説明

圧縮装置

【課題】大型化することなく、騒音や振動の低減を図った圧縮装置を提供すること。
【解決手段】ロータ27やベーン28が摺動するシリンダ室Sが形成されるケーシング本体22と、シリンダ室Sと排気口24Aとを繋ぐ排気経路37と、この排気経路37に形成される膨張室33とを備え、この膨張室33をケーシング本体22内におけるシリンダ室Sの周縁部に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシング内に回転圧縮要素を備えた圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ケーシング内に回転圧縮要素を備えた圧縮装置として真空ポンプが知られている。この種の真空ポンプでは、回転圧縮要素を電動モータ等の駆動装置で駆動することによって真空を得ることができる。真空ポンプは、例えば、自動車のエンジンルームに搭載されて、ブレーキ倍力装置を作動させるための真空を発生させるために使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−222090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の真空ポンプでは、回転圧縮要素を駆動させてケーシング内に吸込んだ空気を圧縮して排出することにより、排気口から排出する際に大きな騒音や振動を発生するため、これら騒音や振動の低減を図るべく、排気口にサイレンサを設けたり、防振ゴムを設けた頑強なブラケットを介して車両に取り付けていた。このため、部品点数が増加して真空ポンプが大型化してしまうという問題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、大型化することなく、騒音や振動の低減を図った圧縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、ケーシング内に回転圧縮要素を備えた圧縮装置において、前記ケーシングは、前記回転圧縮要素が摺動するシリンダ室が形成されるケーシング本体と、前記シリンダ室と排気口とを繋ぐ排気経路と、この排気経路に形成される膨張室とを備え、この膨張室を前記ケーシング本体内における前記シリンダ室の周縁部に設けたことを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、排気経路に膨張室を設けたことにより、排気経路を流れる圧縮空気が膨張室内で膨張、分散して当該膨張室の隔壁にぶつかって乱反射することにより減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。更に、膨張室がケーシング本体内におけるシリンダ室の周縁部に設けられているため、このケーシング本体内にシリンダ室と膨張室とを一体に形成することができ、圧縮装置の大型化を抑制することができる。
【0007】
この構成において、前記膨張室には、前記排気経路から分岐したヘルムホルツ式の共鳴室が接続されていても良い。この共鳴室は、オリフィスを介して膨張室に接続され、排気経路を流れる圧縮空気の圧力脈動を打ち消すような共鳴が発生するように、オリフィスの断面積、長さや共鳴室の体積等が設定されている。このため、膨張室に共鳴室を接続することにより、膨張室で膨張された空気の音エネルギがオリフィスと共鳴室内の空気ばねで振動して減衰されるため、回転圧縮要素から吐出される空気の圧力脈動を低減することができ、排気する際の騒音及び振動をより一層低減することができる。
【0008】
また、前記シリンダ室は、前記ケーシング本体内における前記回転圧縮要素の回転中心から偏心した位置に設けられ、このシリンダ室の前記回転中心側の周縁部に前記膨張室と前記共鳴室とを並設しても良い。この構成によれば、シリンダ室を回転圧縮要素の回転中心から偏心して配置することにより、ケーシング本体にはシリンダ室の回転中心側の周縁部に大きなスペースを確保することができる。このため、このスペースに膨張室と共鳴室とを並設することにより、膨張室及び共鳴室をケーシング本体の外部に設ける必要がなく、ケーシング本体の小型化を図ることができ、ひいては圧縮装置の小型化を図ることができる。
【0009】
また、前記シリンダ室に空気を導く吸気経路を備え、この吸気経路に当該吸気経路を流通する空気を膨張させる吸気側膨張室を設けても良い。この構成によれば、吸気経路に吸気側膨張室を設けることにより、真空ポンプに吸い込まれる空気が吸気側膨張室内で膨張、分散することにより減衰されるため、吸気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。
【0010】
