型内被覆成形用金型及び型内被覆成形方法
【課題】多数個取りが可能であり、キャビティに立ち面部が存在しても、ランナを介して塗料をキャビティの中へ注入出来、且つ均一な膜厚の塗膜で樹脂成形品を被覆することが可能な型内被覆成形手段を提供すること。
【解決手段】固定金型部3と可動金型部4とで構成され、固定金型部3及び可動金型部4によって、樹脂成形品14の成形空間である複数のキャビティ5,6と、それら複数のキャビティ5,6の中へ溶融樹脂を射出するためのランナ7,8と、複数のキャビティ5,6の中へ被覆材を注入するための被覆材注入路と、が形成された型内被覆成形用の金型10の提供による。金型10は、ランナ7,8が、複数のキャビティ5,6のそれぞれに接続されるとともに、ランナ7,8を形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、凹部17が形成されているところに特徴がある。
【解決手段】固定金型部3と可動金型部4とで構成され、固定金型部3及び可動金型部4によって、樹脂成形品14の成形空間である複数のキャビティ5,6と、それら複数のキャビティ5,6の中へ溶融樹脂を射出するためのランナ7,8と、複数のキャビティ5,6の中へ被覆材を注入するための被覆材注入路と、が形成された型内被覆成形用の金型10の提供による。金型10は、ランナ7,8が、複数のキャビティ5,6のそれぞれに接続されるとともに、ランナ7,8を形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、凹部17が形成されているところに特徴がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型のキャビティ内で複数個の樹脂成形品を成形した後に、それら樹脂成形品を金型から取り出さずに、各々の樹脂成形品に塗料によって被覆を施す(塗装する)型内被覆成形方法、及びそれに用いられる型内被覆成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂成形品の装飾性を高めるために、塗装によって表面を被覆して加飾を施す手段が採用される。そして、近年においては、塗装による工程の省略化を目的として、樹脂を用いた成形と、得られた樹脂成形品の表面被覆とを、同一の金型内で行う型内被覆成形方法(インモールドコーティング方法と称する)が行われている。
【0003】
型内被覆成形方法は、型締めされた金型へ樹脂を射出・充填し、冷却により固化させて樹脂成形品を得た後に、その樹脂成形品を金型内に保持したまま、金型を微開して、樹脂成形品とキャビティ形成面との間に生じた隙間へ、塗料(被覆材)の注入を行い、再度、金型を型締めし、樹脂成形品の表面に注入した塗料を均一に広げ、塗料を硬化させることにより、表面が塗膜で被覆された樹脂成形品を得る方法である。
【0004】
このような型内被覆成形方法によれば、樹脂を用いた成形と、得られた樹脂成形品への被覆とを、同一の金型内で行うため、工程が省略化され、浮遊している粉塵が硬化前の塗膜に付着して不良品になる等の問題が殆ど生じず、高い品質の製品を低廉に得ることが可能である。特に、外観に対して高い品質が要求される自動車用の部品、例えば、バンパー、ドアミラーカバー、フェンダー等の多くの部品には、型内被覆成形方法の利用が好適である。
【0005】
尚、型内被覆成形方法についての先行文献として、特許文献1、特許文献2が挙げられる。特許文献1には、金型の型割面からの溶融樹脂の漏れを効果的に防止し得る手段が提案されている。又、特許文献2には、金型の開閉方向に延在する補助キャビティの全周にわたり溝部を設けることで塗料漏れを長期にわたり防止し得る手段が開示されている。
【特許文献1】特開平9−52257号公報
【特許文献2】特開2003−191286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数個の樹脂成形品を一度に成形(多数個取り、ともいう)するために、樹脂成形品の成形空間であるキャビティが複数備わる金型を用いて型内被覆成形方法を行おうとすると、キャビティの立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部の一部の表面に、良好な被覆を施すことが出来ない場合が生じていた。型内被覆成形方法は、工程が省略化され製品を低廉に得ることが出来る手段であるが、品質が安定しなければ、外観に対して高い品質が要求される場合に、結局、歩留まりが低下して製品コストの上昇を招来する。一方、樹脂成形品の製造にかかり生産効率を向上させるためには、多数個取りすることが、今後、更に望まれると想定される。従って、多数個取りする場合であっても、より安定して高い品質の被覆を施すことが可能な型内被覆成形手段が求められていた。
【0007】
これに対し研究が重ねられた結果、金型を微開したときに、キャビティの立ち面部においては、樹脂成形品と金型のキャビティ形成面との間に、均一な隙間が生じない場合があることが、被覆にかかる品質低下を導くものと想到された。この問題につき、図5、図6及び図7を参照して説明する。
【0008】
図5〜図7は、多数個取りの型内被覆成形に用いられる従来の金型の一例を示す図である。図5は型割線を表した断面図であり、図6は図5におけるAA断面、即ち可動金型部の型割面を表した図であり、図7は金型を微開した場合において図5における楕円で囲われたE部分、即ちキャビティの立ち面部を拡大した断面図である。図示される金型50は、固定金型部53と可動金型部54とで構成され、それらの型割面によって2つのキャビティ55,56が形成されたものである。固定金型部53には、キャビティ55,56の中へ溶融樹脂を射出するためのスプル59が形成され、固定金型部53と可動金型部54の型割面によって、スプル59とキャビティ55とを接続するランナ57、及びスプル59とキャビティ56とを接続するランナ58が形成されている。ランナ57,58は、溶融樹脂の流路として、スプル59から分岐してキャビティ55,56にそれぞれ概ね垂直に接続され、ランナ57とランナ58も互いに通じている。又、注入機52を用いて被覆材注入口61からキャビティ55,56の中へ塗料を注入するための被覆材注入路51が、ランナ57,58に通じて設けられている。
【0009】
多数個取りが可能な型内被覆成形用の金型50において、固定金型部53と可動金型部54とを型締めし、スプル59からランナ57を介してキャビティ55に溶融樹脂を射出・充填し、冷却・固化すると、型締めしたままで金型50を開かなくても、溶融樹脂は冷却・固化に伴って収縮し、樹脂成形品64として成形される(図7参照)。この収縮により、キャビティ55の本体部66で成形された樹脂成形品本体部64a及びランナ57で成形された成形体65において、それぞれ長手方向(図7における矢印方向)に引っ張り力が働き、キャビティ55の立ち面部62(図7参照)で成形された樹脂成形品立ち面部64bが、両方向から引っ張られて変形する。そのため、固定金型部53から可動金型部54を僅かに離隔し金型50を開いても、立ち面部62で成形された樹脂成形品立ち面部64bは、キャビティ55の本体部66側では固定金型部53に密着し、一方で可動金型部54とは離れて隙間63を形成する。又、ランナ57側では、樹脂成形品立ち面部64bは、可動金型部54に密着し、一方で固定金型部53とは離れ、更には、ランナ57における成形体65が可動金型部54に密着する(図7におけるF部分)。従って、図7に示される状態では、注入機52を用いて被覆材注入口61から塗料を注入しても、ランナ57及び立ち面部62において塗料の流路が形成されず、塗料をキャビティ55の中へ導入することが出来ない。尚、このような現象は、キャビティ56(ランナ58)側でも同様に起こり得る。
【0010】
