説明

圧縮成形用ポリエステル樹脂及びその製造方法、並びにプリフォームの製造方法

【課題】 合成樹脂供給装置の搬送手段への樹脂の付着が有効に防止され、溶融樹脂塊の圧縮成形型への落下のタイミングのずれが生じることがなく、しかも押出機からの樹脂の吐出量を増加させることができると共に、押出機のトルクの過度な上昇もなく、生産性よく、圧縮成形によりプリフォームを成形性よく成形し得る圧縮成形用ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】 固有粘度が0.70乃至1.00dL/g、分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上であると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%以下であることを特徴とする圧縮成形用ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮成形用ポリエステル樹脂に関し、より詳細には、圧縮成形機への溶融樹脂塊を供給する手段に樹脂が付着する原因となる成分が低減され、圧縮成形機へのスムーズな供給が可能な圧縮成形用ポリエステル樹脂及び生産性に優れたプリフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料等を充填するための容器としては、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂から成るものが広く使用されており、かかる容器は、合成樹脂の射出成形により有底プリフォームを予め形成し、このプリフォームをその延伸温度に予備加熱し、ブロー金型中で軸方向に引張り延伸すると共に、周方向にブロー延伸する方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、このようなプリフォームの製法として、成形機中での滞留時間が短く樹脂の劣化が少ないと共に、底部にゲート部が存在しないことから、樹脂の圧縮成形で製造することも既に知られている。例えば、熱可塑性樹脂溶融物を押出し、且つほぼ定量の溶融塊に切断する工程と、雄型と雌型とを相対的に移動可能に配置し、溶融塊を型内に供給する工程と、型内の残留空気を排出しながら、有底胴部と口部とを備えた成形物に圧縮成形する工程と,圧縮成形物を冷却固化し、成形物を型外に排出する工程とから成るプリフォームの製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
このような圧縮成形によるプリフォームの成形においては、雄型手段と雌型手段とを閉状態にして両者間に成形型空間を規定する前に、雌型手段又は雄型手段に合成樹脂を供給することが必要であり、かかる合成樹脂の供給は、例えば、押出ノズルの押出開口から切り離された溶融状態の合成樹脂をそのまま保持して成形装置の所要部位まで搬送することを可能にする合成樹脂供給装置が提案されている(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開平4−154535号公報
【特許文献2】特開2000−25729号公報
【特許文献3】特開2000−280248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリエチレンテレフタレートのような通常のポリエステル樹脂を、上記合成樹脂供給装置を用いて圧縮成形機への溶融樹脂塊の供給を行った場合に、運転開始後ある程度の時間が経過すると、溶融樹脂塊を確実に圧縮成形機に供給できない場合が生じた。すなわち、ポリエステル樹脂から成るプリフォームを圧縮成形により成形する際、供給装置における溶融樹脂塊を保持する保持手段(ホルダー)及び保持手段から圧縮成形型への案内となる案内手段(スロート)に、溶融樹脂塊との接触回数を重ねることにより付着物が蓄積し、成形機の運転開始からある程度の時間が経過すると、この蓄積物に溶融樹脂塊が引っかかり、溶融樹脂塊の落下のタイミングが変化して、設定された圧縮成形機とのタイミングが合わなくなって、溶融樹脂塊が圧縮成形型に確実に供給できなかった。
【0007】
この原因について調査した結果、圧縮成形によるプリフォームの連続成形に際して、成形機の運転開始時点からある程度の時間が経過すると、合成樹脂供給装置の溶融樹脂塊の保持手段(ホルダー)及び溶融樹脂塊を、圧縮成形型に案内する案内手段(スロート)に特定の成分が付着してこれが蓄積し、この蓄積物が溶融樹脂塊の落下を妨げることに起因して、溶融樹脂塊の落下のタイミングが変化してしまうことがわかった。
【0008】
従って本発明の目的は、合成樹脂供給装置の保持手段及び案内手段等の搬送手段に蓄積物が形成することを抑制し、長期にわたって安定して圧縮成形装置に溶融樹脂塊を供給可能な圧縮成形用ポリエステル樹脂を提供することである。
本発明の他の目的は、汎用ポリエステル樹脂から成り、上記問題を生じることなく、成形性及び生産性よくプリフォームを圧縮成形により成形可能な圧縮成形用ポリエステル樹脂及びその製法を提供することである。
また本発明の他の目的は、合成樹脂供給装置における保持手段及び案内手段等の搬送手段に蓄積物を形成することなく、長期にわたって安定して溶融樹脂塊を圧縮成形機に供給して、生産性よくプリフォームを成形可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、固有粘度が0.70乃至1.00dL/g、分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上であると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%以下であることを特徴とする圧縮成形用ポリエステル樹脂が提供される。
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂においては、
1. 絡み合い点間重合度以上の分子量成分を20重量%以上の量で含有すること、
