説明

坂道発進アシスト機能を有する自動車の運転を安全に行なう方法、及びそのような自動車

自動車の発進指令に続いて、坂道発進アシスト(53)が実行される前に少なくとも1つの条件を確認し(50、51、52)、前記条件が満たされる場合に、前記坂道発進アシスト(53)の実行を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坂道発進アシスト機能を有する自動車の運転を安全に行なう方法、及びそのような自動車に関する。
【0002】
自動車を坂道で停車する場合、この車両を登り方向に発進させることが、困難であることが多く、又は危険でさえある場合がある。多くの運転者にとって、登り方向の坂道発進は、このような理由により、大きなストレスの原因になる。
【0003】
坂道発進時、運転者は、車両を駆動するエンジンを失速させることなくこの車両が後進するのを出来るだけ防がなければならず、この操作を行なうために、運転者は、ブレーキを解除する操作と、車両の駆動輪を、この車両を駆動するエンジンに徐々に連結させる操作という2つの操作を組み合わせる必要がある。
【0004】
そのため、この発進を運転者の代わりに管理することにより坂道発進中の運転者による作業を容易にするために、一般に「坂道発進アシスト装置」又は「発進アシスト装置」と呼ばれる指令制御装置が検討されてきた。
【背景技術】
【0005】
坂道発進アシスト装置では、コンピュータが、複数のセンサから送信される測定値のような種々の情報項目に基づいて車両のブレーキの解除を制御する。このために、当該コンピュータは、特許文献1又は2に記載されているような特定の方法を使用する。
【0006】
坂道発進アシストを実行する現時点で利用可能な方法のうち、全てが同じように効果的である訳ではない。更に、対象とする車両の種類と、車両の特定の特徴に応じて、これらの手順のうちの一部の手順が他の手順よりも適切である。加えて、現時点で提案されている坂道発進アシスト装置の特定の不具合は、未だ明らかにはなっていないことも考えられる。
【0007】
したがって、本発明は、坂道発進アシスト装置における可能な改善策、特に安全運転という主題に関する可能な改善策を見つけ出すための汎用的手法の一部を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】仏国特許出願第2828450号
【特許文献2】仏国特許出願第2841199号
【発明の概要】
【0009】
本発明の1つの主題は、車両を駆動するドライブトレインと、坂道発進アシストを行なう装置とを備える自動車の運転を安全に行なう方法である。この方法では、車両を発進させるか、又は車両を動かす指令に続いて、坂道発進アシストが実行される前に少なくとも1つの条件を確認し、条件が満たされる場合にこの坂道発進アシストの実行を防止する。
【0010】
上に定義される方法によって、坂道発進アシストは、有害な結果を招き得る状況になる場合に防止される。このような状況は、車両を駆動するドライブトレインが完全には作動停止していない作動停止フェーズにある場合に発生したことが判明している。この状況は、エンジンが停止指令に応答して直ちに停止せず、この停止指令によって始まる幾つかのテストを走らせて完了させた後にのみ停止する新世代の自動車において生じ得る。
【0011】
停止指令が、自動車の運転者が気付かないうちに誤って出されてしまった場合、この運転者は、車両のドライブトレインの作動停止フェーズ中に発進したいと思う場合がある。本発明によって、このような状況での坂道発進アシストの実行を防止することができるので、起こり得るアセンブリの誤動作、及び/又は例えば、車両の駐車ブレーキの時機を逸した解除から生じ得る事故を回避することができる。
【0012】
坂道発進アシストの実行によって誤動作が生じる別の状況は、坂道発進アシストによって使用されるデータ項目を供給する少なくとも1つの装置の故障である。本発明によって、このような誤動作を回避することもできる。
【0013】
本発明はまた、自動車のドアが開いたままの状態で、又はこの車両が、静止しているときは正常であるが全速力で走行しているときは危険であるか、又は許容されない状態で、坂道発進アシストが作動するのを防止するために使用することができる。
【0014】
したがって、前記条件は、有利には、ドライブトレインの作動停止が進行中であるという事実、坂道発進アシストを行なうために使用される情報項目が無効と見なされるという事実、坂道発進アシストを行なう装置に異常が検出されるという事実、及び車両が、不動状態になっているときに可能であるが、動いている状態では許容されない構成にあることが検出されるという事実から選択される。
【0015】