図7に示される状態から更に金型50を開くと、ランナ57において成形体65と可動金型部54との間に隙間が形成されて塗料の流路が確保される。しかし、同様に形成される立ち面部62における樹脂成形品立ち面部64bと可動金型部54との間の隙間は、均一ではなく、且つ、上記隙間63と均等な大きさにはならないため、樹脂成形品64に形成される塗膜の厚さが均一にならず、被覆にかかる品質低下を招く、と推考された。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解決した型内被覆成形手段を提供することを目的とする。より具体的には、多数個取りが可能であり、キャビティに立ち面部が存在しても、ランナを介して塗料をキャビティの中へ注入出来、且つ均一な膜厚の塗膜で樹脂成形品を被覆することが可能な型内被覆成形手段の提供が目的である。本発明は、以下に示す手段を提供することにより、上記目的を達成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明によれば、先ず、固定金型部と可動金型部とで構成され、固定金型部及び可動金型部によって、樹脂成形品の成形空間である複数のキャビティと、それら複数のキャビティの中へ溶融樹脂を射出するためのランナと、複数のキャビティの中へ被覆材を注入するための被覆材注入路と、が形成された型内被覆成形用の金型であって、ランナが、複数のキャビティのそれぞれに接続されるとともに、複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部が形成されている型内被覆成形用金型が提供される。
【0013】
本明細書において、被覆材は、流動性のある被覆材料を指し、通常は塗料である。被覆材注入路は、被覆材注入口(金型の外部から被覆材が注入される開口)からランナまでの被覆材の流路である。
【0014】
本発明に係る型内被覆成形用金型において、凹部の形成場所は、ランナを形成する面の何れかであってよいが、そのうち被覆材が流れる面は被覆材をキャビティへ注入するための流路として確保する必要があるから除かれる。本発明に係る型内被覆成形用金型において、例えば、可動金型部が、樹脂成形品及び固定金型部から離れることによって形成される隙間に被覆材が注入される場合には、ランナを形成する面のうち被覆材が流れる面は、可動金型部がランナを形成する面(内面)のうちの金型の開閉方向に対し概ね垂直な面になるから、それを除く面とは、可動金型部がランナを形成する面(内面)のうちの金型の開閉方向に対し概ね平行な面と、固定金型部がランナを形成する面(内面)である。
【0015】
又、本発明に係る型内被覆成形用金型は、ランナがキャビティに接続されるものであるが、固定金型部及び可動金型部によって形成された空間であるランナとキャビティとの接続にかかる角度(両者が形成する角度)は、特段に限定されるものではない。本発明に係る型内被覆成形用金型には、ランナが、固定金型部の型割面と可動金型部の型割面とによって金型の開閉方向に対し概ね垂直な方向に形成され、キャビティの立ち面部(金型の開閉方向の面で形成された部分)に接続される態様が含まれる。
【0016】
本発明に係る型内被覆成形用金型においては、凹部の数、形状、深さ、その他の態様は限定されるものではないが、凹部が、ランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、段状に形成されていることが好ましい。
【0017】
又、凹部が、複数形成されていることが好ましい。
【0018】
更に、凹部が、キャビティの近傍に形成されていることが好ましい。凹部が複数形成されている場合には、少なくともそのうちの1つの凹部がキャビティの近傍に形成されていることが望ましい。例えば、凹部が2つ形成されている場合には、そのうちの1つがキャビティの近傍に段状に形成され、他の1つがキャビティから離れた位置に滑らかに凹んだ凹部として形成されることが好ましい(後述の本発明に係る型内被覆成形方法においても同様である)。
【0019】
次に、本発明によれば、固定金型部と可動金型部とで構成される金型を用い、その金型が形成する複数のキャビティの中へ、複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを介して溶融樹脂を充填し、その溶融樹脂を固化させて複数の樹脂成形品を得た後に、樹脂成形品をそれぞれのキャビティの中に保持したまま、固定金型部に対し可動金型部を離隔し金型を微開して、可動金型部又は固定金型部のキャビティを形成する面と、樹脂成形品と、の間に生じた隙間へ、ランナを介して被覆材の注入を行い、金型内で樹脂成形品の表面を被覆する方法であって、金型における複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部を形成し、その凹部における溶融樹脂の固化を遅らせることによって、キャビティで成形される樹脂成形品に対する引っ張り力を抑制する型内被覆成形方法が提供される。
【0020】
凹部における溶融樹脂の固化を遅らせるとは、少なくともランナの凹部における溶融樹脂の固化が、それ以外のランナ部分より遅れるようにすることを意味する。キャビティ部分を含めて、ランナの凹部における溶融樹脂の固化が、最も遅れて固化することが、より好ましい。溶融樹脂が冷却・固化に伴って収縮し、ランナで成形された成形体において、固化したところから先に長手方向に引っ張り力が働いても、凹部における溶融樹脂の固化が遅れるから、引っ張り力が吸収され、キャビティの立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部を変形させることがない。
【0021】
本発明に係る型内被覆成形方法においては、凹部の数、形状、深さ、その他の態様は限定されるものではないが、凹部が、ランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、段状に形成されていることが好ましい。
【0022】
又、凹部が、複数形成されていることが好ましい。
【0023】
更に、凹部が、キャビティの近傍に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る型内被覆成形用金型は、複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部が形成されており、その凹部における溶融樹脂の固化が遅れることによって、キャビティで成形される樹脂成形品に対する引っ張り力を抑制することが出来る。即ち、本発明に係る型内被覆成形用金型は、本発明に係る型内被覆成形方法の実施に好適に用いられる。
【0025】
キャビティで成形される樹脂成形品に対する引っ張り力が抑制されるため、成形に伴う凝縮によってキャビティの立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部が変形せず、その樹脂成形品立ち面部は、金型内に保持されたまま、キャビティの本体部側でもランナ側でも、可動金型部又は固定金型部に対し均一な隙間を形成し得る。そして、例えば被覆材注入口からランナを介して、キャビティの中へ(より厳密にはキャビティ形成面と樹脂成形品との隙間へ)、被覆材を導入することが出来、均一な厚さの塗膜で樹脂成形品を被覆することが可能である。従って、高品質の樹脂成形品を高い効率で生産することが出来る。
【0026】
本発明に係る型内被覆成形用金型は、その好ましい態様において、凹部が段状に形成されている。凹部がこのような態様である場合には、ランナの凹部における溶融樹脂が固化すると、ランナの凹部で成形された成形体が凸部としてその凹部に嵌合し、ランナ全体で成形された成形体を拘束するから、ランナの凹部以外の部分の成形によって収縮が生じて長手方向に引っ張り力が働いても、その引っ張り力に対して抵抗し、キャビティの立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部の変形を防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1、図2、及び図10は、多数個取りの本発明に係る型内被覆成形方法に用いられる、本発明の型内被覆成形用金型の一の実施形態を示す図である。図1は型割線を表した断面図であり、図2は図1における楕円で囲われたB部分、即ちキャビティの立ち面部を拡大して示す断面図であり、図示しないが他方のキャビティ側でも同態様である。又、図10は図1におけるXX断面、即ち可動金型部の型割面、を表した図である。図示される金型10は、従来の金型と同様に、固定金型部3と可動金型部4とで構成され、それらの型割面によって2つのキャビティ5,6が形成されたものである。尚、本明細書において、型割面とは、金型としての分割面を意味し、固定金型部と可動金型部とが互いに対向する面を指す。又、キャビティの立ち面部とは、キャビティのうち金型の開閉方向の面によって形成された部分をいい、限定されるものではないが、一般には、キャビティのうち長手方向が金型の開閉方向にあたる部分が立ち面部に相当する。キャビティの立ち面部で形成された樹脂成形品の一部分を樹脂成形品立ち面部とよぶ。又、立ち面部に対して本体部と表現するが、立ち面部以外の部分を指す語である。
