説明

垂直磁気記録ディスク及びその製造方法

【課題】軟磁性層の表面に異常突起がない垂直磁気記録ディスク及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】垂直磁気記録ディスク10は、非磁性基板11、この非磁性基板11の表面に直接形成した軟磁性層13、この軟磁性層13の表面に直接形成した垂直磁気記録層15、及びこの垂直磁気記録層15の表面に形成した保護層16から構成される。軟磁性層13は、表面にテクスチャ条痕を有する。軟磁性層13の表面の平均表面粗さが0.5Å〜5.0Åの間の範囲にあり、テクスチャ条痕のライン密度が30本/μm以上の範囲にある。ここで、非磁性基板11の表面に下地層12を形成し、この下地層12の表面に、軟磁性層13を形成してもよい。また、軟磁性層13の表面に中間層14を形成し、この中間層14の表面に垂直記録層15を形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ、テレビジョン、カメラ、電話機などに搭載されるハードディスク装置に装備される垂直磁気記録ディスク及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
文字、画像、音声などの情報を記録し再生する情報処理装置が、コンピュータだけでなく、テレビジョン、カメラ、電話機などにも搭載されるようになり、情報処理装置には、より高い処理能力(すなわち記録容量の増大)と、再生の正確さが要求され、さらに情報処理装置の小型化が要求されている。
【0003】
情報は、情報処理装置の磁気ヘッドによって、磁気記録媒体に磁気的に記録され、また磁気記録媒体から再生される。
【0004】
磁気記録媒体として、垂直磁気記録ディスクが検討されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
垂直磁気記録ディスクは、ディスク状の非磁性基板(ガラス基板や、表面にNi−P膜をメッキしたアルミニウム基板)の表面に、情報信号の記録再生効率を高める軟磁性層と、情報信号を記録する垂直磁化膜からなる垂直磁気記録層とをスパッタリングなどの既知の成膜技術を利用して積層したものであり、これら層の他、垂直磁気記録層の結晶性改善や結晶粒径の制御などの機能を有する非磁性層を積層している。また、漏洩磁界による磁壁の移動に起因したノイズ(特に、スパイクノイズ)の発生を防止するため、軟磁性層を上下の二つの層に分け、これら層の間に硬磁性層を介在させ、磁壁をピンニングして、磁壁の移動を抑止したものもある(特許文献2を参照)。さらに、垂直磁気記録ディスクの面内での再生出力波形を均一にするため(すなわち、モジュレーション特性(再生時の記録媒体1周分の再生出力波形の均一性)を向上させるため)、非磁性基板の表面にテクスチャ加工を施して円周方向にほぼ同心円状のテクスチャ条痕を形成した後に、この非磁性基板の表面に、硬磁性層(バイアス層とも呼称されている)を介して軟磁性層を形成し、この上に垂直磁気記録層を積層しているものもある(特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開2004−362746号公報
【特許文献2】特開平5−266455号公報
【特許文献3】特開平6−103554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来、非磁性基板の表面にテクスチャ加工を施し、この非磁性基板の表面にスパッタリングなどの既知の成膜技術を利用して各層を順次形成しているので、各層、特に軟磁性層の表面に異常成長による突起やコローションが生成され、この上に積層される垂直磁気記録層などの層を設計どおりに形成(成膜)させることができず、設計段階で予定される垂直磁気記録ディスクの性能を発揮させることができない、という問題が生じる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、軟磁性層の表面に異常突起がない垂直磁気記録ディスク及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の垂直磁気記録ディスクは、非磁性基板、この非磁性基板の表面に、下地層を介して、又は直接形成した軟磁性層、この軟磁性層の表面に、中間層を介して、又は直接形成した垂直記録層、及びこの垂直磁気記録層の表面に形成した保護層から構成され、軟磁性層が、表面にテクスチャ条痕を有する。
【0009】
