説明

圧電トランス制御回路

【課題】
圧電トランスへの入出力電圧の位相差によって、圧電トランスを制御する場合、冷陰極管の点灯不良状態を回避することができない。
【解決手段】
制御電圧に応じた発振周波数を有する発振信号を生成する発振手段と、前記発振手段からの発振信号に応じて圧電トランスを駆動する駆動手段と、前記圧電トランスの入力電圧と出力電圧又は出力電流との位相差を検出する位相差検出手段と、前記位相差が所定値に一致するように、前記制御電圧を調整して前記発振周波数を制御する制御手段と、前記圧電トランスの出力電流を検出する電流検出手段とを備え、前記電流検出手段が検出した出力電流が所定値以下の場合に、前記制御手段は、前記位相差が所定値に一致するか否かに関わらず前記発振周波数が低周波側へシフトされるように前記制御電圧を調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電トランス制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持ち運びの容易なノート型パーソナルコンピュータ等には、その表示装置として液晶表示器が広く用いられている。この液晶表示装置の内部には、液晶表示パネルを背照すべく、所謂バックライトとして冷陰極管が備えられており、その冷陰極管を点灯させる昇圧インバータには、昇圧用トランスとして、圧電トランスが普及しつつある。
【0003】
圧電トランスは、出力負荷(負荷抵抗)の大きさによって昇圧比が大きく変化するという一般には好ましくない特性を有しているが、一方でこの負荷抵抗への依存性が冷陰極管のインバータ電源の特性に適しており、液晶表示器の薄型化、高効率化の要求に応える小型高電圧電源として注目されている。
【0004】
このような圧電トランスの制御回路の一例として、圧電トランスの入力電圧と出力電圧又は出力電流との位相差が所定値になるように周波数を制御するものが提案されている(特許文献1を参照。)。
【0005】
図2は、そのような圧電トランス制御回路の構成を示す図である。201は圧電トランスである。202は圧電トランス201の出力側に接続された冷陰極管等の負荷である。203は負荷に流れる電流を検出するための検出用抵抗Rdetである。204は駆動回路207が供給する圧電トランス201の駆動電圧(Vd)と、検出用抵抗203で検出された検出電圧(Vri)との位相差を検出し、位相差電圧(Vf)として出力する位相差検出電圧変換回路である。
【0006】
205は、位相差検出電圧変換回路204から出力される位相差電圧Vfと、基準電圧Vref1とを比較し、その比較結果である差を増幅して、電圧制御発振回路206用の制御電圧(Vctr)を出力する誤差アンプである。ここで、制御電圧Vctrは、誤差増幅出力が205aの積分コンデンサに充電されて得られる充電電圧に対応するものである。206は、制御電圧Vctrに応じた発振周波数を有する発振信号を出力する電圧制御発振回路である。207は電圧制御発振回路206の発振信号に応じて圧電トランス201を駆動する駆動回路である。
【0007】
このような圧電トランスの制御回路においては、発振信号の発振周波数、昇圧比、位相差電圧との関係は図3に示すようになる。
【0008】
図3において、上側は、電圧制御発振回路206が出力する発振信号の発振周波数foscと昇圧比Brとの関係を表す特性曲線を示す。ここで、特性曲線の極大値は共振周波数に相当する。この特性曲線は、冷陰極管等の負荷202に電流が流れて負荷抵抗が小さくなるにつれて矢印で示す方向に変化し、昇圧比Brが小さくなると共に、周波数制御範囲が低周波領域にシフトしていく。
【0009】
図3の下側は、発振周波数foscと位相差電圧Vfとの関係を示す特性曲線を示す。この特性曲線において、発振周波数foscが高域側にある場合は、位相差電圧VfはVmaxに保たれ、foscが一定の周波数以下になるとVfが減少し始め、変換効率の高い位相差電圧に対応するVref1を通過して、Vminへ到達する。この特性曲線も、上記と同様に負荷抵抗が小さくなるにつれて、周波数制御範囲が低域側にシフトする。
【0010】
このように、図3の圧電トランス制御回路では、Vref1に一致する位相差電圧Vfを選択する限り、その時点における負荷抵抗に対応した適切な発振周波数にて、駆動回路207を制御することができる。
【0011】
