説明

基板処理方法

【課題】正イオンによるエッチング効率を低下させることなく、負イオンを有効利用して全体としてのエッチング効率を高めることができる基板処理方法を提供する。
【解決手段】プラズマRF及びバイアスRFをそれぞれパルス波として印加し、プラズマRF及びバイアスRFを共に印加してプラズマ中の正イオンによって基板にエッチング処理を施す正イオンエッチングステップ3bと、プラズマRF及びバイアスRFの印加を共に停止して処理室内で負イオンを発生させる負イオン生成ステップ3cと、プラズマRFの印加を停止し、バイアスRFを印加して負イオンを基板に引き込む負イオン引き込みステップ3aとを順次繰り返し、バイアスRFのデューティー比をプラズマRFのデューティー比よりも大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ生成用の高周波電力及びバイアス用の高周波電力をパルス波状に印加させてプラズマを生成し、該プラズマを用いて基板に所定のエッチング処理を施す基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハをはじめとする基板に対して配線加工等を施す際には、基板に対して微細な加工処理を施す必要があり、プラズマを利用した基板処理方法が広く適用されている。
【0003】
このような基板処理方法においては、反応性イオンエッチング(Reaction Ion Etching)処理における加工形状の精緻化等の要求に応えるべく、プラズマをパルス波状に発生させる技術が適用されている。プラズマをパルス波状に発生させることにより、プラズマ生成ガスの解離を適切に制御することができ、もって、オーバーエッチングを抑制し、微細な加工を実現することができる。
【0004】
また、近年、プラズマ生成用の高周波電力(以下、「ソースRF」という。)をパルス波状に印加してプラズマをパルス波状に発生させる技術と、バイアス用の高周波電力(以下、「バイアスRF」という。)をパルス波状に印加してプラズマ中の正イオンの引き込みをパルス波状に制御する技術を組み合わせた同期パルス制御が提案されるようになった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−311890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、反応性イオンエッチング処理においては、プラズマ中の正イオンが半導体ウエハに引き込まれることに伴い、図7に示したように、対象膜70に形成されるホール71の底部に正イオン72が滞留し、該滞留した正イオン72によって続く正イオン73がホール71の底部に到達するのを電気的に阻害し、ホール71の中において続く正イオン73の進路を変更させることがあり、これによって、ホール71が歪み、結果として正イオンによるエッチング効率が低下するという問題があった。
【0007】
一方、同期パルス制御方式のプラズマエッチングにおいては、ソースRFの印加を停止(OFF)した後、しばらくして、プラズマ中のエネルギーを失った失活電子が中性な分子や原子又はラジカルに付着することによって負イオンが生成することが知られている。そこで、ホール71の底部に滞留した正イオンを電気的に中和するために、負イオンを利用してエッチング効率を高めることが検討されている。
【0008】
本発明の目的は、正イオンによるエッチング効率を低下させることなく、負イオンを有効利用し且つ全体としてのエッチング効率を高めることができる基板処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の基板処理方法は、内部にプラズマが生じる処理室と、該処理室内に配置され基板を載置する載置台と、該載置台に対向配置された電極と、を備える基板処理装置の、前記処理室内にプラズマ生成用の高周波電力を印加し、前記載置台に前記プラズマ生成用の高周波電力よりも周波数が低いバイアス用の高周波電力を印加して前記基板にプラズマエッチング処理を施す基板処理方法であって、前記プラズマ生成用の高周波電力及び前記バイアス用の高周波電力をそれぞれパルス波として印加し、前記プラズマ生成用の高周波電力及び前記バイアス用の高周波電力を共に印加して前記プラズマ中の正イオンによって前記基板にエッチング処理を施す正イオンエッチングステップと、前記プラズマ生成用の高周波電力及び前記バイアス用の高周波電力の印加を共に停止して前記処理室内で負イオンを発生させる負イオン生成ステップと、前記プラズマ生成用の高周波電力の印加を停止し、前記バイアス用の高周波電力を印加して前記負イオンを前記基板に引き込む負イオン引き込みステップと、を有し、前記バイアス用の高周波電力のデューティー比を前記プラズマ生成用の高周波電力のデューティー