【0028】
金型10は、型内被覆成形方法に使用される成形装置の一構成要素であり、例えば、型締装置とそれに組み込まれる金型装置、更には射出装置、制御装置で構成される成形装置において金型装置を構成するものである。金型10は、図示しない型締装置に組み込まれ、固定金型部3に対し可動金型部4が離隔することにより、開閉する。固定金型部3には、キャビティ5,6の中へ溶融樹脂を射出するためのスプル9が形成され、更に、スプル9とキャビティ5とを接続するランナ7、及びスプル9とキャビティ6とを接続するランナ8が形成されている。ランナ7,8は、キャビティ5,6と同様に固定金型部3と可動金型部4の型割面によって形成されるとともに、溶融樹脂の流路としては、スプル9から分岐してキャビティ5(6)の立ち面部12に、それぞれ概ね垂直に接続される。ランナ7,8どうしも通じている。又、注入機2を用いて被覆材注入口11からキャビティ5,6の中へ被覆材(塗料)を注入するための被覆材注入路21が、ランナ7,8に通じて設けられている。尚、実施形態に示される金型において、スプルとは、キャビティまでの溶融樹脂の流路の一部であり、金型の溶融樹脂注入口(金型の外部から溶融樹脂が注入される開口)からランナまでの部分を指し、一般には円錐形を呈するものである。本発明に係る型内被覆成形用金型においては、溶融樹脂の流路として、スプルを含むものには限定されずスプルレスであってもよく、又、ホットランナから本明細書で示されるランナへ溶融樹脂が供給される態様であってもよく、特段に制限されない。実施形態に示される金型においては、ランナとは、キャビティまでの溶融樹脂の流路の一部であり、スプルからキャビティまでの部分を指し、スプルから分岐してキャビティ毎に設けられる。
【0029】
金型10は、ランナ7,8を形成する面のうち被覆材が流れる面ではなく、それと対向する面であり固定金型部3がランナ7,8を形成する面に、それぞれ1つの凹部17が形成されているところが従来の金型(図5参照)とは異なる。この凹部17は、段状の態様ではなく、滑らかな凹みとして、キャビティ5(6)の側に形成されている。
【0030】
型内被覆成形方法により成形を行うにあたっては、先ず、成形装置を構成する図示しない射出装置を用いて、固定金型部3と可動金型部4とを型締めし、スプル9からランナ7,8を介してキャビティ5,6へ溶融樹脂を射出・充填し、冷却により固化させて樹脂成形品14を得る。次いで、その樹脂成形品14を金型10のキャビティ5,6に保持したまま、固定金型部3に対し可動金型部4を離隔して金型10を微開し、樹脂成形品14とキャビティ5,6を形成する面との間に生じた隙間13へ、被覆材(塗料)の注入を行う。この被覆材の注入は、被覆材が被覆材注入口11から被覆材注入路21を通り、可動金型部4のランナ7,8を形成する面と成形体との間の隙間18を介して、可動金型部4のキャビティ5,6を形成する面と樹脂成形品14との間の隙間13へ入ることで行われる。
【0031】
上記過程において、キャビティ5,6に射出・充填された溶融樹脂は冷却・固化に伴って収縮し、樹脂成形品14として成形される(図2参照)。この収縮により、キャビティ5(6)の本体部16で成形された樹脂成形品本体部14aにおいて長手方向(図2における矢印方向)に引っ張り力が働き、キャビティ5(6)の立ち面部12(図2参照)で成形された樹脂成形品立ち面部14bが引っ張られる。
【0032】
一方、ランナ7(8)には凹部17が形成されており、その凹部17において溶融樹脂の固化が遅れるから、ランナ7(8)で成形された成形体15で発生した長手方向の引っ張り力は、未だ固化していない溶融樹脂によって吸収され、樹脂成形品立ち面部14bに対する引っ張り力は抑制される。そのため、固定金型部3から可動金型部4を僅かに離隔し金型10を開くと、キャビティ5(6)の本体部16で成形された樹脂成形品本体部14aと可動金型部4との間、キャビティ5(6)の立ち面部12で成形された樹脂成形品立ち面部14bと可動金型部4との間、ランナ7(8)で成形された成形体15と可動金型部4との間、の何れにおいても均一な大きさの隙間13,18が形成される。従って、被覆材注入口11からランナ7,8を介しキャビティ5,6を形成する面と樹脂成形品14との隙間13へ、被覆材を導入することが出来、均一な厚さの塗膜で樹脂成形品14を被覆することが出来、高品質の樹脂成形品を高い効率で生産することが可能である。
【0033】
図3、図4、及び図11は、本発明の型内被覆成形用金型の他の実施形態を示す図である。図3は型割線を表した断面図であり、図4は図3における楕円で囲われたC部分、即ちキャビティの立ち面部を拡大して示す断面図であり、図示しないが他方のキャビティ側でも同態様である。又、図11は図3におけるYY断面、即ち可動金型部の型割面、を表した図である。図示される金型30は、金型10の凹部17の代わりに凹部37が形成されているところが金型10と異なり、それ以外は、金型10(図1参照)と同態様の金型である。凹部37が形成される面は、金型10と同様に、ランナ27,28を形成する面のうち被覆材が流れる面ではなく、それと対向する面であり固定金型部23がランナ27,28を形成する面である。この凹部37は、キャビティ25(26)の近傍に、滑らかな凹みではなく段状に形成されている。
【0034】
金型30を用いて、型内被覆成形方法により成形を行うにあたっては、先ず、成形装置を構成する図示しない射出装置を用いて、固定金型部23と可動金型部24とを型締めし、スプル29からランナ27,28を介してキャビティ25,26へ溶融樹脂を射出・充填し、冷却により固化させて樹脂成形品34を得る。次いで、その樹脂成形品34を金型30のキャビティ25,26に保持したまま、固定金型部23に対し可動金型部24を離隔して金型30を微開し、樹脂成形品34とキャビティ25,26を形成する面との間に生じた隙間33へ、被覆材(塗料)の注入を行う。この被覆材の注入は、被覆材が、注入機22により被覆材注入口31から注入され、被覆材注入路41を通り、可動金型部24のランナ27,28を形成する面と成形体との間の隙間38を介して、可動金型部24のキャビティ25,26を形成する面と樹脂成形品34との間の隙間33へ入ることで行われる。
【0035】
上記過程において、キャビティ25,26に射出・充填された溶融樹脂は冷却・固化に伴って収縮し、樹脂成形品34として成形される(図4参照)。この収縮により、キャビティ25(26)の本体部36で成形された樹脂成形品本体部34aにおいて長手方向(図4における矢印方向)に引っ張り力が働き、キャビティ25(26)の立ち面部32(図4参照)で成形された樹脂成形品立ち面部34bが引っ張られる。
【0036】
一方、ランナ27(28)には段状の凹部37が形成されており、その段状の凹部37において溶融樹脂の固化が遅れるから、ランナ27(28)で成形された成形体35で発生した長手方向の引っ張り力は、未だ固化していない溶融樹脂によって吸収され、樹脂成形品立ち面部34bに対する引っ張り力は抑制される。又、金型30では、凹部37が段状に形成されているため、ランナ27(28)の凹部37における溶融樹脂が固化すると、ランナ27(28)の凹部37で成形された成形体(成形体35の一部)が凸部としてその凹部37に嵌合し、成形体35全体を拘束するから、仮に、凹部37における溶融樹脂の固化の後に、凹部37以外の部分の成形によって収縮が生じ、ランナ27(28)の長手方向に引っ張り力が働いても、その引っ張り力に対して抵抗し、キャビティ25(26)の立ち面部32で成形された樹脂成形品立ち面部34bには変形が生じない。そのため、固定金型部23から可動金型部24を僅かに離隔し金型30を開くと、キャビティ25(26)の本体部36で成形された樹脂成形品本体部34aと可動金型部24との間、キャビティ25(26)の立ち面部32で成形された樹脂成形品立ち面部34bと可動金型部24との間、ランナ27(28)で成形された成形体35と可動金型部24との間、の何れにおいても均一な大きさの隙間33,38が形成される。従って、被覆材注入口31からランナ27,28を介しキャビティ25,26を形成する面と樹脂成形品34との隙間33へ、被覆材を導入することが出来、均一な厚さの塗膜で樹脂成形品34を被覆することが可能である。
【0037】
