説明

圧縮機

【課題】クランク軸で可動スクロールを駆動する従来の圧縮機よりも圧縮機を小型化する。
【解決手段】可動スクロール(40)が固定スクロール(50)に対して偏心回転して流体室(C)の容積を変化させて流体を圧縮する圧縮機において、回転体(70)と、この回転体(70)を第1の軸心周りに回転駆動する第1のリングモータ(80)とを設ける。そして、回転体(70)には、第1の軸心から偏心した第2の軸心周りに、回転体(70)の回転方向とは逆方向、且つ同じ大きさの角速度で、可動スクロール(40)を回転駆動する第2のリングモータ(90)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに噛み合う固定スクロールと可動スクロールとを備え、該可動スクロールが該固定スクロールに対して偏心回転(自転せずに公転)して流体を圧縮する圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和装置の冷媒回路において、蒸発器から吸入した流体(この例では冷媒)を圧縮して、凝縮器へ吐出するために、いわゆるスクロール式の圧縮機が用いられることがある。このスクロール式圧縮機は、一般に、互いに噛み合う固定スクロールと可動スクロールとを備え、該可動スクロールが該固定スクロールに対して偏心回転して流体を圧縮する。
【0003】
このスクロール式圧縮機で流体を圧縮するには、可動スクロールの自転を規制しつつ、スクロール式圧縮機を固定スクロールに対して公転運動させる必要がある。一般的な従来のスクロール式圧縮機では、偏心部を有した駆動軸(クランク軸)によって可動スクロールを公転駆動させ(例えば特許文献1を参照)、例えばオルダムリングなどを用いた自転防止機構によって可動スクロールの自転を規制していた(例えば特許文献2を参照)。
【特許文献1】特許第2541352号公報
【特許文献2】特許第3668747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、クランク軸を安定に駆動させるためには、特許文献1の第1図に示されているように、クランク軸を軸方向の両端部で支持(すなわちクランク軸を両持ち)してやる必要がある。そのため、従来のスクロール式圧縮機は、クランク軸の軸心方向の長さが大きくなりがちであった。
【0005】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、クランク軸で可動スクロールを駆動する従来の圧縮機よりも圧縮機を小型化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、第1の発明は、
固定スクロール(50)と、該固定スクロール(50)と共に流体室(C)を形成する可動スクロール(40)とを備え、該可動スクロール(40)が該固定スクロール(50)に対して偏心回転して前記流体室(C)の容積を変化させて流体を圧縮する圧縮機であって、
回転体(70)と、
前記回転体(70)を第1の軸心周りに回転駆動する第1の駆動手段(80)と、
前記回転体(70)に設けられて、前記第1の軸心から偏心した第2の軸心周りに、該回転体(70)の回転方向とは逆方向、且つ同じ大きさの角速度で、前記可動スクロール(40)を回転駆動する第2の駆動手段(90)と、
を備えていることを特徴とする。
【0007】
これにより、第1の駆動手段(80)によって、可動スクロール(40)が固定スクロール(50)に対して公転させられるとともに、第2の駆動手段(90)によって、可動スクロール(40)の自転が打ち消される。
【0008】
また、第2の発明は、
第1の発明の圧縮機において、
前記第1の駆動手段(80)は、永久磁石からなるロータ(81)が前記回転体(70)に固定された電動機により構成されていることを特徴とする。
【0009】
これにより、永久磁石からなるロータ(81)が回転体(70)に固定された電動機によって、回転体(70)が回転駆動される。
【0010】
また、第3の発明は、
第1の発明の圧縮機において、
前記第2の駆動手段(90)は、永久磁石からなるロータ(91)が前記回転体(70)に固定された電動機により構成されていることを特徴とする。
【0011】
これにより、永久磁石からなるロータ(91)が回転体(70)に固定された電動機によって、可動スクロール(40)が回転駆動される。
【0012】
また、第4の発明は、
第1の発明の圧縮機において、
前記可動スクロール(40)は、前記回転体(70)と対向した鏡板(41)を背面側に有し、
前記可動スクロール(40)の鏡板(41)と前記回転体(70)との間には、スラスト軸受け(77)が設けられていることを特徴とする。
