説明

圧電基板の成膜治具、圧電基板、圧電基板の成膜方法

【課題】成膜手段による温度上昇に伴う、水晶基板の変形、反りを防止し、正確な成膜パ
ターンを形成することができる水晶基板の成膜方法を提供する。
【解決手段】水晶基板60の成膜治具は、略中央に案内孔61が開設される水晶基板60
の表裏の主面に配設される下マスク40と上マスク70と、水晶基板60の外周を間隙を
有して取り囲む中板50と、水晶基板60及び下マスク40と上マスク70とを挟み込む
上枠80及び下枠20と、基台10とを備え、下枠20に突設される案内軸23に、水晶
基板60の案内孔61、下マスク40の案内孔41、上マスク70の案内孔71を挿通し
て組立てる。中板50と水晶基板60の外周とは間隙を有しており、成膜工程の熱膨張に
伴う水晶基板60の変形、反りを低減し、正確な成膜パターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板の成膜治具と、この成膜治具を用いて成膜される圧電基板と、圧電
基板の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶基板等の圧電基板における金属成膜は、成膜用マスクを用いて蒸着法またはスパッ
タリング法等の成膜手段により行われている。このような成膜手段においては、蒸着源か
らの放射熱、スパッタ粒子の衝突による熱の発生によって、圧電基板及び成膜用マスクが
加熱され、温度が上昇する。このため、熱膨張が生じるが、圧電基板と成膜用マスクとの
熱膨張率が異なるため変形し、圧電基板と成膜用マスクとの間に隙間やずれが発生して、
正確な成膜パターンができないという課題があった。
【0003】
そこで、成膜用マスクに圧電基板と同じ材料を用いて、熱膨張率を同じにすることで、
圧電基板と成膜用マスクとの間に隙間やずれの発生を低減するという成膜治具及び成膜方
法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、圧電基板(ウエハ)の外周を保持する第2ホルダーと、成膜用マスクと圧電基板
とを厚さ方向に所定寸法離間する離間手段と、離間手段の上面に成膜マスクを配設し、こ
の成膜マスクを上面から保持する第1ホルダーからなる成膜治具を用いて、圧電基板の表
面に金属成膜を行う成膜方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−254174号公報(第3頁、図3)
【特許文献2】特開平10−204615号公報(第3頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1によれば、成膜用マスクを水晶基板(水晶ウエハ)と同じ水晶にて
形成しているために、成膜用マスクと水晶基板との熱膨張率が同じとなることから、成膜
手段に係る熱膨張が一致するために、圧電基板と成膜用マスクとの間に隙間やずれが発生
することを低減している。しかしながら、成膜用マスクは薄く、水晶は脆性を有する材料
であるから、割れやすく取り扱いにくいという課題を有している。
【0007】
また、上述した特許文献2によれば、圧電基板は、第2ホルダーによって外周が位置決
め保持されている。また、圧電基板と第2ホルダーと材料が異なり、熱膨張率が異なる。
従って、成膜手段による加熱によって圧電基板が膨張し、外周を保持している第2ホルダ
ーに当接して、圧電基板に反りが発生することが考えられる。また、同様に成膜用マスク
と圧電基板との熱膨張率が異なることから、圧電基板と成膜用マスクとのアライメントず
れが発生することが予測される。
【0008】
さらに、離間部材を用いているために、成膜治具の構成部品が増加する。さらに、圧電
基板と金属成膜用マスクとの間に離間部材の分だけ隙間ができるため、成膜パターンのに
じみ(「ぼけ」ということもある)が発生することが考えられる。
【0009】
本発明の目的は、前述した課題を解決することを要旨とし、成膜手段における温度上昇
に伴う熱膨張による圧電基板の変形を防止し、正確な成膜パターンを形成することができ
る圧電基板の成膜治具、圧電基板と、この圧電基板の成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧電基板の成膜治具は、圧電基板の表面に成膜手段を用いて金属膜を形成する
ための成膜治具であって、略中央に案内孔が開設される圧電基板の主面に配設される成膜