好適に、軟磁性層の表面の平均表面粗さ(Ra)が0.5Å〜5.0Åの間の範囲にあり、テクスチャ条痕のライン密度が30本/μm以上の範囲にある。
【0010】
より好適に、軟磁性層の表面の平均表面粗さが0.5Å〜3.0Åの間の範囲にあり、テクスチャ条痕のライン密度が60本/μm以上の範囲にある。
【0011】
軟磁性層は、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一つの物質と、Nb、Zr、Cr、Ta、Mo、Ti、B、C及びPのうちの少なくとも一つの物質とを含むアモルファス合金からなる。また、軟磁性層は、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一つの物質と、Pt、Nb、Zr、Ti、Cr及びRuのうちの少なくとも一つの物質とを含む合金からなるものであってもよい。
【0012】
非磁性基板の表面うねりが、0.05mm〜0.5mmの範囲にある円周方向の波長の起伏の高低差が2Å以下の範囲にあり、0.05mm〜0.5mmの範囲にある半径方向の波長の起伏の高低差が2Å以下の範囲にある。
【0013】
上記本発明の垂直磁気記録ディスクは、非磁性基板上に軟磁性層を形成し、軟磁性層の表面にテクスチャ加工を施してテクスチャ条痕を形成し、軟磁性層の表面に垂直記録層を形成し、この垂直記録層上に保護層を形成することによって製造される。
【0014】
非磁性基板の表面に下地層を形成した後に、この下地層の表面に軟磁性層を形成してもよい。
【0015】
また、垂直記録層の表面に中間層を形成した後に、この中間層の表面に保護層を形成してもよい。
【0016】
テクスチャ加工は、非磁性基板上に軟磁性層を形成したディスクを回転させ、軟磁性層の表面に研磨スラリーを供給し、軟磁性層の表面にテープを押し付けることによって行われる。
【0017】
研磨スラリーは、砥粒、及びこの砥粒を分散する水又は水ベースの水溶液から構成され、砥粒として、一次粒子径が30nm以下の範囲にあり、且つ一次粒子の平均粒径が4nm〜10nmの範囲にあり、この一次粒子が複数個結合した二次粒子径が20nm〜150nmの範囲にある人工ダイヤモンド粒子が使用される。研磨スラリー中の砥粒の含有量は、0.001重量%〜0.5重量%の間の範囲にある。
【0018】
水ベースの水溶液は、水、及び添加剤から構成されるものであり、この添加剤として、グリコール化合物、高級脂肪酸アマイド、有機リン酸エステル及びノニオン系界面活性剤から選択される一種又は二種以上の材料が使用され、研磨スラリー中の添加剤の含有量は、0.5重量%〜5.0重量%の間の範囲にある。
【0019】
テープとして、少なくともテープの表面部分が繊維径0.1μm〜2.0μmの間の範囲にある繊維からなる織布テープ又は不織布テープが使用される。
【0020】
研磨スラリーは、pH8.0〜pH11.0の間の範囲にある。
【発明の効果】
【0021】
軟磁性層の表面にテクスチャ加工が施されるので、この上に、設計どおりの垂直磁気記録層を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1Aに示すように、本発明の垂直磁気記録ディスク10は、非磁性基板11、この非磁性基板11の表面に直接形成した軟磁性層13、この軟磁性層13の表面に直接形成した垂直磁気記録層15、及びこの垂直磁気記録層15の表面に形成した保護層16から構成される。ここで、、図1Bに示すように、非磁性基板11の表面に下地層12を形成し、この下地層12の表面に、軟磁性層13を形成してもよい。また、軟磁性層13の表面に中間層14を形成し、この中間層14の表面に垂直記録層15を形成してもよい。
【0023】
非磁性基板11の表面上の各層12〜16は、メッキ、スパッタリングなどの既知の成膜技術を利用して積層される。
【0024】
非磁性基板11として、ガラス基板、表面にアルマイト処理又はNi−P膜をメッキしたアルミニウム基板、セラミック基板、シリコン基板などが使用される。
【0025】
非磁性基板11の両面は、既知の遊離砥粒研磨(定盤研磨、テープ研磨)により研磨される。定盤研磨は、表面に織布、不織布、発泡体などからなるパッドを貼り付けた定盤を回転させ、定盤の表面に研磨スラリーを供給し、この上に非磁性基板の表面を押し付けて、非磁性基板の両面を片面ずつ研磨するものであってもよいし、また、それぞれの表面に織布、不織布、発泡体などからなるパッドを貼り付けた上下定盤の間に非磁性基板を挟み、これら定盤の間に研磨スラリーを供給し、各定盤と非磁性基板とを相対的に移動させて、非磁性基板の両面を同時に研磨するものであってもよい。研磨後は、非磁性基板の両面を十分に水洗いし、乾燥させる。
