説明

基体を被覆するための被覆装置及び基体を被覆する方法

【課題】同一の被覆チャンバの中でアーク蒸着とスパッタリング工程の両方で基体を被覆する方法および被覆装置の提供。
【解決手段】蒸着装置1は、ガス雰囲気を設定及び維持するプロセス・チャンバ3を含み、プロセス・ガス用の入口4及び出口5、並びにアノード6、61、及びターゲットとして形成されターゲット材料200、201、202を含む円筒形の蒸着カソード2、21、22を有する。さらに電気的なエネルギー源7、71、72が、アノード6、61とカソード2、21、22との間に電位を発生させ、円筒形のカソード2、21、22のターゲット材料200、201、202を電気的なエネルギー源によって気相に移すように設けられ、また磁場を発生させる磁場源8、81、82が設けられる。プロセス・チャンバ3内には、円筒形の蒸着カソード2、21及び円筒形のアーク・カソード2、22が同時に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれのカテゴリの独立請求項の前提部に記載された、ターゲット材料を蒸着するための蒸着装置及び基体を被覆する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、きわめて多様な範囲の基体に層又は層組織を付与するための一連の様々な化学的、機械的及び物理的なプロセス全体が知られており、それらは、その要求及び利用分野によっては効果的であるが、付随する利点及び欠点を有している。
【0003】
比較的薄い層に関する用途では、特に、ターゲットの表面をアーク中で気体状態に移し、またはイオン化された粒子を用いて原子をターゲットの表面から気体状態に移し、次いで、そうして形成された気体を基体上に被覆物として被着させることができる方法が一般的に知られている。
【0004】
スパッタリング工程におけるカソード・原子化(アトマイゼーション、atomization)の典型的な具体例では、ターゲットは負の直流電源又は高無線周波数の電流源に接続される。基体は被覆すべき材料であり、例えばターゲットの向かい側に設けられる。基体は、接地、浮動、バイアス、加熱、冷却又はそれらの組合せを受けるようにすることができる。コロナ放電を起こし維持できるガス雰囲気を得るために、特にプロセス電極及び基体を含むプロセス・チャンバにプロセス・ガスが導入される。用途に応じてガス圧力は、10分の数パスカルから数パスカルまでの範囲である。一般的に使用されるアトマイゼーション用ガスは、アルゴンである。
【0005】
コロナ放電を起こすと、正イオンがターゲットの表面に入射し、運動量の移動によって主に中性のターゲット原子を放出させて、次いで、この原子が基体上で凝縮して薄膜を形成する。さらに、ターゲットによって発生される他の粒子及び放射が存在するが、それらはすべて薄膜形成特性を有する(二次電子及び二次イオン、脱着したガス及び光子)。電子及び負に帯電したイオンは、基体の台に向けて加速され、台及び成長中の薄膜に衝突(ボンバー)する。場合によっては、例えば成長中の薄膜が正イオンの衝突を受けるように、基体ホルダに負のバイアス電圧が印加される。この工程は、バイアス・スパッタリング又はイオン・プレーティングとしても知られている。
【0006】
ある特定の場合には、アルゴンガスは使用されず、他のガス又はガスの混合物が使用される。これには通常、金属及び反応ガスの組成物(例えば酸化チタン)を形成するために、少なくとも部分的に反応性のある反応ガスの中で金属のターゲット(例えばTi)を被覆することによって組成物を合成する、いくつかの種類の反応性スパッタリング工程が含まれる。原子化の収量は、入射イオンごとにターゲットの表面から放出される原子の数として定められる。それは、アトマイゼーション工程の特性に関する重要なパラメータである。
【0007】
ターゲットの表面に入射するエネルギーの約1パーセントが、一般には蒸発粒子の飛び出しをまねき、入射エネルギーの75%がターゲットの加熱を引き起こし、残りは、例えば基体に衝撃を与え基体を加熱する可能性がある二次電子によって散乱される。マグネトロン・スパッタリングとして知られる改善された工程は、磁場を用いて電子を基体の表面から遠ざけるように案内し、それによって加熱の影響を低減させる。
【0008】
