説明

基板カセット

【課題】第8世代と呼ばれるような大サイズのガラス基板の保持においても、基板のたわみを充分に抑制可能な基板カセットを提供する。
【解決手段】複数枚の基板を水平姿勢で上下方向に多段に収納し、上記各基板の中央部のたわみを抑制するように支持するサポートバー20が配置された基板カセット12であって、基板搬入側とは反対側の背面に形成されたフレームと上記サポートバー20との間に、上記サポートバー20の上下方向の歪みを調整する上下方向調整機構を具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種基板、例えば、液晶ディスプレイに使用されるガラス基板等の保管に用いられる基板カセットに関する。より詳しくは、本発明の基板カセットは、特に、使用時のサポートバーに保管される基板同士が触れ合うことが防止された基板カセットに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイの製造工程においては、ガラス基板を一時的に保管するために、複数枚のガラス基板を水平姿勢で上下方向に多段に収納する基板カセットが用いられる。この基板カセットには、通常、基板収納状態の基板カセット正面視で、鉛直方向に複数の基板と交互に位置し、各基板を支持する複数のサポートバーが含まれる。
【0003】
基板カセットに求められる機能としては、液晶ディスプレイの製造効率の観点から、多数のガラス基板を収納、保管できることが挙げられる。このため、基板カセットの構成部材であり、ガラス基板を直接支持するサポートバーには、鉛直方向の厚みをできるだけ小さくして、上下に隣り合うガラス基板が非常に近い距離で保管されることが求められる。
【0004】
また、基板カセットに求められる機能としては、ガラス基板の品質保証の観点から、保管されるガラス基板同士が触れ合わないことが挙げられる。すなわち、通常、基板カセットには数十枚ものガラス基板が収納されるが、上下に隣り合うガラス基板同士が接触して、ガラス基板の表面を傷付けるようなことがあってはならない。このため、ガラス基板を直接支持するサポートバーには、たわみにくいことが求められる。
【0005】
さらに、基板カセットに求められる機能としては、液晶ディスプレイの製造における作業性の観点から、基板カセット全体が軽量であることが挙げられる。特に、近年においては、液晶ディスプレイの製造に用いられるガラス基板の大型化が進行しており、それにつれて基板カセットも大型化している。そこで、基板カセットの構成部材であるサポートバーには、できるだけ軽量であることが求められる。
【0006】
このように、基板カセットに用いられるサポートバーには、薄く、かつ、たわみにくい、という一見背反する特性が要求されており、しかも、できるだけ軽量であることも要求されている。
【0007】
サポートバーおよびサポートバーを含む基板カセット、ならびにこれらに関連する技術としては、例えば、以下のようなものが開示されている。
【0008】
特許文献1には、例えば液晶表示装置に用いられるガラス基板を収納、あるいは保管するガラス基板カセットが開示されている。この文献には、ガラス基板を収納するガラス基板カセットであって、収納されたガラス基板の端部を支持するよう構成された端部支持部と、上記ガラス基板の中央部を支持するよう構成された中央支持部とを備えたガラス基板カセットが規定されている。
【0009】
特許文献2には、例えばプラスチック基板を用いる液晶表示素子の製造工程においてプラスチック基板の収納に使用される基板収納カセットが開示されている。この文献には、基板を出し入れするため開口した前面と、孔部を設けた上面、下面、左右の側面および背面を備え、前記両側面から内方に向かって突出した前記基板の左右両端を支持する基板端部支持部と、前記背面から内方に向かって突出した前記基板の中央部を支持する基板中央部支持部と、が設けられている基板収納カセットが規定されている。
【0010】
特許文献3には、基板用カセットの軽量化を可能とするカセット用基板支持部材および基板用カセットが開示されている。この文献には、基板を積層状態に収容する基板用カセットに用いられ、上記基板を所定の間隔で下方側から支持するため、上記基板用カセットのフレームから内部に張出すように設けられるカセット用基板支持部材であって、長尺の棒状部材からなるリブと、上記リブの一方端に設けられ、上記フレームに上記リブを固定するための受け部材と、上記リブの軸方向に沿って所定の間隔を隔てて上記リブに取付けられる補助支持部材とを備え、上記リブは、その軸方向に延びる炭素繊維を含む炭素繊維強化プラスチック材料を有する、カセット用基板支持部材が規定されている。