図8及び図9は、本発明の型内被覆成形用金型の更に他の実施形態を示す図である。図8は型割線を表した断面図であり、図9は図8におけるDD断面、即ち可動金型部の型割面を表した図である。図8に示される金型80は、金型10の凹部17や金型30の凹部37の代わりに凹部87が形成されているところが金型10,30と異なり、それ以外は、金型10(図1参照)及び金型30(図3参照)と同態様の金型である。凹部87が形成される面は、金型10,30とは異なり、可動金型部74がランナ77,78を形成する面(内面)のうちの金型80の開閉方向に対し概ね平行な面である(図9参照)。ここは、ランナ77,78を形成する面のうち被覆材が流れる面ではなく、ランナ77,78を形成する面のうち被覆材が流れる面と対向する面でもない。凹部87は、キャビティ75,76の近傍に2つずつ、凹部37と同様に段状に、形成されている。
【0038】
金型80を用いて、型内被覆成形方法により成形を行うにあたっては、先ず、成形装置を構成する図示しない射出装置を用いて、固定金型部73と可動金型部74とを型締めし、スプル79からランナ77,78を介してキャビティ75,76へ溶融樹脂を射出・充填し、冷却により固化させて樹脂成形品(図示しない)を得る。次いで、その樹脂成形品を金型80のキャビティ75,76に保持したまま、固定金型部73に対し可動金型部74を離隔して金型80を微開し、樹脂成形品とキャビティ75,76を形成する面との間に生じた隙間(図示しない)へ、被覆材(塗料)の注入を行う。この被覆材の注入は、被覆材が、注入機72によって被覆材注入口81から注入され、被覆材注入路71を通り、可動金型部74のランナ77,78を形成する面と成形体との間の隙間(図示しない)を介して、可動金型部74のキャビティ75,76を形成する面と樹脂成形品との間の隙間へ入ることで行われる。
【0039】
上記過程において、キャビティ75,76に射出・充填された溶融樹脂は冷却・固化に伴って収縮し、樹脂成形品として成形される。この収縮により、キャビティ75,76の本体部(図示しない)で成形された樹脂成形品本体部(図示しない)において長手方向に引っ張り力が働き、キャビティ75,76の立ち面部(図示しない)で成形された樹脂成形品立ち面部が引っ張られる。
【0040】
一方、ランナ77,78には、各々2つの段状の凹部87が形成されており、その段状の凹部87において溶融樹脂の固化が遅れるから、ランナ77,78で成形された成形体(図示しない)で発生した長手方向の引っ張り力は、未だ固化していない溶融樹脂によって吸収され、樹脂成形品立ち面部に対する引っ張り力は抑制される。又、金型80では、凹部87が段状に形成されているため、ランナ77,78の凹部87における溶融樹脂が固化すると、ランナ77,78の凹部87で成形された成形体が凸部としてその凹部87に嵌合し、成形体全体を拘束するから、仮に、凹部87における溶融樹脂の固化の後に、凹部87以外の部分の成形によって収縮が生じ、ランナ77,78の長手方向に引っ張り力が働いても、その引っ張り力に対して抵抗し、キャビティ75,76の立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部には変形が生じない。そのため、固定金型部73から可動金型部74を僅かに離隔し金型80を開くと、キャビティ75,76の本体部で成形された樹脂成形品本体部と可動金型部74との間、キャビティ75,76の立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部と可動金型部74との間、ランナ77,78で成形された成形体と可動金型部74との間、の何れにおいても均一な大きさの隙間が形成される。従って、被覆材注入口81からランナ77.78を介しキャビティ75,76を形成する面と樹脂成形品との隙間へ、被覆材を導入することが出来、均一な厚さの塗膜で樹脂成形品を被覆することが可能である。
【0041】
以上、本発明の型内被覆成形用金型及び型内被覆成形方法について実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は上記に記述された手段である。
【0042】
本発明の型内被覆成形用金型及び型内被覆成形方法は、金型における分岐をしたそれぞれのランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部を形成し、溶融樹脂の固化を遅らせることによって、キャビティで成形される樹脂成形品に対する引っ張り力を抑制し得るものであるから、凹部を形成する代わりに、その場所にヒータ等の加熱手段を設けたり、その場所を熱伝導率が小さく放熱し難い材料の入れ子で構成する等の手段を援用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の型内被覆成形用金型及び型内被覆成形方法は、あらゆる樹脂成形品の成形手段として利用の可能性がある。特に、外観に対して高い品質が要求される製品、例えば二輪車用部品、自動車用部品、あるいは、家電製品、住宅設備等の成形に好適に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の型内被覆成形用金型の一の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1における楕円で囲われたB部分を拡大した断面図である。
【図3】本発明の型内被覆成形用金型の他の実施形態を示す断面図である。
【図4】図3における楕円で囲われたC部分を拡大した断面図である。
【図5】従来の型内被覆成形用金型の一例を示す断面図である。
【図6】図5におけるAA断面を表した図である。
【図7】図5における楕円で囲われたE部分を拡大した断面図である。
【図8】本発明の型内被覆成形用金型の更に他の実施形態を示す断面図である。
【図9】図8におけるDD断面を表した図である。
【図10】図1におけるXX断面を表した図である。
【図11】図3におけるYY断面を表した図である。
【符号の説明】
【0045】
2,22,52,72…注入機、3,23,53,73…固定金型部、4,24,54,74…可動金型部、5,6,25,26,55,56,75,76…キャビティ、7,8,27,28,57,58,77,78…ランナ、9,29,59,79…スプル、10,30,50,80…金型、11,31,61,81…被覆材注入口、12,32,62…(キャビティの)立ち面部、15,35,65…成形体、16,36,66…(キャビティの)本体部、14,34,64…樹脂成形品、14a,34a,64a…樹脂成形品本体部、14b,34b,64b…樹脂成形品立ち面部、21,41,51,71…被覆材注入路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型のキャビティ内で複数個の樹脂成形品を成形した後に、それら樹脂成形品を金型から取り出さずに、各々の樹脂成形品に塗料によって被覆を施す(塗装する)型内被覆成形方法、及びそれに用いられる型内被覆成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂成形品の装飾性を高めるために、塗装によって表面を被覆して加飾を施す手段が採用される。そして、近年においては、塗装による工程の省略化を目的として、樹脂を用いた成形と、得られた樹脂成形品の表面被覆とを、同一の金型内で行う型内被覆成形方法(インモールドコーティング方法と称する)が行われている。
【0003】
型内被覆成形方法は、型締めされた金型へ樹脂を射出・充填し、冷却により固化させて樹脂成形品を得た後に、その樹脂成形品を金型内に保持したまま、金型を微開して、樹脂成形品とキャビティ形成面との間に生じた隙間へ、塗料(被覆材)の注入を行い、再度、金型を型締めし、樹脂成形品の表面に注入した塗料を均一に広げ、塗料を硬化させることにより、表面が塗膜で被覆された樹脂成形品を得る方法である。
【0004】
このような型内被覆成形方法によれば、樹脂を用いた成形と、得られた樹脂成形品への被覆とを、同一の金型内で行うため、工程が省略化され、浮遊している粉塵が硬化前の塗膜に付着して不良品になる等の問題が殆ど生じず、高い品質の製品を低廉に得ることが可能である。特に、外観に対して高い品質が要求される自動車用の部品、例えば、バンパー、ドアミラーカバー、フェンダー等の多くの部品には、型内被覆成形方法の利用が好適である。
【0005】
尚、型内被覆成形方法についての先行文献として、特許文献1、特許文献2が挙げられる。特許文献1には、金型の型割面からの溶融樹脂の漏れを効果的に防止し得る手段が提案されている。又、特許文献2には、金型の開閉方向に延在する補助キャビティの全周にわたり溝部を設けることで塗料漏れを長期にわたり防止し得る手段が開示されている。
