説明

圧電膜とその成膜方法、及び圧電素子

【課題】スパッタリング法等のプラズマを用いる気相成長法により膜を成膜する成膜方法において、良質な膜を安定的に成膜することを可能とする。
【解決手段】成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、スパッタリング法等のプラズマを用いる気相成長法によりターゲットの構成元素を放出させて基板上にターゲットの構成元素からなる圧電膜を成膜する圧電膜の成膜方法において、成膜温度Ts(℃)と、基板−ターゲット間距離D(mm)と、成膜される膜の特性との関係に基づいて成膜条件を決定する。1種又は複数種のPb含有ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜では、下記式(1)及び(2)、又は(3)及び(4)を充足する範囲で成膜条件を決定することが好ましい。
400≦Ts(℃)≦500・・・(1)、
30≦D(mm)≦80・・・(2)、
500≦Ts(℃)≦600・・・(3)、
30≦D(mm)≦100・・・(4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いる気相成長法により成膜する圧電膜の成膜方法、及び該成膜方法を用いて成膜された圧電膜、該圧電膜を用いた圧電素子、並びに該圧電素子を備えた液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電性を有する圧電膜と、圧電膜に対して電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、インクジェット式記録ヘッドに搭載されるアクチュエータ等として使用されている。圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系等のペロブスカイト型酸化物が知られている。
【0003】
圧電膜は、スパッタリング法等の気相成長法により成膜することができる。PZT等のPb含有ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜では、高温成膜するとPb抜けが起こりやすくなる。そのため、Pb含有ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜では、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶が良好に成長し、かつPb抜けが起こりにくい成膜条件を求める必要がある。
【0004】
例えば、非特許文献1では、成膜温度以外の条件を固定し、成膜温度を振ることで、圧電膜の好適な成膜条件が求められている。非特許文献1に記載の図3には、PbTiO膜では、概ね成膜温度500℃以下でパイロクロア相構造となり、概ね成膜温度550〜700℃でペロブスカイト結晶が成長し、概ね成膜温度700℃以上で非晶質構造となることが示されている。
【0005】
特許文献1では、PZT膜において、成膜圧力と膜中のPb量との関係、及び成膜温度と膜中のPb量との関係が求められている(特許文献1の図1及び図2を参照)。特許文献1では、成膜圧力は1〜100mTorrが好ましく、成膜温度は600〜700℃が好ましいことが記載されている(特許文献1の請求項2,5を参照)。
【特許文献1】特開平6-49638号公報
【非特許文献1】セラミックス21(1986)119
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1及び特許文献1に記載されているように、従来、PZT等のPb含有ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜では、成膜温度550〜700℃の条件が好ましいとされている。しかしながら、本発明者らが検討を行ったところ、420〜480℃程度でもパイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶が成長し、良好な圧電特性を示す圧電膜が得られることが分かった。より低温で成膜できることはPb抜けを抑制することができ、好ましい。
【0007】
Pbの含有/非含有に関係なく、成膜温度が高くなると、基板と圧電膜との熱膨張係数差に起因して、成膜中又は成膜後の降温過程等において圧電膜に応力がかかり、膜にクラック等が発生する恐れがあるので、より低温で成膜できることは好ましい。より低温で成膜できれば、ガラス基板などの比較的耐熱性が低い基板を用いることができるなど、基板選択の幅も広がり、好ましい。
【0008】
圧電膜の成膜においては、温度と圧力以外にも何らかのファクターが効いており、膜特性に対して影響を与えるファクターが好適な範囲内にあるときに、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶が成長すると考えられる。
【0009】
特開2005−350735号公報には、基板に対向するターゲットから叩き出された金属原子を用いたスパッタリングによって酸化物薄膜を成膜する酸化物薄膜の制作方法において、ターゲットの構成金属原子の平均自由行程が、基板−ターゲット間距離より長くなるように成膜条件を制御する方法が開示されており、成膜後にある温度以上で後焼成することによって酸化物薄膜を特定の方位に優先配向できることが記載されている(段落0010を参照)。
【0010】
しかしながら、成膜は基板非加熱で行われている上に基板―ターゲット間距離も160mmと長いため成膜速度が非常に遅く、更に後工程での熱処理等も必要なことから、製造効率上実用的でない(段落0036〜0041を参照)。従って、特開2005−350735号公報に記載の発明は、スパッタリング法等のプラズマを用いる気相成長法により良質な膜を安定的に効率よく成膜することが可能な成膜方法を提供するという本発明の課題を解決するものではない。成膜速度が遅すぎると、良質な結晶を成長させることが難しくなる。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、スパッタリング法等のプラズマを用いる気相成長法において、膜特性に対して影響を与える成膜条件のファクターを明らかにし、これによって、スパッタリング法等のプラズマを用いる気相成長法により良質な圧電膜を安定的に効率よく成膜することが可能な圧電膜の成膜方法を提供することを目的とするものである。
本発明は特に、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることが可能な圧電膜の成膜方法、及び該成膜方法により成膜された圧電膜を提供することを目的とするものである。