所与のターゲット材料についての利用の割合及び均一性は、特にシステムの形状、ターゲットの電圧、スパッタリング・ガス、ガス圧力及びプロセス電極に加えられる電力により影響を受ける。
【0009】
関連する物理的な被覆法が、アーク蒸着としてその汎用性のある具体例によって知られている。
【0010】
アーク・スパッタリングでは、ターゲット材料を真空アークの効果によって蒸発させる。ターゲット源の材料は、アーク回路内のカソードである。周知のアーク蒸着システムの基本的な構成要素には、真空チャンバ、カソードおよびアーク電流の接続部、カソード表面上のアークの点火部、アノード、基体、及び基体のバイアスのための電流源が含まれる。アークは、使用されるターゲット・カソードの材料に応じて、例えば15〜50ボルトの範囲の電圧によって維持される。典型的なアーク電流は、30〜400Aの範囲である。アークの点火は、当業者には周知な典型的な点火方法によって実施される。
【0011】
ターゲットを形成するカソードからのターゲット材料の蒸発は、最も単純なケースでは、カソードのアーク点がカソードの表面を通常は10m/sの速度で任意に移動する結果として得られる。しかしアーク点の移動を、適切な閉じ込め境界(inclusion boundary)及び/又は磁場を用いて制御することも可能である。ターゲット・カソードの材料は、例えば金属や合金とすることができる。
【0012】
アーク被覆工程は、他の物理的な蒸気被覆工程とはかなり異なっている。周知のアーク工程の中心となるのは、プラズマ媒体を発生させるアーク点である。通常は、カソードの表面から蒸発した材料のうち、例えば30〜100%などの高い割合のものがイオン化され、イオンはプラズマ中で、例えばTi、Ti2+、Ti3+などの様々な荷電状態で存在することができる。イオンの運動エネルギーは、例えば10〜100e.V.の範囲で変化することができる。
【0013】
こうした構成によって、被覆を最高の品質のものにすることが可能になり、また被覆は、他の物理的な蒸発被覆工程を用いて付加された被覆と比べて、ある利点を有することができる。
【0014】
アーク蒸着によって付着された被覆は通常、広い範囲の被覆特性に関して高い品質を示す。例えば広い範囲の反応ガスの圧力に対して優れた被覆均一性を有する金属、合金及び組成物について、最高の付着力及び高い密度を有する化学量論的な複合薄膜を、高い被覆歩留まりで作製することができる。他の利点に加えて、基体の温度が比較的低いこと、及び複合薄膜の作製が比較的容易であることもさらなる利点である。
【0015】
カソード・アークは、カソードの表面から放出された材料の蒸気中に、プラズマ放電を生じさせる。アーク点は、通常は数マイクロメートルの大きさであり、1平方マイクロメートルあたり10アンペアの電流密度を有する。この大きな電流密度によって原材料が瞬時に気化し、発生した気体は、電子、イオン、中性の蒸気原子及び微細な液滴を含む。電子は雲状の正イオンに向かって加速される。カソード点が複数の点に分割されると、カソードの光点の放射は、広い範囲のアーク電流に対して比較的一定である。点ごとの平均的な電流は、カソード材料の性質に依存する。
【0016】
しばしば、カソード点の領域内のほとんど100%の材料がイオン化される。こうしたイオンは、カソードの表面に対してほぼ垂直な方向に放出される。さらに一般に微小な液滴が生成され、液滴はカソード面よりも上方に、例えば最大30%の角度でカソード領域から放出される。こうした微小な液滴の放出は、放出クレータ内に存在する極端な温度及び力によるものである。
【0017】
したがって今日でも、カソード・アーク・プラズマ被覆工程は、実際には薄膜内の微小な液滴のために、依然として装飾的な用途には不適切であると考えられている。
【0018】
アーク被覆工程における微小な液滴をなくすことを含む最近の開発では、広い範囲の用途に対して、またそれだけには限らないが装飾的な用途に対して、既存の処理に代わる重要な別法が開発されている。
【0019】
この点に関して、周知のアーク工程はまた、柔軟性が高いことを特徴とする。したがって、例えば被覆パラメータの制御は、マグネトロン蒸着工程又はイオン・プレーティング工程の場合ほど重要ではない。
【0020】
複合薄膜の場合、基体を融かすことなく、鋳造亜鉛、真鍮及びプラスチックなどの基体を完全に被覆できるように、被覆温度をかなり低い温度に設定することができる。
