説明

圧電振動素子、及び圧電振動子

【課題】小型でQ値が高く、インハーモニックオーバートン、高次輪郭振動等のスプリア
スの低減された圧電振動素子を得る。
【解決手段】厚み振動するエネルギー閉じ込め型圧電振動素子であって、振動領域を備え
た矩形の圧電振動基板5と、圧電振動基板の主面上の振動領域内に夫々形成された第1の
励振電極11a、11bと、を備える。圧電振動基板5は、少なくとも一方の主面の振動
領域内には、少なくとも外径側に位置する第1の平面部5aと、その内径側に位置し、且
つ厚さ方向外側へ突出した突部と、を有している。突部は、第1の平面部よりも厚さ方向
外側へ突出した略楕円形状の第2の平面部5bと、その内径側に位置し、且つ厚さ方向外
側へ突出した略楕円形状の第3の平面部5cと、を有している。第2及び第3の平面部の
外形は、夫々楕円形状の輪郭線の少なくとも一部であると共に、夫々の焦点間を結ぶ線分
の中点が、夫々前記振動領域の中心に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動素子、及び圧電振動子に関し、特に圧電基板の主面に複数段の略楕
円状の突出部を設け、これらに励振電極を形成した圧電振動素子と、この圧電振動素子を
パッケージに収容した圧電振動子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子は小型であること、経年変化が小さいこと、高精度な周波数が容易に得られ
ること等のため、産業用機器、民生用機器の基準周波数源として広く用いられている。近
年、表面実装型圧電振動子の更なる小型化、高性能化が要求されている。
特許文献1には、タンタル酸リチウムX板、ニオブ酸リチウムZ板を用いて、振動部分
と支持部分とが一体化され、振動部分の断面形状がベベル形状やコンベックス形状である
圧電振動子が開示されている。振動子長手方向断面をコンベックス形状にすると、長手方
向端部における相対変位の大きさは、長手方向断面が矩形状の場合に比べて約1/100
となる。
振動子断面形状がコンベックス形状をなす振動子は、振動子断面形状を階段形状にする
ことで近似的に置き換えることができる。階段の断面形状が斜面であれば、より近似度合
いは増す上、階段の段差部分での励振用電極の断線を防ぐことができると開示されている

特許文献2には、両主面の相対向する位置に凸部を設けた、所謂メサ型圧電基板を用い
た圧電振動子が開示されている。メサ型圧電基板に形成する励振電極は、凸部と、凸部を
取り巻く平面部の一部の領域まで広がっている。励振電極を拡大することにより、励振電
極を形成する際に多少電極ずれが生じても不具合とはならず、励振電極の凸部の段差部分
における強度が増した圧電振動子が得られると開示されている。
【0003】
特許文献3には、メサ型水晶振動子が開示されている。図13(a)は平面図、同図(
b)はP−Pにおける断面図、同図(c)はQ−Qにおける断面図、同図(d)、(e)
はそれぞれ長手方向、短手方向からみた振動変位分布を示す図である。水晶基板81の長
手方向(X軸方向)の外形輪郭は、その両端部が半楕円状に加工され、楕円の長径/短径
(長軸/短軸)の比を1.26とする。水晶基板81の両主面は、図13(a)、(b)
、(c)に示すように、中央部82が周縁部より厚さ方向に突出した所謂メサ型に加工さ
れ、且つ中央部82の長手方向の両端部の形状が水晶基板81の外周輪郭形状と同様に半
楕円状に加工されている。この楕円の長径/短径(長軸/短軸)の比も1.26である。
また、中央部82の両面に付着する電極82a、82bの形状は、中央部82と相似形
に形成される。このように構成した水晶振動素子の振動変位分布は、長手方向では図13
(d)の実線84、短手方向のそれは同図(e)に示す実線85に示すような分布となる
。水晶板81の長手方向断面が、矩形状の水晶振動素子の長手方向、及び短手方向夫々の
振動変位分布94、95は、図13(d)、(e)の破線のように分布する。これらを比
較してメサ型水晶振動素子の振動変位分布は、振動変位が中央部により集中することが分
かる。即ち、エネルギー閉じ込め度合いがより深くなり、振動エネルギーの一部が支持部
に漏洩したり、他の輪郭振動へ変換したりして損失される量が少なくなる。そのため、直
列共振抵抗R1が改善され(Q値が改善され)、不要モードも抑圧された水晶振動子が得
られると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−355094号公報
【特許文献2】特開2005−94410公報
【特許文献3】特開2007−158486公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1ではタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムについ記述され
ているが、水晶に関してコンベックス形状とその振動特性について述べられていない。ま
た、圧電基板の異方性を考慮した基板加工と、励振電極形状についても記述されていない

特許文献2に開示の水晶振動子は、メサ部より大きな励振電極を形成することが開示さ
れているが、メサ部が一段だけではエネルギー閉じ込めが不十分であり、要求を満たすよ