【0026】
非磁性基板11の両面は、上記の遊離砥粒研磨により平坦化される。ここで、後述する軟磁性層13の表面のテクスチャ加工では、表面うねりを矯正できるだけの研磨が難しいため、この研磨後の非磁性基板11の表面うねりは、0.05mm〜0.5mmの範囲にある円周方向の波長の起伏の高低差が2Å以下の範囲にあり、0.05mm〜0.5mmの範囲にある半径方向の波長の起伏の高低差が2Å以下の範囲にあることが望まれる。
【0027】
軟磁性層13は、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一つの物質と、Nb、Zr、Cr、Ta、Mo、Ti、B、C及びPのうちの少なくとも一つの物質とを含むアモルファス合金(すなわち、Co−Nb−Zr、Co−Ta−Zr、Co−Ti−Si、Co−Mo−Zr、Fe−Co−P、Ni−P、Fe−Ni−P、Fe−B、Fe−C、Fe−Siなど)からなる。また、軟磁性層13は、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一つの物質と、Pt、Nb、Zr、Ti、Cr及びRuのうちの少なくとも一つの物質とを含む合金(すなわち、Ni−Fe、Fe−Co−Ni、Fe−Co−Ni−Ru、Fe−C−Ru、Fe−Co−Pt、Fe−C−Cr、Fe−Si−Ruなど)からなる。
【0028】
軟磁性層13は、上記のように平坦化した非磁性基板11の表面に、下地層12を介して、又は直接形成される。また、非磁性基板11が、表面にNi−P膜をメッキしたアルミニウム基板である場合、磁性Ni−P膜をさらにメッキし、この上に軟磁性層13を直接形成してもよい。
【0029】
軟磁性層13の厚さは、0.1μm〜0.3μmの範囲にある。
【0030】
ここで、下地層12は、Ti、Cr及びその合金から選択される材料からなり、研磨後の非磁性基板11の表面の地形学的な凹凸を補償するために形成されるものである。また、スパイクノイズを解消するため、下地層12として、Co−Sm、Co−Ptなどの材料からなる硬磁性層13を非磁性基板11の表面に形成して、磁壁をピンニングし、磁壁の移動を抑止し得る。
【0031】
軟磁性層13は、表面にテクスチャ条痕を有する。好適に、軟磁性層13の表面の平均表面粗さ(Ra)は、0.5Å〜5.0Åの間の範囲にあり、テクスチャ条痕のライン密度が30本/μm以上の範囲にある。より好適に、軟磁性層13の表面の平均表面粗さは、0.5Å〜3.0Åの間の範囲にあり、テクスチャ条痕のライン密度が60本/μm以上の範囲にある。軟磁性層13の最大表面粗さ(Rmax)は、上記の平均表面粗さの20倍以下の大きさにある。
【0032】
このようなテクスチャ条痕は、後述するテクスチャ加工により形成される。テクスチャ加工後、十分に水洗いし、乾燥する。
【0033】
垂直磁気記録層15は、この軟磁性層13の表面に、厚さ3nm〜30nmの範囲にある中間層14を介して、又は直接形成される。ここで、中間層14は、Ta、Ru、Ti、Ge、Si及びその合金から選択される材料からなる。この中間層14は、テクスチャ加工後の軟磁性層13の表面の地形学的な凹凸を補償するため、また垂直磁気記録層15の柱状の結晶子を非磁性基板11の表面と垂直な方向に配向させるため、さらに結晶の成長を最適化するために形成されるものである。
【0034】
垂直磁気記録層15は、Co−Cr、Co−Pt、Co−Cr−Pt、Co−Ni、Co−O及びCo−Cr−Pt・SiO2(グラニュラ構造)などの垂直磁気異方性を有する材料から選択される。垂直磁気記録層15の厚さは、10nm〜100nmの範囲にある。
【0035】
<製造方法> 垂直磁気記録ディスク10は、非磁性基板11上に軟磁性層13を形成し、この軟磁性層13の表面にテクスチャ条痕を形成した後に、この軟磁性層13上に垂直記録層15を形成し、垂直記録層15上に保護層16を形成することによって製造される。軟磁性層13は、非磁性基板11の表面に下地層12を形成した後に、この下地層12の表面に形成してもよい。また、垂直磁気記録層15は、軟磁性層13の表面に中間層14を形成した後に、この中間層14の表面に形成してもよい。
【0036】
<テクスチャ加工> 下記のテクスチャ加工により、軟磁性層13の表面にテクスチャ条痕を形成する。テクスチャ加工は、非磁性基板11の両面に形成した軟磁性層13のそれぞれの表面を片面ずつ、又は両面同時に施される。
【0037】