用マスクと、前記圧電基板の外周を間隙を有して取り囲む中板と、前記圧電基板及び前記
成膜用マスクを挟み込む上枠部材及び下枠部材と、前記案内孔に挿通して前記圧電基板と
成膜用マスクとの位置決めをする案内軸と、を備えることを特徴とする。
ここで、成膜手段としては、例えば、蒸着法あるいはスパッタリング法とを採用する。
【0011】
この発明によれば、圧電基板の略中央に開設する案内孔に案内軸を挿通して圧電基板の
位置決めをしているため、蒸着法あるいはスパッタリング法による金属成膜時に、圧電基
板が加熱されて熱膨張が生じても、外周部が固定されていないので圧電基板の反り等の変
形が発生せず、成膜用マスクとの平面方向、断面方向の位置ずれが発生しないので、正確
でクリアな成膜パターンを形成することができる。
【0012】
また、案内軸によって、圧電基板と成膜用マスクとの位置決めを行っているので、相互
の位置を正確に規制することができる。
【0013】
また、前記案内軸が、前記上枠部材または前記下枠部材の少なくとも一方に突設されて
おり、前記成膜用マスクの略中央に前記圧電基板の案内孔に対向する案内孔が開設され、
前記案内軸を前記圧電基板の案内孔と前記成膜用マスクの案内孔とを挿通して、前記圧電
基板と前記成膜用マスクの位置決めをすることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、圧電基板及び成膜用マスクを挟み込む上枠部材または下枠部材に案
内軸を突設し、この案内軸が、圧電基板及び成膜用マスクそれぞれの案内孔を挿通して位
置決めをするために、圧電基板と成膜用マスクとの位置決めを正確に行うことができる。
【0015】
さらに、上枠部材または下枠部材に案内軸を設けており、圧電基板と成膜用マスクには
案内孔を設けておけばよいので、枠部材は繰り返し使用可能な部材であるため簡単な構造
で、ランニングコストが低い成膜治具を提供することができるという効果がある。
【0016】
また、前記案内軸が、前記成膜用マスクの略中央に突設されており、前記成膜用マスク
に突設される案内軸を前記圧電基板の案内孔に挿通して、前記圧電基板と前記成膜用マス
クとの位置決めをすることが好ましい。
【0017】
成膜用マスクに案内軸を設け、圧電基板をこの案内軸にて直接位置決めするため、圧電
基板と成膜用マスクとのより一層正確な位置決めを行うことができる。
【0018】
また、本発明では、前記圧電基板と前記成膜用マスクと前記上枠部材と前記下枠部材と
を積層して保持する基台をさらに備え、前記案内軸が前記基台に突設されており、前記案
内軸を前記成膜用マスクに開設される案内孔と前記圧電基板に開設される案内孔と前記基
台側に配設される前記下枠部材に開設される案内孔と、を挿通して、前記圧電基板と前記
成膜用マスクとの位置決めをすることが好ましい。
【0019】
基台をさらに備え、この基台に突設される案内軸を、圧電基板と成膜用マスクと枠部材
とのそれぞれに設けられる案内孔に挿通して案内するために、圧電基板と成膜用マスクと
枠部材との位置決めを正確に行うことができる。
【0020】
また、前記圧電基板の外周と前記中板との間隙が、前記圧電基板が成膜工程において熱
膨張しても、前記圧電基板が前記中板と当接しない程度の大きさに設定されていることが
好ましい。
【0021】
このようにすれば、圧電基板の外周と前記中板との間に十分な間隙を有しているので、
蒸着法あるいはスパッタリング法による金属成膜時に、圧電基板が加熱されて熱膨張が生
じても圧電基板の反りが発生せず、成膜用マスクとの平面方向、断面方向の位置ずれが生
じないので、正確でクリアな成膜パターンを形成することができる。
【0022】
また、前記案内軸の断面形状と、前記圧電基板または前記成膜用マスクまたは前記上枠
部材または前記下枠部材に開設される案内孔の形状と、が略同じ形状を有し、且つ、それ
ぞれが回転を規制する形状を有していることが望ましい。
ここで、回転を規制する形状としては、例えば、四角形、三角形、外周に直線の辺を有
する円形等を含む。
【0023】
このようにすれば、圧電基板、成膜用マスク、上枠部材または下枠部材とを略中心にお
いて位置決めを行う他、それぞれの回転を規制するため、前述した中板による外周位置決
め構造は不要である。従って、簡単な構造で、正確な位置決めを行うことができる。
【0024】