なお、電圧制御発振回路206は、制御電圧Vctrが小さくなるに応じて低い周波数の信号を出力し、制御電圧Vctrが大きくなるに応じて高い周波数の信号を出力する。よって、位相差電圧VfがVref1からずれた場合であっても、Vref1>Vfの場合には、積分コンデンサ205aの充電がすすみ、その結果Vctrが大きくなるので、発振周波数foscが高周波側にシフトする。一方、Vref<Vfの場合には、積分コンデンサ205aの放電が行われ、その結果Vctrが小さくなるので、発振周波数foscが低周波側にシフトする。これにより位相差電圧がVref1に一致するように制御が行われることとなる。
【0012】
ここで、負荷202である冷陰極管を点灯させるためには点灯開始時に所定電圧以上の高電圧を印加しなければならないので、図4に示すように圧電トランスの昇圧比Brを点灯電圧に対応するレベル(Brth)以上に上昇させる必要がある。このようにして冷陰極管を点灯させてやると、電流が流れて冷陰極管の負荷が減少して、周波数制御範囲が上述のように低周波側へシフトする。
【0013】
しかし、上記のような圧電トランスの制御回路においては、負荷202への印加電圧や昇圧比に基づいた発振周波数の制御を行わず、位相差検出電圧変換回路204において検出される圧電トランス201の入出力信号の位相差に基づいて制御を行っているため、図5に示すように、負荷202に当該所定電圧以上の電圧を印加する以前に、位相差電圧VfがVref1に一致するレベル(f1)に発振周波数foscが到達した場合は、それ以上発振周波数を低域側にシフトするための制御は行われなくなる。f1の駆動周波数で冷陰極管の点灯に必要な高電圧が発生した場合は正常に点灯するものの、冷陰極管の温度や冷陰極管が組み付けられた液晶パネルの状態によっては、点灯に非常に高い電圧が必要となり、その場合には、冷陰極管には点灯に必要な電圧が印加されず、点灯不良状態になってしまう。
【0014】
また、このような点灯不良状態は、位相差検出電圧変換回路204の出力には反映されないために、異常状態を回避することができない。
【特許文献1】特許第3061050号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、圧電トランスへの入出力電圧の位相差によって圧電トランスの駆動制御を行う場合、圧電トランスの出力側に接続された冷陰極管の点灯不良状態を回避することができない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本願発明は、制御電圧に応じた発振周波数を有する発振信号を生成する発振手段と、前記発振手段からの発振信号に応じて圧電トランスを駆動する駆動手段と、前記圧電トランスの入力電圧と出力電圧又は出力電流との位相差を検出する位相差検出手段と、前記位相差が所定値に一致するように、前記制御電圧を調整して前記発振周波数を制御する制御手段と、前記圧電トランスの出力電流を検出する電流検出手段とを備え、前記電流検出手段が検出した出力電流が所定値以下の場合に、前記制御手段は、前記位相差が所定値に一致するか否かに関わらず前記発振周波数が低周波側へシフトされるように前記制御電圧を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧電トランスへの入出力電圧の位相差によって圧電トランスの駆動制御を行う場合、圧電トランスの出力側に接続された冷陰極管の点灯不良状態を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付する図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態に対応する圧電トランス制御回路のブロック構成図である。
【0019】
図1において、101は圧電トランスである。102は圧電トランス101の出力側に接続された冷陰極管等の負荷である。103は負荷に流れる電流を検出するための検出用抵抗である。104は駆動回路107から供給される駆動電圧(Vd)と、検出用抵抗103で変換された検出電圧(Vri)との位相差を検出し、位相差電圧(Vf)として出力する位相差検出電圧変換回路である。
【0020】
105は、位相差検出電圧変換回路104から出力される位相差電圧Vfと、基準電圧Vref1とを比較し、その比較結果である差を増幅して出力(出力値:Vctr)する誤差アンプである。ここで、制御電圧Vctrは、誤差増幅出力が105aの積分コンデンサに充電されて得られる充電電圧に対応するものである。106は、誤差アンプ105から出力される制御電圧Vctrに応じた発振周波数を有する発振信号を出力する電圧制御発振回路である。107は電圧制御発振回路106から出力される発振信号に応じて圧電トランス101を駆動する駆動回路である。