【0012】
本発明は特に、PZT等のPb含有ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜の成膜方法において、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することが可能な圧電膜の成膜方法、及び該成膜方法により成膜された圧電膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討を行い、成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、スパッタリング法等のプラズマを用いる気相成長法により、前記ターゲットの構成元素を放出させ、前記基板上に前記ターゲットの構成元素からなる圧電膜を成膜する圧電膜の成膜方法においては、成膜される圧電膜の特性が、成膜温度Ts(℃)と、基板とターゲットとの離間距離(以下、基板―ターゲット間距離とする。)D(mm)のファクターに大きく依存し、これらファクターを好適化することにより、良質な圧電膜を成膜できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明の第1の圧電膜の成膜方法は、成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、プラズマを用いるスパッタリング法により、前記ターゲットの構成元素を放出させ、前記基板上に前記ターゲットの構成元素からなり、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)圧電膜を成膜する方法において、
前記ターゲットとして該ターゲットの組成のうち、Pb以外の元素の組成が、成膜する前記圧電膜の組成と略同一であり、且つ、Pbの組成が、前記成膜中に脱離するPbを含む前記圧電膜の組成と略同一であるターゲットを用い、
下記式(1)及び(2)を充足する範囲で成膜条件を決定することを特徴とするものである。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
aが1.0であり、かつbが1.0である場合が標準であるが、aとbはペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)、
400≦Ts(℃)≦500・・・(1)、
30≦D(mm)≦80・・・(2)
(式(1)及び(2)中、Ts(℃)は成膜温度、D(mm)は基板とターゲットとの離間距離である。)
【0015】
本明細書において、「ターゲットの組成のうち、Pb以外の元素の組成が、成膜する前記圧電膜の組成と略同一」とは、酸素を含むターゲット組成と成膜する膜のPb以外の元素の組成が同一組成を有するターゲットの意であるが、ターゲット製造過程による不可避組成変化により組成に誤差が生じることを考慮し、「略同一組成」としたものである。
Pb元素については、スパッタリング特性上揮発しやすいことが知られている。従って、ターゲットにおいて、Pb元素の組成はスパッタリング成膜中に揮発等により膜中から脱離されるPb元素を含む圧電膜の組成と略同一組成とする。ターゲット中のPb組成は、成膜する圧電膜の組成に比して30%程度過剰の組成とすることが好ましい。
本明細書において、「成膜温度Ts(℃)」は、成膜を行う基板の中心温度を意味するものとする。
本明細書において、「基板―ターゲット間距離」とは、ターゲット側の基板面における中心と、ターゲットとを、ターゲットに対して垂直となるように結んだ距離と定義する。複数のターゲットを用いて同時に成膜を行う場合は、それぞれの基板―ターゲット間距離の平均値とする。
【0016】
また、本発明の第2の圧電膜の成膜方法は、成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、プラズマを用いるスパッタリング法により、前記ターゲットの構成元素を放出させ、前記基板上に前記ターゲットの構成元素からなり、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)圧電膜を成膜する方法において、
前記ターゲットとして該ターゲットの組成のうち、Pb以外の元素の組成が、成膜する前記圧電膜の組成と略同一であり、且つ、Pbの組成が、前記成膜中に脱離するPbを含む前記圧電膜の組成と略同一であるターゲットを用い、
下記式(3)及び(4)を充足する範囲で成膜条件を決定することを特徴とするものである。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
aが1.0であり、かつbが1.0である場合が標準であるが、aとbはペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)、
500≦Ts(℃)≦525・・・(3)、
60≦D(mm)≦75・・・(4)
(式(3)及び(4)中、Ts(℃)は成膜温度、D(mm)は基板とターゲットとの離間距離である。)
【0017】
第1の圧電膜の成膜方法において、下記式(5)を更に充足する範囲で成膜条件を決定することが好ましい。
40≦D(mm)≦75・・・(5)
(式(5)中、Ts(℃)は成膜温度、D(mm)は基板とターゲットとの離間距離である。)
本発明において、0.5μm/h以上の成膜速度で成膜を実施することが好ましい。
【0018】
本発明の圧電膜の成膜方法は、下記一般式(P−1)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)圧電膜に適用することができる。
Pb(Zrb1Tib2b3)O・・・(P−1)
(式(P−1)中、XはV族及びVI族の元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素である。a>0、b1>0、b2>0、b3≧0。a=1.0であり、かつb1+b2+b3=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
【発明の効果】
【0019】
本発明は、成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、スパッタリング法等のプラズマを用いる気相成長法により、ターゲットの構成元素を放出させて基板上にターゲットの構成元素からなる圧電膜を成膜する圧電膜の成膜方法において、成膜温度Ts(℃)、及び、基板−ターゲット間距離D(mm)の2つのファクターが膜特性及び成膜速度に対して影響を与えることを明らかにしたものである。
