説明

圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法と圧電体セラミックデバイスの製造方法

【課題】セラミック粒子(単結晶粒子)よりも磁気異方性が大きい圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体を製造する方法を提供する。
【解決手段】この製造方法は、(1)セラミック粒子CPを多数含むスラリーSL1を用意する準備ステップ、(2)スラリーSL1中のセラミック粒子CPに分散力を付与することによって各セラミック粒子CPをばらばらに散らばらせる分散ステップ、(3)分散ステップ後のスラリーSL1中のセラミック粒子CPに磁場を印加することによって各セラミック粒子CPの結晶方位を揃える配向ステップ、(4)配向ステップ後のスラリーSL1中のセラミック粒子CPに凝集力を付与することによって結晶方位が揃っている複数のセラミック粒子CPが凝集したセラミック粒子集合体AScpを作製する凝集ステップ、(5)凝集ステップ後のスラリーSL1からセラミック粒子集合体AScpを取り出す取出ステップ、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体セラミックデバイスを作製する際に有用なセラミック粒子集合体の製造方法と、該セラミック粒子集合体を用いた圧電体セラミックデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種圧電デバイス、例えばスピーカやトランスやアクチュエータやディスプレイ等の主要部である圧電体セラミックスは、該圧電体セラミックスを構成するセラミック粒子それぞれの結晶方位を揃えることによって圧電特性が格段向上する。前記結晶方位を揃える方法としては「磁場配向法」と称される方法、具体的には圧電体セラミックス用スラリーに磁場を印加することによって該スラリー中のセラミック粒子それぞれを配向させる方法が知られている(特許文献1及び2を参照)。
【0003】
ところで、前記「磁場印加法」は前記スラリー中のセラミック粒子それ自体の磁気異方性を利用して所期の配向を行う方法であるため、該スラリーに印加される磁場にそれ相当の強度が必要となるし、セラミック粒子それ自体の磁気異方性が低い場合には高強度の磁場が必要となる。何れにせよ、磁場印加装置として電磁石が用いられている現状からして、従前よりも低強度の磁場で前記「磁場配向法」を実施できれば、エネルギーコストを低減して製造コスト削減に大きく貢献できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−006704号公報
【特許文献2】特開2008−208004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記事情に鑑みて創作されたもので、第1の目的は、単結晶のセラミック粒子よりも磁気異方性が大きいセラミック粒子集合体を製造する方法を提供することにある。第2の目的は、前記セラミック粒子集合体を用いて従前よりも低強度の磁場で圧電体セラミックデバイスを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記第1の目的を達成するため、本発明(圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法)は、セラミック粒子を多数含むセラミック粒子集合体製造用のスラリーを用意する準備ステップと、前記スラリー中のセラミック粒子に分散力を付与することによって各セラミック粒子をばらばらに散らばらせる分散ステップと、前記分散ステップ後のスラリー中のセラミック粒子に磁場を印加することによって各セラミック粒子の結晶方位を揃える配向ステップと、前記配向ステップ後のスラリー中のセラミック粒子に凝集力を付与することによって結晶方位が揃っている複数のセラミック粒子が凝集したセラミック粒子集合体を作製する凝集ステップと、前記凝集ステップ後のスラリーから前記セラミック粒子集合体を取り出す取出ステップとを備える、ことをその特徴とする。
【0007】
また、前記第2の目的を達成するため、本発明(圧電体セラミックデバイスの製造方法)は、スラリーからグリーンシートを作製する工程を備えた圧電セラミックデバイスの製造方法であって、前記グリーンシート作製工程が、前記のセラミック粒子集合体の製造方法によって製造されたセラミック粒子集合体を多数含むスラリーを用意する準備ステップと、前記スラリーをベースフィルム上に塗工して所定厚さのシート状物を形成する塗工ステップと、前記シート状物に磁場を印加することによって該シート状物内のセラミック粒子集合体それぞれを配向させる配向ステップと、前記配向ステップ後のシート状物に硬化処理を施すことによって該シート状物内のセラミック粒子集合体の配向を固定する固定ステップとを備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明(圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法)によれば、単結晶のセラミック粒子よりも磁気異方性が大きいセラミック粒子集合体を製造することができる。また、本発明(圧電体セラミックデバイスの製造方法)によれば、前記セラミック粒子集合体を用いて従前よりも低強度の磁場で圧電体セラミックデバイスを製造する方法を提供することができる。
【0009】
