縮で圧着されると、圧着前の導体の断面積よりも圧着後の導体の断面積が小さくなる。その圧着前の導体の断面積に対する圧着後の導体の断面積の比率を以下「圧縮率」という。従って、高圧縮である場合には圧縮率が低く、圧縮を抑えた場合には相対的に圧縮率が高くなる。
【0010】
この圧着端子によれば、圧着端子の軸方向についてその圧着高さを大きく変化させなくても、当該圧着端子における導体バレルの内側面の形状が、端子付電線の機械的強度の確保と、電線と圧着端子との間の接触抵抗の低下を両立させることを可能にする。具体的に、前記導体バレルの内側面のうち電線の導体の先端側部分に密着する面は、当該導体の根元側部分に密着する面よりも内方に突出する分、当該導体の先端側部分に対してより大きな圧力で圧着し、これにより当該導体との接触抵抗を低下させる。一方、当該導体の根元側部分に密着する面は、当該根元側部分の圧縮を抑えることにより、この部分の断面積を大きく確保して当該部分での機械的強度(特に圧着端子が導体を保持する強度)の確保を可能にする。
【0011】
具体的に、前記導体バレルは、その内側面のうち前記導体の根元側部分に密着する面が当該導体の先端側部分に密着する面よりも凹んだ形状に成形されていてもよいし、前記導体バレルを構成する金属板の特定の周縁部分が内側に折り返されてその折り返された部分の表面が導体バレルの内側面の前側部分を構成していてもよい。いずれのものも、簡単な構造で導体の先端側部分と根元側部分との間に圧縮率の差をもたせることが可能である。すなわち、先端側部分では高圧縮することで圧縮率を低くする一方、本側部分では圧縮を抑えることで相対的に圧縮率を高くする。
【0012】
後者の場合、前記導体バレルは、前記基部の左右両側からそれぞれ延び、各導体バレルを構成する金属板のうち当該導体バレルが延びる方向の端部が内側に折り返されるとともに、その折り返し部分は当該折り返し部分の寸法が前記導体の先端側に向かうに従って大きくなる形状を有するものでもよい。この構造は、前記導体の圧縮率を軸方向について滑らかに変化させることを可能にする。
【0013】
また本発明は、端末において導体が露出する電線と、その端末に圧着される前記の圧着端子とを有する端子付電線であって、前記圧着端子の導体バレルが曲げ加工されることにより前記電線の端末の導体を抱き込むように当該導体に圧着されているものである。
【0014】
この端子付電線では、前記導体バレルの圧着高さが軸方向に均一となるように当該導体バレルが前記導体に圧着されていてもよい。このように導体バレルの圧着高さが一定であることは、その圧着高さの管理を容易にし、また圧着端子の強度にも有利である。しかも、当該圧着高さが一定であるにもかかわらず、上述のように導体バレルの内側面の形状が機械的強度の確保と接触抵抗の低下の両立を可能にする。
【0015】
この端子付電線において、前記基部の形状は軸方向に一定であってもよいし、当該基部のうち前記導体の先端側部分に対応する部分が当該導体の根元側部分に対応する部分よりも前記導体の径方向の内側に入り込んでいてもよい。後者の形状は、導体の先端側部分における圧縮率と根元側部分における圧縮率との差をさらに拡大することを可能にする。
【0016】
また本発明は、端末において導体が露出する電線と、その端末に圧着される圧着端子とを有する端子付電線を製造するための方法であって、金属板から前記の圧着端子を成形する端子成形工程と、前記圧着端子の電線圧着部に前記電線の端末の導体をセットし、当該圧着端子の導体バレルが前記電線の端末の導体を抱き込むように当該導体バレルを曲げ加工して当該導体に圧着する圧着工程とを含むものである。
【0017】
この方法では、前記の特徴を有する圧着端子を成形した後、当該圧着端子の導体バレルを導体に普通に圧着する(すなわち軸方向に導体高さを大きく変化させずに圧着する)だけで、導体の先端側部分と根元側部分との間に圧縮率の差をもたせることができ、これにより、端子付電線の機械的強度の確保と接触抵抗の低下とを両立させることができる。
【0018】
前記端子成形工程では、前記導体バレルの内側面のうち前記導体の先端側部分に密着する面が前記導体の根元側部分に密着する面よりも内方に突出するように当該根元側部分に密着する面をプレス成形により凹ませてもよい。この方法では、簡単な工程で導体バレルの内側面を好ましい形状にすることができる。
【0019】
また、前記端子成形工程では、前記導体バレルを構成する金属板の特定の周縁部分を内側に折り返してその折り返された部分の表面を導体バレルの内側面の前側部分にすることができる。この方法によれば、導体バレルの肉厚を減らすことなく、逆に増やして強度を高めながら、その内側面を好ましい形状にすることができる。
