説明

埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出装置

【課題】 地中に埋設した金属管の外面に施された防食被覆の損傷位置を高精度でかつ高能率で検出する。
【解決手段】 外面に防食被覆を施して地中に埋設された金属管の被覆損傷を検出する際に、地中に埋設された対極5と金属管2との間に交流信号電流を通電し、金属管2の上部の地表面の電位差を車輪電極8の回転を介して検出し、交流信号電流の信号成分と同じ成分の信号を抽出し、抽出した信号に基づいて地表面電位を検知することにより、被覆損傷を検出する損傷検出ステップを有し、この損傷検出ステップでは、防食被覆金属管9の複数の地点における管対地信号電圧を測定し、その測定結果に基づいてさらに被覆損傷位置における管対地信号電圧を求め、求めた被覆損傷位置における管対地信号電圧により地表面電位を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地中に埋設した金属管の外面に施された防食被覆の損傷位置を地表面から検出する埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、地中に埋設する鋼管等の金属管は、外面にアスフアルト等の瀝青質或いは、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂の塗覆装を施し腐食を防止している。
【0003】
上記防食被覆が何らかの原因により金属面に達する損傷を受け、その金属面が土壌等の電解質に直接接触すると、その部分が腐食する。特に、損傷部が酸素濃淡差などのある環境や、電鉄の迷走電流の影響を受ける環境に存在すると金属管は異常に速い速度で腐食し腐食孔を生じる虞がある。
【0004】
このような地中埋設管の防食被覆を完全な状態で維持することは、腐食事故を防止する上で極めて重要である。このため、防食被覆の損傷を地表面から検出し、掘削して補修する等の処置が従来より頻繁に施されている。
【0005】
この防食被覆損傷位置を検出する手段として、埋設管に信号電流を流し被覆損傷部から生じる電位差を地表面にて検知するものが既に実用化されている。
【0006】
特許文献1には、図15に示すような損傷位置検出技術の一例が開示されている。この損傷位置検出技術では、金属管62に設けた通電点70と、地中に埋設された電極としての対極65との間に交流信号電流が流されることになる。ここで、金属管62に被覆損傷部63が存在すれば、この被覆損傷部63と対極65との間に交流信号電流が流れることとなる。そして、金属管62の直上の地表面を移動する受信装置67における2個の車輪電極68により地表面電位差を測定して信号処理することによって、金属管62の被覆損傷部63がつくりだす地表面分布が算出される。
【0007】
具体的には、2個の車輪電極68間の電位差がロックインアンプ73に入力され、上記の交流信号電流と同じ成分の信号が抽出される。そして、その信号の振幅Aおよび位相φの極性の変化が測定される。さらに、正弦Asinφまたは余弦Acosφが算出され、算出された正弦Asinφまたは余弦Acosφを積算回路96において積算することで、地表面電位分布が得られる。得られた地表面電位分布の波形が記録計などの表示装置76に描画される。そして描画された波形を利用者が解析することによって、被覆損傷部63の位置および大きさが判定される。また、この従来技術においてAsinφを積算して地表面電位分布を得る場合、長距離に亘って積算すると、被覆損傷部63以外から生じる被覆材の絶縁抵抗値に起因する計測対象外の誤差電位を積算した、ある傾きを持って直線的に変化する波形が被覆損傷部63により発生する波形に重畳されることになる。その結果、表示装置76にはドリフトした波形が表示される。
【0008】
これを避けるためには、図15に示すように積算回路96にオフセット設定器97を接続し、防食被覆に損傷が無い状態のAsinφの値に相当するオフセット値を設定し、Asinφからオフセット値を減じて積算することにより、積算波形の傾きをほぼ0となるようにするのが望ましい。
【0009】
また、特許文献2には、異なる2種類の周波数を持つ交流信号を用いることによって、被覆損傷部分の位置を正確に知ることができる損傷位置検出技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−004686号公報
【特許文献2】特開2003−004687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
金属管62の防食被覆損傷の重要度を表す要素の一つに、損傷面積S(cm2)が挙げられる。損傷面積Sと被覆損傷部の接地抵抗R(Ω)とは(1)式の関係がある。
[式1]

