説明

地盤強化方法

【課題】盛土地盤の地滑りを阻止できるようにした盛土地盤の地盤強化方法を提供する。
【解決手段】傾斜面状をなす原地盤1と当該原地盤1の上に造成された盛土地盤2との境界部分Aに、前記原地盤1と盛土地盤2との境界面付近に沿って原地盤1の傾斜方向にボーリング孔5を削孔する。当該ボーリング孔5内に固化材を注入して地盤改良部3を形成する。前記地盤改良部3は原地盤1の下流側と上流側間に原地盤1の傾斜方向に連続して形成する。地盤改良部3は原地盤1の傾斜方向と直交する方向に複数列に形成する。各地盤改良部3と3の間に排水孔4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤強化方法に関し、特に谷間の原地盤の上に盛土する谷埋め盛土によって造成され、宅地や工場建設地、あるいは道路などとして利用される造成地の地盤強化に適用され、地震時や大量降雨時の地滑り災害を防止することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、谷間の原地盤の上に盛土して宅地や工場建設地、あるいは道路などの用地を確保する谷埋め盛土が一般に行われている。谷埋め盛土によって造成された盛土地盤は、原地盤と盛土地盤の地盤性状が自ずと異なり、特に原地盤は盛土地盤に比べてかなり固いため地下水を通しにくく、地下水が原地盤面の上を流れていることが予測される。
【0003】
このため、原地盤と盛土地盤との境界面のせん断強度は小さく、地震などで外力が加わると盛土地盤全体が原地盤との境界面で地滑りを起しやすい。
【0004】
特に、大雨が降った後などには、盛土地盤に浸透した大量の雨水が、原地盤面の上を上流から下流側へ地下水となって流れることが予測されるため、盛土地盤が飽和状態になり、浸透圧、盛土重量の増加、地盤強度の低下等を来し、境界面付近で大規模な地滑り災害に発展するおそれがある。
【0005】
従来、このような地滑り災害を未然に防ぐ方法として、例えば図12(a),(b)に図示するような方法が行われている。図12(a)に図示する方法は、盛土地盤20の下流側部に擁壁21を上流側方向に階段状に構築し、各擁壁21から盛土地盤20内にアンカーまたは排水孔22を施工する方法であり、また、図12(b)に図示する方法は、盛土地盤20に集水井戸23を設け、当該集水井戸23から盛土地盤20内に集水用の横ボーリング孔24を削孔する方法である。
【0006】
【特許文献1】特許2509005号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの方法では、盛土地盤そのものの地盤強化は図れても、原地盤と盛土地盤との境界附近で発生する盛土地盤全体の地滑り災害を防ぐには不充分であった。他に、盛土地盤中に固化材を注入して地盤の一部を改良する固結方法や排水孔を削孔する排水方法なども知られている。
【0008】
しかし、固結方法は、地盤が不透水性となるために地下水を貯留する効果になり、かつ不安定な斜面上における作業性や斜面上にある人家などの生活圏内における作業が通常の生活環境を妨げることになるので好ましくない。また、排水孔を削孔する方法も、排水孔を設けるための作業時において同様の問題が生ずる。
【0009】
さらに、いずれの方法も、特に問題とされる原地盤と盛土地盤との境界部分の地盤対策としては不充分なもので、原地盤面に沿って盛土地盤全体の地滑りを阻止することはできないものであった。
【0010】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、特に原地盤と盛土地盤との境界面附近で発生する盛土地盤全体の地滑りを阻止できるようにした地盤強化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の地盤強化方法は、原地盤と当該原地盤の上に造成された盛土地盤との境界部分に、複数のボーリング孔を前記原地盤と盛土地盤との境界面付近に沿って原地盤の傾斜方向に複数列に削孔し、当該ボーリング孔内に固化材を注入して前記原地盤の傾斜方向に複数列の地盤改良部を形成することを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、地盤性状の違いから特に地滑りが発生しやすいとされる盛土地盤の地盤強化方法であって、斜面状をなす原地盤と当該原地盤の上に盛土して造成された盛土地盤との境界部分に、原地盤の傾斜方向に連続する複数の地盤改良部を複数列に形成することによって盛土地盤の安定化を図るものである。
