説明

圧電薄膜付き基板及びその製造方法

【課題】非破壊で圧電薄膜の特性評価を可能にする圧電薄膜付き基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板5上に下部電極層6が形成され、下部電極層6上にペロブスカイト構造の圧電薄膜2が形成された圧電薄膜付き基板1において、下部電極層6上に形成される圧電薄膜2が下部電極層6よりも狭い面積で形成されることにより、圧電薄膜2を除去することなく下部電極層6の一部が圧電薄膜2から露出している下部電極露出部3が下部電極層6に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト構造の圧電薄膜が付いた圧電薄膜付き基板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電体は種々の目的に応じて様々な圧電素子に加工され、特に圧電素子に電圧を加えて変形を生じさせるアクチュエータや、逆に圧電素子の変形により発生する電圧を検知するセンサなどの機能性電子部品として広く利用されている。アクチュエータやセンサの用途に利用されている圧電体としては、優れた圧電特性を有する鉛系材料の誘電体、特に組成式:Pb(Zr1−xTi)Oで表されるPZT系のペロブスカイト型強誘電体がこれまで広く用いられており、通常個々の元素からなる酸化物を焼結することにより形成されている。現在、各種電子部品の小型化、高性能化が進むにつれ、圧電素子においても小型化、高性能化が強く求められるようになった。
【0003】
しかしながら、従来からの製法である焼結法を中心とした製造方法により作製した圧電材料は、その厚さを薄くするにつれ、特に厚さが10μm程度の厚さに近づくにつれて、材料を構成する結晶粒の大きさに近づき、その影響が無視できなくなる。そのため、特性のばらつきや劣化が顕著になるといった問題が発生し、それを回避するために、焼結法に変わる薄膜技術等を応用した圧電薄膜の形成法が近年研究されるようになってきた。最近、シリコン基板上にスパッタリング法で形成したPZT薄膜が、高速高精細のインクジェットプリンタヘッド用アクチュエータの圧電薄膜として実用化されている。
【0004】
PZTから成る圧電薄膜は、鉛を60〜70重量%程度含有しているので、生態学的見地および公害防止の面から好ましくない。そこで、環境への配慮から鉛を含有しない圧電薄膜の開発が望まれている。現在、様々な非鉛圧電材料が研究されているが、その中に、組成式:(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるニオブ酸カリウムナトリウム(以降、「KNN」とも記す)がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。KNN薄膜も、スパッタリング法、PLD法等の成膜方法で、MgO基板、SrTiO基板、Si基板等の基板上への成膜が試されている。このKNNは、ペロブスカイト構造を有する材料であり、非鉛の材料としては比較的良好な圧電特性を示すため、非鉛圧電材料の有力な候補として期待されている。
【0005】
ところで、薄膜技術によって圧電薄膜を成膜した場合、装置構造や成膜条件、装置や原料の経時的な変化によって、同一基板の面内や成膜の各ロット間、多数枚同時成膜の場合はロット内の基板間で、膜の特性にばらつきが出ることがある。特に基板径が大きくなると基板の中心から径方向への特性分布が大きくなる可能性がある。このような同一基板の面内に特性分布があると、素子化したときの基板1枚からの素子取得率が低下し、コストの面で大きな問題になる。同様に基板間に特性分布がある場合も、歩留りの低下を招き、問題となる。そこで、圧電薄膜の特性評価が重要になる。
【0006】
圧電薄膜の特性評価は、圧電薄膜の上下に電極を付け、その電極間に電圧を印加し、絶縁特性や誘電率特性、圧電特性を測定する。しかしながら、従来の圧電薄膜付きの基板は、下部電極が圧電薄膜に覆われているため、そのまま評価することは困難である。したがって、評価に必要な領域を基板から切り出して簡易的な素子を作製して測定したり(特許文献2)、圧電薄膜成膜後にフォトリソグラフィーやエッチング処理を用いて圧電薄膜の一部分を除去し、下部電極が露出するような構造を作製して測定したりしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−184513号公報