【0011】
特許文献4には、各種基板、例えば、液晶表示装置に使用されるガラス基板等の製造過程で使用される基板収納カセットであって、特に、カセットの各段に配される中央支持部材(サポートバー)が開示されている。この文献には、複数枚の基板を水平姿勢で上下方向に多段に収納する基板カセットにおける上記各基板の中央部のたわみを抑制するように支持する基板カセット用サポートバーであって、引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維をその体積比で30%以上含む炭素繊維強化複合材料で形成されている基板カセット用サポートバーが規定されている。
【0012】
【特許文献1】特開2000−7148号公報
【特許文献2】特開2000−142876号公報
【特許文献3】特開2004−146578号公報
【特許文献4】特開2005−340480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来、サポートバーを取り付けた後に、サポートバーの角度が所望する方向から歪んでいることが発覚した場合には、サポートバーの取り付けをやり直していた。しかしながら、サポートバーは基板カセットのフレームに強固に取り付ける必要があるため、サポートバーの取り付けのやり直しは、時間的にも作業的にも非常に負担となる。短いサポートバーを用いる場合には、サポートバーの角度が多少歪んでいても、サポートバー先端部の歪みはそれほど大きくならない。しかし、第8世代と呼ばれるような大型のガラス基板を保持する基板カセットにおいては、サポートバーの長さが2000mm程度にもなりうる。このため、サポートバーの設置時における僅かな歪みが、サポートバーの先端部においては大きな歪みとなってしまい、場合によっては、ガラス基板同士が接触してしまう。
【0014】
したがって、本発明の目的は、サポートバーの角度が所望する角度から歪んでいる場合に、簡便にサポートバーを正しい角度に調整可能な基板カセットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、複数枚の基板を水平姿勢で上下方向に多段に収納し、上記各基板の中央部のたわみを抑制するように支持するサポートバーが配置された基板カセットであって、基板搬入側とは反対側の背面に形成されたフレームと上記サポートバーとの間に、上記サポートバーの上下方向の歪みを調整する上下方向調整機構を具える、基板カセットに関する。本発明の基板カセットは、上記上下方向調整機構が、上記フレームに対する上記サポートバーの上下方向角度をネジによって調整する機構であることが好ましい。
【0016】
また本発明は、複数枚の基板を水平姿勢で上下方向に多段に収納し、上記各基板の中央部のたわみを抑制するように支持するサポートバーが配置された基板カセットであって、基板搬入側とは反対側の背面に形成されたフレームと上記サポートバーとの間に、上記サポートバーの上下方向の歪みを調整する上下方向調整機構を具えるとともに、上記フレームと上記サポートバーとの間に、上記サポートバーの左右方向の歪みを調整する左右方向調整機構を具える、基板カセットを包含する。本発明の基板カセットは、上記上下方向調整機構が、上記フレームに対する上記サポートバーの上下方向角度をネジによって調整する機構であり、かつ、上記左右方向調整機構が、上記フレームに対する上記サポートバーの左右方向角度をネジによって調整する機構であることが好ましい。
【0017】
このような基板カセットにおいては、上記サポートバーが、炭素繊維複合材料からなること、あるいは、上記サポートバーが、炭素繊維複合材料および炭素繊維複合材料以外の材料からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の基板カセットは、フレームとサポートバーとの間に、サポートバーの上下方向の歪みを調整する上下方向調整機構を具える。このため、サポートバーをフレームに固定した後に、サポートバーの歪みを簡便に調整することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、所定の構成部材を用いた基板カセットに関する。本発明の基板カセットは、フレームとサポートバーとの間に、サポートバーの上下方向の歪みを調整する上下方向調整機構を具える。このため、サポートバーを基板カセットのフレーム取り付けた後に、サポートバーの角度を調整することができる。つまり、サポートバーの付け直しという煩雑な作業を行わずに、サポートバーの角度を所望の角度に調整可能である。