うな高いQ値(低いCI値)の水晶振動子が得られないという問題が起きる場合があった

また、特許文献3に開示の水晶振動子は、特許文献2に開示の水晶振動子よりもQ値は
大きくなるものの、最近要求されるQ値と、スプリアスとを満たすには、歩留まりがあま
りにも低いという問題があった。
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、小型化を図ると共にQ値を大きく
し、且つスプリアスを低減した圧電振動子を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本発明に係る圧電振動素子は、厚み振動をするエネルギー閉じ込め型圧電
振動素子であって、振動領域を備えた矩形の圧電振動基板と、前記圧電振動基板の表裏主
面上の振動領域内に夫々形成された第1の励振電極、及び第2の励振電極と、を備え、少
なくとも一方の主面の前記振動領域内には、少なくとも外径側に位置する第1の平面部と
、該第1の平面部の内径側に位置し且つ厚さ方向外側へ突出した突部と、を有し、前記突
部は、前記第1の平面部よりも厚さ方向外側へ突出した略楕円形状の第2の平面部と、前
記第2の平面部の内径側に位置し且つ厚さ方向外側へ突出した略楕円形状の第3の平面部
と、を有し、前記第2及び第3の平面部の外形は、夫々楕円形状の輪郭線の少なくとも一
部であると共に夫々の焦点間を結ぶ線分の中点が夫々前記振動領域の中心に位置している
ことを特徴とする圧電振動素子である。
【0008】
圧電振動基板に第1乃至第3の平面部を設け、第2及び第3の平面部の輪郭形状を略楕
円形状とし、両略楕円形状の夫々の焦点間を結ぶ線分の中点を、圧電振動基板の振動領域
の中心とほぼ一致させるように構成する。このため、振動変位分布が振動領域の中央部に
集中し、圧電振動基板の周縁では振動変位は極めて小さくなる。この結果、圧電振動素子
のQ値が高まると共に、圧電振動基板端部における高次輪郭振動への変換が、大幅に低減
されるという効果がある。
【0009】
[適用例2]また圧電振動素子は、前記圧電振動基板は、長手方向がX軸方向であるA
Tカット水晶基板であり、夫々楕円形状の前記第2及び第3の平面部の長径対短径の比が
夫々1.26対1.00の関係を満たすことを特徴とする適用例1に記載の圧電振動素子
である。
【0010】
圧電振動基板に水晶基板を用いる場合は、水晶結晶の弾性定数の異方性を考慮する必要
がある。弾性定数は切断角度に依存して変化し、ATカット水晶基板では、X方向とZ’
方向との伝搬定数が異なり、振動変位分布の断面形状は楕円形状となる。そのため、振動
変位分布に基づいて、長径と短径を少しずつ小さくした楕円形状を、積層したように圧電
振動基板を形成することにより、大きなQ値を有する圧電振動子を実現することができる
。ATカット水晶基板の場合、この楕円形状の長径対短径の比が1.26であり、この数
値を用いて圧電振動基板を構成すると圧電振動素子のQ値が大きくなり、輪郭系のスプリ
アスを低減することができるという効果がある。
【0011】
[適用例3]また圧電振動素子は、略楕円形状である前記第2の平面部の短径方向の対
向する2つの外形輪郭線は、夫々対応する位置にある前記圧電振動基板の長辺に沿って欠
落していることを特徴とする適用例1又は2に記載の圧電振動素子である。
【0012】
圧電振動基板の主面上から平面視した形状は、楕円形状の長径と短径を少しずつ小さく
した楕円形状を積層し、且つ夫々の焦点間を結ぶ線分の中点と、振動領域の中心と、が一
致するように構成することが望ましい。しかし、圧電振動基板の平面形状が、例えば1.
0mm×0.6mmと小さくなると、第2の平面部の輪郭形状を完全な楕円形状に形成す
ることは難しく、短径方向の対向する2つの外形輪郭線の一部が欠落することになる。こ
のように、外形輪郭線の一部が欠落した圧電振動基板を用いても、大きなQ値の圧電振動
素子を実現することができるという効果がある。
【0013】
[適用例4]また圧電振動素子は、略楕円形状である前記第3の平面部の短径方向の対
向する外形輪郭線は、夫々対応する位置にある前記圧電振動基板の長辺に沿って欠落して
いることを特徴とする適用例1乃至3の何れかに記載の圧電振動素子である。
【0014】
圧電振動基板の平面形状が更に小さくなると、第3の平面部の短径方向の対向する外形
輪郭線の一部が欠落することがある。このような圧電振動基板を用いて圧電振動素子を構
成すると、長手方向の断面形状が矩形状の圧電振動基板を用いて構成した圧電振動素子の
Q値に比べ、より大きなQ値を得ることができるという効果がある。
【0015】
[適用例5]また圧電振動素子は、前記第3の平面部の外形輪郭線の少なくとも一部は
楕円形状の一部であり、その2つの焦点間を結ぶ線分の中点は前記圧電振動基板の長手方
向の中心より偏心していることを特徴とする適用例1乃至4の何れかに記載の圧電振動素
子である。
【0016】
圧電振動基板の長手方向と直交する幅方向の中心線と、振動領域の長手方向と直交する
幅方向の中心線、つまり第3の平面部の外形輪郭線である略楕円形状の2つの焦点間を結
ぶ線分の中点を通る幅方向の中心線とは、偏心するように圧電振動基板を形成する。この