【特許文献2】特開2008−159807号公報(段落0038、図6参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の圧電薄膜評価のための作業は、工程が長く、またそれぞれに熟練やノウハウが必要であるため、基板径が大きくなり測定点が増えると、作業量が多くなり大きな負担となる。また、従来技術の評価方法は、破壊検査となるので、評価した圧電体薄膜付き基板は、そのまま製品として売ることが出来なくなってしまう。非破壊で作業量の少ない簡易的な評価方法を必要とするのは、PZT薄膜のみならずKNN薄膜にも共通する。
【0009】
本発明の目的は、非破壊で圧電薄膜の特性評価を可能にする圧電薄膜付き基板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施の態様によれば、基板上に下部電極層が形成され、前記下部電極層上にペロブスカイト構造の圧電薄膜が形成された圧電薄膜付き基板において、前記下部電極層上に形成される前記圧電薄膜が前記下部電極層よりも狭い面積で形成され、前記下部電極層上に下部電極露出部が設けられる圧電薄膜付き基板が提供される。
【0011】
この場合、前記下部電極層の外周部が露出するよう前記下部電極露出部が設けられるのが好ましい。さらに、前記外周部に形成される前記下部電極露出部の幅が、前記基板の外径Dに対して、0.005×D以上0.05×D以下であることが好ましい。また、前記ペロブスカイト構造の圧電薄膜が、一般式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるニオブ酸カリウムナトリウムであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の他の態様によれば、上述した圧電薄膜付き基板の製造方法であって、前記圧電薄膜上に幅が0.5mm以上5.0mm以下の上部電極を形成し、下部電極露出部と前記上部電極との間に電圧を印加することで、前記圧電薄膜の特性を検査する工程を含む圧電薄膜付き基板の製造方法が提供される。
【0013】
この場合、前記上部電極は、前記圧電薄膜の中央部に形成される第1上部電極と、前記第1上部電極から等間隔の距離に形成される複数の第2上部電極とからなることが好ましい。
【0014】
また、本発明の別な態様によれば、前記下部電極層上の一部を遮蔽治具により覆い、前記遮蔽治具に覆われていない前記下部電極層の他部にペロブスカイト構造の圧電薄膜を形成することで、前記下部電極層の一部に圧電薄膜が形成されない下部電極露出部を形成し、前記圧電薄膜の形成後、前記遮蔽治具を除去することで、前記下部電極層の一部に形成されている下部電極露出部を露出させる圧電薄膜付き基板の製造方法が提供される。
【0015】
この場合、前記外周部に形成される前記下部電極露出部の幅が、前記基板の外径Dに対して、0.005×D以上0.05×D以下であることが好ましい。また、前記圧電薄膜の形成温度の範囲における前記遮蔽治具の線膨張係数αと前記基板の線膨張係数αが、1≦α/α≦4であることが好ましい。さらに、前記ペロブスカイト構造の圧電薄膜が、一般式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるニオブ酸カリウムナトリウムであるのがよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非破壊で圧電薄膜の特性評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る圧電体薄膜付き基板の説明図であって、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る圧電体薄膜付き基板の製造工程の概略を示す工程フロー図である。
【図3】本発明の実施例1〜6で作製した圧電体薄膜付き基板の平面図である。
【図4】比較例4を適用したときの下部電極露出部幅に対する基板表面の有効利用率を示した図である。
【図5】比較例5を適用したときの上部電極幅に対する基板表面の有効利用率を示した図である。
【図6】本発明の実施例の成膜方式の説明図であって、(a)は実施例1〜6のフェイスダウン方式の説明図、(b)は実施例7によるフェイスアップ方式の説明図である。