【0020】
本発明の圧電膜の成膜方法によれば、膜特性に対して影響を与える上記2つのファクターと成膜される膜の特性との関係に基づいて、成膜条件を決定する構成としているので、スパッタリング法等のプラズマを用いる気相成長法により良質な圧電膜を安定的に効率よく成膜することができる。
【0021】
また、本発明によれば、ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜の成膜において、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることが可能となる。本発明によれば、PZT等のPb含有ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜の成膜において、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
「成膜方法」
本発明の圧電膜の成膜方法は、成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、プラズマを用いる気相成長法により、前記ターゲットの構成元素を放出させ、前記基板上に前記ターゲットの構成元素からなる圧電膜を成膜する圧電膜の成膜方法において、
下記式(1)及び(2)を充足する範囲で成膜条件を決定することを特徴とするものである。
400≦Ts(℃)≦500・・・(1)、
30≦D(mm)≦80・・・(2)
【0023】
また、本発明の圧電膜の成膜方法は、成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、プラズマを用いる気相成長法により、前記ターゲットの構成元素を放出させ、前記基板上に前記ターゲットの構成元素からなる圧電膜を成膜する圧電膜の成膜方法において、
下記式(3)及び(4)を充足する範囲で成膜条件を決定することを特徴とするものである。
500≦Ts(℃)≦600・・・(3)、
30≦D(mm)≦100・・・(4)
【0024】
本発明の圧電膜の成膜方法を適用可能な気相成長法としては、スパッタリング法が挙げられる。
【0025】
図1に基づいて、スパッタリング装置を例として、プラズマを用いる成膜装置の構成例について説明する。図1(a)はRFスパッタリング装置の概略断面図であり、図1(b)は成膜中の様子を模式的に示す図である。
【0026】
RFスパッタリング装置1は、内部に、基板Bが装着されると共に、装着された基板Bを所定温度に加熱することが可能なヒータ11と、プラズマを発生させるプラズマ電極(カソード電極)12とが備えられた真空容器10から概略構成されている。ヒータ11とプラズマ電極12とは互いに対向するように離間配置され、プラズマ電極12上に成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットTが装着されるようになっている。プラズマ電極12は高周波電源13に接続されている。基板BとターゲットTとの離間距離(基板―ターゲット間距離)はD(mm)である。
【0027】
真空容器10には、真空容器10内に成膜に必要なガスGを導入するガス導入管14と、真空容器10内のガスの排気Vを行うガス排出管15とが取り付けられている。ガスGとしては、Ar、又はAr/O混合ガス等が使用される。図1(b)に模式的に示すように、プラズマ電極12の放電により真空容器10内に導入されたガスGがプラズマ化され、Arイオン等のプラスイオンIpが生成する。生成したプラスイオンIpはターゲットTをスパッタする。プラスイオンIpにスパッタされたターゲットTの構成元素Tpは、ターゲットから放出され中性あるいはイオン化された状態で基板Bに蒸着される。図中、符号Pがプラズマ空間を示している。
【0028】
ターゲットTと基板Bとの間にあるターゲットの構成元素Tpは、プラズマ空間Pの電位と基板Bの電位との電位差の加速電圧分の運動エネルギーを持って、成膜中の基板Bに衝突すると考えられる。
【0029】
プラズマを用いる気相成長法において、成膜される膜の特性を左右するファクターとしては、成膜温度、基板の種類、基板に先に成膜された膜があれば下地の組成、基板の表面エネルギー、成膜圧力、雰囲気ガス中の酸素量、投入電極、基板−ターゲット間距離、プラズマ中の電子温度及び電子密度、プラズマ中の活性種密度及び活性種の寿命等が考えられる。
【0030】
本発明者は多々ある成膜ファクターの中で、成膜される膜の特性は、成膜温度Tsと基板−ターゲット間距離D(mm)との2つのファクターに大きく依存することを見出し、これらファクターを好適化することにより、良質な圧電膜を効率よく成膜できることを見出した。すなわち、成膜温度Tsを横軸にし、基板−ターゲット間距離Dを縦軸にして、圧電膜の特性をプロットすると、ある範囲内において良質な圧電膜を成膜できることを見出した(図11を参照)。
【0031】
本発明の圧電膜の成膜方法が適用可能な圧電膜としては、特に制限なく、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜等が挙げられる。圧電膜は、不可避不純物を含んでいてもよい。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
aが1.0であり、かつbが1.0である場合が標準であるが、aとbはペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
【0032】
上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及び、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム等の非鉛含有化合物が挙げられる。圧電膜は、これら上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物の混晶系であってもよい。
【0033】
本発明は、下記一般式(P−1)で表されるPZT又はそのBサイト置換系、及びこれらの混晶系に好ましく適用できる。
Pb(Zrb1Tib2b3)O・・・(P−1)
(式(P−1)中、XはV族及びVI族の元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素である。a>0、b1>0、b2>0、b3≧0。a=1.0であり、かつb1+b2+b3=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
