説明

地域熱供給システム

【課題】熱供給プラントの運転停止後、その運転が再開された時に、需要家の受入設備側に供給される熱媒体の温度を適正温度に保持する。
【解決手段】 本発明は、熱媒体の熱源設備8,20を備えた複数の熱供給プラント1,2と需要家X,Yの受入設備3,4とが、地域熱循環設備5を介して接続されて構成された地域熱供給システムであって、熱供給プラント1,2には、熱源設備8,20を迂回するようにバイパス配管12,24が設けられ、バイパス配管12,24には制御弁13,25が設けられ、制御弁13,25は、熱源設備8,20の停止中に開放可能なように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱供給プラントと需要家の受入設備とを地域熱循環設備により接続して構成される地域熱供給システムに関し、特に、複数の熱供給プラントを備えた地域熱供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商業施設やマンション等の各ビル群が設置される地域において、ビル毎にそれぞれ個別に冷凍機やボイラ等の冷暖房や給湯用の熱源設備を設置する代わりに、これらのビル群を含む地域全体に対する熱源設備として、特定の場所に熱供給プラントを設置し、該熱供給プラントから各ビルの受入設備に対して、冷水や温水等の熱媒体を供給する地域熱供給システムが注目されている。
【0003】
この従来の地域熱供給システムの一例として、複数の熱供給プラントが連系して接続されたものがあり、この種の地域熱供給システムでは、各熱供給プラントに、それぞれ、冷凍機やボイラ等の熱源設備や圧送ポンプ等の圧送設備が設けられ、各熱供給プラント同士は、地域熱循環設備を介して、接続されている。
【0004】
そして、このような構成を備えた地域熱供給システムにおいて、各熱供給プラントからは、需要家の受入設備側の負荷に応じて、所要流量の熱媒体が、地域熱循環設備を介して、各需要家の受入設備にそれぞれ供給されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−153381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の地域熱供給システムでは、その運転条件によっては低負荷時等に、一部の熱供給プラントにおいて熱源装置をまったく運転しない状態が発生することがある。このような場合、熱源設備が停止した熱供給プラントでは、熱源設備や配管系内の保有水の温度が熱損失により上昇或いは下降するため、熱供給プラントの運転再開時に、この保有水が地域熱循環設備を介して需要家の受入設備に供給されると、該受入設備側の熱媒体の温度が所要温度より上昇或いは下降してしまい、熱供給規定(条件)を満足できないといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、熱供給プラントの運転停止後、その運転が再開された時に、需要家の受入設備側に供給される熱媒体の温度を適正温度に保持することのできる地域熱供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、熱媒体の熱源設備を備えた複数の熱供給プラントと需要家の受入設備とが、地域熱循環設備を介して接続されて構成された地域熱供給システムであって、前記熱供給プラントには、前記熱源設備を迂回するようにバイパス配管が設けられ、該バイパス配管には制御弁が設けられ、該制御弁は、前記熱源設備の停止中に開放可能なように構成されていることを特徴とする。
【0008】
さらに、前記バイパス配管及び前記制御弁は、前記各熱供給プラントにそれぞれ1箇所ずつ設けられている。
【0009】
また、本発明の地域熱供給システムには、前記熱供給プラント内を流通する熱媒体の温度を計測する温度計測手段が設けられており、前記制御弁は、前記温度計測手段による前記熱媒体の温度の計測結果に基づき、開閉可能なように構成されていてもよい。
【0010】
また、本発明の地域熱供給システムには、前記熱供給プラントの停止条件と連動して予め設定した時間に作動するタイマーが設けられており、前記制御弁は、前記タイマーの作動に基づき、開閉可能なように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る地域熱供給システムによれば、一部の熱供給プラントが運転を停止しても、熱媒体は、バイパス配管を通って、停止中の熱供給プラント内を循環するようになっているため、停止していた熱供給プラントの運転再開時に、その保有水がシステム内に流入しても、システム内において、熱媒体の温度の上昇或いは下降を抑制することができ、熱媒体の温度を適正温度に保持することができる。したがって、熱供給規定(条件)を満足できないといった問題の発生を防止することができ、システムの信頼性の向上を図ることができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムについて説明する。ここで、図1は、本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムの構成を示すシステム図である。なお、以下の説明では、熱媒体として冷水を使用した場合について例示して説明する。
【0013】
本実施の形態に係る地域熱供給システムは、第1熱供給プラント1及び第2熱供給プラント2と、複数の需要家X,Yの受入設備3,4とが、地域熱循環設備5により、連系して接続されて構成されている。
【0014】
