説明

基板収納容器の排出用ポート

【課題】例え数kPa程度の圧力差でも、拡散による酸素の逆流を防止することのできる基板収納容器の排出用ポートを提供する。
【解決手段】容器本体1に供給用ポートと排出用ポート20とをそれぞれ複数配設し、各排出用ポート20を、容器本体1に取り付けられる中空のケース21と、ケース21に内蔵されるフィルタ24と、ケース21に内蔵される逆止弁25とから構成する。ケース21の両端面にそれぞれ通気孔22を穿孔し、ケース21の一端面を容器本体1から露出させ、このケース21の一端面とフィルタ24との間に逆止弁25を介在させるとともに、ケース21の一端面に被覆体30を重ねて装着し、被覆体30の内部には、ケース21の一端面の通気孔22と連通する細長い流通路31を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等からなる基板を収納する容器本体に排出用ポートを備えた基板収納容器の排出用ポートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の基板収納容器は、図示しないが、半導体ウェーハ等からなる複数枚の基板を整列収納するフロントオープンボックスタイプの容器本体と、この容器本体の開口した正面部を開閉する着脱自在の蓋体とを備え、容器本体に供給用ポートと排出用ポートとが配設されており、これら供給用ポートと排出用ポートが蓋体により密閉された容器本体の内部の空気を窒素ガスに置換する際に使用される(特許文献1、2参照)。
【0003】
供給用ポートと排出用ポートとは、容器本体の底部に配設され、供給用ポートが大気圧以上の窒素ガスを容器本体の外部から内部に供給し、排出用ポートが窒素ガスの供給に伴い空気が容器本体の内部から外部に排出されるのを許容する。排出用ポートは、容器本体の底部に装着される中空のケースと、このケースに内蔵されるフィルタと、ケースに内蔵されて外部に排出された空気の逆流を規制する逆止弁とを備えて構成されている。
【特許文献1】特開2006‐156712号公報
【特許文献2】特開2006‐5193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、基板収納容器は、窒素ガスの供給直後の内部酸素濃度が1ppm以下であり、窒素ガスの供給が停止されると、内部が大気圧と同等になるまで数秒を要する。この場合、基板収納容器の内部と大気圧との差が数kPa程度で、大気圧に戻る数秒の間、排出用ポートの逆止弁が開放しているので、基板収納容器の内部と外部の雰囲気とがごく短い距離で連通している状態となる。
【0005】
酸素と窒素ガスの常温における拡散定数は0.2mm/secであるから、上記数kPa程度の圧力差では、拡散により酸素が基板収納容器の内部に流入し、基板収納容器の内部の酸素濃度を低レベルに保持することができないという問題がある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、例え数kPa程度の圧力差でも、拡散による酸素の逆流を防止することのできる基板収納容器の排出用ポートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、基板を収納する容器本体とその蓋体のいずれかに排出用ポートを設けたものであって、
排出用ポートは、容器本体あるいは蓋体に取り付けられる中空のケースと、このケースに内蔵されるフィルタと、ケースに内蔵される逆止弁とを含み、ケースの両端面にそれぞれ通気孔を設け、ケースの一端面を容器本体あるいは蓋体から露出させ、このケースの一端面とフィルタとの間に逆止弁を介在させるとともに、ケースの一端面に被覆体を重ねて取り付け、この被覆体には、ケースの一端面の通気孔と連通する流通路を形成したことを特徴としている。
【0008】
なお、被覆体を断面略U字形に形成してその底部とケースの一端面との間に空隙を形成し、被覆体の底部に流通路を形成すると良い。
【0009】
ここで、特許請求の範囲における基板には、少なくとも各種大きさの半導体ウェーハ(例えば、φ200mm、300mm、450mm等)やガラス基板等が単数複数含まれる。また、容器本体は、フロントオープンボックスタイプ、トップオープンボックスタイプ、ボトムオープンボックスタイプのいずれでも良く、透明、不透明、半透明を特に問うものではない。
【0010】
排出用ポート、通気孔、フィルタは、単数複数いずれでも良い。ケースの一端面に被覆体を重ねて取り付ける際、凹凸部、係合片、螺子締め等の技術を用いて着脱自在に取り付けることが好ましいが、接着等により固定しても良い。さらに、流通路は、ある程度の長さを有する断面I字形、J字形、L字形、S字形、U字形、V字形、クランク形等、所定の形に形成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例え数kPa程度の圧力差でも、拡散による酸素の逆流を防止することのできる基板収納容器の排出用ポートを提供できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明に係る基板収納容器の排出用ポートの好ましい実施形態を説明すると、本実施形態における基板収納容器の排出用ポートは、図1ないし図5に示すように、基板Wを収納する容器本体1に供給用ポート5と排出用ポート20とをそれぞれ複数配設し、各排出用ポート20のケース21の一端面に被覆体30を積層装着してその内部にはケース21の一端面の通気孔22と連通する長い流通路31を形成するようにしている。
【0013】