【0013】
これにより、可動スクロール(40)の鏡板(41)と回転体(70)との間の摩擦が低減される。
【0014】
また、第5の発明は、
第1の発明の圧縮機において、
前記第1及び第2の駆動手段(80,90)は、ロータ(81,91)及びステータ(82,92)がリング状に構成された電動機により構成されていることを特徴とする。
【0015】
これにより、回転体(70)及び可動スクロール(40)は、それぞれリングモータで駆動される。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、可動スクロール(40)を公転させるために、従来の圧縮機のようなクランク軸を必要としない。したがって、クランク軸を両持ちするための2つの軸受けが不要になり、可動スクロール(40)の回転軸方向における圧縮機の長さを短くできる。
【0017】
また、第2の発明によれば、ロータ(81)側が永久磁石により構成されているので、ロータ(81)に給電するためのブラシを必要としない。そのため、圧縮機をより簡略な構造にできる。
【0018】
また、第3の発明によれば、ロータ(91)が永久磁石により構成されているので、ロータ(91)に給電するためのブラシを必要としない。そのため、圧縮機をより簡略な構造にできる。
【0019】
また、第4の発明によれば、可動スクロール(40)の回転軸方向における荷重を、回転体(70)によって支持できる。
【0020】
また、第5の発明によれば、圧縮機をより小型にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0022】
−圧縮機の全体構成−
本発明の実施形態に係る圧縮機は、例えば、空気調和装置の冷媒回路において、蒸発器から吸入した流体(冷媒)を圧縮して、凝縮器へ吐出するために用いられる。図1は、本発明の実施形態に係る圧縮機(1)の概略構成を示す縦断面図である。この圧縮機(1)は、図1に示すように、ケーシング(10)内に、圧縮機構(20)と、駆動機構(30)とが収納され、全密閉型に構成されている。
【0023】
−圧縮機の各部の構成−
ケーシング(10)は、縦向きに配置された円筒状の胴部(11)と、この胴部(11)の上端部に固定された上部鏡板(12)と、胴部(11)の下端部に固定された下部鏡板(13)とから構成されている。この例では、上部鏡板(12)は、上に凸の湾曲面部と、該湾曲面部と一体に形成された円筒部を有した部材である。この上部鏡板(12)の円筒部の内径は、胴部(11)の外径とほぼ同径に形成され、この円筒部が胴部(11)に固定されている。また、下部鏡板(13)は、円盤状の底面部と、該底面部と一体に形成された円筒部を有した部材である。下部鏡板(13)の円筒部も、その内径が胴部(11)の外径とほぼ同径に形成され、この円筒部が胴部(11)に固定されている。
【0024】
このケーシング(10)には、上部鏡板(12)側から、圧縮機構(20)、駆動機構(30)の順で、これらが収容されている。また、このケーシング(10)の胴部(11)には、駆動機構(30)のほぼ真横で該胴部(11)を貫通する吸入管(14)が設けられている。吸入管(14)は、その終端がケーシング(10)内に開口している。また、上部鏡板(12)には、該上部鏡板(12)の円筒部を貫通する吐出管(15)が設けられている。この吐出管(15)は、圧縮機構(20)よりも上方において、ケーシング(10)内に開口している。
【0025】
圧縮機構(20)は、可動スクロール(40)と、固定スクロール(50)とを備えている。この圧縮機構(20)では、固定スクロール(50)と可動スクロール(40)とにより、流体室である圧縮室(C)が形成されている。そして、圧縮機構(20)では、可動スクロール(40)が固定スクロール(50)に対して偏心回転運動をすることにより、圧縮室(C)の容積を変化させて冷媒を圧縮する。
【0026】
可動スクロール(40)は、図2、及び図3に示すように、可動側鏡板部(41)と可動側ラップ(42)と駆動軸(43)とを備えている。
【0027】
可動側鏡板部(41)は、円板状に形成されている。この可動側鏡板部(41)は、その前面(固定スクロール(50)と対向する面)に可動側ラップ(42)が突設されている。可動側ラップ(42)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。
【0028】
また、可動側鏡板部(41)の背面(後述する回転体(70)と対向する面)に駆動軸(43)が突設されている。この駆動軸(43)は、円筒状に形成されて、可動側鏡板部(41)の背面の中央に配置されている。