また、前記吸気側膨張室は、前記ケーシング本体内における前記シリンダ室の周縁部に前記膨張室と並んで形成されても良い。この構成によれば、シリンダ室の周縁部に膨張室と吸気側膨張室とを設けることにより、ケーシング本体内にシリンダ室、膨張室及び吸気側膨張室を一体に形成することができ、圧縮装置の大型化を抑制することができる。
また、前記吸気側膨張室に乾燥剤を収容しても良い。この構成によれば、吸気経路を通じてシリンダ室に流入する空気中の水分を除去することができるため、乾燥した空気をシリンダ室に供給でき、シリンダ室及び回転圧縮要素での結露を防止することができる。従って、回転圧縮要素の腐食や凍結を防止することができ、圧縮装置の長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、排気経路に膨張室を設けたことにより、排気経路を流れる圧縮空気が膨張室内で膨張、分散して当該膨張室の隔壁にぶつかって乱反射することにより減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。更に、膨張室がケーシング本体内におけるシリンダ室の周縁部に設けられているため、このケーシング本体内にシリンダ室と膨張室とを一体に形成することができ、圧縮装置の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る真空ポンプの側部部分断面図である。
【図2】真空ポンプをその前側から見た図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】別の実施形態にかかる真空ポンプの側部部分断面図である。
【図5】別の実施形態にかかる真空ポンプの側部部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る真空ポンプ(圧縮装置)1の側部部分断面図である。図2は、図1の真空ポンプ1をその前側(同図中の右側)から見た図である。ただし、図2は、シリンダ室Sの構成を示すべく、ポンプカバー24,サイドプレート26等の部材を取り外した状態を図示している。また、図2では、取付部材40を取り外した状態を示している。なお、以下では、説明の便宜上、図1および図2の上部にそれぞれ矢印で示す方向が、真空ポンプ1の上下前後左右を示すものとして説明する。また、前後方向については軸方向、左右方向については幅方向ともいう。
【0014】
図1に示す真空ポンプ1は、回転式のベーン型真空ポンプであり、例えば、自動車等のブレーキ倍力装置(図示略)の負圧源として使用される。この場合、真空ポンプ1は、通常、エンジンルーム内に配置されて、真空タンク(図示略)を介してブレーキ倍力装置に配管接続される。なお、自動車等に用いる真空ポンプ1の使用範囲は、例えば、−60kPa〜−80kPaである。
【0015】
図1に示すように、真空ポンプ1は電動モータ10と、この電動モータ10に配置されたポンプ本体20とを備えており、これら電動モータ10及びポンプ本体20が一体に連結された状態で、取付部材40によって自動車等の車体50に固定支持されている。
取付部材40は、ポンプ本体20の幅方向に延びる矩形の突出溝41Aを設けた取付板41と、この取付板41の前端及び後端にそれぞれ固定される防振ゴム42,42とを備える。これら防振ゴム42,42は、車体に形成された孔部に嵌入して保持される。取付板41は、突出溝41Aでポンプ本体20の下面にボルト43で固定されている。
【0016】
電動モータ10は、略円筒形状に形成されたケース11の一方の端部(前端)の略中心からポンプ本体20側(前側)に向かって延びる出力軸12を有している。出力軸12は、前後方向に延びる回転中心X1を基準として回転する。出力軸12の先端部12Aには、ポンプ本体20の後述するロータ27に嵌合し、当該ロータ27の回り止めとなるスプライン部12Bが形成されている。なお、出力軸12の外表面にキーを設けてロータ27の空回りを防止することも可能である。
電動モータ10は、電源(図示略)の投入により、出力軸12が、図2中の矢印R方向(反時計回り)に回転し、これによりロータ27を、回転中心X1を中心として同方向(矢印R方向)に回転させるようになっている。
【0017】
ケース11は、有底円筒形状に形成されたケース本体60と、このケース本体60の開口を塞ぐカバー体61とを備え、ケース本体60は、その周縁部60Aが外方に折り曲げて形成されている。カバー体61は、ケース本体60の開口と略同径に形成された円板部61Aと、この円板部61Aの周縁に連なり、ケース本体60の内周面に嵌まる円筒部61Bと、この円筒部61Bの周縁を外方に折り曲げて形成した屈曲部61Cとを備えて一体に形成され、円板部61A及び円筒部61Bがケース本体60内に進入し、屈曲部61Cが、ケース本体60の周縁部60Aに当接して固定されている。これにより、電動モータ10には、ケース11の一方の端部(前端)が内側に窪み、ポンプ本体20がインロー嵌合される嵌合穴部63が形成される。