ここで、ρは土壌比抵抗(Ω・m)、tは防食被覆厚さ(cm)である。
【0011】
被覆損傷部に流入する信号電流i(A)は、埋設金属管と対極との間に信号を加えたことにより、埋設金属管と大地間に発生する電圧としての管対地信号電圧Vp(V)と被覆損傷部の接地抵抗Rより(2)式のように求められる。
[式2]

被覆損傷部に流入する信号電流iにより地表面に検出される電位は、(3)式のようになる。xcは被覆損傷部直上からの水平方向の距離(m)、dcは損傷部埋設深さ(m)である。
[式3]

(1)〜(3)式から、管対地信号電圧Vpおよび土壌比抵抗ρが一定で有れば、損傷面積が大きいほど地表面電位は大きくなることが分かる。
【0012】
しかしながら、管対地信号電圧Vpは通電点70からの距離により変化する。金属管62の防食被覆に全く損傷がなくても防食被覆の持つ漏れコンダクタンスのために、地面から防食被覆を通して信号電流がわずかながら流出入する。そのため、管対地信号電圧は通電点70からの距離が遠くなるにつれ小さくなる。管対地信号電圧の減衰は、一般に(4)式のように表される。
[式4]

【0013】
ここで、Aは通電点70の管対地信号電圧(V)、Bは減衰係数(1/m)、Lは防食被覆金属管69の通電点70からの延長(m)である。例えば、Aが2V、減衰係数Bが0.5×10-3/mの被覆金属管の場合、管対地信号電圧Vpは、図12のような曲線を描く。従って(4)式から、例えば接地抵抗が100Ωの被覆損傷において、管対地信号電圧Vpが1Vの地点の信号電流iは10mAであるが、管対地信号電圧Vpが500mVの地点では信号電流iは5mAと半分になり、(3)式より地表面に現れる信号電位も半分になって観測される。そのため、同じ大きさの損傷でも通電点70から遠い損傷では、地表面電位が小さく観測されることになり、そのことが損傷面積の把握を困難にしている。
【0014】
更に、対極65から流出する信号電流により発生する地表面電位の存在も、損傷面積の把握を困難にしている。対極65から流出する電流は、被覆損傷部を流れる電流に比較して極めて大きく、対極65の周囲の地表面には電位勾配が発生する。その地表面電位分布は、無限遠を基準にすると、(5)式のように表され、図13のようなカーブを描く。
[式5]

ρ:土壌比抵抗(Ω・m)、Ie:対極電流(A)、xe:対極65からの距離(m)、de:対極65の深さ(m)である。ここで、被覆損傷部に流れ込む電流の向きを正(+)としたときに、対極65では電流の流れが損傷部と逆向きとなるため、符号は負(−)となる。対極65の深さが浅い場合(x>>z)は、(6)式のように近似することもできる。
[式6]