【0029】
固定スクロール(50)は、固定側鏡板部(51)と固定側ラップ(52)と周壁部(53)とを備え、ケーシング(10)の胴部(11)に固定されている。
【0030】
固定側鏡板部(51)は、円板状に形成されている。固定側鏡板部(51)の中央部には、吐出口(54)が貫通形成されている。この吐出口(54)は、可動スクロール(40)の公転運動に伴って、可動スクロール(40)と固定スクロール(50)とによって形成された圧縮室である後述のA室(Ca)とB室(Cb)のそれぞれに間欠的に連通する。
【0031】
固定側ラップ(52)は、固定側鏡板部(51)の下面側に立設され、固定側鏡板部(51)と一体に形成されている。この固定側ラップ(52)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。
【0032】
周壁部(53)は、固定側鏡板部(51)と固定側ラップ(52)とを取り囲む円錐台状に形成されている。この周壁部(53)の外周縁部は、ケーシング(10)の胴部(11)に固定され、圧縮機構(20)の上方に、吐出空間(S1)を形成している。
【0033】
この圧縮機(1)では、いわゆる非対称渦巻き構造が採用されている。そのため、固定側ラップ(52)と可動側ラップ(42)とで巻き数が相違している。具体的には、固定側ラップ(52)は、可動側ラップ(42)よりも略1/2巻き分だけ長くなっている。そして、固定側ラップ(52)の外周側端部は、可動側ラップ(42)の外周側端部の近傍に位置している。なお、この固定側ラップ(52)は、その最外周部分が周壁部(53)と一体化されている。
【0034】
可動側ラップ(42)と固定側ラップ(52)とは、図4に示すように、互いに噛み合わされて複数の圧縮室(C)を形成している。これら複数の圧縮室(C)については、可動側ラップ(42)の外側面(外側ラップ面)に臨むものをA室(Ca)とよび、可動側ラップ(42)の内側面(内側ラップ面)に臨むものをB室(Cb)と呼ぶことにする。本実施形態では、固定側ラップ(52)の巻き数が可動側ラップ(42)の巻き数よりも多いため、A室(Ca)の最大容積がB室(Cb)の最大容積よりも大きくなっている。
【0035】
また、固定スクロール(50)の外周側には、図4に示すように、冷媒が導入される吸入口(55)が形成されている。この吸入口(55)は、可動スクロール(40)の公転運動に伴って、A室(Ca)とB室(Cb)のそれぞれに間欠的に連通する。
【0036】
駆動機構(30)は、基筒(60)、回転体(70)、第1のリングモータ(80)、及び第2のリングモータ(90)を備えている。
【0037】
基筒(60)は、回転体(70)を回転自在に支持するための部材である。この基筒(60)は、胴部(11)の内径とほぼ同じ外径の円筒部(61)と、円盤状に形成されて該円筒部(61)の一端で一体化された底面部(62)とから形成されている。この底面部(62)のほぼ中央には貫通孔(63)が形成されている。この貫通孔(63)は、底面部(62)と、可動スクロール(40)の駆動軸(43)との干渉を避けるため、及び第2のリングモータ(90)に給電する配線を通すために設けてある。このように構成された基筒(60)は、底面部(62)側をケーシング(10)の下部鏡板(13)側に向けて、ケーシング(10)の胴部(11)内に、円筒部(61)が嵌めこまれて、例えば溶接などにより胴部(11)に固定されている。
【0038】
基筒(60)の円筒部(61)の内周側には、回転体(70)を回転自在に支持するための外側軸受け(65)が設けられている。この外側軸受け(65)は、回転軸と直交する方向の荷重を受ける、いわゆるラジアル転がり軸受けである。本実施形態では、外側軸受け(65)は、外輪と、内輪と、内輪及び外輪の間に設けられた移動体(円筒ころ)とを備えている。そして、外側軸受け(65)は、その外輪の端部が基筒(60)の底面部(62)に当接するように円筒部(61)の内側に嵌めこまれて固定されている。
【0039】
また、底面部(62)には、回転体(70)の回転軸方向の荷重を支持する軸受けとして下側軸受け(66)が設けられている。下側軸受け(66)は、回転軸方向の荷重を受けるいわゆるスラスト転がり軸受けである。詳しくは、この下側軸受け(66)は、上側及び下側のリング状の軌道盤と、これらの軌道盤の間に設けられた移動体(円筒ころ)とを備えている。そして、底面部(62)には、円環状の溝部(67)が形成され、下側の軌道盤がこの溝部(67)に嵌めこまれて固定されている。
【0040】