【0021】
結論として、ある情況下で周知のアーク被覆工程によれば、スパッタリングによる蒸気のアトマイゼーション工程に関する一連の利点がもたらされる。
【0022】
それにもかかわらず、特に(ただしそれだけに限らないが)装飾的な用途、及び/又はマイクロエレクトロニクス、光学分野における用途、又は薄膜を必要とする他の用途に対するいくつかの被覆は、アトマイゼーション工程を用いて行われることが好ましい。スパッタリングに好ましい材料は、例えば硫化物(例えばMoS)や脆性材料(例えばTiB)である。ただし結局のところ、原則として、どのような形であってもアークと適合性のある材料のすべてを使用することができる。
【0023】
特にこのことは、上記の微小な液滴をなくす問題に依存している。このため、例えば装飾的な目的のために薄い金の被覆を付着させる場合や、エレクトロニクス若しくは光学において薄膜を付着させる場合には、蒸着(vaporization)が今日でも依然として好ましい方法である。しかし、スパッタリング工程によって付着された層が、例えば時効、硬さ、付着性に関して他の望ましくない特性を有すること、或いは様々な外部の影響に対する耐性に関する欠陥を有し、したがって影響を受けるか又は除去される可能性のあることもしばしば起こる。
【0024】
したがって、用途に応じて、例えば複数の層の1つがスパッタリングによって付着された層であり、異なる層がアーク工程を用いて付着された層である、層の組合せを基体上に提供すると有利になる可能性がある。
【0025】
WO90/02216(特許文献1)には、従来型の長方形のスパッタリング源及び長方形のカソードのアーク蒸着源を同時に含む、装飾用の金の被膜物を作製するための被覆装置が開示されている。同様にこの文献に開示された方法によれば、第1の方法ステップで、カソード・アーク法を用いてTiNの層が付着され、後続のステップで、層組織が全体として本質的にそれ自体で単純な金の被覆物と同じ外観を有するように、金の層がスパッタリングされる。
【0026】
とりわけ、WO90/02216による被覆装置及び方法の不都合は、特に被覆物の均一な品質が保証されないことにある。例えばカソードの使用が増えると、それに対応して複雑な及び/又は費用のかかる工程によって処理パラメータを変えない限り、付着される層の品質が変化する。特にこれは、周知のように長方形のカソードが不均一に摩耗し、その結果、カソードの侵食の増加に伴って、例えば寸法が増大してアーク蒸着中に干渉する液滴が生成され、それが層に悪影響を及ぼすため、同じ方法パラメータでは被覆のための蒸気の品質が連続的に低下することによるものである。こうした悪影響を抑えるには、カソードを早期に交換しなければならず、それに対応して費用がかかり複雑になる。
【0027】
カソードの不均一な浸食に加えて他の不都合は、カソード上でのアークの制御が、仮に可能であったとしても、きわめて複雑で費用がかかることである。
【0028】
例えば2つの異なる領域に異なる材料を備えた円形又は長方形の複合型のカソードを用いるときでも、同一のカソードをスパッタリング及びアーク被覆に用いることができないため、スパッタリング用のカソード、及びアーク蒸着用の第2の別個のカソードも必ず設けなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】国際公開第90/02216号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
したがって、本発明の目的は、改善された被覆装置を提供すること、及び同一の被覆チャンバの中でアーク蒸着とスパッタリング工程の両方によって、また特に(ただし必須ではないが)異なる材料を用いて、ほとんど欠陥なしに基体を被覆することのできる被覆方法を提案することであり、その結果、特に品質に対する最も高度な要求を満足する複合層組織を、簡単且つ経済的に作製することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0031】
装置に関するこうした目的、及びプロセス工学的な観点を満足する本発明の主題は、各カテゴリの独立請求項の構成によって特徴付けられる。
従属請求項は、本発明の特に有利な具体例に関するものである。
【0032】