【0015】
被覆損傷が存在する場合、その損傷部による電位分布は、対極65から流出した電流による電位分布に重畳して現れる。例として、5Aの信号電流の中に、対極65から100m、250mの地点に10mAの信号電流が流れる被覆損傷が存在しているとすると、図14のような地表面電位分布が得られる。同じ大きさの信号電流が複数の被覆損傷部に流れている場合でも、対極65の電位分布の存在により、対極65の近くにある被覆損傷の信号は目立たなくなる。
【0016】
特許文献1では、これを避けるためとして、積算回路96にオフセット設定器97を接続し、防食被覆に損傷が無い状態のAsinφの値に相当するオフセット値を設定し、Asinφからオフセット値を減じて積算することにより、積算波形の傾きをほぼ0となるようにするのが望ましいとあるが、その傾きは直線的ではなく(5)式のように距離の2乗の平方根に反比例して変化するため、オフセット設定器97にて特定の数値を設定しただけでは対極による影響の排除は困難である。
【0017】
このように、管対地信号電圧の減衰、および、対極65から流出する信号電流により発生する電位分布の存在が、被覆損傷の大きさの判別を困難にしている。
【0018】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、地中に埋設した金属管の外面に施された防食被覆の損傷位置を高精度でかつ高能率で検出することが可能な埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、外面に防食被覆を施して地中に埋設された金属管の被覆損傷を検出する際において、防食被覆金属管の複数の地点と大地間との間で発生する管対地信号電圧を測定し、その測定結果に基づいてさらに被覆損傷位置における管対地信号電圧を求め、求めた被覆損傷位置における管対地信号電圧により上記地表面電位を補正することにより防食被覆を検出することで、上記課題を解決した。
【0020】
即ち、本願の請求項1記載の防食被覆損傷位置検出装置は、外面に防食被覆を施して地中に埋設された金属管の被覆損傷を検出する埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出装置であって、地中に埋設された対極と上記金属管との間に交流信号電流を通電させる測定信号発信手段と、上記金属管の上部の地表面を車輪電極の回転を介して移動可能な受信装置と、上記受信装置における車輪電極により検出された地表面の電位差から、上記交流信号電流の信号成分と同じ成分の信号を抽出し、抽出した信号に基づいて地表面電位を検知することにより、上記被覆損傷を検出する損傷検出手段とを備え、上記損傷検出手段は、防食被覆金属管の複数の地点と大地間との間で発生する管対地信号電圧を測定し、その測定結果に基づいてさらに被覆損傷位置における管対地信号電圧を求め、求めた被覆損傷位置における管対地信号電圧により上記地表面電位を補正する。
【0021】
また、本願の請求項2記載の防食被覆損傷位置検出装置は、請求項1記載の発明において、上記損傷検出手段は、上記検知した地表面電位から、上記対極から流れる交流信号電流の大きさ、土壌抵抗率、並びに上記対極から被覆損傷位置までの距離に基づいて求めた、対極から発生する地表面電位を減じることを特徴とする。
【0022】
また、本願の請求項3記載の防食被覆損傷位置検出装置は、請求項1又は2記載の発明において、上記損傷検出手段は、対極と通電点の位置および管対地信号電圧の測定値を入力する装置と、受信装置の位置を検出する位置検出装置とを有し、被覆損傷の解析をリアルタイムに行う。
【0023】
また、本願の請求項4記載の防食被覆損傷位置検出方法は、外面に防食被覆を施して地中に埋設された金属管の被覆損傷を検出する埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出方法において、地中に埋設された対極と上記金属管との間に交流信号電流を通電し、上記金属管の上部の地表面の電位差を車輪電極の回転を介して検出し、上記交流信号電流の信号成分と同じ成分の信号を抽出し、抽出した信号に基づいて地表面電位を検知することにより、上記被覆損傷を検出する損傷検出ステップを有し、上記損傷検出ステップでは、防食被覆金属管の複数の地点と大地間との間で発生する管対地信号電圧を測定し、その測定結果に基づいてさらに被覆損傷位置における管対地信号電圧を求め、求めた被覆損傷位置における管対地信号電圧により上記地表面電位を補正する。
【0024】
また、本願の請求項5記載の防食被覆損傷位置検出方法は、請求項4記載の発明において、上記損傷検出ステップでは、上記検知した地表面電位から、上記対極から流れる交流信号電流の大きさ、土壌抵抗率、並びに上記対極から被覆損傷位置までの距離に基づいて求めた、対極から発生する地表面電位を減じることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、外面に防食被覆を施して地中に埋設された金属管の被覆損傷を検出する際において、防食被覆金属管の複数の地点における管対地信号電圧を測定し、その測定結果に基づいてさらに被覆損傷位置における管対地信号電圧を求め、求めた被覆損傷位置における管対地信号電圧により上記地表面電位を補正することにより、管対地信号電圧の減衰の影響を排除し、防食被覆の損傷位置を高精度でかつ高能率で検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、地中に埋設した金属管の外面に施された防食被覆の損傷位置を地表面から検出する防食被覆損傷位置検出装置につき、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明を適用した防食被覆損傷位置検出装置100のシステム全体を、また図2は、この防食被覆損傷位置検出装置100のブロック構成を示している。防食被覆損傷位置検出装置100は、地中に埋設されてなる鋼管等としての金属管2の外面に防食被覆1が施されて構成されてなる防食被覆金属管9の被覆損傷部3の位置と大きさを検出するものであり、地盤4に埋設した対極5並びに上記防食被覆金属管9の通電点10に接続された測定信号発信器6と、防食被覆金属管9の直上の地表面に、その防食被覆金属管9の長手方向に間隔をおいて配置された2つの車輪電極8が設けられた受信装置7とを備えている。受信装置7は防食被覆金属管9の直上をその長手方向に沿って走行しながら、導電性スポンジゴム車輪等で構成された車輪電極8を介して地表面の電位を検出する。
【0028】
受信装置7は、ロックインアンプ13と、参照信号発信器14と、記録装置15と、表示装置16とを備えている。各車輪電極8は、ロックインアンプ13の入力部に接続され、また参照信号発信器14の出力部はロックインアンプ13の図示しない参照信号入力部に接続されている。
【0029】
ロックインアンプ13の出力信号は、記録装置15、並びに平衡記録計等で構成される表示装置16に接続されている。
【0030】
上記の防食被覆損傷位置検出装置7において、測定信号発信器6を用いてそれぞれ防食被覆金属管9と対極5の間に交流信号電流を通じ、防食被覆金属管9に沿って移動する2つの車輪電極8により測定信号発信器6より発生する地表面の2点間の電位差を検出する。そして、この検出した電位差としての検出信号をロックインアンプ13の検出信号入力部に入力する。
【0031】
なお、車輪電極8の車輪には図示していないエンコーダ等の回転信号発生器が設けられ、車輪回転量は、移動距離に変換された上で、記録装置15および表示装置16に記録されることになる。参照信号発信器14から発信される参照信号は、測定信号発生器6が出力する交流信号電流との相対的位置変化の程度が少なくとも170°/時間より小さい範囲にある周波数の信号を用い、その参照信号がロックインアンプ13の参照信号入力部に入力される。
【0032】
記録装置15に記録された測定データは、例えばメモリーカード等の記録媒体12を用いて、解析装置11に移動される。解析装置11は、例えば、パーソナルコンピュータのようなコンピュータで構成されている。
【0033】
解析装置11は、記録データ読み出し部17と、CPU(中央演算処理装置)18と、ディスプレイ19と、メモリ20と、ハードディスク21と、操作部22とを備えている。
【0034】
記録データ読み出し部17は、CPU18等の制御に基づいて記録媒体12へアクセスし、当該記録媒体12の内部に格納されているデータの読み出しを実行する。
【0035】
CPU18は、図示しない内部バスを介して、解析装置11内の各構成要素に接続されてなり、当該解析装置11全体を制御する中央演算ユニットとしての役割を担う。CPU18は、種々の演算と制御を実行するとともに、ハードディスク21に格納されたプログラムを実行することにより、後述する解析動作を実行する。
【0036】
ディスプレイ19は、液晶パネルやCRTディスプレイ等で構成され、CPU18による制御の下、種々の情報を表示する。
【0037】
メモリ20は、例えば、ROM(read only memory)およびRAM(random access memory)等を有する。ROMは、CPU18が実行すべきプログラムやパラメータ等を記録する。RAMは、各種のデータを記録するとともに、CPU18によるデータの蓄積や展開等に使用する作業領域としても機能する。
【0038】
ハードディスク21は、プログラムを格納し、種々のデータおよびパラメータを格納する記録媒体として具体化される。
【0039】
操作部22は、キーボード、タッチパネル、およびマウスなどのポインティングデバイスとして構成され、例えば利用者が、実際の制御処理を解析装置11に対して開始させ、或いはデータを入力する際に用いられる。
【0040】
なお、メモリーカード等の記録媒体12を用いる替わりに、ネットワークを介して測定データを解析装置11に送るシステムを適用するようにしてもよい。
【0041】
次に解析装置11において実行されるデータ処理フローにつき、図3に示すフローチャートを用いて説明をする。先ずステップS101において、記録媒体12内にある信号の振幅および位相の測定データを読み込む。
【0042】
次に、ステップS102へ移行し、読み込んだ振幅eおよび位相φのデータから、正弦成分esinφを計算する。
【0043】
次に、ステップS103へ移行し、正弦成分を距離にて積算し、地表面電位を導出する。地表面電位は、(7)式のように、正弦成分を加算してゆくことで求めることができる。ここで、Δxは測定間隔(m)である。
[式7]