2. ポリエステル樹脂中の重量平均分子量500〜2000範囲の低分子量成分が1.1重量%以下であること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、固有粘度が0.60乃至0.79dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.50乃至3.50のポリエステル樹脂Aと、固有粘度が0.80乃至1.30dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.80乃至4.00のポリエステル樹脂Bを、ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bの固有粘度の差が0.15以上となるように組み合わせて溶融混練することを特徴とする圧縮成形用ポリエステル樹脂の製造方法が提供される。
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂の製造方法においては、前記ポリエステル樹脂Aと前記ポリエステル樹脂Bを、5:95〜95:5の重量比で用いることが好ましい。
【0011】
本発明によれば更に、固有粘度が0.60乃至0.79dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.50乃至3.50のポリエステル樹脂Aと、固有粘度が0.80乃至1.30dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.80乃至4.00のポリエステル樹脂Bを、ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bの固有粘度の差が0.15以上となるように組み合わせて溶融混練したポリエステル樹脂の溶融樹脂塊を圧縮成形することを特徴とするプリフォームの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂によれば、圧縮成形の際に用いられる合成樹脂供給装置の搬送手段への樹脂の付着が有効に防止され、溶融樹脂塊の圧縮成形型への落下のタイミングのずれが生じることがなく、しかも押出機からの樹脂の吐出量を増加させることができると共に、押出機のトルクの過度な上昇もないため、生産性よく、圧縮成形によりプリフォームを成形することが可能となる。また樹脂の流動性が高いため、成形品たるプリフォームにシワやモヤ、或いは成形歪などが発生することがなく、成形性よく成形することが可能となるのである。
また本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂の製造方法によれば、上記特性を有する圧縮成形用ポリエステル樹脂を容易に調製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂は、固有粘度が0.70乃至1.00dL/g、特に0.73乃至0.90dL/g、分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上、特に3.0乃至3.5の範囲であると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%以下、特に1.3乃至2.2モル%の範囲であることが重要な特徴である。
本発明においては、固有粘度が0.70乃至1.00dL/g、分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上であると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%以下であることにより、圧縮成形の際に用いられる合成樹脂供給装置の搬送手段への樹脂の付着が有効に防止され、溶融樹脂塊の圧縮成形型への落下のタイミングのずれが生じることがなく、しかも押出機からの樹脂の吐出量を増加させることができると共に、押出機のトルクの過度な上昇もないため、生産性よく、圧縮成形によりプリフォームを成形することが可能となる。また樹脂の流動性が高いため、成形品たるプリフォームにシワやモヤ、或いは成形歪などが発生することがなく、成形性よく成形することが可能となるのである。
【0014】
ポリエステル樹脂の溶融樹脂塊のスムーズな落下が妨げられる原因として本発明者等は、ポリエステル樹脂中のモノマー成分、オリゴマー成分を介して絡み合い点間重合度以下の高分子量成分が搬送手段へ付着・蓄積することを見出した。このような観点からは、これらの成分を低減させることがポリエステル樹脂の溶融樹脂塊の搬送性を向上させることが好ましいが、絡み合い点間重合度以上の成分を多量に含有する樹脂は一般に溶融粘度が高く、圧縮成形性に劣るという欠点を有しているため、本発明においては、高分子量の成分を多くする一方で、分子量分布の広がりをブロードにすることによって、溶融樹脂塊の搬送性を損なうことなく、ポリエステル樹脂全体の固有粘度を0.70乃至1.00dL/gの範囲にすることが可能となり、成形性、生産性、経済性を改善し得ることを見出したのである。
【0015】
本発明で規定する分子量分布(Mz/Mn)は、特にポリエステル樹脂中の高分子量成分の分布の影響が端的に表され、この分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上、特に3.0乃至3.5の範囲にあることにより、本発明のポリエステル樹脂は、固有粘度が上記範囲にある一般的なポリエステル樹脂よりも絡み合い点間重合度よりも大きい高分子量成分を多く含有し、搬送手段への付着の原因となるモノマー成分、オリゴマー成分、絡み合い点間重合度以下の高分子量成分の含有量が少ないため、溶融樹脂塊の搬送性に優れているという特性を有するのである。
【0016】