【0020】
前記圧着工程では、前記圧着端子における電線圧着部の基部のうち前記導体の先端側部分に対応する部分が、当該導体の根元側部分に対応する部分よりも前記導体の径方向の内側に入り込んだ形状を有するように、当該基部を変形させてもよい。
【0021】
以上の発明は、高圧縮での圧着、すなわち低い圧縮率での圧着が要求される場合、例えば、前記導体がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる場合に、特に有効である。当該導体がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものであって、その表面に酸化皮膜が形成され易い場合であっても、当該導体の先端側部分で高圧縮にすることにより前記酸化皮膜を破って接触抵抗を低下させることができる一方、根元側部分で先端側部分よりも圧縮を抑えることで機械的強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、圧着端子の導体バレルの内側面のうち前記導体の先端側部分に密着する面を前記導体の根元側部分に密着する面よりも内方に突出させておくことにより、当該導体バレルの圧着高さを軸方向に大きく変えなくても、端子付電線の機械的強度を十分に高く確保し、かつ、接触抵抗を低下させることができる効果がある。
【0023】
また、本発明に係る端子付電線の製造方法によれば、前記の導体バレルを有する圧着端子を予め成形しておくことにより、その後は当該圧着端子の導体バレルを電線側端末の導体に圧着させるだけで、前記機械的強度の確保と接触抵抗の低下とが両立する端子付電線を製造することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の好ましい実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明の第1の実施の形態において製造される端子付電線を示す。この端子付電線は、電線20と圧着端子10とを有する。前記電線20は、導体22と、この導体22を径方向外側から覆う絶縁被覆24とからなり、その端末において前記絶縁被覆24が部分的に除去されることにより前記導体22が露出している。そして、この電線20の端末に前記圧着端子10が圧着されている。
【0026】
なお、前記導体22の材質は特に限定されず、通常用いられる銅や銅合金の他、種々の材料が設定可能である。しかし、本発明は、アルミニウムやアルミニウム合金のように表面に酸化皮膜が形成されやすく、圧着する際に高い圧縮が要求されるものに特に有効である。
【0027】
この端子付電線は、次の端子成形工程及び圧着工程によって製造される。
【0028】
1)端子成形工程
この工程では、図2及び図3に示されるような圧着端子10、すなわち、電線の端末に圧着される前の圧着端子10が成形される。この成形は、通常の端子と同様、金属板から図2に示すような端子原板を打ち抜く工程と、その端子原板を曲げ加工する工程とにより行われる。
【0029】
前記圧着端子10は、従来の端子と同様、電気接触部12と電線圧着部14とを前後に有する。この実施の形態において、前記電気接触部12は雌型であって図略の雄型端子が嵌入可能な箱型に成形されている。前記電線圧着部14は、前記電気接触部12から軸方向に沿って後方に延びる基部15と、この基部15から前記軸方向と交差する方向(図では直交する方向)に延びる左右一対の導体バレル16と、これらの導体バレル16と略並行に延びる左右一対のインシュレーションバレル18とを含む。前記両導体バレル16は、図2に示すようなU字状の正面形状をなし、前記両インシュレーションバレル18も同様の形状をなす。
【0030】
前記各導体バレル16は、その曲げ加工に伴って前記電線20の導体22に密着する内側面17を有するが、この内側面17のうち、前記導体22の先端側部分に密着する面(以下「第2の内側面」と称する。)17bが前記導体の根元側部分に密着する面(以下「第1の内側面」と称する。)17aよりも内方に突出し、前記曲げ加工により前記導体の先端側部分を当該導体の根元側部分よりも高圧縮させる形状を有する。
【0031】
より具体的に、この実施の形態に係る導体バレル16は、その第1の内側面17aが前記第2の内側面17bよりも凹んだ形状となるようにプレス成形されている。この成形は、前記金属板から圧着端子10の端子原板を打ち抜く際にこれと同時に行われてもよいし、当該内抜き後に基部15から導体バレル16を立ち上がらせるための曲げ加工の前に行われてもよい。
【0032】