したがって、本発明は、ターゲット材料を蒸着するための蒸着装置に関する。蒸着装置は、ガス雰囲気を設定及び維持するためのプロセス・チャンバを含み、プロセス・ガス用の入口及び出口、並びにアノード、及びターゲットとして形成された円筒形の蒸着カソードを有し、円筒形の蒸着カソードはターゲット材料を含む。さらに電気的なエネルギー源が、アノードとカソードとの間に電位を発生させ、円筒形のカソードのターゲット材料を当該電気的なエネルギー源によって気相に移すことができるように設けられ、また磁場を発生させる磁場源が設けられる。本発明によれば、プロセス・チャンバ内に、円筒形の蒸着カソード及び円筒形のアーク・カソードが同時に設けられる。
【0033】
したがって、本発明を用いて、例えば複数の層のうちの1つがスパッタリングによって付着された層であり、他の層がアーク工程によって付着された層である、層の組合せを基体に形成することができる。
【0034】
これに関して、例えばWO90/02216による被覆装置および方法に存在するような従来から知られている不都合が、本発明によって回避される。本発明を利用すると、特に被覆物の均一な品質を保証することが初めて可能になる。例えば付着された層の品質は、カソードの摩耗が増しても変わらず、複雑な及び/又は費用のかかる方法でプロセス・パラメータを適合させる必要はない。特にこれは、本発明によるカソードが均一に摩耗し、その結果、一定のプロセス・パラメータでも被覆のための蒸気の品質が変わらず、したがって、カソードの浸食の増大によって、例えばアーク蒸着中に邪魔な液滴が高い程度まで生成され、それが層に悪影響を及ぼすために蒸気の品質が低下することがなくなることによるものである。実際に、本発明ではこうした悪影響はもはや生じないため、従来技術のようにカソードを早期に交換する必要がなくなり、それに対応してかなりのコスト削減がもたらされる。
【0035】
カソードが円筒形であること、及び磁場源の配置に柔軟性があるため、カソード上でのアークの制御も特に簡単且つ柔軟になる。
【0036】
蒸着カソードを適切に適合させることによって、同一の蒸着カソードをスパッタリング及びアーク被覆に用いることが可能になるため、蒸着用の1つのカソード、及びアーク蒸着のために設けられる第2の別個のカソードを必ず設ける必要がなくなる。
【0037】
したがって、本発明によって、改善された被覆装置及び改善された被覆方法が提案され、それを用いて、同一の被覆チャンバの中でアーク蒸着とスパッタリング工程の両方によって、また特に(ただし必須ではないが)異なる材料を用いて、ほとんど欠陥なしに基体を被覆することが可能になり、その結果、特に品質に対する最も高度な要求を満足する複合層組織を、簡単且つ経済的に作製することが可能になる。
【0038】
本発明による被覆装置及び本発明による方法は、きわめて汎用的且つ柔軟な形で用いることができる。特に、例えば工具、頻繁に用いられる機械の構成要素、装飾面などの様々な対象を被覆することができる。また光学、マイクロメカニックス、マイクロエレクトロニクスの分野、例えば医療技術において、且つ/又はナノセンサやナノエンジン用の要素の被覆のためにも、本発明を特に有利に使用することができる。
【0039】
特定の具体例では、円筒形の蒸着カソード及び/又は円筒形のアーク・カソードは、長手方向軸線のまわりで回転するように適合される。
【0040】
好ましくは、磁場源が、円筒形の蒸着カソードの内部及び/又は円筒形のアーク・カソードの内部に設けられ、並びに/或いは円筒形の蒸着カソード及び/又は円筒形のアーク・カソードが、磁場源に対して回転可能に配置される。
【0041】
有利には、磁場源は永久磁石及び/又は電磁石であり、磁場源の位置を、円筒形の蒸着カソードの内部及び/又は円筒形のアーク・カソードの内部に、特に軸線方向の位置に対して、且つ/又は半径方向の位置に対して、且つ/又は周方向に対して設定することができる。
【0042】
特に磁場源の磁場の強度は、制御可能及び/又は調節可能であり、磁場源は、円筒形の蒸着カソードのあらかじめ設定可能な領域における磁場の磁場強度を変化させることができるように提供及び配置されることが好ましいことを理解すべきである。
【0043】
蒸着カソードについて実現可能であるのは、例えばバランス・マグネトロン及び/又はアンバランス・マグネトロンである。
【0044】