また、本発明においては、ジエチレングリコール(以下、DEGという)の量が、2.3モル%以下、特に1.3乃至2.2モル%であることも重要であり、DEGが2.3モル%よりも多い場合には、分子量分布や固有粘度が上記範囲にある場合でも、溶融樹脂塊の搬送性に劣ってしまうのである。DEG含有量が溶融樹脂塊の搬送性に影響を与えることの理由は明らかではないが、DEGは熱安定性に劣るため、分子鎖が切れやすく、その結果、DEG含有量が多いと低分子量成分の含有量が多くなること、またDEG含有量が多くなるとポリエステル樹脂の融点が降下するため、溶融樹脂塊の押出温度での樹脂の粘着性が増加するためであると考えられる。
【0017】
本発明のこのような作用効果は後述する実施例の結果から明らかである。すなわち、固有粘度が0.7乃至1.00dL/g、分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上であると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%以下であるポリエステル樹脂は溶融樹脂のホルダーへの付着がなく、一定時間が経過した後でも溶融樹脂塊の落下のタイミングが変化することがないと共に、成形性、生産性にも優れているのに対し(実施例1〜9)、固有粘度が上記範囲よりも小さいポリエステル樹脂では、溶融樹脂のドローダウンが生じてしまうと共に、効率よく溶融樹脂塊を形成できず(比較例2,8)、また固有粘度が上記範囲よりも大きいポリエステル樹脂では、ホルダーへの付着はないものの、上記範囲にある場合に比して生産性に劣り、固有粘度があまり大きいと成形歪が生じてしまうことが明らかである(比較例3,5,7,9,11)。
【0018】
また分子量分布(Mz/Mn)が3.0未満では、固有粘度が上記範囲にある場合でも溶融樹脂のホルダーへの付着が生じ、落下のタイミングがずれて溶融樹脂塊の搬送性に劣っていることが明らかであり(比較例4,6,12)、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%よりも多いポリエステル樹脂では、固有粘度及び分子量分布が上記範囲にある場合でも溶融樹脂のホルダーへの付着が生じて、搬送性に劣っていることが明らかである(比較例1,4,6,10,12)。
【0019】
また本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂においては、上述した本発明の特徴を具備する限り、絡み合い点間重合度以上の高分子量成分を20重量%以上含有していることが好適であり、これにより溶融樹脂塊の搬送性がより向上されることになる。
すなわち前述した通り、溶融樹脂塊の搬送手段であるホルダーやスロート等に付着し、溶融樹脂塊のスムーズな落下を妨げる蓄積物は、ポリエステル樹脂中に含有されるモノマー成分、オリゴマー成分、高分子量成分であり、上記溶融樹脂塊の落下タイミングの変化においては、特にオリゴマー成分及び高分子量成分がその直接的な原因となる。
ポリエステル樹脂中のオリゴマー成分は、ポリエステルボトル等をヒートセットする際、ヒートセット金型に移行して蓄積し、この蓄積物によりボトル表面の光沢の低下をもたらすことが知られているが、圧縮成形では溶融した樹脂を搬送するために、オリゴマー成分に加え、高分子量成分も移行しやすい。
本発明者等はかかる事実に鑑み、ホルダー及びスロートに付着した高分子量成分について鋭意研究した結果、蓄積物における高分子量成分は、使用するポリエステル樹脂の絡み合い点間重合度以下の重量平均分子量を有する高分子量成分であることを見出したのである。
【0020】
一般に高分子液体の粘性挙動は、臨界重合度Ne(絡み合い点間重合度)を超えると急激に変化し、高分子の重合度NがN<Neでは、溶融粘度ηは重合度Nに比例するのに対し、N>Neの場合には溶融粘度ηは重合度Nの3乗の値に比例するようになる。このことは、後述する実施例で用いた種々のポリエステル樹脂の固有粘度と溶融粘度の関係を示した図1から明らかであり、臨界重合度(図1の直線A及びBの交点)を境に急激にその粘性が増加するのである。
本発明において、絡み合い点間重合度以下の分子量成分の含有量が80重量%を境にホルダー等への付着物の蓄積を顕著に低減し得ることは、後述する実施例の結果からも明らかである。すなわち、絡み合い点間重合度における分子量が1.0×10で、固有粘度が同等の場合であるポリエステル樹脂において、絡み合い点間重合度以上の分子量成分が20重量%未満である以外は、本発明の範囲にあるポリエステル樹脂を用いた場合(実施例9)と比較すると、絡み合い点間重合度以上の分子量成分が20重量%以上のポリエステル樹脂を用いた場合には、ホルダー及びスロートの両方において、連続成形を2時間行った後においてもほとんど付着が生じておらず、より優れた結果が得られていることがわかる(実施例4)。
【0021】
また、前述したようにヒートセットの際にオリゴマー成分が金型表面に付着するには、モノマー成分が介在していることが知られており、本発明における高分子量成分においても同様に、溶出したモノマー成分、オリゴマー成分を介在して高分子量成分が付着すると考えられ、事実ホルダー等の蓄積物にはオリゴマー成分も検出されていることから、本発明においては、高分子成分付着のバインダーとなるポリエステル樹脂中の重量平均分子量500〜2000範囲の低分子量成分が1.1重量%以下の範囲であることが好ましい。
このように特定範囲の低分子量成分の量を抑制することにより、それ自体の溶出による付着を抑制することは勿論、高分子量成分の付着を抑制することも可能となって、ホルダー等の蓄積物を低減させて、溶融樹脂塊の落下のタイミングを長期にわたって安定化させることが可能となるのである。すなわち、同等の固有粘度におけるポリエステル樹脂中の重量平均分子量500〜2000範囲の低分子量成分が1.1重量%を超える場合(実施例6,7)は、かかる低分子量成分の含有量が1.1重量%以下である場合(実施例1,3)に比して付着物の抑制効果が劣っていることが実施例の結果からも明らかである。
【0022】