本発明の前記目的とそれ以外の目的と、構成特徴と、作用効果は、以下の説明と添付図面によって明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、セラミック粒子集合体の製造方法に係る分散ステップ、配向ステップ及び凝集ステップと各ステップにおけるセラミック粒子の状態を示す図である。
【図2】図2は、図1に示した分散ステップ、配向ステップ及び凝集ステップを行うのに適した装置を示す図である。
【図3】図3(A)及び図3(B)は、図1に示した螺旋状部の変形態様を示す図であり、図3(C)は、図1に示した電磁石の変形態様を示す図である。
【図4】図4(A)は、分散ステップの第1の具体手法を示す図であり、図4(B)は、分散ステップの第2の具体手法を示す図である。
【図5】図5(A)は、凝集ステップの第1の具体手法を示す図であり、図5(B)は、凝集ステップの第2の具体手法を示す図である。
【図6】図6(A)は、セラミック粒子集合体のメディアン径(d50)を示す図、図6(B)は、セラミック粒子集合体の磁気異方性Δxを示す図である。
【図7】図7は、圧電体セラミックデバイスの製造方法のグリーンシート作製工程に係る塗工ステップ、配向ステップ及び固定ステップと各ステップにおけるセラミック粒子集合体の状態を示す図である。
【図8】図8は、図7に示した塗工ステップ、配向ステップ及び固定ステップを行うのに適した装置を示す図である。
【図9】図9(A)は、グリーンシート内のセラミック粒子集合体の配向度L.F.を示す図、図9(B)は、圧電セラミックデバイスの圧電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法》
本発明に係る圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法は、
(S11)セラミック粒子CPを多数含むセラミック粒子集合体製造用のスラリーSL1を用意する準備ステップ
(S12)準備ステップで用意されたスラリーSL1中のセラミック粒子CPに分散力を付与することによって各セラミック粒子CPをばらばらに散らばらせる分散ステップ(図1の〈分散ステップ〉を参照)
(S13)分散ステップ後のスラリーSL1中のセラミック粒子CPに磁場を印加することによって各セラミック粒子CPの結晶方位を揃える配向ステップ(図1の〈配向ステップ〉を参照)
(S14)配向ステップ後のスラリーSL1中のセラミック粒子CPに凝集力を付与することによって結晶方位が揃っている複数のセラミック粒子CPが凝集したセラミック粒子集合体AScpを作製する凝集ステップ(図1の〈凝集ステップ〉を参照)
(S15)凝集ステップ後のスラリーSL1からセラミック粒子集合体AScpを取り出す取出ステップ
を備える。尚、図1の○は単結晶のセラミック粒子CPを示し、○内の矢印はセラミック粒子CPの結晶方位を示す。
【0012】
〈準備ステップ(S11)〉
準備ステップは、セラミック粒子CPを多数含むセラミック粒子集合体製造用のスラリーSL1を用意するステップである。
【0013】
このスラリーSL1は溶媒とセラミック粒子CP(単結晶粒子)の群が所定の質量比となるように調合されたものであり、溶媒には、好ましくはH2O、エタノール、トルエン等が使用され、また、セラミック粒子CPには圧電効果が得られるもの、好ましくは後記のタングステンブロンズ型化合物の粒子、ビスマス層状化合物の粒子、または、ペロブスカイト型化合物の粒子が使用される。
【0014】
スラリーSL1における溶媒の好ましい質量百分率は30〜50wt%の範囲内であり、セラミック粒子CPの好ましい質量百分率は40〜60wt%の範囲内である。また、セラミック粒子CPの好ましいメディアン径(d50)は0.1〜1.2μmの範囲内である。
【0015】
タングステンブロンズ型化合物としては、A2BNb515(AサイトはSr、Ca及びBaのうちの1種または2種以上の組み合わせ、BサイトはK及びNaのうちの1種または2種の組み合わせ)の式で表されるもの、具体的にはSr2NaNb515、Ba2NaNb515、Sr2KNb515、Ba2KNb515、Sr2Ca0.8Na0.8Nb515等が挙げられる。
【0016】
ビスマス層状化合物としては、ABi4Ti415(AサイトはSr、Ca、BaまたはPb)の式、AxBi1-xTi4O15(AサイトはK、Na、Sr、CaまたはBa、0<x<0.8)の式、A2Bi4Ti518(AサイトはSr,BaまたはPb)の式、或いは、ABi229(AサイトはSr、BaまたはPb、BサイトはNbまたはTa)の式で表されるもの、具体的にはSrBi4Ti415、CaBi4Ti415、BaBi4Ti415、Na0.5Bi4.5Ti415、K0.5Bi4.5Ti415、PbBi4Ti415、Sr2Bi4Ti518、Ba2Bi4Ti518、Pb2Bi4Ti518、SrBi2Nb29、SrBi2Ta29、BaBi2Nb29、BaBi2Ta29、PbBi2Nb29、PbBi2Ta29等が挙げられる。
【0017】
ペロブスカイト型化合物としては、ABO3(AサイトはBi、K、Na、Li、Sr、Ca、BaまたはAg、BサイトはTiまたはNb)の式で表されるもの、具体的にはBi0.50.5TiO3、Bi0.5Na0.5TiO3、KNbO3、(K,Na)NbO3、(K,Na,Li)NbO3、(K,Na,Sr)NbO3、(K,Na,Ba)NbO3、(K,Na,Li,Sr)NbO3、(K,Na,Li,Ba)NbO3等が挙げられる。
【0018】