【0020】
以下に、本発明の基板カセットを、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、サポートバーを具える本発明のガラス基板カセット12の一例を示す概略斜視図であり、同図矢印A方向からガラス基板等の基板14の搬入、搬出を行う。基板搬入口の両側面には、収納される基板の端部を支持する端部支持部となる棚片16が多段に設けられており、基板搬入口の対向面側にフレームの役割を担う支持部材18で固定された固定端を有する上下方向に一列のサポートバー20が設けられ、基板14の中央部でのたわみを抑制し、基板14を水平保持している。同図では上下方向に一列のサポートバー20を基板搬入口の対向面のほぼ中央に設けた構成を示しているが、これに限定されず、基板14の中央部のたわみを抑制できれば、複数列としてもよい。
【0021】
基板カセット12を構成するサポートバー20をはじめ、後述する調整部材以外の材料については、従来公知のものを使用することができる。さらに、端部支持部の棚片16および他の構成部材、例えば、底面側のフレーム、天井側のフレーム、基板搬入口の対向面となる背面側のフレーム等については、特に限定されないが、例えば、炭素繊維複合材料により構成することもできる。この場合には、基板カセット12の軽量化と剛性とを同時に高いレベルで実現することができる。
【0022】
図1に示す例においては、各棚片16の幅をサポートバー20の幅よりも広くしているが、例えば、サポートバー20と同程度の幅の棚片16を基板搬入口の両側面に所定間隔で複数配設することができる。また、図1に示すように、サポートバー20の長手方向に分割された複数(同図に示すところでは3個)の棚片のユニットを、所定間隔で配設することもできる。
【0023】
次に、サポートバー20について詳細に説明する。図2は図1に示す基板カセット12の構成部材としてのサポートバー22を示し、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は側面図である。図2に示す例では、サポートバー22は、炭素繊維複合材料(carbon fiber reinforced polymer)(以下単に「CFRP」と称する場合がある)からなる上部プレート24と、CFRPからなる下部プレート26と、上部プレート24と下部プレート26との間に配置されたCFRP以外の材料からなる中空の中間部材28とから構成されており、全体として、中空構造をなしている。なお、図2に示す例は、中空構造の一例であるが、サポートバー22は、このような形状のものに限られず、中実構造とすることもできる。また、サポートバー22は、その全体をCFRPから構成することもできる。
【0024】
上部プレート24および下部プレート26の材料であるCFRPの組成は特に限定されない。CFRPとして知られる材料を広く適用可能である。好ましくは、より軽量かつたわみにくいCFRPが用いられる。例えば、炭素繊維として、例えば、引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維を体積比率で30%以上含有するCFRPが用いられる。体積比率で30%以上とすることで、十分な剛性が得られ、振動減衰特性の高い部材が得られる。好ましくは上記体積比率で40%以上とする。また、使用する強化繊維の全てを高弾性炭素繊維としてもよいが、一部を他の強化繊維、例えば、引張弾性率490GPa未満の炭素繊維、あるいはガラス繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維等その他公知の強化繊維で構成してもよい。例えば、高弾性炭素繊維を体積比率で90%までとし、残部を他の強化繊維、特に引張弾性率490GPa未満の炭素繊維と組み合わせて使用することができる。
【0025】