1つの同一の蒸着カソードが、プロセス・チャンバ内で、当該蒸着カソードを蒸着カソードとしてもアーク・カソードとしても用いることができるように適合及び配置できると有利である。
【0045】
さらに本発明は、プロセス・チャンバ内で基体を被覆する方法に関し、そのプロセス・チャンバ内では、ガス雰囲気が設定及び維持される。プロセス・チャンバ内には、アノード及びターゲットとして形成された円筒形の蒸着カソードが設けられ、その円筒形の蒸着カソードはターゲット材料を含む。円筒形のカソードのターゲット材料は、電気的なエネルギー源によって気相に移すことが可能であり、また磁場を発生させる磁場源が、プロセス・チャンバ内に、円筒形の蒸着カソードのあらかじめ設定された領域における磁場の磁場強度を変化させることができるように設けられる。本発明によれば、円筒形の蒸着カソード及び円筒形のアーク・カソードが、プロセス・チャンバ内に同時に設けられ、基体は、アーク蒸着工程及び/又はカソード蒸着工程を用いて被覆される。
【0046】
被覆工程中、ターゲット材料を均一に利用するために、円筒形の蒸着カソードを長手方向軸線のまわりで回転させることが好ましい。
【0047】
これに関して特別な具体例では、磁場源の位置を、円筒形の蒸着カソードの内部及び/又は円筒形のアーク・カソードの内部に、特に軸線方向の位置に対して、且つ/又は半径方向の位置に対して、且つ/又は周方向に対して設定することが可能であり、磁場源の磁場の強度が制御及び/又は調節される。
【0048】
とりわけ同一の蒸着カソードが、蒸着カソード及びアーク・カソードとして用いられる。
【0049】
有利には、スパッタリング・カソードとして、バランス・マグネトロン及び/又はアンバランス・マグネトロンを用いることができる。
【0050】
これに関して被覆工程は、DCスパッタリング工程、及び/又はRFスパッタリング工程、及び/又はパルス・スパッタリング工程、及び/又は高出力スパッタリング工程、及び/又はDCアーク蒸着工程、及び/又はパルス・アーク蒸着工程、及び/又は本発明による蒸着装置を用いて実施可能な様々な被覆工程とすることができる。
【0051】
以下では、概略図を参照して本発明をさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による蒸着装置の簡単な実施例を示す図。
【図2】永久磁場源を用いた蒸着カソードの第1の実施例を示す図。
【図3】図2による第2の実施例を示す図。
【図4】中央のコイル巻線を用いた磁場源を示す図。
【図5】2つの別個のコイル巻線を用いた磁場源を示す図。
【実施例】
【0053】
図1は、ターゲット材料200、201、202を蒸着するための本発明による蒸着装置1の簡単な実施例を概略図として示している。蒸着装置1は、ガス雰囲気を設定及び維持するためのプロセス・チャンバ3を含み、プロセス・チャンバ3には、プロセス・ガス用の入口4及び出口5が設けられている。プロセス・チャンバ3には、円筒形の蒸着カソード2、21に対するアノード6、61が設けられている。図1の実施例では、蒸着カソード21に関連付けられるアノード61は、プロセス・チャンバのチャンバ壁によって形成される。アノード61及び蒸着カソード21は、電気エネルギーを供給するための電気的なエネルギー源7、71に接続される。
【0054】
いずれの円筒形の蒸着カソード2、21、22も、それぞれ磁場を発生させる磁場源8、81、82を含み、磁場源8、81、82は、円筒形の蒸着カソード2、21、22のあらかじめ決定可能な領域における磁場の磁場強度を変化させることができるように設けられる。これは、図1の実施例において、磁場源8、81、82が円筒形の蒸着カソード2、21、22の内部に設けられ、動作状態で長手方向軸線Aのまわりを回転する蒸着カソード2、21、22の回転に対して周方向に固定されるために得られる。しかし、磁場源8、81、82は、長手方向に長手方向軸線Aに沿って移動可能であり、したがって、磁場源8、81、82を、必要に応じて円筒形の蒸着カソード21及び/又は円筒形の被覆カソードから移動させることができる。
【0055】
他の実施例では、それ自体は周知の方法で、磁場源8、81、82を円筒の軸線Aのまわりで周方向に回転させることによって、蒸発したターゲット材料200、201、202が基体の表面に到達しなくなるように、円筒形の蒸着源2、21、22の表面における磁場を本質的にある方向に、例えばチャンバ壁に対して回転させるので、磁場源8、81、82は、いわゆる「仮想シャッタ」として働くことも可能である。