【0034】
上記一般式(P−1)で表されるペロブスカイト型酸化物は、d=0のときチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)であり、d>0のとき、PZTのBサイトの一部をV族及びVI族の元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素であるXで置換した酸化物である。
Xは、VA族、VB族、VIA族、及びVIB族のいずれの金属元素でもよく、V,Nb,Ta,Cr,Mo,及びWからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0035】
本発明者は、上記一般式(P)又は(P−1)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合、上記式(1)を充足しないTs(℃)<400の成膜条件では、成膜温度が低すぎてペロブスカイト結晶が良好に成長せず、パイロクロア相がメインの膜が成膜されることを見出している。
【0036】
本発明者はさらに、上記一般式(P)又は(P−1)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合、上記式(1)を充足する400≦Ts(℃)≦500の条件では、基板−ターゲット間距離D(mm)が上記式(2)を充足する範囲で、また上記式(3)を充足する500≦Ts(℃)≦600の条件では、基板−ターゲット間距離D(mm)が上記式(4)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することができ、結晶構造及び膜組成が良好な良質な圧電膜を安定的に成膜することができることを見出している(図11を参照)。
【0037】
PZTのスパッタ成膜において、高温成膜するとPb抜けが起こりやすくなることが知られている(「背景技術」に挙げた特許文献1の図2等を参照)。本発明者は、Pb抜けが、成膜温度以外に基板−ターゲット間距離にも依存することを見出している。PZTの構成元素であるPb,Zr,及びTiの中で、Pbが最もスパッタ率が大きく、スパッタされやすい。例えば、「真空ハンドブック」((株)アルバック編、オーム社発行)の表8.1.7には、Arイオン300evの条件におけるスパッタ率は、Pb=0.75、Zr=0.48,Ti=0.65であることが記載されている。スパッタされやすいということは、スパッタされた原子が基板面に付着した後に、再スパッタされやすいということである。基板−ターゲット間距離は、近いほど再スパッタ率が高くなり、Pb抜けが生じやすくなると考えられる。このことは、PZT以外のPb含有ペロブスカイト型酸化物でも、同様である。また、スパッタリング法以外のプラズマを用いる気相成長法でも同様である。
【0038】
成膜温度Tsが過小であり、かつ基板−ターゲット間距離Dが過大の条件では、ペロブスカイト結晶を良好に成長させることができない傾向にある。また、成膜温度Tsが過大であり、かつ基板−ターゲット間距離Dが過小の条件では、Pb抜けが生じやすくなる傾向にある。
すなわち、上記式(1)を充足する400≦Ts(℃)≦500の条件では、成膜温度Tsが相対的に低い条件のときには、ペロブスカイト結晶を良好に成長させるために基板−ターゲット間距離Dを相対的に短くする必要があり、成膜温度Tsが相対的に高い条件のときには、Pb抜けを抑制するために基板−ターゲット間距離Dを相対的に長くする必要がある。これを表したのが、上記式(2)である。上記(3)式を充足する500≦Ts(℃)≦600においては、成膜温度が比較的高温領域であるため、基板−ターゲット間距離Dの範囲は上限値が大きくなるが、傾向は同様である。
【0039】
成膜速度は、製造効率上速い方が好ましく、0.5μm/h以上が好ましく、1.0μm/h以上がより好ましい。図5に示されるように、基板−ターゲット間距離Dが短い方が成膜速度が速くなる。図5は、RFスパッタリング装置1を用いてPZT膜を成膜した場合の、成膜速度と基板−ターゲット間距離Dとの関係を示した図である。図5において、成膜温度Ts=525℃、ターゲット投入電力(rf電力)=2.5W/cmである。実施例1に示されるように、本発明によれば、成膜速度が1.0μm/h以上の高速成膜条件においても良質の膜を成膜することが可能である。
【0040】
基板−ターゲット間距離Dによっては、成膜速度が0.5μm/h未満となる場合があり得る。かかる場合には、ターゲット投入電力等を、成膜速度が0.5μm/h以上となるように、調整することが好ましい。
【0041】
基板−ターゲット間距離Dは短い方が成膜速度が速いため好ましく、400≦Ts(℃)≦500の範囲では80mm以下、500≦Ts(℃)≦600の範囲では100mm以下が好ましいが、30mm未満ではプラズマ状態が不安定となるため、膜質の良好な成膜ができない恐れがある。より膜質の高い圧電膜を安定的成膜するためには、400≦Ts(℃)≦500の範囲、及び500≦Ts(℃)≦600の範囲のいずれにおいても、基板−ターゲット間距離Dは、50≦D(mm)≦70であることが好ましい。
【0042】
「発明が解決しようとする課題」において、特開2005−350735号公報に記載の成膜方法は、成膜が基板非加熱で行われている上に基板―ターゲット間距離も160mmと長いため成膜速度が非常に遅く、更に後工程での熱処理(後焼成)等も必要なことから、製造効率上実用的でないことを述べた。成膜速度が遅すぎると、良好な結晶成長が難しく、この方法においても、成膜速度が遅いために、スパッタリングにより成膜された膜は結晶化されておらず、後焼成によって結晶化されている。
【0043】
上記のように、本発明において、基板―ターゲット間距離Dは、良質な圧電膜を製造効率良く、すなわち、速い成膜速度で、かつ安定的に成膜するために100mm以下としている。つまり、本発明の基板―ターゲット間距離Dは、特開2005−350735号公報に記載の成膜方法の対象としている基板−ターゲット間距離に比して短く、従って、本発明によれば、後焼成等の処理を要さずに良質の圧電膜を成膜することができる。
【0044】
本発明は、成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、スパッタリング法等のプラズマを用いる気相成長法により、ターゲットの構成元素を放出させて基板上にターゲットの構成元素からなる圧電膜を成膜する圧電膜の成膜方法において、成膜温度Ts(℃)、及び、基板−ターゲット間距離D(mm)の2つのファクターが膜特性及び成膜速度に対して影響を与えることを明らかにしたものである。