【図7】本発明の実施例8で作製した圧電体薄膜付き基板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の一実施の形態について述べる。
【0019】
[実施の形態]
本実施の形態の圧電薄膜付き基板は、基板上に下部電極層が形成され、前記下部電極層の上にペロブスカイト構造の圧電薄膜が形成されている。前記下部電極層の上に形成される前記圧電薄膜が前記下部電極層よりも狭い面積で形成されることにより、前記下部電極層の上に前記圧電薄膜が形成されていない下部電極露出部が設けられている。
【0020】
ペロブスカイト構造の圧電薄膜は、各種電子部品の小型化、高性能化の要請に応えるために、その膜厚が0.3μm以上10μm以下であるのがよい。ペロブスカイト構造の圧電薄膜は、PZT系のペロブスカイト型強誘電体薄膜であっても良いが、KNN系のペロブスカイト型強誘電体薄膜であると、鉛フリーの見地からより好ましい。特に、ペロブスカイト構造の圧電薄膜がKNNから構成されていると、鉛を含有しない大口径(例えば4インチサイズ以上)の圧電薄膜付き基板を得ることが可能である。
【0021】
上述した実施の形態によれば、圧電薄膜付き基板には、その後加工処理等することなく、圧電薄膜が形成されていない下部電極露出部が既に設けられているので、圧電薄膜評価のために圧電薄膜付き基板からさらに必要な領域を切り出して素子を簡易的に作製したり、圧電薄膜の一部分を除去して露出させたりすることなく、圧電薄膜付き基板の形状のままで、圧電薄膜付き基板の特性を確実に非破壊で評価することが可能となる。また、非破壊検査となるので、評価した圧電体薄膜付き基板は、そのまま製品として売ることも可能となる。
【0022】
なお、下部電極露出部は、実施の形態によっては、下部電極層の外周部に露出するように設けられることもある。下部電極層の外周部に設けられる場合、その外周部は下部電極層の外周全域であることも、外周の一部の領域であることもある。下部電極露出部が、下部電極層の外周部が露出するよう設けられていると、圧電薄膜付き基板の特性をより確実に非破壊で評価することが可能となる。また、圧電薄膜付き基板の有効使用率の低下を抑えられ、素子取得面積が減少するのを防止できる。
【0023】
また、外周部に形成される前記下部電極露出部の幅は、前記基板の外径Dに対して、0
.005×D以上0.05×D以下であることが好ましい。ここで下部電極露出部の幅とは、下部電極露出部の輪郭幅を意味する。下部電極露出部の幅が0.005×D以上あると、より確実に非破壊で評価することが可能となる。また、0.05×D以下であると、圧電薄膜付き基板の有効使用率の低下を抑えられ、素子取得面積がより減少するのを防止できる。
【0024】
[実施の形態の具体例]
次に、下部電極露出部が、下部電極層の外周部全域に露出するように設けられている実施の形態の具体例について図面を用いて説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係る圧電体薄膜付き基板の説明図であって、図1(a)は平面図、図1(b)は断面図である。
【0026】
本実施の形態に係る圧電体薄膜付き基板1は、基板5と、基板5の第一面側の略全面に形成された下部電極層6と、下部電極層6の基板1側とは反対の第一面側に形成された圧電薄膜2と、圧電薄膜2の下部電極層6と反対の第一面側に部分的に形成された上部電極4とから構成される。
【0027】
上記基板は、例えば熱酸化膜付き(001)面Si基板を用いる。下部電極には例えばPtを用い、下部電極層6と圧電薄膜2との間に介挿される密着層には例えばTiを用いる。上記下部電極層6の第一面側に、圧電薄膜2が形成されていない下部電極層6の外周部全域が露出する下部電極露出部3が設けられている。圧電薄膜2は、下部電極層6の外周部全域に露出される下部電極露出部3の最小幅Wが、基板の外径Dmmに対して、0.005×Dmm以上0.05×Dmm以下の範囲に入るように、該範囲を残して下部電極層6の第一面側に成膜されている。ここで下部電極露出部3の最小幅の最小とは、下部電極露出部の幅は出来るだけ小さい方が有利となることから付けた名前であり、対応する最大幅があるわけではない。
【0028】
この下部電極露出部3は、その後の素子化の際の素子取得面積を考えた場合、出来るだけ小さい方が有利となる。幅Wの上限0.05×Dmm以下とすると、基板全面積に対して、素子が取得できない下部電極露出部3の面積は10%以下となり、この値は許容される範囲となる。