有利には、当該条件は、ドライブトレインの作動停止が進行中であることである。この状況では、この条件は、有利には、ドライブトレインを作動停止する指令の時点から満たされ、かつ下記3つの状況のうちの少なくとも1つが発生していない間のみ満たされると見なされる。3つの状況とは、
−ドライブトレインを作動停止する指令が出されていない状態でドライブトレインが作動停止される状況、
−ドライブトレインを作動停止するための最後の指令が出されてから、所定の時間が経過しておらず、ドライブトレインを作動停止する指令が出されていない状況、及び
−自動車の速度が所定の閾値速度を上回っており、ドライブトレインを作動停止する指令が出されていない状況
である。
【0016】
有利には、前記条件及び少なくとも1つの他の条件、すなわち多数の異なる条件が試験され、これらの異なる条件のうちの少なくとも1つが満たされる場合に坂道発進アシストの実行が防止される。
【0017】
有利には、前記条件が満たされなくなった場合に、坂道発進アシストの実行の防止を停止する。
【0018】
本発明の別の主題は、車両を駆動するドライブトレインと、坂道発進アシストを行なう装置とを備える自動車であり、坂道発進アシスト装置は、車両を発進させる指令に続いて少なくとも1つの条件を試験し、この条件が満たされない場合に坂道発進アシストを実行しないように設計されている。
【0019】
上に列挙した理由と同じ理由により、この自動車では、運転の安全性が高まる。
【0020】
有利には、自動車の坂道発進アシストを行なう装置は、上に定義される方法を実行するように設計される。
【0021】
本発明は、非限定的な実施例として与えられ、かつ添付図面を参照する以下の説明を一読することにより明確に理解されるものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、坂道発進アシスト機能を備え、かつ本発明に適合する自動車の簡略図である。
【図2】図2は、図1の自動車の運転を安全に行なうために提供される、本発明による方法の動作論理のブロック図である。
【図3】図3は、図1に示す自動車を駆動するドライブトレインの作動停止が進行中であるかどうかを確認する動作論理のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1では、自動車は、その4つの車輪1と、ドライブトレイン2とによって記号表示されており、ドライブトレイン2は、複数の車輪1に連結され、従来のように、内燃エンジン又は電動エンジン又はハイブリッドエンジンのようなエンジンと、ギアボックスと、クラッチ又は等価な装置とを備えている。
【0024】
後述、及び特許請求の範囲では、「フロント」、「リア」、「前後方向」という用語、及び同様の用語は、自動車の正常な走行方向を基準にしている。
【0025】
図1に示す自動車は、各々が車輪1に取り付けられる複数の電気制御駐車ブレーキ3、並びに、静止時の車両を不動にするオンポジションと、オフポジション又はニュートラルポジションとの切り換えることができる電気アクチュエータ4を備える。
【0026】
コンピュータ5は電気アクチュエータ4を制御し、この電気アクチュエータ4に、当該コンピュータはCAN(登録商標)タイプのバスのようなバス6を介して接続されており、このバスの機能はデータを送信することである。このバス6はまた、コンピュータ5及びドライブトレイン2を互いに対して接続する。
【0027】
コンピュータ5は、車両が静止すると直ぐに、運転者が車両の発進を指令するまで、ブレーキ3が作動するように指令することにより、自動車の駐車ブレーキを自動的に管理するように設計されている。換言すると、自動車には、普通、「自動駐車ブレーキ」と呼ばれる機能が付与される。運転者はまた、コンピュータ5に接続されたボタン7を押すことにより、自分で駐車ブレーキ3の作動又は作動解除を指令することができる。
【0028】
コンピュータ5はまた、自動車に搭載される坂道発進アシスト機能を働かせることができる。したがって、このコンピュータ5は、駐車ブレーキ3のクランピング圧力を測定又は推定するセンサ8と、クラッチペダル10の位置を検出するセンサ9と、ドライブトレイン2のギアボックスのギア比を検出するセンサ11と、ドライブトレイン2のエンジンの回転速度を検出するセンサ12と、水平に対する車両の前後軸X−X’の傾斜を測定するセンサ13とを含む複数のセンサに接続されている。参照番号14は、測定値又は他の情報項目をコンピュータ5に供給することができる他のいくつかのセンサを指し、これらのセンサには、自動車の速度のセンサ、この車両のエンジンによって供給されるトルクのセンサ、及びドライブトレイン2に連結される車輪のそれぞれの回転速度のセンサが含まれる。車両のアクセルペダル15の位置に関する情報項目もバス6を介してコンピュータ5に送信され、このバス6にはアクセルペダル15が接続されている。