【0013】
この場合の地盤改良部は、原地盤の傾斜方向に連続して形成してもよく、あるいは所定間隔おきに所定の長さずつ形成してもよく、さらには上流側と下流側にのみ形成してもよい。また、各地盤改良部の径と間隔、さらに固化材は原地盤と盛土地盤の地盤性状に応じて適宜決定することができる。
【0014】
請求項2記載の地盤強化方法は、谷部に盛土して造成された谷埋め盛土地盤の地盤強化方法であって、原地盤と当該原地盤の上に造成された谷埋め盛土地盤との境界部分に、複数のボーリング孔を前記原地盤と盛土地盤との境界面付近に沿って原地盤の傾斜方向に複数列に削孔し、当該ボーリング孔内に固化材を注入して前記原地盤の傾斜方向に複数の地盤改良部を形成することを特徴とするものである。
【0015】
本発明は、いわゆる谷埋め盛土によって造成された造成地は、特に原地盤と盛土地盤との境界部分を地下水が流れていることが多いこともあって、盛土地盤全体が地滑りを発生しやすいことから、この境界部分に地盤改良部を形成することで、境界部分における地滑りを未然に防止するようにしたものである。
【0016】
請求項3記載の地盤強化方法は、請求項1または2記載の地盤強化方法において、ボーリング孔は誘導式曲りボーリングによって削孔することを特徴とするものである。
【0017】
なお、ここで用いる誘導式曲りボーリングは、ボーリングヘッドに位置情報を感知する装置を備え、この位置情報を地上で受信し、ボーリングの作業盤上での表示に基いてボーリングヘッドを操作したり、或いはジャイロでボーリングの方向性を操作することができる装置である。
【0018】
ボーリングの削孔に誘導式曲りボーリングを利用することによりボーリング孔を原地盤と盛土地盤との境界面付近に沿ってきわめて効率的に削孔することができる。これは、斜面の排水面積に対するボーリング本数、ボーリング長が少なくてすみ、かつ排水効果を確実にすることができるためである。
【0019】
請求項4記載の地盤強化方法は、請求項1〜3のいずれかに記載の地盤強化方法において、前記地盤改良部は原地盤の下流側および/または上流側の一定範囲に渡って形成することを特徴とするものである。
【0020】
本発明は、地盤の状況に応じて上流側と下流側の一定範囲に限定的に地盤改良部を形成することで、固化材の無駄な使用を無くして合理的で経済的な地盤強化を可能にしたものである。
【0021】
請求項5記載の地盤強化方法は、請求項4記載の地盤強化方法において、上流側の地盤改良部は、斜面の上流部、すなわち傾斜方向の上流側部に曲りボーリング又は直線ボーリングによって削孔したボーリング孔内に固化材を注入するか、あるいは攪拌混合方式または高圧噴射方式によって形成することを特徴とするものである。本発明は、上流側の地盤の一部を地盤改良部として固めておけば、その領域の地上りの滑動力しか作用しないために下流側の固結領域を少なく済ませることができるが、あるいは滑動に対する安全率が高められるという効果を生ずる。
【0022】
上流側の地盤の一部を固結する方法には、曲りボーリングを用いた固化材の注入法の他に、垂直ボーリングまたは斜めボーリングを用いた固化材の注入法、あるいは注入法でなく攪拌混合工法や高圧噴射注入法を利用してもよい。また、上流側の作業性のよい場合や生活居住圏外で固結させればよいし、また列状に固結しなくても上流側で固結させれば、貯留の心配はなく、また表面水の下流側への浸透をその水密性によって遮断できるという効果がある。
【0023】
請求項6記載の地盤強化方法は、請求項1〜5のいずれかに記載の地盤強化方法において、原地盤と盛土地盤との境界部分に排水孔を前記原地盤と盛土地盤との境界面付近に沿って原地盤の傾斜方向に形成することを特徴とするものである。
【0024】
本発明は特に、大雨時の地滑り災害の防止策としてきわめて有効な方法であり、一般に大雨時およびその直後においては、盛土地盤は飽和状態にあり、地滑り破壊を起し易いが、地下水を強制的に排水することにより盛土地盤の飽和状態化を回避することで大規模な地滑り災害を未然に防止することができる。
【0025】