前記のタングステンブロンズ型化合物、ビスマス層状化合物及びペロブスカイト型化合物は、公知の単結晶育成法(単結晶合成法)、例えば気相法、液相法、または固相法によって適宜作製できる。
【0019】
〈分散ステップ、配向ステップ及び凝集ステップを行うのに適した装置〉
図2は、先に述べた分散ステップ、配向ステップ及び凝集ステップを行うのに適した装置を示す。図2中の符号11は供給槽、符号12は回収槽、符号13は供給槽11から回収槽12に至るチューブ、符号14はチューブ13の供給槽11側に介装されたポンプ、符号16はチューブ13の螺旋状部13aを囲むように配置された電磁石(一般的な電磁石の他に超伝導電磁石も含む)である。
【0020】
供給槽11には前記スラリーSL1が貯留され、供給層11内のスラリーSL1はポンプ14によってチューブ13内を流動して回収槽12に送り込まれる。図示を省略したが、供給槽11内に攪拌機を設置して該供給槽11に貯留されているスラリーSL1を撹拌するようにすれば、該攪拌機に分散ステップの補助手段としての役目を担わせることもできる。チューブ13の内径は好ましくは50〜150mmの範囲内であり、該チューブ13内におけるスラリーSL1の流量は好ましくは100〜500ml/minの範囲内である。螺旋状部13aは短い直線区間で長い流路を確保するための工夫であり、螺旋状部13aの全長は好ましくは0.5〜1.5mの範囲内である。
【0021】
図2に示したように、チューブの13の螺旋状部13aよりも上流側部分は前記分散ステップを行う部分として利用され、螺旋状部13aの上流側部分は前記配向ステップを行う部分として利用され、螺旋状部13aの下流側部分は前記凝集ステップを行う部分として利用される。
【0022】
図2に示した螺旋状部13aは、図3(A)に示した縦向き蛇行状部13a’、または、図3(B)に示した横向き蛇行状部13に置き換えても良い。図3(A)に示した縦向き蛇行状部13a’の場合には、その上流側部分が前記配向ステップを行う部分として利用され、その下流側部分は前記凝集ステップを行う部分として利用される。また、図3(B)に示した横向き蛇行状部13a”の場合には、その上流側部分が前記配向ステップを行う部分として利用され、その下流側部分が前記凝集ステップを行う部分として利用される。
【0023】
電磁石15はN極部とS極部とを有しており、チューブ13の主に螺旋状部13a内を流動するスラリーSL1に所定強度、例えば5〜15Tの磁場を印加するためのものである。図2と図3(A)と図3(B)には図中で左から右に向く磁場を示してあるが、電磁石15の極性を変えることによって図中で右から左に向く磁場を形成できる。また、図3(C)に示すようなリング状の電磁石15’を用いれば、図中で上から下に向く磁場、または、図中で下から上に向く磁場を形成することもできる。
【0024】
〈分散ステップ(S12)〉
分散ステップは、供給槽11からのスラリーSL1がチューブ13内を流動する過程で、該スラリーSL1中のセラミック粒子CPに分散力を付与することによって各セラミック粒子CPをばらばらに散らばらせるステップである。
【0025】
図1の〈分散ステップ前〉ではチューブ13内を流動するスラリーSL1中のセラミック粒子CPがファンデルワールス力等の粒子間力によって凝集(凝集物AGcp)することがあるが、該スラリーSL1中のセラミック粒子CPに分散力を付与すれば、図1の〈分散ステップ〉に示したように、凝集物AGcpを解して各セラミック粒子CPをばらばらに散らばらせることができる。
【0026】
スラリーSL1中のセラミック粒子CPに分散力を付与する第1の具体手法としては、図4(A)に示したように、チューブ13を囲むように超音波発振器16を配置し、該超音波発振器16からスラリーSL1中のセラミック粒子CPに超音波を付与して、該超音波に基づく振動によってセラミック粒子CPを解す手法が採用できる。セラミック粒子CPに付与される超音波振動の条件は、好ましくは周波数が20〜30kHzの範囲内で出力が50〜200Wの範囲内である。超音波振動の条件はこの範囲を多少外れても問題無いが、該範囲を大きく外れるとキャビテーション現象(空洞化現象)による所期の分散効果が得難くなる。
【0027】
また、スラリーSL1中のセラミック粒子CPに分散力を付与する第2の具体手法としては、図4(B)に示したように、チューブ13に小径部13bを設けてスラリーSL1の流速を増加し、該流速増加に基づく抵抗値増加(セラミック粒子CPが受ける抵抗値が増すこと)や摩擦力増加(セラミック粒子CPの相互間の摩擦力が増すこと)等によってセラミック粒子CPを解す手法が採用できる。スラリーSL1の流速増加の条件は、好ましくは2〜5倍の範囲内である。流速増加の条件はこの範囲を多少外れても問題無いが、該範囲を大きく外れると前記抵抗値増加や摩擦力増加等による所期の分散効果が得難くなる。
【0028】
さらに、スラリーSL1中のセラミック粒子CPに分散力を付与する第3の具体手法としては、前記準備ステップで用意されたスラリーSL1に予め分散剤を添加しておき、該分散剤の働きによってセラミック粒子CPを解す手法が採用できる。分散剤には、公知の分散剤、例えばイオン性または非イオン性の高分子型分散剤や界面活性剤型分散剤(低分子型分散剤)や無機型分散剤が適宜使用できる。また、スラリーSL1に対する分散剤の添加量は、好ましくは0.5〜1.0wt%の範囲内である。分散剤の添加量はこの範囲を多少外れても問題無いが、該範囲を大きく外れると解し作用及び解し後の凝集防止作用による所期の分散効果が得難くなる。