また、図2示す例においては、上部プレート24と下部プレート26との間に配置された中間部材28として、炭素複合材料以外の材料を使用することができる。中間部材28は、例えば、高強度かつ耐食性を有するアルミニウムまたはステンレスから形成することが好ましい。また、軽量化を高いレベルで実現する場合には、中間部材28を、図示しないハニカム状のアラミド繊維から形成することが好ましい。アラミド繊維は、一般的なスチールワイヤの約5倍の強度を有し、しかも軽量であることに加え、耐熱性および耐衝撃性などに優れるため、特に中間部材28として使用するのに有利である。
【0026】
図2に示すように、サポートバー22全体として中空構造を採用する場合には、より高い振動減衰特性を得るために、サポートバーの固定端に対し、自由端となる先端部に向かって、その長手方向と直交する断面の外周が小さくなる構造を有することが好ましい。ここで、「長手方向」とは、図2に示す中空のサポートバー22の固定端側の断面重心(G1)と先端部の断面重心(G2)とを結ぶ線の方向である。
【0027】
図2に示すサポートバー22は、固定端側の幅、高さをH1,T1とし、先端部の幅、高さをH2,T2とした場合、先端に向かってその幅のみが狭くなる(H1>H2、T1=T2)テーパ形状を有している。しかしながら、本発明の基板カセットに使用可能なサポートバーは、このような形状に限られない。本発明の基板カセットに適用可能なサポートバーは、図2に示す形状のサポートバー22以外にも、例えば、先端に向かってその厚みのみが小さくなる(H1=H2、T1>T2)テーパ形状を採用することができる。さらに、本発明の基板カセットに使用可能なサポートバーは、図示しないが、幅と高さの両方が先端部に向かって小さくなる(H1>H2、T1>T2)テーパ形状にすることもできる。
【0028】
このように、図2に示すように、サポートバー22の外周を先端部に向かって小さくする場合には、振動初期の振幅を小さくするため、先端部の外周が固定端の外周の3分の1以上とすることが好ましく、2分の1以上の寸法を有していることがより好ましい。一方、外周が同じものと比較して少しでも外周を小さくすれば振動減衰特性に対して効果を奏するため、先端部の外周は固定端の外周の10分の9以下であることが好ましく、5分の3以下であることがより好ましい。
【0029】
また、外周を先端方向に小さくしていく態様としては、図2に示すように、固定端側から先端部に向かって一様に減少させていく態様に限定されない。例えば、固定端近傍の部分では、その外周を変化させず、それより自由端側で外周を徐々に小さくする態様、または長手方向の中間部まで外周を減少させ、それより自由端側で外周を一定にするなど、様々な態様を採用することが可能である。
【0030】
なお、本発明の基板カセットに使用可能なサポートバーは、図示しないが、幅と高さの両方が固定端部と先端部とにおいて同一寸法の(例えば、図2において、H1=H2、T1=T2)形状としてもよい。
【0031】
サポートバー22の先端部は、図2に示したような開口状態のままでもよく、開口状態の先端部に、ゴム等の弾性部材等からなるキャップを嵌挿していてもよい。
【0032】
さらに、図2に示すサポートバー22の長さは、図1に示す基板カセット12に収納される基板の中央部のたわみを抑制するように基板を支持できればよい。このため、上記長さは、収納される基板の大きさに応じて適宜決定すればよい。本発明では、サポートバー22の長さが長くなればなるほど、その効果が顕著となる。特にサポートバーの長さが500mm以上、より好ましくは1000mm以上、さらに好ましくは2300mm以上となる場合に、本発明は極めて有用である。サポートバー22の幅は、特に制限されるものではなく、使用する材料の組み合わせ方に応じて収納される基板の中央部のたわみを抑制するために必要な強度および曲げ剛性が保たれる最低限の幅を確保すればよい。また、高さについても基板の収納ピッチの範囲内において幅との関係で最低限の強度および曲げ剛性が確保できるように適宜設定することができる。
【0033】
サポートバー22が、例えば、図2に示すように、上部プレート24および下部プレート26と、これらのプレートに間に配置される中間部材28とを別異の材料から構成される場合、炭素繊維複合材料のみから構成されるサポートバーと比較して、製造が簡便である。具体的には、特許文献4に記載されているような炭素繊維複合材料からなる円柱状のサポートバーは、軽量かつたわみにくい特性を有する。しかし、サポートバーを製造する工程が複雑で、製造工程が煩雑である。第8世代用などの長いサポートバーを作製する場合には、特に製造が困難である。この点、本発明のサポートバーは、プレート状の炭素繊維複合材料と中間部材とを積層するだけで製造可能であり、製造工程が格段に簡便である。場合によっては、上部プレート、下部プレートおよび中間部材を液晶パネル製造工場に搬送し、工場内部でこれらを組み立てることによって、容易にサポートバーを製造することすら可能である。