また、本発明の圧電基板は、圧電振動片が複数個形成されている圧電基板であって、前
記圧電基板が、該圧電基板の主面に配設される成膜用マスクとの位置決め用の案内孔を有
し、前記案内孔が前記圧電基板の略中央に開設されていることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、圧電基板の略中央に成膜用マスクとの位置決め用の案内孔を設ける
ことにより、圧電基板と成膜用マスクとの正確な位置決めを可能にする。また、詳しくは
後述する実施の形態で説明するが、圧電基板と成膜用マスクとを密接させるために上枠部
材及び下枠部材に押桟を備えており、この押桟領域内に案内孔を設けることにより、圧電
基板に案内孔を設けても圧電振動片の形成数を減らすことなく、生産効率を低下させない

【0026】
また、本発明の圧電基板の成膜方法は、略中央に案内孔が開設される圧電基板の主面に
配設される成膜用マスクと、前記圧電基板の外周を間隙を有して取り囲む中板と、前記圧
電基板及び前記成膜用マスクを挟み込む上枠部材及び下枠部材と、前記案内孔に挿通して
前記圧電基板と成膜用マスクとの位置決めをする案内軸と、を備える圧電基板の成膜治具
を用いて、蒸着法またはスパッタリング法により、前記圧電基板の表面に成膜することを
特徴とする。
【0027】
この発明によれば、加熱を伴う蒸着法やスパッタリング法等の成膜手段を採用しても、
圧電基板と成膜用マスクとの位置ずれや、反り等の変形を低減することができ、正確でク
リアな成膜パターンを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図3は本発明の実施形態1に係る圧電基板、圧電基板の成膜治具を示し、図4は
実施形態2、図5は実施形態3、図6は実施形態4を示している。なお、実施形態1〜実
施形態4は、圧電基板の表裏の主面の両面方向から成膜する例について説明する。
(実施形態1)
【0029】
図1は、実施形態1に係る水晶基板の成膜治具の構成を模式的に示す分解斜視図、図2
は成膜治具を組立てた状態を示す平面図、図3は断面図である。図1〜図3において、本
実施形態の圧電基板の成膜治具は、基台10の上面に、順次下枠部材(以降、単に下枠と
表す)20、下部の成膜用マスク(以降、単に下マスクと表す)40、中板50、中板5
0に形成される空間52内に圧電基板としての水晶基板(水晶ウエハと表すことがある)
60が装着され、さらに上部の成膜マスク(以降、単に上マスクと表す)70、上枠部材
(以降、単に上枠と表す)80が積層して配設され、固定螺子95によって基台10に挟
着して構成されている。
【0030】
基台10は、四角形の枠状部材であって、縁部17の隅部には螺子孔13〜16が螺設
されている。また、縁部17の対向する辺の中央部には、案内軸11,12が突設されて
いる。縁部17に囲まれた空間18は、水晶基板60に蒸着法またはスパッタリング法に
より金属膜を成膜する際の開口部である。このように形成された基台10の上面に下枠2
0が装着される。
【0031】
下枠20は、基台10とほぼ同じ外形形状の枠状部材であって、縁部21と、縁部21
の対向する辺の中央を連結する押桟22とから形成されている。この押桟22の長手方向
略中央部、つまり下枠20の略中央部には案内軸23が突設されている。案内軸23は、
断面形状が四角形の柱状をしている。
【0032】
縁部21の隅部には螺子挿通孔27〜30が開設されている。また、縁部21の押桟2
2を挟んで対向する辺には、案内軸挿通孔25,26が開設されている。螺子挿通孔27
〜30はそれぞれ、基台10に螺設されている螺子孔13〜16の位置に対向して設けら
れている。下枠20は押桟22によって2分割され、空間24が形成されている。この空
間24は、金属膜を成膜する際の開口部である。
【0033】
下枠20は、案内軸挿通孔25,26を基台10に突設されている案内軸11,12に
挿通して基台10に装着される。そして、下枠20の上面に下マスク40が配設される。
【0034】
下マスク40は、ステンレス鋼(例えば、SUS430等)からなる四角形の薄板であ
り、隅部には螺子挿通孔44〜47が開設されている。また、対向する辺の中央部には、
案内軸挿通孔42,43が開設されている。さらに、図示はしないが、この下マスク40
には、水晶基板60の一方の主面(図中、下方)または側面に成膜用の開口部が複数個形