また、円板部61Aの略中央には、出力軸12が貫通する貫通孔61Dと、この出力軸12を軸支するベアリング62の外輪を保持する凹部61Eが形成されている。
【0018】
ポンプ本体20は、図1に示すように、電動モータ10のケース11の前側に形成された嵌合穴部63に嵌合されるケーシング本体22と、このケーシング本体22内に圧入されてシリンダ室Sを形成するシリンダ部23と、当該ケーシング本体22を前側から覆うポンプカバー24とを備えている。本実施形態ではケーシング本体22、シリンダ部23及びポンプカバー24を備えて、真空ポンプ1のケーシング31を構成している。
【0019】
ケーシング本体22は、例えば、アルミニウム等の熱伝導性の高い金属材料を用いて、図2に示すように、前側から見た形状が上記した回転中心X1を略中心とした上下方向に長い略矩形に形成されている。ケーシング本体22の上部には、このケーシング本体22に設けられたシリンダ室S内に連通する連通孔22Aが形成され、この連通孔22Aには真空吸込ニップル30が圧入されている。この真空吸込ニップル30は、図1に示すように、略L字状に屈曲されたパイプであり、当該真空吸込ニップル30の一端30Aには、外部機器(例えば、真空タンク(図示略))から負圧空気を供給するための管またはチューブが接続される。本実施形態では、真空吸込ニップル30をケーシング本体22の連通孔22Aに圧入しているため、車両のように事前に外部機器の配置される位置が判明する場合には、この外部機器が配置される方向に一端30Aを向けて圧入すればよく、簡単な構成で、負圧空気を供給するための管またはチューブの引き出し方向を自由に設定することができる。
【0020】
ケーシング本体22には、前後方向に延びる軸心X2を基準とした孔部22Bが形成され、この孔部22Bに円筒状に形成されたシリンダ部23が圧入されている。軸心X2は、上述の電動モータ10の出力軸12の回転中心X1に対して平行で、かつ、図2に示すように、回転中心X1に対して左側斜め上方に偏心している。本構成では、回転中心X1を中心とする後述のロータ27の外周面27Bが、軸心X2を基準に形成されているシリンダ部23の内周面23Aに接するように軸心X2が偏心されている。
シリンダ部23は、ロータ27と同一の金属材料(本実施形態では、鉄)で形成されている。この構成では、シリンダ部23とロータ27とは熱膨張係数が同じなので、シリンダ部23及びロータ27の温度変化にかかわらず、ロータ27が回転した際の当該ロータ27の外周面27Bとシリンダ部23の内周面23Aとの接触を防止できる。
また、ケーシング本体22に形成された孔部22Bにシリンダ部23を圧入することにより、ケーシング本体22の前後方向の長さ範囲内でシリンダ部23を収容することができるため、このシリンダ部23がケーシング本体22から突出することが防止され、ケーシング本体22の小型化を図ることができる。
更に、ケーシング本体22はロータ27よりも熱伝導性の高い材料で形成されている。これによれば、ロータ27及びベーン28が回転駆動した際に発生した熱がケーシング本体22に速やかに伝達できることにより、ケーシング本体22から十分に放熱することができる。
【0021】
シリンダ部23には、上記したケーシング本体22の連通孔22Aとシリンダ室S内とを繋ぐ開口23Bが形成されており、真空吸込ニップル30を通じた空気は、連通孔22A,開口23Bを通じてシリンダ室S内に供給される。このため、本実施形態では、真空吸込ニップル30、ケーシング本体22の連通孔22A及びシリンダ部23の開口23Bを備えて吸気経路32が形成される。また、ケーシング本体22及びシリンダ部23の下部には、これらケーシング本体22及びシリンダ部23を貫通し、シリンダ室Sで圧縮された空気が吐出される吐出口22C,23Cが設けられている。
【0022】
シリンダ部23の後端および前端には、それぞれサイドプレート25,26が配設されている。これらサイドプレート25,26は、その直径がシリンダ部23の内周面23Aの内径よりも大きく設定されており、ガスケット25A,26Aにより付勢されて、シリンダ部23の前端及び後端にそれぞれ押し付けられている。これにより、シリンダ部23の内側は、真空吸込ニップル30に連なる開口23B及び吐出口23C,22Cを除いて、密閉されたシリンダ室Sが形成される。
【0023】