【0045】
本発明の圧電膜の成膜方法によれば、膜特性に対して影響を与える上記2つのファクターと成膜される膜の特性との関係に基づいて、成膜条件を決定する構成としているので、スパッタリング法等のプラズマを用いる気相成長法により良質な圧電膜を安定的に、効率よく成膜することができる。
本発明の圧電膜の成膜方法を採用することで、装置条件が変わっても良質な圧電膜を成膜できる条件を容易に見出すことができ、良質な圧電膜を安定的に成膜することができる。
【0046】
本発明によれば、ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜の成膜において、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることが可能となる。本発明によれば、PZT等のPb含有ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜の成膜において、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することが可能となる。
【0047】
「圧電膜」
上記の本発明の圧電膜の成膜方法を適用することで、以下の本発明の圧電膜を提供することができる。
すなわち、本発明の圧電膜は、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜(不可避不純物を含んでいてもよい。)において、
成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、プラズマを用いて、前記ターゲットの構成元素を放出させ、該ターゲットの構成元素からなる膜を成膜する気相成長法により成膜されたものであり、
かつ、下記式(1)及び(2)、又は(3)及び(4)を充足する成膜条件で成膜されたものであることを特徴とするものである。
一般式A・・・(P)、
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
aが1.0であり、かつbが1.0である場合が標準であるが、aとbはペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)、
400≦Ts(℃)≦500・・・(1)、
30≦D(mm)≦80・・・(2)
【0048】
また、本発明の圧電膜は、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜(不可避不純物を含んでいてもよい。)において、
プラズマを用いる気相成長法により圧電膜を成膜する成膜方法であって、
プラズマ用いて、前記圧電膜の組成に応じた組成の材料からなるターゲットから、該ターゲットの構成元素を放出させて、前記ターゲットと対向配置された基板に前記ターゲットの構成元素からなる前記圧電膜を成膜する成膜方法によって成膜されたものであり、
下記式(3)及び(4)を充足する条件で成膜されたものであることを特徴とするものである。
一般式A・・・(P)、
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
aが1.0であり、かつbが1.0である場合が標準であるが、aとbはペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)、
500≦Ts(℃)≦600・・・(3)、
30≦D(mm)≦100・・・(4)
【0049】
本発明は、下記一般式(P−1)で表されるPZT又はそのBサイト置換系、及びこれらの混晶系に好ましく適用できる。
Pb(Zrb1Tib2b3)O・・・(P−1)
(式(P−1)中、XはV族及びVI族の元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素である。a>0、b1>0、b2>0、b3≧0。a=1.0であり、かつb1+b2+b3=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
【0050】
本発明によれば、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶構造を有し、しかもPb抜けが抑制され、結晶構造及び膜組成が良好な良質な圧電膜を安定的に提供することができる。
【0051】
本発明によれば、1.0≦aであるPb抜けのない組成の圧電膜を提供することができ、1.0<aであるPbリッチな組成の圧電膜を提供することもできる。aの上限は特に制限なく、本発明者は、1.0≦a≦1.3であれば、圧電性能が良好な圧電膜が得られることを見出している。
【0052】
「圧電素子及びインクジェット式記録ヘッド」
図2を参照して、本発明に係る実施形態の圧電素子及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。図2はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図(圧電素子の厚み方向の断面図)である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0053】
本実施形態の圧電素子2は、基板20上に、下部電極30と圧電膜40と上部電極50とが順次積層された素子であり、圧電膜40に対して、下部電極30と上部電極50とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。
【0054】
下部電極30は基板20の略全面に形成されており、この上に図示手前側から奥側に延びるライン状の凸部41がストライプ状に配列したパターンの圧電膜40が形成され、各凸部41の上に上部電極50が形成されている。
【0055】
圧電膜40のパターンは図示するものに限定されず、適宜設計される。また、圧電膜40は連続膜でも構わない。但し、圧電膜40は、連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部41からなるパターンで形成することで、個々の凸部41の伸縮がスムーズに起こるので、より大きな変位量が得られ、好ましい。
【0056】
基板20としては特に制限なく、シリコン、ガラス、ステンレス(SUS)、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、アルミナ、サファイヤ、シリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板20としては、シリコン基板の表面にSiO酸化膜が形成されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