【0034】
また、上部プレート24および下部プレート26と、中間部材28とを異なる材料から構成することによって、サポートバーの振動減衰特性が向上しうる。このため、サポートバーのたわみ時にガラス基板同士が接触することを有効に防止することができる。また、振動が早期に収まるため、基板の出し入れがスムーズに進み、作業性が向上する。さらに、上部プレート24および下部プレート26の材料としてCFRPを用いることによって、サポートバーの軽量化を図ることができ、基板カセット全体としても軽量化を実現することができる。中間部材を中空状とした場合には、より軽量なサポートバーが提供できる。
【0035】
以下、本発明の基板カセットに適用可能なサポートバーの製造方法について、特に図2に示したようなテーパ形状の中空構造のサポートバーの製造方法の一例を説明する。他の形状のサポートバーについても、以下に説明する方法を適宜変更して製造できることは、当業者に容易に理解できるものである。
【0036】
まず、準備工程として、上部プレートおよび下部プレートとして炭素繊維複合材料を用意し、中間部材としてアルミニウム板を用意する。
【0037】
(上部プレートおよび下部プレートの形成)
上部プレートおよび下部プレートとして用いる炭素繊維複合材料は、以下のようにして形成する。まず、炭素繊維をシート化したものにマトリックス樹脂を含浸させ、未硬化状態のプリプレグシートを形成する。例えば、このプリプレグシートは、引張弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維を体積比率で30%以上使用することが好ましい。また、上部プレートおよび下部プレートの部材としての支持性能を損なわない限り、ガラス繊維等その他の繊維を炭素繊維複合材料に加えることもできる。
【0038】
マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。この場合、ゴム加硫等のような高温高湿環境に耐え得るものが好ましい。また、熱硬化性樹脂は、耐衝撃性、靱性を付与する目的で熱硬化性樹脂にゴムまたは樹脂からなる微粒子を添加したもの、あるいは熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を溶解させたものを使用してもよい。
【0039】
炭素繊維の種類としては、490GPa未満のPAN系の炭素繊維と、490〜950GPaのピッチ系の炭素繊維とがあるが、本発明ではこれらを組み合わせて使用することができる。この場合、ピッチ系の繊維は弾性率が高いという特徴を有し、PAN系の繊維は引っ張り強度が高いという特徴を有する。また、プリプレグシートとしては、強化繊維が同一方向に配向する一方向シートと、平織物、綾織物、朱子織物、三軸織物等のクロスシートとがある。490〜950GPaの高弾性炭素繊維プリプレグシートには、特に、一方向性シートを用いるのが好ましい。
【0040】
プリプレグシートは、強化繊維の種類を異ならせたり、マトリック樹脂に対する強化繊維の使用比率を異ならせたり、あるいは強化繊維の配向状態を異ならせたりして、様々なタイプのものを用意することができる。このため、保持するガラス基板に応じて、最適な曲げ剛性のサポートバーが形成されるように、使用すべきプリプレグシートを適宜選択することが好ましい。
【0041】
必要に応じて、プリプレグシートの外表面をクロスプリプレグシートで覆う。クロスプリプレグシートとは、複数の方向に織り込んだ強化繊維に上記マトリックス樹脂を含浸させた未硬化状態のシートである。強化繊維としては、織物状の炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、あるいは炭化珪素繊維等を用いることが好ましい。また、プリプレグシートに密着させて被覆できるように、可撓性及び接着性の高いシートが好ましい。被覆は、アイロン等で熱を掛けながら、プリプレグシートに密着させることにより行うことができる。
【0042】