【0029】
また、圧電体薄膜付き基板1は、絶縁特性や誘電率特性、圧電特性などを測定したい圧電薄膜2の第一面の任意の点に、所定の幅の上部電極4を1箇所以上形成した構造となっている。上部電極の最小幅は0.1mm以上5.0mm以下であることが好ましい。ここで上部電極4の幅とは、上部電極4の輪郭幅を意味する。また、上部電極4の最小幅も下部電極露出部の最小幅と同じ意味であり、上部電極の幅は出来るだけ小さい方が有利となることから付けた名前であり、対応する最大幅があるわけではない。上部電極4の最小幅は、例えば、上部電極4の形状が正方形であれば一辺の長さを、円形であれば直径を意味する。この最小幅の範囲は、その後の素子化の際の素子取得面積を考えた場合、出来るだけ小さい方が有利となる。しかし、電極に電圧を印加する際に、先端の尖った端子などを接触させる必要があるので、上部電極があまりに小さい最小幅を持つと、専用の極細端子や高倍率の顕微鏡など特別な設備が必要となる。更に上部電極4は、圧電特性を測定する際に、上部からレーザー光を当て、その反射を測定することで、膜の変位(変形)を測定する場合がある。
【0030】
このように上部電極4は、電圧を印加する領域のほかに、レーザー光を当てる領域も必要となるため、上部電極最小幅が上述した0.5mm以上5.0mm以下の範囲が両者を満足する範囲となる。そして、ここで使用されるレーザー光は、波長700nm程度の赤
色レーザーが使われることが多いため、用いる電極材料としては、波長700nmでの反射率が60%以上の材料であるAg、Al、Au、Cu、Ni、Pt、Rh、または、それらを含む多層膜、または、それらを含む合金を用いる。
【0031】
[圧電薄膜付き基板の製造方法]
次に、本実施の形態に係る圧電体薄膜付き基板の製造方法を説明する。
【0032】
圧電薄膜付き基板の製造方法は、基板の第一面側に下部電極層を形成し、前記下部電極層の第一面側の一部を遮蔽治具により覆う。前記遮蔽治具に覆われていない前記下部電極層の他部にペロブスカイト構造の圧電薄膜を形成するとともに、該圧電薄膜の形成中、前記下部電極層の一部に圧電薄膜が形成されない下部電極露出部を形成する。前記圧電薄膜の形成後、前記遮蔽治具を除去することで、前記下部電極層の一部に形成されている下部電極露出部を露出させる。
【0033】
下部電極層は、例えばスパッタリングまたは蒸着により形成される。下部電極露出部を形成するには、圧電薄膜を形成する際に、下部電極層の外周部全域または一部の領域を遮蔽治具によって保護し、圧電薄膜が成膜されない下部電極層の面を形成する工程を含むようにする。これにより、絶縁特性や誘電率特性、圧電特性を測るときに必要な下部電極露出部を、圧電薄膜の成膜後に圧電薄膜を除去することなく形成することができる。
【0034】
これによれば、圧電薄膜の形成中に、遮蔽治具を用いて下部電極層の一部を遮蔽することにより、特性評価に必要な下部電極露出部を形成するようにしたので、圧電薄膜形成後に下部電極を露出させる工程がなくなる。したがって、圧電薄膜付き基板を非破壊で簡易的な工程で特性を評価できる。評価した圧電膜付き基板が良品であればこれを売ることができる。
【0035】
次に、前記下部電極層の一部が前記下部電極層の外周部全域である場合の圧電薄膜付き基板の製造方法を図面を用いて具体的に説明する。
【0036】
図2は、本実施の形態に係る圧電体薄膜付き基板の製造工程の概略を示す工程フロー図である。
【0037】
熱酸化膜付(001)面Si基板に、蒸着またはスパッタリングで、下部電極層6を成膜した基板5を作製する(図2(a))。作製後、リング状の遮蔽治具7で下部電極付きの基板5を保持する。リング状遮蔽治具7は、中央に円形の開口部9を有するリング状プレートで形成されている。リング状プレートの開口部9は、その上端部が段差面10を介して広口に形成されている。下部電極面を下にして遮蔽治具7の段差面10で電極付き基板5の外周部を保持する(図2(b))。開口部9により露出した下部電極層6の中央部にスパッタリング法でKNN薄膜2を形成し、段差面10で覆われた下部電極層6の周辺部には圧電薄膜が形成されない下部電極露出部3が形成されるようにする(図2(c))。こうすることで、圧電特性等を測るときに必要な下部電極露出部3を、圧電薄膜の成膜後に圧電薄膜を除去することなく、成膜中に形成することが可能となる。