比よりも大きくすることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の基板処理方法は、請求項1記載の基板処理方法において、前記バイアス用の高周波電力のデューティー比は0.7〜0.8、前記プラズマ生成用の高周波電力のデューティー比は0.5〜0.6であることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の基板処理方法は、請求項1又は2記載の基板処理方法において、前記正イオンエッチングステップを前記パルス波の1/2周期以上に亘って継続することを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の基板処理方法は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板処理方法において、前記負イオン生成ステップを前記パルス波の1/4周期以上に亘って継続することを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の基板処理方法は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板処理方法において、前記負イオン生成ステップを10〜30μsec間に亘って継続することを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の基板処理方法は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の基板処理方法において、前記正イオンエッチングステップ、前記負イオン生成ステップ及び前記負イオン引き込みステップを順次繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バイアス用の高周波電力のデューティー比がプラズマ生成用の高周波電力のデューティー比よりも大きくされるので、正イオンエッチングステップを充分な時間に亘って実行した上で、負イオン引き込みステップを実行することができる。これにより、正イオンによるエッチング効率を低下させることなく、負イオンを有効利用し且つ全体としてのエッチング効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る基板処理方法が適用される基板処理装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】パルス制御方式を適用した基板処理方法における各種態様の制御工程を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る基板処理方法における制御工程を示す図である。
【図4】負イオンが生成されるメカニズムを示す説明図である。
【図5】負イオン引き込みステップにおけるバイアス電圧の変化を示すグラフであり、該バイアス電圧を正イオンエッチングステップにおけるバイアス電圧のグラフと比較して示したものである。
【図6】本発明の実施の形態における負イオンの作用を示す説明図である。
【図7】従来の基板処理方法における正イオンのシェーディング効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る基板処理方法が適用される基板処理装置の概略構成を示す断面図である。この基板処理装置は、基板に所定のプラズマエッチング処理を施すものである。
【0019】
図1において、基板処理装置10は、基板としての半導体ウエハW(以下、「ウエハ」という。)を収容するチャンバ11を有し、チャンバ11内にはウエハWを載置する円柱状のサセプタ12が配置されている。チャンバ11の内側壁とサセプタ12の側面とによって側方排気路13が形成される。側方排気路13の途中には排気プレート14が配置されている。
【0020】
排気プレート14は多数の貫通孔を有する板状部材であり、チャンバ11の内部を上部と下部に仕切る仕切板として機能する。排気プレート14によって仕切られたチャンバ11内部の上部(以下、「処理室」という。)15には、後述するようにプラズマが発生する。また、チャンバ11内部の下部(以下、「排気室(マニホールド)」という。)16にはチャンバ11内のガスを排出する排気管17が接続されている。排気プレート14は処理室15に発生するプラズマを捕捉し、又は反射してマニホールド16への漏洩を防止する。
【0021】
排気管17には、TMP(Turbo Molecular Pump)及びDP(Dry Pump)(共に図示省略)が接続され、これらのポンプはチャンバ11内を真空引きして所定圧力まで減圧する。なお、チャンバ11内の圧力はAPCバルブ(図示省略)によって制御される。
【0022】
