説明

圧縮機

【課題】軸受ハウジングの軸受部材と駆動軸との隙間から潤滑油が漏出して駆動モータのロータ上部に排出されるのを抑制する。
【解決手段】軸受ハウジング(23)の下面側には、リング状に形成されたシール部材(50)が駆動軸(17)に嵌合されている。このシール部材(50)には、下側外周縁に沿って傾斜面(50a)が形成されている。また、シール部材(50)の周方向の一部が切断されて間隙部(50b)が形成されている。保持部材(52)には、シール部材(50)の傾斜面(50a)に対応する傾斜面(52a)が形成されている。ここで、シール部材(50)は、傾斜面(50a,52a)同士を当接させながら軸受ハウジング(23)の下面側に押圧されることで、その内径が縮径されるとともに、保持部材(52)によって軸受ハウジング(23)の下面側で保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転式圧縮機は、例えば蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路において冷媒を圧縮するのに用いられている。回転式圧縮機では、密閉型のケーシング内に、圧縮機構と、圧縮機構を駆動する駆動モータとが収納されている。
【0003】
特許文献1には、スクロール式の圧縮機構を採用した圧縮機が開示されている。このスクロール式の圧縮機は、固定スクロールと、この固定スクロールと噛合する可動体としての可動スクロールとを備えている。
【0004】
固定スクロールと可動スクロールは、板状の鏡板と渦巻き状のラップとをそれぞれ備えている。両スクロールは、各ラップが互いに向かい合う姿勢で配置され、それぞれのラップが互いに噛み合わされる。その結果、互いに噛み合ったラップが鏡板で挟まれた状態となり、これらラップと鏡板とによって圧縮室が形成される。可動スクロールには、鏡板の背面側に駆動軸の偏心部が係合している。駆動軸は、軸受ハウジングの軸受部材によって回転自在に軸受されている。
【0005】
そして、スクロール式の圧縮機の運転時には、駆動モータによって駆動軸が駆動される。その結果、可動スクロールは、固定スクロールに対して偏心しながら公転する。このように可動スクロールが公転運動を続けると、圧縮室の容積が拡縮する。これにより、圧縮室に吸入された流体が圧縮され、圧縮された流体は吐出管より外部へ排出される。
【0006】
ここで、駆動軸の内部には、上下方向に延びる給油路が形成されており、ケーシング底部に貯留された潤滑油が給油路を通って吸い上げられ、圧縮機構の各摺動部へ供給される。各摺動部へ供給された潤滑油は、軸受ハウジングに形成された排油通路を経由して駆動モータのステータのコイルエンド外周側の上部空間に排出され、ステータのコアカット部を通ってケーシング底部に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−235948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の圧縮機では、軸受ハウジングの軸受部材に給油された潤滑油の一部は、軸受部材と駆動軸との隙間を通って駆動モータのロータ上部に排出される。ここで、ロータ上部に排出された潤滑油は、ロータの回転に伴って飛散して吐出管から排出され、油上がり量が増大してしまう。その結果、圧縮機の油切れによる焼き付きや冷凍サイクルの効率低下を引き起こすおそれがある。
【0009】
そこで、軸受ハウジングの下部に環状部材を取り付け、ロータ上部へ排出される潤滑油の量を低減することが考えられる。しかしながら、環状部材と駆動軸とが接触しないように隙間を確保する必要があり、その隙間から潤滑油が漏出してしまうため、油上がり量を十分に低減させることが難しかった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸受ハウジングの軸受部材と駆動軸との隙間から潤滑油が漏出して駆動モータのロータ上部に排出されるのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上下方向に延びる駆動軸(17)と、該駆動軸(17)の上部側を回転自在に軸受する軸受部材(34)を有する軸受ハウジング(23)とを備え、該軸受部材(34)に対して潤滑油が給油される縦置き型の圧縮機を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0012】
すなわち、第1の発明は、前記軸受ハウジング(23)の下面側に配置され且つ前記駆動軸(17)に嵌合されるリング状に形成され、その下側外周縁に沿って傾斜面(50a)が形成されるとともに、周方向の一部が切断されてなる間隙部(50b,50c)を有するシール部材(50)と、