なお、排水孔はボーリング孔に塩ビ管、鋼管またはコルゲート管などの管に多数の水抜き孔を設けた孔開き管を挿入することにより簡単に形成することができる。また、排水孔は地盤の傾斜方向に例えばS字状に蛇行した状態に削孔してもよい。
【0026】
請求項7記載の地盤強化方法は、請求項6記載の地盤強化方法であって、前記排水孔は前記地盤改良部間に形成することを特徴とするものである。
【0027】
請求項8記載の地盤強化方法は、請求項1〜7記載の地盤強化方法において、盛土地盤の下流側部に擁壁を構築することを特徴とするものである。この場合の擁壁は、RC構造の他、石やコンクリートブロックなどを積み上げた組積構造や補強土擁壁工などで構築することができる。
【0028】
請求項9記載の地盤強化方法は、請求項1〜7のいずれかに記載の地盤強化方法において、盛土地盤にアンカーを施工し、当該アンカーの先端を原地盤に定着することを特徴とするものである。この場合のアンカーには、通常のグランドアンカーやプレストレスを利用したアンカーの他に、例えば鉄筋アンカー(ネイリングアンカー)等を利用することができる。
【0029】
本工法によれば、棒状の補強材、主に鉄筋、鋼管、形鋼、帯筋などを盛土地盤中に数多く打設して一種の合成補強土塊を形成することにより盛土の強度を直接補強することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は特に、原地盤と盛土地盤との境界部分に地盤改良部を形成して盛土地盤の境界部分を強化することで、盛土地盤の地滑りを未然に防いで地盤の安定化を図ることができる。また、境界部分に地盤改良部と共に排水孔を形成して地下水を強制的に排水するようにしたことで、盛土地盤の安定化をさらに高めることができる。
【0031】
また、排水孔は原地盤と盛土地盤との境界部分に誘導式曲りボーリングを利用して削孔することにより、斜面上の生活圏外からボーリング孔を削孔して排水孔を形成し、また当該ボーリング孔内に固化材を注入することにより、生活圏を侵すことなく施工を行うことができ、かつ少ないボーリング数やボーリング延長で、容易にかつ効果的な排水を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1(a),(b)は、傾斜面状をなす原地盤の上に盛土することにより造成された造成宅地を示し、原地盤1の上に盛土地盤2が造成されている。また、原地盤1と盛土地盤2との境界部分Aに複数の地盤改良部3が原地盤1の傾斜方向に沿って複数列に形成されている。
【0033】
地盤改良部3は、原地盤1と盛土地盤2との境界面付近に沿って原地盤1の傾斜方向に連続し、かつ傾斜方向(勾配方向)と直交する方向に所定間隔おきに複数列に形成されている。
【0034】
地盤改良部3は盛土地盤2の境界部分Aに原地盤1の下流側から上流側方向にボーリング孔を削孔し、当該ボーリング孔内に固化材を注入してボーリング孔周辺の地盤を一定範囲に渡って固化することにより形成されている。
【0035】
このように、強度と水密性のある地盤改良部3が原地盤1の斜面に沿って連続して配置される結果、その間は排水ゾーンとなり、固結効果と排水効果が同時に得られ、地盤改良部3が地下水を貯留し、排水を妨げることがないので、境界部分Aの斜面地盤の安定を向上させることができる。
【0036】
図2(a)、(b)は、原地盤1と盛土地盤2との境界部分Aの下流側部に、上記した地盤改良部3が原地盤1の傾斜方向に一定範囲(長さ)に渡って形成されている例を示し、また、図3(a),(b)は、原地盤1と盛土地盤2との境界部分Aの下流側部と上流側部の両方に上記した地盤改良部3が原地盤1の傾斜方向に一定範囲に渡って形成されている例を示したものである。
【0037】
なお、上流側の地盤改良部3は、上流側の地盤の一部を任意の方法で固めて形成しておけば、その領域の地上りの滑動力しか作用しないために下流側の固結領域を少なくできるだけでなく、滑動に対する安全率が高められるという効果を生ずる。
【0038】
この場合、上流側の地盤の一部を固めて地盤改良部3を形成する方法としては、曲りボーリングを利用した固化材の注入法によらなくても、垂直ボーリングや斜めボーリング等の直線ボーリングを利用して固化材を注入する方法、或いは攪拌混合工法や高圧噴射注入工法などを利用してもよい。
【0039】