本発明においては、上述した特性を有するポリエステル樹脂を、固有粘度が0.60乃至0.79dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.50乃至3.50のポリエステル樹脂Aと、固有粘度が0.80乃至1.30dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.80乃至4.00のポリエステル樹脂Bを、ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bの固有粘度の差が0.15以上となるように組み合わせて溶融混練することにより製造することができる。
上述したように本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の固有粘度を0.70乃至1.00dL/g、分子量分布(Mz/Mn)を3.0以上、ジエチレングリコール含有量を2.3モル%以下の全てを満足することが溶融樹脂塊の搬送性、成形性、生産性等の点から重要であるが、固有粘度が低く、しかも分子量分布(Mz/Mn)が2.50乃至3.50のポリエステル樹脂Aと、固有粘度が高く分子量分布(Mz/Mn)が2.80乃至4.00のポリエステル樹脂Bを組み合わせで用いることにより、固有粘度が低い一方、高分子量成分を多く含むポリエステル樹脂を容易に調製することが可能となるのである。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法においては、ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bを、固有粘度の差が0.15以上となる組み合わせで用いることが重要であり、これにより固有粘度及び分子量分布が上記範囲にあるポリエステル樹脂を調製することが可能となるのである。一般に固有粘度は分子量と対応関係にあるため、本発明で規定する0.70乃至1.00dL/gの範囲のポリエステル樹脂を通常のポリエステル樹脂の合成方法で調製した場合には、本発明で規定する分子量分布(Mz/Mn)を3.0以上に調整することは容易ではないが、この方法によれば、本発明で規定する固有粘度及び分子量分布を有するポリエステル樹脂を容易に調製することが可能となるのである。
【0024】
このことは後述する実施例の結果からも明らかである。すなわち、固有粘度が上記範囲にある場合でも、ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bの固有粘度の差が0.15未満である場合には、得られるポリエステル樹脂の分子量分布を本発明の範囲に調整することが困難になるのである(比較例6,12)。
ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bは、用いるポリエステル樹脂の固有粘度及び分子量分布によってその配合割合は異なり、一概に規定できないが、特に重量比で5:95乃至95:5の範囲で用いることが好ましい。
【0025】
(ポリエステル樹脂の調製)
固有粘度が0.70乃至1.00dL/g、分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上であると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%以下である、本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂は、これに限定されるものではないが、固有粘度が0.60乃至0.79dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.50乃至3.50のポリエステル樹脂Aと、固有粘度が0.80乃至1.30dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.80乃至4.00のポリエステル樹脂Bを、ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bの固有粘度の差が0.15以上となるように組み合わせて溶融混練することにより好適に製造することができる。
尚、絡み合い点間重合度は、ポリエステル樹脂の化学構造によって決定され、一概に規定することはできないが、ホモポリエチレンテレフタレートの場合では、1.0×10の重量平均分子量を境に粘性が急激に変化することから、本発明のポリエステル樹脂においては、1.0×10の重量平均分子量以上の高分子量成分をポリエステル樹脂中20重量%以上含有することが好ましい。
本発明のポリエステル樹脂としては、これに限定されるものでないが、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール又はそのエステル形成性誘導体とを主体とする原料を、触媒の存在下に液相重合及び固相重合させることにより得られたものであることが好ましい。
ポリエステル樹脂の合成は一般に、高純度テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)とを直接反応させてポリエチレンテレフタレート(PET)を合成する方法により行われ、通常2つの工程に分けられており、(A)TPAとEGとを反応させて、ビス−β−ヒドロキエチルテレフタレート(BHET)又はその低重縮合体を合成する工程、(B)BHET又はその低重縮合体からエチレングリコールを留去して重縮合を行う工程から成っている。
【0026】
BHET又はその低重縮合体の合成はそれ自体公知の条件で行うことができ、例えばTPAに対するEGの量を1.1〜1.5モル倍として、EGの沸点以上、例えば220〜260℃の温度に加熱して、1〜5kg/cm の加圧下に、水を系外に留去しながら、エステル化を行う。この場合、TPA自体が触媒となるので、通常触媒は必要ないが、それ自体公知のエステル化触媒を用いることもできる。
【0027】
第二段階の重縮合工程では、第一段階で得られたBHET又はその低重縮合体にそれ自体公知の重縮合触媒を加えた後、反応系を260〜290℃に保ちながら徐々に圧力を低下させ、最終的に1〜3mmHgの減圧下に撹拌し、生成するEGを系外に留去しながら、反応を進行させる。反応系の粘度によって分子量を検出し、所定の値に達したら、系外に吐出させ、冷却後チップとする。重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アンチモン化合物等が使用されるが、二酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシドなどのゲルマニウム化合物を用いることが、結晶化温度域を前述した範囲に保つ上で好ましい。