【0044】
地表面電位の測定例を、図4(a)、(b)に示す。この例では周波数の異なる第一信号電流および第二信号電流を用い、測定開始地点を0mとしたとき、−43mの地点の対極に第一信号電流を、+521mの地点の対極に第二信号電流を同時に流して、各周波数の信号による地表面電位を390mの地点まで測定したものである。図4(a)は第一信号の測定データを積算して得られた地表面電位分布Σe1であり、図4(b)は第二信号の測定データを積算して得られた地表面電位分布Σe2である。Σe1,Σe2とも数多くの被覆損傷によるピークが存在している。また、Σe1については対極から遠ざかるため右上がりの、Σe2については対極に近づくため右下がりの勾配を示していることが判る。
【0045】
次に、ステップS104へ移行し、対極5から流出する信号によって発生する地表面電位分布を計算にて求める。図5(a)に示すように、受信装置7が対極5を背にして遠ざかる方向に移動する第一信号電流の場合、測定開始地点Psから受信装置7の現在位置Pnまでの距離をx(m)、対極から受信装置7の現在位置Pnまでの距離をxe1(m)、測定開始地点Psから対極までの距離をX1(m)、対極5から流出する信号電流の大きさをIe1とすると、対極5から流出する信号によって発生する地表面電位の現在位置Pnから測定開始地点Psまでの差VS1は、(8)式のように求められる。
[式8]