また、上流側の作業性のよい場合や生活居住圏外で固結させればよいし、また列状に固結しなくても上流側で固結させれば、貯留の心配はなく、また表面水の下流側への浸透をその水密性によって遮断できるという効果がある。
【0040】
さらに、図4(a),(b)は、原地盤1と盛土地盤2との境界部分Aに上記した複数の地盤改良部3が形成され、さらに各地盤改良部3と3との間に排水孔4が原地盤1の傾斜方向に連続して形成されている例を示したものである。
【0041】
排水孔4は、地盤改良部3と同様に原地盤1と盛土地盤2との境界部分Aに原地盤1の傾斜方向に連続して形成されている。
【0042】
図5(a),(b)は原地盤1と盛土地盤2との境界部分Aの下流側部に、上記した地盤改良部3が原地盤1の傾斜方向に一定範囲に渡って形成され、かつ各地盤改良部3と3との間に上記した排水孔4が原地盤1の傾斜方向に連続して形成されている例を示したものである。
【0043】
排水孔4は、盛土地盤2の境界部分Aに原地盤1の下流側から上流側方向にボーリング孔を削孔し、当該ボーリング孔内に穴開きパイプを挿入する等して形成されている。なお、孔開きパイプには鋼管や塩ビ管、あるいはコルゲート管などの外周壁に多数の水抜き孔を形成したものが用いられている。
【0044】
このように、原地盤1と盛土地盤2との境界部分Aに複数の地盤改良部3を原地盤1の傾斜方向に複数列に形成して境界部分Aが補強されていることで、境界部分Aで盛土地盤2の全体が地滑りするのを未然に阻止することができる。
【0045】
また、各地盤改良部3と3の間に排水孔4を形成して境界部分Aの地下水を強制的に排水することにより地下水位を低下させ、盛土地盤2の飽和状態化を回避することで、境界部分Aの地盤の安定化を高めることができ、特に大雨時およびその直後の地滑り災害を未然に防止することができる。
【0046】
また、原地盤と盛土地盤との境界部分に排水孔を前記原地盤と盛土地盤との境界面付近に沿って原地盤の傾斜方向に連続して形成するこは、特に大雨時の地滑り災害の防止策としてきわめて有効な方法であり、一般に大雨時およびその直後においては、盛土地盤は飽和状態にあり、地滑り破壊を起し易いが、地下水を強制的に排水することにより盛土地盤の飽和状態化を回避することで大規模な地滑り災害を未然に防止することができる。
【0047】
なお、排水孔はボーリング孔に塩ビ管、鋼管またはコルゲート管などの管に多数の水抜き孔を設けた孔開き管を挿入することにより簡単に形成することができる。また、排水孔は地盤の傾斜方向に例えばS字状に蛇行した状態に削孔してもよい。
【0048】
次に、本発明の地盤強化方法の施工手順について説明する。
最初に、図7(a),(b)に図示するように、原地盤1と盛土地盤2との境界部分Aにボーリングを行ってボーリング孔5を削孔する。この場合のボーリングには誘導式曲りボーリングを用い、ボーリング孔5は原地盤1と盛土地盤2との境界面付近に沿って盛土地盤2内に原地盤1の下流側から上流側に向かって連続して削孔する。
【0049】
具体的には、図示するような盛土掘進用のドリルヘッド6aと掘進方向変更用のテーパ刃6bを先端に備えたボーリングロッド6をケーシング7内に挿入し、ドリルヘッド6aを盛土地盤2内に回転させながら上流方向に押し込んでボーリングを行う。
【0050】
その際、ボーリングロッド6の回転を停止し、テーパ刃6bの向きを代えてボーリングの方向を変更することができる。そして、ボーリング孔5が上流側に到達したらケーシング7のみを残し、ボーリングロッド6を引き抜く。
【0051】
次に、図8(a)に図示するようにボーリング孔5のケーシング内に注入管8を挿入しつつケーシング(図8(a)ではケーシングは省略)を引き抜く。注入管8は、例えば図示するように外管9と当該外管9内に挿入された内管10とから構成され、外管9の先端部分にはゴムスリーブ等からなる逆支弁9aを備えた吐出口9bが外管9の長手方向および周方向に所定間隔おきに形成され、各吐出口9bの両側に膨張パッカ11,11がそれぞれ取り付けられている。
【0052】
膨張パッカ11,11は、地上から注入パイプ12aを介して送り込まれた流体(エアまたは液体)または固結液体によって膨張し、ボーリング孔5の孔壁を強く押圧することにより外管9をボーリング孔5内に固定すると共に、ボーリング孔5と外管9との間に密封空間13を形成する構成になっている。この場合の密封空間13はボーリング孔5の孔壁と外管9と左右膨張パッカ11,11とから形成される。