【0028】
尚、本発明のポリエステル樹脂中のDEG含有量を低減させるには、ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂B中のDEG含有量を低減させることが必要である。DEG含有量を低減させるには反応条件、添加剤等を適宜選択することによりコントロールすることが必要であり、この場合の添加剤としては、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン等の第3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の第4級アンモニウム、及び炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等の塩基性化合物を挙げることができ、その添加量は、0.005乃至1重量%の範囲であることが好ましい。
【0029】
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂においては、エステル反復単位の大部分、一般に70モル%以上、特に80モル%以上をエチレンテレフタレート単位を占めるものが好ましく、ガラス転移点(Tg)が50乃至90℃、特に55乃至80℃で、融点(Tm)が200乃至275℃、特に220乃至270℃にある熱可塑性ポリエステルが好適である。
ホモポリエチレンテレフタレートが耐熱圧性の点で好適であるが、エチレンテレフタレート単位以外のエステル単位の少量を含む共重合ポリエステルも使用し得る。テレフタル酸以外の二塩基酸としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;の1種又は2種以上の組合せが挙げられ、エチレングリコール以外のジオール成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0030】
ポリエステル樹脂を結晶化するに伴い内部に含有される環状三量体等の低分子量成分は外部にはみだし、低分子量成分の含有量は減少する。この結晶化温度は、低分子量成分の含有量の減少に関して最適範囲があり、一般にホモポリエチレンテレフタレートの場合で、100乃至150℃、特に120乃至140℃の範囲が適当であり、また処理時間は1乃至24時間、特に2乃至20時間が適当である。ポリエステル樹脂ペレットの結晶化のための熱処理は、例えば加熱窒素ガス等の加熱不活性ガスを用いて、流動床または固定床で行うことができ、また真空加熱炉内で行うこともできる。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法に用いるポリエステル樹脂Bは、ポリエステル樹脂Aに比して固有粘度が高く、固有粘度が0.80乃至1.30dL/gの範囲にあることから、必要に応じて所望の固有粘度を得るため、この結晶化されたポリエステル樹脂のペレットを固相重合させることにより得ることができる。
この固相重合に際しては、溶融重合の場合とは異なり、固有粘度の増大に伴って、低分子量成分及び絡み合い点間重合度以下の分子量成分の低下を生じる。また、一般に固相重合温度の上昇に伴って低分子量成分及び絡み合い点間重合度以下の分子量成分の含有量が低下し、重合時間の増大に伴って低分子量成分及び絡み合い点間重合度以下の分子量成分の含有量が低下して、分子量分布(Mz/Mn)も3.0乃至3.5の範囲にすることが可能となる。
固相重合は、一般に160乃至260℃の温度、特に180乃至200℃の温度で2乃至10時間、特に4乃至6時間行うことが好ましい。固相重合時の加熱は、温度を変更する以外は結晶化の場合と同様であってよい。この固相重合時にもポリエステル樹脂の結晶化はある程度進行する。
【0032】
このようにして得られたポリエステル樹脂A及びBを、好適にはA:B=5:95乃至95:5、特に10:90乃至90:10の重量比で配合して溶融混練することにより、固有粘度が0.70乃至1.00dL/g、分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%以下のポリエステル樹脂を得ることができる。
ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bの溶融混練は、一般に200乃至300℃の温度で1乃至10分間行うことが望ましく、ベントを引いて行うことが樹脂の分解を防止する上で好ましい。
【0033】
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂においては、上述したポリエステル樹脂A及びBを組み合わせて圧縮成形直前で調製する方法、又は調製したペレットを再び圧縮成形の押出機に供給する方法の他、通常の重合で直接、固有粘度が0.70乃至1.00の範囲及び分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上であるポリエステル樹脂を調製してもよい。
一般にポリエステル樹脂のような縮合重合物は、溶融温度では常にエステル交換反応が起こるため、その分子量分布はある最適値をとる。このため、この分子量分布(Mz/Mn)を3.0以上と広くするためには、例えばポリオールを共重合する方法等の手段を用いることが望ましい。
【0034】
(プリフォームの製造方法)
本発明のプリフォームの製造方法は、前述した通り、圧縮成形機に供給される溶融樹脂塊を、固有粘度が0.70乃至1.00dL/g、分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上であると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%以下であるポリエステル樹脂を用いて成形すること以外は、従来公知の圧縮成形法により成形することができる。
