説明

地汚れ防止部分マットハードコート転写シート

【課題】基体シートから剥離しない部分マット層及び該部分マット層を被覆するハードコート層を有する転写シートについて、基体シートのつや領域に地汚れが形成された場合でも、その表面構造が、転写層の最外側面に転写されるのを防止すること。
【解決手段】基体シート、該基体シートの面上の一部に形成された基体シートから剥離しないマット層、及び該基体シート及びマット層の面上に形成された離型層を有する剥離シートと、該離型層の面上に形成されたハードコート層を有する転写層とを、有する転写シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体シートに積層された着色層又は図柄層を物品の表面に転写するために用いる転写シートに関し、特に、基体シートから剥離しないマット層及び該マット層を被覆するハードコート層を有する転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
転写シートを用いてプラスチック部品や外装品のような物品の表面を保護又は装飾する方法は従来から知られている。転写シートは、支持体である基体シートを含む剥離シート上に転写層が設けられた構成であり、この転写層が基体シートから物品の表面に転写される。物品の表面に転写された転写層は樹脂や図柄が層状に積層された積層体であり、物品表面に保護被覆や装飾被覆を形成する。
【0003】
基体シートは転写層の支持部材であると共に、装飾表面形成部材でもある。転写後は、転写層の基体シートに接する面が装飾物品の最外側面になるからである。装飾物品につや消しの外観が要求される場合は、基体シートの表面に微細な凹凸を形成することが行われる。そのために、例えば、表面に微細な凹凸を形成するマット層が、基体シートの面上に設けられる。
【0004】
転写時において、微細な凹凸を有するマット層の表面は離型性を示すが、マット層自体は基体シートから剥離しない。そのため、転写層の最外側になる層の表面には微細な凹凸が形成され、装飾物品にはつや消しの外観が提供される。
【0005】
装飾物品の外観に、つや部分及びつや消し部分の両方が要求される場合は、基体シートの表面の一部にマット層が形成される。図3は基体シートの表面の一部にマット層が形成された状態を模式的に示した断面図である。基体シート3の面上には、マット層4及びつや領域31が存在する。
【0006】
他方、装飾物品に対する保護機能が重視される用途では、転写層の最外側にはハードコート層が設けられる。ハードコート層とは架橋樹脂を含み高い硬度を示す被覆層をいう。そのような場合、ハードコート層は基体シート上のマット層に接し、マット層を覆うように形成される。
【0007】
特許文献1には、基体シート及び該基体シートの面上に形成された基体シートから剥離しないマット層を有する剥離シートと、該マット層を被覆するハードコート層及び該ハードコート層の面上に形成された図柄層及び接着層を有する転写層とを、有する転写シートが記載されている。
【0008】
本明細書でいう「基体シートから剥離しないマット層」とは、被装飾物品に転写層を転写する時に、基体シートから剥離せず、転写層からは剥離されることになるマット層をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−280596
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
マット層のパターンは、例えば、マット層を形成するためのマットインキ又はマット塗料を印刷することにより、形成される。マット層は転写層の最外側面に対して離型性を示す必要がある。そのため、マット層は転写層の最外側層よりも硬度を高くすることが好ましい。例えば、転写層の最外側層がハードコート層である場合は、マット層を形成するためのインキ又は塗料には、ハードコート層より硬くなる熱硬化性樹脂が含まれる。
【0011】
しかし、熱硬化性樹脂には、印刷が行われる過程で熱を吸収するなどして硬化が進行する性質がある。印刷インキに含まれる樹脂が硬化するとインキの印刷適性が低下し、印刷品質も低下する。例えば、熱硬化性樹脂を含むインキを用いてグラビア印刷を行う場合、版の凸部にインキが残存し易く、版カブリ及び印刷物の地汚れが発生する。
【0012】
図4は図3の基体シートのつや領域を拡大した断面図である。基体シート3の面上、つや領域31の一部に地汚れ41が存在する。地汚れ41の表面構造は転写層の最外側面に転写されるため、結果として装飾物品のつや部分の品質が低下する。