【0046】
また同様に、図5(b)に示すように、受信装置が対極に向かって近づく方向に移動する第二信号電流の場合、対極5から受信装置7の現在位置Pnまでの距離をxe2(m)、測定開始地点Psから対極5までの距離をX2(m) 、対極5から流出する信号電流の大きさをIe2とすると、対極5から流出する信号によって発生する地表面電位の現在位置Pnから測定開始地点Psまでの差VS2は、(9)式のように求められる。
[式9]

(8)、(9)式を図4の測定例に合わせて390mまで計算すると、図6(a)(b)に示す地表面電位分布VS1,VS2が得られる。ここで、ρ=30(Ω・m),Ie1= Ie2=5(A),X1=43.5(m),X2=477.5(m)として計算した。
【0047】
次に、ステップS105へ移行し、被覆損傷による電位分布の抽出を行う。図4に示した測定にて得た地表面電位Σe1,Σe2から、図6(a)(b)に示した対極5から流出する信号によって発生する地表面電位の計算結果VS1,VS2を減ずると、被覆損傷により生じた電位分布Vcを抽出することができる。計算式は(10)式のようになる。
[式10]

【0048】
ここで、測定開始地点Ps付近に被覆損傷がある場合、特に被覆損傷が対極5と近い場合は、対極5近傍の急峻な電位変化により、計算値と測定値がうまく合わないことがある。そのために、測定開始地点Psの電位と距離を補正することがある。距離の補正については、測定開始地点Psから対極5までの距離X1,X2に距離補正係数ΔX1,ΔX2を加算して行う。
【0049】
また、電位については、電位補正係数C1,C2を加算して補正することができる。対極5から遠ざかる方向に移動する第一信号電流の場合は(11)式にて、対極5に近づく方向に移動する第二信号電流の場合は(12)式にて電位勾配を補正することができる。
[式11]

[式12]

【0050】
ここで、ΔX1=-10.0(m)、ΔX1=0.0(m)、C1=-350(mV)、C2=-11(mV)として計算した対極5から流出する信号によって発生する地表面電位分布VS1,VS2を、測定により得られた地表面電位分布Σe1,Σe2から減じて抽出された被覆損傷による電位分布Vc1,Vc2を図7(a)、(b)に示す。
【0051】
Vc1,Vc2の特徴として、通電点10に近い被覆損傷ほど、地表面電位が大きい傾向にある。これは、通電点10に近いほど、埋設された金属管2と対極5との間に信号を加えたことにより、金属管2と大地間に発生する管対地信号電圧Vpが大きく、被覆損傷に流れ込む信号電流が大きいためである。
【0052】
このため、最後に、管対地信号電圧Vpによる補正を行う(ステップS106)。防食被覆金属管9は、埋設されているため、管対地信号電圧Vpを測定できる地点は限られている。この例では、防食被覆金属管9の4箇所の管対地信号電圧Vpを測定し、その結果を図8(a)、(b)にプロットした。このプロットから、(4)式で表される近似式を求めると、近似式Vp1,Vp2を以下のように導出できる。=
Vp1=290.29exp(-3.49×10-3L)
Vp2=97.72exp(4.79×10-3L)
【0053】
この近似式を基にして、防食被覆金属管9の任意の地点の管対地信号電圧Vpを推定することが可能となる。ここで、防食被覆金属管9の管対地信号電圧Vpが全延長で一定であると仮定して、基準管対地信号電圧Vp0を新たに設ける。そして(13)式のように、防食被覆金属管9延長の任意の地点において(10)式で得られたVc1,Vc2に基準管対地信号電圧Vp0を乗算し、(4)式の管対地信号電圧Vp1,Vp2にて除算を行うことで、管対地信号電圧Vp1,Vp2の変化の影響を排除することが出来る。
[式13]