【0053】
一方、内管10の先端部分に膨張パッカ14,14が所定間隔おきに取り付けられている。膨張パッカ14,14は、膨張パッカ11,11と同様に地上から注入パイプ12bを介して送り込まれた流体または固結液体によって膨張し、外管9の内壁を強く押圧することにより内管10を外管9内に固定すると共に、外管9と内管10との間に密封空間15を形成する構成になっている。 なお、この場合の密封空間15は外管9と内管10と左右膨張パッカ14,14とから形成される。
【0054】
このような構成において、注入管8によってボーリング孔5周辺の盛土地盤2中に固化材を注入するには、まず、ボーリング孔5内に注入管8の外管9を挿入する。そして、外管9の各膨張パッカ11,11を当該膨張パッカ11内に流体又は固結液体を注入して膨張させることにより、外管9をボーリング孔5内に固定し、かつ外管9とボーリング孔5との間に密封空間13を形成する。
【0055】
次に、外管9内に内管10を挿入し、各膨張パッカ14,14を当該膨張パッカ14にエア又は液体を注入して膨張させることにより、内管10の先端部分を外管9内に固定すると共に、外管9と内管10との間に密封空間15を形成する。
【0056】
次に、密封空間15内に注入パイプ12cを介して固化材を高圧で送り込む。密封空間15内に送り込まれた固化材は、外管9の吐出口9bを通って密封空間13内に押し出され、密封空間13周辺の盛土地盤2内に注入される。
【0057】
なお、膨張パッカ11と14に注入されたエアまたは液体を抜いて膨張パッカ11と14をそれぞれ収縮させることにより、外管9と内管10は再び自由に移動させることができる。
【0058】
この場合、固化材は密封空間13周辺の地盤中に注入されるため、1ヶ所の固化材の注入によって形成される地盤改良部は球状に形成されるが、注入管8を原地盤1の上流側から下流側方向に徐々に引き抜きながら固化材の注入を繰り返し行うことにより、地盤改良部3は原地盤1の上流側から下流側方向に連続して形成することができる。
【0059】
なお、図8(a)の例においては、固化材は複数の密封空間13内に一本の注入管12cによって同時に注入する構成になっているが、内管10内に複数の注入管12cを挿入し、各注入管12cを介して各密封空間13に固化材を同時に注入することもできる。さらに、複数の注入管8を用い、複数のボーリング孔5に同時に固化材を注入することもできる。このように施工することで、地盤改良部3を非常に効率的に形成することができる。
【0060】
また、膨張パッカ11にエアや液体を注入する代わりにモルタル等の固化材を注入する場合は、外管9は回収せず、原地盤1と盛土地盤2との境界部分Aに埋設し、盛土地盤2の補強材として利用することができる。
【0061】
なお、上記において図示しないが、曲りボーリングのボーリングロッド内の1本または複数の流路から注入液を注入しながら、ボーリングロッドを引抜いて地盤を固結してもよいし、また外管から直接注入液を注入してもよいし、また外管から注入しながら外管を引抜いて地盤を固結してもよい。
【0062】
排水孔4は、ボーリング孔5を削孔した後、当該ボーリング孔5内に孔開き管(図省略)を挿入することにより形成することができる。
【0063】
図8(b)は、ボーリング孔5周辺の盛土地盤2中に固化材を注入する他の方法を示し、この場合の注入管8には、図8(a)で説明した外管9として、膨張パッカ11の無いものを使用し、ボーリング孔5内に外管9を挿入した後、ボーリング孔5と外管9との間に隙間充填材16を充填する。
【0064】
そして、密封空間15内に注入パイプ12cを介して固化材を送り込む。密封空間15内に送り込まれた固化材は、外管9の吐出口9bから隙間充填材16を破って吐出口9b周辺の盛土地盤2内に注入される。
【0065】
この方法においても、注入管8を原地盤1の上流側から下流側方向に徐々に引き抜きながら固化材の注入を繰り返し行うことにより、地盤改良部3は原地盤1の上流側から下流側方向に連続して形成することができる。
【0066】
なお、隙間充填材16を先にボーリング孔5内に充填し、その後から外管9をボーリング孔5内に挿入してもよい。隙間充填材16には例えば低強度のセメントベントナイトを用いることができる。
【0067】