【0029】
さらに、スラリーSL1中のセラミック粒子CPに分散力を付与する第4の具体手法としては、前記スラリーSL1にpH調整剤を予め添加しておき、該pH調整剤の働きによってセラミック粒子CPを解す手法が採用できる。pH調整剤には、公知のpH調整剤、例えば塩酸水溶液や水酸化カリウム水溶液等が適宜使用できる。また、スラリーSL1に対するpH調整剤の添加量は、好ましくは該スラリーSL1のpHが4〜12の範囲内になるように選択される。スラリーSL1のpHはこの範囲を多少外れても問題無いが、該範囲を大きく外れると解し作用よる所期の分散効果が得難くなる。
【0030】
〈配向ステップ(S13)〉
配向ステップは、スラリーSL1がチューブ13内を流動する過程で、分散ステップ後のスラリーSL1中のセラミック粒子CPに磁場を印加することによって各セラミック粒子CPの結晶方位を揃えるステップである。
【0031】
図1の〈分散ステップ〉ではチューブ13内を流動するスラリーSL1中のセラミック粒子CPはばらばらに散らばっていて各セラミック粒子CPの結晶方位は揃っていないが、該スラリーSL1中のセラミック粒子CPに磁場を印加すれば、図1の〈配向ステップ〉に示したように、各セラミック粒子CPを各々の結晶方位が磁場方向に向くように変位させて該各セラミック粒子CPの結晶方位を揃えることができる。尚、図1の〈配向ステップ〉では流動方向と磁場方向を同一方向にしてあるが、先に説明したように磁場方向は任意に設定できる。
【0032】
〈凝集ステップ(S14)〉
凝集ステップは、スラリーSL1がチューブ13内を流動する過程で、配向ステップ後のスラリーSL1中のセラミック粒子CPに凝集力を付与することによって結晶方位が揃っている複数のセラミック粒子CPが凝集したセラミック粒子集合体AScpを作製するステップである。
【0033】
図1の〈配向ステップ〉ではチューブ13内を流動するスラリーSL1中のセラミック粒子CPは各々の結晶方位が揃った状態で、且つ、分散状態を維持しているが、該スラリーSL1中のセラミック粒子CPに凝集力を付与すれば、図1の〈凝集ステップ〉に示したように、結晶方位が揃っている複数のセラミック粒子CPが凝集したセラミック粒子集合体AScpを作製することができる。尚、図1の〈凝集ステップ〉では流動方向と磁場方向を同一方向にしてあるが、先に説明したように磁場方向は任意に設定できる。
【0034】
スラリーSL1中のセラミック粒子CPに凝集力を付与する第1の具体手法としては、図5(A)に示したように、前記準備ステップで用意されたスラリーに予め紫外線硬化剤を添加しおくと共にチューブ13を囲むように紫外線照射器17を配置し、該紫外線照射器17からスラリーSL1中のセラミック粒子CPに紫外線を照射して、該紫外線による紫外線硬化剤の硬化によってセラミック粒子CPを凝集させる手法が採用できる。この場合、紫外線照射器17を配置されたチューブ13の一部を透明または半透明にして紫外線の透過を可能とする必要がある。紫外線硬化剤には、好ましくはオニウム塩型のジフェニルヨードニウムヘキサフロロホスフェート、オニウム塩型のトリフェニルスルホニウムヘキサフロロホスフェート等が使用できる。また、スラリーSL1に対する紫外線硬化剤の添加量は、好ましくは3〜10wt%の範囲内である。紫外線硬化剤の添加量はこの範囲を多少外れても問題無いが、該範囲を大きく外れると紫外線照射による所期の凝集効果が得難くなる。
【0035】
また、スラリーSL1中のセラミック粒子CPに凝集力を付与する第2の具体手法としては、図5(B)に示したように、チューブ13に大径部13cを設けてスラリーSL1の流速を減少し、該流速減少に基づく抵抗値減少(セラミック粒子CPが受ける抵抗値が減ること)や摩擦力減少(セラミック粒子CPの相互間の摩擦力が減ること)等によってセラミック粒子CPを凝集させる手法が採用できる。スラリーSL1の流速減少の条件は、好ましくは2/5〜1/2倍の範囲内である。流速減少の条件はこの範囲を多少外れても問題無いが、該範囲を大きく外れると前記抵抗値減少や摩擦力減少等による所期の凝集効果が得難くなる。
【0036】
さらに、スラリーSL1中のセラミック粒子CPに凝集力を付与する第3の具体手法としては、前記準備ステップで用意されたスラリーSL1に予め凝集剤を添加しておき、該凝集剤の働きによってセラミック粒子CPを凝集させる手法が採用できる。凝集剤には、前記分散剤(前記〈分散ステップ〉の第3の具体手法を参照)が使用できる。前記分散剤を凝集剤として使用する場合には、スラリーSL1に対する該分散剤の添加量を過剰にして分散効果よりも凝集効果が得られるようにする。例えば、スラリーSL1に対する前記分散剤の好ましい添加量が0.5〜1.0wt%の場合には、該分散剤の添加量を3.0wt%以上にすると分散効果よりも凝集効果が得られる。
【0037】
〈取出ステップ(S15)〉
取出ステップは、凝集ステップ後に回収槽12に回収されたスラリーSL1からセラミック粒子集合体AScpを取り出すステップであり、第1の具体手法としては、セラミック粒子集合体AScpを含むスラリーSL1を篩にかけて、セラミック粒子集合体AScpのみを分離した後に乾燥させる手法が採用できる。また、第2の具体手法としては、セラミック粒子集合体AScpを含むスラリーSL1を乾燥炉(図示省略)に挿入して、液分を蒸発させる手法が採用できる。
【0038】
〈効果〉