【0054】
例として、Vp0=200mVを基準管対地信号電圧として補正を行った被覆損傷の地表面電位分布V'c1,V'c2を図9(a)、(b)に示す。対極5の地表面電位および管対地信号電圧Vp1,Vp2の減衰の影響を排除したため、この地表面電位分布のピークの大小が、損傷面積の相対的な大小を表している。但し、対極5に近い地点では対極の急峻な電位勾配の影響を受けるため、誤差が発生する場合がある。この場合、対極5からある程度距離を離した地点から、地表面電位分布のピークの評価を行う方が望ましい結果が得られる。
【0055】
図9のV'c1,V'c2から、204m付近のピークが最も大きいと判定することができる。また、V'c1とV'c2とは異なる通電点10および対極5を用いているにもかかわらず、電位分布V'c1,V'c2は、特に140mから350mに亘り、ほぼ一致していることがわかる。このことからも、本解析方法が損傷の相対的な大きさを正確に評価できることを裏付けている。
【0056】
なお、上記実施の形態においては、ステップS106を最後に実行する場合を例にとり説明をしたが、かかる場合に限定されるものではなく、ステップS106の後に、対極5による地表面電位分布の補正(ステップS103〜S105)を実行するようにしても、上述と同様の結果を得ることができる。
【0057】
防食被覆金属管9の任意の地点と対極5および通電点10が同一直線上に有る場合、各地点間の距離を導出するのは容易であるが、実際には各地点は直線上にない場合が多く、また、防食被覆金属管9が途中で曲がっていることも多い。防食被覆金属管9の任意の地点と、対極5および通電点10が同一直線上にない場合の、防食被覆金属管9の任意の地点から対極5および通電点10までの距離の導出例について、図10を用いて説明する。
【0058】
図10は、防食被覆金属管9の平面図を示したものであり、対極5、通電点10および防食被覆金属管9の位置関係をx−y座標系に表現している。横軸xは例えば東、縦軸yは北に設定することができる。この例において、対極5の座標は(0,0)、通電点10の座標はP0(x0,y0)、および、防食被覆金属管9が曲がっている地点をP1(x1,y1)としている。ここで、受信装置7が防食被覆金属管9のPn(xn,yn)上に位置している場合、対極5からの距離xeおよび通電点10からの延長Lは、それぞれ(14)(15)式にて求められる。
[式14]

[式15]

