説明

基板複合体、カーボンナノチューブ複合体、エネルギーデバイス、電子機器および輸送デバイス

【課題】基板上に配置される粒子の凝集を低減して、基板表面に分散性よく粒子が配置された、基板複合体、及び、基板の表面にカーボンナノチューブが高密度で形成されたカーボンナノチューブ複合体を提供する。
【解決手段】基板複合体が、基板と、前記基板の少なくとも一方の表面に配置された粒子群を有する層と、を備え、前記層は、遷移金属及びアルカリ金属を含む。また、カーボンナノチューブ複合体は、前記基板複合体と、前記粒子群に一端が接続されている複数本のカーボンナノチューブと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板複合体、カーボンナノチューブ複合体、エネルギーデバイス、電子機器および輸送デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーデバイスは、エネルギー蓄積デバイスとエネルギー発電デバイスに大きく分けることができる。従来、エネルギー蓄積デバイスとして代表的なものに、電気化学キャパシタ、及び、電池があり、それぞれの特徴を生かした市場において既に使用されている。電気化学キャパシタにはさらに、活性炭を分極性電極活物質として用い、活性炭の細孔表面と電解液との界面に形成される電気二重層を利用した電気二重層キャパシタや、硝酸ルテニウムなど連続的に価数が変化する遷移金属酸化物やドーピング可能な導電性高分子を用いたレドックスキャパシタなどがある。また電池は、活物質のインターカレーションや化学反応を利用し充放電が可能な二次電池と、基本的に1度放電してしまえば再充電不可能な一次電池に大別される。
【0003】
このような種々のエネルギー蓄積デバイス全てに共通する最も基本的な構成は、その原理上エネルギーを放出可能な電極活物質である。この電極活物質に蓄積されたエネルギーを外部に取り出すため、電子伝導性を持ち電極活物質と電気的に接続された集電体(導電体)がさらに必要となる。集電体は、電極活物質のエネルギーを高効率で伝達する必要があるため、一般的にアルミニウム、銅、ステンレスなど非常に抵抗の低い金属材料が用いられる。しかし、硫酸水溶液など金属腐食性を持つ電解液を使用する場合には、導電性を付与したゴム系材料などが用いられる場合がある。
【0004】
近年、エネルギー蓄積デバイスの用途が大きく広がるに従い、より低抵抗で、大電流の放電が可能な優れた特性を持つものが要求されてきている。これらの特性は、まずエネルギー蓄積デバイスの中で原理的に最も抵抗の低い電気二重層キャパシタに求められ、電極活物質と集電体の接合面に炭素系導電層を設けることによって実現された。電気二重層キャパシタにおいては、電極活物質中の電子抵抗が他の二次電池と比較して低いため、電極活物質と集電体間の接触抵抗がデバイスの抵抗に対して無視できないほどの割合を占めていたからである。現状では同様な傾向がリチウム2次電池においても追求されようとしている。
【0005】
これらの問題を解決する手段として、一端が集電体に接続したカーボンナノチューブを電極活物質に用いたエネルギーデバイスが検討されている。カーボンナノチューブは直径が最小0.4nmで、長さが最大4mmの中空状炭素材料である。カーボンナノチューブの一端が基板に接続された構成を有するカーボンナノチューブ電極は従来のペレット型電極と異なり、導電補助材や結着材を必要としないので活物質体積率が100%であり、基板である集電体と電極活物質が接続しているため電気抵抗が非常に低いという特徴がある。さらに、カーボンナノチューブは理想比表面積が2625m/gと極めて高く、特に電気二重層コンデンサへの応用に適している。
【0006】
近年、基板表面においてカーボンナノチューブを高密度で合成するための研究が盛んに行われている。上記エネルギーデバイスへの応用においてもカーボンナノチューブの密度を増加させることで、単位体積あたりの比表面積の増加、及びコスト低減が可能となるため、重要な開発要素となっている。
【0007】
基板上でカーボンナノチューブを合成する際には、あらかじめ基板上に多数の微小な触媒粒子を分散配置するという方法が用いられている。この方法によると、1本のカーボンナノチューブは1つの触媒粒子を起点に成長すると考えられている。そのためカーボンナノチューブを高密度で合成するには基板上に触媒粒子を高密度で並べる手法が必要となる。