【0021】
108は、検出用抵抗103により検出される検出電圧を整流するための整流回路である。109は、整流回路108から出力される管電流検出電圧(Vdet)と、参照電圧Vref3とを比較するコンパレータである。コンパレータ109は、Vdet≧Vref3の場合に"HIGH"を出力し、Vdet<Vref3の場合に"LOW"を出力する。
【0022】
110はスイッチであり、コンパレータ109の出力に基づいて、誤差アンプ105の入力を、位相差検出電圧変換回路104からの位相差電圧Vfと、Vref2とのいずれかに切り替える。コンパレータ109からの出力が"HIGH"の場合には、位相差電圧Vfが誤差アンプ105へ出力され、"LOW"の場合には、Vref2が出力される。
【0023】
上記の構成を備える圧電トランス制御回路の動作について図6を参照して説明する。図6は、本実施形態に対応する圧電トランス制御回路の動作時の、制御電圧Vctr、発振周波数fosc、管電流検出電圧Vdet、及びスイッチ110からの出力信号の状態を示す図である。
【0024】
図1に示す制御回路は、駆動されていない初期状態において、負荷電流は検出されないので、検出電圧Vriは0Vである。このとき整流回路108から出力される管電流検出電圧Vdetは、Vref3よりも小さくなるので、コンパレータ109からスイッチ110へ出力されるスイッチング信号は"LOW"となる。これにより、Vref2が選択され、Vref1とVref2との誤差に応じた信号が出力される。なお、電圧制御発振回路106は、制御電圧Vctrが小さくなるに応じて低い周波数の信号を出力し、制御電圧Vctrが大きくなるに応じて高い周波数の信号を出力する。そこで、Vref2はVref1よりも大きな値に設定される。
【0025】
このような回路系において、制御回路の駆動を開始した時点では、積分コンデンサ105aには所定の高い初期電圧が充電されており、制御電圧Vctrは当該高い初期電圧に設定され電圧制御発振回路106は、周波数制御範囲における上限周波数(初期周波数fa)から発振を開始する。
【0026】
発振直後に、コンパレータ109からスイッチング信号"LOW"が出力され、スイッチ110においてVref2が選択される。この時点において、Vref2>Vref1であるため、誤差アンプ105の出力電圧(=制御電圧Vctr)は、初期電圧より徐々に減少し、それに伴って、電圧制御発振回路106から出力される発振周波数foscの値は低下する。
【0027】
図4に示すように、冷陰極管等の負荷102には、所定電圧以上の高電圧が印加されなければ、電流が流れないので、整流回路108から出力される管電流検出電圧VdetはVref3よりも低い状態が続く。即ち、Vref3の値は、負荷102に所定電圧以上の高電圧が印加された場合の管電流検出電圧以上の値に設定されればよい。Vref3>Vdetの状態において、制御電圧Vctrは減少を続け、それに伴って電圧制御発振回路106から出力される発振周波数foscは低域側にシフトしていく。
【0028】
発振周波数foscが図4のBrthに対応する周波数に到達する(動作開始から時間t1経過後)と、負荷102に電流が流れ、管電流検出電圧VdetはVref3よりも大きくなり、コンパレータ109からの出力が"LOW"から"HIGH"に切り替わる。これによりスイッチ110から誤差アンプ105への出力がVref2からVfに切り替わる。
【0029】
誤差アンプ105における比較対照がVfに切り替わった時点において、Vref1>Vfの場合は、発振周波数foscが図4におけるf1よりも低い周波数となっているため、Vctrを大きくして高域側にfoscを戻すように回路が動作する。
【0030】
なお、Vref1<Vfの場合は、発振周波数foscが図4におけるf1よりも高い周波数となっているため、Vctrを小さくして低域側にfoscを更にシフトさせるように回路が動作する。
【0031】
これにより、適切な効率において圧電トランスを駆動すると共に、確実に冷陰極管を点灯させることができる。
【0032】
