説明

地震防護装置

【課題】地震による被害、特に建築物に係わる地震による人的な被害を極力抑える。
【解決手段】防護板50は、平時には、建築物壁面に平行であり、地震速報を受けると、上部が建築物壁面から離れて開かれ、建築物の庇になり、落下物を防御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生検知時に、被害を抑制するための地震防護装置に係り、特に、地震による被害、特に建築物に係わる地震による人的な被害を極力抑えることができる地震防護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震においては、伝播速度が毎秒7〜8kmのP波(初期微動)が、これよりも遅く伝播速度が同3〜4kmのS波(主要動)より先に到達する。このため、震源からある程度の距離があるエリアでは、P波を検知することで、主要動のS波による被害を抑えるようにすることもできる。震源から80kmの距離では、S波のおよそ20秒前にP波を検知することができる。
【0003】
例えば、エレベータでは、P波を検知して、昇降動作を最寄の階で停止させ、ドアを開けるようにする装置を備えたものがあり、該装置の取付け義務化も提言されている。
【0004】
更に、気象庁は、全国各地に敷設した専用地震計を利用し、震源に近い観測点で観測された地震波に基づいて、震源の場所(位置)、地震の規模、及び、各地に到達するであろう地震の震度を、秒単位という短時間で推定し、これを発表するという、緊急地震速報を開発している。又、このような緊急地震速報に応じる種々の技術も見受けられる。
【0005】
特許文献1では、緊急地震速報を用いて、主要動が到達する前に、エレベータを最適階に停止させるようにしている。又、特許文献2では、緊急地震速報を用いた地震の報知や制御に、ニューラルネットワークを用いることで、利用精度の向上や、学習による最適化を図るようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−143354号公報
【特許文献2】特開2006−170739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来は、P波検知によるものも、緊急地震速報によるものも、防災対策は限られている。例えば、エレベータや、鉄道の運行などである。過去の大地震を省みると、極身近な状況で、地震により、人的な被害が多くもたらされている。例えば、福岡県西方沖地震では、ビルの窓ガラスが割れて落下し、多くの人的な被害をもたらしている。又、阪神・淡路大震災では、落下した窓ガラスによる二次的な被害ももたらしている。
【0008】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、地震による被害、特に建築物に係わる地震による人的な被害を極力抑えることができる地震防護装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、地震発生検知時に、被害を抑制するための地震防護装置であって、遠隔地からの、地震計による地震検知に基づいた地震速報を、ネットワークを介して受信する受信部と、該受信部により受信した該地震速報を解析し、防護設備の動作の可否を判定する解析判定部と、該判定結果を出力するリレー接点出力部と、を備え、該判定結果出力に基づいて、人的被害を抑えるための防護設備を作動させることにより、前記課題を解決したものである。
【0010】
又、前記地震防護装置において、前記防護設備が、建築物壁面に取付けられて、前記判定結果出力の入力時には開かれ、これにより、建築物近傍の歩行者への落下物を防御する落下物防止設備であることにより、前記課題を解決したものである。
【0011】
更に、前記地震防護装置において、前記落下物防止設備が、平時には、建築物壁面に平行な防護板であって、前記判定結果出力の入力時には、該防護板の上部が建築物壁面から離れて開かれ、建築物の庇になり、落下物を防御するものであることにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
又、前記地震防護装置において、前記防護板が、平時の、建築物壁面に平行な状態において、外部側に、広告看板として絵柄を描画可能になっていることにより、前記課題を解決したものである。
【0013】
更に、前記地震防護装置において、更に、建築物周辺の降雨を検出する手段を備え、前記落下物防止設備が、該降雨検出時にも開かれて、これにより、建築物近傍の歩行者への降雨を防ぐものであることにより、前記課題を解決したものである。
【0014】