【0013】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、基体シートから剥離しない部分マット層及び該部分マット層を被覆するハードコート層を有する転写シートについて、基体シートのつや領域に地汚れが形成された場合でも、その表面構造が、転写層の最外側面に転写されるのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基体シート、該基体シートの面上の一部に形成された基体シートから剥離しないマット層、及び該基体シート及びマット層の面上に形成された離型層を有する剥離シートと、該離型層の面上に形成されたハードコート層を有する転写層とを、有する転写シートを提供する。
【0015】
ある一形態においては、前記マット層がグラビア印刷法により形成されたものである。
【0016】
ある一形態においては、前記マット層が熱硬化性樹脂を含んでいる。
【0017】
ある一形態においては、前記離型層の厚みが0.5〜20μmである。
【0018】
ある一形態においては、前記剥離シートは、基体シートとマット層の間に形成された下地離型層を更に有する。
【0019】
ある一形態においては、前記下地離型層がレベリング剤を含有している。
【0020】
また、本発明は、基体シートの面上の一部に基体シートから剥離しないマット層を形成する工程;
該基体シート及びマット層の面上に離型層を形成する工程;及び
該離型層の面上にハードコート層を形成する工程;
を包含する、転写シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の転写シートでは、基体シートのつや領域に形成される地汚れが離型層によって被覆されており、地汚れの表面構造が転写層の最外側面に転写されるのが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態である転写シートの構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態である転写シートの構成を模式的に示す断面図である。
【図3】基体シートの表面の一部にマット層が形成された状態を模式的に示した断面図である。
【図4】図3の基体シートのつや領域を拡大した断面図である。
【図5】図4のつや領域に離型層を形成した状態を示す断面図である。
【図6】実施例1で得られたマット層を形成した基体シート表面を部分的に拡大した写真である。
【図7】実施例1で得られた転写品の表面を部分的に拡大した写真である。
【図8】実施例2で得られたマット層を形成した基体シート表面を部分的に拡大した写真である。
【図9】実施例2で得られた転写品の表面を部分的に拡大した写真である。
【図10】比較例1で得られた転写品の表面を部分的に拡大した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
転写シート
図1は本発明の一実施形態である転写シートの構造を模式的に示す断面図である。剥離シート1の片面に接して転写層2が設けられている。剥離シート1は、基体シート3及び該基体シートの面上に部分的に形成されたマット層4、及び該基体シート3及びマット層4の面上に形成された離型層5を有する。
【0024】
転写層2は、離型層5の面上に形成されたハードコート層7を有し、必要に応じて接着層8を有する。表示はしていないが、転写層は、必要に応じて、着色層、図柄層、アンカー層及び金属薄膜などを有してよい。
【0025】
例えば、着色層は被装飾物品の地色を隠蔽して被装飾物品を着色するための層である。着色層は、基体シートの側の隣接している層、例えば、ハードコート層7の表面に、インキ又は塗料を展着させて形成する。
【0026】
着色層のバインダーとなる合成樹脂としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、熱可塑ウレタン系樹脂、メタアクリル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ポリエチレン系樹脂、及び、塩素化ポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂であることが好ましい。
【0027】
