説明

基材の表面を構造化する方法

本発明は、基材の表面を構造化する方法に関し、そこでは基材が、第1の工程で構造化され、第2の工程で、構造化の部分的なスムージングのためにゾル−ゲル法によって被覆され、特に拡散的に散乱する表面を与える。本発明はまた、このようにして構造化された基材、および、光学用途におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面を構造化する方法であって、基材を第1の工程で構造化し、第2の工程において、構造化の部分的なスムージングのためにゾル−ゲル法によって基材を被覆し、特に、拡散的に(in a diffuse manner)散乱する表面を与える方法に関する。本発明はさらに、このように構造化された基材、および、光学用途へのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
構造化された表面は、複数の用途および方法において役割を果たす。表面構造化基材はまた、光学用途において、例えば、ディフューザとしてまたはリフレクタとして重要性が高まっている。光学ディフューザは、投射光が拡散的に散乱する散乱表面(scattering surface)である。光学ディフューザの使用の一般的な例は、例えば、写真撮影および映写技術における、画像が投影されるマットスクリーンである。画像生成のためにマットスクリーンに当たる光はそれによって散乱する(すなわち、様々な方向にそらされる)。この散乱により、マットスクリーンに投射された画像を様々な方向から見ることができるようになる。したがって、拡散的に散乱する表面の提供を可能にする方法への要求がある。
【発明の開示】
【0003】
本発明の目的は、したがって、実行しやすく、かつ、広範囲にわたる用途のための構造化された表面の提供を容易にする、基材表面を構造化するための方法を提供することにあった。
【0004】
本発明の方法は、驚くべき方法で複雑な要件プロファイルを充足する。本発明はしたがって、基材の表面を構造化する方法であって、基材を第1の工程で構造化し、第2の工程において、構造化の部分的なスムージングのために基材をゾル−ゲル法によって被覆し、特に、拡散的に散乱する表面を与える、前記方法に関する。
【0005】
本発明に関して、構造化された表面は、規則的なまたは不規則な構造、特に任意のタイプのグルーブ、インデンテーションまたはバンプの形態の構造を有する表面である。インデンテーションおよびバンプは、ここで任意の好ましい形状を採用することができ、ナノメートルからミリメートルのサイズ範囲である。
【0006】
本発明の方法は、実行しやすく、拡散的に散乱する構造化を実現する可能性を提供するという利点がある。こうして、ユーザーには、その要求に必要な構造化された表面を製造する可能性が提供され、そこで、両方の処理工程は技術的に良好に処理することができ、実行しやすく、良好に制御することができる。好適な用途は、光の散乱が必要なすべての光学システムである。
【0007】
特定の態様において、本発明の方法は、液晶ディスプレイのためにディフューザの製造に好適であり得る。一般に、適切なコントラストを保証するバックライティングがLCDのために用いられる。特に、バッテリーでサポートされたLCD、例えばノートパソコンにおけるLCDの場合、バッテリーの作動時間がさらに制限されるため、関連するエネルギー消費は悪い意味で顕著である。この理由から、バックライティングを必要としないLCDの開発に対する関心がある。これはリフレクタの使用を必要とするが、それは以下の要件を満たすべきである:
−投射光は、観者の視角範囲内のディスプレイの全領域にわたって均一に分配されるべきである。
−視角範囲外では、反射の発生は最小限であるべきである。
−構造化は、干渉現象を防止すべきである。
【0008】
本発明の方法により、このように構造化された表面の提供が可能である。
本発明における適切な基材は、ガラス基材、セラミック基材、金属基材またはプラスチック基材、好ましくはガラス、金属またはセラミック基材、極めて特に好ましくはガラス基材または金属基材である。構造化された表面を有するガラス基材または金属基材は、特に光学用途、とりわけLCDに好適である。
【0009】
ガラス基材のための好適な材料は、すべての既知のガラス、例えばフロートガラス、当業者に既知のあらゆるガラス組成の鋳造ガラス、A、C、D、E、ECR、RまたはSガラスである。
適切な金属基材は、例えば、<1μmの平均粗度値を有する、磨かれた金属板、または、ブライト引抜(bright-drawn)金属板である。好適なプラスチック基材は、例えば、PMMAまたはポリカーボネートからなる。好適なセラミック基材は当業者に知られているすべてのセラミック、特に透明セラミックスであり、以下に言及される方法の1つを用いて構造化することができるものである。
【0010】
本発明の2工程法では、基材の表面の構造化は第1の工程で行われる。ここで構造化は、粒子噴射、レーザービーム、エッチング法またはエンボス法の作用によって行うことができる。理想的には、構造化方法は、最適な構造化を達成するために、それぞれの基材に合わせる。したがって、エンボス法はプラスチックまたは金属でできている基材の場合に基本的に好適であり、そこでプラスチックはエンボス法を用いて好ましく構造化される。エッチング法はガラスまたはセラミック基材に特に好適であり、当業者に知られているエッチング法のすべての変法、例えばRIE(反応性イオンエッチング)を用いることが可能である。
【0011】