また、この基筒(60)は、該基筒(60)をケーシング(10)の胴部(11)に取り付けた状態で該基筒(60)が吸入管(14)と対向する位置に、切り欠き部(64)が形成されている。この切り欠き部(64)は、吸入管(14)から入ってきた流体(冷媒)を圧縮機構(20)(詳しくは固定スクロール(50)の吸入口(55))に導入する。
【0041】
回転体(70)は、外周側に段差を有したリング状に形成されている。図5は、回転体(70)の縦断面図である。図5に示すように、この回転体(70)の外周側は、厚さ方向の略半分の部分が、残りの部分よりも大径に形成されている。この大径の部分を外側大径部(72)と呼び、外周側の他の部分を外側小径部(73)と呼ぶことにする。この回転体(70)は、外側大径部(72)の側を基筒(60)の底面部(62)側に向けて、円筒部(61)内に回転自在に支持されている。具体的には、回転体(70)は、外側大径部(72)の外周壁が、外側軸受け(65)の内輪に嵌め込まれて固定され、且つ該回転体(70)の底面部(62)側の面が、下側軸受け(66)の上側の軌道盤に当接させられている。この構成により、回転体(70)は、基筒(60)の円筒部(61)内において、外側軸受け(65)により定まる軸心(第1の軸心(X1)と呼ぶ)周りに回転自在に支持される。
【0042】
また、回転体(70)は、その回転軸から所定の偏心量(ε)だけ偏心した軸心周りに可動スクロール(40)を回転自在に支持するようになっている。そのため、回転体(70)には、可動スクロール(40)を支持する軸受けを取り付ける貫通孔(71)が形成されている。この貫通孔(71)は、詳しくは、図5に示すように、該貫通孔(71)の下側(底面部(62)に近い側)の略半分の部分が、他の部分よりも小径に形成されている。以下では、貫通孔(71)の小径部分を内側小径部(74)と呼び、残りの部分を内側大径部(75)と呼ぶことにする。内側小径部(74)及び内側大径部(75)の中心は、第1の軸心(X1)からεだけ偏心した同じ軸上にある。
【0043】
この内側小径部(74)には、可動スクロール(40)の駆動軸(43)を回転自在に支持するために内側軸受け(76)が嵌め込まれている。内側軸受け(76)は、外側軸受け(65)と同様のいわゆるラジアル転がり軸受けである。この内側軸受け(76)により定まる軸心(第2の軸心(X2)と呼ぶ)は、第1の軸心(X1)に対し、εだけ偏心していることになる。そして、内側軸受け(76)の内輪には、貫通孔(71)の内側大径部(75)側から、可動スクロール(40)の駆動軸(43)を嵌め込んで固定している。このように可動スクロール(40)を取り付けると、該可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)は、回転体(70)の上面(内側大径部(75)の開口側)と対向することになる。なお、内側軸受け(76)の内輪及び外輪は、図示していないがCリング等の保持部材や圧入等により、回転体(70)と駆動軸(43)に固定されている。
【0044】
可動スクロール(40)は、第2の軸心(X2)方向の荷重を支持してやる必要がある。そのため、回転体(70)の上面と、可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)との間には上側軸受け(77)が設けられている。具体的には、この上側軸受け(77)は、下側軸受け(66)と同様のいわゆるスラスト転がり軸受け(スラスト軸受け)である。そして、上側軸受け(77)の下側の軌道盤が、回転体(70)の上面に形成された溝部(78)に嵌め込まれ、上側軸受け(77)の上側の軌道盤で可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)を支持している。この構成により、可動スクロール(40)は、内側軸受け(76)により定まる第2の軸心(X2)周りに回転自在に支持される。
【0045】
なお、前記の偏心量(ε)の大きさは、図6の(A)に示すように、可動側ラップ(42)の巻き終わり端が固定側ラップ(52)の歯と歯の間に位置し、且つ可動側ラップ(42)の外周面が固定側ラップ(52)の内周面側に偏心した際に、可動側ラップ(42)の外周面と固定側ラップ(52)の内周面とが実質的に接触するように定めてある。ここで言う「接触」は、ミクロンオーダーの隙間はあるが、油膜が形成されるために冷媒の漏れが問題にならない状態のことである。なお、圧縮機構(20)への給油構造は図示を省略している。
【0046】