【0038】
上記の圧電薄膜面を上にして、この圧電薄膜2の表面に所定の上部電極の最小幅と同じ寸法の開口8aを形成したメタルマスク8を被せる(図2(d))。メタルマスク8に形成する開口8aは、圧電薄膜2の評価したい任意の点に形成する。メタルマスク8によって形成される所定の上部電極4の最小幅は0.5mm以上5.0mm以下となるようにするのがよい。また、メタルマスク8によって形成される上部電極4は、圧電薄膜2の中央部に形成される第1上部電極と、第1上部電極から等間隔の距離に形成される複数の第2上部電極とからなるのがより好ましい。
【0039】
圧電薄膜2の表面にメタルマスク8を被せた後、蒸着またはスパッタリングで上部電極4を圧電薄膜上に形成して本実施の形態の圧電薄膜付き基板が製造される(図2(e))。こうして上部電極4を形成することで、圧電薄膜の圧電特性を測る際に、レーザー光を照射して膜の変位を測定出来る。また、メタルマスク8を用いて評価したい任意の点に上部電極4を形成することが可能となる。
【0040】
ところで、上述した製造工程の内、圧電体薄膜を成膜する際に用いる所定の開口を持つリング状遮蔽治具7は、前述のように下部電極露出部の最小幅が0.005×Dmm以上で且つ、0.05×Dmm以下になるような場合は、圧電薄膜を成膜する際の成膜温度(例えば20〜800℃)における遮蔽治具の線膨張係数αと、基板の線膨張係数αとが、1≦α/α≦4となるように材質を選ぶ必要がある。これはα/αが1以下になる場合は、高温成膜時に基板の方が治具よりも伸びて、基板が破損する恐れがあり、またα/αが4以上になると、高温成膜時に遮蔽する治具の開口径(内径)が基板の外径よりも大きくなってしまい、下部電極露出部が出来なくなってしまうためである。
【0041】
本実施の形態の製造方法によれば、圧電体薄膜付き基板の外周全域、若しくは一部に、下部電極層よりも狭い面積の圧電薄膜が成膜されるように、圧電膜の成膜中に下部電極上の成膜面を遮蔽して、基板の外径Dに対して、最小幅が0.005×Dmm以上0.05×Dmm以下となる下部電極露出部を有する圧電薄膜付き基板を作製する。これにより、圧電薄膜付き基板を作製後に、圧電膜の評価の際に必要だったフォトリソグラフィーやエッチング処理などの圧電薄膜除去工程を省略することが可能となる。これにより、圧電膜の評価に必要なプロセス工程を大幅に簡略化できる。これに加え、それらプロセス工程で発生する不良による歩留り低下も回避することができ、また、フォトリソグラフィーやエッチング処理には大掛かりな設備が必要であるが、それらも不要になるため、圧電体薄膜付き基板及びその基板を用いた圧電体素子の製造コストを大幅に下げることが可能となる。
【0042】
そして、上記のような、下部電極が露出した構造を持ち、圧電体薄膜付き基板の圧電膜上の評価が必要な箇所に、最小幅が0.5mm以上5.0mm以下の上部電極を有する構造にすることで、基板内の任意の場所の圧電膜の評価が、非破壊で実現できるようになる。
【0043】
また、上述した工程を経て得られた圧電薄膜付き基板は、その後加工処理することなく、そのままの状態で評価に必要な下部電極露出部と上部電極とを有するので、本実施の圧電薄膜付き基板の製造方法に、下部電極露出部と上部電極との間に電圧を印加することで、圧電薄膜の特性を検査する工程を含ませることが可能となる。製造工程中に圧電薄膜の特性を検査する工程を組み込めるので、特性ばらつきを抑えるような成膜条件になるようフィードバックが可能となる。
【0044】
したがって、装置構造や成膜条件、装置や原料の経時的な変化によって、同一基板の面内や成膜の各ロット間、多数枚同時成膜の場合でもロット内の基板間で、膜の特性を均一化できる。特に、圧電薄膜の中央部に第1上部電極、前記第1上部電極から等間隔の距離に複数の第2上部電極を形成すると、圧電薄膜付き基板の圧電薄膜上の面内特性評価が必要な箇所をカバーできる。そのため、基板が大口径化したときでも面内分布や基板間の特性のばらつきを抑えることが可能となり、素子化したときの基板1枚からの素子取得率が増加し、歩留りを向上でき、低コスト化が図れる。その結果、安定して特性ばらつきの少ない高品質な圧電体薄膜付き基板及びその基板を用いた圧電体素子を供給することが可能となる。
【0045】
[他の実施の形態]