以下、前記〈準備ステップ〉に記載したタングステンブロンズ型化合物の中の「Sr2Ca0.8Na0.8Nb515(以下、単にSCNNと言う)」の粒子をセラミック粒子CPとして用いた場合を例として、前記の準備ステップ(S11)、分散ステップ(S12)、配向ステップ(S13)、凝集ステップ(S14)及び取出ステップ(S15)を備えたセラミック粒子集合体の製造方法によって得られる効果について説明する。
【0039】
準備ステップでは、メディアン径(d50)が0.8μmのセラミック粒子(SCNN粒子)CPを多数含むセラミック粒子集合体製造用のスラリーSL1を用意した。このスラリーSL1は、セラミック粒子CPの他に、溶媒としてエタノール及びトルエンの混合液を含み、紫外線硬化剤としてオニウム塩型のジフェニルヨードニウムヘキサフロロホスフェートを含むものであり、セラミック粒子CPの質量百分率は50wt%、エタノール及びトルエンの混合液の質量百分率は45wt%、オニウム塩型のジフェニルヨードニウムヘキサフロロホスフェートの質量百分率は5wt%である。
【0040】
分散ステップ、配向ステップ及び凝集ステップでは、図2に示した装置に図4(A)に示した超音波発振器16と図5(A)に示した紫外線照射器17を配置したものを使用した。チューブ13の内径は50mmであり、螺旋状部13aの巻き数は10でその全長は1.0mである。また、外線照射器17が配置されたチューブ13の一部は紫外線を透過させるために透明になっている。
【0041】
供給槽11には準備ステップで用意したスラリーSL1が貯留され、該スラリーSL1は供給槽11に設置された攪拌機によって撹拌されている。また、供給槽11内のスラリーSL1はポンプ14によって200ml/minの流量下でチューブ13内を回収槽12に向かって流動する。
【0042】
分散ステップでは、スラリーSL1がチューブ13内を流動する過程で、該スラリーSL1中のセラミック粒子CPに超音波発振器16によって周波数20kHz、出力100Wの振動を付与した。配向ステップでは、分散ステップ後のスラリーSL1中のセラミック粒子CPに電磁石15によって10Tの磁場を印加した。凝集ステップでは、配向ステップ後のスラリーSL1中のセラミック粒子CPに紫外線照射器17によって紫外線を照射した。取出ステップでは、凝集ステップ後に回収槽12に回収されたスラリーSL1を篩にかけてセラミック粒子集合体AScpのみを分離した後、該セラミック粒子集合体AScpを70℃の温度雰囲気下で乾燥させ、所期のセラミック粒子集合体AScpを製造した。
【0043】
製造後のセラミック粒子集合体AScpを態様を確認したところ、該セラミック粒子集合体AScpの平均粒子数は4個であり、そのメディアン径(d50)は3.5μmであった(図6(A)を参照)。また、このセラミック粒子集合体AScpの磁気異方性を確認したところ、セラミック粒子集合体AScpの磁気異方性Δxは2.0E-7であり、セラミック粒子CPの磁気異方性(1.0E-7)よりも格段大きかった(図6(B)を参照)。
【0044】
因みに、ここでの磁気異方性Δxは、セラミック粒子(SCNN粒子)CPの配向方向における帯磁率とその他の方向における帯磁率との差(Δx)を意味する。また、セラミック粒子集合体AScpの磁気異方性ΔxAScpは、ΔxAScp=ΔxCP×n×α(d,φ)の式によって算出したものであって、同式中のΔxCPはセラミック粒子(SCNN粒子)CPの磁気異方性、nはセラミック粒子集合体AScpを構成するセラミック粒子CPの数、α(d,φ)はセラミック粒子CPのメディアン径(d50)と凝集後の各セラミック粒子CPの配向角φとに基づく係数である。
【0045】
要するに、前掲のセラミック粒子集合体の製造方法によれば、単結晶のセラミック粒子CPよりも磁気異方性が大きいセラミック粒子集合体AScpを製造することができる。
【0046】
前述の〈効果〉では、SCNN粒子をセラミック粒子CPとして用いた場合を例として製造方法によって得られる効果を説明したが、前記〈準備ステップ〉に記載したSCNN以外のタングステンブロンズ型化合物の粒子、ビスマス層状化合物の粒子、または、ペロブスカイト型化合物の粒子をセラミック粒子CPとして用いた場合でも、前記の準備ステップ(S11)、分散ステップ(S12)、配向ステップ(S13)、凝集ステップ(S14)及び取出ステップ(S15)を実施することによって、単結晶のセラミック粒子CPよりも磁気異方性が大きいセラミック粒子集合体AScpを同様に製造することができる。
【0047】
《圧電体セラミックデバイスの製造方法》
本発明に係る圧電体セラミックデバイスの製造方法は、スピーカやトランスやアクチュエータやディスプレイ等のデバイス種類に拘わらず、基本的には、
(P21)前記《圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法》に記載した準備ステップ(S11)、分散ステップ(S12)、配向ステップ(S13)、凝集ステップ(S14)及び取出ステップ(S15)を備えたセラミック粒子集合体の製造方法で製造されたセラミック粒子集合体AScpを用いてグリーンシートGSを作製する工程
(P22)作製したグリーンシートGSを用いて単層または多層の未焼成デバイス本体を作製する工程
(P23)作製した未焼成デバイス本体を焼成して焼成デバイス本体を作製する工程
を備え、必要に応じて
(P24)作製した焼成デバイス本体に端子を作製する工程
が採用される。
【0048】