また、図8(a)に示す場合と同様に、固化材は複数の密封空間15内に一本の注入管12cによって同時に注入してもよいし、内管10内に複数の注入管12cを挿入し、各注入管12cを介して各密封空間15に固化材を同時に注入することもできる。
【0068】
さらに、複数の注入管8を用い、複数のボーリング孔5に同時に固化材を注入することによって三次元多点注入工法を用いることもできる。
【0069】
なお、当該三次元多点注入工法は、当出願人が所有する特許発明(特許第3724644号)であり、概要を簡単に説明すると、吐出口を有する複数の注入管を地盤中の複数の注入ポイントに埋設し、これらの注入管を通して各注入管の吐出口から地盤改良材を同時に多点注入するようにした地盤注入工法であって、それぞれ独立した駆動源で作動し、かつ集中管理装置で制御される多数のユニットポンプを備えた多連装注入装置を用い、これら多数のユニットボンプが導管を通して複数の注入管と接続され、前記多数のユニットポンプの作動により、地盤改良材を複数の吐出口から地盤中の注入ポイントを通して多点注入するようにしたことを特徴とするものである。
【0070】
また本工法は、地盤改良材を貯蔵する貯蔵タンクと当該貯蔵タンクに接続された多連装注入装置と吐出口を有する複数の注入管とを備え、当該多連装注入装置は、一プラント中にそれぞれ独立した駆動源で作動し、かつ集中管理装置で制御される多数のユニットポンプを備えている。また、注入管は地盤の複数の注入ポイントに埋設され、それぞれが前記各ユニットポンプと導管を通して接続されている。さらに、前記多数のユニットポンプは独立し、それぞれ集中管理装置で制御される回転数変速機を備え、前記導管は流量圧力検出器を備えている。
【0071】
そして、前記流量圧力検出器からの流量および/または圧力データの信号を集中管理装置に送信し、前記貯蔵タンク内の地盤改良材を各ユニットポンプの作動により任意の注入速度、注入圧力および注入量で各注入管に圧送し、複数の吐出口から同時に地盤に多点注入することができる。
【0072】
次に、本発明の地盤強化法の検討結果について説明する。
盛土高さ 5.0 m
盛土長さ 200.0 m
盛土幅 50.0 m
盛土傾斜角 10.0 度
盛土の単位体積重量 γt=17KN/m
モデル地盤 図9(a),(b)
【0073】
図9(a),(b)において、盛土部αは、地震などで外力が作用することにより原地盤βとの境界面付近に沿って滑り落ちようとする。これを滑り面上に作用する滑りを起そうとする力(以下「滑動せん断力」という)W・sinθという。一方、滑り面にはこれを阻止しようとする力(以下「せん断抵抗力」という)τ・Lが作用する。滑動せん断力W・sinθとせん断抵抗力τ・Lは釣り合った状態(限界状態)にあるものと仮定する。すなわち、安全率Fs=1.0と仮定して本発明の地盤強化方法を検討した。
【0074】
図9(a)において、滑動せん断力W・sinθとせん断抵抗力τ・Lが釣り合っていると仮定すると、
Fs=τ・L/W・sinθ=1.0(Fs 安全率) ……式・1
式・1から盛土下部境界面のせん断抵抗τを求める。
【0075】
τ・L/W・sinθ=1.0
τ・L=τ・203KN/m
=203・τKN/m
W・sinθ=200.0m×5.0m×17KN/m×sin10°
=17000×0.17365
=17000×0.174
=2.958KN/m
Fs=1.0より
τ・L/W・sinθ=203・τ/2.958
=1.0
よって、せん断抵抗τ=2.958/203
=14.6KN/m
となる。
【0076】
前述のとおり、現状で滑動せん断力とせん断抵抗力が安全率Fs=1.0で釣り合った状態を薬液(固化材)注入により地盤強化してその安全率を高め、地盤の安定化を図ることとする。
【0077】
薬液注入には誘導式曲りボーリングを利用し、図8(b)の注入方式で三次元多点注入方法を採用することとし、溶液型恒久グラウト(活性シリカコロイド「パーマロック」強化土エンジニヤリング(株)の登録商標)を用いることもできるし、懸濁型恒久グラウト(超微粒子複合シリカ「ハイブリッドシリカ」強化土エンジニヤリング(株)の登録商標)を用いることもできる。
【0078】
下記の検討では、注入材には改良の目的を考慮し、恒久的な改良効果が得られる恒久グラウト〔高強度活性シリカコロイド「パーマロック・ハイ」を用いた(表1参照)。