着色層の着色剤としては、顔料又は染料が挙げられる。着色層の着色剤は加飾シートを着色する用途に従来から使用される種類のものが用いられる。好ましい着色剤の具体例は、(1)インジゴ、アリザリン、カーサミン、アントシアニン、フラボノイド、シコニンなどの植物色素、(2)アゾ、キサンテン、トリフェニルメタンなどの食用色素、(3)黄土、緑土などの天然無機顔料、(4)アクリル系、ウレタン系などの無機顔料、(5)炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミニウムレーキ、マダーレーキ、コチニールレーキなどが挙げられる。
【0028】
着色層を形成するために、金属薄膜細片をバインダー樹脂中に分散した、鏡面状金属光沢を有するインキ(以下、高輝性インキと言う。)からなる高輝性インキ層を用いてもよい。金属薄膜細片のインキ中の不揮発分に対する含有量は、3〜60質量%の範囲であることが好ましい。顔料として金属薄膜細片を使用した高輝性インキは、該インキを印刷又は塗布した際に金属薄膜細片が被塗物表面に対して平行方向に配向する結果、高輝度の鏡面状金属光沢が得られる。
【0029】
また、図柄層は文字又は絵柄を示す層である。図柄層の成分及び形成方法は、図柄に応じたパターン状に形成すること以外は着色層と同様である。
【0030】
また、接着層は、転写シートの内側表面のうち被装飾物品に接着させたい部分に形成する。すなわち、内側表面全体を被装飾物品に接着させたい場合に、その表面全体に接着層を形成する。また、内側表面のうちの一部分を被装飾物品に接着させたい場合には、そのうちの一部分に接着層を形成する。
【0031】
接着層の構成材料としては、被装飾物品に対する十分な接着性を得ることができれば特に限定されない。接着層を被装飾物品に加熱圧着する場合には、接着層の構成材料としては、感熱性、感圧性を有する合成樹脂を適宜選択すればよい。
【0032】
例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリアクリル系樹脂の場合には、接着層の構成材料としては、ポリアクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリフェニレンオキシド共重合体、ポリスチレン系共重合体樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合には、接着層の構成材料としては、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを適宜選択して採用すればよい。
【0033】
更に、例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリプロピレン樹脂の場合は、接着層の構成材料としては、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。
【0034】
接着層の厚みは、0.5μm〜50μmであることが好ましい。接着層の厚みが0.5μm以上であると、十分な接着性をより容易かつ確実に得ることができるようになる。接着層の厚みが50μm以下であると、被装飾物品に転写シートを固定した後に乾燥し易く好ましい。
【0035】
転写層を構成する層のうち各樹脂層の形成は、特に断らない限り、従来と同様の方法によって行うことができる。従来の層形成方法の例には、層を構成する成分を含むインキ又は塗料を用いたグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0036】
剥離シート
剥離シート1は転写層2が被装飾物品の表面に固定された後に剥離される部材をいう。
【0037】
剥離シート1を構成する基体シート3は、図柄層やハードコート層をシート上に支持する用途に従来から使用されるシート材料又はフィルム材料である。フィルム材料は合成樹脂からなるシート材料をいう。合成樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、及び、アクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂が好ましく挙げられる。
【0038】
また基体シートとしては、上記の合成樹脂から形成された単層シート、単層シートを2以上積層した積層シート(各単層シートの材料組成は上記群から選択された合成樹脂を使用していれば同一であっても異なっていてもよい)、上記の合成樹脂を用いた共重合シートなどが挙げられる。
【0039】