このクロスプリプレグシートを被覆することで、熱処理後の切削、開孔等の後加工を行った際に、加工部位に生ずる毛羽立ち、ささくれ等を防止できる。したがって、クロスプリプレグシートの採用は、加工性が向上されるだけでなく、液晶ディスプレイ用基板、プラズマディスプレイ用基板、シリコンウェハ等の精密な基板を傷付ける心配がなく、また、ゴミ等の発生も少ないという利点も有する。
【0043】
次に、プリプレグシートを、所定寸法のプリプレグシート片に形成する。例えば、図2に示すような上部プレート24および下部プレート26の形状とする。形成方法は、機械加工による切削によってもよいし、レーザー等による加工により行うこともできる。
【0044】
このようにして得られた未硬化状態のプリプレグシート片を、真空バック等に入れ、加圧しながら、オーブン等内で加熱することによって、上部プレートおよび下部プレートが得られる。この場合の加熱条件は、室温から2〜10℃/minの割合で加熱昇温させ、約100〜190℃で約10〜180分間保持し、その後加熱を停止し自然冷却によって降温させて常温に戻す。ここで、未硬化状態のプリプレグ片を真空バックに入れる目的は、未硬化部材に対して外圧(すなわち、大気圧)を略均等に加えることにある。
【0045】
(中間部材の形成)
中間部材として用いる材料は、アルミニウムまたはステンレス等の優れた耐食性を有する金属材料等を使用することが好ましい。ただし、特にサポートバーの軽量化を高いレベルで実現する場合には、アルミニウムを使用することが好ましい。また、さらに軽量化を所望する場合は、アルミニウムに代えて、ハニカム状のアラミド繊維を使用することが好ましい。
【0046】
これらの金属材料またはアラミド繊維を、公知の形成方法により、所定寸法の金属部材等に形成し、中間部材が得られる。例えば、図2に示すような中間部材28の形状とする。形成方法は、機械加工による切削によってもよいし、レーザー等による加工により行うこともできる。
【0047】
(サポートバーの形成)
以上のようにして得られた、上部プレートおよび下部プレート、ならびに中間部材を用いて、公知の形成方法により、サポートバーを形成する。例えば、これらの部材を接着により、形成することができる。接着剤としては、例えば、2液混合タイプのエポキシ接着剤を用いることができる。接着条件は、特に限定されないが、作業性を考慮すると、常温硬化のものを採用するとよい。
【0048】
このようにして得られたサポートバーは、上記説明したように、製造が容易である。また、上部プレートおよび下部プレートと他の部材との複合部材であるため、サポートバー全体のたわみ抑制効果が高い。このため、サポートバーのたわみ時にガラス基板同士が接触することを有効に防止することができる。さらに、上部プレートおよび下部プレートの上記材料選択、および中空構造にすることにより、より軽量なサポートバーが提供できる。
【0049】
以上は、本発明の基板カセットの各構成部材に関する説明であるが、以下に、このような構成部材のうち、図1に示す支持部材18とサポートバー20との固定構造について説明する。なお、基板カセットの構成部材のうち、サポートバー以外のものの組み立てについては、公知の方法を採用することができる。
【0050】
図3は、基板カセットのフレームの支持部材18と、サポートバー20との固定構造において、調整機構100を用いた一例を示し、(a)は平面図、(b)は側方断面図である。図3(a)、(b)においては、サポートバー20は、調整機構100を介して支持部材18に固定されている。調整機構100は、サポートバー20を支持部材18に対して上下方向に調整するための、上下方向調整機構110と、上下方向調整機構110と連結され、支持部材18に対してサポートバー20を左右方向に調整するための、左右方向調整機構120とからなるものである。
【0051】
図3(a)、(b)に示すように、上下方向調整機構110は、3方を支持部材18に囲まれた状態(図3(a))で、支持部材18に、2本のボルト131,132および対応するロックナット133,134により固定されている。上下方向調整機構110は、ボルト135,136の、対応するロックナット137,138を介した図7(b)における方向変位により、ボルト131のボルト穴を中心に、回転可能な構造となっている。左右方向調整機構120は、上下方向調整機構110にボルト139,140により固定されており、ボルト139のボルト穴を中心に、回転可能な構造となっている。サポートバー20は、左右方向調整機構120の突出部を挿入した状態で、左右方向調整機構120に接着等の公知の方法で接合されている。