上記ポリエステル樹脂を用いることにより、長時間連続運転を行っても、圧縮成形機への溶融樹脂塊の供給装置におけるホルダー及びスロート等の溶融樹脂塊の搬送手段に付着物の蓄積がなく、搬送手段の頻繁な清掃の必要がなく、生産効率よくプリフォームを製造することが可能となる。
しかもこのポリエステル樹脂は固有粘度が0.70乃至1.00dL/gの範囲にあるので、樹脂の流動性がよく、押出機からの樹脂吐出量を大きくすることができると共に、押出機のトルクが過度に上昇することもないので、生産性よくプリフォームを製造できる。また圧縮成形型内で圧縮成形される際にも成形型内をスムーズに流動するため、シワやモヤ、或いは成形歪の発生を有効に抑制することができ、成形性よく圧縮成形を行うことができるという利点がある。
【0035】
また本発明のプリフォームの製法においては、溶融ポリエステル樹脂の溶融押出温度が、ポリエステル樹脂の融点(Tm)を基準として、Tm+5℃乃至Tm+40℃、特にTm+10℃乃至Tm+30℃の範囲であることが、一様な溶融押出物を形成すると共に、樹脂の熱劣化やドローダウンを防止する上で好ましい。
また溶融樹脂の混練を押出機で行う際、ベントを引いて行うことが特に好ましく、これによりオリゴマー成分、絡み合い点間重合度以下の分子量成分の溶出を抑制し、溶融押出物の粘着を抑制してホルダー及びスロートへの付着を防止することが可能となるのである。
【0036】
図2及び図3は、本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂を用いてプリフォームを成形する際に用いる成形装置を示す説明図であり、図2は成形システムの全体を示す図であり、図3は、図2のX部分における断面図であり、溶融樹脂塊を落下させるために切断・保持手段が溶融樹脂塊を挟持している状態を示す部分断面図である。
全体を1で示す圧縮成形装置は、矢印Aで示す方向に回転駆動する比較的大径の回転円盤38を含み、この回転円盤38の周縁には、周方向に等間隔をおいて複数個の成形型40が配設されている。成形型40の各々は、雌型48及び雄型50から成り、成形型40が溶融樹脂塊の供給位置に位置すると、雄型は開位置に上昇し、雌型48内に剛性樹脂供給装置20の切断・保持機構22から溶融樹脂塊34が供給される。成形型40が成形域に位置すると、雄型50が閉位置に下降し、雌型48と雄型50の協働により溶融樹脂塊34が所要形状のプリフォームに圧縮成形される。成形型40が搬出位置に至ると雄型50は開位置に上昇して、成形されたプリフォームが取り出される。
【0037】
更に、詳細に説明すると、押出機から押出されたストランドを切断手段28で切断してなる溶融樹脂塊34をホルダー30及びプッシャー32から成る切断・保持手段で保持する。成形型40が供給位置に至ると、プッシャー32が移動して溶融樹脂塊34が下方に落下する。雌型48にはスロート56が設けられており、このスロート56を介して溶融樹脂塊34が雌型48内に安定して供給される。本発明においては特にホルダー及びスロートに溶融樹脂塊からのオリゴマー成分や高分子量成分の付着が抑制されているので、溶融樹脂塊の落下のタイミングが一定であり、安定して成形型に溶融樹脂塊を長期にわたって供給することが可能となるのである。
【0038】
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂を用いて成形されたプリフォームは、後述する実施例からも明らかなように、固有粘度が0.65乃至0.80dL/g、分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上であると共に、DEG含有量が2.3重量%以下の範囲にあり、絡み合い点間重合度以上の分子量成分が5重量%以上の量で含有されている。
【0039】
本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂を用いて成形されたプリフォームは、延伸ブロー成形されることにより、ボトル、広口カップ等の延伸成形容器に成形される。
延伸ブロー成形においては、本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂を用いて成形されたプリフォームを延伸温度に加熱し、このプリフォームを軸方向に延伸すると共に周方向に二軸延伸ブロー成形して二軸延伸容器を製造する。
尚、プリフォームの成形とその延伸ブロー成形とは、コールドパリソン方式の他、プリフォームを完全に冷却しないで延伸ブロー成形を行うホットパリソン方式にも適用できる。
延伸ブローに先立って、必要により、プリフォームを熱風、赤外線ヒーター、高周波誘導加熱等の手段で延伸適正温度まで予備加熱する。その温度範囲はポリエステルの場合85乃至120℃、特に95乃至110℃の範囲あるのがよい。
【0040】
このプリフォームを、それ自体公知の延伸ブロー成形機中に供給し、金型内にセットして、延伸棒の押し込みにより軸方向に引っ張り延伸すると共に、流体の吹込みにより周方向へ延伸成形する。金型温度は、一般に室温乃至190℃の範囲にあることが好ましいが、後述するようにワンモールド法で熱固定を行う場合は、金型温度を120乃至180℃に設定することが好ましい。
最終のポリエステル容器における延伸倍率は、面積倍率で1.5乃至25倍が適当であり、この中でも軸方向延伸倍率を1.2乃至6倍とし,周方向延伸倍率を1.2乃至4.5倍とするのが好ましい。
【0041】
本発明のポリエステル容器は、それ自体公知の手段で熱固定することもできる。熱固定は、ブロー成形金型中で行うワンモールド法で行うこともできるし、ブロー成形金型とは別個の熱固定用の金型中で行うツーモールド法で行うこともできる。熱固定の温度は120乃至180℃の範囲が適当である。
また他の延伸ブロー成形方法として、本出願人にかかる特許第2917851号公報に例示されるように、プリフォームを、1次ブロー金型を用いて最終成形品よりも大きい寸法の1次ブロー成形体とし、次いでこの1次ブロー成形体を加熱収縮させた後、2次ブロー金型を用いて延伸ブロー成形を行って最終成形品とする二段ブロー成形法を採用してもよい。