【0056】
他の実施例では、永久磁石8、81、82ではなく、例えば有利には電磁石8、81、82を蒸着カソード2、21、22の中に設け、その強度及び向きを、電磁石8、81、82のコイルを通る電流を適切に調節することによって設定できるので、蒸着カソード2、21、22における磁場源の強度に影響を及ぼすことも可能であることが理解される。
【0057】
或いは先に言及したように、磁場源8、81、82自体を、蒸着カソード2、21、22の長手方向軸線Aのまわりで回転させることも可能であり、その結果、例えば磁場源8、81、82の適切な回転により、第1の動作モードでは、磁場による作用を受ける表面が、好ましくは被覆される複数の基体Sをその上に配置した基体プレートSTに面する方向に向けられ、蒸着カソード2、21、22から蒸発したターゲット材料200、201、202によって、基体Sを理想的な形で被覆することが可能になり、第2の動作モードでは、長手方向軸線Aのまわりで、磁場による作用を受ける蒸着カソード2、21、22の表面を、例えばプロセス・チャンバ3のチャンバ壁に面するように方向付け、蒸発したターゲット材料200、201、202を本質的にプロセス・チャンバ3のチャンバ壁上に被着させ、基体Sが本質的に対応する蒸着源2、21、22によって被覆されなくなるように、蒸着カソード2、21、22の内部の磁場源8、81、82を回転させる。
【0058】
これまで説明した、蒸着カソード2、21、22の表面における磁場の影響及び変化に対する手段を、有利な形で適当に組み合わせることも可能であることが理解される。
【0059】
図2は、永久磁場源8、81、82を有する蒸着カソード2、21、22の第1の実施例を、もう少し詳しく示したものである。図2の蒸着カソード2、21、22は、例えば蒸着カソード21又はアーク・カソード22とすることができ、外側の円筒面210、及び基体Sを被覆するターゲット材料200、201、202の上に位置している。したがって、例えば同一のプロセス・チャンバ3の中で、蒸着カソード21は、異なるターゲット材料200、202を含む、アーク・カソード22とは違った異なるターゲット材料200、201を備えることが可能であり、したがって、特に複雑な複合層組織を作製することができる。もちろん、蒸着カソード21及びアーク・カソード22が、同じターゲット材料200、201、202を備えることもできる。
【0060】
特定の場合には、アークの適切な制御及び/又は調節によって、様々な被覆及び/又は部分的な被覆を付着させることができるように、スパッタリング・カソード21及び/又はアーク・カソード22の異なる領域が、異なるターゲット材料200、201、202を備えることも可能である。
【0061】
中空内部Iと円筒面210との間には冷却用の間隙Kが設けられ、蒸着カソード2、21、22を冷却する動作状態では、動作状態において冷却用の間隙Kを通して、例えば冷却水などの冷却液を循環させる。これに関して、磁場源8、81、82によって発生した磁場が、ターゲット材料200、201、202を蒸発させるために、アーク及びスパッタリング・イオンを領域Bに集中させるので、ターゲット材料200、201、202は、本質的に領域Bにおいて蒸発される。
【0062】
ターゲット材料200、201、202が蒸着カソード2、21、22の表面から均一に浸食されるように、動作状態において蒸着カソード2、21、22は長手方向軸線Aのまわりを回転するが、磁場源は回転せず、したがって、この回転によって領域Bは、蒸着カソード2、21、22の表面を周方向に移動する。
【0063】
図3は、永久磁場源8、81、82を有する蒸着カソード2、21、22の第2の実施例を示している。図3の実施例は、追加の磁場源8、81、82が設けられている点で図2のものと異なっている。それにより、例えば蒸着カソード2、21、22の適切な空間配置、及び/又は磁場源8、81、82の適切な整列によって、ターゲット材料200、201、202を、蒸着カソード上の2つの対応する領域で同時に蒸発させることが可能になる。同一の蒸着カソードを用いて、異なる被覆物を基体S上に同時に又は順次蒸着させるように、異なるターゲット材料200、201、202を、同一の蒸着カソード2、21、22上の、磁場源8、81、82に関連付けられた2つの異なる表面領域に設けることも可能である。