【0008】
非特許文献1では、粒径506nmのポリスチレン球粒子中にさらに小さい粒径5nmのシリカ粒子を混合させることで粒子の移動性を向上させ、粒子の配列性を高めることが記載されている。
【0009】
非特許文献2及び3では、シリコン基板上で、1×1012本/cmという高密度でカーボンナノチューブを合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】表面科学、Vol.25,No.10,pp.642−649
【非特許文献2】J.Phys.Chem.C,111(48)、17961
【非特許文献3】App.Phys.Express 3 055002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の技術では、基板表面に触媒粒子を配置する際に、触媒粒子同士が凝集してしまい、基板表面に触媒粒子が分散性良く配置されず、基板表面で、触媒粒子により被覆されていない空隙が大きくなるという問題があった。
【0012】
さらに、従来の技術により調製された、触媒粒子が表面に配置された基板を用いて、カーボンナノチューブを合成すると、基板表面でのカーボンナノチューブの密度が低下するという問題もあった。これは、カーボンナノチューブ合成時の加熱によって触媒粒子が熱凝集するため、カーボンナノチューブの密度が低下するものと考えられる。
【0013】
そこで、本発明は、基板上に配置される粒子の凝集を低減して、基板表面に分散性よく粒子が配置された基板複合体、特にカーボンナノチューブ形成用基板複合体を提供することを目的とする。
【0014】
さらに、本発明は、基板の表面にカーボンナノチューブが高密度で形成されたカーボンナノチューブ複合体、並びに、当該複合体を含むエネルギーデバイス、電子機器、及び輸送デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、基板と、前記基板の少なくとも一方の表面に配置された粒子群を有する層と、を備え、前記層は、遷移金属及びアルカリ金属を含む、基板複合体に関する。
【0016】
また本発明は、表面にカーボンナノチューブを形成するための基板複合体であって、前記基板複合体は、基板と、前記基板の少なくとも一方の表面に配置された触媒粒子群を有する触媒層と、を備え、前記触媒層は、遷移金属及びアルカリ金属を含む、基板複合体に関する。
【0017】
また本発明は、前記基板複合体と、前記触媒粒子群に一端が接続されている複数本のカーボンナノチューブと、を有する、カーボンナノチューブ複合体にも関する。
【0018】
また本発明は、正極と負極からなる少なくとも一対の電極体を含み、前記正極及び前記負極の少なくとも1つが、前記カーボンナノチューブ複合体である、エネルギーデバイスにも関する。
【0019】
また本発明は、前記エネルギーデバイスと電気回路とを備え、前記エネルギーデバイスから前記電気回路に電流が供給される、電子機器にも関する、
また本発明は、前記エネルギーデバイスと駆動部とを備え、前記エネルギーデバイスから前記駆動部に電流が供給される、輸送デバイスにも関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、基板表面に、粒子を分散性よく配置することができ、基板表面で、粒子による被覆率を高め、粒子が配置されていない空隙を小さくすることができる。さらに、このように分散性よく配置された粒子を触媒として、基板表面にカーボンナノチューブを高密度で合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態における基板複合体の断面概念図
【図2】本発明の実施形態における触媒金属含有粒子の構造の一例を示す模式図
【図3】本発明の別の実施形態における基板複合体の断面概念図
【図4】本発明の実施形態におけるカーボンナノチューブ複合体の断面概念図
【図5】本発明の実施形態における捲回型エネルギーデバイスの斜視図
【図6】触媒金属含有粒子群が形成された基板表面のSEM写真
【図7】触媒金属含有粒子中のナトリウムモル濃度に対する被覆率の関係を示すグラフ
【図8】カーボンナノチューブ複合体の断面のSEM写真
【図9】本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合体を含むエネルギーデバイスを搭載した携帯型電話の概念図