【0059】
本発明では、受信装置7で測定したデータを解析装置11に転送して、データ処理を行う場合を説明したが、かかる例に限定されるものではない。
【0060】
図11に、受信装置7に補正と解析を行うデータ処理装置33、位置検出装置34、入力装置35を組み込んだ例を示す。GPS(global positioning system:汎地球側位システム)等を利用した位置検出装置34により、現在測定している地点Pnの位置を特定し、その情報をデータ処理装置33に送る。入力装置35には、対極5と通電点10の位置の情報、および、事前に測定した管対地信号電圧Vpの測定データが入力される。データ処理装置33では、入力装置35から得た対極5および通電極10の位置情報と、位置検出装置34による受信装置7の位置情報を基に対極5および通電点10までの距離を割り出すとともに、入力装置35から得た管対地信号電圧Vpのデータを基に任意の地点の管対地信号電圧Vpを計算し、地表面電位の補正および解析を行う。この例を用いると、測定を行いながらリアルタイムに補正と解析を行うことが出来るため、利用者が損傷の大きさをその場で容易に判断することが可能となる。
【0061】
この発明による方法は、地中埋設管に限らず、地中埋設ケーブルおよびケーブル保護管の防食被覆の損傷位置を高精度でかつ高能率で検出することができる。さらに車輪電極を飽和カロメル電極あるいは鉄電極などの照合電極に置き換えることにより、河川、港湾等に施設されている鋼管杭、鋼矢板などの構造物に施された塗装やポリエチレンなどの損傷位置を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明を適用した防食被覆損傷位置検出装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明を適用した防食被覆損傷位置検出装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明を適用した防食被覆損傷位置検出装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】測定データを積算して得られた地表面電位分布Σe1,Σe2を示す図である。
【図5】対極と受信装置の位置関係を示す図である。
【図6】対極5から流出する信号によって発生する地表面電位分布の計算値VS1,VS2を示す図である。
【図7】抽出された被覆損傷による電位分布Vc1,Vc2を示す図である。
【図8】管対地信号電圧の測定値およびその近似式Vp1,Vp2を示す図である。
【図9】基準管対地信号電圧Vp0による補正を行った被覆損傷の地表面電位分布V'c1,V'c2を示す図である。
【図10】各地点の位置関係をx-y座標系で示す図である。
【図11】本発明の変形例の構成を示すブロック図である。
【図12】管対地信号電圧の変化の一例を示す図である。
【図13】対極を流れる信号電流により発生する地表面電位の一例を示す図である。
【図14】対極による地表面電位勾配中に被覆損傷が存在する場合の地表面電位分布を示す図である。
【図15】従来技術の例で防食被覆損傷位置検出装置の信号の流れを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0063】
1 防食被覆部
2 金属管
3 被覆損傷部
4 地盤
5 対極
6 測定信号発信器
7 受信装置
8 車輪電極
9 防食被覆金属管
10 通電点
11 解析装置
12 記録媒体
13 ロックインアンプ
14 参照信号発信器
15 記録装置
16 表示装置
17 記録データ読み出し装置
18 CPU(データ処理)
19 ディスプレイ
20 メモリ
21 ハードディスク
22 操作部
33 データ処理装置
34 位置検出装置
35 入力装置
36 積算回路
37 オフセット設定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に防食被覆を施して地中に埋設された金属管の被覆損傷を検出する埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出装置において、
地中に埋設された対極と上記金属管との間に交流信号電流を通電させる測定信号発信手段と、
上記金属管の上部の地表面を車輪電極の回転を介して移動可能な受信装置と、
上記受信装置における車輪電極により検出された地表面の電位差から、上記交流信号電流の信号成分と同じ成分の信号を抽出し、抽出した信号に基づいて地表面電位を検知することにより、上記被覆損傷を検出する損傷検出手段とを備え、
上記損傷検出手段は、防食被覆金属管の複数の地点と大地間との間で発生する管対地信号電圧を測定し、その測定結果に基づいてさらに被覆損傷位置における管対地信号電圧を求め、求めた被覆損傷位置における管対地信号電圧により上記地表面電位を補正すること
を特徴とする埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出装置。
【請求項2】
上記損傷検出手段は、上記検知した地表面電位から、上記対極から流れる交流信号電流の大きさ、土壌抵抗率、並びに上記対極から被覆損傷位置までの距離に基づいて求めた、対極から発生する地表面電位を減じること
を特徴とする請求項1記載の埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出装置。
【請求項3】
上記損傷検出手段は、対極と通電点の位置および管対地信号電圧の測定値を入力する装置と、受信装置の位置を検出する位置検出装置とを有し、被覆損傷の解析をリアルタイムに行うこと
を特徴とする請求項1又は2記載の埋設金属管類の防食被覆損傷解析装置。
【請求項4】
外面に防食被覆を施して地中に埋設された金属管の被覆損傷を検出する埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出方法において、
地中に埋設された対極と上記金属管との間に交流信号電流を通電し、上記金属管の上部の地表面の電位差を車輪電極の回転を介して検出し、上記交流信号電流の信号成分と同じ成分の信号を抽出し、抽出した信号に基づいて地表面電位を検知することにより、上記被覆損傷を検出する損傷検出ステップを有し、
上記損傷検出ステップでは、防食被覆金属管の複数の地点と大地間との間で発生する管対地信号電圧を測定し、その測定結果に基づいてさらに被覆損傷位置における管対地信号電圧を求め、求めた被覆損傷位置における管対地信号電圧により上記地表面電位を補正すること
を特徴とする埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出方法。
【請求項5】
上記損傷検出ステップでは、上記検知した地表面電位から、上記対極から流れる交流信号電流の大きさ、土壌抵抗率、並びに上記対極から被覆損傷位置までの距離に基づいて求めた、対極から発生する地表面電位を減じること
を特徴とする請求項4記載の埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−329946(P2006−329946A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157630(P2005−157630)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】