【0029】
ドライブトレイン2は、当該ドライブトレイン2のエンジンの動作を制御するコンピュータ16を含む。このエンジンの停止又は始動を制御するボタン17がコンピュータ16に接続されている。
【0030】
コンピュータ5は、運転者に代わって、公知の方法、例えば特許文献1に提案される方法で、車両の発進を管理することができる。当該コンピュータ5は、運転者からこのような発進を実行する旨の指令を受信又は推定すると、図2に示すように、複数の条件が全て一括して満たされているかどうかをチェックすることにより始動する。
【0031】
この図2では、参照番号50及び51は、一括して満たされる必要がある条件に関するテストを指している。これらのテスト50のうちの1つは、例えば、コンピュータ5が受信するエンジンの回転速度に関する情報項目が有効であるか否かをチェックする。別のテスト50は、コンピュータ5が受信するアクセルペダル15の位置に関する情報項目が有効であるか否かをチェックする。
【0032】
更に正確には、テスト50及び51の内容は、コンピュータ5が坂道発進アシストを制御するための処理を進めるための手順又は論理に従って選択される。エンジンの状態、すなわち作動中、停止中、又はスタータによって始動中、車両の速度に関する情報項目の有効性又は無効性、車両の傾斜に関する情報項目の有効性又は無効性、クラッチペダルの位置に関する情報項目の有効性又は無効性、エンジンにより供給されるトルクに関する情報項目の有効性又は無効性、ドライブトレイン2に連結される車輪1の回転速度に関する情報項目の有効性又は無効性、並びにギアボックスで選択されるギア比に関する情報項目の有効性又は無効性が、テスト50によって生成可能な結果の他の例である。
【0033】
コンピュータ5が受信する情報項目の有効性は、公知の様々な方法でテストすることができる。例えば、情報項目は、当該情報項目がこの値の正常な変動範囲から外れた値である場合、コンピュータ5が受信する別の情報項目に一致しない場合に、当該情報項目が、コンピュータ5が受信する別の情報項目に一致しない場合、及び/又は当該情報項目が、幾つかの連続する情報送信フレーム中に、バス6により受信されない場合に、無効であると見なすことができる。
【0034】
1つのテスト50では、坂道発進アシストアルゴリズムがパラメータに基づいて構成されるときのパラメータが正常であるか、又は壊れているかをチェックすることもできる。
【0035】
1つのテスト50では、車両が停車しているときに普通に観察されるが、車両の発進を防止する条件、例えば、車両のドアが閉じていない、又は正常に閉じていないという状態が生じているかどうかをチェックすることもできる。
【0036】
テスト51は、ドライブトレイン2のエンジン形成部分を停止するプロセスの開始を可能にする操作に関するものである。
【0037】
ボタン17を押すことにより、運転者は実際、エンジンを停止する指令をコンピュータ16に送信することにより、このようなプロセスを開始することができる。この指令を受信すると、コンピュータ16は、直ちにエンジンを実際に停止してしまうということはしない。予め、当該コンピュータ16は、車両のエンジンが、ボタン17の操作とエンジンの停止との間の所定の期間に亘って作動状態を維持するように、幾つかのテストを走らせる。この期間に、コンピュータ5は、車両を発進させてはならず、かつ駐車ブレーキ3を解除してはいけない。実際は、エンジンが完全に停止していない限り、運転者は、エンジンを停止するように指令したことを忘れてしまい、車両を発進させようとする可能性がある。同じ種類の状況が、ボタン17を偶発的に操作してしまい、エンジン停止プロセスが開始されたことを認識していない状態で、このエンジン停止プロセス中に運転者が車両を発進させようとする可能性がある場合にも生じ得る。
【0038】
車両のエンジンが停止プロセスの過程にあるときに、コンピュータ5が車両を発進させることを防止するために、このコンピュータ5はテスト51で、エンジンの停止が進行中であると見なさなければならないか否かをチェックする。図3は、エンジンの停止が進行中であるかどうかを判断する方法を示している。
【0039】
この図3では、参照番号60は、ボタン17の操作、すなわちエンジンを停止する手動による指令を指している。この手動による指令60によって、エンジンの停止が進行中ではないと見なされる状態61から、エンジンの停止が進行中であると見なされる状態62への移行が生じる。手動による停止指令60によって、タイマーを初期化してカウントダウンするステップ63が開始される。手動による停止指令60によって更に、3つの条件を試験する三重テスト64が開始される。三重テスト64は、これらの3つの条件のうちの少なくとも1つの条件が満たされるまで規則的に繰り返され、少なくとも1つの条件が満たされる場合には、状態61に戻り、エンジンの停止がもはや進行中でないと見なされる。