チャンバ11内のサセプタ12には第1の高周波電源18が第1の整合器19を介して接続され、且つ第2の高周波電源20が第2の整合器21を介して接続されており、第1の高周波電源18は比較的低い周波数、例えば、2MHzのバイアス用の高周波電力(以下、「バイアスRF」という。)をサセプタ12に印加し、第2の高周波電源20は比較的高い高周波、例えば60MHzのプラズマ生成用の高周波電力(以下、「ソースRF」という。)をサセプタ12に印加する。これにより、サセプタ12は電極として機能する。また。第1の整合器19及び第2の整合器21は、サセプタ12からの高周波電力の反射を低減して高周波電力のサセプタ12への印加効率を最大にする。
【0023】
サセプタ12の上部には、静電電極板22を内部に有する静電チャック(ESC)23が配置されている。静電チャック23は段差を有し、セラミックスで構成されている。
【0024】
静電電極板22には直流電源24が接続されており、静電電極板22に正の直流電圧が印加されると、ウエハWにおける静電チャック23側の面(以下、「裏面」という。)には負電位が発生して静電電極板22及びウエハWの裏面の間に電位差が生じ、この電位差に起因するクーロン力又はジョンソン・ラーベック力により、ウエハWは静電チャック23に吸着保持される。
【0025】
また、静電チャック23には、吸着保持されたウエハWを囲むように、フォーカスリング25が静電チャック23の段差における水平部へ載置される。フォーカスリング25は例えば、Siや炭化珪素(SiC)によって構成される。
【0026】
サセプタ12の内部には、例えば、円周方向に延在する環状の冷媒流路26が設けられている。冷媒流路26には、チラーユニット(図示省略)から冷媒用配管27を介して低温の冷媒、例えば、冷却水やガルデン(登録商標)が循環供給される。冷媒によって冷却されたサセプタ12は静電チャック23を介してウエハW及びフォーカスリング25を冷却する。
【0027】
静電チャック23におけるウエハWが吸着保持されている部分(以下、「吸着面」という。)には、複数の伝熱ガス供給孔28が開口している。伝熱ガス供給孔28は、伝熱ガス供給ライン29を介して伝熱ガス供給部(図示省略)に接続され、伝熱ガス供給部は伝熱ガスとしてのHe(ヘリウム)ガスを、伝熱ガス供給孔28を介して吸着面及びウエハWの裏面の間隙に供給する。吸着面及びウエハWの裏面の間隙に供給されたHeガスはウエハWの熱を静電チャック23に効果的に伝達する。
【0028】
チャンバ11の天井部には、サセプタ12と処理室15の処理空間Sを介して対向するようにシャワーヘッド30が配置されている。シャワーヘッド30は、上部電極板31と、この上部電極板31を着脱可能に釣支するクーリングプレート32と、クーリングプレート32を覆う蓋体33とを有する。上部電極板31は厚さ方向に貫通する多数のガス孔34を有する円板状部材からなり、半導電体であるSiやSiCによって構成される。また、クーリングプレート32の内部にはバッファ室35が設けられ、バッファ室35にはガス導入管36が接続されている。
【0029】
また、シャワーヘッド30の上部電極板31には直流電源37が接続されており、上部電極板31へ負の直流電圧が印加される。このとき、上部電極板31は二次電子を放出して処理室15内部におけるウエハW上において電子密度が低下するのを防止する。放出された二次電子は、ウエハW上から側方排気路13においてサセプタ12の側面を囲うように設けられた半導電体である炭化珪素(SiC)や珪素(Si)によって構成される接地電極(グランドリング)38へ流れる。
【0030】
このような構成の基板処理装置10では、処理ガス導入管36からバッファ室35へ供給された処理ガスが上部電極板31のガス孔34を介して処理室15内部へ導入され、導入された処理ガスは、第2の高周波電源20からサセプタ12を介して処理室15内部へ印加されたソースRFによって励起されてプラズマとなる。プラズマ中の正イオンは、第1の高周波電源18がサセプタ12に印加するバイアスRFによってウエハWに向けて引き込まれ、ウエハWにプラズマエッチング処理を施す。
【0031】
基板処理装置10の各構成部材の動作は、基板処理装置10が備える制御部(図示省略)のCPUがプラズマエッチング処理に対応するプログラムに応じて制御する。
【0032】
このような基板処理装置を用いたパルス制御方式の基板処理方法として、(1)ソースRFのパルス波の位相とバイアスRFのパルス波の位相における位相差がない同期パルス制御、(2)バイアスRFのパルス波の位相をソースRFのパルス波の位相に対して後方にずらしたパルス制御、及び(3)バイアスRFのパルス波の位相をソースRFのパルス波の位相に対して前方にずらしたパルス制御が考えられる。
【0033】