【0057】
下部電極30の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。
上部電極50の主成分としては特に制限なく、下部電極30で例示した材料、Al,Ta,Cr,及びCu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0058】
圧電膜40は、上記の本発明の圧電膜の成膜方法により成膜された膜である。圧電膜40は、好ましくは、上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜である。
【0059】
下部電極30と上部電極50の厚みは特に制限なく、例えば200nm程度である。圧電膜40の膜厚は特に制限なく、通常1μm以上であり、例えば1〜5μmである。
【0060】
インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)3は、概略、上記構成の圧電素子2の基板20の下面に、振動板60を介して、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)71及びインク室71から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)72を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)70が取り付けられたものである。インク室71は、圧電膜40の凸部41の数及びパターンに対応して、複数設けられている。
【0061】
インクジェット式記録ヘッド3では、圧電素子2の凸部41に印加する電界強度を凸部41ごとに増減させてこれを伸縮させ、これによってインク室71からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
【0062】
本実施形態の圧電素子2及びインクジェット式記録ヘッド3は、以上のように構成されている。
【0063】
「インクジェット式記録装置」
図3及び図4を参照して、上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3を備えたインクジェット式記録装置の構成例について説明する。図3は装置全体図であり、図4は部分上面図である。
【0064】
図示するインクジェット式記録装置100は、インクの色ごとに設けられた複数のインクジェット式記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」という)3K,3C,3M,3Yを有する印字部102と、各ヘッド3K,3C,3M,3Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、印字部102のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送する吸着ベルト搬送部122と、印字部102による印字結果を読み取る印字検出部124と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とから概略構成されている。
【0065】
印字部102をなすヘッド3K,3C,3M,3Yが、各々上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3である。
【0066】
デカール処理部120では、巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム130により記録紙116に熱が与えられて、デカール処理が実施される。
【0067】
ロール紙を使用する装置では、図4のように、デカール処理部120の後段に裁断用のカッター128が設けられ、このカッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター128は、記録紙116の搬送路幅以上の長さを有する固定刃128Aと、該固定刃128Aに沿って移動する丸刃128Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃128Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃128Bが配置される。カット紙を使用する装置では、カッター128は不要である。
【0068】
デカール処理され、カットされた記録紙116は、吸着ベルト搬送部122へと送られる。吸着ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)となるよう構成されている。
【0069】
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示略)が形成されている。ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによってベルト133上の記録紙116が吸着保持される。
【0070】
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図示略)の動力が伝達されることにより、ベルト133は図4上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図4の左から右へと搬送される。
【0071】
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
【0072】
吸着ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部102の上流側に、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後に乾きやすくなる。
【0073】
印字部102は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図4を参照)。各印字ヘッド3K,3C,3M,3Yは、インクジェット式記録装置100が対象とする最大サイズの記録紙116の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0074】