第1のリングモータ(80)は、回転体(70)を第1の軸心(X1)周りに回転駆動するための電動機である。この第1のリングモータ(80)は、リング状のロータ(81)と、リング状のステータ(82)とを有した電動機である。すなわち、第1のリングモータ(80)は、円筒状のロータ及びステータを有した電動機と比べ、扁平な形状をしている。
【0047】
この第1のリングモータ(80)は、内側がロータ(81)であり、外側がステータ(82)である。このロータ(81)は、本実施形態では、永久磁石により構成され、ステータ(82)がコイルにより構成されている。このようにロータ(81)側を永久磁石にすることで、ロータ(81)の給電用のブラシを設ける必要がなくなり、駆動機構(30)をより簡略な構造にできる。
【0048】
この第1のリングモータ(80)では、ロータ(81)が、回転体(70)の外側小径部(73)に固定されている。また、ステータ(82)は、基筒(60)の円筒部(61)の内周面における、ロータ(81)と対向した位置に固定されている。この構成により、第1のリングモータ(80)は、回転体(70)を第1の軸心(X1)周りに回転駆動する。
【0049】
第2のリングモータ(90)は、可動スクロール(40)を第2の軸心(X2)周りに回転駆動するための電動機である。この第2のリングモータ(90)は、第1のリングモータ(80)と同様に、リング状のロータ(91)と、リング状のステータ(92)とを有した電動機である。すなわち、第2のリングモータ(90)も、円筒状のロータ及びステータを有した電動機と比べ、扁平な形状をしている。この第2のリングモータ(90)では、内側がステータ(92)であり、外側がロータ(91)である。また、この第2のリングモータ(90)は、ロータ(91)が永久磁石により構成され、ステータ(92)がコイルにより構成されている。このようにロータ(91)側を永久磁石にすることで、ロータ(91)の給電用のブラシを設ける必要がなくなり、駆動機構(30)をより簡略な構造にできる。
【0050】
この第2のリングモータ(90)は、ロータ(91)が、回転体(70)の内側大径部(75)に固定されている。また、ステータ(92)は、可動スクロール(40)の駆動軸(43)における、ロータ(91)と対向した位置に固定されている。前記の構成により、第2のリングモータ(90)は、可動スクロール(40)を第2の軸心(X2)周りに回転駆動する。この際、第1のリングモータ(80)の角速度をωとすると、第2のリングモータ(90)の角速度は、−ωに制御される。つまり、第1及び第2のリングモータ(80,90)の角速度は、大きさが同じで向きが逆になる。
【0051】
−圧縮機の運転動作−
(駆動機構の動作)
まず、図6を用いて、駆動機構(30)の動作を説明する。図6は、圧縮機構(20)及び駆動機構(30)の動作を示す概略説明図である。図6の下段は、回転体(70)が90°回転する毎の駆動機構(30)の状態を示し、上段は、下段の回転体(70)に対応した、固定スクロール(50)及び可動スクロール(40)の状態を示している。
【0052】
ここで、図6の(A)に示すように、可動側ラップ(42)の巻き終わり端が固定側ラップ(52)の歯と歯の間に位置し、且つ可動側ラップ(42)の外周面と固定側ラップ(52)の内周面とが実質的に接触している状態において、その接触位置と、この断面における回転体(70)の回転中心(図中の白丸)とを結ぶ軸をY軸とする。また、この断面上でY軸と直交し、回転体(70)の回転中心を通る軸をZ軸とする。この状態では、第2の軸心(X2)(駆動軸(43)の軸心)は、Y軸上に位置することになる。なお、図6中では、駆動軸(43)の軸心を黒丸で示してある。
【0053】
また、図6では、Y軸は、回転体(70)の回転中心よりも上方向を正の方向とし、Z軸は、回転体(70)の回転中心よりも右方向を正の方向とする。また、図6の(D)に示すように、駆動軸(43)の軸心が、Z軸上の正側にあるときの回転体(70)及び可動スクロール(40)の回転角度(θ)を0°とする。この図6の(D)の状態における回転体(70)及び駆動軸(43)の位置を基準に、それぞれの回転方向の向きを矢印(A1)と矢印(A2)を用いて表示してある。
【0054】
まず、図6の(D)に示した、回転体(70)の回転角度(θ)が0°の状態から圧縮機(1)の運転が開始されると、回転体(70)が第1のリングモータ(80)によって角速度ω(図6において反時計回りを正の回転方向とする)で回転駆動される。これと同時に可動スクロール(40)(詳しくは駆動軸(43))は、角速度−ω(すなわち時計回り)に、第2のリングモータ(90)によって駆動される。例えば、回転体(70)の回転角度(θ)が90°となった時点では、図6の(C)に示すように、第2の軸心(X2)はY軸上の正側に移動する。この際、駆動軸(43)は、回転体(70)の回転方向とは逆方向に90°だけ回転駆動させられている。このように、駆動軸(43)が回転体(70)の回転方向とは逆方向に90°だけ回転駆動させられたことにより、矢印(A2)の向きはZ軸の正側を向いたままである。すなわち、可動スクロール(40)は、固定スクロール(50)に対して公転はしているが、自転はしていないことになる。