一方、この実施の形態において前記導体バレル16の外側面には段差がなく、その高さが均一な面となっている。従って、この実施の形態では、前記導体バレル16のうち前記導体22の先端側部分に圧着される部分の厚みが根元側部分に圧着される部分の厚みよりも大きくなっている。
【0033】
なお、この実施の形態では、前記電線圧着部14の内側面に複数の第1の凹部13a及び複数の第2の凹部13bが形成されている。これらの凹部13a,14bは、いずれも、その前後に端子幅方向に延びるエッジを形成し、このエッジが導体22に食い込むことにより、圧着端子10による導体22の保持強度が高められ、また、導体22の表面に形成された酸化皮膜を破って接触抵抗の低下を促進する。
【0034】
前記第1の凹部13aは、前記基部15のうち左右の第1の内側面17aに挟まれた領域に形成されている。各第1の凹部13aは、端子の幅方向に連続して延びる細溝であり、端子の軸方向に互いに平行に配列されている。
【0035】
第2の凹部13bは、左右の第2の内側面17bとこれらの第2の内側面17bに挟まれる基部15の内側面とを含む領域に配列されている。各第2の凹部13bは小さな矩形状をなし、前後2列にわたって配列されている。各列には、複数の第2の凹部13bが端子の幅方向に間隔をおいて配列され、かつ、前列の第2の凹部13bの位置と後列の第2の凹部13bの位置とが端子幅方向にずらされている。すなわち、これらの第2の凹部13bは千鳥状に配列されている。この配列は、後述のように導体22の先端側部分に対して電線圧着部14が高圧縮で圧着されたときに当該電線圧着部14が延びて前記凹部が形成された部分すなわち局所的に肉厚が小さくなっている部分で破断が生ずるのを回避するためのものである。
【0036】
ただし、本発明において前記凹部の形成は必須ではない。すなわち、これらの凹部は省略されてもよい。また、インシュレーションバレル18も仕様によっては省略することが可能である。
【0037】
2)圧着工程
この工程では、前記電線圧着部14の基部15の上に電線20の端末がセットされ、その状態で導体バレル16及び前記インシュレーションバレル18が図4に示すような通常の金型台28および金型30によりかしめられることにより、両バレル16,18を含む電線圧着部14が前記電線20の端末における導体22及びその直ぐ後ろ側の絶縁被覆24にそれぞれ圧着される。より具体的には、前記金型台28上に前記圧着端子10および電線20の端末が載置され、その上に圧着後の形状に対応する押圧面32をもつ金型30が降下することにより、前記各バレル16,18がそれぞれ前記導体22及び絶縁被覆24を抱き込むように曲げ加工される。
【0038】
ここで、前記導体バレル16の内側面17は、予め、その第2の内側面(導体先端側の内側面)17bが第1の内側面(導体根元側の内側面)17aよりも内方に突出するように形成されているので、例えば図7(a)(b)に示されるように当該導体バレル16が通常の圧着と同様に軸方向全域にわたって均一な圧着高さHで導体22に圧着されても、図6及び図7に示されるように、前記第2の内側面17bによる導体22は高圧縮されているため、この(先端側部分の)圧縮率は、前記第1の内側面17aによる導体22の(根元側部分の)圧縮率よりも低くなる。従って、当該導体22の先端側部分での高圧縮による圧着が当該導体22と導体バレル16との間の接触抵抗を有効に低下させる一方、当該導体22の根元側部分での圧縮の抑制が、端子付電線の引張強度、より具体的には導体バレル16による導体22の保持強度を高く確保することを可能にする。つまり、接触抵抗の低下と高い機械的強度の確保との両立が可能である。
【0039】
このように、導体バレル16の圧着高さに大きな差を与えなくても接触抵抗の低下と引張強度の確保とを両立させることができることは、大きな利点をもたらす。
【0040】
例えば、前記特許文献1に記載される従来技術のように、前記導体バレル16の前側部分(すなわち導体22の先端側部分に圧着される部分)の圧着高さと、後ろ側部分(すなわち導体22の根元側部分に圧着される部分)の圧着高さとに差を与えることにより、前記接触抵抗の低下と引張強度の確保を両立させるためには、その圧着高さの差をかなり大きくしなければならない。このような大きな圧着高さの差は、導体バレル16の前側部分と後側部分との間に大きな段差を生じさせる。このような段差は、導体バレル16の亀裂の要因となりやすい。また、圧着高さの差が大きいと、各部分の圧着を別々の金型で行われければならなくなり、その寸法管理が非常に難しくなる。特に、導体22がアルミニウムやアルミニウム合金からなる場合には、当該導体22の表面に形成された酸化皮膜を打ち破って接触抵抗を低くするために40%〜70%もの圧縮率(高い圧縮)が要求される場合があり、このような圧縮率を得ながら機械的強度も確保しようとするためには、前記段差が非常に大きくなるおそれがある。