前記シール部材(50)の傾斜面(50a)に対応する傾斜面(52a)を有し、該傾斜面(50a,52a)同士を当接させながら該シール部材(50)を前記軸受ハウジング(23)の下面側に押圧させることで該シール部材(50)の内径を縮径させるとともに、該シール部材(50)を前記軸受ハウジング(23)の下面側で保持する保持部材(52)とを備えたことを特徴とするものである。
【0013】
第1の発明では、軸受ハウジング(23)の下面側には、リング状に形成されたシール部材(50)が駆動軸(17)に嵌合される。このシール部材(50)には、下側外周縁に沿って傾斜面(50a)が形成される。また、シール部材(50)の周方向の一部が切断されて間隙部(50b,50c)が形成される。シール部材(50)は、保持部材(52)によって軸受ハウジング(23)の下面側で保持される。保持部材(52)には、シール部材(50)の傾斜面(50a)に対応する傾斜面(52a)が形成される。ここで、シール部材(50)は、傾斜面(50a,52a)同士を当接させながら軸受ハウジング(23)の下面側に押圧されることで、その内径が縮径される。
【0014】
このような構成とすれば、軸受ハウジング(23)の軸受部材(34)と駆動軸(17)との隙間から潤滑油が漏出してしまうのを抑制することができる。
【0015】
具体的に、軸受ハウジング(23)の下方に駆動モータが配置された構成の圧縮機では、軸受ハウジング(23)の軸受部材(34)に給油された潤滑油の一部は、軸受部材(34)と駆動軸(17)との隙間を通って駆動モータのロータ上部に排出される。ここで、ロータ上部に排出された潤滑油は、ロータの回転に伴って飛散して吐出管から排出され、油上がり量が増大してしまう。その結果、圧縮機の油切れによる焼き付きや冷凍サイクルの効率低下を引き起こすおそれがある。
【0016】
これに対し、本発明では、シール部材(50)と保持部材(52)との傾斜面(50a,52a)同士を当接させながら、シール部材(50)を軸受ハウジング(23)の下面側に押圧させることで、シール部材(50)の内径を縮径させるようにしたから、軸受部材(34)と駆動軸(17)との隙間を塞ぐことができ、この隙間から潤滑油が漏出してロータ上部に排出されるのを抑制することができる。その結果、ロータの回転に伴って潤滑油が飛散することがなく、油上がり量を低減することができる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、
前記間隙部(50b)は、前記シール部材(50)の内径を縮径させて該シール部材(50)を前記保持部材(52)で保持させたときに、該間隙部(50b)の隙間が塞がるような寸法で形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
第2の発明では、シール部材(50)の内径を縮径させて該シール部材(50)を保持部材(52)で保持させたときに、間隙部(50b)の隙間が塞がった状態となり、間隙部(50b)から潤滑油が漏出することがない。
【0019】
第3の発明は、第1の発明において、
前記間隙部(50b)は、前記シール部材(50)の内径を縮径させて該シール部材(50)を前記保持部材(52)で保持させたときに、該間隙部(50b)の隙間が残存するような寸法で形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
第3の発明では、シール部材(50)の内径を縮径させて該シール部材(50)を保持部材(52)で保持させたときに、間隙部(50b)の隙間が残存するようになっている。このような構成とすれば、間隙部(50b)からは若干潤滑油が漏出するものの、駆動軸(17)とシール部材(50)とを周方向に確実に密着させることができる。
【0021】
第4の発明は、第1発明において、
前記間隙部(50c)は、前記駆動軸(17)の正回転に伴って該シール部材(50)が回転するときに、潤滑油を上方に向かって流動させる粘性ポンプ作用を生じさせる方向に傾斜して延びていることを特徴とするものである。
【0022】
第4の発明では、間隙部(50c)は、粘性ポンプ作用が生じる方向に傾斜して延びている。そのため、駆動軸(17)の正回転に伴ってシール部材(50)が回転すると、潤滑油が上方に向かって流動される。
【0023】
このような構成とすれば、間隙部(50c)において粘性ポンプ作用が生じるため、軸受部材(34)と駆動軸(17)との隙間から潤滑油が漏出しようとしても、粘性ポンプ作用によって潤滑油が汲み上げられることとなり、潤滑油の漏出量をさらに低減することができる。
【0024】
第5の発明は、第1乃至第4の発明のうち何れか1つにおいて、
前記シール部材(50)は、前記駆動軸(17)の回転に伴って前記保持部材(52)に対して回転しないように該保持部材(52)に保持されていることを特徴とするものである。
【0025】