【0040】
状態61に戻すことができる第1の事実は、手動による停止指令60が出されていない状態で、自動車の速度が所定の速度を上回っていることである。状態61に戻すことができる第2の事実は、手動による停止指令60が出されていない状態で、ステップ63でカウントダウンされる時間又は所定期間が全て経過したことである。状態61に戻すことができる第3の事実は、エンジンの手動による停止指令60が出されていない状態における、エンジンの完全な停止である。換言すると、テスト64によって、エンジン停止の要求がない場合に、それと並行して自動車の速度が所定の速度を上回る状態、及び/又はステップ63で行なわれるカウントダウンが完了していない状態、及び/又はエンジンが完全に停止している状態が存在する場合に、状態62から状態61への移行が生じる。言うまでもなく、新規の手動による停止指令60によって、ステップ63で行なわれるカウントダウンをいつでも初期化し直すことができる。
【0041】
コンピュータ5は、車両が、2つの状態61及び62のうちのいずれであるかを示す情報項目を記録する。テスト51では、当該コンピュータは、この情報を要求する。
【0042】
図2に示すように、コンピュータ5は、テスト50及び51の結果の要約52を行なう。これらの結果のうちの少なくとも1つが、車両を発進させてはならないことを示唆している場合、コンピュータ5は、車両を発進させる指令に対して応答しない。ステップ50及び51の結果がいずれも、自動車の発進を防止するものでない場合、コンピュータ5は、例えば特許文献1又は2の開示内容に基づく公知の方法で、或いはいずれかの他の適切な方法で、坂道発進アシスト53を行なう。
【0043】
上記説明の結論は、坂道発進アシスト53は、誤動作、又は場合によっては事故を招き得る特定の場合においては行なわれないということである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動するドライブトレイン(2)と坂道発進アシストを行なう装置(5)とを備える自動車の運転を安全に行なう方法であって、車両を発進させる指令に続いて、坂道発進アシスト(53)が実行される前に少なくとも1つの条件を試験し(50、51、52)、前記条件が満たされる場合にこの坂道発進アシスト(53)の実行を防止するもので、前記条件が、ドライブトレイン(2)の作動停止が進行中であることであることを特徴とする、安全運転方法。
【請求項2】
前記条件が、ドライブトレイン(2)を作動停止する指令(60)の時点より後で、かつ3つの状況のうちの少なくとも1つが発生していない限りにおいてのみ満たされると見なされ、前記3つの状況が、
−ドライブトレイン(2)を作動停止する指令(60)が出されていない状態で、ドライブトレイン(2)が作動停止される状況、
−ドライブトレイン(2)を作動停止する指令(60)が出されていない状態で、ドライブトレイン(2)を作動停止する最後の指令(60)が出されてから所定の時間が全て経過していない状況、及び
−ドライブトレイン(2)を作動停止する指令(60)が出されていない状態で、自動車の速度が所定の速度を上回っている状況
である、請求項1に記載の安全運転方法。
【請求項3】
前記条件、及び少なくとも1つの他の条件、すなわち多数の異なる条件を試験して、これらの異なる条件のうちの少なくとも1つが満たされる場合に、坂道発進アシスト(53)の実行を防止する、請求項1又は2に記載の安全運転方法。
【請求項4】
前記条件が満たされなくなった場合に坂道発進アシストの実行の防止を停止する、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の安全運転方法。
【請求項5】
車両を駆動するドライブトレイン(2)と、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法を実行するように設計された、坂道発進アシスト(53)を行う装置(5)とを備える自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−501892(P2012−501892A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525590(P2011−525590)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051484
【国際公開番号】WO2010/026324
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(507308902)ルノー・エス・アー・エス (281)
【Fターム(参考)】