図2は、パルス制御方式を適用した基板処理方法における各種態様の制御工程を示す図である。図2(A)は、ソースRFのパルス波の位相とバイアスRFのパルス波の位相における位相差がない場合を示し、図2(B)は、バイアスRFのパルス波の位相をソースRFのパルス波の位相に対して1/4周期後方にずらした場合を示し、図2(C)は、バイアスRFのパルス波の位相をソースRFのパルス波の位相に対して1/4周期前方にずらした場合を示す。
【0034】
図2(A)において、ソースRFとバイアスRFとのパルス波の位相が同期しており、ソースRFとバイアスRFが同時にON、OFFされている。従って、ソースRFがONの場合にバイアスRFによって正イオンがウエハWに引き込まれて正イオンによる高効率エッチングが実行される。この場合、ソースRFをOFFした後にしばらくして生成される負イオンは、バイアスRFがOFFされているので、プラズマ中に存在するだけで、ウエハWに引き込まれることはない。したがって、ホールの底部に滞留した正イオンを電気的に中和することができない。
【0035】
図2(B)において、バイアスRFのパルス波の位相がソースRFのパルス波の位相に対して1/4周期だけ後方にずれており、ソースRFをONにした後にバイアスRFをONにし、次いで、ソースRFをOFFにした後にバイアスRFをOFFにする制御が繰り返される。この場合、ソースRFとバイアスRFとが共にONの状態で正イオンによる高効率のエッチングが実行され、ソースRFがOFFでバイアスRFがONの状態でバイアスRFに引き込まれる正イオンによる中効率のエッチングが実行され、ソースRFがONで、バイアスRFがOFFの状態で、ソースRFに起因してサセプタ12に生じるセルフバイアス電圧で引き込まれる正イオンによる低効率のエッチングが実行される。しかしながら、ソースRFがOFFされてしばらく経過した後であって、負イオンが生成される頃にはバイアスRFがOFFにされるため、負イオンがウエハWに引き込まれることがない。したがって、ホールの底部に滞留した正イオンを電気的に中和することができない。さらには、図2(A)の場合よりも正イオンによる高効率のエッチングの時間帯が短くなっているので、エッチング効率は、図2(A)の場合よりも低くなる。
【0036】
次に、図2(C)において、バイアスRFのパルス波の位相がソースRFのパルス波の位相に対して1/4周期だけ前方にずれており、バイアスRFをONにした後にプラズマ生成用のRFをONにし、次いで、バイアスRFをOFFにした後にソースRFをOFFにする制御が繰り返される。この場合、ソースRFとバイアスRFとが共にONの状態で正イオンによる高効率のエッチングが実行され、ソースRFがONでバイアスRFがOFFの状態で、セルフバイアス電圧によって引き込まれる正イオンによる低効率のエッチングが実行される。また、ソースRFがOFFされてしばらく経過した後であって、負イオンが生成される頃には、次のパルス波に対応するバイアスRFがONされるので、プラズマ中の負イオンがバイアスRFによってウエハに引き込まれる。
【0037】
すなわち、図2(C)においては、負イオンによる正イオンの電気的中和を実現できるものの、正イオンによる高効率エッチングの時間帯が図2(A)の場合に比べて短くなっているので、全体としてのエッチング効率は、図2(A)の場合よりも低くなる。
【0038】
本発明者は、プラズマ中で生成される負イオンに着目し、この負イオンを有効利用して全体のエッチング効率を向上させることを目的として、負イオンの動静とソースRF及びバイアスRFのON、OFFのタイミング等について鋭意研究した結果、プラズマ生成用の高周波電力及びバイアス用の高周波電力をそれぞれパルス波状に印加し、プラズマ生成用の高周波電力及びバイアス用の高周波電力を共に印加する正イオンエッチングステップと、プラズマ生成用の高周波電力及びバイアス用の高周波電力の印加を共に停止させる負イオン生成ステップと、バイアス用の高周波電力のみを印加して負イオンを基板に引き込む負イオン引き込みステップと、を設け、バイアス用の高周波電力のデューティー比をプラズマ生成用の高周波電力のデューティー比よりも大きくすることによって、負イオンを有効利用しつつ全体のエッチング効率が高められることを見出し、本発明に到達した。
【0039】
図3は、本発明の実施の形態に係る基板処理方法における制御工程を示す図である。
【0040】
図3において、ソースRFとバイアスRFがそれぞれパルス波状に印加されており、ソースRFとバイアスRFの印加が共に停止(OFF)される負イオン発生ステップ3cの後流に、バイアスRFのみが印加(ON)される負イオン引き込みステップ3aが設けられている。また、負イオン引き込みステップ3aの後流に、ソースRF及びバイアスRFが共にONされる正イオンエッチングステップ3bが設けられている。負イオン生成ステップ3c、負イオン引き込みステップ3a及び正イオンエッチングステップ3bは順次繰り返される。