第5の発明では、駆動軸(17)が回転しても、シール部材(50)が保持部材(52)に対して回転することはない。このような構成とすれば、軸受部材(34)と駆動軸(17)との隙間をシール部材(50)で塞いでシール性を向上させることができる。
【0026】
第6の発明は、第1乃至第4の発明のうち何れか1つにおいて、
前記シール部材(50)は、前記保持部材(52)に保持された状態で、前記駆動軸(17)の回転に伴って該保持部材(52)及び該駆動軸(17)に対して回転可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0027】
第6の発明では、シール部材(50)が保持部材(52)に保持された状態で駆動軸(17)が回転すると、その回転に伴ってシール部材(50)が保持部材(52)及び駆動軸(17)に対して回転する。このような構成とすれば、駆動軸(17)とシール部材(50)との摩擦損失を低減することができる。
【0028】
第7の発明は、第6の発明において、
前記シール部材(50)の回転速度は、前記駆動軸(17)の回転速度よりも遅いことを特徴とするものである。
【0029】
第7の発明では、シール部材(50)の回転速度が駆動軸(17)の回転速度よりも遅くなっている。このような構成とすれば、シール部材(50)が駆動軸(17)に対してフローティングして摩擦損失を低減することができる。
【0030】
第8の発明は、第1乃至第7の発明のうち何れか1つにおいて、
前記保持部材(52)は、前記駆動軸(17)と一体に回転して動的な質量バランスを保つバランスウェイト(56)で構成されていることを特徴とするものである。
【0031】
第8の発明では、保持部材(52)は、バランスウェイト(56)で構成される。バランスウェイト(56)は、駆動軸(17)と一体に回転して動的な質量バランスを保つためのものである。
【0032】
このような構成とすれば、バランスウェイト(56)を保持部材(52)として利用することで、保持部材(52)を別途用意する必要が無くなり、部品点数を削減してコンパクト化を図るとともに、コスト低減に有利となる。
【0033】
第9の発明は、第1乃至第8の発明のうち何れか1つにおいて、
前記シール部材(50)は、樹脂材料で構成されていることを特徴とするものである。
【0034】
第9の発明では、シール部材(50)がPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の樹脂材料で構成される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、シール部材(50)と保持部材(52)との傾斜面(50a,52a)同士を当接させながら、シール部材(50)を軸受ハウジング(23)の下面側に押圧させることで、シール部材(50)の内径を縮径させるようにしたから、軸受部材(34)と駆動軸(17)との隙間を塞ぐことができ、この隙間から潤滑油が漏出してロータ上部に排出されるのを抑制することができる。その結果、ロータの回転に伴って潤滑油が飛散することがなく、油上がり量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態1に係るスクロール圧縮機の構成を示す断面図である。
【図2】シール部材を保持部材で保持した状態を示す断面図である。
【図3】シール部材の構成を示す斜視図である。
【図4】本実施形態2に係る圧縮機においてシール部材をバランスウェイトで保持した状態を示す断面図である。
【図5】本実施形態3に係る圧縮機におけるシール部材の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0038】
《実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係るスクロール圧縮機の構成を示す断面図である。図1に示すように、この圧縮機(1)は、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング(10)を備えている。このケーシング(10)は、上下方向に延びる円筒状の胴部であるケーシング本体(11)と、その上端部に気密状に溶接されて一体接合され、上方に突出した凸面を有する椀状の上壁部(12)と、ケーシング本体(11)の下端部に気密状に溶接されて一体接合され、下方に突出した凸面を有する椀状の底壁部(13)とで圧力容器を構成している。
【0039】
前記ケーシング(10)の内部には、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構(15)と、この圧縮機構(15)の下方に配置される駆動モータ(16)とが収容されている。この圧縮機構(15)と駆動モータ(16)とは、ケーシング(10)内を上下方向に延びるように配置される駆動軸(17)によって連結されている。圧縮機構(15)と駆動モータ(16)との間には間隙空間(18)が形成されている。