ように圧電振動基板を形成すると、支持部の影響を受けることなく、振動変位の分布は振
動領域の中心に対し対称となり、圧電振動素子のQ値を大きくするこができると共に、高
次輪郭モードを低減することが可能となるという効果がある。
【0017】
[適用例6]また圧電振動素子は、前記圧電振動基板は長手方向の少なくとも一端に支
持部が形成されており、前記支持部の厚さは前記第3の平面の厚さ以上であることを特徴
とする適用例1乃至5の何れかに記載の圧電振動素子である。
【0018】
圧電振動基板の長手方向の少なくとも一端に支持部を形成した圧電振動基板を用いて、
圧電振動素子を構成した場合、この圧電振動素子の支持部をパッケージの内底部に固定す
れば、圧電振動基板の振動領域に支持の影響が及ばないため、Q値の劣化を防ぐことがで
きるという効果がある。
【0019】
[適用例7]また圧電振動素子は、前記支持部の長手方向の奥行は前記第3の平面の厚
さに対して大きいことを特徴とする適用例1乃至6の何れかに記載の圧電振動素子である

【0020】
長手方向の奥行き寸法を第3の平面の厚さ寸法に対して大きくすることにより、エネル
ギー閉じ込めが完全となり、Q値の大きい圧電振動素子を得ることができるという効果が
ある。
【0021】
[適用例8]また圧電振動素子は、前記第2の平面部と前記第3の平面部に跨って励振
電極を形成し、前記主面上から平面視したとき前記励振電極が矩形であることを特徴とす
る適用例1又は6又は7に記載の圧電振動素子である。
【0022】
容量比を考慮すると振動変位分布に沿った電極形状が望ましいが、圧電振動素子のCI
値をより小さくする場合には、できるだけ大きな矩形状の電極を用いることより、小さな
CI値を得ることができるという効果がある。
【0023】
[適用例9]本発明の圧電振動子は、適用例1乃至8の何れかに記載の圧電振動素子の
前記第1乃至第3の平面が基板の周縁に側壁を有するパッケージの内部底面に対面した状
態で収容されていることを特徴とする圧電振動子である。
【0024】
適用例1乃至8の何れかに記載の圧電振動素子と、パッケージとを備えた圧電振動子を
構成すると、大きなQ値を有すると共に高次輪郭モードが低減された圧電振動子を得るこ
とができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る圧電振動素子の構成を示した概略図であり、(a)は平面図、(b)は断面図。
【図2】第2の実施例の圧電振動素子の構成を示した図であり、(a)は平面図、(b)は断面図。
【図3】圧電振動基板の断面図とその要部の寸法。
【図4】長手方向(X軸方向)の変位と、厚さ方向(Y’軸方向)の変位を示した図で、厚さ比H/hを、(a)は0.85、(b)は1.0、支持部厚さは0.2mmに固定したシミュレーション結果。
【図5】長手方向(X軸方向)の変位と、厚さ方向(Y’軸方向)の変位を示した図で、厚さ比H/hを、(a)は1.16、(b)は1.47、支持部厚さは0.2mmに固定したシミュレーション結果。
【図6】厚さ比H/hに対しY’軸方向の変位成分和を示した図。
【図7】長手方向(X軸方向)の変位と、厚さ方向(Y’軸方向)の変位を示した図で、厚さ対幅比w/hを、(a)は0.77、(b)は1.55、(c)は1.93、厚さ比H/hは1.1に固定したシミュレーション結果。
【図8】長手方向(X軸方向)の変位と、厚さ方向(Y’軸方向)の変位を示した図で、厚さ対幅比w/hを3.86、厚さ比H/hは1.1に固定したシミュレーション結果。
【図9】厚さ対幅比w/hに対しY’軸方向の単位当たりの変位成分を示した図。
【図10】第3の実施例の圧電振動素子の構成を示した図であり、(a)は平面図、(b)は断面図。
【図11】第4の実施例の圧電振動素子の構成を示した図であり、(a)は平面図、(b)は断面図。
【図12】本発明の圧電振動子の構成を示した断面図。
【図13】従来の水晶振動素子の構成を示した図であり、(a)は平面図、(b)、(c)は断面図、(d)、(e)は変位分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施
形態に係る圧電振動素子1の構成を示す概略図であり、同図(a)は平面図、同図(b)
はQ−Qにおける断面図である。圧電振動素子1は、厚み振動をするエネルギー閉じ込め
型圧電振動素子であって、振動領域を備えた矩形の圧電振動基板(以下、圧電基板と称す
)5と、圧電基板5の表裏両主面上の振動領域内に夫々形成された第1の励振電極11a
、及び第2の励振電極11bと、を備えている。
圧電基板5の少なくとも一方の主面には、少なくとも圧電基板5の長手方向の両端部寄
りに位置する第1の平面部5aと、第1の平面部5aよりも圧電基板5の内側(振動領域
の中央)に位置し、且つ振動領域の中央に向かうに従い厚さが増すように外側へ突出した
階段状の突部5Aと、を有している。
突部5Aは、第1の平面部5aよりも圧電基板5の内側(振動領域の中央寄り)に位置
し、且つ第1の平面部5aよりも厚さ方向に突出し、且つ圧電基板5の長手方向に長軸が
延びた略楕円形状の第2の平面部5bと、第2の平面部5bよりもの圧電基板5の内側(
振動領域の中央)に位置し、且つ第2の平面部5bよりも厚さ方向に突出し、且つ圧電基
