説明

圧着端子および端子の圧着方法

【課題】電線と端子の接圧を高くして、電気的接続性能の向上を図る。
【解決手段】端子の導体圧着部11が、底板11Aと、該底板の左右両側縁から上方に延設された一対の導体加締片11B,11Bとで、上方に拡開した断面略U字状に形成されている。底板11Aから一対の導体加締片11B,11Bの根元にかけての範囲が略円弧状の湾曲壁11Hとして形成されており、その湾曲壁11Hの内面の曲率半径をR、前記電線の導体の半径をrとした場合、R<rに設定されている。この端子を電線に圧着する場合、一対の導体加締片11B,11Bの間に電線の導体Waを挿入し、その状態で圧着装置の下型101と上型102の圧着動作により、一対の導体加締片11B,11Bを内側に丸めて導体Waを底板11Aとの間に包み込むように加締める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の電装系に使用される断面U字状の導体圧着部を有したオープンバレルタイプの圧着端子、および、その圧着端子を用いた端子の圧着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、例えば特許文献1に記載された従来の圧着端子の構成を示す斜視図である。
【0003】
この圧着端子1は、端子の長手方向(接続する電線の導体の長手方向でもある)の前部に、相手コネクタ側の端子に接続される電気接続部10を備え、その後部に、電線(図示略)の端末の露出した導体に加締められる導体圧着部11を備え、さらにその後部に、電線の絶縁被覆の付いた部分に加締められる被覆加締部12を備えている。また、電気接続部10と導体圧着部11の間に、それらの間を繋ぐ第1の繋ぎ部13を備えると共に、導体圧着部11と被覆加締部12の間に、それらの間を繋ぐ第2の繋ぎ部14を備えている。
【0004】
導体圧着部11は、底板11Aと、該底板11Aの左右両側縁から上方に延設されて該底板11Aの内面上に配された電線の導体を包むように加締められる一対の導体加締片11B,11Bとで上方に拡開した断面略U字状に形成されている。また、被覆加締部12は、底板12Aと、該底板12Aの左右両側縁から上方に延設されて該底板12Aの内面上に配された電線(絶縁被覆の付いた部分)を包むように加締められる一対の被覆加締片12B,12Bとで断面略U字状に形成されている。
【0005】
また、導体圧着部11の内面には、電線の導体の長手方向(端子長手方向)と直交する方向に延びる複数本の凹溝状のセレーション18が形成されている。
【0006】
この圧着端子1の導体圧着部11を電線の端末の導体に圧着するには、図示しない下型(アンビル)の載置面(上面)上に圧着端子を載せると共に、電線の端末の導体を導体圧着部の導体加締片間に挿入し、図5に示すように、底板11Aの上面に導体Waを載せる。通常、底板11Aから一対の導体加締片11B,11Bの根元までの範囲は、導体Waの半径rよりも大きな曲率半径Rの湾曲壁11Hとして形成されており、そのため導体加締片11A間に導入された導体Waは、導体圧着部11の底板11Aの内面に接触した状態で載る。
【0007】
この状態で、上型(クランパ)を下型に対して相対的に下降させることにより、上型の案内斜面で導体加締片の先端側を徐々に内側に倒して行き、さらに上型(クランパ)を下型に対して相対的に下降させることにより、最終的に、上型の案内斜面から中央の山形部に連なる湾曲面で導体加締片11Bの先端を導体Wa側に折り返すように丸めて、導体加締片11Bの先端同士を擦り合わせながら導体Waに食い込ませることにより、導体Waを包むように導体加締片11Bを加締める。
【0008】