成されている。
なお、成膜用の開口部は、螺子挿通孔44〜47、案内軸挿通孔42,43及び押桟2
2と交差しない領域に形成されている。
【0035】
さらに、下マスク40の中央部には、下枠20に突設されている案内軸23が挿通され
る四角形の案内孔41が開設されている。案内軸23に案内孔41を挿通したときに、案
内軸挿通孔42,43は、基台10に突設されている案内軸11,12に挿通され、螺子
挿通孔44〜47はそれぞれ、螺子孔13〜16の位置に対向している。下マスク40の
上面には、中板50が配設される。
【0036】
中板50は、外形形状が基台10とほぼ同形状の枠状部材であって、縁部51の隅部に
は、螺子挿通孔55〜58が開設されている。また、対向する辺の中央部には、案内軸挿
通孔53,54が開設されている。縁部51にて囲まれる空間52は、水晶基板60が配
設される空間である。中板50は、基台10に突設される案内軸11,12に案内軸挿通
孔53,54を挿通して装着される。この際、螺子挿通孔55〜58は基台10に開設さ
れている螺子孔13〜16の位置に対向している。中板50の空間52内に水晶基板60
が配設する。
【0037】
水晶基板60は、平面がX軸、Y軸、厚さ方向がZ軸を有する四角形の基板であって、
中央部に下枠20に突設される案内軸23に挿通する四角形の案内孔61が開設されてい
る。水晶基板60は、案内孔61を案内軸23に挿通し、空間52内に装着した際に、外
周が中板50の縁部51に接触しないように設定されている。そして、中板50及び水晶
基板60の上面に、上マスク70を配設する。
【0038】
上マスク70は、ステンレス鋼(例えば、SUS430等)からなる四角形の薄板であ
り、隅部には螺子挿通孔74〜77が開設されている。また、対向する辺の中央部には、
案内軸挿通孔72,73が開設されている。さらに、図示はしないが、この上マスク70
には、水晶基板60の他方の主面(図中、上方)または側面に成膜するための開口部が複
数個形成されている。
なお、成膜用の開口部は、螺子挿通孔74〜77、案内軸挿通孔72,73及び後述す
る上枠80の押桟82と交差しない領域に形成されている。
【0039】
さらに、上マスク70の中央部には、下枠20に突設されている案内軸23が挿通され
る四角形の案内孔71が開設されている。案内軸23に案内孔71を挿着したときに、案
内軸挿通孔72,73は、基台10に突設されている案内軸11,12に挿通され、螺子
挿通孔74〜77はそれぞれ、螺子孔13〜16の位置に対向している。上マスク70の
上面には、上枠80が配設される。
【0040】
上枠80は、下枠20とほぼ同じ形状の枠状部材であって、縁部81と、縁部81の対
向する辺の中央を連結する押桟82とから形成されている。この押桟82の長手方向中央
部、つまり上枠80の中央部には案内軸23に挿通する四角形の案内孔83が開設されて
いる。
【0041】
縁部81の隅部には螺子挿通孔87〜90が開設されている。また、縁部81の押桟8
2を挟んで対向する辺には、案内軸挿通孔85,86が開設されている。螺子挿通孔87
〜90はそれぞれ、基台10に螺設されている螺子孔13〜16の位置に対向して設けら
れている。上枠80は押桟82によって2分割され、空間84が形成されている。この空
間84は、金属膜を成膜する際の開口部である。
【0042】
なお、上述した本実施形態では、下枠20に設けられる案内軸の断面形状と、下マスク
40の案内孔41、水晶基板60の案内孔61、上マスク70の案内孔71、上枠80の
案内孔83の平面形状と、を四角形としているが、四角形に限らず、案内軸23に対して
回転を防止できる形状であれば限定されない。例えば、三角形や、円の一部に直線の辺を
形成した形状や、長径と短径の比が大きい楕円形でもよい。
【0043】
続いて、図2を参照して、水晶基板60と中板50との関係について説明を加える。前
述したように、中板50の空間52内に水晶基板60が案内軸23に挿通された状態で配
設されている。この状態では、空間52の内側面と水晶基板60の外周部とは全周にわた
って間隙を有している。この間隙は、後述する成膜手段により、水晶基板60が加熱され
て膨張しても空間52の内側面と水晶基板60の外周部が接触しない程度の大きさに設定
されている。
【0044】