基体シートの厚みは、5〜500μmであることが好ましい。基体シートの厚みが5μm以上であると、被装飾物品に転写シートを固定する場合に、転写シートを金型に配置する時のハンドリング性をより十分に確保できる。また、基体シートの厚みが500μm以下であると、適度な剛性を得ることができハンドリング性をより十分に確保できるようになる。
【0040】
マット層4は、転写層の最外側面をマット状に成形して装飾物品につや消しの外観を付与する層である。マット層4は、転写時に基体シート3とともに転写層から剥離される。マット層4を基体シートの面上の一部に形成することにより、つや表面とマット(つや消し)表面とを組み合わせた表現を行うことができる。
【0041】
マット層4としては、アミノアルキッド系樹脂、尿素メラミン系樹脂、またはこれらの混合物を主成分とし、シリカまたはカーボンブラックをマット剤として含有するものを用いるとよい。
【0042】
マット層4を形成するためのマットインキ又はマット塗料は、有機溶媒、結合剤として熱硬化性樹脂及びマット剤としてシリカ粒子又はカーボンブラック粒子を含む組成物を用いるとよい。熱硬化性樹脂の例としては、尿素、メラミン、グアナミン、アニリンのようなアミノ基を持った不乾性油変性アルキッドに、ホルムアルデヒドを付加縮合させて得られる樹脂を5〜40重量%配合した樹脂組成物、又はメラミンと尿素の混合物をホルムアルデヒドと共縮合反応させて得られる樹脂、エポキシ樹脂とメラミン樹脂の混合物である樹脂などが挙げられる。
【0043】
マット剤としてのシリカ又はカーボンブラックの粒子は、平均粒子径が0.01〜50μm、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは1〜15μmのものである。マット剤の平均粒子径が0.01μm未満であると良好なマット調の装飾が損なわれることとなり、50μmを超えるとマット粒子が大きすぎてインキの印刷適性が損なわれることとなる。
【0044】
シリカ粒子は、例えば石英や無水ケイ酸などによって得られるものを用いればよく、カーボンブラック粒子は、例えば、天然ガスや石油、クレオソート油などの炭化水素の熱分解と不完全燃焼の組み合わせによって得られるものを用いればよい。
【0045】
マット剤は、マットインキ又はマット塗料中に、典型的には、固形分を基準にして0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは3〜8重量%となる量で含有される。マット剤の含有量が少なすぎると良好なマット調の装飾が得られないこととなり、多すぎるとインキ中でマット剤が沈降・凝集し、印刷適性に悪影響を及ぼすこととなる。
【0046】
基体シート3の面上にマット層4を設けるには、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法など通常の印刷法を用いるとよい。効率的に高品質のパターンを形成するためには、これらの中でもグラビア印刷法を用いることが好ましい。
【0047】
しかしながら、マットインキ又はマット塗料が上記アミノアルキッド系樹脂又は尿素メラミン系樹脂を含む場合、これらは熱硬化性樹脂であり、該インキ又は塗料は印刷適性に劣っている。例えば、グラビア印刷を行う場合、熱硬化性樹脂は、印刷枚数が増加するにしたがって、版全体に薄く付着する。そのため、版の凸部に付着している余分なインキをドクター刃で完全に除去することが困難になる。その結果、版の凸部にインキが残存して、上述のように、基体シートのつや領域に地汚れが発生することがある。
【0048】
マット層4の厚みは0.1μm〜50μmとする。0.1μm未満であれば、二次元や三次元形状に転写したり成形同時転写したりする際に、基体シート3が伸ばされるので、その部分でマット層が剪断される可能性があり、マット感を喪失するおそれがある。また、50μmを越えると、二次元や三次元形状に転写したり成形同時転写したりする際に、基体シートの伸びに追随できずマット層自体にクラックを生じてしまう。より好ましいマット層の厚みは0.5〜30μm、更に好ましくは1〜20μmである。
【0049】
離型層5は、剥離シートの剥離面全体に転写層に対する離型性を付与し、同時に地汚れを被覆する層である。図5は、図4のつや領域に離型層を形成した状態を示す断面図である。地汚れ41は離型層5に被覆されて、表面構造の凹凸が平坦化されている。
【0050】
グラビア印刷法を行う場合、版は、インキを塗布された後、ドクター刃で摩擦される。そのため、版の凸部にインキが残存したとしても少量であり、残存したインキに含有されるマット剤粒子の量は非常に少量になる。その結果、基体シート3の面上、つや領域31の一部に形成される地汚れ41は、マット層4と比較して表面構造の凹凸がかなり小さい。それゆえ、剥離シートの剥離面の全体に適当な厚みの離型層5を形成することにより、マット層4の表面構造の凹凸は残したまま、地汚れ41の表面構造の凹凸を選択的に平坦化することができる。