未焼成デバイス本体を作製する工程(P22)と焼成デバイス本体を作製する工程(P23)と端子を作製する工程(P24)は従前の製造方法と変わりがないため、ここでは、グリーンシートGSを作製する工程(P21)について詳述する。
【0049】
グリーンシートGSを作製する工程(P21)は、
(S21a)前記《圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法》に記載した準備ステップ(S11)、分散ステップ(S12)、配向ステップ(S13)、凝集ステップ(S14)及び取出ステップ(S15)を備えたセラミック粒子集合体の製造方法で製造されたセラミック粒子集合体AScpを多数含むグリーンシート作製用のスラリーSL2を用意する準備ステップ
(S21b)準備ステップで用意されたスラリーSL2をベースフィルム22上に塗工して所定厚さのシート状物26を形成する塗工ステップ(図7の〈塗工ステップ〉を参照)
(S21c)シート状物26に磁場を印加することによって該シート状物26内のセラミック粒子集合体AScpそれぞれを磁場方向に配向させる配向ステップ(図7の〈配向ステップ〉を参照)
(S21d)配向ステップ後のシート状物26に硬化処理を施すことによって該シート状物26内のセラミック粒子集合体AScpの配向を固定する固定ステップ(図7の〈固定ステップ〉を参照)
を含む。尚、図7の○の集合はセラミック粒子集合体AScpを示し、○内の矢印はセラミック粒子集合体AScp(各セラミック粒子CP)の結晶方位を示す。
【0050】
〈準備ステップ(S21a)〉
準備ステップは、セラミック粒子集合体AScpを多数含むグリーンシート作製用のスラリーSL2を用意するステップである。
【0051】
このスラリーSL2は、少なくとも有機溶剤と有機バインダとセラミック粒子集合体AScpの群が所定の質量比となるように調合されたものであり、有機溶剤には、好ましくはエタノール等が使用され、有機バインダには、好ましくはアクリル樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルブチラール等が使用される。また、スラリーSL2には可塑剤や分散剤が添加されていても良く、添加可能な可塑剤には、好ましくはジオクチル等のエステル系のもの等が挙げられ、添加可能な分散剤には、公知の分散剤、例えばイオン性または非イオン性の高分子型分散剤や界面活性剤型分散剤(低分子型分散剤)や無機型分散剤が適宜使用できる。
【0052】
スラリーSL2における有機溶剤の好ましい質量百分率は30〜50wt%の範囲内であり、有機バインダの好ましい質量百分率は3〜5wt%の範囲内であり、セラミック粒子集合体AScpの好ましい質量百分率は40〜60wt%の範囲内である。また、可塑剤の好ましい添加量は質量百分率で表すと1〜2wt%の範囲内であり、分散剤の好ましい添加量は質量百分率で表すと0.5〜1.5wt%の範囲内である。
【0053】
〈塗工ステップ、配向ステップ及び固定ステップを行うのに適した装置〉
図8は、先に述べた配向ステップ及び固定ステップを行うのに適した装置を示す。図8中の符号21は搬送ローラ、符号22は搬送ローラ21によって所定方向に走行するベースフィルム、符号23は塗工機、符号24は電磁石(一般的な電磁石の他に超伝導電磁石も含む)、符号25は加熱機、符号26は塗工後のシート状物、符号27は配向及び加熱後のシート状物(グリーンシートGS)である。
【0054】
ベースフィルム22はポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルムから成る。塗工機23はドクターブレード式やグラビア式等の各種コータから成り、前記スラリーSL2をベースフィルム22上に所定厚さで塗工してシート状物26を形成できる。
【0055】
電磁石24はN極部とS極部とを有しており、シート状物26に所定強度、例えば3〜7Tの磁場を印加するためのものである。図8には磁場の方向を示していないが、電磁石24の極性を選択することによって図中で上から下に向く磁場、または、上から下に向く磁場を形成できる。また、電磁石24として図2(C)に示したリング状のものを用いれば、図中で左から右に向く磁場、または、図中で右から左に向く磁場を形成できる。
【0056】
〈塗工ステップ(S21b)〉
塗工ステップは、スラリーSL2をベースフィルム22上に塗工して所定厚さのシート状物26を形成するステップである。ベースフィルム22の走行速度はスラリーSL2の粘性等に応じて適宜選定される。
【0057】
〈配向ステップ(S21c)〉
配向ステップは、ベースフィルム22上に形成されたシート状物26に磁場を印加することによって該シート状物26内のセラミック粒子集合体AScpそれぞれを磁場方向に配向させるステップである。
【0058】
図7の〈塗工ステップ〉ではシート状物26内の各セラミック粒子集合体AScpの結晶方位は揃っていないが、該シート状物26内のセラミック粒子集合体AScpに磁場を印加すれば、図7の〈配向ステップ〉に示したように、各セラミック粒子集合体AScpを各々の結晶方位が磁場方向に向くように変位させて該各セラミック粒子集合体AScpの結晶方位を揃えることができる。尚、図7の〈配向ステップ〉では走行方向と磁場方向を同一方向にしてあるが、先に説明したように磁場方向は任意に設定できる。
【0059】
〈固定ステップ(S21d)〉
固定ステップは、配向ステップ後のシート状物26に硬化処理を施すことによって該シート状物26内のセラミック粒子集合体AScpの配向を固定するステップである。
【0060】