次に、図3を参照して、本実施形態の成膜治具の断面関係について詳しく説明する。
図3は、図2のA−A切断面を示す断面図である。基台10に突設された案内軸11,
12は、下枠20、下マスク40、中板50、上マスク70、上枠80を貫通している。
【0045】
また、下枠20に突設している案内軸23は、下マスク40、水晶基板60、上マスク
70、上枠80を貫通している。なお、案内軸23は、上枠80の押桟82の下面に当接
する高さとしてもよい。
【0046】
このようにして、少なくとも、下マスク40、水晶基板60、上マスク70は、下枠2
0に突設されている案内軸23によって、平面方向の位置が規制される。また、基台10
に突設される案内軸11,12に挿通される下枠20、下マスク40、中板50、上マス
ク70、上枠80それぞれの案内軸挿入孔は、遊嵌の関係に設定されており、それぞれの
位置関係の規制は、案内軸23と案内孔41,61,71,83との位置規制が優先され
る(図1,参照)。
【0047】
また、上述した案内軸23は下枠20の押桟22に突設されているが、上枠80の押桟
82から下枠20を貫通するように突設する構造としてもよい。
また、中板50の厚さは、水晶基板60の厚さと同じか、僅かに厚く設定し、上枠80
によって、水晶基板60を上マスク70と共に圧接しないようにしている。
【0048】
また、基台10の上面に順次、下枠20、下マスク40、中板50、水晶基板60、上
マスク70、上枠80を積層挿着した後、これらを固定螺子によって、基台10に螺合固
定する。従って、下枠20、下マスク40、中板50、上マスク70、上枠80それぞれ
に設けられる螺子挿通孔は、固定螺子95の螺子部に対して遊嵌の関係に設定される。
【0049】
なお、押桟22と押桟82とは、案内軸23に対する案内孔41、71を開設するため
と、水晶基板60に下マスク40と上マスク70とを密接させるために設けられている。
【0050】
続いて、本実施形態による水晶基板の成膜方法について説明する。図1〜図3を参照し
て説明する。
まず、水晶振動片を複数個形成した水晶基板60を成膜治具に装着する。そして、図示
しない蒸着装置またはスパッタリング装置内に収容し、蒸着法またはスパッタリング法に
より水晶基板60の表面に金属膜を成膜し、所定の成膜パターンを形成する。この際、水
晶基板60の表裏の主面には下マスク40及び上マスク70とが配設されているので、主
面両面から成膜することを可能にしている。
【0051】
成膜工程において、蒸着法では、蒸着源からの放射熱、スパッタリング法ではスパッタ
粒子の衝突による熱が発生し、下マスク40、上マスク70及び水晶基板60も加熱され
る。そして、下マスク40、上マスク70及び水晶基板60の温度が上昇する。この際発
生する熱は350℃程度である。このため、下マスク40、上マスク70及び水晶基板6
0は熱膨張する。
【0052】
ここで、本実施形態で例示する水晶基板60の熱膨張率はX軸方向において14.7p
pm/℃、Z軸方向において7.89ppm/℃であり、下マスク40と上マスク70は
10.4ppm/℃(SUS430の場合)である。従って、熱膨張率の差から熱膨張の
大きさが異なり、従来の水晶基板の外周部にて位置決めする構造では、水晶基板の膨張に
より反りの発生、マスクとの位置ずれの発生がある。
【0053】
しかしながら、本実施形態では、水晶基板60及び下マスク40と上マスク70とは、
中心部の案内軸23により位置決めされている。また、水晶基板60と中板50との間に
は、水晶基板60が熱膨張しても接触しない間隙を有していることから、成膜工程による
反りの発生を著しく低減することができるのである。
【0054】
なお、前述した本実施形態では、圧電基板として水晶基板を例示して説明したが、水晶
基板に限らず、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3
等の圧電材料に対しても採用することができる。
【0055】
従って、前述した実施形態1によれば、水晶基板60に開設する案内孔61に案内軸2
3を挿通して水晶基板60の位置決めをしているため、蒸着法あるいはスパッタリング法
による成膜時に、水晶基板60が加熱されて熱膨張が生じても、外周部が固定されていな
いので反り等の変形が発生せず、下マスク40及び上マスク70との平面方向、断面方向
の位置ずれが発生しないので、正確で、にじみ(ぼけともいう)のないクリアな成膜パタ