以上の操作により、圧着端子1の導体圧着部11を電線の導体Waに圧着によって接続することができる。なお、被覆加締部12についても同様に、下型と上型を用いて被覆加締片12Bを内側に徐々に曲げて行き、被覆加締片12Bを電線の絶縁被覆の付いた部分に加締める。こうすることにより、圧着端子1を電線に電気的および機械的に接続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−228759号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述した従来の圧着端子の場合、導体圧着部11の底板11Aから一対の導体加締片11B,11Bの根元までの範囲を構成する湾曲壁11Hの曲率半径Rが、内側に包み込む電線の導体Waの半径rよりも大きくなるように設定されていたので、最終的に圧着状態としたときの端子と導体の接圧があまり高くならず、接触抵抗が不安定になりやすいという問題があった。
【0011】
本発明は、上記事情を考慮し、電線と端子の接圧を高くして、電気的接続性能の向上を図れるようにした圧着端子、および、その圧着端子を用いた端子の圧着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1の発明の圧着端子は、電線の導体の端末に圧着して接続される導体圧着部を有し、該導体圧着部が、底板と、該底板の左右両側縁から上方に延設された一対の導体加締片とで、上方に拡開した断面略U字状に形成され、電線に圧着する際に、前記一対の導体加締片の間に電線の導体を挿入し、その状態で圧着装置の下型と上型の圧着動作により、前記一対の導体加締片を内側に丸めて前記導体を底板との間に包み込むように加締めることで、前記電線と電気的に接続される圧着端子において、前記底板から前記一対の導体加締片の根元にかけての範囲が略円弧状の湾曲壁として形成されており、その湾曲壁の内面の曲率半径をR、前記電線の導体の半径をrとした場合、R<rに設定されていることを特徴としている。
【0013】
請求項2の発明の端子の圧着方法は、請求項1に記載の圧着端子を、圧着装置の上型と下型の間に配置すると共に、前記一対の導体加締片の間に前記電線の導体の端末を挿入し、その状態で前記上型を下型に対して相対的に下動させることにより、前記一対の導体加締片を前記上型の案内斜面の働きにより内側に倒し、さらに前記上型を下型に対して相対的に下動させることにより、前記上型の案内斜面から中央の山形部に連なる湾曲面の働きにより、前記一対の導体加締片を導体側に折り返すように内側に丸めて行き、最終的に前記導体加締片の先端同士を擦り合わせながら導体に食い込ませることで、前記底板との間に導体を包み込むように両導体加締片を加締めることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、湾曲壁(導体圧着部の底板から一対の導体加締片の根元にかけての範囲)の内面の曲率半径Rを、電線の導体の半径rよりも小さく設定してあるので、圧着を行う前に電線の導体を導体加締片の間に挿入した際には、導体は、導体加締片の高さ方向の途中で導体加締片の内面に当たって止まり、導体圧着部の底板に触れない状態に保たれる。この状態から圧着装置の上型を下型に対して相対的に下動させて圧着加工を行うと、一対の導体加締片の先端が上型の案内斜面に接触することで徐々に内側に倒れて行き、さらに上型を下型に対して相対的に下動させることにより、一対の導体加締片の先端が、上型の案内斜面から中央の山形部に連なる湾曲面に当たることで、内側に案内されて導体側に折り返すように丸められて行き、最終的に両導体加締片の先端同士が擦り合いながら導体に食い込んで行くことで、底板との間に導体を包み込むように両導体加締片が加締められる。
【0015】
その一連の動作の際、電線の導体は導体圧着部の底板に押し付けられることになるが、それに伴い湾曲壁(底板から導体加締片の根元にかけての範囲)が導体からの圧力並びに導体加締片からの圧力を受けることによって外側に押し広げられる。そして最終的には、湾曲壁が外側に押し広げられた状態のまま、導体加締片の先端が導体に食い込むように加締められて圧着が完了する。
【0016】
従って、最終的な圧着状態においては、湾曲壁には、曲率の小さい原形状に戻ろうとする大きなスプリングバック力が発生することになる。特に底板と導体加締片の根元との境界部分(この部分を「ショルダー部」という)に発生するスプリングバック力は、内側に包み込んだ導体に密着しようとする接圧として作用することになるので、それにより、導体と端子の密着性が増して接触抵抗が小さく安定することになり、電気的接続性能の向上が図れる。