【0079】
また、三次元多点注入方法による改良地盤のせん断抵抗τを表2のとおりとした。曲りボーリングを応用した三次元多点注入方法による地盤改良の場合、曲りボーリングの精度および性能を考慮して下流側50m、上流側50m、合計100mの地盤強化を行った。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
また、三次元多点注入方法の性能から1ノズルからの改良体は直径2.0mの球状改良体として改良範囲を検討した。
【0083】
安全率Fs=1.5に改良する場合について検討する。
改良面積比率μを算定する。
Fs=τ・L/W・sinθ=1.5の式から
〔μ×τ+(1−μ)×τ〕×203/2.951=1.5
μ=2.958×1.5−14.6×203/203τ−2.964
=1.473/203τ−2.964 …… 式・2
式・2に改良地盤のτを代入してμを算定すると表3のとおりになり、結果としてFs=1.75〜1.8となる。
【0084】
以上のことから、薬液注入工法(三次元多点注入工法)による地盤強化の改良面積比を表4のとおり設定した。そして、検討結果からモデル地盤での改良範囲は検討して以下のようになった(改良範囲は、図10(a),(b)参照)。なお、表5は安全率Fsが1.5のときの改良率、改良面積および注入孔数を示したものである。
【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
【表5】

【0088】
モデル地盤の面積S=50.0×203.0=10.150.0m
必要改良面積S=S×μ
注入孔(地盤改良部)は、本工法の特性により1孔当りの長さ50.0m、改良幅2.0mとして孔数を算定した。
1孔当りの改良面積Sg=2.0×50.0=100.0m
【0089】
次に、前記の固化材注入による地盤強化法に排水孔施工による地盤強化法を併用した検討結果について説明する。
【0090】
ここで、排水孔の施工効果により、盛土下部境界面のせん断抵抗力τ=14.6KN/mが70%向上すると考えると、排水孔の施工果面積は、幅3m×長さ50m(+α)/排水孔1本×8本=1200mとなり、これに14.6×0.7を乗ずると12264KNのせん断抵抗力増となり、単位幅当たりでは245KN増となる。
【0091】
したがって、Fs=245KN/2958KN/m=0.08の向上となる。なお、排水孔の設置間隔は固化材注入孔(地盤改良部)との複合効果を考慮して図11(a),(b)のとおりとした。
【0092】
次に、地震時について検討する。
Fs=τ・L/W・sinθ+Kh・W・cosθ
なお、Khは、設計水平震度
モデル地盤は盛土厚が5.0mと比較的浅いので、設計水平震度Kh=0.16として検討した。
Fs=1.5の場合
Fs=τ・L/W・sinθ+Kh・W・cosθ
=〔μ×τ+(1−μ)×τ〕×203/W・sinθ
+Kh・W・cosθ
=〔0.05×250.0+(1−0.05)×14.5〕
×203/2.951×0.16×17.000×cos10
=5.33/5.630
=0.95となる。
【0093】
これに排水による増加分のFs=0.08を加算すると、Fs=1.03となる。なお、上記計算は簡便な設計によったが、改良効果を知るにはこれで充分である。
【0094】
また、排水による改良効果は地下水位が低下することによる土粒子間の有効応力が大きくなることによる効果であり、それにより盛土境界面のせん断抵抗力が70%向上するとしたが、基本的には問題ないはずである。また、液状化防止効果も当然期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、谷間の原地盤の上に盛土して造成する谷埋め盛土による宅地や工場建設地などの造成地の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】傾斜地の原地盤の上に盛土して造成され、境界部分に地盤改良部が形成された造成宅地を示し、(a)は縦断面図、(b)は一部平面図である。
【図2】傾斜地の原地盤の上に盛土して造成され、境界部分に地盤改良部と排水孔が形成された造成宅地を示し、(a)は縦断面図、(b)は一部平面図である。
【図3】傾斜地の原地盤の上に盛土して造成され、境界部分に地盤改良部が形成された造成宅地を示し、(a)は縦断面図、(b)は一部平面図である。