図7の〈配向ステップ〉ではシート状物26内の各セラミック粒子集合体AScpの結晶方位は揃っているものの固定されてはいないが、該シート状物26に硬化処理を施せば、図7の〈固定ステップ〉に示したように、各セラミック粒子集合体AScpを各々の結晶方位が揃った状態で固定できる。
【0061】
シート状物26に対する硬化処理の第1の具体手法としては、該シート状物26に熱を加えて有機バインダを硬化し、且つ、有機溶剤等を除去する方法が採用できる。シート状物26の組成や厚さ等によって異なるが、加熱条件は、好ましくは加熱温度が50〜80℃の範囲内で加熱時間が20〜100secの範囲内である。
【0062】
〈効果〉
以下、前記《圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法》の〈効果〉に例示したセラミック粒子集合体AScp(SCNN粒子を用いて製造されたもの)を用いた場合を例として、前記の準備ステップ(S21a)、塗工ステップ(P21b)、配向ステップ(P21c)及び固定ステップ(P21d)を含むグリーンシート作製工程(P21)を少なくとも備えた圧電体セラミックデバイスの製造方法によって得られる効果について説明する。
【0063】
グリーンシートGSを作製する工程の準備ステップでは、セラミック粒子集合体AScpを多数含むグリーンシート作製用のスラリーSL2を用意した。このスラリーSL2は、セラミック粒子集合体AScpの他に、有機溶剤としてエタノールを含み、有機バインダとしてポリビニルブチラールを含み、可塑剤としてジオクチルを含み、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウムを含むものであり、セラミック粒子集合体AScpの質量百分率は50wt%、エタノールの質量百分率は43wt%、ポリビニルブチラールの質量百分率は4wt%、ジオクチルの質量百分率は2wt%、ポリアクリル酸アンモニウムの質量百分率は1wt%である。
【0064】
グリーンシートGSを作製する工程の塗工ステップでは、ベースフィルム26の走行速度を10m/minとし、塗工機23によってスラリーSL2をベースフィルム26上に約20μmの厚さで塗工してシート状物26を形成した。配向ステップでは、ベースフィルム22上に形成されたシート状物26に電磁石24によって6.5Tの磁場を印加した。固定ステップでは、配向ステップ後のシート状物26を加熱機25によって加熱温度70℃、加熱時間100secで加熱して、該シート状物26中の有機バインダを硬化し、且つ、有機溶剤等を除去した。
【0065】
そして、作製されたグリーンシートGSを用いて単層の未焼成デバイス本体を作製し、これを所定サイズに切断したものを焼成温度1000〜1200℃、焼成時間120minで焼成し、所期の圧電体セラミックデバイスを製造した。
【0066】
製造途中のグリーンシートGS内のセラミック粒子集合体AScpを態様を確認したところ、その配向度L.F.は0.4であり、セラミック粒子(SCNN粒子)CPを使用して同様に作製されたグリーンシートGS内のSCNN粒子の配向度L.F.(0.2)よりも格段向上していた(図9(A)を参照)。換言すれば、セラミック粒子集合体AScpを含むスラリーSL2を用いて形成されたシート状物26にあっては、セラミック粒子(SCNN粒子)CPを含むスラリーSL2を用いて形成されたシート状物26に比べて低強度の磁場にて所期の配向が行えるため、電磁石24に要するエネルギーコストを低減して製造コスト削減に大きく貢献できる。
【0067】
因みに、ここでの配向度L.F.は、ロットゲーリング法によって測定された配向の度合い(結晶方位の揃い方の程度)を意味する。このロットゲーリング法は、配向していない試料(ここではセラミック粒子集合体AScpとセラミック粒子(SCNN粒子)CPを指す)の各結晶面(hkl)からのX線反射強度をI(hkl)の合計ΣI(hkl)と(001)面からのX線反射強度I(001)の合計ΣI(001)との比P0をP0={ΣI(001)/ΣI(hkl)}の式によって求めると共に、配向している試料の各結晶面(hkl)からのX線反射強度をI(hkl)の合計ΣI(hkl)と(001)面からのX線反射強度I(001)の合計ΣI(001)との比PをP={ΣI(001)/ΣI(hkl)}の式によって求め、求められたP0とPを用いて配向度L.F.をL.F.={(P−P0)/(1−P0)}×100[%]の式によって求めることにより実行される。
【0068】
要するに、前掲の圧電体セラミックデバイスの製造方法によれば、前記《圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法》の〈効果〉に例示したセラミック粒子集合体AScp(SCNN粒子を用いて製造されたもの)をグリーンシート作製工程、特にその準備ステップで用いることによって、従前よりも低強度の磁場で圧電体セラミックデバイスを製造できる。加えて、所期の配向を行うための磁場強度を低減できるので、磁場印加装置として用いられている電磁石に代えて永久磁石の使用も可能となり、該使用により電磁石のようなエネルギーコストの零にして製造コスト削減により大きく貢献できる。
【0069】
また、製造後の圧電体セラミックデバイスの圧電特性を確認したところ、その圧電特性は1.35であり、SCNN粒子を使用したグリーンシートGSを用いて同様に作製された焼成デバイス本体の圧電特性(1.0)よりも格段向上していた(図9(B)を参照)。