なお、上記の実施形態においては、電圧制御発振回路106は、制御電圧Vctrが小さくなるに応じて低い周波数の信号を出力し、制御電圧Vctrが大きくなるに応じて高い周波数の信号を出力する場合について記載したが、本発明の実施の形態はこれに限られるものではなく、制御電圧Vctrが大きくなるに応じて低い周波数の信号を出力し、制御電圧Vctrが小さくなるに応じて高い周波数の信号を出力する場合についても、同様に本発明を適用することができる。
【0033】
この場合、Vref2はVref1よりも小さい値として設定され、位相差電圧Vfと発振周波数foscとの特性曲線は、図3乃至図5に示す場合とは異なり、foscが高周波数の場合に最小値となり、徐々に立ち上がって、foscが低周波数となった場合に最大値を有するような曲線となる。即ち、図3乃至5に示す場合とは上下対称の形となる。
【0034】
さらに、点灯開始直後は、Vref1に対して位相差電圧Vf或いはVref2が小さいために、誤差アンプ105から出力される制御電圧Vctrが大きくなっていき、その結果発振周波数foscが低周波側にシフトしていく。以降の回路の動作については上述の通りであるので省略する。
【0035】
以上のように、本実施形態に対応する圧電トランス制御回路では、整流回路108、コンパレータ109及びスイッチ110を追加して、管電流が流れ始めるまでは、確実に電圧制御発振回路106から出力される発振周波数foscを低域側に掃引してやることができるので、従来の圧電トランス制御回路において生じたような点灯不良を未然に防止して、確実に点灯状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に対応する圧電トランス制御回路の構成例を示す図である。
【図2】従来の圧電トランス制御回路の構成例を示す図である。
【図3】圧電トランスの入出力電圧の位相差に基づいて電圧制御発振回路から出力する発振周波数を制御する手法を説明するための図である。
【図4】冷陰極管が正常に点灯される場合の圧電トランス制御回路の動作を説明するための図である。
【図5】冷陰極管が正常に点灯されない場合の圧電トランス制御回路の動作を説明するための図である。
【図6】本実施形態に対応する圧電トランス制御回路の動作時の、制御電圧Vctr、発振周波数fosc、管電流検出電圧Vdet、及びスイッチ110からの出力信号の状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御電圧に応じた発振周波数を有する発振信号を生成する発振手段と、
前記発振手段からの発振信号に応じて圧電トランスを駆動する駆動手段と、
前記圧電トランスの入力電圧と出力電圧又は出力電流との位相差を検出する位相差検出手段と、
前記位相差が所定値に一致するように、前記制御電圧を調整して前記発振周波数を制御する制御手段と、
前記圧電トランスの出力電流を検出する電流検出手段と
を備え、
前記電流検出手段が検出した出力電流が所定値以下の場合に、前記制御手段は、前記位相差が所定値に一致するか否かに関わらず前記発振周波数が低周波側へシフトされるように前記制御電圧を調整することを特徴とする圧電トランス制御回路。
【請求項2】
制御電圧に応じた発振周波数を有する発振信号を生成する発振手段と、
前記発振手段からの発振信号に応じて圧電トランスを駆動する駆動手段と、
前記圧電トランスの入力電圧と出力電圧又は出力電流との位相差を検出する位相差検出手段と、
第1の参照電圧と入力との比較結果に応じて前記制御電圧を制御する制御手段と、
前記入力を、前記位相差検出手段よりの出力と、第2の参照電圧とのいずれかに切り替える切り替え手段と
を備え、
前記制御手段は、前記入力が前記第2の参照電圧である場合に、前記発振周波数が低周波側へシフトされるように前記制御電圧を制御することを特徴とする圧電トランス制御回路。
【請求項3】
前記切り替え手段は、前記圧電トランスの出力電流を検出する検出手段を備え、
前記出力電流が所定値を下回る場合に、前記制御手段への前記入力を前記第2の参照電圧とすることを特徴とする請求項1に記載の圧電トランス制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−12720(P2006−12720A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191417(P2004−191417)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】