【図10】本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合体を含むエネルギーデバイスを搭載した自動車の概念図
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明者らが発明に至った経緯について説明する。本発明者らが鋭意研究した結果、意外なことに、触媒粒子分散溶液にアルカリ金属を含有させることで、遷移金属を含む触媒粒子群を基板表面に形成する際に触媒粒子の凝集が低減され、基板表面に分散性よく触媒粒子を配置できることを見出した。
【0023】
従来、アルカリ金属はカーボンナノチューブ合成用の触媒としては作用しないことが知られている。触媒粒子の合成過程に起因して、触媒粒子分散溶液にアルカリ金属が不純物として混入しないように、当該アルカリ金属を、基板への塗布前にあらかじめ除去しておくことが技術常識であった。
【0024】
本発明者らは、このような技術常識に反し、遷移金属を含む触媒粒子分散溶液にアルカリ金属を含有させることで、触媒粒子が基板表面で分散性良く配列されることを見出したものである。さらに、このようにして得られた基板複合体を用いてカーボンナノチューブを合成すると、基板複合体表面にカーボンナノチューブを高密度で合成できることを見出し、本発明に至った。
【0025】
このような基板複合体は、カーボンナノチューブ形成用途以外にも使用できる。このような基板複合体は、例えば、プラズモン共鳴を利用したデバイス(センサーなど)の構成部材として使用することができる。ナノ粒子中の電子は、光と相互作用して表面プラズモン共鳴することが知られている。ナノ粒子被覆率や密度が高くなることで粒子数が増大し、デバイスの応答性や感度が向上する。
【0026】
また、このような基板複合体は、高密度磁気記録媒体としても使用することができる。磁気記録媒体としてナノ粒子が用いられる場合、各ナノ粒子に情報を記録できるため、ナノ粒子の被覆率や密度が高くなることで記録容量が増加する。
【0027】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0028】
(実施の形態1)
[基板複合体]
まず、本実施形態による基板複合体の構造について説明する。
【0029】
図1は、本実施形態における基板複合体の断面概念図を示す。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の基板複合体10は、基板13と、基板表面に形成された触媒金属含有粒子群12とを含む。触媒金属含有粒子群12が接する基板13の表面上にはバッファ層14が形成されていてもよい。この形態を図3に示す。
【0031】
本実施形態において、基板13は特に限定されないが、金属基板を使用することができる。金属基板は、導電性がよいため、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル、又は、チタンから構成される基板であってもよい。また、2種類以上の金属板が積層されることで基板13を構成してもよい。また、基板13は、シリコン基板、サファイア基板などの半導体基板、又は、ガラス基板であってもよい。
【0032】
なかでもアルミニウムから構成される基板は、活性炭を電極活物質として含む電気二重層キャパシタの集電体として用いられていることから、本発明の実施の形態でも、基板13として特に好ましく使用することができる。アルミニウムから構成される基板は、アルミニウムを主要構成元素とする限り、他の元素を含むものであってもよい。
【0033】
基板13の厚さは特に限定されないが、例えば10〜100μmである。
【0034】
任意に形成される前記バッファ層は、構成元素としてアルミニウム原子と酸素原子とを含むものであり、具体的には、酸化アルミニウム層又は酸化アルミニウム粒子群から構成されていてもよい。バッファ層は基板13表面に薄膜状に形成されたものであってもよいし、基板13表面に形成された微小な複数の粒子から構成される粒子群であってもよい。バッファ層を配置することで、カーボンナノチューブの合成速度を向上させることができる。
【0035】
触媒金属含有粒子群12は基板13又はバッファ層14上に配置されている。
【0036】