ーンを形成することができる。
【0056】
また、下枠20に案内軸23を突設し、この案内軸23が、水晶基板60及び下マスク
40、上マスク70、上枠80それぞれの案内孔を挿通して位置決めをするために、これ
らの相互の位置決めを正確に行うことができる。
【0057】
また、基台10の上面に下枠20を装着し、その上面に下枠20に突設されている案内
軸23及び基台10に突出されている案内軸11,12を組立用の案内軸として、順次、
下マスク40、中板50、水晶基板60、上マスク70、上枠80を組立てる構造である
ため、構造が簡単で組立て易く、生産効率を高めることができる。
【0058】
また、案内軸23の断面形状と、水晶基板60、下マスク40と上マスク70それぞれ
の案内孔61,41,71とが四角形であり、それぞれの回転を規制するため、簡単な構
造で、正確な位置決めを可能にしている。
【0059】
さらに、水晶基板60に設けられる位置決め用の案内孔61は、水晶振動片(図示せず
)をフォトリソグラフィ技術を用いて形成する際に、同時に形成することができ、特別な
工程を必要としない。また、この案内孔61は、下枠20の押桟22及び上枠80の押桟
82の位置に設けられているために、案内孔61を設けても水晶振動片の形成数を減らす
ことなく、生産効率を低下させない。
(実施形態2)
【0060】
続いて、本発明の実施形態2について図面を参照して説明する。実施形態2は、水晶基
板を位置決めする案内軸を成膜用マスクに設けたところに特徴を有しており、基本構成は
、前述した実施形態1と同じであるため相違個所を中心に説明する。なお、同じ機能部品
には実施形態1と同じ符号を付して説明する。図1も参照する。
図4は、実施形態2に係る水晶基板の成膜治具を模式的に示す断面図である。図4にお
いて、下マスク40の略中央には、水晶基板60及び上マスク70を貫通する案内軸48
が突設されている。
【0061】
案内軸48は、断面形状が四角形であり、厚板の下マスク素板をハーフエッチングや、
薄板の下マスク素板を金型を用いるエンボス加工等により形成することができる。そして
、本実施形態では、案内軸48は、上枠80の押桟82の下面に当接する位置まで延在さ
れる。
従って、水晶基板60、上マスク70には、案内軸48と同形状の案内孔61,71と
が開設されている(図1、参照)。
【0062】
本実施形態による成膜治具は、基台10に装着された下枠20の上面に下マスク40を
装着した後、案内軸48に水晶基板60の案内孔61、上マスク70の案内孔71を挿通
し、上枠80を装着した後、固定螺子95によって螺着して構成される。
【0063】
なお、上マスク70に案内軸を設ける構造とすることも可能であり、この場合、水晶基
板60、下マスク40とに上述の案内軸と同形状の案内孔を設ける。
【0064】
従って、上述した実施形態2によれば、下マスク40に案内軸48を設け、水晶基板6
0と上マスク70とをこの案内軸48にて直接位置決めするため、水晶基板60と下マス
ク40と上マスク70とのより一層正確な位置決めを行うことができる。
(実施形態3)
【0065】
次に、本発明に係る実施形態3について図面を参照して説明する。実施形態3は、前述
した実施形態2に対して水晶基板を位置決めする案内軸を上マスク及び下マスクに設けた
ところに特徴を有しており、基本構成は、前述した実施形態1と同じであるため相違個所
を中心に説明する。なお、同じ機能部品には実施形態1と同じ符号を付して説明する。図
1、図4も参照する。
図5は、実施形態3に係る水晶基板の成膜治具を模式的に示す断面図である。図5にお
いて、下マスク40、上マスク70の略中央には、それぞれが対向するように水晶基板6
0を位置決めする案内軸48,79が突設されている。
【0066】
案内軸48と案内軸79とは、共に断面形状が四角形であり、水晶基板60の断面方向
の略中央において当接する高さを有して形成される。これら案内軸48,79は、厚板の
下マスク及び上マスクの素板をハーフエッチングや、薄板の素板を金型を用いるエンボス
加工等により形成することができる。
【0067】
本実施形態による成膜治具は、基台10に装着された下枠20の上面に下マスク40を
装着した後、案内軸48に水晶基板60の案内孔61を挿通し、案内孔61に上マスク7
0の案内軸79を挿通し、上枠80を装着した後、固定螺子95によって螺着して構成さ