【0040】
前記圧縮機構(15)は、軸受ハウジング(23)と、軸受ハウジング(23)の上方に密着して配置される固定スクロール(24)と、固定スクロール(24)に噛合する可動スクロール(26)とを備えている。
【0041】
前記軸受ハウジング(23)は、その外周面において周方向の全体に亘ってケーシング本体(11)に圧入固定されている。つまり、ケーシング本体(11)と軸受ハウジング(23)とは全周に亘って気密状に密着されている。そして、ケーシング(10)内が軸受ハウジング(23)下方の高圧空間(28)と軸受ハウジング(23)上方の低圧空間(29)とに区画されている。軸受ハウジング(23)には、上面中央に凹設されたハウジング凹部(31)と、下面中央から下方に延設された軸受部(32)とが形成されている。そして、軸受ハウジング(23)には、この軸受部(32)の下端面とハウジング凹部(31)の底面とを貫通する軸受孔(33)が形成され、この軸受孔(33)に、軸受部材としての軸受メタル(34)を介して駆動軸(17)が回転自在に嵌入されている。
【0042】
前記ケーシング(10)の上壁部(12)には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(15)に導く吸入管(19)が気密状に嵌入されている。また、ケーシング本体(11)には、ケーシング(10)内の冷媒をケーシング(10)外に吐出させる吐出管(20)が気密状に嵌入されている。
【0043】
前記吸入管(19)は、低圧空間(29)を上下方向に貫通するとともに、固定スクロール(24)に接続されている。吐出管(20)は、ケーシング本体(11)を貫通して高圧空間(28)に連通している。
【0044】
前記固定スクロール(24)は、鏡板(24a)と、鏡板(24a)の下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(24b)とから構成されている。可動スクロール(26)は、鏡板(26a)と、鏡板(26a)の上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(26b)とから構成されている。可動スクロール(26)は、オルダム継手(39)を介して軸受ハウジング(23)に支持されている。可動スクロール(26)には、駆動軸(17)の上端が嵌入され、この駆動軸(17)の回転により自転することなく軸受ハウジング(23)内を公転する。固定スクロール(24)のラップ(24b)と可動スクロール(26)のラップ(26b)とは、互いに噛合し、固定スクロール(24)と可動スクロール(26)との間において、両ラップ(24b,26b)の接触部の間が圧縮室(40)となる。この圧縮室(40)は、可動スクロール(26)の公転に伴い、両ラップ(24b,26b)間の容積が中心に向かって収縮し、冷媒を圧縮するように構成されている。
【0045】
前記固定スクロール(24)の鏡板(24a)には、圧縮室(40)に連通する吐出通路(41)と、吐出通路(41)に連続する拡大凹部(42)とが形成されている。吐出通路(41)は、固定スクロール(24)の鏡板(24a)における中央において上下方向に延びるように形成されている。拡大凹部(42)は、鏡板(24a)の上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。固定スクロール(24)の上面には、この拡大凹部(42)を塞ぐように蓋体(44)が固定されている。そして、拡大凹部(42)に蓋体(44)が覆い被せられることでマフラー空間(45)が形成されている。
【0046】
前記圧縮機構(15)には、固定スクロール(24)と軸受ハウジング(23)とに亘り、連絡通路(46)が形成されている。この連絡通路(46)は、固定スクロール(24)に切欠形成されたスクロール側通路(47)と、軸受ハウジング(23)に切欠形成されたハウジング側通路(48)とが連通して構成されている。連絡通路(46)の上端、すなわちスクロール側通路(47)の上端は拡大凹部(42)に開口し、連絡通路(46)の下端、すなわちハウジング側通路(48)の下端は軸受ハウジング(23)の下端面に開口している。つまり、このハウジング側通路(48)の下端開口は、連絡通路(46)の冷媒を間隙空間(18)に流出させる吐出口(49)に構成されている。
【0047】
前記駆動モータ(16)は、環状のステータ(62)と、ステータ(62)の内側に回転自在に構成されたロータ(63)とを備えている。ステータ(62)には巻線が装着され、ステータ(62)の上方及び下方はコイルエンド(64)となっている。
【0048】