【0041】
先ず、負イオン生成ステップ3cにおける負イオンの生成メカニズムについて、詳細に説明する。
【0042】
図4は、負イオンが生成されるメカニズムを示す説明図である。なお、図4における下のグラフでは、実線が電子温度(Te)を示し、破線が負イオンの密度を示す。
【0043】
図4において、ソースRFがOFFからONに切り替わる(図3の負イオン引き込みステップ3aから正イオンエッチングステップ3bに切り替わる)と、プラズマが発生して処理室内の電子温度(Te)が上昇し、電子及び正イオンの密度が高くなり、この電子及び正イオンの密度が高い状態で正イオンによる高効率エッチングが実行される。
【0044】
プラズマ中には、主として処理ガスから生じた電子、正イオン、及びラジカルが存在するが、正イオンエッチングステップ3bが終了し、ソースRFがOFFされると、電子はエネルギーを失い、電子温度は低下する。そして、電子温度が低下することによって失活してエネルギーが小さくなった電子は、単独で存在することができずに処理室15内を浮遊する中性な分子や原子又はラジカルに付着し、これによって、例えばF、CF等の負イオンが生成される。このとき、プラズマは、正イオンと負イオンが混在するイオン−イオンプラズマとなる。
【0045】
分子又はラジカルへの電子の付着は、電子が分子又はラジカルと衝突することによって進行するため、負イオンの生成速度は遅く、負イオンはソースRFがOFFされた後、徐々に生成され、増加する。従って、ソースRFがOFFされた後、所定の時間、例えば10〜30μsecが経過していないと、バイアスRFをONにしてもウエハWに引き込み可能な負イオンの密度が低いため、正イオンの電気的中和を行うことができない。そこで、本実施の形態では、ソースRFがOFFされた後、所定の時間が経過して負イオンの密度が高くなってから次のパルス波に対応するバイアスRFをONする。
【0046】
次に、本実施の形態における特徴部分である負イオン引き込みステップ3aについて詳細に説明する。
【0047】
ソースRF及びバイアスRFが共にOFFされる負イオン生成ステップが終了した後、プラズマの生成に寄与しないバイアスRFのみをONにして負イオン引き込みステップ3aに移行する。負イオン引き込みステップ3aでは、ソースRFはOFFされているので、ソースRFによるセルフバイアス電圧は発生しない。従って、負イオンを引き込むバイアス電圧はバイアスRFによるものが支配的になり、その電位は±0のラインを中心にしてプラス側及びマイナス側に振幅を繰り返す。
【0048】
図5は、負イオン引き込みステップ3aにおけるバイアス電圧の変化を示すグラフであり、該バイアス電圧を正イオンエッチングステップ3bにおけるバイアス電圧のグラフと比較して示したものである。
【0049】
図5において、ソースRF及びバイアスRFを印加してプラズマエッチング処理を実行する場合(図5中、下方のグラフ)は、処理室内の電子温度が高くなって処理室内にプラズマが発生する。従って、発生したプラズマとのバランスをとるためにウエハWにマイナス電位のバイアス電圧が発生する。このバイアス電圧は、電位がマイナス領域で振幅を繰り返す。
【0050】
これに対して、負イオン引き込みステップ3aにおいては、ソースRFがOFFされており、電子密度が充分低下してプラズマが薄くなっているので、バイアス電圧の電位は±0のラインまで移動し、該電位は±0のラインを中心にして上下に振幅する(図5中、上方のグラフ)。そして、バイアス電圧の電位がプラス領域に振幅した際にウエハWの対象膜に負イオンが引き込まれ、マイナス領域に振幅した際にウエハWの対象膜に正イオンが引き込まれる。
【0051】
ここで、負イオン引き込みステップ3aにおいてウエハWの対象膜に引き込まれた負イオンの作用について説明する。
【0052】
図6は、本実施の形態における負イオンの作用を示す説明図である。
【0053】
図6において、ウエハWの対象膜60に形成されたホール61の底部には、正イオンによる正イオンエッチングステップ3bにおけるエッチングの結果、正イオン62が滞留している。この状態で、さらに正イオンによるエッチングを続けると、対象膜60に取り込まれるべき正イオン63がホール61の底部に滞留する正イオン62と反発するので、エッチングがスムーズに進行しない虞がある。
【0054】
一方、正イオンエッチングステップ3bの前段に、バイアスRFのみをONする負イオン引き込みステップ3aを設け、ウエハWの対象膜60に処理室内の負イオン64を引き込むことによって、ホール61の底部に滞留する正イオン62が電気的に中和される。