なお、軟磁性層13の厚さは、上記のように、0.1μm〜0.3μmの範囲にあるが、テクスチャ加工代を含め、スパッタリングなどにより、0.2μm〜0.5μmの範囲の厚さに成膜される。
【0038】
以下、代表的に、両面を同時に加工する工程について説明する。
【0039】
テクスチャ加工は、図7に示すようなテクスチャ加工装置20を使用して行われる。テクスチャ加工は、図示のように、非磁性基板11の両面に軟磁性層13を形成したディスクを矢印の方向に回転させ、これら軟磁性層13のそれぞれの表面にノズル22を通じて研磨スラリーを供給する。そして、これら軟磁性層13のそれぞれの表面に、コンタクトローラ21を介してテープ24を押し付け、これらテープ24を、ディスクの回転方向と反対方向(矢印Tで示す方向)に走行させることにより行われる。テクスチャ加工後、ノズル23を通じて水などの洗浄液をこれら軟磁性層13のそれぞれの表面に噴きかけて洗浄する。
【0040】
研磨スラリーは、砥粒、及びこの砥粒を分散する水又は水ベースの水溶液から構成される。
【0041】
砥粒として、一次粒子径が30nm以下の範囲にあり、且つ一次粒子の平均粒径が4nm〜10nmの範囲にあり、この一次粒子が複数個房状に結合した二次粒子径が20nm〜150nmの範囲(好適に、30nm〜100nmの範囲)にある人工ダイヤモンド粒子が使用される。この二次粒子径が150nmを超えると、軟磁性層の表面粗さが大きくなりすぎる。
【0042】
この人工ダイヤモンド粒子は、既知の衝撃法(爆発合成法とも呼称される)(例えば、特開2000−136376号公報を参照)により製造されるものである。衝撃法は、黒鉛の粉末からなるダイヤモンド原料に衝撃を与えて高温で加圧した後、不純物を除去してダイヤモンドの粒子を人工的に得る方法であり、この方法によると、密度3.1g/cm3〜3.4g/cm3(天然ダイヤモンド粒子は3.51g/cm3である)の範囲にあるダイヤモンドの粒子が人工的に得られる。このようにして得られた人工ダイヤモンド粒子は、不純物を溶解するため、塩酸、硝酸、硫酸及びその混酸を使用して化学的に処理され、不純物の除去後、水で洗浄される。そして、遠心分離機で適当な粒度分布に分級して、ダイヤモンド粒子を採取し、これを回収して砥粒として使用する。
【0043】
研磨スラリー中の砥粒の含有量は、0.001重量%〜0.5重量%の間の範囲、好適に、0.005重量%〜0.1重量%の間の範囲にある。砥粒の含有量が0.001重量%未満であると、研磨力が低下し、研磨に時間がかかりすぎるだけでなく、軟磁性層の表面に不要の起伏が形成される。一方、砥粒の含有量が0.1重量%を超えると、テクスチャ条痕が不均一に形成されるようになり、0.5重量%を超えると、軟磁性層の最大表面粗さ(Rmax)が平均表面粗さ(Ra)の大きさの20倍以上の大きさとなってくる。
【0044】
水ベースの水溶液は、水、及び添加剤から構成される。
【0045】
添加剤として、グリコール化合物、高級脂肪酸アマイド、有機リン酸エステル及びノニオン系界面活性剤から選択される一種又は二種以上の材料が使用される。
【0046】
グリコール化合物は、砥粒との親和性があり、分散剤として機能するものであり、このグリコール化合物を使用すると、水ベースの水溶液を均一に調製させることができる。また、グリコール化合物は、親水性であり、テクスチャ加工後の軟磁性層の表面から研磨スラリーを容易に洗浄できる。グリコール化合物として、アルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールブチルエーテルなどが使用できる。
【0047】
高級脂肪酸アマイドは、研磨レートを向上させる研磨促進剤として機能するものである。高級脂肪酸アマイドとして、オレイン酸ジエタノールアマイド、ステアリン酸ジエタノールアマイド、ラウリン酸ジエタノールアマイド、リシノリン酸ジエタノールアマイド、リシノリン酸イソプロパノールアマイド、エルシン酸ジエタノールアマイド、トール脂肪酸ジエタノールアマイドなどが使用され、炭素数が12〜22の範囲にあるものが好適である。
【0048】
有機リン酸エステルは、リン酸(H3PO4)の水素をアルキル基で置換したエステルであり、軟磁性層の表面に形成される異常突起(研磨クズが軟磁性層の表面に付着して形成されるバリ)の発生を抑制する機能を有するものである。有機リン酸エステルとして、脂肪酸系塩型、芳香族系塩型などのものが使用でき、例えば、ポリオキシエチレンノニフェノールエーテルのリン酸塩が使用できる。
【0049】
ノニオン系界面活性剤は、砥粒の分酸性を向上させる機能を有するものである。
【0050】