シリンダ部23の内側のシリンダ室Sには、ロータ27が配設されている。ロータ27は、厚肉円筒形状に形成されていて、その内周面27Aには、上述のスプライン部12Bが形成された出力軸12が嵌合されている。このスプライン嵌合の構成により、ロータ27は出力軸12と一体となって回転する。ロータ27の前後方向の長さは、シリンダ部23の長さ、すなわち、上述の2枚にサイドプレート25,26の相互に対向する内面間の距離と略等しく設定されている。また、ロータ27の外径は、図2に示すように、ロータ27の外周面27Bが、シリンダ部23の内周面23Aのうちの右斜め下方に位置する部分と微小なクリアランスを保つように設定されている。これにより、図2に示すように、ロータ27の外周面27Bと、シリンダ部23の内周面23Aとの間には、三日月形状の空間が構成される。
【0024】
ロータ27には、三日月形状の空間を区画する複数(本例では5枚)のベーン28が設けられている。ベーン28は、板状に形成されていて、その前後方向の長さは、ロータ27と同様、2枚のサイドプレート25,26の相互に対向する内面間の距離と略等しくなるように設定されている。これらベーン28は、ロータ27に設けられたガイド溝27Cから出入り自在に配設されている。各ベーン28は、ロータ27の回転に伴い、遠心力によってガイド溝27Cに沿って外側へ突出し、その先端をシリンダ部23の内周面23Aに当接させる。これにより、上述の三日月形状の空間は、相互に隣接する2枚のベーン28,28と、ロータ27の外周面27Bと、シリンダ部23の内周面23Aとによって囲まれる5つの圧縮室Pに区画される。これら圧縮室Pは、出力軸12の回転に伴うロータ27の矢印R方向の回転に伴い、同方向に回転し、その容積が、開口23B近傍で大きく、一方、吐出口23Cで小さくなる。つまり、ロータ27,ベーン28の回転により、開口23Bから1つの圧縮室Pに吸入された空気は、ロータ27の回転に伴って回転しつつ圧縮されて、吐出口23Cから吐出される。本構成では、ロータ27及び複数のベーン28を備えて回転圧縮要素を構成する。
【0025】
本構成では、シリンダ部23は、図2に示すように、このシリンダ部23の軸心X2が回転中心X1に対して左側斜め上方に偏心してケーシング本体22に形成されている。このため、ケーシング本体22内には、シリンダ部23が偏心したのと反対の方向に大きなスペースを確保することができ、このスペースに吐出口23C、22Cに連通する膨張室33と、シリンダ部23の周縁部に膨張室33と並んだ共鳴室34とが形成されている。
膨張室33と共鳴室34との間は、ケーシング本体22に一体形成されたリブ35によって仕切られ、図3に示すように、このリブ35に膨張室33と共鳴室(レゾネータ)34とを接続するオリフィス35Aが形成されている。
膨張室33は、シリンダ部23の下方に大きな閉空間として形成され、ポンプカバー24に形成された排気口24Aに連通している。この膨張室33に流入した圧縮空気は、当該膨張室33内で膨張、分散して当該膨張室33の隔壁にぶつかって乱反射する。これにより、圧縮空気の音エネルギが減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。本実施形態では、ケーシング本体22及びシリンダ部にそれぞれ形成された吐出口22C,23C、膨張室33及び排気口24Aを備えて排気経路37を構成する。
【0026】
ところで、ベーン型の真空ポンプ1では、このロータ27及びベーン28がシリンダ室S内を回転することにより空気を圧縮しているため、シリンダ室Sの吐出口23C、22Cから膨張室33に圧縮空気が間欠的に吐出される。このため、シリンダ室Sの吐出口23C、22Cでは、一定の基本周波数で圧力脈動が生じることにより、この圧力脈動に起因して、騒音及び振動が発生することがある。
このため、本実施形態では、膨張室33には、排気経路37から分岐したヘルムホルツ式の共鳴室34が接続されている。この共鳴室34は、排気経路37を流れる圧縮空気の圧力脈動を打ち消すような共鳴を発生するように形成されており、この圧力脈動による騒音及び振動を抑制するものである。
共鳴室34は、上記した空気の圧力脈動の基本周波数と一致するような共鳴周波数を生じるように設計されており、具体的には、この共鳴周波数は、膨張室33と接続するためのオリフィス35Aの長さ及び面積と、共鳴室34の容積とで決定される。
この構成によれば、膨張室33にオリフィス35Aを介して共鳴室34を接続することにより、膨張室33で膨張された空気の音エネルギがオリフィス35Aと共鳴室34内の空気ばねで振動して減衰されるため、ロータ27及びベーン28の回転により吐出される空気の圧力脈動を低減することができ、排気する際の騒音及び振動をより一層低減することができる。