板5の長手方向に長軸が延びた略楕円形状の第3の平面部5cと、を有している。つまり
、突部5Aは、その一体化された構造を仮に分解した状態にして説明すれば第2の平面部
5bを有する略楕円形状(略楕円柱形状)の第1の突部5A−1の上面中央に、略楕円形
状(略楕円柱形状)である第3の平面部5cを上面とする第2の突部5A−2が積層され
たような階段状を成している。なお、略楕円柱形状とは、圧電基板5の形成する際に生じ
る加工精度に伴う誤差や、圧電基板5の材料の特性として例えばエッチング量の異方特性
などの影響によって理想の楕円形状に対して側面に崩れが生じた形状のものも含む。
【0027】
第2平面部5b、及び第3の平面部5cの外形は、夫々楕円形状の輪郭線の少なくとも
一部を有すると共に、夫々の焦点間を結ぶ線分の中点が、夫々振動領域の中心に位置して
いる。図1に示した圧電振動素子1の例では、圧電基板5の表裏両主面に、第1の平面部
5aならびに突部5Aを形成した形状を示しており、圧電基板5は長手方向の中心線を境
に表裏面が実質的に対称に形成されている。なお、実質的に対象とは、圧電基板5の形成
する際に生じる加工精度に伴う誤差や、圧電基板5の材料の特性として例えばエッチング
量の異方特性などの影響によって生じた非対称形状を無視すれば対象であることを意味す
る。
圧電基板5は、第2の平面部5bの略楕円形状の外形の中点(2つの焦点間を結ぶ線分
の中心)と、第3の平面部5cの略楕円形状の外形の中点とが一致するように形成されて
いる。ここで、略楕円形状の外形とは、楕円形状、或いは楕円形状の少なくとも一部が欠
落した形状を含むものとする。
【0028】
図1に示した例では、第3の平面部5cの外形の輪郭は、楕円形状を成しているが、第
2の平面部5bの外形の輪郭は、楕円形状の短径方向において輪郭の一部が欠落している
。すなわち、第2の平面部5bの外形は圧電基板5の長辺より楕円形状(楕円柱形状)に
おける円周のうち短軸の延び方向に位置する一部が圧電基板5の長手方向に沿って直線的
に切り取られたような形状であり、図1の場合では、直線的に切り取られた部分の辺が圧
電基板5の長辺と一致した形状となっている。また、第3の平面部5cの外形の輪郭が、
例えば第の平面部5bと同様に楕円形状の長径方向(長軸方向)において一部が欠落して
いるものも本発明に含まれる。
更に、圧電基板5の長手方向の一方の端部には支持部8が一体的に形成されており、支
持部8の厚さt、つまり圧電基板5の長手方向と直交する厚さは、圧電基板5の振動領域
の中央部(図1(b)の表面の第2の平面部5c及び裏面の第2の平面部5cとの厚さ)
の厚さ以上である。
また、圧電基板5の長手方向と直交する幅方向の圧電基板5の中心線C0に対し、圧電
基板5の長手方向と直交する幅方向の振動領域の中心線C1は、支持部8から遠ざかる方
向にαだけ偏心している。
【0029】
圧電基板5の表裏両主面上には、夫々第1の励振電極11aと、第2の励振電極11b
とが形成されている。第1の励振電極11a、及び第2の励振電極11bは、共に楕円形
状であり、互いに対向している。楕円形状の第1及び第2の励振電極11a、11bの夫
々の焦点間の中点が、略楕円形状の第3の平面部5cの中点とほぼ一致すると共に、第1
及び第2の励振電極11a、11bの長径(長軸)の延び方向と第3の平面部5cの長径
(長軸)の延び方向とが一致するように、第1及び第2の励振電極11a、11bを形成
し、図1の場合は、第3の平面部5cの輪郭形状と第1及び第2の励振電極11a、11
bの輪郭形状とはほぼ相似である。
第1及び第2の励振電極11a、11bからは夫々圧電基板5の支持部8に向けて、第
2の平面部5bと第1の平面部5aの面上を互いに絶縁した状態で引出電極11c、11
dが延出している。
第1及び第2の励振電極11a、11bと、引出電極11c、11dに用いる電極材料
としては、夫々所定の厚さのクロムCr+金Au、或いはニッケルNi+金Au等が用い
られる。
【0030】
厚み振動の場合、主振動の周波数は圧電基板5の厚さ(第3の平面部5c間の厚さ)依
存し、圧電基板5の長手方向、短手方向の寸法には依存しない。長手方向、短手方向の寸
法は、主振動の近傍に生じる高次輪郭(幅すべり等)に関係するので、使用温度範囲にお
いてこれら輪郭振動が主振動に結合しないように、輪郭の寸法(長さ、幅)を設定する。
圧電基板5の厚さ方向を階段状のメサ構造とするのは、主振動の振動エネルギーを基板上
の振動領域中央部に閉じ込め、振動エネルギーの基板端部への漏洩と、漏洩した厚み振動
が他のモードに変換され、スプリアスが生じるのを低減させるためである。
図1(b)に示す第1の平面部5a、第2の平面部5b及び第3の平面部5cが呈する
断面形状は、所望する周波数、圧電基板5の寸法を基に、有限要素法を用いてシミュレー
ションして、高次の輪郭振動を避ける平面形状と、断面形状を決定する。
圧電基板にATカット水晶基板を用いた例について説明する。周知のように、ATカッ
ト水晶基板は、結晶軸Y(機械軸)に垂直な水晶板(Y板)を結晶軸X(電気軸)の周り
に約35度15分回転して切り出した水晶基板である。矩形状ATカット水晶基板の長手
方向をX軸、短手方向をZ’軸、厚さ方向をY’軸とする。図1に示す第2の平面部5b