【0064】
これまでに言及したように、磁場源8、81、82は、有利には、例えば電磁石8、81、82によって実現することも可能である。2つの特別な実施例をそれぞれ、中央のコイル巻線800を示す図4、及び2つの別個の外側のコイル巻線800を示す図5に示す。要求に応じて、コイル巻線800の適合及び配置により、特別な磁場の形状を作製することが可能であることが理解される。
【0065】
当業者には、特定の用途に対応する配置をどのように選択するか、さらには、図2〜図5の例示的な実施例とは異なる一連の別の磁場構成全体が理解される。
【0066】
有利には、実際に特定の要求を満足させるために、これまでに説明し、図面に概略的に示した実施例を、互いに組み合わせて別の実施例とすることも可能であることが理解される。
【符号の説明】
【0067】
1 蒸着装置
2 蒸着源
21 蒸着源
22 蒸着源
3 プロセス・チャンバ
4 プロセス・ガス用の入口
5 プロセス・ガス用の出口
6、61 アノード
7、71、72 電気的なエネルギー源
8、81、82 磁場源
200、201、202 ターゲット材料
210 円筒面
800 コイル巻線
A 長手方向軸線
K 間隙
S 基体
ST 基体プレート
I 中空内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット材料(200、201、202)を蒸着させるための蒸着装置であって、該蒸着装置が、ガス雰囲気を設定及び維持するためのプロセス・チャンバ(3)を含み、プロセス・ガスの入口(4)及び出口(5)、並びにアノード(6、61)、及びターゲット(2、21、22)として形成された円筒形の蒸発カソード(2、21、22)を有し、前記円筒形の蒸着カソード(2、21、22)がターゲット材料(200、201、202)を含み、
さらに電気的なエネルギー源(7、71、72)が、前記アノード(6、61)と前記カソード(2、21、22)との間に電位を発生させ、前記円筒形のカソード(2、21、22)の前記ターゲット材料(200、201、202)を前記電気的なエネルギー源(7、71、72)によって気相に移すことができるようになっており、
磁場を発生させる磁場源(8、81、82)が設けられている、蒸着装置において、
前記プロセス・チャンバ(3)内に、円筒形のスパッタリング・カソード(2、21)及び円筒形のアーク・カソード(2、22)が同時に設けられていることを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記円筒形のスパッタリング・カソード(2、21)及び/又は前記円筒形のアーク・カソード(2、22)が、長手方向軸線(A)のまわりで回転するように適合されている請求項1に記載された蒸着装置。
【請求項3】
前記磁場源(8、81、82)が、前記円筒形のスパッタリング・カソード(2、21)の内部(I)及び/若しくは前記円筒形のアーク・カソード(2、22)の内部(I)に設けられ、並びに/又は前記円筒形のスパッタリング・カソード(2、21)及び/若しくは前記円筒形のアーク・カソード(2、22)が、前記磁場源(8、81、82)に対して回転可能に配置されている請求項1又は請求項2に記載された蒸着装置。
【請求項4】
前記磁場源(8、81、82)が、永久磁石(8、81、82)及び/又は電磁石(8、81、82)である請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載された蒸着装置。
【請求項5】
前記磁場源(8、81、82)の位置が、前記円筒形のスパッタリング・カソード(2、21)の内部(I)及び/又は前記円筒形のアーク・カソード(2、22)の内部(I)に、とりわけ軸線方向の位置に対して、及び/又は半径方向の位置に対して、及び/又は周方向に対して設定できるようになっている請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載された蒸着装置。
【請求項6】