更に、本実施形態では、シリンダ部23をロータ27の回転中心X1から偏心して配置することにより、ケーシング本体22にはシリンダ部23の上記回転中心X1側の周縁部に大きなスペースを確保することができる。このため、このスペースに膨張室33と共鳴室34とを並設することにより、ケーシング本体22に膨張室33及び共鳴室34を一体に形成することができるため、当該膨張室33及び共鳴室34をケーシング本体22の外部に設ける必要がなく、ケーシング本体22の小型化を図ることができ、ひいては真空ポンプ1の小型化を図ることができる。
【0027】
また、ケーシング本体22は、シリンダ部23を偏心した側の当該シリンダ部23の周縁部に、吸気側膨張室38が形成されている。この吸気側膨張室38は、上記した真空吸込ニップル30とシリンダ室Sとを繋ぐ吸気経路32に設けられており、本実施形態では、ケーシング本体22に一体に設けられたリブ36,39によって、膨張室33、共鳴室34とそれぞれ区分けされている。
この構成によれば、吸気経路32を流れる空気が吸気側膨張室38内で膨張、分散して当該吸気側膨張室38の隔壁にぶつかって乱反射することにより減衰されるため、排気時のみならず、吸気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。
また、吸気側膨張室38内には、例えば、シリカゲルやゼオライト等の乾燥剤65が配置されている。この乾燥剤65は、シリカゲルやゼオライト粒を吐出口23C、22Cを通過しない程度の大きさに固着して形成されており、吸気側膨張室38内に流入した空気中の水分を除去する。このため、乾燥剤65によって水分が除去された空気がシリンダ室S内に流入するため、このシリンダ室S内での結露が防止され、この結露に起因するロータ27やシリンダ部23の腐食や、シリンダ室S内での凍結を防止できる。
【0028】
また、吸気側膨張室38をシリンダ室Sの周縁部に形成したため、この吸気側膨張室38を介して、真空吸込ニップル30とシリンダ室Sとが連通される。このため、吸気側膨張室38が延在している範囲であれば、真空吸込ニップル30を任意の場所に設けることができ、真空ポンプ1を車両に設置する位置に応じて真空吸込ニップル30の取付位置を変更することができる。
また、本実施形態では、ケーシング本体22には、シリンダ部23の周縁部に膨張室33、共鳴室34及び吸気側膨張室38を形成されるため、これら膨張室33、共鳴室34及び吸気側膨張室38をケーシング本体22にまとまりよく配置することができる。このため、吸気側膨張室38をケーシング本体22の外部に設ける必要がなく、ケーシング本体22の小型化を図ることができ、ひいては真空ポンプ1の小型化を図ることができる。
また、本実施形態では、シリンダ部23の周縁部に、膨張室33、共鳴室34及び吸気側膨張室38を配置し、これら膨張室33、共鳴室34及び吸気側膨張室38をそれぞれリブ35,36,39で区分けしているため、これらリブ35,36,39の位置を変更することにより、各膨張室33、共鳴室34及び吸気側膨張室38の大きさを変更することができ、例えば、共鳴室34の大きさが決定された後に、膨張室33及び吸気側膨張室38の大きさを適宜設定することができる。
【0029】
ポンプカバー24は、前側のサイドプレート26にガスケット26Aを介して配置され、ケーシング本体22にボルト66で固定されている。ケーシング本体22の前面には、図2に示すように、シリンダ部23や膨張室33を囲んでシール溝22Dが形成され、このシール溝22Dには環状のシール材67が配置されている。ポンプカバー24には、膨張室33に対応する位置に排気口24Aが設けてある。この排気口24Aは、膨張室33に流入した空気を機外(真空ポンプ1の外部)に排出するためのものであり、この排気口24Aは、機外からポンプ内への空気の逆流を防止するためのチェックバルブ29が取り付けられている。
【0030】
以上、説明したように、本実施形態によれば、ケーシング31は、ロータ27やベーン28が摺動するシリンダ室Sが形成されるケーシング本体22と、シリンダ室Sと排気口24Aとを繋ぐ排気経路37と、この排気経路37に形成される膨張室33とを備え、この膨張室33をケーシング本体22内におけるシリンダ室Sの周縁部に設けたため、排気経路37を流れる圧縮空気が膨張室33内で膨張、分散して当該膨張室33の隔壁にぶつかって乱反射することにより減衰されることにより、排気口24Aから機外に排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。更に、膨張室33がケーシング本体22内におけるシリンダ室Sの周縁部に設けられているため、このケーシング本体22内にシリンダ室Sと膨張室33とを一体に形成することができ、真空ポンプ1の大型化を抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、膨張室33には、排気経路37から分岐したヘルムホルツ式の共鳴室34がオリフィス35Aを介して接続されているため、膨張室33で膨張された空気の音エネルギがオリフィス35Aと共鳴室34内の空気ばねで振動して減衰されるため、シリンダ室Sから吐出される空気の圧力脈動を低減することができ、排気する際の騒音及び振動をより一層低減することができる。