【0051】
離型層5を形成するためのインキ又は塗料は、上記マットインキ又はマット塗料からシリカまたはカーボンブラックのような、マット剤として機能する粒子を除去した樹脂組成物を用いる。離型層5には、マット層4及び地汚れ41に対する密着性及び転写層に対する離型性が同時に要求されるからである。
【0052】
離型層5の厚みは0.1μm〜30μmとする。離型層5の厚みが0.1μm未満であると、地汚れの表面構造の平坦化が不十分となり、残存した凹凸が転写層の最外側面に転写されて、装飾物品のつや領域の品質が低下する。離型層5の厚みが30μmを超えるとマット層の表面構造まで平坦化されてしまい、マット表現が不十分になる。好ましい離型層5の厚みは0.3〜20μmであり、より好ましくは1〜10μmである。
【0053】
図2は、本発明の他の実施形態である転写シートの構成を模式的に示す断面図である。この転写シートには、基体シート3とマット層4の間に下地離型層6が更に形成されている。離型層5は厚みが厳密に制御されることから、離型性が不十分になる可能性がある。例えば、そのような場合には、下地離型層6を追加すればよく、そのことにより転写層2に対する離型シート1の離型性が補強される。
【0054】
下地離型層6は、離型層5を形成する際に用いるのと同様のインキ又は塗料を用いて、基体シートの面上に離型層を形成するために従来から用いられてきたのと同様の方法により形成することができる。
【0055】
下地離型層6を形成するための下地離型インキ又は下地離型塗料には、レベリング剤を含有させることが好ましい。下地離型層6の表面エネルギーが低下することにより地汚れが濡れ広がり易くなり、その表面構造の凹凸が小さくなるからである。
【0056】
レベリング剤は、湿潤分散剤、表面調整剤、消泡剤、レオロジーコントロール剤などの用途に従来から使用されてきたものであれば特に限定されない。具体例としては、ポリエチレンワックス、ポリエステルシロキサン、ポリエーテルシロキサンフッ素系ポリマーなどが挙げられる。
【0057】
レベリング剤は、下地離型インキ又は下地離型塗料中に、典型的には、固形分を基準にして0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜8重量%、より好ましくは0.1〜6重量%となる量で含有される。レベリング剤の含有量が0.05重量%未満であると離形層との剥離性を損なう結果となり8重量%を超えるとレベリング剤が下地離型インキ表面上に現れ、離形層インキの濡れ性が著しく劣る結果となる。
【0058】
転写層
転写層2は剥離シート1の片面に設けられて剥離シート1から被装飾物品の表面に転写される層をいう。
【0059】
転写層2を構成するハードコート層7は、転写後に剥離シート1を剥離した際に、転写層2の最外側になる層である。ハードコート層7は、転写後、剥離シートを被装飾物品から剥離したときに、装飾物の表面に配置され、転写層を保護するために一定以上の硬度を有している。
【0060】
ハードコート層7はマット層4を被覆するように形成される。ハードコート層7としては、熱、紫外線又は電子線等のエネルギーを印加すると架橋又は硬化するエネルギー架橋性樹脂を用いる。ハードコート層の材質としては、シアノアクリレート系やウレタンアクリレートなどの電離放射線硬化性樹脂や、アクリル系やウレタン系などの熱硬化性樹脂が挙げられるが、特に限定されない。好ましくは、エネルギー架橋性樹脂は紫外線又は電子線を印加して架橋する活性エネルギー線架橋性樹脂である。活性エネルギー線樹脂は、印加するエネルギーの量を増減することにより架橋の程度を容易に調整することができるからである。
【0061】
ハードコート層7の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。ハードコート層7の厚みは1μm〜50μmとする。1μm未満であれば、充分な表面硬度が得られず、物品表面の保護機能が維持できない。一方、50μmを越えると、ハードコート層の充分な透明度が得られず着色層からの装飾機能を損なうこととなる。より好ましいハードコート層7の厚みは2〜10μmである。
【0062】