、及び第3の平面部5cの夫々の外形輪郭がなす略楕円形の長径対短径(長軸対短軸)の
比を共に約1.26とする。
【0031】
長径対短径(長軸対短軸)の比が1.26となる理由について説明する。エネルギー閉
じ込め理論の振動方程式の中で、振動変位uを表す式に用いられる無電極部、及び電極部
の伝搬定数を夫々k、keとすると、k、keは夫々次式で表すことができる。
k=μ(mπ/h)(1−(f/(mfs))21/2 (1)
ke=μ(mπ/h)((f/(mfe))2−1)1/2 (2)
ここで、定数μは弾性定数と切断角度から決まる値、mは高調波次数、hは水晶基板の
厚さ、fsは無電極部の遮断周波数、feは電極部の周波数である。
水晶は三方晶系(trigonal system)に属する結晶であるため異方性を有し、結晶軸方
向により弾性定数が異なる。ATカット水晶板の場合は、X軸方向に伝搬する波動の弾性
定数と、Z’軸方向に伝搬する波動の弾性定数とが異なる。このため、伝搬定数k、ke
に用いられる定数μもX軸方向伝搬ではμx、Z’軸方向伝搬ではμzとなり、μx/μ
zの比が約1.26となる。このため、ATカット水晶振動子の振動変位分布は、X軸方
向とZ’軸方向とでは変位分布の広がりが異なり、水晶基板と平行方向の断面の形状は、
X軸方向を長径(長軸)、Z’軸方向を短径(短軸)とした楕円状となり、長径/短径の
比μx/μzは、約1.26である。
【0032】
図1では、第1乃至第3の平面部5a、5b、5cからなる2段構造のメサ型圧電基板
5を用いた圧電振動素子1の例を示したが、更に多くの平面部を有した多段メサ構造の圧
電基板を用いることが望ましい。しかし、圧電基板5の形状寸法(長さ×幅)が、例えば
1mm×0.6mmと小さくなると、多段構造のメサ型圧電基板を製造することは難しく
なる。そこで、要求されるQ値(CI値)等の電気的特性を満たし、主振動近傍のスプリ
アスを規格値以下に抑圧する段数を選択することになる。
また、第1乃至第3の平面部5a、5b、5cの圧電基板5の長手方向外寄りの角部を
結ぶ包絡線は、実績のあるコンベックス状圧電基板から相似の理により設計してもよいし
、有限要素法を用いて計算してもよい。多段メサ型圧電基板についても同様である。
支持部厚さを増すために水晶に代わる材料の厚膜を用いても良い。
【0033】
図2は、第2の実施の形態の圧電振動素子2の構成を示す概略図であり、同図(a)は
平面図、同図(b)はQ−Qにおける断面図である。図1に示した圧電振動素子1と異な
る点は、圧電基板5の支持部8の表裏面に夫々溝部9を設けたことと、励振電極11a、
11bの形状を矩形状とし、且つ第3の平面部5cのみならず第2の平面部5bの一部に
まで広げたことである。なお、圧電振動素子2を構成する上で必要が無ければ溝部9が無
い構成であっても良い。
支持部8の表裏面に夫々溝部(グルーブ)9を設けるのは、導電性接着剤を用いて、支
持部8をパッケージの底部に接着・固定する際に、導電性接着剤の硬化によって生じる圧
電基板5の歪を緩和するためと、導電性接着剤の塗布時の振動領域、或いは他方の引出電
極への広がりを、溝部9によって抑えるためである。
励振電極11a、11bを図1の圧電振動素子1より大きくしたのは、CI値(等価抵
抗値)を小さくし、発振器に用いる際により発振し易く(発振回路の負性抵抗値がより小
さくてよい)したためである。
【0034】
図1、2に示す圧電振動基板5の要部の寸法を図3に示すように、長手方向の長さをL
、振動領域中心部の厚さをh、支持部8の厚さをH、圧電振動基板5の長手方向における
支持部8の幅をw、支持部8の上面又は下面(溝部9の上面又は下面ではない)と圧電振
動基板5の長手方向端部の上面又は下面との差厚をdとする。圧電振動基板5の長手方向
の長さLに対する支持部8の幅wの比w/Lを0.2とし、振動領域の中心部の厚さhに
対する支持部8の厚さHの比(以後、厚さ比と称す)H/hを変化させ、圧電基板5に励
起される厚み滑り振動の長手方向(X軸方向)の振動変位と、厚さ方向(Y’軸方向)の
振動変位とを有限要素法を用いてシミュレーションした。
図4(a)は差厚dが零の場合、つまり圧電振動基板5の長手方向端部の厚さと、支持
部8の厚さHとが等しい場合、圧電振動基板5に励起される振動変位の中、長手方向(X
軸方向)の変位と、厚さ方向(Y’軸方向)の変位とを、圧電振動基板5の規格化した位
置(圧電振動基板5の長手方向の一方の端部の位置を0、他方の端部の位置を1とする)
に対して示している。長手方向(X軸方向)の変位分布には高次屈曲振動が重畳し、厚さ
方向(Y’軸方向)の変位も大きい。
図4(b)は厚さ比H/hを1.0とした場合の圧電振動基板5の長手方向(X軸方向
)の変位分布と、厚さ方向(Y’軸方向)の変位分布とを示した図である。支持部8の厚
さ比H/hを大きくしたことにより、長手方向(X軸方向)の変位分布に重畳する高次輪
郭振動の振幅は、図4(a)に示す振幅より小さくなる。また、厚さ方向(Y’軸方向)
の振動変位の振幅も図4(a)の振幅より小さくなることが判明した。
【0035】
図5(a)は、厚さ比H/hを1.16とした場合の長手方向(X軸方向)の変位分布