【0041】
これに対し、この実施の形態に係る圧着工程では、前記圧着高さに差を与えなくても、すなわち、軸方向について均一な圧着高さHが設定されても、予め形成された導体バレル16の内側面の形状によって前後で圧縮率に差を与えることができるため、導体バレル16に大きな段差を生じさせることなく容易に圧着端子10の圧着を行うことができる。仮に圧着高さに差を与えるとしても、その差は小さなものでよく、大きな段差を形成する必要はないため、前述のような従来技術の欠点は大幅に改善される。
【0042】
なお、前記の高低差は導体バレル16の内側面に加えて基部15の内側面に与えられてもよい。例えば、第2の実施の形態として図8及び図9に示されるように、前記両第1の内側面17aに挟まれる基部15の内側面が当該第1の内側面17aと同様に凹んでいてもよい。この場合、同図に示されるように、前記基部15の内側面及びその両側の第1の内側面17aを跨ぐ領域に前記第1の凹部13aが連続的に形成されてもよい。
【0043】
また、本発明に係る導体バレルの内側面は、前記のように段差を有するものでなくてもよく、例えば第3の実施の形態として図10及び図11に示される内側面17のように、内方への突出量が導体22の先端側部分に向かうに従って次第に大きくなるテーパー状の面であってもよい。このような形状の内側面17も、導体22の先端側部分と根元側部分とでその圧縮率に差を与えることが可能であり、さらに、前記導体22の圧縮率を軸方向について滑らかに変化させることを可能にする。また、3段階以上にわたって当該内側面17の径方向位置が階段状に変えられてもよい。
【0044】
前記のような高低差をもつ第1の内側面17a及び第2の内側面17bは、例えば、導体バレル16を構成する金属板の適当な周縁部分を内側に折り返すことによっても形成することが可能である。この場合、導体バレル16を薄くすることなく、逆にその肉厚を増やして強度を高めながら、前記の効果を得ることが可能である。
【0045】
例として、第4の実施の形態として図12〜図15に示される圧着端子10では、図12に示すような導体バレル16を構成する金属板に、そのバレルの本体部分のうちその前側部分(導体22の先端側部分に圧着される部分)からのみさらに当該導体バレル16が延びる方向に延長された延長端部16aが形成され、この延長端部16aが基部15側に折り返されている。そして、その折り返された延長端部16aの表側面が、図13及び図14に示すような導体バレル16の第2の内側面17bを構成している。
【0046】
この第2の内側面17bは、前記延長端部16aよりも後ろ側の導体バレル16の内側面である第1の内側面17aよりも当該延長端部16aの厚み分だけ内方に突出している。従って、前記第1の実施の形態と同様、当該導体バレル16が導体22に圧着されたときに、前記第2の内側面17bは、前記第1の内側面17aが導体22の根元側部分を圧縮させる圧縮率よりも低い圧縮率(高圧縮)で当該導体22の先端側部分を圧縮する。
【0047】
また、第5の実施の形態として図16〜図19に示される圧着端子10では、図16に示すような導体バレル16を構成する金属板に、そのバレルの本体部分から端子軸方向に沿って前方に(すなわち導体22の先端側に)延長された延長部16bが形成され、この延長部16bが内側かつ後ろ側に折り返されている。そして、その折り返された延長部16bの表側面が、図17及び図18に示すような導体バレル16の第2の内側面17bを構成している。内側に折り返される端部16aが前記のように導体バレル16の第1の内側面17aと第2の内側面17bとの内側面の形状前記導体バレルを構成する金属板の特定の周縁部分が内側に折り返されてその折り返された部分の表面が導体バレルの内側面の前側部分を構成していてもよい。いずれのものも、簡単な構造で導体の先端側部分と根元側部分との間に圧縮率の差をもたせることが可能である。
【0048】
また、折り返される部分は、第6の実施の形態として図20〜図22に示されるような形状の導体バレル16の外側縁部16cであってもよい。この外側縁部16cは、端子後ろ側(導体22の根元側)から前側(導体22の先端側)に向かうに従って幅広となる形状、すなわち、当該外側縁部16cが図21に示すように基部15に向けて内側に折り返されたときにその折り返し部分の寸法が前記導体の先端側に向かうに従って大きくなる形状を有している。
【0049】