ハードコート層7は形成した後に架橋させることが好ましい。剥離シートのマット層からの剥離性が良好になるからである。架橋の程度は完全に架橋させてもよいし、また、マット層からの良好な剥離性が得られる最低限度の部分的な架橋に留めてもよい。架橋を部分的に留める場合は、ハードコート層7は転写後に完全に架橋させることが好ましい。
【0063】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、実施例中「部」又は「%」で表される量は特に断りなき限り重量基準である。
【実施例】
【0064】
実施例1
幅650mm、厚み38×10−3mm(38μm)の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを基体シートとして用いた。この基体シートの一方の面に、グラビア印刷法を用いて、メラミン樹脂とアクリル樹脂の混合物に、マット剤として粒子径が1〜10μm内に分布したシリカ粒子を添加したマットインキを印刷して、部分的にマット層を形成した。マット層の乾燥厚さは2μmとした。マットインキの組成は次の通りである。
【0065】
[表1]

【0066】
印刷20枚目位から、基体シート表面のマット層を形成していないつや領域に地汚れが発生した。図6はマット層を形成した基体シート表面を部分的に拡大した写真である。図6中、白く見える部分はマット層4であり、黒く見える部分はつや領域31である。つや領域31のマット層4付近に、地汚れ41の発生が認められた。
【0067】
グラビア印刷法を用いて、この地汚れを有する基体シート及びマット層の面全体に、厚さ8μmの離型層を形成した。離型層を形成するためのインキとしてはウレタンアクリレート樹脂(紫外線硬化樹脂)を含むものを用いた。離型層の乾燥厚さは5μmとした。離型インキの組成は次の通りである。
【0068】
[表2]

【0069】
次いで、離型層の面全体を被覆するように、ウレタンアクリレート系樹脂60重量%、アクリル系樹脂38.7重量%、アルミナ粉末1.3重量%の組成のインキを用いてハードコート層を形成した。形成したハードコート層は、引き続きラインの中で200℃に加熱し、次いで波長600〜700nmの紫外線を照射することにより樹脂を架橋し、得られた中間積層体をロールに巻き取った。
【0070】
得られたロールを印刷ラインにセットし、中間積層体を繰り出して、黒色の着色インキを3層重ねて印刷した。全ての着色層を乾燥させた後、積層シートの面全体を被覆するように、アクリル樹脂、厚み1×10−3mm(1μm)となるようにグラビア印刷法でコーティングし、接着層を形成した。
【0071】
得られた転写シートを用いて、透明アクリル板に転写を行った。図7は転写品の表面を部分的に拡大した写真である。転写品の表面には白く見えるマット領域51及び黒く見えるつや領域52が存在し、つや領域52には、地汚れの表面構造に対応する凹凸は形成されていなかった。
【0072】
実施例2
幅650mm、厚み38×10−3mm(38μm)の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを基体シートとして用いた。この基体シートの一方の面全体に、グラビア印刷機にて、ウレタンアクリレート樹脂(紫外線硬化樹脂)に、レベリング剤としてポリエステル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー社製「BYK−310」(商品名))を添加した下地離型インキを印刷して、下地離型層を形成した。下地離型層の乾燥厚さは2μmとした。下地離型インキの組成は次の通りである。
[表3]

【0073】
得られた下地離型層の面に、グラビア印刷法を用いて、メラミン樹脂とアクリル樹脂の混合物に、マット剤として粒子径が1〜10μm内に分布したシリカ粒子を添加したマットインキを印刷して、部分的にマット層を形成した。マット層の乾燥厚さは4μmとした。マットインキの組成は次の通りである。
【0074】
[表4]

【0075】
印刷17枚目位から、基体シート表面のマット層を形成していないつや領域に地汚れが発生した。図8はマット層を形成した基体シート表面を部分的に拡大した写真である。図8中、白く見える部分はマット層4であり、黒く見える部分はつや領域31である。つや領域31のマット層4付近に、地汚れ41の発生が認められた。
【0076】
グラビア印刷法を用いて、この地汚れを有する基体シート及びマット層の面全体に、厚さ17μmの離型層を形成した。離型層を形成するためのインキとしてはウレタンアクリレート樹脂を含むものを用いた。離型層の乾燥厚さは10μmとした。離型インキの組成は次の通りである。