と、厚さ方向(Y’軸方向)の変位分布とを、示した図である。支持部8の支持部8の厚
さ比H/hを更に大きくしたことにより、長手方向(X軸方向)の変位分布に重畳する高
次輪郭振動の振幅は、図4(b)に示す振幅より小さくなっている。また、厚さ方向(Y
’軸方向)の振動変位の振幅も図4(b)の振幅より小さくなることが判明した。
図5(b)は、厚さ比H/hを1.47とした場合の長手方向(X軸方向)の変位分布
と、厚さ方向(Y’軸方向)の変位分布とを、示した図である。支持部8の厚さ比H/h
を更に大きくすると、長手方向(X軸方向)の変位分布に重畳する高次輪郭振動の振幅は
、図5(a)に示す振幅より大きくなっている。また、厚さ方向(Y’軸方向)の振動変
位の振幅も図5(a)の振幅より大きくなることが分かった。
図6は、厚さ比H/hを横軸にし、厚さ方向(Y’軸方向)変位成分を縦軸にしたとき
、厚さ比H/hの変化に対するY’軸方向変位成分を示す図である。この図から厚さ比H
/hを1.1以上の設定することによりY’軸方向変位成分を小さく抑えることができる

圧電基板5の厚さ比H/hを1.1以上に形成することは、フォトリソグラフィ技術を
用いたエッチング加工で可能であるがエッチングの加工の段取りと工数とが掛かる。そこ
で、厚さ比H/hを1.0の圧電基板5を製作し、この圧電基板5の支持部8の上下面に
水晶の比重(2.65)より大きい比重の金属、例えば金(比重19.3)等を蒸着等の
手段を用いて薄膜形成することにより、等価的に厚さ比H/hを1.1以上の圧電基板5
を実現することができる。
【0036】
次に、振動領域の中心部の厚さhに対する支持部8の長手方向(X軸方向)の幅wの比
(以後、厚さ対幅比と称す)w/hを変化させ、圧電基板5の長手方向(X軸方向)の振
動変位と、厚さ方向(Y’軸方向)の振動変位とを有限要素法を用いてシミュレーション
した。
図7(a)は、厚さ対幅比w/hを0.77とした場合、圧電基板5の長手方向(X軸
方向)の振動変位分布と、厚さ方向(Y’軸方向)の振動変位分とを示す図である。支持
部8の厚さ対幅比w/hが小さいと、長手方向(X軸方向)の変位分布に重畳する高次輪
郭振動の振幅がかなり大きく、また厚さ方向(Y’軸方向)の振動変位分布に重畳する高
次輪郭振動の振幅も大きいことが分かる。
図7(b)は、厚さ対幅比w/hを1.55とした場合の圧電基板5の長手方向(X軸
方向)の振動変位分布と、厚さ方向(Y’軸方向)の振動変位分とを示す図である。支持
部8の厚さ対幅比w/hを大きくすると、長手方向(X軸方向)の変位分布に重畳する高
次輪郭振動の振幅は、図7(a)のそれよりも小さくなるが、まだ大きい。また、厚さ方
向(Y’軸方向)の振動変位分布に重畳する高次輪郭振動の振幅は、図7(a)のそれよ
りも小さくなるが、まだ大きいことが分かる。
図7(c)は、厚さ対幅比w/hを1.99とした場合の圧電基板5の長手方向(X軸
方向)の振動変位分布と、厚さ方向(Y’軸方向)の振動変位分とを示す図である。支持
部8の厚さ対幅比w/hを更に大きくすると、長手方向(X軸方向)の変位分布に重畳す
る高次輪郭振動の振幅は、図7(b)のそれよりもかなり小さくなる。また、厚さ方向(
Y’軸方向)の振動変位分布に重畳する高次輪郭振動の振幅は、図7(b)のそれよりも
かなり小さくなることが分かる。
【0037】
図8は、厚さ対幅比w/hを3.86とした場合の圧電基板5の長手方向(X軸方向)
の振動変位分布と、厚さ方向(Y’軸方向)の振動変位分とを示す図である。支持部8の
厚さ対幅比w/hを更に大きくすると、長手方向(X軸方向)の変位分布に重畳する高次
輪郭振動の振幅は、図7(c)のそれよりも大きくなり、厚さ方向(Y’軸方向)の振動
変位分布に重畳する高次輪郭振動の振幅は、図7(c)のそれよりも大きくなることが分
かる。
図9は、厚さ対幅比w/hを横軸に、厚さ方向(Y’軸方向)の単位当たりの変位成分
を縦軸にしたときの、厚さ対幅比w/hの変化に対するY’軸方向の単位当たりの変位成
分を示す図である。この図から厚さ対幅比w/hを1.9近傍に設定することにより、高
次輪郭振動による影響を抑圧することが可能であるが、厚さ対幅比w/hに余裕が少ない
。厚さ対幅比w/hを3.0以上にすれば、高次輪郭振動による影響を抑圧することがで
き、厚さ方向(Y’軸方向)の振動変位成分を小さくすることができる。
図10は、第3の実施の形態の圧電振動素子3の構成を示す概略図であり、同図(a)
は平面図、同図(b)はQ−Qにおける断面図である。図1及び2に示した圧電振動素子
1、2と異なる点は、圧電基板5の断面の形状である。つまり、第2及び第3の平面部5
b、5cが、圧電基板5の一方の主面のみに形成されている点である。従来のプラノコン
ベックス型圧電基板と同様、切断角度が当初のまま維持されるので温度特性を重視した圧
電振動素子に適している。
【0038】
図11は、第4の実施の形態の圧電振動素子3の構成を示す概略図であり、同図(a)
は平面図、同図(b)はQ−Qにおける断面図である。図1及び2に示した圧電振動素子
1、2と異なる点は、圧電基板5の長手方向の両端部に支持部8a、8bを一体的に形成
した点である。図4に示した例では、引出電極11cは支持部8aに延出させ、引出電極
11dを支持部8bに延出させた両持ち構造の例を示したが、支持部8a、8bの一方の