【特許文献1】特開平9−52257号公報
【特許文献2】特開2003−191286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数個の樹脂成形品を一度に成形(多数個取り、ともいう)するために、樹脂成形品の成形空間であるキャビティが複数備わる金型を用いて型内被覆成形方法を行おうとすると、キャビティの立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部の一部の表面に、良好な被覆を施すことが出来ない場合が生じていた。型内被覆成形方法は、工程が省略化され製品を低廉に得ることが出来る手段であるが、品質が安定しなければ、外観に対して高い品質が要求される場合に、結局、歩留まりが低下して製品コストの上昇を招来する。一方、樹脂成形品の製造にかかり生産効率を向上させるためには、多数個取りすることが、今後、更に望まれると想定される。従って、多数個取りする場合であっても、より安定して高い品質の被覆を施すことが可能な型内被覆成形手段が求められていた。
【0007】
これに対し研究が重ねられた結果、金型を微開したときに、キャビティの立ち面部においては、樹脂成形品と金型のキャビティ形成面との間に、均一な隙間が生じない場合があることが、被覆にかかる品質低下を導くものと想到された。この問題につき、図5、図6及び図7を参照して説明する。
【0008】
図5〜図7は、多数個取りの型内被覆成形に用いられる従来の金型の一例を示す図である。図5は型割線を表した断面図であり、図6は図5におけるAA断面、即ち可動金型部の型割面を表した図であり、図7は金型を微開した場合において図5における楕円で囲われたE部分、即ちキャビティの立ち面部を拡大した断面図である。図示される金型50は、固定金型部53と可動金型部54とで構成され、それらの型割面によって2つのキャビティ55,56が形成されたものである。固定金型部53には、キャビティ55,56の中へ溶融樹脂を射出するためのスプル59が形成され、固定金型部53と可動金型部54の型割面によって、スプル59とキャビティ55とを接続するランナ57、及びスプル59とキャビティ56とを接続するランナ58が形成されている。ランナ57,58は、溶融樹脂の流路として、スプル59から分岐してキャビティ55,56にそれぞれ概ね垂直に接続され、ランナ57とランナ58も互いに通じている。又、注入機52を用いて被覆材注入口61からキャビティ55,56の中へ塗料を注入するための被覆材注入路51が、ランナ57,58に通じて設けられている。
【0009】
多数個取りが可能な型内被覆成形用の金型50において、固定金型部53と可動金型部54とを型締めし、スプル59からランナ57を介してキャビティ55に溶融樹脂を射出・充填し、冷却・固化すると、型締めしたままで金型50を開かなくても、溶融樹脂は冷却・固化に伴って収縮し、樹脂成形品64として成形される(図7参照)。この収縮により、キャビティ55の本体部66で成形された樹脂成形品本体部64a及びランナ57で成形された成形体65において、それぞれ長手方向(図7における矢印方向)に引っ張り力が働き、キャビティ55の立ち面部62(図7参照)で成形された樹脂成形品立ち面部64bが、両方向から引っ張られて変形する。そのため、固定金型部53から可動金型部54を僅かに離隔し金型50を開いても、立ち面部62で成形された樹脂成形品立ち面部64bは、キャビティ55の本体部66側では固定金型部53に密着し、一方で可動金型部54とは離れて隙間63を形成する。又、ランナ57側では、樹脂成形品立ち面部64bは、可動金型部54に密着し、一方で固定金型部53とは離れ、更には、ランナ57における成形体65が可動金型部54に密着する(図7におけるF部分)。従って、図7に示される状態では、注入機52を用いて被覆材注入口61から塗料を注入しても、ランナ57及び立ち面部62において塗料の流路が形成されず、塗料をキャビティ55の中へ導入することが出来ない。尚、このような現象は、キャビティ56(ランナ58)側でも同様に起こり得る。
【0010】
図7に示される状態から更に金型50を開くと、ランナ57において成形体65と可動金型部54との間に隙間が形成されて塗料の流路が確保される。しかし、同様に形成される立ち面部62における樹脂成形品立ち面部64bと可動金型部54との間の隙間は、均一ではなく、且つ、上記隙間63と均等な大きさにはならないため、樹脂成形品64に形成される塗膜の厚さが均一にならず、被覆にかかる品質低下を招く、と推考された。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解決した型内被覆成形手段を提供することを目的とする。より具体的には、多数個取りが可能であり、キャビティに立ち面部が存在しても、ランナを介して塗料をキャビティの中へ注入出来、且つ均一な膜厚の塗膜で樹脂成形品を被覆することが可能な型内被覆成形手段の提供が目的である。本発明は、以下に示す手段を提供することにより、上記目的を達成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明によれば、先ず、固定金型部と可動金型部とで構成され、固定金型部及び可動金型部によって、樹脂成形品の成形空間である複数のキャビティと、それら複数のキャビティの中へ溶融樹脂を射出するためのランナと、複数のキャビティの中へ被覆材を注入するための被覆材注入路と、が形成された型内被覆成形用の金型であって、ランナが、複数のキャビティのそれぞれに接続されるとともに、複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部が形成されている型内被覆成形用金型が提供される。
【0013】
本明細書において、被覆材は、流動性のある被覆材料を指し、通常は塗料である。被覆材注入路は、被覆材注入口(金型の外部から被覆材が注入される開口)からランナまでの被覆材の流路である。
【0014】
本発明に係る型内被覆成形用金型において、凹部の形成場所は、ランナを形成する面の何れかであってよいが、そのうち被覆材が流れる面は被覆材をキャビティへ注入するための流路として確保する必要があるから除かれる。本発明に係る型内被覆成形用金型において、例えば、可動金型部が、樹脂成形品及び固定金型部から離れることによって形成される隙間に被覆材が注入される場合には、ランナを形成する面のうち被覆材が流れる面は、可動金型部がランナを形成する面(内面)のうちの金型の開閉方向に対し概ね垂直な面になるから、それを除く面とは、可動金型部がランナを形成する面(内面)のうちの金型の開閉方向に対し概ね平行な面と、固定金型部がランナを形成する面(内面)である。
【0015】
又、本発明に係る型内被覆成形用金型は、ランナがキャビティに接続されるものであるが、固定金型部及び可動金型部によって形成された空間であるランナとキャビティとの接続にかかる角度(両者が形成する角度)は、特段に限定されるものではない。本発明に係る型内被覆成形用金型には、ランナが、固定金型部の型割面と可動金型部の型割面とによって金型の開閉方向に対し概ね垂直な方向に形成され、キャビティの立ち面部(金型の開閉方向の面で形成された部分)に接続される態様が含まれる。
【0016】
本発明に係る型内被覆成形用金型においては、凹部の数、形状、深さ、その他の態様は限定されるものではないが、凹部が、ランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、段状に形成されていることが好ましい。
【0017】
又、凹部が、複数形成されていることが好ましい。
【0018】
更に、凹部が、キャビティの近傍に形成されていることが好ましい。凹部が複数形成されている場合には、少なくともそのうちの1つの凹部がキャビティの近傍に形成されていることが望ましい。例えば、凹部が2つ形成されている場合には、そのうちの1つがキャビティの近傍に段状に形成され、他の1つがキャビティから離れた位置に滑らかに凹んだ凹部として形成されることが好ましい(後述の本発明に係る型内被覆成形方法においても同様である)。
【0019】