【0077】
[表5]

【0078】
次いで、離型層の面全体を被覆するように、ウレタンアクリレート系樹脂60重量%、アクリル系樹脂38.7重量%、アルミナ粉末1.3重量%の組成のインキを用いてハードコート層を形成した。形成したハードコート層は、引き続きラインの中で200℃に加熱し、次いで波長600〜700nmの紫外線を照射することにより樹脂を架橋し、得られた中間積層体をロールに巻き取った。
【0079】
得られたロールを印刷ラインにセットし、中間積層体を繰り出して、黒色の着色インキを3層重ねて印刷した。全ての着色層を乾燥させた後、積層シートの面全体を被覆するように、アクリル樹脂、厚み1×10−3mm(1μm)となるようにグラビア印刷法でコーティングし、接着層を形成した。
【0080】
得られた転写シートを用いて、透明アクリル板に転写を行った。図9は転写品の表面を部分的に拡大した写真である。転写品の表面には白く見えるマット領域51及び黒く見えるつや領域52が存在し、つや領域52には、地汚れの表面構造に対応する凹凸は形成されていなかった。
【0081】
実施例3
離型層の乾燥厚さを3μmにすること以外は実施例1と同様にして転写シートを製造し、転写を行った。転写品の表面にはマット領域及びつや領域が存在し、つや領域には、地汚れの表面構造に対応する凹凸は形成されていなかった。
【0082】
実施例4
離型層の乾燥厚さを5μmにすること以外は実施例1と同様にして転写シートを製造し、転写を行った。転写品の表面にはマット領域及びつや領域が存在し、つや領域には、地汚れの表面構造に対応する凹凸は形成されていなかった。
【0083】
実施例5
離型層の乾燥厚さを8μmにすること以外は実施例1と同様にして転写シートを製造し、転写を行った。転写品の表面にはマット領域及びつや領域が存在し、つや領域には、地汚れの表面構造に対応する凹凸は形成されていなかった。
【0084】
比較例1
離型層の乾燥厚さを0.5μmにすること以外は実施例1と同様にして転写シートを製造し、転写を行った。図10は転写品の表面を部分的に拡大した写真である。転写品の表面には白く見えるマット領域51及び黒く見えるつや領域52が存在し、つや領域52には、地汚れの表面構造に対応する凹凸53が形成されていた。
【0085】
比較例2
離型層の乾燥厚さを12μmにすること以外は実施例1と同様にして転写シートを製造し、転写を行った。転写品の表面において、マット領域の形成が不十分になった。
【符号の説明】
【0086】
1…剥離シート、
2…転写層、
3…基体シート、
4…マット層、
5…離型層、
6…下地離型層、
7…ハードコート層、
8…接着層、
31…つや領域、
41…地汚れ、
51…転写品表面のマット領域、
52…転写品表面のつや領域、
53…転写品表面の地汚れの表面構造に対応する凹凸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シート、該基体シートの面上の一部に形成された基体シートから剥離しないマット層、及び該基体シート及びマット層の面上に形成された離型層を有する剥離シートと、該離型層の面上に形成されたハードコート層を有する転写層とを、有する転写シート。
【請求項2】
前記マット層がグラビア印刷法により形成されたものである請求項1記載の転写シート。
【請求項3】
前記マット層が熱硬化性樹脂を含んでいる請求項1又は2記載の転写シート。
【請求項4】
前記離型層の厚みが0.5〜20μmである請求項1〜3のいずれか記載の転写シート。
【請求項5】
前記剥離シートは、基体シートとマット層の間に形成された下地離型層を更に有する請求項1〜4のいずれか記載の転写シート。
【請求項6】
前記下地離型層がレベリング剤を含有している請求項1〜5のいずれか記載の転写シート。
【請求項7】
基体シートの面上の一部に基体シートから剥離しないマット層を形成する工程;
該基体シート及びマット層の面上に離型層を形成する工程;及び
該離型層の面上にハードコート層を形成する工程;
を包含する、転写シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−148103(P2011−148103A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8937(P2010−8937)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】