研磨スラリーは、純水に砥粒を加え、超音波振動を利用して砥粒を分散させた後、添加剤を添加し、再び超音波振動を利用して砥粒を分散させることにより製造できる。軟磁性層の腐食を防止するため、研磨スラリーの液性は、pH8.0〜pH11.0の範囲にある。
【0051】
テクスチャ加工に使用するテープとして、少なくともテープの表面部分(軟磁性層の表面に実質的に作用する部分)が繊維径0.1μm〜2.0μmの間の範囲にある繊維からなる織布テープ又は不織布テープが使用される。繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維が使用される。好適に、比較的柔らかいナイロン繊維が使用され、織り目のない不織布テープが使用される。
【0052】
研磨中、砥粒の二次粒子が、テープを構成する繊維によって軟磁性層の表面に押し付けられ、この際に、二次粒子がこれよりも小さい二次粒子又は一次粒子に崩壊し、この崩壊した粒子が軟磁性層の表面に作用するが、繊維径が0.1μm未満であると、テープの表面部分と研磨スラリー中の砥粒との接触点が減少し、軟磁性層の表面に砥粒を十分に作用させることができない。一方、繊維径が2.0μmを超えると、テープの表面部分を構成する繊維と繊維との間の段差が増大し、軟磁性層の表面を均一に加工できない。
【0053】
<実施例1> 本発明に従って、非磁性基板の両面に軟磁性層を形成し、その表面にテクスチャ加工を施した。
【0054】
非磁性基板として、直径2.5インチのガラス基板を使用した。このガラス基板の両面の平均表面粗さ(Ra)は2.0Å〜5.0Åの範囲にあり、0.05mm〜0.5mmの範囲にある波長の円周方向と半径方向の起伏の高低差が1.0Å〜2.0Åの範囲にあった。
【0055】
このガラス基板をマグネトロンスパッタ装置のチャンバー内に配置し、まず、ガラス基板の両面に、下地層として、厚さ20nmのCr膜を形成した後、軟磁性層として、厚さ300nmのCo−Nb−Zr膜を形成した。
【0056】
図7に示すようなテクスチャ加工装置を使用して、下記の表1に示す条件で、ガラス基板の両面に形成した軟磁性層のそれぞれの表面にテクスチャ加工を施した。図2(原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像)に、テクスチャ加工後の軟磁性層の表面の状態を示す。
【表1】

【0057】
テクスチャ加工には、テープとして、繊維径2.0μmのナイロン繊維からなる厚さ660μmの不織布テープを使用した。また、研磨スラリーとして、下記の表2に示す組成のものを使用した。そして、研磨スラリーは、砥粒として、衝撃法によって得られた人工ダイヤモンド粒子を純水に加え、超音波振動を利用して分散させ(分散後の人工ダイヤモンド粒子の二次粒子の平均粒径(D50)は80nmであった)、これに添加剤を添加し、攪拌し、再び超音波振動を利用して砥粒を分散させて製造した。
【表2】

【0058】
<実施例2> 本発明に従って、非磁性基板の両面に軟磁性層を形成し、その表面にテクスチャ加工を施した。
【0059】
非磁性基板として、直径2.5インチのアルミニウム基板(表面にNi−P膜をメッキした)を使用した。このアルミニウム基板の両面の平均表面粗さ(Ra)は2.0Å〜5.0Åの範囲にあり、0.05mm〜0.5mmの範囲にある波長の円周方向と半径方向の起伏の高低差が1.0Å〜2.0Åの範囲にあった。
【0060】
このアルミニウム基板をマグネトロンスパッタ装置のチャンバー内に配置し、まず、ガラス基板の両面に、下地層として、厚さ20nmのCr膜を形成した後、軟磁性層として、厚さ300nmのCo−Nb−Zr膜を形成した。
【0061】
図7に示すようなテクスチャ加工装置を使用して、上記の表1に示す条件で、ガラス基板の両面に形成した軟磁性層のそれぞれの表面にテクスチャ加工を施した。図3(原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像)に、テクスチャ加工後の軟磁性層の表面の状態を示す。
【0062】
テクスチャ加工には、テープとして、繊維径2.0μmのナイロン繊維からなる厚さ660μmの不織布テープを使用した。また、研磨スラリーとして、上記の表2に示す組成のものを使用した。そして、研磨スラリーは、砥粒として、衝撃法によって得られた人工ダイヤモンド粒子を純水に加え、超音波振動を利用して分散させ(分散後の人工ダイヤモンド粒子の二次粒子の平均粒径(D50)は50nmであった)、これに添加剤を添加し、攪拌し、再び超音波振動を利用して砥粒を分散させて製造した。
【0063】