【0070】
因みに、ここでの圧電特性は、電圧により誘起される圧電体の歪みを意味し、一般的には1Vの電圧を印加したときに発生する歪み量(単位はpm/V)で表記されるが、図9(B)にあっては圧電特性を比率によって示してある。
【0071】
要するに、前掲の圧電体セラミックデバイスの製造方法によれば、前記《圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法》の〈効果〉に例示したセラミック粒子集合体AScp(SCNN粒子を用いて製造されたもの)をグリーンシート作製工程、特にその準備ステップで用いることによって、従前よりも圧電特性が向上した圧電体セラミックデバイスを製造できる。
【0072】
前述の〈効果〉では、SCNN粒子から成るセラミック粒子集合体AScpをグリーンシート作製工程、特にその準備ステップで用いた場合を例として製造方法によって得られる効果を説明したが、前記《圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法》の〈準備ステップ〉に記載したSCNN以外のタングステンブロンズ型化合物の粒子、ビスマス層状化合物の粒子、または、ペロブスカイト型化合物の粒子をセラミック粒子CPから成るセラミック粒子集合体AScpをグリーンシート作製工程、特にその準備ステップで用いた場合でも、前記の準備ステップ(S21a)、塗工ステップ(P21b)、配向ステップ(P21c)及び固定ステップ(P21d)を含むグリーンシート作製工程(P21)を実施することによって、従前よりも低強度の磁場で圧電体セラミックデバイスを製造できる。
【符号の説明】
【0073】
SL1…セラミック粒子集合体製造用のスラリー、CP…セラミック粒子、AScp…セラミック粒子集合体、SL2…グリーンシート作製用のスラリー、GS…グリーンシート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粒子を多数含むセラミック粒子集合体製造用のスラリーを用意する準備ステップと、
前記準備ステップで用意されたスラリー中のセラミック粒子に分散力を付与することによって各セラミック粒子をばらばらに散らばらせる分散ステップと、
前記分散ステップ後のスラリー中のセラミック粒子に磁場を印加することによって各セラミック粒子の結晶方位を揃える配向ステップと、
前記配向ステップ後のスラリー中のセラミック粒子に凝集力を付与することによって結晶方位が揃っている複数のセラミック粒子が凝集したセラミック粒子集合体を作製する凝集ステップと、
前記凝集ステップ後のスラリーから前記セラミック粒子集合体を取り出す取出ステップとを備える、
ことを特徴とする圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法。
【請求項2】
前記分散ステップと前記配向ステップと前記凝集ステップを、前記スラリーがチューブ内を流動する過程で行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法。
【請求項3】
前記分散ステップが、前記スラリー中のセラミック粒子に超音波の付与することによって行われる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法。
【請求項4】
前記分散ステップが、前記スラリーの流速を増加させることによって行われる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法。
【請求項5】
前記凝集ステップが、前記準備ステップで用意されたスラリーに予め紫外線硬化剤を添加しておくと共に該スラリー中のセラミック粒子に紫外線を照射することによって行われる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法。
【請求項6】
前記凝集ステップが、前記スラリーの流速を減少させることによって行われる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の圧電体セラミックデバイス用のセラミック粒子集合体の製造方法。
【請求項7】
スラリーからグリーンシートを作製する工程を備えた圧電セラミックデバイスの製造方法であって、
前記グリーンシート作製工程が、
請求項1〜6の何れかによって製造されたセラミック粒子集合体を多数含むスラリーを用意する準備ステップと、
前記スラリーをベースフィルム上に塗工して所定厚さのシート状物を形成する塗工ステップと、
前記シート状物に磁場を印加することによって該シート状物内のセラミック粒子集合体それぞれを配向させる配向ステップと、
前記配向ステップ後のシート状物に硬化処理を施すことによって該シート状物内のセラミック粒子集合体の配向を固定する固定ステップとを備える、
ことを特徴とする圧電セラミックデバイスの製造方法。
【請求項8】
前記固定ステップが、前記配向ステップ後のシート状物を加熱することによって行われる、
ことを特徴とする請求項7に記載の圧電セラミックデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−95627(P2013−95627A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239202(P2011−239202)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】