次に、本発明によれば、固定金型部と可動金型部とで構成される金型を用い、その金型が形成する複数のキャビティの中へ、複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを介して溶融樹脂を充填し、その溶融樹脂を固化させて複数の樹脂成形品を得た後に、樹脂成形品をそれぞれのキャビティの中に保持したまま、固定金型部に対し可動金型部を離隔し金型を微開して、可動金型部又は固定金型部のキャビティを形成する面と、樹脂成形品と、の間に生じた隙間へ、ランナを介して被覆材の注入を行い、金型内で樹脂成形品の表面を被覆する方法であって、金型における複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部を形成し、その凹部における溶融樹脂の固化を遅らせることによって、キャビティで成形される樹脂成形品に対する引っ張り力を抑制する型内被覆成形方法が提供される。
【0020】
凹部における溶融樹脂の固化を遅らせるとは、少なくともランナの凹部における溶融樹脂の固化が、それ以外のランナ部分より遅れるようにすることを意味する。キャビティ部分を含めて、ランナの凹部における溶融樹脂の固化が、最も遅れて固化することが、より好ましい。溶融樹脂が冷却・固化に伴って収縮し、ランナで成形された成形体において、固化したところから先に長手方向に引っ張り力が働いても、凹部における溶融樹脂の固化が遅れるから、引っ張り力が吸収され、キャビティの立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部を変形させることがない。
【0021】
本発明に係る型内被覆成形方法においては、凹部の数、形状、深さ、その他の態様は限定されるものではないが、凹部が、ランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、段状に形成されていることが好ましい。
【0022】
又、凹部が、複数形成されていることが好ましい。
【0023】
更に、凹部が、キャビティの近傍に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る型内被覆成形用金型は、複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部が形成されており、その凹部における溶融樹脂の固化が遅れることによって、キャビティで成形される樹脂成形品に対する引っ張り力を抑制することが出来る。即ち、本発明に係る型内被覆成形用金型は、本発明に係る型内被覆成形方法の実施に好適に用いられる。
【0025】
キャビティで成形される樹脂成形品に対する引っ張り力が抑制されるため、成形に伴う凝縮によってキャビティの立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部が変形せず、その樹脂成形品立ち面部は、金型内に保持されたまま、キャビティの本体部側でもランナ側でも、可動金型部又は固定金型部に対し均一な隙間を形成し得る。そして、例えば被覆材注入口からランナを介して、キャビティの中へ(より厳密にはキャビティ形成面と樹脂成形品との隙間へ)、被覆材を導入することが出来、均一な厚さの塗膜で樹脂成形品を被覆することが可能である。従って、高品質の樹脂成形品を高い効率で生産することが出来る。
【0026】
本発明に係る型内被覆成形用金型は、その好ましい態様において、凹部が段状に形成されている。凹部がこのような態様である場合には、ランナの凹部における溶融樹脂が固化すると、ランナの凹部で成形された成形体が凸部としてその凹部に嵌合し、ランナ全体で成形された成形体を拘束するから、ランナの凹部以外の部分の成形によって収縮が生じて長手方向に引っ張り力が働いても、その引っ張り力に対して抵抗し、キャビティの立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部の変形を防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1、図2、及び図10は、多数個取りの本発明に係る型内被覆成形方法に用いられる、本発明の型内被覆成形用金型の一の実施形態を示す図である。図1は型割線を表した断面図であり、図2は図1における楕円で囲われたB部分、即ちキャビティの立ち面部を拡大して示す断面図であり、図示しないが他方のキャビティ側でも同態様である。又、図10は図1におけるXX断面、即ち可動金型部の型割面、を表した図である。図示される金型10は、従来の金型と同様に、固定金型部3と可動金型部4とで構成され、それらの型割面によって2つのキャビティ5,6が形成されたものである。尚、本明細書において、型割面とは、金型としての分割面を意味し、固定金型部と可動金型部とが互いに対向する面を指す。又、キャビティの立ち面部とは、キャビティのうち金型の開閉方向の面によって形成された部分をいい、限定されるものではないが、一般には、キャビティのうち長手方向が金型の開閉方向にあたる部分が立ち面部に相当する。キャビティの立ち面部で形成された樹脂成形品の一部分を樹脂成形品立ち面部とよぶ。又、立ち面部に対して本体部と表現するが、立ち面部以外の部分を指す語である。
【0028】
金型10は、型内被覆成形方法に使用される成形装置の一構成要素であり、例えば、型締装置とそれに組み込まれる金型装置、更には射出装置、制御装置で構成される成形装置において金型装置を構成するものである。金型10は、図示しない型締装置に組み込まれ、固定金型部3に対し可動金型部4が離隔することにより、開閉する。固定金型部3には、キャビティ5,6の中へ溶融樹脂を射出するためのスプル9が形成され、更に、スプル9とキャビティ5とを接続するランナ7、及びスプル9とキャビティ6とを接続するランナ8が形成されている。ランナ7,8は、キャビティ5,6と同様に固定金型部3と可動金型部4の型割面によって形成されるとともに、溶融樹脂の流路としては、スプル9から分岐してキャビティ5(6)の立ち面部12に、それぞれ概ね垂直に接続される。ランナ7,8どうしも通じている。又、注入機2を用いて被覆材注入口11からキャビティ5,6の中へ被覆材(塗料)を注入するための被覆材注入路21が、ランナ7,8に通じて設けられている。尚、実施形態に示される金型において、スプルとは、キャビティまでの溶融樹脂の流路の一部であり、金型の溶融樹脂注入口(金型の外部から溶融樹脂が注入される開口)からランナまでの部分を指し、一般には円錐形を呈するものである。本発明に係る型内被覆成形用金型においては、溶融樹脂の流路として、スプルを含むものには限定されずスプルレスであってもよく、又、ホットランナから本明細書で示されるランナへ溶融樹脂が供給される態様であってもよく、特段に制限されない。実施形態に示される金型においては、ランナとは、キャビティまでの溶融樹脂の流路の一部であり、スプルからキャビティまでの部分を指し、スプルから分岐してキャビティ毎に設けられる。
【0029】
金型10は、ランナ7,8を形成する面のうち被覆材が流れる面ではなく、それと対向する面であり固定金型部3がランナ7,8を形成する面に、それぞれ1つの凹部17が形成されているところが従来の金型(図5参照)とは異なる。この凹部17は、段状の態様ではなく、滑らかな凹みとして、キャビティ5(6)の側に形成されている。
【0030】
型内被覆成形方法により成形を行うにあたっては、先ず、成形装置を構成する図示しない射出装置を用いて、固定金型部3と可動金型部4とを型締めし、スプル9からランナ7,8を介してキャビティ5,6へ溶融樹脂を射出・充填し、冷却により固化させて樹脂成形品14を得る。次いで、その樹脂成形品14を金型10のキャビティ5,6に保持したまま、固定金型部3に対し可動金型部4を離隔して金型10を微開し、樹脂成形品14とキャビティ5,6を形成する面との間に生じた隙間13へ、被覆材(塗料)の注入を行う。この被覆材の注入は、被覆材が被覆材注入口11から被覆材注入路21を通り、可動金型部4のランナ7,8を形成する面と成形体との間の隙間18を介して、可動金型部4のキャビティ5,6を形成する面と樹脂成形品14との間の隙間13へ入ることで行われる。
【0031】
上記過程において、キャビティ5,6に射出・充填された溶融樹脂は冷却・固化に伴って収縮し、樹脂成形品14として成形される(図2参照)。この収縮により、キャビティ5(6)の本体部16で成形された樹脂成形品本体部14aにおいて長手方向(図2における矢印方向)に引っ張り力が働き、キャビティ5(6)の立ち面部12(図2参照)で成形された樹脂成形品立ち面部14bが引っ張られる。
【0032】