本発明の実施の形態では、下部電極にPtを用いたが、Ptを含む合金、Au、Ru、Ir、又は、SuRuO、LaNiO、などの金属酸化物電極を用いた場合も同様の効果が期待できる。また密着層にTiを用いたが、Taを密着層に用いたり、密着層なしであったりする場合でも同様の効果が期待できる。基板についても、熱酸化膜付き(001)面Si基板を用いたが、異なる面方位のSi基板や、熱酸化膜無しのSi基板、SOI基板でも同様の効果が得られる。また、Si基板以外に、石英ガラス基板、GaAs基板、サファイヤ基板、ステンレスなどの金属基板、MgO基板、SrTiO基板、又はKNN基板などの圧電性基板などを用いてもよい。KNN膜は特に他の元素を添加していないが、5%原子数以下のLi、Ta、Sb、Ca、Cu、Ba、Ti、等をKNN膜に添加した場合でも同様の効果が得られる。
【0046】
また、実施の形態では、上部電極形成の際にメタルマスクを使用したが、コストをかけることを前提とすれば、フォトリソグラフィーの工程を使って、更に小さい上部電極にすることは可能である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例1〜6および比較例1〜5のSi基板上に形成した膜厚3μmのKNN薄膜を作製し圧電特性を評価した例を説明する。
【0048】
[KNN薄膜の成膜]
前記した本実施の形態に係る製造方法により、圧電体薄膜付き基板を作製した。基板には円形状の両面ミラーの熱酸化膜付きSi基板((001)面方位、厚さ0.525mm、熱酸化膜厚さ200nm、直径100mm)を用いた。まず、基板上にRFマグネトロンスパッタリング法で、Ti密着層(膜厚2nm)、Pt下部電極((111)面優先配向、膜厚200nm)を形成した。Ti密着層とPt下部電極は、基板温度100〜350℃、放電パワー200W、導入ガスAr雰囲気、圧力2.5Pa、成膜時間1〜3分の条件で成膜した。
【0049】
[実施例1〜6]
その上に、下部電極露出部最小幅が1mm、0.5mm、5mmになるように、RFマグネトロンスパッタリング法で、KNN薄膜を3μm形成した。KNN圧電薄膜は、Na/(K+Na)=0.50のKNN焼結体をターゲットに用い、基板温度700℃、放電パワー800W、導入ガスAr雰囲気、圧力1.3Paの条件で、成膜面を鉛直方向下向きに成膜した。KNN薄膜のスパッタ成膜時間は膜厚がほぼ3μmになるように調整して行った。このときの成膜中に用いる下部電極露出部を遮蔽する遮蔽治具は、下部電極露出部最小幅が0.5mmのものは、インコネル625(α/α=3.41)とカーボン(α/α=1.14)、1mm、5mmのものはインコネル625をそれぞれ使用した。
【0050】
その後、形成したKNN薄膜の上の、図3に示すような位置に、径0.5mm、1mm、5mmの円形の上部電極が形成されるようなメタルマスクを乗せた。上部電極は、面内任意の5点、例えば、第1上部電極が圧電薄膜の中央部(座標(0,0))に、複数の第2上部電極が第1上部電極から所定距離離れた、例えば40mm離れた圧電薄膜の周辺部(座標(0,40)、(40,0)、(0,−40)、座標(−40,0)に等間隔に形成される。このようなメタルマスクを乗せ、例えばPt上部電極(膜厚20nm)をRFマグネトロンスパッタリング法で形成した。これら、下部電極露出部の最小幅が異なるもの、治具の材質が異なるもの、上部電極の径が異なるものの組合せで、実施例1〜6の圧電薄膜付き基板を作製した。
【0051】
[比較例1〜5]
一方、比較例として、下部電極露出部最小幅が0.5mm、1mm、6mmで成膜中に用いる下部電極露出部を遮蔽する治具の材質がインコネル625(α/α=3.41)であるものと、下部電極露出部最小幅が0.5mmで、成膜中に用いる下部電極露出部を遮蔽する治具の材質が、SUS304(α/α=4.56)、石英(α/α=0.11)のものを使用した。
【0052】
その後、形成したKNN薄膜の上に、図3に示すような位置に、上部電極の径が1mm、0.2mm、6mmとなるようなメタルマスクを乗せ、Pt上部電極(膜厚20nm)をRFマグネトロンスパッタリング法で形成した。下部電極露出部最小幅が異なるもの、治具の材質が異なるもの、上部電極の最小幅が異なるものの組合せで、比較例1〜5の圧電薄膜付き基板を作製した。
【0053】
[圧電特性評価]