この実施の形態に係る圧着端子10では、図22(a)に示すような導体22の根元側での折り返し部分(すなわち外側縁部16c)の寸法よりも同図(b)に示すような導体22の先端側での折り返し部分(外側縁部16c)の寸法が大きく、かつ、その寸法は導体22の先端側に向かうに従って連続的に大きくなるので、当該導体22の圧縮率を先端側に向かうに従って連続的に減少させて高圧縮を図ることが可能である。
【0050】
また、本発明では、前記のような導体バレル16の内側面17の形状設定と併せて、他の圧縮率調節手段が電線圧着部14に付加されてもよい。例えば第7の実施の形態として図23及び図24に示す端子付電線では、その圧着端子10の基部15のうち前側部分(導体22の先端側部分に圧着される部分)15aにのみ、その左右両側に凹み部19が形成され、その凹み分だけ、前記導体22の先端側部分に対応する前側部分15aの内側面が、当該導体22の根元側部分に対応する後側部分15bよりも前記導体22の径方向の内側に入り込んだ形状をなしている。そして、その入り込みの分だけ導体22を高圧縮し、この部分の圧縮率を低くしている。この凹み部19は、端子圧着成形時にそのまま形成されればよい。
【0051】
また、本発明は、前記の導体バレル16の内側面17の形状設定と併せて、当該導体バレル16の前側部分と後側部分との間に従来のような圧着高さの差を与えることを除外する趣旨ではない。この場合も、前記内側面17の形状により圧縮率に差が与えられる分だけ、前記圧着高さの差を小さく抑えることが可能であり、上述のような従来技術の欠点を是正することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る端子付電線の側面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る圧着端子の展開図である。
【図3】図2に示される圧着端子の成形後の形状を示す斜視図である。
【図4】前記端子付電線を製造するための圧着工程を示す正面図である。
【図5】前記端子付電線の圧着部分を示す斜視図である。
【図6】前記圧着部分の断面側面図である。
【図7】(a)は図6の7A−7A線断面図、(b)は図6の7B−7B線断面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る圧着端子の展開図である。
【図9】図8に示される圧着端子の成形後の形状を示す斜視図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態に係る圧着端子を示す斜視図である。
【図11】前記圧着端子の圧着部分の断面側面図である。
【図12】本発明の第4の実施の形態に係る圧着端子の展開図である。
【図13】図12に示される圧着端子の成形後の形状を示す斜視図である。
【図14】図13に示される圧着端子の圧着部分の断面側面図である。
【図15】(a)は図14の15A−15A線断面図、(b)は図14の15B−15B線断面図である。
【図16】本発明の第5の実施の形態に係る圧着端子の展開図である。
【図17】図16に示される圧着端子の成形後の形状を示す斜視図である。
【図18】図17に示される圧着端子の圧着部分の断面側面図である。
【図19】(a)は図18の19A−19A線断面図、(b)は図18の19B−19B線断面図である。
【図20】本発明の第6の実施の形態に係る圧着端子の展開図である。
【図21】図20に示される圧着端子の成形後の形状を示す斜視図である。
【図22】(a)は図13に示される圧着端子が導体の根元側部分に圧着される部分の断面正面図、(b)は当該導体の先端側部分に圧着される部分の断面正面図である。
【図23】本発明の第7の実施の形態に係る端子付電線の圧着部分の斜視図である。
【図24】(a)は図23の断面24Aを示した図、(b)は図23の断面24Bを示した図である。
【符号の説明】
【0053】
10 圧着端子
12 電気接触部
14 電線圧着部
15 基部
16 導体バレル
16a 延長端部(折り返し部分)
16b 延長部(折り返し部分)
16c 外側縁部(折り返し部分)
20 電線
22 導体
24 絶縁被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手方の端子と嵌合して電気的に接続される電気接続部と、端末において導体が露出する電線の当該端末に圧着される電線圧着部とを有する圧着端子であって、
前記電線圧着部は、前記電気接続部から軸方向に延びる基部と、この基部から前記軸方向と交差する方向に延びる金属板からなり、前記電線の端末において露出する導体を抱き込むように曲げ加工される導体バレルとを有し、