更には、前記地震防護装置において、前記防護設備が、建築物の外部への出入口の経路に設けられ、前記判定結果出力の入力の有無に従って、ドアの開閉動作を制御する自動ドア装置であることにより、前記課題を解決したものである。
【0015】
又、前記地震防護装置において、前記自動ドア装置が、平時には、少なくとも退出者の認証を行なってドアを開くものであって、前記判定結果出力の入力時には、該認証に拘わらずドアを開き、又、場外への避難に要する程度の長さとされた設定時間の後には、平時のドア動作になるものであることにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、建築物特有の地震被害に着目し、このための地震防護装置を備えるようにして、地震による被害、特に建築物に係わる地震による人的な被害を極力抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明が適用された実施形態の地震防護装置の構成を示すブロック図である。
【0019】
この図において、気象業務支援センタ10は、前述の緊急地震速報の配信元の気象庁である。あるいは、同様の地震速報の配信元であってもよい。このような緊急地震速報や地震速報は、インターネットなどのネットワーク1を介して、各地の地震防護システム20に配信される。
【0020】
気象業務支援センタ10は、専用地震計による地震検知装置12、及び、地震警報通知装置14を備える。この地震警報通知装置14は、地震検知装置12による地震観測に基づいて、震源の場所(位置)、地震の規模、及び、各地に到達するであろう地震の震度を、秒単位という短時間で推定し、該推定結果を地震速報として、ネットワーク1を介して配信する。
【0021】
図2は、本実施形態の地震防護システム20の構成を示すブロック図である。
【0022】
図示されるように、地震防護システム20は、地震速報受信部23及び解析判定部24を備えた緊急地震情報システム受信装置21と、リレー接点出力装置26と、地震防護制御装置28と、落下物防護壁装置40と、入退室管理装置70とを有している。更に、該地震防護システム20は、P波検知器32及びS波検知器33を備えた自営地震検知装置30と、気象検出装置36とを有している。
【0023】
又、落下物防護壁装置40には、種々の防護壁装置42や防護ネット装置44が接続され、これらは該落下物防護壁装置40によって制御される。入退室管理装置70には、種々の自動ドア装置72が接続され、これらは該入退室管理装置70によって制御される。
【0024】
まず、緊急地震情報システム受信装置21の地震速報受信部23は、前述のようにネットワーク1を介して配信される地震速報を受信する。又、解析判定部24は、該地震速報の内容を解析し、該解析結果をリレー接点出力装置26に対して出力する。
【0025】
具体的には、該解析判定部24は、地震防護システム20の防護対象とするビルの立地場所の、どの程度の震度の地震が、地震速報において推定されているか解析する。又、該解析判定部24は、以下のように、該解析結果を、リレー接点出力装置26の接点1〜接点8から出力する。
【0026】
なお、リレー接点出力装置26の出力は、いわゆるドライ接点出力の、合計8出力を有している。このため、該リレー接点出力装置26には、地震防護制御装置28その他、様々な機器を容易に接続することができる。
【0027】
ここで、接点1〜接点8の接点出力の割付は、以下の通りとなっている。
【0028】
基本的に、接点1〜4は、予想震度をもとに接点をONとし、接点5〜8は、予備用としている。但し、これら予備用の接点5〜8にも、接点1〜4の情報を割り振っている。
【0029】
接点1:緊急地震速報が送られてきた場合
接点2:予想震度が4以上
接点3:予想震度が5弱以上
接点4:予想震度が5強以上
接点5:予備(接点1と同じ動き)
接点6:予備(接点2と同じ動き)
接点7:予備(接点3と同じ動き)
接点8:予備(接点4と同じ動き)
【0030】
又、本実施形態において、これら接点1〜8のオフのタイミングは、予想震度の大きさにより異なり、以下のとおりである。なお、気象庁からの発信基準は、推定されるマグニチュードが3.5以上、又は推定される最大震度が3以上、若しくは、どこかの観測点で100gal以上の揺れを観測した場合である。
【0031】
予想到達時刻+30秒:予想震度5強以上
予想到達時刻+20秒:予想震度1以上〜5強未満
予想到達時刻+13秒:予想震度1未満
【0032】
次に、地震防護制御装置28は、リレー接点出力装置26からの入力に応じて、落下物防護壁装置40及び入退室管理装置70を介して、防護壁装置42及び防護ネット装置44又自動ドア装置72を、適宜連携させながら制御する。