【0017】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の圧着端子を上型と下型を用いて電線の導体に圧着させるので、端子に対し有効にスプリングバック力を発生させることができて、端子と電線を安定した接触抵抗で接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の圧着端子の要部構成図で、(a)は圧着端子の導体圧着部と電線の導体の関係を示す断面図、(b)は導体圧着部を導体に圧着する場合の操作の初期段階を示す図である。
【図2】前記圧着端子を導体に圧着させる際の工程説明図であり、(a)は導体加締片が内側に倒れ始めた状態を示す導体圧着部の図、(b)は導体加締片が内側に丸まり始めた状態を示す図、(c)は導体加締片が導体側に折り返すように丸められた状態を示す図である。
【図3】前記圧着端子が最終的に導体に圧着された状態を示す断面図であり、図中一点鎖線は実施形態の圧着端子の導体圧着部の原形状を示し、図中二点鎖線は一般的な従来の圧着端子の導体圧着部の原形状を示している。
【図4】従来の圧着端子の構成を示す斜視図である。
【図5】従来の圧着端子の導体圧着部と電線の導体の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【0020】
図1は実施形態の圧着端子の要部構成図で、図1(a)は圧着端子の導体圧着部と電線の導体の関係を示す断面図、図1(b)は導体圧着部を導体に圧着する場合の操作の初期段階を示す図、図2は同圧着端子を導体に圧着させる際の工程説明図であり、図2(a)は導体加締片が内側に倒れ始めた状態を示す導体圧着部の図、図2(b)は導体加締片が内側に丸まり始めた状態を示す図、図2(c)は導体加締片が導体側に折り返すように丸められた状態を示す図、図3は同圧着端子が最終的に導体に圧着された状態を示す断面図である。なお、図中一点鎖線は実施形態の圧着端子の導体圧着部の原形状を誇張して示し、図中二点鎖線は一般的な従来の圧着端子の導体圧着部の原形状を誇張して示している。
【0021】
本実施形態の圧着端子においても、図1(a)に示すように、電線の導体Waの端末に圧着接続される導体圧着部11は、底板11Aと、該底板11Aの左右両側縁から上方に延設された一対の導体加締片11B,11Bとで、上方に拡開した断面略U字状に形成されている。そして、底板11Aから一対の導体加締片11B,11Bの根元にかけての範囲が略円弧状の湾曲壁11Hとして形成され、その湾曲壁11Hの内面の曲率半径をR、電線の導体Waの半径をrとした場合、R<rに設定されていることを特徴としている。
【0022】
この圧着端子を電線に圧着する場合は、図1(b)に示すように、圧着装置の上型(クランパ)102と下型(アンビル)101の間に圧着端子の導体圧着部11を配置すると共に、一対の導体加締片11B,11Bの間に電線の導体Waの端末を挿入する。この際、湾曲壁11H(導体圧着部11の底板11Aから一対の導体加締片11B,11Bの根元にかけての範囲)の内面の曲率半径Rが電線の導体の半径rよりも小さく設定されているので、導体Waは、導体加締片11Bの高さ方向の途中で導体加締片11Bの内面に当たって止まり、導体圧着部11の底板11Aに触れない状態に保たれる。つまり、底板11Aの内面と導体Waとの間に隙間Hが空いた状態に保たれる。
【0023】
この状態から圧着装置の上型102を下型101に対して相対的に下動させて圧着加工を行うと、図2(a)に示すように、一対の導体加締片11B,11Bの先端が上型102の案内斜面110に接触することで徐々に内側に倒れて行き、さらに上型102を下型101に対して相対的に下動させることにより、図2(b)、(c)に示すように、一対の導体加締片11B,11Bの先端が、上型の案内斜面119から中央の山形部112に連なる湾曲面111に当たることで、内側に案内されて導体Wa側に折り返すように丸められて行き、最終的に図3に示すように、両導体加締片11Bの先端同士が擦り合いながら導体Waに食い込んで行くことで、底板11Aとの間に導体Waを包み込むように両導体加締片11Bが加締められる。