更に、本実施形態によれば、シリンダ室Sは、ケーシング本体22内におけるロータ27やベーン28の回転中心X1から偏心した位置に設けられるため、ケーシング本体にはシリンダ室の回転中心側の周縁部に大きなスペースを確保することができる。このため、このスペースに膨張室と共鳴室とを並設することにより、膨張室及び共鳴室をケーシング本体の外部に設ける必要がなく、ケーシング本体の小型化を図ることができ、ひいては圧縮装置の小型化を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、シリンダ室Sに空気を導く吸気経路32を備え、この吸気経路32に当該吸気経路32を流通する空気を膨張させる吸気側膨張室38を設けたため、シリンダ室Sに吸い込まれる空気が吸気側膨張室38内で膨張、分散することにより減衰されるため、排気時のみならず、吸気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、吸気側膨張室38は、ケーシング本体22内におけるシリンダ室Sの周縁部に膨張室33と並んで形成されているため、シリンダ室Sの周縁部に膨張室33と吸気側膨張室38とを設けることにより、ケーシング本体22内にシリンダ室S、膨張室33及び吸気側膨張室38を一体に形成することができ、真空ポンプ1の大型化を抑制することができる。
【0034】
また、本実施形態によれば、吸気側膨張室38に乾燥剤65を収容したため、吸気経路32を通じてシリンダ室Sに流入する空気中の水分を除去できることにより、乾燥した空気をシリンダ室Sに供給でき、シリンダ室S及びロータ27、ベーン28での結露を防止することができる。従って、ロータ27の腐食や凍結を防止することができ、真空ポンプ1の長寿命化を図ることができる。
【0035】
次に、別の実施形態について説明する。
図4は、別の実施形態にかかる真空ポンプ100の側部部分断面図である。
この別の実施形態では、電動モータ10のケース11内が共鳴室として形成される点で上記したものと構成を異にする。上記構成と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
真空ポンプ100は、図4に示すように、ケーシング本体22に形成された膨張室33に設けられた第1オリフィス33Aと、ケース11のカバー体61に形成されて当該第1オリフィス33Aに連なる第2オリフィス64とを備え、これら第1オリフィス33A及び第2オリフィス64を通じて、膨張室33とケース11内とが接続されている。この別の実施形態では、ケース11内の空間11Aがヘルムホルツ式の共鳴室として機能する。
この別の実施形態では、例えば、ポンプ本体20の外径が小さく、シリンダ部23の周縁部に共鳴室を形成できないような場合に有用であり、膨張室33に、排気経路37から分岐したヘルムホルツ式の共鳴室としてのケース11が第1オリフィス33A及び第2オリフィス64を介して接続されているため、膨張室33で膨張された空気の音エネルギが第1オリフィス33A及び第2オリフィス64とケース11内の空気ばねで振動して減衰されるため、シリンダ室Sから吐出される空気の圧力脈動を低減することができ、排気する際の騒音及び振動をより一層低減することができる。
【0036】
図5は、別の実施形態にかかる真空ポンプ200の側部部分断面図である。
この別の実施形態では、電動モータ10のケース11内を吸気側膨張室として形成される点で上記したものと構成を異にする。上記構成と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
この構成では、真空ポンプ200は、電動モータ10のケース11を構成するケース本体60には、吸気口60A1が形成され、この吸気口60A1には、上記した真空吸込ニップル130が接続されている。また、ケーシング本体22には、軸方向に延びる第1連通孔71と、この第1連通孔71とシリンダ部23の開口23Bとを連通する第2連通孔72とが形成され、カバー体61には第1連通孔71に連通する連通孔68が形成されている。これにより、ケース11内の空間11Aは、連通孔68、第1連通孔71、第2連通孔72及び開口23Bを通じてシリンダ室Sと連通しており、これらを備えて吸気経路132を形成する。