記録紙116の送り方向に沿って上流側から、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド3K,3C,3M,3Yが配置されている。記録紙116を搬送しつつ各ヘッド3K,3C,3M,3Yからそれぞれ色インクを吐出することにより、記録紙116上にカラー画像が記録される。
【0075】
印字検出部124は、印字部102の打滴結果を撮像するラインセンサ等からなり、ラインセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まり等の吐出不良を検出する。
【0076】
印字検出部124の後段には、印字された画像面を乾燥させる加熱ファン等からなる後乾燥部142が設けられている。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けた方が好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
【0077】
後乾燥部142の後段には、画像表面の光沢度を制御するために、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144では、画像面を加熱しながら、所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で画像面を加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0078】
こうして得られたプリント物は、排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット式記録装置100では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り替える選別手段(図示略)が設けられている。
大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列にプリントする場合には、カッター148を設けて、テスト印字の部分を切り離す構成とすればよい。
インクジェット式記録装置100は、以上のように構成されている。
【0079】
(設計変更)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0080】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
図1に示したスパッタリング装置を用い、真空度0.5Pa、Ar/O混合雰囲気(O体積分率2.5%)の条件下で、Pb1.3Zr0.52Ti0.48のターゲットを用いて、PZT又はNbドープPZTからなる圧電膜の成膜を行った。以降、NbドープPZTは「Nb−PZT膜」と略記する。
【0081】
成膜基板として、Siウエハ上に30μm厚のTi密着層と150nm厚のIr下部電極とが順次積層された電極付き基板を用意した。
【0082】
成膜温度Tsを525℃とし、ターゲットに2.5W/cmのrf電力を印加し、基板−ターゲット間距離D(mm)=40,60,80,100,120mmの条件で成膜を行った。基板−ターゲット間距離D=60mmではNb−PZT膜を成膜し、それ以外のDにおいてはPZT膜を成膜した。
【0083】
ターゲットに同じ電力が印加されていても、基板―ターゲット間距離Dが近いほど成膜速度が速くなる。成膜温度Ts=525℃とし、ターゲットへの印加電力(rf電力)を2.5W/cmとした時の基板―ターゲット間距離Dと成膜速度との関係を図5に示す。図5によれば、例えば基板―ターゲット間距離D(mm)=60の時の成膜速度は1.0μm/hである。
【0084】
得られた膜について、X線回折(XRD)測定を実施した。得られた主な膜のXRDパターンを図6〜図10に示す。
図6〜図10に示すように、成膜温度Ts=525℃の条件では、基板−ターゲット間距離D=40mm〜100mmの範囲内において、結晶配向性を有するペロブスカイト結晶が得られた。図5に対応させると、成膜速度0.5μm/h〜1.2μm/hであり、良好な製造効率でペロブスカイト結晶が得られていることになる。
【0085】
基板−ターゲット間距離D=120mm(図10参照)では、パイロクロア相がメインの膜が得られたので、「×」と判定した。この場合は、基板―ターゲット間距離Dが長すぎて、成膜速度が遅くなり、ペロブスカイト成長が十分にできなかったと考えられる。基板−ターゲット間距離D=100mm(図9参照)では、同一条件で調製した他のサンプルではパイロクロア相が見られたため、「▲」と判定した。基板−ターゲット間距離D=40mm(図6参照)の場合も、同様にパイロクロア相が見られるため、「▲」と判定した。基板−ターゲット間距離D=60mm及び75mmにおいて、良好な結晶配向性を有するペロブスカイト結晶が安定的に得られたので、「●」と判定した(図7及び図8参照)。
【0086】
図7に示される圧電膜(D=60mm,Nb−PZT膜)について、XRFによる組成分析を実施した。その結果、図7に示される圧電膜の、Pbのモル量とBサイト元素の合計モル量(Zr+Ti+Nb)との比は、Pb/(Zr+Ti+Nb)=1.02であり、Pb抜けのないNb−PZT膜であることが確認された。
【0087】
このNb−PZT膜について、圧電膜上にPt上部電極をスパッタリング法にて100nm厚で形成し、圧電膜の圧電定数d31を片持ち梁法により測定した。基板―ターゲット間距離D=60mmで成膜したものは((100)配向)、圧電定数d31は250pm/Vと高く、良好であった。
【0088】
図9に示される若干のパイロクロア相を含むPZT膜について(D=100mm)、同様に圧電定数d31の測定を行ったところ、d31=110pm/Vであった。
【0089】
(実施例2)
成膜温度Ts=420℃、基板−ターゲット間距離D=60mmとし、その他の条件は実施例1と同様にしてPZT膜を成膜した。
この条件では、僅かにパイロクロア相を含むものの、(100)配向の、良好な結晶配向性を有するペロブスカイト結晶が得られた。
【0090】
(実施例1及び2の結果のまとめ)
図11に、実施例1及び2のすべてのサンプル及びその他の条件で成膜したサンプルについて、成膜温度Tsを横軸にし、基板―ターゲット間距離Dを縦軸にして、XRD測定結果をプロットした
図11には、PZT膜又はNb−PZT膜においては、下記式(1)及び(2)、又は(3)及び(4)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することができ、結晶構造及び膜組成が良好な良質な圧電膜を安定的に成膜できることが示されている。
400≦Ts(℃)≦500・・・(1)、