【0052】
ここで、上下方向調整機構110は、支持部材18と強固に連結することができるものであり、左右方向調整機構120とボルト締めすることができるものであれば、いかなるものを材料とすることもできる。例えば、アルミニウム製のものを用いることが軽量、加工容易の点で好ましい。また、左右方向調整機構120は、サポートバー20を支持することができるものであり、上下方向調整機構110とボルト締めすることができるものであれば、いかなるものを材料とすることもできる。左右方向調整機構と同様に、アルミニウム製のものを用いることが軽量、加工容易の点で好ましい。
【0053】
また、調整機構100の形成は、所定部分に所定径を有するボルト穴を形成した各調整機構110,120を別個に形成し、次いで左右方向の角度調整の使用態様に応じて、これら110,120をボルト139,140によりボルト締めして行うことができる。
【0054】
次に、この調整機構100の使用態様について説明する。
まず、左右方向調整機構120の突出部を中空のサポートバー20に挿入した状態で、サポートバー20と左右方向調整機構120とを強固に接合する。
【0055】
次に、左右方向調整機構120と上下方向調整機構110とを連結するに際し、上下方向調整機構110に対して水平方向調整機構120を水平面上で所定角度回転させて、結果的に支持部材18に対するサポートバー20の左右方向の角度を決定する。ここで、ボルト139のボルト穴の寸法は、ボルト139の寸法に完全に適合するものであるが、ボルト140のボルト穴の寸法は、ボルト140の寸法よりも幾分大きくし、サポートバー40を左右方向に可動とする。ボルト140のボルト穴の形状は、例えば、図3(a)に示すように、左右方向(同図においては、鉛直方向)に長径を有する略楕円形とすることができる。ボルト140のボルト穴の形状は、円弧状の長穴形状であってもよい。このような構造により、上下方向調整機構110に対して左右方向調整機構120を水平面上で回転させる場合には、ボルト139,140を緩めた状態で、ボルト139のボルト穴の位置を回転中心として、左右方向調整機構120を回転させる。次いで、ボルト139,140によるボルト締めにより、上下方向調整機構110に対する左右方向調整機構120の回転位置、即ち、支持部材38に対するサポートバー40の左右方向の角度を決定することができる。
【0056】
さらに、上下方向調整機構110と支持部材38とを連結するに際し、支持部材18に対して上下方向調整機構110を鉛直面上で所定角度回転させて、結果的に支持部材18に対するサポートバー20の上下方向の角度を決定する。ここで、ボルト131のボルト穴の寸法は、ボルト131の寸法に完全に適合するものであるが、ボルト132のボルト穴の寸法は、ボルト132の寸法よりも幾分大きくし、サポートバー40を上下方向に可動とする。ボルト132のボルト穴の形状は、例えば、図3(b)に示すように、上下方向に長径を有する略楕円形とすることができる。ボルト132のボルト穴の形状は、円弧状の長穴形状であってもよい。このような構造により、支持部材18に対して上下方向調整機構110を鉛直面上で回転させる場合には、ボルト131,132を緩めた状態で、ボルト135,136を図7(b)における左右方向に変位させることにより、上下方向調整機構110を同図の右側に押し、または左側に戻し、ボルト131のボルト穴の位置を回転中心として、上下方向調整機構110を回転させる。次いで、ボルト131,132によるボルト締めにより、支持部材18に対する上下方向調整機構110の回転位置、即ち、支持部材18に対するサポートバー20の上下方向の角度を決定することができる。
上下方向調整機構110および左右方向調整機構120は、基板カセットを作製した後に微調整することができる。例えば、基板カセットの使用中にサポートバーの一本の方向がずれてしまった場合、調整機構を調整するだけで、サポートバーの方向を適切な方向に調整できる。
【0057】
調整機構の他の使用形態としては、ガラス基板の重量に応じた角度の調整が挙げられる。つまり、保持するガラス基板の重量が比較的軽量であるサポートバーについては、ボルト132をそのボルト穴の左方に位置させてボルト締めし、逆に比較的重量の場合は、ボルト132をそのボルト穴の右方に位置させてボルト締めして、上下に隣接するガス基板が接触しないようにすることができる。