れる。
【0068】
従って、上述した実施形態3によれば、水晶基板60は、下マスク40の案内軸48で
位置決めされるとともに、水晶基板60の案内孔61によって上マスク70を位置決めす
ることから、水晶基板60と下マスク40と上マスク70とのより一層正確な位置決めを
行うことができる。
【0069】
また、この構造によれば、下マスク40の案内軸48と上マスク70の案内軸79の高
さは、水晶基板60の1/2以下でよいので、前述した実施形態2よりも案内軸48,7
9の形成が容易になるという効果がある。
(実施形態4)
【0070】
続いて、本発明の実施形態4について図面を参照して説明する。実施形態4は、前述し
た実施形態1〜3に対して水晶基板を位置決めする案内軸を基台10に設けたところに特
徴を有しており、基本構成は、前述した実施形態1と同じであるため相違個所を中心に説
明する。なお、同じ機能部品には実施形態1と同じ符号を付して説明する。図1も参照す
る。
図6は、実施形態4に係る水晶基板の成膜治具を模式的に示す断面図である。図6にお
いて、基台10には中央部を横断して縁部17に連続する桟19が設けられている。この
桟19は、前述した実施形態1(図1、参照)に記載した下枠20の押桟22と平面形状
を同じにしている。
【0071】
この桟19の略中央には、断面形状が四角形の案内軸19aが突設されている。案内軸
19aは、下枠20、下マスク40、水晶基板60、上マスク70、上枠80を貫通する
。従って、下枠20、下マスク40、水晶基板60、上マスク70、上枠80それぞれに
は、案内軸19aと同形状の案内孔が開設されている(平面図は省略)。
【0072】
本実施形態による成膜治具は、基台10に突設された案内軸19aに、順次、下枠20
、下マスク40、水晶基板60、上マスク70、上枠80を挿着した後、固定螺子95に
よって螺着して構成される。
なお、案内軸19aは、上枠80の押桟82を貫通せず、押桟82の下面に当接するよ
うに設定してもよい。
【0073】
従って、上述した実施形態4によれば、基台10に突設される1本の案内軸19aによ
って、下枠20、下マスク40、水晶基板60、上マスク70、上枠80を位置決めする
ために、より正確な成膜パターンを形成することができる。
【0074】
また、基台10は、厚さに格別な制限を加える必要がないことから、案内軸19aの形
成方法も様々な工法を用いて形成することができるという利便性がある。
【0075】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる
範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前述の実施形態1〜実施形態4では、水晶基板60の表裏の主面に成膜用マス
クを配設する構造を例示しているが、成膜用マスクは主面の一方に設ける構造にも応用で
きる。
【0076】
仮に、水晶基板60の表面側主面(図中、上方の面)側から成膜する場合には、実施形
態1〜実施形態4にて説明した構成から下マスク40を無くすことで可能となる。
【0077】
さらに、前述した実施形態1〜実施形態4では、最下層に基台10を備えているが、基
台10は必ずしもなくてもよい。この場合、下枠20を基台と同様に用いることで成立す
る。例えば、下枠20の隅部に螺子孔を螺設し、案内軸11,12の相当する案内軸を突
設する構造にすることができる。つまり、上枠80と下枠20とにより、下マスク40、
中板50、水晶基板60、上マスク70とを挟着する構造である。
【0078】
また、案内軸11,12に相当する案内軸を別体の治具に設け、固定螺子95で螺着し
たのち、別体の治具から取り外す構造としてもよい。
【0079】
従って、前述の実施形態1〜実施形態4では、蒸着法またはスパッタリング法等の成膜
手段による温度上昇に伴う熱膨張による水晶基板の変形、反りを防止し、正確な成膜パタ
ーンを形成することができる水晶基板と、成膜治具と、成膜方法を提供することができる

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施形態1に係る水晶基板の成膜治具の構成を模式的に示す分解斜視図。
【図2】本発明の実施形態1に係る水晶基板の成膜治具を組立てた状態を示す平面図。
【図3】図2のA−A切断面を示す断面図。