【0033】
図3は、平時における防護壁装置42を示す、該防護壁装置42が外壁面に取り付けられたビルの斜視図である。図4は、地震速報や降雨検出に応じて展開した時の防護壁装置42を示す、該防護壁装置42が外壁面に取り付けられたビルの斜視図である。図5は、該防護壁装置42の側面図である。なお、図3及び図4では、後述する防護板50は、太線で示される。又、ビル5は破線で示される。
【0034】
気象業務支援センタ10からの地震速報により、あるいは自営地震検知装置30により、ビル5の立地場所において、防護の対象になるような地震の発生が推定されたり、観測されたりした場合、落下物防護壁装置40から制御盤56に対して展開信号が出力され、止め金55が外される。
【0035】
すると、防護板50は、その自重により、上部が建築物壁面から離れて開かれ、建築物の庇になる。該防護板50は、アーム51により、庇の状態で保持される。ここで、図4は開放端であり、図5は開放端の少し前の状態である。このように防護板50が開かれることで、ビル5の窓ガラスが地震によって割れて落下しても、歩行者7に降りかからないように防護することができる。
【0036】
又、気象検出装置36によって、ビル5の立地場所において、降雨が検出される場合、地震防護制御装置28は、落下物防護壁装置40から制御盤56に対して展開信号を出力し、これにより、止め金55が外される。従って、同様に防護板50が展開し、建築物近傍の歩行者への降雨を防ぐことができる。
【0037】
なお、平時において、防護板50は、ビル5の壁面に平行な状態になり、又、このような状態において該防護板50の外側には、広告看板として絵柄を描画可能になっている。従って、平時には、該防護板50を、広告媒体として利用することができる。
【0038】
次に、図6は、本実施形態の防護ネット装置44の側面図である。
【0039】
図示されるように、防護ネット装置44のネット本体60は、平時には、ロール部66にすべて巻かれており、又、その先端には金属バー64が取り付けられている。この金属バー64の両端は、ビル5の壁面から、アーム62により支えられている。
【0040】
そして、地震防護制御装置28が、落下物防護壁装置40から制御盤67に対して展開信号を出力すると、これにより、ロール部66の回転ロックが解除される。従って、ネット本体60は、該ネット本体60や金属バー64の自重により、ロール部66から引き出され、展開される。これにより、ビル5の窓ガラスが地震によって割れて落下しても、歩行者7に降りかからないように防護することができる。ネット本体60の網目は、十分に細かいので、割れた窓ガラスの落下を防護することができる。
【0041】
なお、上記のネット本体60は、防水性のシートにすることもできる。この場合、防護ネット装置44は、前述の防護壁装置42と同様に、降雨時に展開することで、建築物近傍の歩行者への降雨防止に用いることができる。
【0042】
なお、前述の止め金55や、ロール部66の回転ロックは、それ自体に、地震によって作動するような機械機構を備えるようにしてもよい。これにより、制御系の故障や、停電があっても、地震発生時には、防護板50やネット本体60を展開することができ、地震による被害を極力抑えることができる。
【0043】
次に、本実施形態において、自動ドア装置52は、ビル5の外部への出入口の経路に設けられ、解析判定部24による判定結果や、自営地震検知装置30による地震検知に従って、ドアの開閉動作が制御される。
【0044】
又、自動ドア装置52の内、あるものは、平時には、入場者や退出者が読取り機に通すIDカードにより、その者の認証を行なって、ドアを開くようになっている。そして、解析判定部24による判定結果や、自営地震検知装置30の地震検知により、防護すべき地震ありとされた場合は、該認証に拘わらずドアを開き、又、場外への避難に要する程度の長さとされた設定時間の後には、平時のドア動作になっている。
【0045】
従って、場内にいる者は、認証に煩わされることなく速やかに退出することができ、速やかに避難することができる。又、場外への避難に要する程度の長さとされた設定時間の後には、平時のドア動作になるので、入場者の認証により資格のない者の入場や退場を防ぎ、盗難その他を防ぐことができる。
【0046】
なお、本実施形態において、解析判定部24による判定結果や、自営地震検知装置30の地震検知により、防護すべき地震ありとされた場合で、防護壁装置42や防護ネット装置44が開かれる場合、これらがある程度開かれるまでは、自動ドア装置52のドアの開放を遅らせるようにしている。これにより、防護壁装置42や防護ネット装置44が開かれてから、ビル5の外部に出られるので、確実に落下物から防護することができる。