構造化は、好ましくは粒子噴射を用いて行われ、ここで、粒子噴射はサンドジェットまたは電子ビームであってもよい。本発明に関して、サンドジェットは、粒子が原子サイズまたは原子より小さいサイズ(例えば電子)に割り当てられることができないすべての粒子噴射を意味するものとする。ここで、粒子のサイズは、所望の構造化および用いる粒子材料に応じて、1μm〜4mmの範囲であることができる。粒子は、好ましくは5μm〜1mm、特に20μm〜200μmのサイズを有する。
【0012】
好適な噴射材料は、すべての慣用の材料、例えば砂、ガラス、コランダム、プラスチック、セラミック、ナッツシェル、コーンコブ顆粒、任意の品質および組成のスチール、金属、例えばアルミニウムなど、および/またはこれらの混合物である。好ましいのは、ガラスまたはコランダム粒子、特に5〜100μmの粒径を有するもの、極めて特に好ましくは50〜80μmの粒径有するものである。
【0013】
噴射媒体の噴射圧、入射角および方向は、同様に表面の構造に影響を及ぼす。10バールまで、好ましくは6バールまでの噴射圧が通常用いられ、入射角は通常5〜90°の間、好ましくは30〜80°の間である。構造化の所望のタイプと深さとを調節するために、上述のパラメータを粒子材料にそれぞれ合わせることは、当業者の一般的な能力の範囲内である。実際の吹き付け作業(blasting operation)は、構造の必要な再現性を達成するために、好適な機械によって対応して行われる。
【0014】
このようにして得られる構造は、まだ一般的に、その後の用途における特性に悪影響を与え得るエッジを有している。この理由から、構造化のスムージングを、ゾル−ゲル法による被覆によって、本発明の方法の第2の工程において行う。このスムージングは、構造化の間に生じたインデンテーションを部分的に補充し、追加の被覆によって対応するエッジを滑らかにする(図1参照)。加えて、光学効果を制御するための屈折率適合(refractive index adaptation)は、対応するゾル、例えばTiOおよびSiOゾルの好適な混合により、ゾル−ゲル法によって達成することができる。このように、本発明の方法において行われる第2の工程は、第1の工程で作製された構造化のスムージングに役立つばかりでなく、このようにして得られる構造化された表面の光学特性の適合にも役立ち得る。
【0015】
ゾル−ゲル法のための好適なゾルは、当業者に既知のすべてのゾルであり、例えば、チタン、ジルコニウム、ケイ素、アルミニウム元素の化合物および/またはその混合物のゾルである。好ましいのは、シリコンゾルの使用である。このタイプのゾルまたは前駆体は知られており、市販されている。シリコンゾルは通常、SiO粒子が、水性/アルコール性/アンモニア性媒体における、テトラアルコキシシラン、特にテトラエトキシシラン(TEOS)の加水分解重縮合により得られるものである。異なる方法で調製した水性および/または溶媒含有ゾルを被覆溶液として用いることも、もちろん可能である。
【0016】
加えて、被覆溶液は界面活性剤を追加で含んでもよい。さらにまた、ゾル−ゲル法に用いることのできる被覆溶液は、さらなる成分、例えば流動調整剤または錯化剤などを含んでもよい。
被覆溶液中のそれぞれの固形分は、通常0.1〜20重量%、好ましくは2〜10重量%の範囲である。
【0017】
上記のタイプの被覆溶液は、例えば、DE 198 28 231、US 4,775,520、US 5,378,400、DE 196 42 419、EP 1 199 288またはWO 03/027015に記載されており、その開示内容はここに参照として本発明に組み込まれる。ゾル−ゲル法による被覆は、当業者に知られている一般的な原理に従って、例えば、ディップコーティング、スプレー法またはフローカーテンにより行う。ディップコーティングの場合、構造化された基材を被覆溶液に浸漬し、スプレー法の場合、被覆媒体による基材の被覆は一成分または多成分ノズルによって行う。フローカーテンを用いる場合、被覆は、被覆媒体の自由に流れるカーテンによって行い、その下で被覆する基材を動かす。ゾル−ゲル法による被覆は、好ましくはディップコーティングによって行う。このために、最も単純な態様では、予め構造化された基材をリフト装置を用いてゾルで満たされたセルに浸漬し、次いで均一な速度でセルから取り出す。
【0018】
適用される層の厚みは、第1の処理工程においてなされる構造化の深さおよび構造に依存する。構造化が、多くのエッジ、角および段差、または構造の最も高い点と最も低い点との間の大きな高さ差の形成を伴って行われる場合、スムージング層の割合は、対応してより大きく選択すべきである。構造化およびその後のスムージングの間の個々のパラメータの正確な調整は、当業者の専門知識の一部である。個々のパラメータは、好ましくは、構造化された表面が冒頭で言及した最適なディフューザ/リフレクタのための条件を満たすよう、相互に適合させる。ゾル−ゲル法の被覆工程における厚みの制御は、ディップコーティングの場合、被覆工程において構造化された基材を取り出す速度に本質的に依存する。取り出し速度が大きい程、厚い層が得られる。取り出し速度は、通常0.1〜100mm/秒の範囲、好ましくは1.6〜8mm/秒の範囲である。被覆操作は、もちろん、構造化の好ましいスムージングが達成されるまで、1回または2回以上繰り返すこともできる。
【0019】
適用された層の圧縮および固化のために、構造化された基材をか焼することができる。か焼は、適用された層から残留溶媒画分を取り除く。か焼温度は、通常300〜700℃、特に500〜600℃である。