【図4】本発明の実施形態2に係る水晶基板の成膜治具を模式的に示す断面図。
【図5】本発明の実施形態3に係る水晶基板の成膜治具を模式的に示す断面図。
【図6】本発明の実施形態4に係る水晶基板の成膜治具を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
【0081】
10…基台、20…下枠、23…案内軸、40…下マスク、41…下マスクの案内孔、
50…中板、60…圧電基板としての水晶基板、61…水晶基板の案内孔、70…上マス
ク、71…上マスクの案内孔、80…上枠、83…上枠の案内孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の表面に成膜手段を用いて金属膜を形成するための成膜治具であって、
略中央に案内孔が開設される圧電基板の主面に配設される成膜用マスクと、
前記圧電基板の外周を間隙を有して取り囲む中板と、
前記圧電基板及び前記成膜用マスクを挟み込む上枠部材及び下枠部材と、
前記案内孔に挿通して前記圧電基板と成膜用マスクとの位置決めをする案内軸と、
を備えることを特徴とする圧電基板の成膜治具。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電基板の成膜治具において、
前記案内軸が、前記上枠部材または前記下枠部材の少なくとも一方に突設されており、
前記成膜用マスクの略中央に前記圧電基板の案内孔に対向する案内孔が開設され、
前記案内軸を前記圧電基板の案内孔と前記成膜用マスクの案内孔とを挿通して、前記圧
電基板と前記成膜用マスクの位置決めをすることを特徴とする圧電基板の成膜治具。
【請求項3】
請求項1に記載の圧電基板の成膜治具において、
前記案内軸が、前記成膜用マスクの略中央に突設されており、
前記成膜用マスクに突設される案内軸を前記圧電基板の案内孔に挿通して、前記圧電基
板と前記成膜用マスクとの位置決めをすることを特徴とする圧電基板の成膜治具。
【請求項4】
請求項1に記載の圧電基板の成膜治具において、
前記圧電基板と前記成膜用マスクと前記上枠部材と前記下枠部材とを積層して保持する
基台をさらに備え、
前記案内軸が前記基台に突設されており、
前記案内軸を前記成膜用マスクに開設される案内孔と前記圧電基板に開設される案内孔
と前記基台側に配設される前記下枠部材に開設される案内孔と、を挿通して、前記圧電基
板と前記成膜用マスクとの位置決めをすることを特徴とする圧電基板の成膜治具。
【請求項5】
請求項1に記載の圧電基板の成膜治具において、
前記圧電基板の外周と前記中板との間隙が、前記圧電基板が成膜工程において熱膨張し
ても、前記圧電基板が前記中板と当接しない程度の大きさに設定されていることを特徴と
する圧電基板の成膜治具。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の圧電基板の成膜治具において、
前記案内軸の断面形状と、前記圧電基板または前記成膜用マスクまたは前記上枠部材ま
たは前記下枠部材に開設される案内孔の形状と、が略同じ形状を有し、且つ、それぞれが
回転を規制する形状を有していることを特徴とする圧電基板の成膜治具。
【請求項7】
圧電振動片が複数個形成されている圧電基板であって、
前記圧電基板が、該圧電基板の主面に配設される成膜用マスクとの位置決め用の案内孔
を有し、
前記案内孔が前記圧電基板の略中央に開設されていることを特徴とする圧電基板。
【請求項8】
略中央に案内孔が開設される圧電基板の主面に配設される成膜用マスクと、前記圧電基
板の外周を間隙を有して取り囲む中板と、前記圧電基板及び前記成膜用マスクを挟み込む
上枠部材及び下枠部材と、前記案内孔に挿通して前記圧電基板と成膜用マスクとの位置決
めをする案内軸と、を備える圧電基板の成膜治具用を用いて、
蒸着法またはスパッタリング法により、前記圧電基板の表面に成膜することを特徴とす
る圧電基板の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−277605(P2007−277605A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102911(P2006−102911)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】