基板Wは、図2や図3に示すように、例えばφ300mmの薄い半導体ウェーハからなり、複数枚(例えば、25又は26枚)が容器本体1内に整列収納されて上下方向に所定の間隔で配列される。
【0014】
容器本体1は、図1等に示すように、所定の樹脂(例えばPC等)を含む成形材料を使用してフロントオープンボックスタイプに成形され、開口した正面部に着脱自在の蓋体10が図示しない蓋体開閉装置により嵌合される。この容器本体1は、その内部両側に基板Wを水平に支持するティースがそれぞれ複数配列され、底部底面に略平板のボトムプレート2が下方から装着されており、このボトムプレート2の前部両側と後部中央とには、図示しない基板W用の加工装置の位置決めピンに上方から嵌合する位置決め具3が配設される(図4参照)。
【0015】
容器本体1の底部には図4に示すように、ボトムプレート2を回避するポート用の取付螺子孔4が複数穿孔され、この複数の取付螺子孔4に、前方に位置する供給用ポート5と後方に位置する排出用ポート20とがOリングを介しそれぞれ螺嵌される。また、容器本体1の天井中央部には図1や図2に示すように、平面略矩形の把持フランジ6が着脱自在に装着され、この把持フランジ6が図示しない搬送ロボットに把持されることにより、基板収納容器が工場内を搬送される。
【0016】
容器本体1の正面部の上下両側には、蓋体10用の係止穴がそれぞれ凹み形成され、容器本体1の背面壁には、基板Wの有無や枚数等を把握する観察窓7が縦長に一体形成される(図3参照)。また、容器本体1の両側壁外面には図1や図2等に示すように、手動操作用のハンドル8がそれぞれ着脱自在に装着される。
【0017】
蓋体10は、図1に示すように、容器本体1の正面部に嵌合する横長の筐体11と、この筐体11の開口した表面を覆う透明の表面プレート12と、これら筐体11と表面プレート12との間に介在される施錠機構13とを備えて構成される。筐体11の裏面中央部には、基板Wの前部周縁を保持する弾性のフロントリテーナが装着され、筐体11の周壁には、容器本体1の正面部内周に圧接するエンドレスのガスケットが弾性変形可能に嵌合される。
【0018】
施錠機構13は、筐体11に軸支されて表面プレート12の外部から回転操作される左右一対の操作プレート14と、各操作プレート14の回転に伴い蓋体10の上下方向にスライドする複数のスライド板15と、各スライド板15の先端部に連結されて容器本体1の係止穴に干渉する出没自在の係止爪16とを備え、容器本体1の正面部に嵌合した蓋体10を強固に施錠するよう機能する。
【0019】
各排出用ポート20は、図5に示すように、容器本体1の取付螺子孔4に螺着されるケース21と、このケース21に内蔵される濾過用のフィルタ24と、ケース21に内蔵される可撓性の逆止弁25とを備え、蓋体10により密閉された容器本体1の内部の空気が窒素ガスに置換される際、窒素ガスの供給に伴い空気を容器本体1の内部から外部に排出するよう機能する。
【0020】
ケース21は、例えば所定の樹脂(例えばPA、PC、PEEK等)を含む成形材料を使用して中空の円柱形に形成され、上下の両端面にそれぞれ複数の通気孔22が穿孔される。このケース21の一端面である下端面23は、容器本体1の底部底面から露出して他端面である上端面を容器本体1の内部側方に基板Wと干渉しないよう位置させ、フィルタ24との間に逆止弁25が介在される。
【0021】
フィルタ24と逆止弁25とは、共に平面円形に形成され、フィルタ24がPTFE繊維、コットン、ポリプロピレン等を用いて製造される。逆止弁25は、フィルタ24の下面に間隔をおいて対向し、外部に排出された空気の容器本体1内部への逆流を規制するよう機能する。
【0022】
被覆体30は、所定の樹脂(例えばPA、PC、PEEK等)を含む成形材料を使用して円板形に形成され、内部には、ケース21の下端面23の通気孔22と外部とを連通する細長い流通路31が形成される。この流通路31は、高アスペクト比の断面略L字形に形成され、長辺部が被覆体30の中心部から半径外方向に指向してその周面に開口する。
【0023】
上記構成によれば、逆止弁25の下流下部に高アスペクト比の流通路31を形成し、基板収納容器の内部と外部の雰囲気との距離を延長して連通するので、例え基板収納容器の内部と大気圧との差が数kPa程度の圧力差でも、拡散により酸素が基板収納容器の内部に逆流することが全くない。したがって、基板収納容器の内部の酸素濃度を低レベルに保持することができる。
【0024】
次に、図6は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、被覆体30を断面略U字形に形成してその底部とケース21の下端面23との間に大きな空隙32を形成し、被覆体30の底部中心に短い流通路31Aを厚さ方向に形成するようにしている。その他の部分については、上記実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0025】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、流通路31Aと深い空隙32とが高アスペクト比の長い流通路31を実質的に形成するので、酸素の逆流をより効果的に抑制防止することができるのは明らかである。
【0026】
なお、上記実施形態では容器本体1に25枚又は26枚の基板Wを収納したが、何らこれに限定されるものではなく、容器本体1に2、3枚の基板Wを収納しても良い。また、施錠機構13を、蓋体10の左右方向にスライドする複数のスライド板15と、各スライド板15の先端部に連結されて容器本体1の係止穴に干渉する出没自在の係止爪16とから構成しても良い。