図2は、本実施形態における触媒金属含有粒子群12を構成する1つの触媒金属含有粒子の構造の一例を示す模式図である。図示されている触媒金属含有粒子は、金属コア15の周囲が界面活性体16によって覆われた構造を有する。金属コア15は、単結晶、多結晶及びアモルファス構造のいずれかの状態にある。好ましくは、金属コア15は、カーボンナノチューブを合成するのに適した約1nm〜約10nmの範囲の直径を有する球形又は多角形であってよい。より好ましくは、形状は球形であり、約4nm〜約7nmの直径を有する。
【0037】
金属コア15は、構成元素として、カーボンナノチューブを成長させるための触媒として作用する遷移金属、及び、アルカリ金属を含む。金属コア15は、1つの粒子の中に遷移金属とアルカリ金属の双方を含む複合粒子からなるものであってよい。1つの粒子の中に遷移金属とアルカリ金属が含まれることで、複合粒子同士の凝集が抑制され、触媒金属含有粒子の分散性が向上する。また、金属コア15として、アルカリ金属を含まず遷移金属から構成される複数の遷移金属粒子と、遷移金属を含まずアルカリ金属から構成される複数のアルカリ金属粒子の双方が併存していてもよい。後者の場合、2つの前記遷移金属粒子の間に、1以上の前記アルカリ金属粒子が配置されることで、触媒金属含有粒子群12が構成される。このような配置により、遷移金属粒子同士の凝集が抑制され、触媒金属含有粒子の分散性が向上する。また、前記複合粒子と、遷移金属粒子及びアルカリ金属粒子がすべて含まれるものであってもよい。
【0038】
前記遷移金属は、従来、カーボンナノチューブを成長させるための触媒として作用することが知られている元素である。そのような遷移金属としては、カーボンナノチューブ成長の触媒作用が大きいため、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。金属コア15は、上記遷移金属の単体から構成されてもよいし、上記遷移金属の酸化物、上記遷移金属同士の合金、及び、上記遷移金属と、カーボンナノチューブを成長させるための触媒作用のない元素との合金から構成されていてもよい。具体的な酸化物としては、FeO、α−Fe、γ−Fe、Fe、α−FeOOHなどの酸化鉄、CoO、Coなどの酸化コバルト、NiOが挙げられる。上記遷移金属同士の合金は、Co/Ni、Ni/Fe、Co/Fe/Niなどの2元素及び3元素合金であってもよい。また、Fe、Co、又はNiと、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Ti、又はVなどの元素との合金であってもよい。
【0039】
前記アルカリ金属は特に限定されないが、ナトリウムであってもよい。触媒金属含有粒子群を構成する全元素に対するアルカリ金属のモル濃度は0.1以上20%以下が好ましい。アルカリ金属のモル濃度を20%以下とすることで、触媒金属含有粒子の分散性が向上し、その結果、基板表面における触媒金属含有粒子による被覆率を高めることができる。触媒金属含有粒子群を構成する全元素に対するアルカリ金属のモル濃度は0.1以上5%以下がさらに好ましい。アルカリ金属のモル濃度を0.1%以上とすることで、さらに、触媒金属含有粒子の分散性が向上し、その結果、基板表面における触媒金属含有粒子による被覆率を高めることができる。より好ましくは0.15%以上であり、これにより、触媒金属含有粒子の分散性向上効果を顕著に達成することができる。また、アルカリ金属自体はカーボンナノチューブ合成のための触媒作用が極めて低いため、カーボンナノチューブの合成速度を考慮して高すぎるアルカリ金属濃度は避けるべきである。この観点から、アルカリ金属濃度は20%以下であってもよい。また、5%以下であってもよい。これにより、さらにカーボンナノチューブの合成速度の低下を抑制することができる。さらに、被覆率の上昇効果は、アルカリ金属濃度が1%を超える範囲ではほぼ一定になるので、1%以下であってもよい。以上のアルカリ金属モル濃度は、X線光電子分光法(XPS)により、触媒金属含有粒子群が形成された基板表面にX線を照射することで、各構成元素の原子濃度比を得、当該濃度比から算出されるものである。
【0040】