みに引出電極を延出した片持ち構造であってもよい。
図11に示した圧電基板5の特徴は、圧電基板5の長手方向に対しても対称であり、厚
さ方向に対しても対称な基板とした点である。圧電基板5を対称構造に形成することによ
り、不要振動の発生を抑圧することができる。また、圧電基板5の端部に振動領域より厚
い支持部8a、8bを設けた構造とすることにより、インハーモニックモード(非調和高
次モード)、高次輪郭振動モードの振動を低減することができる。このことはATカット
水晶基板の中央部をエッチング加工で薄板化し、周縁に厚い環状囲繞部を形成した高周波
振動子で実証済みである。
また、支持部8a、8bの上下面に質量の重い金属を付着し、支持部8a、8bのカッ
トオフ周波数を低下させることにより、高次輪郭振動、インハーモニックモードによるス
プリアスを低減することが可能となる。
【0039】
図1、2、及び10、11に示した圧電基板5の製造方法の一例は、ウエハー(大型圧
電基板)にフォトリソグラフィ技術とエッチング手法を適用して加工すると、容易に製造
することができる。この場合には、振動領域の中央部の厚さと、支持部8a、8bの厚さ
が等しくなるが、上述の手段により等価的に支持部8の厚さを増し、厚さ比の厚さ比H/
hを1.1以上のすることが可能となる。
水晶基板の例を示したが、本発明は他の圧電基板、例えばランガサイト、タンタル酸リ
チウム、ニオブ酸リチウム等にも適用できることは言うまでもない。ただ、夫々の弾性定
数により振動変位分布が異なるので、用いる圧電基板の弾性定数により楕円形状の長径対
短径の比を決める必要がある。
圧電基板5を加工して第1乃至第3の平面部5a、5b、5cを形成する例を説明した
が、第1乃至第3の平面部5a、5b、5cは平板状の圧電基板に他の材料、例えばCr
、Ni、金等の金属で形成してもよい。
【0040】
圧電振基板5に第1乃至第3の平面部5a、5b、5cを設け、第2及び第3の平面部
5b、5cの輪郭形状を略楕円形状とし、両略楕円形状の夫々の焦点間を結ぶ中点を、圧
電基板5の振動領域の中心とほぼ一致させるように構成する。この結果、振動変位が振動
領域の中央寄りの分布となり、圧電基板5の周縁では振動変位は極めて小さくなるため、
圧電振動素子のQ値が高まると共に、圧電基板5端部で高次輪郭振動に変換される振動エ
ネルギーが小さくなり、高次輪郭振動の発生が低減されるという効果がある。
圧電基板5に水晶基板を用いる場合は、水晶結晶の弾性定数の異方性を考慮する必要が
ある。弾性定数は切断角度に依存して変化し、ATカット水晶基板では、X方向とZ’方
向との伝搬定数が異なり、振動変位分布の断面形状は楕円形状となる。そのため、振動変
位分布に基づいて、長径と短径を少しずつ小さくした楕円形状を、積層したように圧電振
動基板を形成することにより、大きなQ値を実現することができる。ATカット水晶基板
の場合、この楕円形状の長径対短径の比が1.26であり、この数値を用いて圧電基板5
を構成すると圧電振動素子のQ値が大きくになり、輪郭系のスプリアスを低減することが
できるという効果がある。
【0041】
圧電基板5の主面上から平面視した形状は、楕円形状の長径と短径を少しずつ小さくし
た楕円形状を積層し、且つ夫々の焦点間を結ぶ線分の中点と、振動領域の中心と、が一致
するように構成することが望ましい。しかし、圧電基板5の平面形状が、例えば1.0m
m×0.6mmと小さくなると、第2の平面部の輪郭形状を完全な楕円形状に形成するこ
とは難しく、短径方向の対向する2つの外形輪郭線の一部が欠落することになる。このよ
うに外形輪郭線の一部が欠落した圧電基板5でも大きなQ値の圧電振動素子を実現するこ
とができるという効果がある。
圧電基板5の平面形状が更に小さくなると、第3の平面部の短径方向の対向する外形輪
郭線の一部が欠落することがある。このような圧電基板5を用いて圧電振動素子を構成し
た場合、従来の平板状の圧電基板5を用いて構成した圧電振動素子のQ値に比べ、より大
きなQ値を得ることができるという効果がある。
【0042】
圧電基板5の長手方向と直交する幅方向の中心線C0と、長手方向と直交する振動領域
の幅方向の中心線C1、つまり第3の平面部の外形輪郭線である略楕円形状の2つの焦点
間を結ぶ線分の中点を通る幅方向の中心線とは、偏心するように圧電基板5を形成する。
このように形成すると、支持部の影響を受けることなく、振動変位の分布は振動領域の中
心に対し対称となり、圧電振動素子のQ値を大きくするこができると共に高次輪郭モード
を低減することが可能となるという効果がある。
圧電基板5の長手方向の少なくとも一端に支持部を形成した圧電基板5を用いて圧電振
動素子を構成した場合、この圧電振動素子をパッケージの内底部に固定する際に、圧電基
板5の振動領域に影響を及ぼさないため、Q値の劣化を防ぐことができるという効果があ
る。
容量比を考慮すると振動変位分布に沿った電極形状が望ましいが、圧電振動素子のCI
値をより小さくする場合には、第3の平面部5cのみならず第2の平面部5bにも電極を
形成することが望ましく、例えばできるだけ大きな矩形の電極形状を用いることより、小
さなCI値を得ることができるという効果がある。
【0043】