【図4】傾斜地の原地盤の上に盛土して造成され、境界部分に地盤改良部と排水孔が形成された造成宅地を示し、(a)は縦断面図、(b)は一部平面図である。
【図5】傾斜地の原地盤の上に盛土して造成され、境界部分に地盤改良部が形成された造成宅地を示し、(a)は縦断面図、(b)は一部平面図である。
【図6】傾斜地の原地盤の上に盛土して造成され、境界部分に地盤改良部と排水孔が形成された造成宅地を示し、(a)は縦断面図、(b)は一部平面図である。
【図7】(a),(b)はボーリングロッドの動さを示す原地盤と盛土地盤との境界部分の断面図である。
【図8】(a),(b)は、固化材の注入方法を示す注入管先端部の縦断面図である。
【図9】モデル地盤を示し、(a)は縦断面図、(b)は一部平面図である。
【図10】地盤強化後のモデル地盤を示し、(a)は縦断面図、(b)は一部平面図である。
【図11】地盤強化後のモデル地盤を示し、(a)は縦断面図、(b)は一部平面図である。
【図12】(a),(b)は従来の地盤強化方法の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0097】
1 原地盤
2 盛土地盤
3 地盤改良部
4 排水孔
5 ボーリング孔
6 ボーリングロッド
6a ドリルヘッド
6b テーパ刃
7 ケーシング
8 注入管
9 外管
9a 逆止弁
9b 吐出口
10 内管
11 膨張パッカ
12a 注入パイプ
12b 注入パイプ
12c 注入パイプ
13 密封空間
14 膨張パッカ
15 密封空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原地盤と当該原地盤の上に造成された盛土地盤との境界部分に、複数のボーリング孔を前記原地盤と盛土地盤との境界面附近に沿って原地盤の傾斜方向に複数列に削孔し、当該ボーリング孔内に固化材を注入して前記原地盤の傾斜方向に複数列の地盤改良部を形成することを特徴とする地盤強化方法。
【請求項2】
谷部に盛土して造成された谷埋め盛土地盤の地盤強化方法であって、原地盤と当該原地盤の上に造成された谷埋め盛土地盤との境界部分に、複数のボーリング孔を前記原地盤と谷埋め盛土地盤との境界面付近に沿って原地盤の傾斜方向に複数列に削孔し、当該ボーリング孔内に固化材を注入して前記原地盤の傾斜方向に複数列の地盤改良部を形成することを特徴とする地盤強化方法。
【請求項3】
ボーリング孔は誘導式曲りボーリングによって削孔することを特徴とする請求項1または2記載の地盤強化方法。
【請求項4】
前記地盤改良部は原地盤の下流側および/または上流側の一定範囲に渡って形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の地盤強化方法。
【請求項5】
上流側の地盤改良部は、斜面の上流部に曲りボーリング又は直線ボーリングによって削孔したボーリング孔内に固結材を注入するか、あるいは攪拌混合式または高圧噴射方式によって形成することを特徴とする請求項4記載の地盤安定化方法。
【請求項6】
原地盤と盛土地盤との境界部分に排水孔を前記原地盤と盛土地盤との境界面付近に沿って原地盤の傾斜方向に形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の地盤強化方法。
【請求項7】
前記排水孔は地盤改良部間に形成することを特徴とする請求項6記載の地盤強化方法。
【請求項8】
盛土地盤の下流側部に擁壁を構築することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の地盤強化方法。
【請求項9】
盛土地盤にアンカーを施工し、当該アンカーの先端を原地盤に定着することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の地盤強化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−231628(P2007−231628A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55105(P2006−55105)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】