<実施例3> 本発明に従って、非磁性基板の両面に軟磁性層を形成し、その表面にテクスチャ加工を施した。
【0064】
非磁性基板として、直径2.5インチのガラス基板を使用した。このガラス基板の両面の平均表面粗さ(Ra)は2.0Å〜5.0Åの範囲にあり、0.05mm〜0.5mmの範囲にある波長の円周方向と半径方向の起伏の高低差が1.0Å〜2.0Åの範囲にあった。
【0065】
このガラス基板をマグネトロンスパッタ装置のチャンバー内に配置し、まず、ガラス基板の両面に、下地層として、厚さ20nmのCr膜を形成した後、軟磁性層として、厚さ300nmのCo−Nb−Zr膜を形成した。
【0066】
図7に示すようなテクスチャ加工装置を使用して、基板回転数を1600rpm(上記実施例1の場合の4倍の回転数)にした以外は、上記の表1に示す条件で、ガラス基板の両面に形成した軟磁性層のそれぞれの表面にテクスチャ加工を施した。図4(原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像)に、テクスチャ加工後の軟磁性層の表面の状態を示す。
【0067】
テクスチャ加工には、テープとして、繊維径2.0μmのナイロン繊維からなる厚さ660μmの不織布テープを使用した。また、研磨スラリーとして、上記の表2に示す組成のものを使用した。そして、研磨スラリーは、砥粒として、衝撃法によって得られた人工ダイヤモンド粒子を純水に加え、超音波振動を利用して分散させ(分散後の人工ダイヤモンド粒子の二次粒子の平均粒径(D50)は50nmであった)、これに添加剤を添加し、攪拌し、再び超音波振動を利用して砥粒を分散させて製造した。
【0068】
<比較例1> 非磁性基板の両面にテクスチャ加工を施した後に、軟磁性層を形成した。
【0069】
非磁性基板として、直径2.5インチのガラス基板を使用した。上記実施例1と同じく、このガラス基板の両面の平均表面粗さ(Ra)は2.0Å〜5.0Åの範囲にあり、0.05mm〜0.5mmの範囲にある波長の円周方向と半径方向の起伏の高低差が1.0Å〜2.0Åの範囲にあった。
【0070】
図7に示すようなテクスチャ加工装置を使用して、ガラス基板の両面にテクスチャ加工を施した。テクスチャ加工は、上記実施例1と同じ条件で行った。図5A(原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像)に、テクスチャ加工後のガラス基板の表面の状態を示す。
【0071】
このガラス基板をマグネトロンスパッタ装置のチャンバー内に配置し、まず、ガラス基板の両面に、下地層として、厚さ20nmのCr膜を形成した後、軟磁性層として、厚さ200nmのCo−Nb−Zr膜を形成した。図5B(原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像)に、軟磁性層の表面の状態を示す。
【0072】
<比較例2> 非磁性基板の両面にテクスチャ加工を施した後に、軟磁性層を形成した。
【0073】
非磁性基板として、直径2.5インチのアルミニウム基板(表面にNi−P膜をメッキした)を使用した。上記実施例2と同じく、このアルミニウム基板の両面の平均表面粗さ(Ra)は2.0Å〜5.0Åの範囲にあり、0.05mm〜0.5mmの範囲にある波長の円周方向と半径方向の起伏の高低差が1.0Å〜2.0Åの範囲にあった。
【0074】
図7に示すようなテクスチャ加工装置を使用して、ガラス基板の両面にテクスチャ加工を施した。テクスチャ加工は、上記実施例2と同じ条件で行った。図6A(原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像)に、テクスチャ加工後のアルミニウム基板の表面の状態を示す。
【0075】
このアルミニウム基板をマグネトロンスパッタ装置のチャンバー内に配置し、まず、ガラス基板の両面に、下地層として、厚さ20nmのCr膜を形成した後、軟磁性層として、厚さ200nmのCo−Nb−Zr膜を形成した。図6B(原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像)に、軟磁性層の表面の状態を示す。
【0076】
<比較試験> 上記実施例1、2、3のテクスチャ加工後の軟磁性層の表面、及び比較例1、2のテクスチャ加工後の非磁性基板の表面とこの表面上に形成した軟磁性層の表面の平均表面粗さ(Ra)、最大突起高さ(Rmax)、スクラッチ数及びパーティクル数について調べた。
【0077】