界面活性体16は、式R−Xで示される長鎖有機化合物であることが好ましい。式中、Rは、長鎖又は分岐ハイドロカーボン又はフルオロカーボン鎖であり、通常、8〜22個の炭素原子を含む。Xは金属コア表面に特定の化学結合を提供する部分であり、具体的には、スルフィネート(−SOOH)、スルホネート(SOOH)、ホスフィネート(−POOH)、ホスホネート(−OPO(OH))、カルボキシレート(−COOH)、及びチオール(−SH)が挙げられる。本発明の実施の形態で使用する界面活性剤としては、炭素数8〜22の脂肪酸が好ましく、オレイン酸(C1733COOH)が特に好ましい。
【0041】
オレイン酸は、ナノ粒子の安定化において一般的によく用いられている界面活性体である。オレイン酸の比較的長い炭素鎖は、粒子間に働く強い磁気相互作用を打ち消す重要な立体障害を与えるため、Feナノ粒子などの磁性ナノ粒子の界面活性体としてよく用いられる。エルカ酸(C2141COOH、なたね油に含有)やリノール酸(C1731COOH、多くの植物油に含有)など類似の長鎖カルボン酸(不飽和脂肪酸)もオレイン酸同様に用いられている。オレイン酸は、オリーブ油などに含有されており容易に入手できる安価な天然資源であるので、安全性及び低コスト化の観点から好ましい。その他の長鎖不飽和脂肪酸としては、ミリストレイン酸(C1325COOH、バターに含有)、パルミトレイン酸(C1529COOH、イワシ油やニシン油に含有)、エライジン酸(C1733COOH、オレイン酸のtrans異性体)、バクセン酸(C1733COOH、牛脂、バターに含有)、ガドレイン酸(C1937COOH、タラ肝脂に含有)、α−リノレン酸(C1729COOH、乾性油に含有)、エレオステアリン酸(C1729COOH、乾性油に含有)、ステアリドン酸(C1727COOH、イワシ油、ニシン油に含有)などが挙げられる。
【0042】
なお、図2では逆ミセル構造の触媒金属含有粒子を示したが、これに限定されず、ミセル構造の触媒金属含有粒子を用いることもできる。
【0043】
なお、カーボンナノチューブ合成時の加熱により、又は当該合成前に予備加熱を実施することで、界面活性体16は除去又は分解される。
【0044】
図1及び図3では、基板13の片面にのみ、触媒金属含有粒子群12が形成されているが、本発明はこの形態に限定されない。基板13の裏面にも触媒金属含有粒子群12が形成されていてもよい。
【0045】
本実施形態の基板複合体は、カーボンナノチューブを形成するために用いることができる。その際の金属コアの粒子径と合成されるカーボンナノチューブ径には相関関係があると報告されている。したがって、カーボンナノチューブ径として1〜100nmを所望する場合は、金属コア粒子径を1〜100nmに調整することが望ましい。また、本実施形態の基板複合体は、電子素子、記録媒体などのナノデバイスにも用いることができる。
【0046】
[製造方法]
次に、本実施形態による基板複合体の製造方法について説明する。
【0047】
本実施形態の製造方法は、基板13上にバッファ層14を形成する工程、さらにバッファ層14上に触媒金属含有粒子群12を配置する工程を含む。なお、バッファ層14を有しない基板複合体を製造する場合には、基板13上にバッファ層14を形成する工程を省略すればよい。
【0048】
基板13上にバッファ層14を形成する工程は、表面にアルミナ(酸化アルミニウム)層が形成された基板13を準備する工程である。
【0049】
表面にアルミナ層が形成された基板13を準備する工程は、基板13を構成する材料の種類により異なる。
【0050】
基板13がアルミニウムから構成される場合は、アルミニウム基板の表面を酸化することによりアルミナ層が形成される。酸化の方法としては、熱酸化、水蒸気酸化等が挙げられる。また、自然酸化により表面にアルミナ層が形成されたアルミニウム基板を使用することもできる。
【0051】
基板13がアルミニウム以外の材料から構成される場合、CVD法等により基板13上にアルミニウム層を形成した後、上述した方法によりアルミニウム層表面を酸化することによりアルミナ層を形成することができる。また、基板13表面に反応性スパッタリング等によりアルミナ層を直接形成することもできる。
【0052】
次に、バッファ層14上に触媒金属含有粒子群12を配置する工程では、バッファ層14上に触媒金属含有粒子群12からなる触媒層を形成する。
【0053】
以下、触媒金属含有粒子群を合成する方法の一例について詳述する。この例では、以下の工程A〜Eによって、触媒金属含有粒子群を合成する。
【0054】