【実施例】
【0042】
I.測定
1.固有粘度
150℃4時間乾燥させたポリエチレンテレフタレート樹脂のペレット、ポリエステルAとポリエステルBを所定の比率でブレンドしたペレット、又は成形したプリフォームから切り出したサンプルを0.20g計量し、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール(1/1)(重量比)の混合溶媒を20ml用いて120℃で20分間撹拌させて完全に溶解させる。溶解後、室温まで冷却し、グラスフィルターを通した溶液を30℃に温調されたウベローデ粘度計((株)草野科学機械製作所社製)を用いて固有粘度を求めた。
【0043】
2.DEG量
150℃4時間乾燥させたポリエチレンテレフタレート樹脂のペレット、ポリエステルAとポリエステルBを所定の比率でブレンドしたペレット、又は成形したプリフォームからサンプルを切り出し、重トリフルオロ酢酸/重クロロホルム(1/1)(重量比)の混合溶媒に溶解させ、NMR装置(EX270:日本電子データム(株))にて1H−NMRスペクトルを測定した。得られたスペクトルのうち、DEG部位(4.27ppm)、テレフタル酸部位(8.22ppm)に由来するピークの積分値の比率から、DEGの含有率を算出した。
【0044】
3.重量平均分子量及び分子量分布の測定
ポリエステル樹脂試料5mgを精秤し、重量比50:50のクロロホルム(高速液体クロマトグラフ用:キシダ化学(株)社製)−1,1,1,3,3,3,−ヘキサフルオロ-2-プロパノール(セントラル硝子(株)社製)混合溶媒に熔解させた溶液を用い、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(システム:旭テクネイオン(株)製Integrated System For GPC/SEC、カラム:TSK G5000HHR+4000HHR、検出器:VISCOTEC社製Triple Detector Module TriSEC Model302、溶離液:クロロホルム、注入量:100μL)により重量平均分子量Mwを求めた。
また、同様にして得られた数平均分子量Mnとz平均分子量Mzより、分子量分布(Mz/Mn)を求めた。
ここで、z平均分子量Mzとは、ΣWiMi/WiMiで与えられる平均分子量であり、Wiは分子種の重量、Miは分子量をそれぞれ表す。
【0045】
4.絡み合い点間分子量以下の分子量成分含有率
(1)まず、分子量の異なる4種の同一組成のポリエチレンテレフタレート樹脂に対し、上記方法により固有粘度を測定した。次いでにキャピログラフ(東洋精機(株)製)を用いて、歪み速度608(1/sec.)、温度270℃における溶融粘度を測定した。得られた溶融粘度を、固有粘度に対してプロットし(図1)、傾きの変わる点から絡み合いのはじまる固有粘度を求めた。
(2)1,1,1,3,3,3,-ヘキサフルオロ-2-プロパノールとクロロホルムの重量比が50:50の混合溶媒で、3mgのポリエチレンテレフタレート樹脂のペレット片を完全に溶解させた後、検出器として光散乱、示差屈折計、差圧粘度検出器を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC;Integrated System For GPC/SEC:旭テクネイオン(株)社製、Triple Detector Module TriSEC Model 302:Viscotek製)を用いて固有粘度−分子量の検量線を求めた。
(3)上記(1)で求めた絡み合いのはじまる固有粘度と(2)で求めた固有粘度−分子量の検量線から、ポリエチレンテレフタレート樹脂における絡み合いのはじまる分子量、すなわち絡み合い点間分子量を算出した。
(4)上記(2)と同じゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いて、成形に用いるポリエチレンテレフタレート樹脂試料の分子量分布の積分曲線を求め、絡み合い点間分子量以下の成分の含有率を算出した。
【0046】
5.分子量500〜2000の成分含有率
上記ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いて測定した分子量分布の積分曲線から、重量平均分子量が500〜2000の成分の含有率を求めた。
【0047】
II.評価
1.ホルダー・スロートへの付着
150℃4時間以上乾燥させたPET樹脂のペレットを270℃で押出して連続的に圧縮成形した。成形開始2時間後、合成樹脂供給装置のホルダー、スロートを取り外し、上記混合溶媒10mlで2回洗浄して付着物を採取した。この溶液を蒸発、乾燥・固化し、同じ混合溶媒で2.5mlにメスアップし、上記ゲルパーミエーションクロマトグラフィにて高分子量成分、低分子量成分の有無を確認した。評価の基準は次の通りである。
○ :高分子量成分、低分子量成分が極微量付着物として存在したが、タイミング変化への影響はなかった。
△ :高分子量成分、低分子量成分が微量付着物として存在したが、タイミング変化への影響はなかった。
× :高分子量成分、低分子量成分が付着物として存在し、タイミング変化が生じた。
【0048】
2.溶融樹脂塊の落下タイミングの変化
付着成分量が増加すると、溶融樹脂塊がホルダーから離れにくくなるなどして、姿勢を保持したままキャビティに収納されにくくなる。150℃4時間以上乾燥させたPET樹脂のペレットを270℃で押出して連続的に圧縮成形した。成形開始2時間後、これを目視で観測して、タイミング変化の有無を評価した。評価の基準は次の通りである。
○ :タイミング変化無し。
△ :多少のタイミング変化があったが、溶融樹脂塊がキャビティ内に収納された。
× :タイミング変化があり、溶融樹脂塊がキャビティ内に収納されなかった。
【0049】
3.ドローダウン
150℃4時間以上乾燥させたPET樹脂のペレットを270℃で押出して連続的に圧縮成形した。成形開始2時間後、これを目視で観察して、タイミング変化への影響を評価した。