【0024】
この一連の動作の際、電線の導体Waは導体圧着部11の底板11Aに押し付けられることになるが、それに伴い湾曲壁11H(底板11Aから導体加締片11Bの根元にかけての範囲)が導体Waからの圧力並びに導体加締片11Bからの圧力を受けることによって外側に押し広げられる。そして最終的には、湾曲壁11Hが外側に押し広げられた状態のまま、導体加締片11Bの先端が導体Waに食い込むように加締められて圧着が完了する。
【0025】
従って、図3に示す最終的な圧着状態においては、湾曲壁11Hには、曲率の小さい原形状(11Yで示す形)に戻ろうとする大きなスプリングバック力が発生することになる。特に底板11Aと導体加締片11Bの根元との境界部分であるショルダー部11Cに発生するスプリングバック力Sは、従来の圧着端子のような曲率の大きい原形状(11Xで示す形)に戻ろうとする場合のスプリングバック力より大きくなり、内側に包み込んだ導体Waに密着しようとする接圧として作用することになるので、それにより、導体Waと端子の密着性が増して接触抵抗が小さく安定することになる。
【0026】
以上のように、本実施形態の圧着端子を上型102と下型101を用いて電線の導体Waに圧着させた場合、端子に対して有効にスプリングバック力を発生させることができるので、端子と電線を安定した接触抵抗で接続することができることになる。
【符号の説明】
【0027】
11 導体圧着部
11A 底板
11B 導体加締片
11H 湾曲壁
101 下型
102 上型
110 案内斜面
111 湾曲面
112 山形部
Wa 電線の導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の導体の端末に圧着して接続される導体圧着部を有し、該導体圧着部が、底板と、該底板の左右両側縁から上方に延設された一対の導体加締片とで、上方に拡開した断面略U字状に形成され、電線に圧着する際に、前記一対の導体加締片の間に電線の導体を挿入し、その状態で圧着装置の下型と上型の圧着動作により、前記一対の導体加締片を内側に丸めて前記導体を底板との間に包み込むように加締めることで、前記電線と電気的に接続される圧着端子において、
前記底板から前記一対の導体加締片の根元にかけての範囲が略円弧状の湾曲壁として形成されており、その湾曲壁の内面の曲率半径をR、前記電線の導体の半径をrとした場合、R<rに設定されていることを特徴とする圧着端子。
【請求項2】
電線の導体の端末に圧着して接続される導体圧着部を有し、該導体圧着部が、底板と、該底板の左右両側縁から上方に延設された一対の導体加締片とで、上方に拡開した断面略U字状に形成され、電線に圧着する際に、前記一対の導体加締片の間に電線の導体を挿入し、その状態で圧着装置の下型と上型の圧着動作により、前記一対の導体加締片を内側に丸めて前記導体を底板との間に包み込むように加締めることで、前記電線と電気的に接続される圧着端子の圧着方法において、
前記圧着端子を、圧着装置の上型と下型の間に配置すると共に、前記一対の導体加締片の間に前記電線の導体の端末を挿入し、その状態で前記上型を下型に対して相対的に下動させることにより、前記一対の導体加締片を前記上型の案内斜面の働きにより内側に倒し、さらに前記上型を下型に対して相対的に下動させることにより、前記上型の案内斜面から中央の山形部に連なる湾曲面の働きにより、前記一対の導体加締片を導体側に折り返すように内側に丸めて行き、最終的に前記導体加締片の先端同士を擦り合わせながら導体に食い込ませることで、前記底板との間に導体を包み込むように両導体加締片を加締めることを特徴とする端子の圧着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−103262(P2011−103262A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258534(P2009−258534)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】