【0055】
さらに、回転体(70)が第1のリングモータ(80)によって角速度ωで回転駆動されて、図6の(B)に示す状態になると、第2の軸心(X2)は、負側のZ軸上に移動する。一方、駆動軸(43)は、回転体(70)の回転方向とは逆方向にさらに90°だけ回転駆動させられる。したがって、矢印(A2)の向きはZ軸の正の方向を向いたままである。
【0056】
さらに、図6の(B)の状態から、回転体(70)が角速度ωで回転駆動されると第2の軸心(X2)は、負側のY軸上に位置する。この場合も、駆動軸(43)は、回転体(70)の回転方向とは逆方向に90°だけ回転駆動させられているので、矢印(A2)の向きはZ軸の正の方向を向いたままである。以下同様に、駆動機構(30)において前記の動作が繰り返され、駆動機構(30)は、可動スクロール(40)を固定スクロール(50)に対して、自転させることなく公転させる。
【0057】
(圧縮機構の動作)
前記のように、可動スクロール(40)が固定スクロール(50)に対して、自転することなく公転すると、圧縮室(C)において冷媒の圧縮が行われる。以下、図6を用いて、圧縮機(1)における圧縮動作を説明する。なお、説明の便宜上、回転体(70)の回転角度(θ)が270°の状態からの圧縮動作を説明する。
【0058】
まず、図6の(A)に示した状態(すなわち、回転体(70)の回転角度(θ)が270°の状態)では、可動側ラップ(42)の巻き終わり端が固定側ラップ(52)の歯と歯の間に位置している。この状態では、最外周の圧縮室(Ca0)と圧縮室(Cb0)の両方が低圧側に開放された状態で、両圧縮室(Ca0,Cb0)が吸入口(55)に連通する。なお、この状態では、図のY軸上のポイントで可動側ラップ(42)の外周面と固定側ラップ(52)の内周面とが実質的に接触しており、その接触位置(シールポイントP1と呼ぶ)よりも内周側(渦巻きの巻始め側)の部分(圧縮室(Ca1))は既に圧縮行程に入っている。
【0059】
ここから、回転体(70)が駆動機構(30)に駆動されて、図6の(D)に示した状態(回転体(70)の回転角度が0度の状態)になると、可動側ラップ(42)の巻き終わり端の内周面が固定側ラップ(52)の外周面に接触し、その接触位置(シールポイントP2と呼ぶ)が圧縮室(Cb1)の吸入閉じ切り位置となる。このとき、最外周の圧縮室(Ca0)では容積が拡大する吸入行程の途中であり、まだ巻き終わり側のシールポイントは形成されていない。
【0060】
次に、さらに回転体(70)が公転して、図6の(C)に示した、回転体(70)の回転角が90°の状態になると、圧縮室(Cb1)での圧縮行程と最外周の圧縮室(Ca0)での吸入行程がさらに進む。なお、B室(Cb)に関しては、既に圧縮途中の圧縮室(Cb1)に対して渦巻きの巻き終わり側に新たな圧縮室(Cb0)が形成され、そこで吸入行程が開始されている。
【0061】
次に、図6の(B)に示した、回転体(70)の回転角が180°の状態になると、最外周の圧縮室(Cb0)での吸入行程がさらに進む。一方、可動側ラップ(42)の巻き終わり端の外周面が固定側ラップ(52)の内周面に接触し、その接触位置(シールポイントP1)が圧縮室(Ca1)の吸入閉じ切り位置となる。そこから、さらに回転体(70)が回転すると 図6の(A)に示した状態に戻る。
【0062】
その後も、図6に示した動作が繰り返され、圧縮途中の圧縮室(Ca1)及び圧縮室(Cb1)が容積を縮小しながら渦巻きの内周側へ移動して、それぞれ吐出直前の圧縮室(Ca2)及び圧縮室(Cb2)へ変化していく。そして、圧縮室(Ca2)及び圧縮室(Cb2)は、最も内周側へ移動して容積が最小になったときに吐出口(54)と連通し、圧縮された冷媒が圧縮機構(20)から吐出される。圧縮機構(20)から吐出された冷媒は、圧縮機構(20)上方の吐出空間(S1)を介して、吐出管(15)から圧縮機(1)の外部に吐出される。
【0063】