その後、作製したKNN薄膜付き基板を、ダブルレーザービーム干渉計を用いて、電圧の印可と同方向(縦方向)の歪みを測定し、圧電定数d33をその歪み量から求めた。このダブルレーザービーム干渉計は、通常、基板表面のみにレーザービームを当てて、歪みを測定すると、基板のたわみ変形の分も一緒に測定されてしまうものを、裏面からもレーザービームを当てて、この基板のたわみ分を相殺できる。このダブルビームレーザー干渉計を用いた圧電定数d33の算出方法及び、装置の構成、測定方法は下記文献1及び文献2に記載されている方法で行った。また、圧電定数d33の算出する際に用いるKNN薄膜のヤング率は104GPaを用いた。
【0054】
文献1:眞岩 宏司、一ノ瀬 昇、応用物理 第71巻 第10号(2002)1227−1232
文献2:H.Maiwa、J.A.Christman、S−H.Kim、J−P.Maria、B.Chen、S.K.Streiffer and A.I.Kingon:Jpn.J.Appl.Phys.38、5402(1999)
【0055】
このようにして測定した実施例1〜6は、表1に示すように、圧電体薄膜付き基板の面内任意の5点の圧電特性が、いずれも良好(○)であった。したがって、非破壊でフォトリソグラフィーやエッチングなどの大掛かりな設備を必要としない簡易的な評価方法で測定が可能である。
【0056】
【表1】

【0057】
一方、比較例1〜5は、表2に示すように、いずれも評価結果が悪かった(×)。α/αが4以上となるSUS304を用いた比較例1では、表2に示すように、成膜中の加熱で、治具の開口径が基板径よりも大きくなってしまい本実施例の基板成膜面を下にした製造方法では、基板が落下してしまい測定が出来なかった。
【0058】
【表2】

【0059】
また、α/αが1以下となる石英を用いた比較例2では、成膜中の加熱で、治具の基板保持部が基板径よりも小さくなってしまい基板が割れてしまい測定が出来なかった。
【0060】
更に、上部電極径を0.2mmとした比較例3では、メタルマスクによるスパッタリング法では、所望のサイズの電極が形成できず測定不可となった。
【0061】
また、下部電極露出部を0.05×Dmm以上(本実施例では、基板径=100mmな
ので6mmは0.05×Dmm以上)にした比較例4では、実施例1〜6と同様に基板面内の任意の点について圧電特性の測定が可能である。しかし図4に示すように基板表面の有効使用率と下部電極露出部最小幅の関係を見ると、基板径100mmの場合、下部電極露出部最小幅が5mm以上(0.05×Dmm以上)になると有効使用率が90%以下になってしまう。有効使用率が90%以下になると実際の素子の取得効率が大きく減少するので、90%以上が望まれる。よって比較例4は測定可能であるが、適用不可となる。
【0062】
また、同様に上部電極径を6mm(5mm以上)にした比較例5では、今回の面内5点の場合は、有効使用率が90%以上である。しかし、図5に示すように基板表面の有効使用率と上部電極露出部最小幅の関係を見ると、測定点を9点以上にすると90%を下回る。よって前述、下部電極露出部の場合と同様に、適用不可となる。
【0063】
[実施例7]
更に、実施例1〜6では、図6(a)に示すように成膜方式にフェイスダウン方式を採用して成膜面を鉛直方向下向きKNN膜を成膜しているが、図6(b)に示すように、フェイスアップ方式を採用して成膜面を鉛直方向上向きにして、下部電極露出部3を遮蔽する治具7を基板5上に乗せて成膜する製造方法を用いてもよい。フェイスダウン方式は、リング状遮蔽治具上に基板を支持できるため基板保持用金具を必要としない。これに対して、実施例7で採用したフェイスアップ方式は、遮蔽治具では基板を支持できないため、基板保持用部材としての基板保持用金具(図示略)を必要とするが、実施例1〜6と同様の非破壊評価が行える効果がある。
【0064】
[実施例8]
また、実施例1〜6では、基板外周全域に下部電極露出部があるが、実施例8の下部電極露出部を遮蔽する治具の形状を図7に示すように、下部電極露出部3aが外周部の一部分のみにある場合でもよい。実施例8によれば、実施例1〜7と比べて圧電薄膜付き基板の有効使用率がさらに向上する。
[変形例]
上記実施例では、円形のシリコン基板を用いて圧電薄膜付き基板を形成したが、円形状の基板に限定されることなく、多角形状を用いても良い。多角形状の基板を用いる場合には、もっとも長い対角線をD’として、下部電極露出部の幅を0.005D’以上0.05D’以下となるよう決定すればよい。また、上記実施例では、4インチ円形状基板を用いて説明したが、4インチサイズ以上の基板、例えば、6インチサイズや12インチサイズであっても、本発明の適用は可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 圧電体薄膜付き基板