第1熱供給プラント1には、冷凍機8(1〜複数台)、冷水圧送ポンプ9(1〜複数台)、流量調整弁10が順次直列に接続される熱源配管11と、熱源配管11を迂回するように往路配管14と還路配管15との間に接続されるバイパス配管12とが設けられている。そして、バイパス配管12には、制御弁13が設けられており、この制御弁13は、第1熱供給プラント1の停止条件と連動して冷凍機8(1〜複数台)の停止中に開放され、その運転中は閉塞されるように制御される。
【0015】
また、第1熱供給プラント1には、往路配管14と還路配管15との間に差圧調整配管16が分岐して接続されている。この差圧調整配管16には、差圧調整弁17が設けられていると共に、往路配管14と還路配管15間の差圧を検出するため、差圧検出器18が設けられており、この差圧検出器18により検出された差圧に基づき、差圧調整弁17の開度が制御されるようになっている。
【0016】
さらに、差圧調整配管16の還路配管15側には、加圧装置として、加圧タンク19が接続されており、この加圧タンク19により、冷水圧送ポンプ9(1〜複数台)の稼動中に配管系内が飽和圧力以下になるのを防止できるようになっている。なお、加圧装置としては、この加圧タンク19に限定されるものではなく、例えば、静水頭加圧法等、他の装置を使用することもできる。
【0017】
一方、第2熱供給プラント2には、上記した第1熱供給プラント1の場合と同様に、冷凍機20、冷水圧送ポンプ21、流量調整弁22が順次、熱源配管23に接続されていると共に、バイパス配管24に制御弁25が設けられている。また、往路配管26と還路配管27との間に分岐接続された差圧調整配管28には、差圧調整弁29及び差圧検出器31がそれぞれ設けられ、還路配管27には加圧タンク30が設けられている。
【0018】
なお、上記したバイパス配管12,24及び制御弁13,25は、各熱供給プラント1,2にそれぞれ1箇所ずつ設けられている。
【0019】
地域熱循環設備5には、往路系統6と還路系統7が設けられており、往路系統6は、第1及び第2熱供給プラント1,2の各往路配管14,26にそれぞれ接続され、還路系統7は、第1及び第2熱供給プラント1,2の各還路配管15,27にそれぞれ接続されている。これにより、各需要家設備X,Yの受入設備3,4には、第1熱供給プラント1と第2熱供給プラント2のいずれの熱供給プラントからも冷水を供給可能となっている。
【0020】
次に、図2及び図3を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムの作用について説明する。ここで、図2は、本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムにおいて、両方の熱供給プラント1,2が運転中の場合の作用を示すシステム図、図3は、一方の熱供給プラント2が停止中の場合の作用を示すシステム図である。
【0021】
先ず、図2に示すように、第1及び第2熱供給プラント1,2において冷凍機8,20(いずれも1〜複数台)がそれぞれ運転されている場合、各熱供給プラント1,2では、その運転信号を受けて、冷水圧送ポンプ9,21(いずれも1〜複数台)が運転されると共に流量調整弁10,22が開放され、制御弁13,25が閉塞される。これにより、各熱供給プラント1,2において、冷水は、それぞれ熱源配管11,23を流通するようになる。
【0022】
この時、第1熱供給プラント1では、差圧検出器18により往路配管14と還路配管15間の差圧が検出され、その検出信号を受けて、差圧調整弁17の開度が制御されると共に、第2熱供給プラント2では、差圧検出器31により往路配管26と還路配管27間の差圧が検出され、その検出信号を受けて、差圧調整弁29の開度が制御される。これにより、各熱源配管11,23を流通した冷水は、それぞれ往路配管14,26に流入後、所定熱量分の流量が地域熱循環設備5の往路系統6に流入し、その残部は各差圧調整配管16,28を通って還路配管15,27に還流する。
【0023】
そして、地域熱循環設備5の往路系統6に流入した冷水は、各需要家X,Yの受入設備3,4に供給され、例えば、需要家設備Xには、第1熱供給プラント1側から所要流量の冷水が供給され、需要家設備Yには、第1及び第2熱供給プラント1,2の両方の熱供給プラントからそれぞれ所要流量の冷水が合流して供給される。
【0024】
その後、需要家設備Xに供給された冷水は、還路系統7を通って、第1熱供給プラント1に還流すると共に、需要家設備Yに供給された冷水は、還路系統7を通って、第1熱供給プラント1及び第2熱供給プラント2に還流し、これにより、冷水は地域熱供給システム内を循環する。
【0025】
次に、図3に示すように、前記地域熱供給システムの運転条件に基づき、例えば、低負荷時に、第2熱供給プラント2の冷凍機20(1〜複数台)が停止されると、第2熱供給プラント2では、その停止信号を受けて、冷水圧送ポンプ21(1〜複数台)が停止されると共に流量調整弁22が閉塞され、制御弁25が開放される。一方、第1熱供給プラント1では、制御弁13が閉塞された状態に保持され、冷水は、引き続き、熱源配管11を流通する。この時、第1熱供給プラント1では、差圧検出器18により往路配管14と還路配管15間の差圧が検出され、その検出信号を受けて、差圧調整弁17の開度が制御されると共に、第2熱供給プラント2では、差圧検出器31により往路配管26と還路配管27間の差圧が検出され、その検出信号を受けて、差圧調整弁29の開度が制御される。
【0026】
そして、第1熱供給プラント1において熱源配管11を流通した冷水は、往路配管14に流入後、所定熱量分の流量が地域熱循環設備5の往路系統6に流入し、その残部は差圧調整配管16を通って還路配管15に還流する。
【0027】