【0055】
このように、負イオン64を利用してウエハWの対象膜60におけるプラスチャージを中和することによって、ホール61に次の正イオン63が入り易くなるので、正イオンエッチングステップ3bにおけるエッチングがスムーズに進行する。
【0056】
このように、本実施の形態においては、正イオンエッチングステップ3bが終了した後、ソースRF及びバイアスRFを共にOFFし、プラズマの電子温度(Te)を充分低下させ、これによって処理室内で次第に負イオンを生成させる(負イオン生成ステップ3c)。次いで、バイアスRFのみをONして処理室15内で生成した負イオンを対象膜60に引き込む(負イオン引き込みステップ3a)。その後、ソースRFをONして正イオンによる高効率エッチングを実行し(正イオンエッチングステップ3b)、以下、負イオン生成ステップ3c、負イオン引き込みステップ3a及び正イオンエッチングステップ3bを順次繰り返して、ウエハWの対象膜60に所定のエッチング処理を施す。
【0057】
本実施の形態によれば、バイアスRFのデューティー比は、例えば0.7〜0.8、好ましくは0.75に設定され、ソースRFのデューティー比は、例えば0.5〜0.6、好ましくは0.5に設定される。バイアスRFのデューティー比をソースRFのデューティー比よりも大きくすることによって、負イオンを引き込んでホール底部のプラスチャージを中和した後、正イオンエッチングステップにおけるエッチング時間を充分確保することができ、これによって全体としてのエッチング効率を高めることができる。この場合、ソースRF及びバイアスRFにおけるパルス波の周波数は、同じであり、例えば、1kHz〜20kHzにコントロールされる。
【0058】
本実施の形態において、正イオンエッチングステップ3bは、パルス波の1/2周期以上に亘って継続されることが好ましい。これによって、正イオンエッチングステップの期間を充分確保して全体のエッチング効率を高めることができる。
【0059】
本実施の形態において、負イオン生成ステップ3cは、パルス波の1/4周期以上に亘って継続されることが好ましい。これによって、負イオンを確実に生成させ、その後の負イオン引き込みステップ3aにおいて、負イオンを効率よくウエハWの対象膜に引き込むことができる。
【0060】
本実施の形態において、処理室15内の電子温度が充分に下がり、負イオンが充分に生成されるまでの時間は、例えば10〜30μsec間である。従って、負イオン生成ステップ3cとして、10〜30μsec間を確保することが好ましい。すなわち、ソースRF及びバイアスRFが共にOFFされて正イオンエッチングステップ3bが終了した後、10〜30μsec間の負イオン生成ステップ3cを確保、継続し、その後、バイアスRFをONにして負イオン引き込みステップ3aに移行することが好ましい。これによって、負イオンの生成時間を充分に確保することができ、その後の負イオン引き込みステップ3aにおいて、負イオンを効率よくウエハWの対象膜60のホール61内に引き込んで、滞留する正イオン62を中和することができる。
【0061】
この場合、バイアスRFの周波数は、プラズマを生成しない周波数、例えば4MHz以下であることが好ましい。これによって、負イオンをバイアス周波数の変動に追従させることができ、もって、負イオンの引き込み効率を向上させることができる。なお、負イオン生成ステップ3cは、処理室内のプラズマが薄くなって電子温度が低下し、セルフバイアス電圧がマイナス領域から±0のライン近傍まで移行する程度まで、正イオンの量が減少するのに必要な時間と考えることができる。
【0062】
本実施の形態において、基板処理装置として下部RF2周波の装置を用いたが、本発明は、下部RF2周波の装置に限らず、上下RF2周波の装置においても実行することができる。
【0063】
以上、本発明について、実施の形態を用いて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0064】
また、上述した実施の形態において、プラズマ処理が施される基板は半導体デバイス用のウエハに限られず、LCD(Liquid Crystal Display)を含むFPD(Flat Panel Display)等に用いる各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等であってもよい。
【0065】
また、本発明の目的は、上述した各実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記憶した記憶媒体を、システム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行することによっても達成される。