平均表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)(製品名:Dimension3100シリーズ、デジタルインスツルメント社)を使用して計測した。図示のコンピュータ画像は、このAFMを使用して三次元画像化したものである。なお、プローブとして、シリコン単結晶製のプローブ(曲率半径5〜10nm)(製品名:D−NCH、日本ビーコ社)を使用した。
【0078】
円周方向と半径方向の起伏について、白色光顕微鏡(製品名:New View5020、Zygo社)を使用して、非磁性基板の表面の任意の0.87mm×0.65mmの範囲において、0.05mm〜0.5mmの範囲にある波長の円周方向と半径方向の起伏を計測した。
【0079】
スクラッチ数とパーティクル数について、ディスク表面外観目視装置(製品名:MicroMAX VMX−2100、有限会社ビジョンサイテック)を使用して表裏両面のスクラッチ数とパーティクル数を計数し、この計数を平均したものである。
【0080】
<試験結果> 試験結果を下記の表3に示す。
【0081】
表3中、スクラッチ数について、「○」は10本/面未満であり、「×」は10本/面以上であったことを示す。また、パーティクル(付着物)数について、「○」は20個/面未満であり、「×」は20個/面以上であったことを示す。
【表3】

【0082】
表3に示すように、比較例1、2では、非磁性基板の平均表面粗さは低いのであるが、その上に軟磁性層を形成すると、この軟磁性層の平均表面粗さが高くなり、また軟磁性層の表面に不要のスクラッチが形成され、パーティクルが付着する。これに対し、本発明に従うと、軟磁性層の平均表面粗さが低く、形成されるスクラッチの数も、付着するパーティクルの数も低く、また40Åを超える異常突起がないので、この上に積層される垂直磁気記録層などの層を設計どおりに形成(成膜)させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1A及び図1Bは、それぞれ、本発明に従った垂直磁気記録ディスクの断面図である。
【図2】図2は、テクスチャ加工後の軟磁性層の表面の原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像である(実施例1)。
【図3】図3は、テクスチャ加工後の軟磁性層の表面の原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像である(実施例2)。
【図4】図4は、テクスチャ加工後の軟磁性層の表面の原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像である(実施例3)。
【図5】図5Aは、テクスチャ加工後のガラス基板の表面の原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像であり、図5Bは、軟磁性層の表面の原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像である(比較例1)。
【図6】図6Aは、テクスチャ加工後のガラス基板の表面の原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像であり、図6Bは、軟磁性層の表面の原子間力顕微鏡によるコンピュータ画像である(比較例2)。
【図7】図7は、本発明を実施する両面テクスチャ加工装置である。
【符号の説明】
【0084】
10・・・垂直磁気記録ディスク
11・・・非磁性基板
12・・・下地層
13・・・軟磁性層
14・・・中間層
15・・・垂直磁気記録層
16・・・保護層
20・・・テクスチャ加工装置
21・・・コンタクトローラ
22、23・・・ノズル
24・・・テープ
R・・・非磁性基板の回転方向
T・・・テープの走行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録ディスクであって、
非磁性基板、
前記非磁性基板の表面に、下地層を介して、又は直接形成した軟磁性層、
前記軟磁性層の表面に、中間層を介して、又は直接形成した垂直記録層、及び
前記垂直磁気記録層の表面に形成した保護層、
から成り、
前記軟磁性層が、表面にテクスチャ条痕を有する、
ところの垂直磁気記録ディスク。
【請求項2】
請求項1の垂直磁気記録ディスクであって、
前記軟磁性層の表面の平均表面粗さが0.5Å〜5.0Åの間の範囲にあり、
前記テクスチャ条痕のライン密度が30本/μm以上の範囲にある、
ところの垂直磁気記録ディスク。
【請求項3】
請求項1の垂直磁気記録ディスクであって、
前記軟磁性層の表面の平均表面粗さが0.5Å〜3.0Åの間の範囲にあり、