一方、ランナ7(8)には凹部17が形成されており、その凹部17において溶融樹脂の固化が遅れるから、ランナ7(8)で成形された成形体15で発生した長手方向の引っ張り力は、未だ固化していない溶融樹脂によって吸収され、樹脂成形品立ち面部14bに対する引っ張り力は抑制される。そのため、固定金型部3から可動金型部4を僅かに離隔し金型10を開くと、キャビティ5(6)の本体部16で成形された樹脂成形品本体部14aと可動金型部4との間、キャビティ5(6)の立ち面部12で成形された樹脂成形品立ち面部14bと可動金型部4との間、ランナ7(8)で成形された成形体15と可動金型部4との間、の何れにおいても均一な大きさの隙間13,18が形成される。従って、被覆材注入口11からランナ7,8を介しキャビティ5,6を形成する面と樹脂成形品14との隙間13へ、被覆材を導入することが出来、均一な厚さの塗膜で樹脂成形品14を被覆することが出来、高品質の樹脂成形品を高い効率で生産することが可能である。
【0033】
図3、図4、及び図11は、本発明の型内被覆成形用金型の他の実施形態を示す図である。図3は型割線を表した断面図であり、図4は図3における楕円で囲われたC部分、即ちキャビティの立ち面部を拡大して示す断面図であり、図示しないが他方のキャビティ側でも同態様である。又、図11は図3におけるYY断面、即ち可動金型部の型割面、を表した図である。図示される金型30は、金型10の凹部17の代わりに凹部37が形成されているところが金型10と異なり、それ以外は、金型10(図1参照)と同態様の金型である。凹部37が形成される面は、金型10と同様に、ランナ27,28を形成する面のうち被覆材が流れる面ではなく、それと対向する面であり固定金型部23がランナ27,28を形成する面である。この凹部37は、キャビティ25(26)の近傍に、滑らかな凹みではなく段状に形成されている。
【0034】
金型30を用いて、型内被覆成形方法により成形を行うにあたっては、先ず、成形装置を構成する図示しない射出装置を用いて、固定金型部23と可動金型部24とを型締めし、スプル29からランナ27,28を介してキャビティ25,26へ溶融樹脂を射出・充填し、冷却により固化させて樹脂成形品34を得る。次いで、その樹脂成形品34を金型30のキャビティ25,26に保持したまま、固定金型部23に対し可動金型部24を離隔して金型30を微開し、樹脂成形品34とキャビティ25,26を形成する面との間に生じた隙間33へ、被覆材(塗料)の注入を行う。この被覆材の注入は、被覆材が、注入機22により被覆材注入口31から注入され、被覆材注入路41を通り、可動金型部24のランナ27,28を形成する面と成形体との間の隙間38を介して、可動金型部24のキャビティ25,26を形成する面と樹脂成形品34との間の隙間33へ入ることで行われる。
【0035】
上記過程において、キャビティ25,26に射出・充填された溶融樹脂は冷却・固化に伴って収縮し、樹脂成形品34として成形される(図4参照)。この収縮により、キャビティ25(26)の本体部36で成形された樹脂成形品本体部34aにおいて長手方向(図4における矢印方向)に引っ張り力が働き、キャビティ25(26)の立ち面部32(図4参照)で成形された樹脂成形品立ち面部34bが引っ張られる。
【0036】
一方、ランナ27(28)には段状の凹部37が形成されており、その段状の凹部37において溶融樹脂の固化が遅れるから、ランナ27(28)で成形された成形体35で発生した長手方向の引っ張り力は、未だ固化していない溶融樹脂によって吸収され、樹脂成形品立ち面部34bに対する引っ張り力は抑制される。又、金型30では、凹部37が段状に形成されているため、ランナ27(28)の凹部37における溶融樹脂が固化すると、ランナ27(28)の凹部37で成形された成形体(成形体35の一部)が凸部としてその凹部37に嵌合し、成形体35全体を拘束するから、仮に、凹部37における溶融樹脂の固化の後に、凹部37以外の部分の成形によって収縮が生じ、ランナ27(28)の長手方向に引っ張り力が働いても、その引っ張り力に対して抵抗し、キャビティ25(26)の立ち面部32で成形された樹脂成形品立ち面部34bには変形が生じない。そのため、固定金型部23から可動金型部24を僅かに離隔し金型30を開くと、キャビティ25(26)の本体部36で成形された樹脂成形品本体部34aと可動金型部24との間、キャビティ25(26)の立ち面部32で成形された樹脂成形品立ち面部34bと可動金型部24との間、ランナ27(28)で成形された成形体35と可動金型部24との間、の何れにおいても均一な大きさの隙間33,38が形成される。従って、被覆材注入口31からランナ27,28を介しキャビティ25,26を形成する面と樹脂成形品34との隙間33へ、被覆材を導入することが出来、均一な厚さの塗膜で樹脂成形品34を被覆することが可能である。
【0037】
図8及び図9は、本発明の型内被覆成形用金型の更に他の実施形態を示す図である。図8は型割線を表した断面図であり、図9は図8におけるDD断面、即ち可動金型部の型割面を表した図である。図8に示される金型80は、金型10の凹部17や金型30の凹部37の代わりに凹部87が形成されているところが金型10,30と異なり、それ以外は、金型10(図1参照)及び金型30(図3参照)と同態様の金型である。凹部87が形成される面は、金型10,30とは異なり、可動金型部74がランナ77,78を形成する面(内面)のうちの金型80の開閉方向に対し概ね平行な面である(図9参照)。ここは、ランナ77,78を形成する面のうち被覆材が流れる面ではなく、ランナ77,78を形成する面のうち被覆材が流れる面と対向する面でもない。凹部87は、キャビティ75,76の近傍に2つずつ、凹部37と同様に段状に、形成されている。
【0038】
金型80を用いて、型内被覆成形方法により成形を行うにあたっては、先ず、成形装置を構成する図示しない射出装置を用いて、固定金型部73と可動金型部74とを型締めし、スプル79からランナ77,78を介してキャビティ75,76へ溶融樹脂を射出・充填し、冷却により固化させて樹脂成形品(図示しない)を得る。次いで、その樹脂成形品を金型80のキャビティ75,76に保持したまま、固定金型部73に対し可動金型部74を離隔して金型80を微開し、樹脂成形品とキャビティ75,76を形成する面との間に生じた隙間(図示しない)へ、被覆材(塗料)の注入を行う。この被覆材の注入は、被覆材が、注入機72によって被覆材注入口81から注入され、被覆材注入路71を通り、可動金型部74のランナ77,78を形成する面と成形体との間の隙間(図示しない)を介して、可動金型部74のキャビティ75,76を形成する面と樹脂成形品との間の隙間へ入ることで行われる。
【0039】
上記過程において、キャビティ75,76に射出・充填された溶融樹脂は冷却・固化に伴って収縮し、樹脂成形品として成形される。この収縮により、キャビティ75,76の本体部(図示しない)で成形された樹脂成形品本体部(図示しない)において長手方向に引っ張り力が働き、キャビティ75,76の立ち面部(図示しない)で成形された樹脂成形品立ち面部が引っ張られる。
【0040】
一方、ランナ77,78には、各々2つの段状の凹部87が形成されており、その段状の凹部87において溶融樹脂の固化が遅れるから、ランナ77,78で成形された成形体(図示しない)で発生した長手方向の引っ張り力は、未だ固化していない溶融樹脂によって吸収され、樹脂成形品立ち面部に対する引っ張り力は抑制される。又、金型80では、凹部87が段状に形成されているため、ランナ77,78の凹部87における溶融樹脂が固化すると、ランナ77,78の凹部87で成形された成形体が凸部としてその凹部87に嵌合し、成形体全体を拘束するから、仮に、凹部87における溶融樹脂の固化の後に、凹部87以外の部分の成形によって収縮が生じ、ランナ77,78の長手方向に引っ張り力が働いても、その引っ張り力に対して抵抗し、キャビティ75,76の立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部には変形が生じない。そのため、固定金型部73から可動金型部74を僅かに離隔し金型80を開くと、キャビティ75,76の本体部で成形された樹脂成形品本体部と可動金型部74との間、キャビティ75,76の立ち面部で成形された樹脂成形品立ち面部と可動金型部74との間、ランナ77,78で成形された成形体と可動金型部74との間、の何れにおいても均一な大きさの隙間が形成される。従って、被覆材注入口81からランナ77.78を介しキャビティ75,76を形成する面と樹脂成形品との隙間へ、被覆材を導入することが出来、均一な厚さの塗膜で樹脂成形品を被覆することが可能である。