前記導体バレルは、その曲げ加工に伴って前記導体に密着する内側面を有し、この内側面は、当該内側面のうち前記導体の先端側部分に密着する面が前記導体の根元側部分に密着する面よりも内方に突出し、前記曲げ加工により前記導体の先端側部分を当該導体の根元側部分よりも高圧縮させる形状を有することを特徴とする圧着端子。
【請求項2】
請求項1記載の圧着端子において、
前記導体バレルは、その内側面のうち前記導体の根元側部分に密着する面が当該導体の先端側部分に密着する面よりも凹んだ形状に成形されていることを特徴とする圧着端子。
【請求項3】
請求項1または2記載の圧着端子において、
前記導体バレルを構成する金属板の特定の周縁部分が内側に折り返されてその折り返された部分の表面が導体バレルの内側面の前側部分を構成していることを特徴とする圧着端子。
【請求項4】
請求項3記載の圧着端子において、
前記導体バレルは、前記基部の左右両側からそれぞれ延び、各導体バレルを構成する金属板のうち当該導体バレルが延びる方向の端部が内側に折り返されるとともに、その折り返し部分は当該折り返し部分の寸法が前記導体の先端側に向かうに従って大きくなる形状を有することを特徴とする圧着端子。
【請求項5】
端末において導体が露出する電線と、
その端末に圧着される請求項1〜4のいずれかに記載の圧着端子とを有する端子付電線であって、
前記圧着端子の導体バレルが曲げ加工されることにより前記電線の端末の導体を抱き込むように当該導体に圧着されていることを特徴とする端子付電線。
【請求項6】
請求項5記載の端子付電線において、
前記導体バレルの圧着高さが軸方向に均一となるように当該導体バレルが前記導体に圧着されていることを特徴とする端子付電線。
【請求項7】
請求項5または6記載の端子付電線において、
前記圧着端子における電線圧着部の基部のうち前記導体の先端側部分に対応する部分の内側面が、当該導体の根元側部分に対応する部分よりも前記導体の径方向の内側に入り込んだ形状を有することを特徴とする端子付電線。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の端子付電線において、
前記導体がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする端子付電線。
【請求項9】
端末において導体が露出する電線と、その端末に圧着される圧着端子とを有する端子付電線を製造するための方法であって、
金属板から請求項1〜4のいずれかに記載の圧着端子を成形する端子成形工程と、
前記圧着端子の電線圧着部に前記電線の端末の導体をセットし、当該圧着端子の導体バレルが前記電線の端末の導体を抱き込むように当該導体バレルを曲げ加工して当該導体に圧着する圧着工程とを含むことを特徴とする端子付電線の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の端子付電線の製造方法において、
前記端子成形工程では、前記導体バレルの内側面のうち前記導体の先端側部分に密着する面が前記導体の根元側部分に密着する面よりも内方に突出するように当該根元側部分に密着する面をプレス成形により凹ませることを特徴とする端子付電線の製造方法。
【請求項11】
請求項9記載の端子付電線の製造方法において、
前記端子成形工程では、前記導体バレルを構成する金属板の特定の周縁部分を内側に折り返してその折り返された部分の表面を導体バレルの内側面の前側部分にすることを特徴とする端子付電線の製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の端子付電線の製造方法において、
前記圧着工程では、前記圧着端子における電線圧着部の基部のうち前記導体の先端側部分に対応する部分が、当該導体の根元側部分に対応する部分よりも前記導体の径方向の内側に入り込んだ形状を有するように、当該基部を変形させることを特徴とする端子付電線の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載の端子付電線の製造方法において、
前記導体がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする端子付電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−117039(P2009−117039A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285206(P2007−285206)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】