前記テクスチャ条痕のライン密度が60本/μm以上の範囲にある、
ところの垂直磁気記録ディスク。
【請求項4】
請求項1の垂直磁気記録ディスクであって、
前記軟磁性層が、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一つの物質と、Nb、Zr、Cr、Ta、Mo、Ti、B、C及びPのうちの少なくとも一つの物質とを含むアモルファス合金からなる、
ところの垂直磁気記録ディスク。
【請求項5】
請求項1の垂直磁気記録ディスクであって、
前記軟磁性層が、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一つの物質と、Pt、Nb、Zr、Ti、Cr及びRuのうちの少なくとも一つの物質とを含む合金からなる、
ところの垂直磁気記録ディスク。
【請求項6】
請求項1の垂直磁気記録ディスクであって、
前記非磁性基板の表面うねりが、
0.05mm〜0.5mmの範囲にある円周方向の波長の起伏の高低差が2Å以下の範囲にあり、0.05mm〜0.5mmの範囲にある半径方向の波長の起伏の高低差が2Å以下の範囲にある、
ところの垂直磁気記録ディスク。
【請求項7】
垂直磁気記録ディスクを製造するための方法であって、
非磁性基板上に軟磁性層を形成する工程、
前記軟磁性層の表面にテクスチャ条痕を形成するテクスチャ加工工程、
前記軟磁性層上に垂直記録層を形成する工程、及び
前記垂直記録層上に保護層を形成する工程、
から成る方法。
【請求項8】
請求項7の方法であって、
非磁性基板上に軟磁性層を形成する前記工程が、
前記非磁性基板の表面に下地層を形成する工程、及び
前記下地層の表面に前記軟磁性層を形成する工程、
から成る、
ところの方法。
【請求項9】
請求項7の方法であって、
前記軟磁性層上に垂直記録層を形成する前記工程が、
前記軟磁性層の表面に中間層を形成する工程、及び
前記中間層の表面に前記垂直記録層を形成する工程、
から成る、
ところの方法。
【請求項10】
請求項7の方法であって、
前記テクスチャ加工工程が、
前記非磁性基板上に前記軟磁性層を形成したディスクを回転させる工程、
前記軟磁性層の表面に研磨スラリーを供給する工程、及び
前記軟磁性層の表面にテープを押し付ける工程、
から成り、
前記研磨スラリーが、
砥粒、及び
この砥粒を分散する水又は水ベースの水溶液、
から成り、
前記砥粒として、一次粒子径が30nm以下の範囲にあり、且つ一次粒子の平均粒径が4nm〜10nmの範囲にあり、この一次粒子が複数個結合した二次粒子径が20nm〜150nmの範囲にある人工ダイヤモンド粒子が使用される、
ところの方法。
【請求項11】
請求項10の方法であって、
前記研磨スラリー中の前記砥粒の含有量が、0.001重量%〜0.5重量%の間の範囲にある、
ところの方法。
【請求項12】
請求項10の方法であって、
前記水ベースの水溶液が、水、及び添加剤から成り、
前記添加剤として、グリコール化合物、高級脂肪酸アマイド、有機リン酸エステル及びノニオン系界面活性剤から選択される一種又は二種以上の材料が使用され、
前記研磨スラリー中の前記添加剤の含有量が、0.5重量%〜5.0重量%の間の範囲にある、
ところの方法。
【請求項13】
請求項10の方法であって、
前記テープとして、少なくともテープの表面部分が繊維径0.1μm〜2.0μmの間の範囲にある繊維からなる織布テープ又は不織布テープが使用される、
ところの方法。
【請求項14】
請求項10の方法であって、
前記研磨スラリーが、pH8.0〜pH11.0の間の範囲にある、
ところの方法。
【請求項15】
請求項7の方法であって、
前記テクスチャ加工工程後の前記軟磁性層の表面の平均表面粗さが0.5Å〜5.0Åの間の範囲にあり、
前記テクスチャ条痕のライン密度が30本/μm以上の範囲にある、
ところの方法。
【請求項16】
請求項7の方法であって、
前記テクスチャ加工工程後の前記軟磁性層の表面の平均表面粗さが0.5Å〜3.0Åの間の範囲にあり、
前記テクスチャ条痕のライン密度が60本/μm以上の範囲にある、
ところの方法。

【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−268984(P2006−268984A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87401(P2005−87401)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】