前記ステータ(62)の外周面には、ステータ(62)の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数個所にコアカット部が切欠形成されている。ステータ(62)の外周面にコアカット部が形成されることにより、ケーシング本体(11)とステータ(62)との間に上下方向に延びるモータ冷却通路(65)が形成されている。
【0049】
前記ロータ(63)は、上下方向に延びるようにケーシング本体(11)の軸心に配置された駆動軸(17)を介して圧縮機構(15)の可動スクロール(26)に駆動連結されている。
【0050】
前記駆動軸(17)には、駆動軸(17)と一体に回転して動的な質量バランスを保つバランスウェイト(56)が設けられている。このバランスウェイト(56)は、後述する保持部材(52)とロータ(63)との間に配置されている。
【0051】
前記間隙空間(18)には、連絡通路(46)の吐出口(49)を流出した冷媒をモータ冷却通路(65)に案内する案内板(58)が配設されている。
【0052】
前記駆動モータ(16)の下方の下部空間には、潤滑油が貯留されるともに、差圧ポンプ(60)が設けられている。この差圧ポンプ(60)は、ケーシング本体(11)に固定されるとともに、駆動軸(17)の下端に取り付けられ、貯留された潤滑油を汲み上げるように構成されている。駆動軸(17)内には給油路(61)が形成され、差圧ポンプ(60)により汲み上げられた潤滑油は、この給油路(61)を通り、各摺動部分へ供給される。
【0053】
図2にも示すように、前記軸受ハウジング(23)の下面側には、シール部材(50)が配置されている。このシール部材(50)は、図3にも示すように、駆動軸(17)に嵌合されるリング状に形成されている。シール部材(50)の下側外周縁には、傾斜面(50a)が形成されている。また、シール部材(50)には、その周方向の一部が切断されてなる間隙部(50b)が形成されている。シール部材(50)は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の樹脂材料で構成されている。
【0054】
前記シール部材(50)は、保持部材(52)によって軸受ハウジング(23)の下面側で保持されている。具体的に、保持部材(52)の中央部には駆動軸(17)を挿通させる貫通孔(53)が形成されている。また、貫通孔(53)の上側内周縁には、シール部材(50)の傾斜面(50a)に対応する傾斜面(52a)が形成されている。ここで、シール部材(50)と保持部材(52)との傾斜面(50a,52a)同士を当接させながら、シール部材(50)を軸受ハウジング(23)の下面側に押圧させることで、シール部材(50)の内径を縮径させている。保持部材(52)は、締結ボルト(54)によって軸受ハウジング(23)に固定されている。
【0055】
このような構成とすれば、軸受ハウジング(23)の軸受メタル(34)と駆動軸(17)との隙間から潤滑油が漏出してロータ(63)上部に排出されてしまうのを抑制することができる。
【0056】
具体的に、軸受ハウジング(23)の軸受メタル(34)に給油された潤滑油の一部は、軸受メタル(34)と駆動軸(17)との隙間を通って駆動モータ(16)のロータ(63)上部に排出される。ここで、ロータ(63)上部に排出された潤滑油は、ロータ(63)の回転に伴って飛散して吐出管(20)から排出され、油上がり量が増大してしまう。その結果、圧縮機(1)の油切れによる焼き付きや冷凍サイクルの効率低下を引き起こすおそれがある。
【0057】
これに対し、本実施形態では、シール部材(50)と保持部材(52)との傾斜面(50a,52a)同士を当接させながら、シール部材(50)を軸受ハウジング(23)の下面側に押圧させることで、シール部材(50)の内径を縮径させるようにしたから、軸受メタル(34)と駆動軸(17)との隙間を塞ぐことができ、この隙間から潤滑油が漏出してロータ(63)上部に排出されるのを抑制することができる。その結果、ロータ(63)の回転に伴って潤滑油が飛散することがなく、油上がり量を低減することができる。
【0058】
なお、前記シール部材(50)の間隙部(50b)は、シール部材(50)の内径を縮径させたときに隙間が塞がるような寸法で形成されているが、駆動軸(17)の外周面とシール部材(50)の内周面とのシール性を十分に確保するために、シール部材(50)の内径を縮径させたときに隙間が若干残存するような寸法で形成してもよい。このようにすれば、間隙部(50b)からは若干潤滑油が漏出するものの、駆動軸(17)とシール部材(50)とを周方向に確実に密着させることができる。
【0059】
また、前記シール部材(50)は、保持部材(52)で押圧させることで駆動軸(17)の回転に伴って一緒に回転しないようにしているが、駆動軸(17)とシール部材(50)との摩擦損失を低減するために、シール部材(50)を保持部材(52)及び駆動軸(17)に対して回転可能とし、シール部材(50)を駆動軸(17)の回転に伴って一緒に回転させることで、いわゆるフローティングブッシュ機能を持たせるようにしてもよい。このとき、シール部材(50)の回転速度が駆動軸(17)の回転速度よりも遅くてもよい。