以上のように、本実施形態に係る圧縮機(1)は可動スクロール(40)が固定スクロール(50)に対して、自転することなく公転(偏心回転)して、圧縮室(C)の容積を変化させて流体(この例では冷媒)を圧縮する。そして、この圧縮機(1)では、可動スクロール(40)を偏心回転させるために、クランク軸を必要としないので、従来の圧縮機においてクランク軸を両持ちするために必要であった2つの軸受けが不要になる。つまり、本実施形態の圧縮機は、可動スクロール(40)の回転軸方向における圧縮機の長さを短くでき、全体として圧縮機をコンパクトに構成することができる。しかも、本実施形態では、駆動手段としてリングモータを採用しているので、その効果は大きい。
【0064】
また、本実施形態は、自転防止機構として、オルダムリングのように直線的な運動で摺動する部材がないので、駆動機構の信頼性が向上する。
【0065】
《その他の実施形態》
なお、第1及び第2のリングモータ(80,90)は、ロータをコイルで構成してもよい。この場合には、コイルに給電するためのブラシを設ける必要がある。
【0066】
また、第1及び第2のリングモータ(80,90)は、圧電モータ(超音波モータ)で構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る圧縮機は、互いに噛み合う固定スクロールと可動スクロールとを備え、該可動スクロールが該固定スクロールに対して偏心回転(自転せずに公転)して流体を圧縮する圧縮機として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施形態に係る圧縮機の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】可動スクロール及び固定スクロールの構成を示す斜視図である。
【図3】可動スクロールの構成を示す斜視図である。
【図4】図1のA−A断面図であり、その断面における圧縮機構の横断面構造を示している。
【図5】回転体の構造を示す縦断面図である。
【図6】圧縮機構の運転状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0069】
40 可動スクロール
41 可動側鏡板部(鏡板)
50 固定スクロール
70 回転体
77 上側軸受け(摺動手段)
80 第1のリングモータ(第1の駆動手段)
81 ロータ
90 第2のリングモータ(第2の駆動手段)
91 ロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロール(50)と、該固定スクロール(50)と共に流体室(C)を形成する可動スクロール(40)とを備え、該可動スクロール(40)が該固定スクロール(50)に対して偏心回転して前記流体室(C)の容積を変化させて流体を圧縮する圧縮機であって、
回転体(70)と、
前記回転体(70)を第1の軸心周りに回転駆動する第1の駆動手段(80)と、
前記回転体(70)に設けられて、前記第1の軸心から偏心した第2の軸心周りに、該回転体(70)の回転方向とは逆方向、且つ同じ大きさの角速度で、前記可動スクロール(40)を回転駆動する第2の駆動手段(90)と、
を備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1の圧縮機において、
前記第1の駆動手段(80)は、永久磁石からなるロータ(81)が前記回転体(70)に固定された電動機により構成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項1の圧縮機において、
前記第2の駆動手段(90)は、永久磁石からなるロータ(91)が前記回転体(70)に固定された電動機により構成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項1の圧縮機において、
前記可動スクロール(40)は、前記回転体(70)と対向した鏡板(41)を背面側に有し、
前記可動スクロール(40)の鏡板(41)と前記回転体(70)との間には、スラスト軸受け(77)が設けられていることを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項1の圧縮機において、
前記第1及び第2の駆動手段(80,90)は、ロータ(81,91)及びステータ(82,92)がリング状に構成された電動機により構成されていることを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−167943(P2009−167943A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8333(P2008−8333)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】