工程Aは、溶媒、金属塩及び配位分子を混合し、ある一定時間の間還流することで、金属イオンと配位分子を反応させ、金属前駆体溶液を形成させる工程である。溶媒としては、極性溶媒と無極性溶媒の混合液を用いる。金属塩としては、金属コアを構成する金属元素の塩を用いる。配位分子は、前記金属元素のイオンに配位する分子であり、界面活性体のアルカリ金属塩を用いることができる。金属塩及び配位分子は、室温で極性溶媒に溶解する。反応後、反応生成物である金属前駆体(金属元素イオンと界面活性体アニオンとの塩)は、無極性溶媒に溶解し、副生成物であるアルカリ金属含有化合物は極性溶媒に溶解する。この後、極性溶媒と無極性溶媒を分離することで、無極性溶媒中に金属前駆体が溶解した溶液を回収することができる。さらに、この金属前駆体溶液に対し無極性溶媒を加えることで、副生成物や未反応物を精製することもできる。極性溶媒として、水及び/又はエタノールを用い、無極性溶媒としては、ヘキサンを用いてもよい。
【0055】
この精製の過程において、溶媒分離による精製の回数又は極性溶媒の使用割合を変化させることにより、金属前駆体溶液に含まれるアルカリ金属量を制御することができる。本実施形態では、従来法のように金属前駆体溶液からアルカリ金属を完全に除去するのではなく、金属前駆体溶液にアルカリ金属が残留するように精製の程度を調整することで、後に形成される触媒金属含有粒子にアルカリ金属が含まれるようにする。また、アルカリ金属を完全に除去した後、アルカリ金属を別途添加することで、本発明の実施の形態に係る触媒金属含有粒子群を合成することも可能である。
【0056】
次に、工程Bは、上記の金属前駆体溶液から溶媒を除去し、アルカリ金属を含む金属前駆体を回収する工程である。溶媒の除去方法としては、真空乾燥、加熱、エバポレーターなどを用いた溶媒除去方法を用いるとよい。ここで、回収した金属前駆体は、固形物として回収される。
【0057】
次に、工程Cは、上記の金属前駆体、界面活性体、及び溶媒を混合して混合溶液を得る工程である。粒径の揃った10nm以下の金属含有粒子を合成するためには、金属前駆体と界面活性体の濃度比([界面活性体]/[金属前駆体])を1.0以下になるように調整することが好ましい。溶媒は、沸点が250℃以上300℃以下の無極性溶媒を用いることが好ましい。より好ましくは、沸点が約270℃〜290℃の範囲にあればよい。適当な無極性溶媒としては、ヘキサデセン、ジオクチルエーテルが含まれるが、これらに限定されない。また、金属含有粒子として合金粒子を合成するためには、工程Cにおいて、合金を構成する元素を含む金属前駆体を混合するとよい。この場合の金属前駆体としては、例えば、Co(アセチルアセトナート)、Pd(アセチルアセトナート)、Ti(アセチルアセトナート)などを用いることができる。
【0058】
次に、工程Dは、上記の混合溶液を溶媒の沸点まである一定の昇温速度で昇温し、ある一定時間の間還流させることで金属含有粒子の核形成及び粒子成長を行なう工程(熟成工程)である。すなわち、上記の混合溶液の反応を沸点以下の温度で行なう。
【0059】
昇温速度は、金属含有粒子の核形成と相関があると考えられ、例えば3℃/min以上の昇温速度で昇温することが好ましい。これは、昇温速度が低いと核形成の開始された時間と大半の粒子が核形成する時間差が大きくなるため、実質的な成長時間に差が生じ、それ故に、粒径バラツキが大きくなると考えられるためである。熟成時間は、1時間以上行う。より好ましくは、カーボンナノチューブを合成するための最適な大きさの粒子に成長する1時間から2時間程度である。
【0060】
次に、工程Eは、上記熟成した溶液から金属含有粒子の精製、抽出、及び再分散を行う工程である。すなわち、上記混合溶液から金属含有粒子を析出させる工程である。金属含有粒子は、表面に、界面活性体に由来するカーボン鎖を有しているため、トルエンやヘキサン等の無極性溶媒には可溶であるが、アルコールなどの極性溶媒にはほとんど溶解しない。そこで、上記熟成した溶液に極性溶媒を加えることで、金属含有粒子間に疎水性相互作用が働き粒子同士が会合し凝集体が沈降する。この凝集体を回収し、無極性溶媒中に溶解させることで金属含有粒子分散溶液を作製することができる。ここで、熟成工程に用いた溶媒が可溶な極性溶媒を選択することで、回収する金属含有粒子中の不要な有機物を低減することができる。更に、純度を高めるために、回収した金属含有粒子を極性溶媒で複数回洗浄してもよい。好ましくは、極性溶媒として、メタノール、エタノール、アセトン及びこれらの混合溶液を用いる。