○ :ドローダウン無し。
△ :ドローダウンが多少あるが、タイミング変化への影響はない。
× :ドローダウンがあり、タイミング変化への影響が大きい。
【0050】
4.賦形性の評価
150℃4時間以上乾燥させたPET樹脂のペレットを270℃で押出して連続的に圧縮成形した。成形開始2時間後、プリフォームの賦形性を目視で評価した。評価の基準は次の通りである。
○ :プリフォームにシワやモヤが無い。
△ :プリフォーム外観にシワやモヤが注意深く観察すると見える。
× :プリフォーム外観にシワやモヤが顕著に見える。
【0051】
(実施例1)
固有粘度0.62dL/g、分子量分布(Mz/Mn)3.17のPET樹脂Aと固有粘度1.16dL/g、分子量分布(Mz/Mn)2.93のPET樹脂Bを150℃4時間乾燥させた後、PET樹脂AとPET樹脂Bを70:30でドライブレンドしたブレンド樹脂を、二軸押出機で溶融混練し、押出温度270℃で溶融押出し、図2及び3に示した溶融樹脂供給装置を用いて、25gの溶融樹脂塊を200個/minの速度で圧縮成形機に供給して、プリフォームの2時間連続成形を行い、ホルダー・スロートへの付着、溶融樹脂塊の落下タイミングの変化、ドローダウン、賦形性を観察した。
また、ブレンド樹脂及びプリフォームのそれぞれについて、固有粘度、分子量分布(Mz/Mn)、DEG含有量、絡み合い点間重合度以上の分子量成分の含有量(重量%)、分子量500〜2000の成分の含有量(重量%)を求めた。結果を表1及び表2に示す。
【0052】
(実施例2〜7)
用いるポリエステル樹脂A、B或いはこれらのブレンド比を変えた得た以外は実施例1と同様にして、プリフォームを成形し、実施例1と同様に、ブレンド樹脂及びプリフォームのそれぞれについて、固有粘度、分子量分布(Mz/Mn)、DEG含有量、絡み合い点間重合度以上の分子量成分の含有量(重量%)、分子量500〜2000の成分の含有量(重量%)を求めた。結果を表1及び表2に示す。
【0053】
(比較例1〜3)
用いるポリエステル樹脂として表1に示す樹脂単独を用いた以外は、実施例1と同様にして、プリフォームを成形し、実施例1と同様に、樹脂及びプリフォームについて、固有粘度、分子量分布(Mz/Mn)、DEG含有量、絡み合い点間重合度以上の分子量成分の含有量(重量%)、分子量500〜2000の成分の含有量(重量%)を求めた。結果を表1及び表2に示す。
【0054】
(比較例4〜12)
用いるポリエステル樹脂A、Bの固有粘度、分子量分布及びブレンド比を変えた得た以外は実施例1と同様にして、プリフォームを成形し、実施例1と同様に、ブレンド樹脂及びプリフォームについて、固有粘度、分子量分布(Mz/Mn)、DEG含有量、絡み合い点間重合度以上の分子量成分の含有量(重量%)、分子量500〜2000の成分の含有量(重量%)を求めた。その結果を表1及び表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】ポリエステル樹脂における固有粘度と溶融粘度の関係を示す図である。
【図2】本発明のプリフォームの製造方法に用いる成形装置を示す説明図であり、成形システムの全体を示す図である。
【図3】図3は、図2のX部分における断面図であり、溶融樹脂塊を落下させるために切断・保持手段が溶融樹脂塊を挟持している状態を示す部分断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度が0.70乃至1.00dL/g、分子量分布(Mz/Mn)が3.0以上であると共に、ジエチレングリコール含有量が2.3モル%以下であることを特徴とする圧縮成形用ポリエステル樹脂。
【請求項2】
絡み合い点間重合度以上の分子量成分を20重量%以上の量で含有することを特徴とする請求項1記載の圧縮成形用ポリエステル樹脂。
【請求項3】
ポリエステル樹脂中の重量平均分子量500〜2000範囲の低分子量成分が1.1重量%以下である請求項1又は2記載の圧縮成形用ポリエステル樹脂。
【請求項4】
固有粘度が0.60乃至0.79dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.50乃至3.50のポリエステル樹脂Aと、固有粘度が0.80乃至1.30dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.80乃至4.00のポリエステル樹脂Bを、ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bの固有粘度の差が0.15以上となるように組み合わせて溶融混練することを特徴とする圧縮成形用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂Aと前記ポリエステル樹脂Bを、5:95〜95:5の重量比で用いる請求項4記載の圧縮成形用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
固有粘度が0.60乃至0.79dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.50乃至3.50のポリエステル樹脂Aと、固有粘度が0.80乃至1.30dL/g及び分子量分布(Mz/Mn)が2.80乃至4.00のポリエステル樹脂Bを、ポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bの固有粘度の差が0.15以上となるように組み合わせて溶融混練したポリエステル樹脂の溶融樹脂塊を圧縮成形することを特徴とするプリフォームの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−161019(P2006−161019A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154278(P2005−154278)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】