【0066】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が上述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード及び該プログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0067】
また、プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW等の光ディスク、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。または、プログラムコードをネットワークを介してダウンロードしてもよい。
【0068】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、上述した実施の形態の機能が実現されるだけではなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上述した各実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0069】
さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その拡張機能を拡張ボードや拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上述した各実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【符号の説明】
【0070】
10 基板処理装置
11 処理室
12 サセプタ
30 シャワーヘッド
60 対象膜
61 ホール
62 正イオン
63 正イオン
64 負イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にプラズマが生じる処理室と、該処理室内に配置され基板を載置する載置台と、該載置台に対向配置された電極と、を備える基板処理装置の、前記処理室内にプラズマ生成用の高周波電力を印加し、前記載置台に前記プラズマ生成用の高周波電力よりも周波数が低いバイアス用の高周波電力を印加して前記基板にプラズマエッチング処理を施す基板処理方法であって、
前記プラズマ生成用の高周波電力及び前記バイアス用の高周波電力をそれぞれパルス波として印加し、
前記プラズマ生成用の高周波電力及び前記バイアス用の高周波電力を共に印加して前記プラズマ中の正イオンによって前記基板にエッチング処理を施す正イオンエッチングステップと、
前記プラズマ生成用の高周波電力及び前記バイアス用の高周波電力の印加を共に停止して前記処理室内で負イオンを発生させる負イオン生成ステップと、
前記プラズマ生成用の高周波電力の印加を停止し、前記バイアス用の高周波電力を印加して前記負イオンを前記基板に引き込む負イオン引き込みステップと、を有し、
前記バイアス用の高周波電力のデューティー比を前記プラズマ生成用の高周波電力のデューティー比よりも大きくすることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
前記バイアス用の高周波電力のデューティー比は0.7〜0.8、前記プラズマ生成用の高周波電力のデューティー比は0.5〜0.6であることを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記正イオンエッチングステップを前記パルス波の1/2周期以上に亘って継続することを特徴とする請求項1又は2記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記負イオン生成ステップを前記パルス波の1/4周期以上に亘って継続することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記負イオン生成ステップを10〜30μsec間に亘って継続することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記正イオンエッチングステップ、前記負イオン生成ステップ及び前記負イオン引き込みステップを順次繰り返すことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の基板処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−9544(P2012−9544A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142740(P2010−142740)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】