【0047】
なお、所定時間過ぎた場合は、防護壁装置42や防護ネット装置44の展開の有無に係わらず、該自動ドア装置52のドアは開かれるようになっているので、防護壁装置42や防護ネット装置44が故障して展開しない場合も、ビル5の外部に出ることができる。
【0048】
以上に説明したように、本実施形態では、本願発明を適用して、防護壁装置42や防護ネット装置44による防護を行なうのみならず、これらと自動ドア装置52を連携して、人的な被害を抑えるように防護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明が適用された実施形態の地震防護装置の構成を示すブロック図
【図2】上記実施形態の地震防護システム20の構成を示すブロック図
【図3】前記実施形態の平時における防護壁装置42を示す、該防護壁装置42が外壁面に取り付けられたビルの斜視図
【図4】前記実施形態の地震速報や降雨検出に応じて展開した時の防護壁装置42を示す、該防護壁装置42が外壁面に取り付けられたビルの斜視図
【図5】該防護壁装置42の側面図
【図6】前記実施形態の防護ネット装置44の側面図
【符号の説明】
【0050】
1…ネットワーク
5…ビル
7…歩行者
10…気象業務支援センタ
12…地震検知装置
14…地震警報通知装置
20…地震防護システム
21…緊急地震情報システム受信装置
23…地震速報受信部
24…解析判定部
26…リレー接点出力装置
28…地震防護制御装置
30…自営地震検知装置
32…P波検知器
33…S波検知器
36…気象検出装置
40…落下物防護壁装置
42…防護壁装置
44…防護ネット装置
50…防護板
51、62…アーム
55…止め金
56、67…制御盤
60…ネット本体
64…金属バー
66…ロール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震発生検知時に、被害を抑制するための地震防護装置であって、
遠隔地からの、地震計による地震検知に基づいた地震速報を、ネットワークを介して受信する受信部と、
該受信部により受信した該地震速報を解析し、防護設備の動作の可否を判定する解析判定部と、
該判定結果を出力するリレー接点出力部と、を備え、
該判定結果出力に基づいて、人的被害を抑えるための防護設備を作動させることを特徴とする地震防護装置。
【請求項2】
請求項1に記載の地震防護装置において、
前記防護設備が、建築物壁面に取付けられて、前記判定結果出力の入力時には開かれ、これにより、建築物近傍の歩行者への落下物を防御する落下物防止設備であることを特徴とする地震防護装置。
【請求項3】
請求項2に記載の地震防護装置において、
前記落下物防止設備が、平時には、建築物壁面に平行な防護板であって、前記判定結果出力の入力時には、該防護板の上部が建築物壁面から離れて開かれ、建築物の庇になり、落下物を防御するものであることを特徴とする地震防護装置。
【請求項4】
請求項3に記載の地震防護装置において、
前記防護板が、平時の、建築物壁面に平行な状態において、外部側に、広告看板として絵柄を描画可能になっていることを特徴とする地震防護装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれか1つに記載の地震防護装置において、
更に、建築物周辺の降雨を検出する手段を備え、
前記落下物防止設備が、該降雨検出時にも開かれて、これにより、建築物近傍の歩行者への降雨を防ぐものであることを特徴とする地震防護装置。
【請求項6】
請求項1に記載の地震防護装置において、
前記防護設備が、建築物の外部への出入口の経路に設けられ、前記判定結果出力の入力の有無に従って、ドアの開閉動作を制御する自動ドア装置であることを特徴とする地震防護装置。
【請求項7】
請求項6に記載の地震防護装置において、
前記自動ドア装置が、平時には、少なくとも退出者の認証を行なってドアを開くものであって、前記判定結果出力の入力時には、該認証に拘わらずドアを開き、又、場外への避難に要する程度の長さとされた設定時間の後には、平時のドア動作になるものであることを特徴とする地震防護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−241625(P2008−241625A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85672(P2007−85672)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000200253)JFEシステムズ株式会社 (38)
【Fターム(参考)】