このため、この別の実施形態では、吸気経路132にケース11内の空間11Aを設けたため、シリンダ室Sに吸い込まれる空気が空間11A内で膨張、分散することにより減衰されるため、排気時のみならず、吸気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。更に、真空吸込ニップル130を通じてケース11内の空間に流入した空気流がケース11内に収容されるコイルや整流子等(不図示)を冷却するため、エンジンルーム等の劣悪環境に配置される場合であっても別途の冷却装置が不要となり、部品点数の削減を図ることができる。
【0037】
以上、本発明を実施するための最良の実施の形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。例えば、本実施形態では、圧縮装置として、ベーン型の真空ポンプを用いているが、回転圧縮要素を備えるものであれば、スクロール型のものを用いてもよい。
また、上記した実施形態では、排気側の膨張室33に共鳴室34(もしくはケース11内の空間11A)を組み合わせた構成を有するものとして説明したが、この共鳴室を吸気側膨張室38(もしくはケース11内の空間11A)と組み合わせても良い。
また、上記した図1にかかる真空ポンプ1に図4の共鳴室を組み合わせても良い。すなわち、ケーシング本体22のシリンダ部23の周縁部に膨張室33及び共鳴室34を設けるだけでなく、この膨張室33と電動モータ10のケース11とを第1オリフィス33A及び第2オリフィス64を通じて連通させ、このケース11内を共鳴室34とは別の共鳴室として形成しても良い。この構成によれば、第1オリフィス33A及び第2オリフィス64の断面積、長さやケース11内の体積を適宜変更することにより、異なる基本周波数の圧力脈動に対応することができる。
【符号の説明】
【0038】
1、100、200 真空ポンプ(圧縮装置)
11 ケース
11A 空間(共鳴室、吸気側膨張室)
20 ポンプ本体
22 ケーシング本体
23 シリンダ部
24 ポンプカバー
24A 排気口
27 ロータ(回転圧縮要素)
28 ベーン(回転圧縮要素)
30、130 真空吸込ニップル
32、132 吸気経路
33 膨張室
33A 第1オリフィス
34 共鳴室
35A オリフィス
37 排気経路
38 吸気側膨張室
60 ケース本体
61 カバー体
64 第2オリフィス
65 乾燥剤
68 連通孔
71 第1連通孔
72 第2連通孔
S シリンダ室
X1 回転中心
X2 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に回転圧縮要素を備えた圧縮装置において、
前記ケーシングは、前記回転圧縮要素が摺動するシリンダ室が形成されるケーシング本体と、前記シリンダ室と排気口とを繋ぐ排気経路と、この排気経路に形成される膨張室とを備え、この膨張室を前記ケーシング本体内における前記シリンダ室の周縁部に設けたことを特徴とする圧縮装置。
【請求項2】
前記膨張室には、前記排気経路から分岐したヘルムホルツ式の共鳴室が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の圧縮装置。
【請求項3】
前記シリンダ室は、前記ケーシング本体内における前記回転圧縮要素の回転中心から偏心した位置に設けられ、このシリンダ室の前記回転中心側の周縁部に前記膨張室と前記共鳴室とを並設したことを特徴とする請求項2に記載の圧縮装置。
【請求項4】
前記シリンダ室に空気を導く吸気経路を備え、この吸気経路に当該吸気経路を流通する空気を膨張させる吸気側膨張室を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の圧縮装置。
【請求項5】
前記吸気側膨張室は、前記ケーシング本体内における前記シリンダ室の周縁部に前記膨張室と並んで形成されていることを特徴とする請求項4に記載の圧縮装置。
【請求項6】
前記吸気側膨張室に乾燥剤を収容したことを特徴とする請求項4または5に記載の圧縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−214522(P2011−214522A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83843(P2010−83843)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(510063502)ナブテスコオートモーティブ株式会社 (34)
【Fターム(参考)】