【0060】
−運転動作−
次に、この高低圧ドーム型のスクロール圧縮機(1)の運転動作について説明する。まず、図1に示すように、駆動モータ(16)を駆動すると、ステータ(62)に対してロータ(63)が回転し、それによって駆動軸(17)が回転する。駆動軸(17)が回転すると、可動スクロール(26)が固定スクロール(24)に対して自転せずに公転のみ行う。このことにより、低圧の冷媒が吸入管(19)を通して圧縮室(40)の周縁側から圧縮室(40)に吸引され、この冷媒は圧縮室(40)の容積変化に伴って圧縮される。この圧縮された冷媒は、高圧となって圧縮室(40)の中央部から吐出通路(41)を通してマフラー空間(45)へと吐出される。この冷媒はマフラー空間(45)から連絡通路(46)へ流入し、スクロール側通路(47)及びハウジング側通路(48)を流通して、吐出口(49)を通して間隙空間(18)へと流出する。
【0061】
前記間隙空間(18)の冷媒は、案内板(58)とケーシング本体(11)の内面との間を下側に向かって流れ、その際に冷媒の一部が分流して、案内板(58)と駆動モータ(16)との間を円周方向に流れる。
【0062】
下側に向かって流れる冷媒は、モータ冷却通路(65)を下側に向かって流れ、モータ下部空間にまで流れる。そして、この冷媒は、流れ方向が反転してステータ(62)とロータ(63)との間、又は連絡通路(46)に対向する側(図1における左側)のモータ冷却通路(65)を上方に向かって流れる。
【0063】
前記間隙空間(18)において、案内板(58)を通過した冷媒と、モータ冷却通路(65)を流れてきた冷媒とが合流し、吐出管(20)からケーシング(10)外に吐出される。そして、ケーシング(10)外に吐出された冷媒は、冷媒回路を循環した後、再度、吸入管(19)を通して圧縮機(1)に吸入されて圧縮される。このような循環が繰り返される。
【0064】
なお、本実施形態では、高低圧ドーム型のスクロール式の圧縮機(1)について説明したが、高圧ドーム型のスクロール圧縮機であってもよい。また、ロータリ式の圧縮機であってもよい。
【0065】
また、本実施形態では、軸受部材として軸受メタル(34)を用いた構成について説明したが、この形態に限定するものではなく、転がり軸受を用いた構成であってもよい。
【0066】
《実施形態2》
図4は、本実施形態2に係る圧縮機においてシール部材をバランスウェイトで保持した状態を示す断面図である。図4に示すように、バランスウェイト(56)は、駆動軸(17)と一体に回転して動的な質量バランスを保つためのものであり、軸受ハウジング(23)の下方に配置されている。シール部材(50)は、バランスウェイト(56)によって軸受ハウジング(23)の下面側で保持されている。このように、バランスウェイト(56)は、シール部材(50)を保持する保持部材(52)を構成している。
【0067】
具体的に、前記バランスウェイト(56)は、図4で左側の径方向長さが右側の径方向長さに比べて長くなるように偏心したリング状の部材で形成されている。バランスウェイト(56)の上側内周縁には、シール部材(50)の傾斜面(50a)に対応する傾斜面(52a)が形成されている。そして、シール部材(50)とバランスウェイト(56)との傾斜面(50a,52a)同士を当接させながら、シール部材(50)を軸受ハウジング(23)の下面側に押圧させることで、シール部材(50)の内径を縮径させている。
【0068】
このような構成とすれば、軸受ハウジング(23)の軸受メタル(34)と駆動軸(17)との隙間から潤滑油が漏出してロータ(63)上部に排出されてしまうのを抑制することができる。さらに、バランスウェイト(56)を用いてシール部材(50)を保持するようにしたから、保持部材(52)を別途用意する必要が無くなり、部品点数を削減してコンパクト化を図るとともに、コスト低減に有利となる。
【0069】
《実施形態3》
図5は、本実施形態3に係る圧縮機におけるシール部材の構成を示す斜視図である。図5に示すように、シール部材(50)は、駆動軸(17)に嵌合されるリング状に形成されている。そして、シール部材(50)の下側外周縁には、傾斜面(50a)が形成されている。また、シール部材(50)には、その周方向の一部が切断されてなる間隙部(50c)が形成されている。
【0070】
具体的に、前記シール部材(50)の間隙部(50c)は、駆動軸(17)の正回転に伴ってシール部材(50)が回転するときに、潤滑油を上方に向かって流動させる粘性ポンプ作用を生じさせる方向に傾斜して延びている。図5に示す例では、駆動軸(17)の正回転方向が反時計回り方向であるから、間隙部(50c)は、シール部材(50)の下面から上面にかけて右斜め上方向に傾斜して延びている。