【0041】
以上、本発明の型内被覆成形用金型及び型内被覆成形方法について実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は上記に記述された手段である。
【0042】
本発明の型内被覆成形用金型及び型内被覆成形方法は、金型における分岐をしたそれぞれのランナを形成する面のうち被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部を形成し、溶融樹脂の固化を遅らせることによって、キャビティで成形される樹脂成形品に対する引っ張り力を抑制し得るものであるから、凹部を形成する代わりに、その場所にヒータ等の加熱手段を設けたり、その場所を熱伝導率が小さく放熱し難い材料の入れ子で構成する等の手段を援用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の型内被覆成形用金型及び型内被覆成形方法は、あらゆる樹脂成形品の成形手段として利用の可能性がある。特に、外観に対して高い品質が要求される製品、例えば二輪車用部品、自動車用部品、あるいは、家電製品、住宅設備等の成形に好適に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の型内被覆成形用金型の一の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1における楕円で囲われたB部分を拡大した断面図である。
【図3】本発明の型内被覆成形用金型の他の実施形態を示す断面図である。
【図4】図3における楕円で囲われたC部分を拡大した断面図である。
【図5】従来の型内被覆成形用金型の一例を示す断面図である。
【図6】図5におけるAA断面を表した図である。
【図7】図5における楕円で囲われたE部分を拡大した断面図である。
【図8】本発明の型内被覆成形用金型の更に他の実施形態を示す断面図である。
【図9】図8におけるDD断面を表した図である。
【図10】図1におけるXX断面を表した図である。
【図11】図3におけるYY断面を表した図である。
【符号の説明】
【0045】
2,22,52,72…注入機、3,23,53,73…固定金型部、4,24,54,74…可動金型部、5,6,25,26,55,56,75,76…キャビティ、7,8,27,28,57,58,77,78…ランナ、9,29,59,79…スプル、10,30,50,80…金型、11,31,61,81…被覆材注入口、12,32,62…(キャビティの)立ち面部、15,35,65…成形体、16,36,66…(キャビティの)本体部、14,34,64…樹脂成形品、14a,34a,64a…樹脂成形品本体部、14b,34b,64b…樹脂成形品立ち面部、21,41,51,71…被覆材注入路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型部と可動金型部とで構成され、前記固定金型部及び可動金型部によって、樹脂成形品の成形空間である複数のキャビティと、それら複数のキャビティの中へ溶融樹脂を射出するためのランナと、前記複数のキャビティの中へ被覆材を注入するための被覆材注入路と、が形成された型内被覆成形用の金型であって、
前記ランナが、前記複数のキャビティのそれぞれに接続されるとともに、前記複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち前記被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部が形成されている型内被覆成形用金型。
【請求項2】
前記凹部が、段状に形成されている請求項1に記載の型内被覆成形用金型。
【請求項3】
前記凹部が、複数形成されている請求項1又は2に記載の型内被覆成形用金型。
【請求項4】
前記凹部が、前記キャビティの近傍に形成されている請求項1〜3の何れか一項に記載の型内被覆成形用金型。
【請求項5】
固定金型部と可動金型部とで構成される金型を用い、その金型が形成する複数のキャビティの中へ、前記複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを介して溶融樹脂を充填し、その溶融樹脂を固化させて複数の樹脂成形品を得た後に、前記樹脂成形品をそれぞれの前記キャビティの中に保持したまま、前記固定金型部に対し可動金型部を離隔し金型を微開して、前記可動金型部又は固定金型部の前記キャビティを形成する面と、樹脂成形品と、の間に生じた隙間へ、前記ランナを介して被覆材の注入を行い、金型内で前記樹脂成形品の表面を被覆する方法であって、
金型における前記複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち前記被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部を形成し、その凹部における溶融樹脂の固化を遅らせることによって、キャビティで成形される樹脂成形品に対する引っ張り力を抑制する型内被覆成形方法。
【請求項6】
前記凹部が、段状に形成されている請求項5に記載の型内被覆成形方法。
【請求項7】
前記凹部が、複数形成されている請求項5又は6に記載の型内被覆成形方法。
【請求項8】
前記凹部が、前記キャビティの近傍に形成されている請求項5〜7の何れか一項に記載の型内被覆成形方法。
【請求項1】
固定金型部と可動金型部とで構成され、前記固定金型部及び可動金型部によって、樹脂成形品の成形空間である複数のキャビティと、それら複数のキャビティの中へ溶融樹脂を射出するためのランナと、前記複数のキャビティの中へ被覆材を注入するための被覆材注入路と、が形成された型内被覆成形用の金型であって、
前記ランナが、前記複数のキャビティのそれぞれに接続されるとともに、前記複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち前記被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部が形成されている型内被覆成形用金型。
【請求項2】
前記凹部が、段状に形成されている請求項1に記載の型内被覆成形用金型。
【請求項3】
前記凹部が、複数形成されている請求項1又は2に記載の型内被覆成形用金型。
【請求項4】
前記凹部が、前記キャビティの近傍に形成されている請求項1〜3の何れか一項に記載の型内被覆成形用金型。
【請求項5】
固定金型部と可動金型部とで構成される金型を用い、その金型が形成する複数のキャビティの中へ、前記複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを介して溶融樹脂を充填し、その溶融樹脂を固化させて複数の樹脂成形品を得た後に、前記樹脂成形品をそれぞれの前記キャビティの中に保持したまま、前記固定金型部に対し可動金型部を離隔し金型を微開して、前記可動金型部又は固定金型部の前記キャビティを形成する面と、樹脂成形品と、の間に生じた隙間へ、前記ランナを介して被覆材の注入を行い、金型内で前記樹脂成形品の表面を被覆する方法であって、
金型における前記複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち前記被覆材が流れる面を除く面に、少なくとも1つの凹部を形成し、その凹部における溶融樹脂の固化を遅らせることによって、キャビティで成形される樹脂成形品に対する引っ張り力を抑制する型内被覆成形方法。
【請求項6】
前記凹部が、段状に形成されている請求項5に記載の型内被覆成形方法。
【請求項7】
前記凹部が、複数形成されている請求項5又は6に記載の型内被覆成形方法。
【請求項8】
前記凹部が、前記キャビティの近傍に形成されている請求項5〜7の何れか一項に記載の型内被覆成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−289794(P2006−289794A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113904(P2005−113904)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】
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