【0058】
また、上記構造および機能の調整機構100により、例えば、基板カセットに固定されている全てのサポートバー20について、ボルト140をそのボルト穴の同一位置においてボルト締めすることにより、基板カセット中のサポートバー20の延在方向が均一となり、全体として基板カセットの見た目を優れたものとすることができる。また、サポートバーの先端がそろい、基盤の出し入れが容易になり、作業性が向上できる。
【0059】
なお、図3に示す例は、調整機構100を上下方向調整機構110と左右方向調整機構120とから構成しているが、これらのうちの一方を省略することもでき、調整機構100を、サポートバー20の角度を所望の方向にのみ調整するものとすることができる。なお、いずれの場合においても、図3(a)、(b)における調整機構100の最左部は、支持部材18と連結するための機構を有し、調整機構100の最右部は、サポートバー20と連結するための機構を有していることが必要である。支持部材18と調整機構100、および調整機構100とサポートバー20が、ずれないように強固に連結されていないと、調整機構100による効果が薄れてしまうからである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の基板カセットにおいては、サポートバーを取り付けた後に、調整機構を用いてサポートバーの角度を簡便に調整することができる。このため、サポートバーの調整に要する時間および労力が軽減され、ひいては、液晶パネルの製造などのガラス基板を用いた作業の生産性向上にも寄与する。本発明の基板カセットは、特に、第8世代と呼ばれるような大サイズのガラス基板の保持に有用である。ただし、第8世代に本発明が限定されるものではなく、他のサイズのガラス基板に適用することも、もちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】サポートバーを具える本発明のガラス基板カセット12の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す基板カセット12の構成部材としてのサポートバー22を示し、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は側面図である。
【図3】図1に示す支持部材18とサポートバー20との固定構造の一例を示し、(a)は平面図、(b)は側方断面図である。
【符号の説明】
【0062】
12 基板カセット
14 基板
16 棚片
18 支持部材
20 サポートバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の基板を水平姿勢で上下方向に多段に収納し、前記各基板の中央部のたわみを抑制するように支持するサポートバーが配置された基板カセットであって、基板搬入側とは反対側の背面に形成されたフレームと前記サポートバーとの間に、前記サポートバーの上下方向の歪みを調整する上下方向調整機構を具える、基板カセット。
【請求項2】
前記フレームと前記サポートバーとの間に、前記サポートバーの左右方向の歪みを調整する左右方向調整機構を具える、請求項1に記載の基板カセット。
【請求項3】
前記上下方向調整機構は、前記フレームに対する前記サポートバーの上下方向角度をネジによって調整する機構である、請求項1に記載の基板カセット。
【請求項4】
前記左右方向調整機構は、前記フレームに対する前記サポートバーの左右方向角度をネジによって調整する機構である、請求項2に記載の基板カセット。
【請求項5】
前記サポートバーは、炭素繊維複合材料からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の基板カセット。
【請求項6】
前記サポートバーは、炭素繊維複合材料および炭素繊維複合材料以外の材料からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の基板カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−281252(P2007−281252A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106676(P2006−106676)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】