2 圧電薄膜部
3 下部電極露出部
4 上部電極
5 基板
6 下部電極
7 下部電極露出部を遮蔽する治具
8 所定の上部電極幅の開口を持つメタルマスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に下部電極層が形成され、該下部電極層上にペロブスカイト構造の圧電薄膜が形成された圧電薄膜付き基板において、
前記下部電極層上に形成される前記圧電薄膜が前記下部電極層よりも狭い面積で形成されることにより、前記下部電極層の一部が該圧電薄膜から露出している下部電極露出部が前記下部電極層に設けられている圧電薄膜付き基板。
【請求項2】
請求項1に記載の前記圧電薄膜付き基板において、前記下部電極層の外周部が露出するよう前記下部電極露出部が設けられる圧電薄膜付き基板。
【請求項3】
請求項2に記載の前記圧電薄膜付き基板において、前記外周部に形成される前記下部電極露出部の幅が、前記基板の外径Dに対して、0.005×D以上0.05×D以下である圧電薄膜付き基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の前記圧電薄膜付き基板において、前記ペロブスカイト構造の圧電薄膜が、一般式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるニオブ酸カリウムナトリウムである圧電薄膜付き基板。
【請求項5】
基板上に下部電極層を形成し、
前記下部電極層の一部を遮蔽治具により覆うとともに、
前記遮蔽治具に覆われていない前記下部電極層の他部にペロブスカイト構造の圧電薄膜を形成することで、前記下部電極層の一部に圧電薄膜が形成されない下部電極露出部を形成し、
前記圧電薄膜の形成後、前記遮蔽治具を除去することで、前記下部電極層の一部に形成されている下部電極露出部を露出させる圧電薄膜付き基板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の前記圧電薄膜付き基板の製造方法において、前記下部電極層の一部が前記下部電極層の外周部であり、該外周部に形成される前記下部電極露出部の幅が、前記基板の外径Dに対して、0.005×D以上0.05×D以下である圧電薄膜付き基板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の前記圧電薄膜付き基板の製造方法において、
前記圧電薄膜の形成温度の範囲における前記遮蔽治具の線膨張係数αと前記基板の線膨張係数αが、1≦α/α≦4である圧電薄膜付き基板の製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれかに記載の前記圧電薄膜付き基板の製造方法であって、
前記圧電薄膜上に幅が0.5mm以上5.0mm以下の上部電極を形成し、下部電極露出部と前記上部電極との間に電圧を印加することで、前記圧電薄膜の特性を検査する工程を含む圧電薄膜付き基板の製造方法。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれかに記載の前記圧電薄膜付き基板の製造方法において、前記上部電極は、前記圧電薄膜の中央部に形成される第1上部電極と、前記第1上部電極から等間隔の距離に形成される複数の第2上部電極とからなる圧電薄膜付き基板の製造方法。
【請求項10】
請求項5ないし9のいずれかに記載の前記圧電薄膜付き基板の製造方法において、前記ペロブスカイト構造の圧電薄膜が、一般式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるニオブ酸カリウムナトリウムである圧電薄膜付き基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−54317(P2012−54317A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194132(P2010−194132)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】