次いで、第1熱供給プラント1から地域熱循環設備5の往路系統6に流入した冷水のうち所要流量分の冷水は、各需要家X,Yの受入設備3,4にそれぞれ供給され、残りの冷水は、往路系統6から第2熱供給プラント2の往路配管26に流入する。第2熱供給プラント2の往路配管26に流入した冷水のさらに所定流量分は、バイパス管24を流通し、その残りの冷水は差圧調整配管28を流通する。その後、両方の経路を流通した冷水は、還路配管27において、再度合流し、地域熱循環設備5の還路系統7に還流し、各需要家X,Yの受入設備3,4から還流した冷水と合流した後、還路系統7を通って、第1熱供給プラント1に還流し、これにより、冷水は地域熱供給システム内を循環する。
【0028】
その後、需要家X,Yの負荷が増加し、第2熱供給プラント2の冷凍機20(1〜複数台)の運転が再開されると、第2熱供給プラント2では、その運転信号を受けて、冷水圧送ポンプ21(1〜複数台)が運転されると共に流量調整弁22が開放され、制御弁25が閉塞され、これにより、冷凍機20(1〜複数台)、冷水圧送ポンプ21(1〜複数台)、及び熱源配管23内の保有水が往路配管26内に流入する。
【0029】
この場合、上記したように、第2熱供給プラント2では、冷凍機20(1〜複数台)の停止中でも、冷水が、バイパス配管24を通って、往路配管26及び還路配管27内を循環しており、冷水の温度を所定温度以下に保持しているため、第2熱供給プラント2の運転が再開された時に冷凍機20や熱源配管23等の保有水が往路配管26内に流入しても、冷水の温度上昇を抑制することができる。
【0030】
なお、上記実施の形態において、制御弁13,25は、熱供給プラントの停止条件と連動して冷凍機8(1〜複数台)、冷凍機20(1〜複数台)の停止信号を受けて、開放されるようになっているが、これは単なる例示に過ぎず、制御弁13,25の開閉制御については各種変更が可能である。具体的には、例えば、各熱供給プラント1,2内に冷水の温度を計測する温度計測手段を設け、いずれか一方の熱供給プラント1,2の運転停止中に前記温度計測手段による冷水温度の計測値が、予め設定された所定温度より高くなった場合に制御弁13,25を開放し、それより低い場合には制御弁13,25を閉塞するように制御したり、或いは、熱供給プラントの停止条件と連動して予め設定した時間に作動するタイマーを設け、いずれか一方の熱供給プラント1,2の運転停止中、前記タイマーの作動に基づき、制御弁13,25を開閉するように制御したり、或いは、遠方から制御弁13,25を開閉操作するようにしたり、或いは、上記した各制御方法を組合せて制御弁13,25を制御したりすることができる。
【0031】
また、熱供給プラント1,2内の保有水の量が比較的少ない場合には、差圧調整弁17,29に、上記した制御弁13,25の機能を持たせることもでき、その場合には、制御弁13,25及びバイパス配管12,24を省略することができるため、システムの簡素化を一段と図ることが可能となる。
【0032】
さらに、上記実施の形態では、熱媒体として冷水を使用した場合について説明したが、本発明は、温水や高温水等、他の熱媒体を使用するシステムにおいても適用可能である。
【0033】
さらにまた、本発明は、上記したように、第1熱供給プラント1と第2熱供給プラント2とが連系して接続されている場合においての適用に限定されるものではなく、3つ以上の熱供給プラントが連系して接続されている場合にも適用可能であることは言う迄もない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムの構成を示すシステム図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムの作用を示すシステム図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る地域熱供給システムの作用を示すシステム図である。
【符号の説明】
【0035】
1 第1熱供給プラント
2 第2熱供給プラント
3 需要家Xの受入設備
4 需要家Yの受入設備
8 冷凍機(1〜複数台)
12 バイパス配管
13 制御弁
20 冷凍機(1〜複数台)
24 バイパス配管
25 制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体の熱源設備を備えた複数の熱供給プラントと需要家の受入設備とが、地域熱循環設備を介して接続されて構成された地域熱供給システムであって、
前記熱供給プラントには、前記熱源設備を迂回するようにバイパス配管が設けられ、該バイパス配管には制御弁が設けられ、該制御弁は、前記熱源設備の停止中に開放可能なように構成されていることを特徴とする地域熱供給システム。
【請求項2】
前記バイパス配管及び前記制御弁は、前記各熱供給プラントにそれぞれ1箇所ずつ設けられている請求項1に記載の地域熱供給システム。
【請求項3】
前記熱供給プラント内を流通する熱媒体の温度を計測する温度計測手段が設けられており、前記制御弁は、前記温度計測手段による前記熱媒体の温度の計測結果に基づき、開閉可能なように構成されている請求項1又は2に記載の地域熱供給システム。
【請求項4】
前記熱供給プラントの停止条件と連動して予め設定した時間に作動するタイマーが設けられており、前記制御弁は、前記タイマーの作動に基づき、開閉可能なように構成されている請求項1から3のいずれか1の請求項に記載の地域熱供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−113843(P2007−113843A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305848(P2005−305848)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000191319)新菱冷熱工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】