30≦D(mm)≦80・・・(2)、
500≦Ts(℃)≦600・・・(3)、
30≦D(mm)≦100・・・(4)
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の圧電膜の成膜方法は、プラズマを用いる気相成長法により膜を成膜する場合に適用することができ、インクジェット式記録ヘッド、強誘電体メモリ(FRAM)、及び圧力センサ等に用いられる圧電膜等の成膜に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】(a)はRFスパッタリング装置の概略断面図、(b)は成膜中の様子を模式的に示す図
【図2】本発明に係る実施形態の圧電素子及びインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造を示す断面図
【図3】図2のインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)を備えたインクジェット式記録装置の構成例を示す図
【図4】図3のインクジェット式記録装置の部分上面図
【図5】実施例1における、基板―ターゲット間距離と成膜速度との関係を示す図
【図6】実施例1で得られた主な圧電膜のXRDパターン
【図7】実施例1で得られた主な圧電膜のXRDパターン
【図8】実施例1で得られた主な圧電膜のXRDパターン
【図9】実施例1で得られた主な圧電膜のXRDパターン
【図10】実施例1で得られた主な圧電膜のXRDパターン
【図11】実施例1及び2のすべてのサンプル及びその他のサンプルについて、成膜温度Tsを横軸にし、基板―ターゲット間距離Dを縦軸にして、XRD測定結果をプロットした図
【符号の説明】
【0093】
1 RFスパッタリング装置(成膜装置)
2 圧電素子
3、3K,3C,3M,3Y インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)
20 基板
30、50 電極
40 圧電膜
70 インクノズル(液体貯留吐出部材)
71 インク室(液体貯留室)
72 インク吐出口(液体吐出口)
100 インクジェット式記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、プラズマを用いるスパッタリング法により、前記ターゲットの構成元素を放出させ、前記基板上に前記ターゲットの構成元素からなり、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)圧電膜を成膜する方法において、
前記ターゲットとして該ターゲットの組成のうち、Pb以外の元素の組成が、成膜する前記圧電膜の組成と略同一であり、且つ、Pbの組成が、前記成膜中に脱離するPbを含む前記圧電膜の組成と略同一であるターゲットを用い、
下記式(1)及び(2)を充足する範囲で成膜条件を決定することを特徴とする圧電膜の成膜方法。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
aが1.0であり、かつbが1.0である場合が標準であるが、aとbはペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)、
400≦Ts(℃)≦500・・・(1)、
30≦D(mm)≦80・・・(2)
(式(1)及び(2)中、Ts(℃)は成膜温度、D(mm)は基板とターゲットとの離間距離である。)
【請求項2】
成膜する膜の組成に応じた組成のターゲットと基板とを対向配置させ、プラズマを用いるスパッタリング法により、前記ターゲットの構成元素を放出させ、前記基板上に前記ターゲットの構成元素からなり、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)圧電膜を成膜する方法において、
前記ターゲットとして該ターゲットの組成のうち、Pb以外の元素の組成が、成膜する前記圧電膜の組成と略同一であり、且つ、Pbの組成が、前記成膜中に脱離するPbを含む前記圧電膜の組成と略同一であるターゲットを用い、
下記式(3)及び(4)を充足する範囲で成膜条件を決定することを特徴とする圧電膜の成膜方法。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
aが1.0であり、かつbが1.0である場合が標準であるが、aとbはペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)、
500≦Ts(℃)≦525・・・(3)、
60≦D(mm)≦75・・・(4)
(式(3)及び(4)中、Ts(℃)は成膜温度、D(mm)は基板とターゲットとの離間距離である。)
【請求項3】
下記式(1)及び(5)を充足する範囲で成膜条件を決定することを特徴とする請求項1に記載の圧電膜の成膜方法。
400≦Ts(℃)≦500・・・(1)、
40≦D(mm)≦75・・・(5)
(式(1)及び(5)中、Ts(℃)は成膜温度、D(mm)は基板とターゲットとの離間距離である。)
【請求項4】
0.5μm/h以上の成膜速度で成膜を実施することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧電膜の成膜方法。
【請求項5】
前記1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物が、下記式(P−1)で表されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の圧電膜の成膜方法。
Pb(Zrb1Tib2b3)O・・・(P−1)
(式(P−1)中、XはV族及びVI族の元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素である。a>0、b1>0、b2>0、b3≧0。a=1.0であり、かつb1+b2+b3=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−261061(P2008−261061A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185739(P2008−185739)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【分割の表示】特願2006−263979(P2006−263979)の分割
【原出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】