【0071】
このような構成とすれば、シール部材(50)の間隙部(50c)において粘性ポンプ作用が生じるため、軸受メタル(34)と駆動軸(17)との隙間から潤滑油が漏出しようとしても、粘性ポンプ作用によって潤滑油が汲み上げられることとなり、潤滑油の漏出量をさらに低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明は、軸受ハウジングの軸受部材と駆動軸との隙間から潤滑油が漏出して駆動モータのロータ上部に排出されるのを抑制することができるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0073】
1 圧縮機
17 駆動軸
23 軸受ハウジング
34 軸受メタル(軸受部材)
50 シール部材
50a 傾斜面
50b 間隙部
50c 間隙部
52 保持部材
52a 傾斜面
56 バランスウェイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる駆動軸(17)と、該駆動軸(17)の上部側を回転自在に軸受する軸受部材(34)を有する軸受ハウジング(23)とを備え、該軸受部材(34)に対して潤滑油が給油される縦置き型の圧縮機であって、
前記軸受ハウジング(23)の下面側に配置され且つ前記駆動軸(17)に嵌合されるリング状に形成され、その下側外周縁に沿って傾斜面(50a)が形成されるとともに、周方向の一部が切断されてなる間隙部(50b,50c)を有するシール部材(50)と、
前記シール部材(50)の傾斜面(50a)に対応する傾斜面(52a)を有し、該傾斜面(50a,52a)同士を当接させながら該シール部材(50)を前記軸受ハウジング(23)の下面側に押圧させることで該シール部材(50)の内径を縮径させるとともに、該シール部材(50)を前記軸受ハウジング(23)の下面側で保持する保持部材(52)とを備えたことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
前記間隙部(50b)は、前記シール部材(50)の内径を縮径させて該シール部材(50)を前記保持部材(52)で保持させたときに、該間隙部(50b)の隙間が塞がるような寸法で形成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項1において、
前記間隙部(50b)は、前記シール部材(50)の内径を縮径させて該シール部材(50)を前記保持部材(52)で保持させたときに、該間隙部(50b)の隙間が残存するような寸法で形成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項1において、
前記間隙部(50c)は、前記駆動軸(17)の正回転に伴って該シール部材(50)が回転するときに、潤滑油を上方に向かって流動させる粘性ポンプ作用を生じさせる方向に傾斜して延びていることを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項1乃至4のうち何れか1つにおいて、
前記シール部材(50)は、前記駆動軸(17)の回転に伴って前記保持部材(52)に対して回転しないように該保持部材(52)に保持されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項6】
請求項1乃至4のうち何れか1つにおいて、
前記シール部材(50)は、前記保持部材(52)に保持された状態で、前記駆動軸(17)の回転に伴って該保持部材(52)及び該駆動軸(17)に対して回転可能に構成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項7】
請求項6において、
前記シール部材(50)の回転速度は、前記駆動軸(17)の回転速度よりも遅いことを特徴とする圧縮機。
【請求項8】
請求項1乃至7のうち何れか1つにおいて、
前記保持部材(52)は、前記駆動軸(17)と一体に回転して動的な質量バランスを保つバランスウェイト(56)で構成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項9】
請求項1乃至8のうち何れか1つにおいて、
前記シール部材(50)は、樹脂材料で構成されていることを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−36841(P2012−36841A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178039(P2010−178039)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】