本発明のさらなる態様において、構造化された表面は、金属層でさらに被覆される。この追加的な工程は、ゾル−ゲル法による被覆に続くものであり、その後の任意の時点で行うことができる。金属層による被覆は、湿式化学法によって、例えば、好適な還元法により、CVD法および/またはPVD法により行うことができ、PVD法が好ましい。
【0020】
追加の金属層のための金属として好適なのは、例えば、アルミニウム、銀、クロム、ニッケルまたは他の反射金属層である。金属層は、好ましくはアルミニウムである。
追加の金属層の厚みは、材料および所望の特性に依存し、通常10〜150nmの範囲、特に30〜100nmの範囲である。
本発明はまた、本発明の方法の1つにより製造された、構造化された表面を有する基材に関する。
【0021】
本発明はさらに、上記方法により得ることができる構造化された表面を有する基材の、光学用途におけるディフューザおよび/またはリフレクタとしての使用に関する。光学用途は当業者に知られているすべての光学用途、例えば、任意の設計のカメラ、プロジェクターおよび映写スクリーン、液晶ディスプレイ、拡大システム、例えば顕微鏡などであり得る。本発明の基材は、好ましくは液晶ディスプレイで使用され、そこで、本発明の基材は、バックライティングに代わる、ディスプレイのエネルギー消費量の低減を可能にする反射性の背景(reflective background)として、特に有利に利用することができる。本発明の構造化された基材のさらなる適用領域は、創意工夫なしに当業者に明らかである。
【0022】
以下の例は、本発明をさらに詳細に説明することを目的とするが、これを限定するものではない。
【0023】

例1
1mmの厚さを有するガラス板に、10〜50μmの範囲のサイズを有するガラスビーズを、2バールの噴射圧で200mmの距離から吹き付けた。ガラス板の塵を払い、水性/アルコール性SiOゾル(固形分:3重量%)に、4mm/秒の取り出し速度で、合計3回浸漬した。個々の浸漬工程の間、それぞれの場合において、ガラス板を室温で10分間乾燥した。
被覆と乾燥の後、70nmの層厚を有するアルミニウム層を、構造化され、被覆された基材に適用した。
拡散的散乱特性(diffuse-scattering properties)の構造化された表面を有するガラス板を得た。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の方法における工程の例を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面を構造化する方法であって、第1の工程で基材を構造化し、第2の工程で、構造化の部分的なスムージングのために、ゾル−ゲル法によって基材を被覆することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
拡散的に散乱する表面が得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
構造化が、粒子噴射、レーザービーム、エッチング法またはエンボス法の作用によって行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
粒子噴射が、サンドジェットまたは電子ビームであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ゾル−ゲル法で用いられるゾルが、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素元素の化合物および/またはその混合物のゾルであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ゾル−ゲル法における被覆が、ディップコーティング、スプレー法またはフローカーテンを用いて行われることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
構造化された表面を金属層でさらに被覆することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
金属層による被覆を、湿式化学法によって、CVD法および/またはPVD法によって行うことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
金属が、アルミニウム、銀、クロム、ニッケルまたは他の反射金属層であることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の方法の1つまたは2つ以上によって製造された、構造化された表面を有する基材。
【請求項11】
基材が、ガラス基材、セラミック基材、金属基材またはプラスチック基材であることを特徴とする、請求項10に記載の基材。
【請求項12】
請求項1〜9に記載の方法の1つまたは2つ以上によって製造された、構造化された表面を有する基材の、光学用途におけるディフューザおよび/またはリフレクタとしての使用。
【請求項13】
光学用途が液晶ディスプレイであることを特徴とする、請求項12に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−508149(P2009−508149A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528370(P2008−528370)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007708
【国際公開番号】WO2007/025628
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】