【0027】
また、容器本体1に供給用ポート5を配設するとともに、蓋体10の筐体11に排出用ポート20を配設し、これら供給用ポート5と排出用ポート20とにより、蓋体20により密閉された容器本体1の内部の空気を窒素ガスに置換するようにしても良い。また、蓋体10の筐体11に供給用ポート5と排出用ポート20とを配設し、これら供給用ポート5と排出用ポート20とにより、蓋体20により密閉された容器本体1の内部の空気を窒素ガスに置換することもできる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明に係る基板収納容器の排出用ポートの実施例を比較例と共に説明するが、本発明に係る基板収納容器の排出用ポートは以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
実施例1〜6
基板収納容器の容器本体に供給用ポートと排出用ポートとを配設して各排出用ポートの下端面には被覆体を装着し、この被覆体の仕様を実施例に応じて変更し、これらにより、蓋体により密閉された容器本体の内部の空気を窒素ガスに置換し、この置換から10秒あるいは120秒後の酸素濃度を測定してその結果を表1にまとめた。
【0030】
被覆体は、実施例1、2、3の場合には、PC(ポリカーボネート)により射出成形された第一、第二の円板を積層接着することにより製造した。この第一、第二の円板については、共に厚さ1mm、直径24mmの大きさとした。第一の円板の中心部には、φ1mmの穴を穿孔し、第一の円板の表面には、第二の円板に被覆される流通路用の溝を凹み形成しており、穿孔した穴に流通路用の溝の端部を接続した。流通路は、平面視でクランク形等に蛇行させることにより、長さを調整した。
【0031】
実施例1、2、3の被覆体は、第1の実施形態のタイプとし、流通路の断面積が0.25mmの場合には、流通路用の溝を0.5mm×0.5mmの矩形とした。また、流通路の断面積が0.04mmの場合には、流通路用の溝を0.2mm×0.2mmの矩形とし、流通路の断面積が1mmの場合には、流通路用の溝を1mm×1mmの矩形とした。
【0032】
実施例4、5、6の流通路は、それぞれ5mm、5mm、2mmの厚さを有するPC製の板に、1mm□、0.5mm□、0.5mm□の穴を備えた板により形成した。また、被覆体の底部とケースとの間に空隙を形成する場合には、逆止弁と短い流通路の間に直径24mm、間隔5mmで形成した。
【0033】
比較例1〜3
基板収納容器の容器本体に供給用ポートと排出用ポートとを配設して各排出用ポートの下端面には被覆体を選択的に装着し、この被覆体の有無や仕様を比較例に応じて変更し、これらにより、蓋体により密閉された容器本体の内部の空気を窒素ガスに置換し、この置換から10秒あるいは120秒後の酸素濃度を測定してその結果を表1にまとめた。
被覆体については、基本的には実施例と同様であるが、流通路の断面積が19.6mmの場合には、厚さφ5mmの穴とした。
【0034】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る基板収納容器の排出用ポートの実施形態を模式的に示す全体斜視説明図である。
【図2】本発明に係る基板収納容器の排出用ポートの実施形態における開放状態の容器本体を模式的に示す斜視説明図である。
【図3】本発明に係る基板収納容器の排出用ポートの実施形態における容器本体を模式的に示す背面説明図である。
【図4】本発明に係る基板収納容器の排出用ポートの実施形態における容器本体を模式的に示す底面説明図である。
【図5】本発明に係る基板収納容器の排出用ポートの実施形態における排出用ポートを模式的に示す断面説明図である。
【図6】本発明に係る基板収納容器の排出用ポートの第2の実施形態における排出用ポートを模式的に示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 容器本体
4 取付螺子孔
5 供給用ポート
10 蓋体
11 筐体
20 排出用ポート
21 ケース
22 通気孔
23 下端面(一端面)
24 フィルタ
25 逆止弁
30 被覆体
31 流通路
31A 流通路
32 空隙
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収納する容器本体とその蓋体のいずれかに排出用ポートを設けた基板収納容器の排出用ポートであって、
排出用ポートは、容器本体あるいは蓋体に取り付けられる中空のケースと、このケースに内蔵されるフィルタと、ケースに内蔵される逆止弁とを含み、ケースの両端面にそれぞれ通気孔を設け、ケースの一端面を容器本体あるいは蓋体から露出させ、このケースの一端面とフィルタとの間に逆止弁を介在させるとともに、ケースの一端面に被覆体を重ねて取り付け、この被覆体には、ケースの一端面の通気孔と連通する流通路を形成したことを特徴とする基板収納容器の排出用ポート。
【請求項2】
被覆体を断面略U字形に形成してその底部とケースの一端面との間に空隙を形成し、被覆体の底部に流通路を形成した請求項1記載の基板収納容器の排出用ポート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−206156(P2009−206156A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44515(P2008−44515)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】