前記磁場源(8、81、82)の前記磁場の強度が、設定可能及び/又は制御可能であり、前記磁場源(8、81、82)が、前記円筒形の蒸着カソード(2、21、22)のあらかじめ設定可能な領域における前記磁場の磁場強度を変化させることができるように提供及び配置されることが好ましい請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載された蒸着装置。
【請求項7】
前記スパッタリング・カソード(2、21)として、バランス・マグネトロン(2、21)及び/又はアンバランス・マグネトロン(2、21)が設けられている請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された蒸着装置。
【請求項8】
1つの同一の蒸着カソード(2、21、22)が、前記プロセス・チャンバ内で、前記蒸着カソード(2、21、22)を、スパッタリング・カソード(2、21)としてもアーク・カソード(2、22)としても用いることができるように適合及び配置される請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載された蒸着装置。
【請求項9】
プロセス・チャンバ(3)内で基体(S)を被覆する方法であって、前記プロセス・チャンバ(3)内でガス雰囲気を設定及び維持し、前記プロセス・チャンバ(3)内に、アノード(6、61)、及びターゲット(2、21、22)として形成された円筒形の蒸着カソード(2、21、22)を設け、前記円筒形の蒸着カソード(2、21、22)がターゲット材料(200、201、202)を含み、前記円筒形のカソード(2、21、22)の前記ターゲット材料(200、201、202)を、電気的なエネルギー源(7、71、72)によって気相に移し、磁場を発生させる磁場源(8、81、82)を、前記プロセス・チャンバ(3)内に、前記円筒形の蒸着カソード(2、21、22)のあらかじめ設定された領域における前記磁場の強度を変化させることができるように設ける、被覆方法において、
円筒形のスパッタリング・カソード(2、21)及び円筒形のアーク・カソード(2、22)を、前記プロセス・チャンバ(3)内に同時に設けること、並びに
前記基体(S)を、アーク蒸着工程及び/又はカソード・スパッタリング工程を用いて被覆することを特徴とする被覆方法。
【請求項10】
被覆工程中、前記ターゲット材料(200、201、202)を均一に利用するために、前記円筒形の蒸着カソード(2、21、22)を長手方向軸線(A)のまわりで回転させる請求項9に記載された被覆方法。
【請求項11】
前記磁場源(8、81、82)の位置を、前記円筒形のスパッタリング・カソード(2、21)の内部(I)及び/又は前記円筒形のアーク・カソード(2、22)の内部(I)に、とりわけ軸線方向の位置に対して、及び/又は半径方向の位置に対して、及び/又は周方向に対して設定する請求項9又は請求項10に記載された被覆方法。
【請求項12】
前記磁場源(8、81、82)の前記磁場の強度を設定及び/又は制御する請求項9から請求項11までのいずれか一項に記載された被覆方法。
【請求項13】
1つの同一の蒸着カソード(2、21、22)を、スパッタリング・カソード(2、21)及びアーク・カソード(2、22)として用いる請求項9から請求項12までのいずれか一項に記載された被覆方法。
【請求項14】
スパッタリング・カソード(2、21)として、バランス・マグネトロン(2、21)及び/又はアンバランス・マグネトロン(2、21)を用いる請求項9から請求項13までのいずれか一項に記載された被覆方法。
【請求項15】
被覆工程が、DCスパッタリング工程、及び/又はRFスパッタリング工程、及び/又はパルス・スパッタリング工程、及び/又は高出力スパッタリング工程、及び/又はDCアーク蒸着工程、及び/又はパルス・アーク蒸着工程である請求項9から請求項14までのいずれか一項に記載された被覆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−59544(P2010−59544A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185373(P2009−185373)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(508190746)スルザー メタプラス ゲーエムベーハー (8)
【Fターム(参考)】