図5は、本発明の圧電振動子15の実施の形態を示す断面図であり、圧電振動子15は
上述の圧電振動素子1〜4の何れかと、パッケージとを備えている。パッケージは、パッ
ケージ本体20と、金属製、ガラス製等の蓋部材21とからなる。パッケージ本体20は
例えばグリーンシートを積層し、内部に空間部を設け、パッケージ本体20の外底面には
接続用の外部端子22が形成されている。パッケージ本体20内部底面に形成したパッド
電極と、外部端子22とは内部導体にて導通が図られている。
パッケージ本体20内部底面に形成したパッド電極に導電性接着剤を塗布し、この上に
圧電振動素子1を載置し、導電性接着剤を硬化させた後、パッケージ本体20の内部を不
活性ガスで満たした後、蓋部材21にて気密封止する。不活性ガスを満たす代わりに内部
を真空封止してもよい。また、導電性接着剤の代わりに金バンプ等を用いて、パッケージ
本体の内部パッド電極と圧電振動素子1とを接合してもよい。
上述の圧電振動素子と、パッケージとを備えた圧電振動子を構成すると、大きなQ値を
有すると共に高次輪郭モードが低減された圧電振動子をうることができるという効果があ
る。
【符号の説明】
【0044】
1、2、3、4…圧電振動素子、5…圧電振動基板、5a…第1の平面部、5b…第2の
平面部、5c…第3の平面部、8、8a、8b…支持部、9…溝部、11a…第1の励振
電極、11b…第2の励振電極、11c、11d…引出電極、15…圧電振動子、20パ
ッケージ本体、21蓋部材、22外部端子、23内部導体、t…支持部の厚さ、C0…圧
電基板の中心線、C1…振動領域の中心線、L…圧電基板の長手方向の長さ、h…振動領
域の中心部の厚さ、H…支持部の厚さ、w…支持部の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み振動をするエネルギー閉じ込め型圧電振動素子であって、
振動領域を備えた矩形の圧電振動基板と、
前記圧電振動基板の表裏主面上の振動領域内に夫々形成された第1の励振電極、及び第
2の励振電極と、を備え、
少なくとも一方の主面の前記振動領域内には、少なくとも外径側に位置する第1の平面
部と、該第1の平面部の内径側に位置し且つ厚さ方向外側へ突出した突部と、を有し、
前記突部は、前記第1の平面部よりも厚さ方向外側へ突出した略楕円形状の第2の平面
部と、前記第2の平面部の内径側に位置し且つ厚さ方向外側へ突出した略楕円形状の第3
の平面部と、を有し、
前記第2及び第3の平面部の外形は、夫々楕円形状の輪郭線の少なくとも一部であると
共に夫々の焦点間を結ぶ線分の中点が夫々前記振動領域の中心に位置していることを特徴
とする圧電振動素子。
【請求項2】
前記圧電振動基板は、長手方向がX軸方向であるATカット水晶基板であり、
夫々楕円形状の前記第2及び第3の平面部の長径対短径の比が夫々1.26対1.00
の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の圧電振動素子。
【請求項3】
略楕円形状である前記第2の平面部の短径方向の対向する2つの外形輪郭線は、夫々対
応する位置にある前記圧電振動基板の長辺に沿って欠落していることを特徴とする請求項
1又は2に記載の圧電振動素子。
【請求項4】
略楕円形状である前記第3の平面部の短径方向の対向する外形輪郭線は、夫々対応する
位置にある前記圧電振動基板の長辺に沿って欠落していることを特徴とする請求項1乃至
3の何れかに記載の圧電振動素子。
【請求項5】
前記第3の平面部の外形輪郭線の少なくとも一部は楕円形状の一部であり、その2つの
焦点間を結ぶ線分の中点は前記圧電振動基板の長手方向の中心より偏心していることを特
徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の圧電振動素子。
【請求項6】
前記圧電振動基板は長手方向の少なくとも一端に支持部が形成されており、前記支持部
の厚さは前記第3の平面の厚さ以上であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記
載の圧電振動素子。
【請求項7】
前記支持部の長手方向の奥行は前記第3の平面の厚さに対して大きいことを特徴とする
請求項1乃至6の何れかに記載の圧電振動素子。
【請求項8】
前記第2の平面部と前記第3の平面部に跨って励振電極を形成し、前記主面上から平面
視したとき前記励振電極が矩形であることを特徴とする請求項1又は6又は7に記載の圧
電振動素子。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載の圧電振動素子の前記第1乃至第3の平面が基板の周縁
に側壁を有するパッケージの内部底面に対面した状態で収容されていることを特徴とする
圧電振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−205516(P2011−205516A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72350(P2010−72350)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】