【0061】
次に、以上のようにして合成された触媒金属含有粒子はアルカリ金属を含有するものであり、これをバッファ層上に配置する。配置する方法としては、例えば、バッファ層が表面に形成された基板を金属含有粒子分散溶液に浸漬することからなるディップコート法によって塗布を達成する方法や、バッファ層が表面に形成された基板表面に金属含有粒子溶液をスピンコート法によって塗布する方法が挙げられる。ここで、バッファ層上に配置される金属含有粒子の密度及び均一性は、金属含有粒子分散溶液の濃度又は上記塗布プロセス後の乾燥方法によって制御することができる。
【0062】
(実施の形態2)
本実施の形態では、カーボンナノチューブ複合体の構造及びその製造方法について説明する。
【0063】
図4は、本実施形態におけるカーボンナノチューブ複合体の断面概念図を示す。
【0064】
図4に示すように、本実施形態のカーボンナノチューブ複合体17は、基板13、基板表面に形成された触媒金属含有粒子群12と、触媒金属含有粒子に一端が接続されている複数本のカーボンナノチューブ18を含む。触媒金属含有粒子群12が接する基板13の表面上にはバッファ層が形成されていてもよい(図示せず)。
【0065】
カーボンナノチューブ複合体は、実施の形態1により製造された基板複合体の表面にカーボンナノチューブを合成することで製造される。具体的には、触媒金属含有粒子群12を起点としてカーボンナノチューブ18は合成される。合成されたカーボンナノチューブ18は、一端が基板複合体表面に接続される。カーボンナノチューブの合成方法は公知の方法に依拠することができるが、一例を以下に説明する。
【0066】
カーボンナノチューブ合成装置のチャンバー内に、基板複合体10を配置し、チャンバー内を真空度が<10−2Torrに達するまで減圧する。その後、還元ガスと、カーボン原料となるメタンガス等の炭化水素ガスとを、チャンバー内圧力が20Torrに達するまで導入する。還元ガスとは、水素ガスを主成分とするガスであり、水素ガス以外に、CO、HS、SO、H、HCHO(ホルムアルデヒド)等のガスを含んでいてよい。還元ガスは、後のプラズマ生成を安定化し、カーボンナノチューブ形成時に生じるアモルファスカーボンを除去する目的で使用される。そして、基板ホルダを抵抗加熱により昇温させ、ホルダの温度がカーボンナノチューブ合成に最適な温度(400〜900℃、ただしアルミニウム基板を使用の場合は660℃(アルミニウムの融点)以下)に達した時点で、マイクロ波励起プラズマを形成する。プラズマ中に形成された炭化水素ラジカルが触媒金属含有粒子に到達した後、カーボンナノチューブ18の合成が開始される。
【0067】
本発明の実施の形態では、バッファ層14及び触媒金属含有粒子群12を含む基板複合体10を用いることで、基板表面でのカーボンナノチューブの本数密度を高めることができる。
【0068】
これにより、本数密度の高いカーボンナノチューブ複合体を製造コストを低減しつつ提供できるため、結果的に、それを用いたエネルギーデバイスは低い製造コストで提供することが可能になる。
【0069】
低コストでのカーボンナノチューブ電極の提供が可能になったことから、携帯電話に代表される無線通信機能を備えた携帯型装置や、ノートパソコンに代表される情報処理端末等の電子機器、ハイブリッド自動車に代表される輸送デバイスの製造コストを低減することができる。
【0070】
図9は、本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合体を含むエネルギーデバイスを搭載した電子機器の一例を示す概念図である。電子機器30は、エネルギーデバイスと電気回路とを備え、エネルギーデバイスから電気回路に電流が供給される。電子機器30は、例えば、携帯電話である。電気回路は、例えば、LEDフラッシュである。
【0071】
図10は、本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合体を含むエネルギーデバイスを搭載した輸送デバイスの一例を示す概念図である。輸送デバイス40は、エネルギーデバイスと駆動部とを備え、エネルギーデバイスから駆動部に電流が供給される。輸送デバイス40は、例えば、電気自動車である。駆動部は、例えば、電気モータである。
【0072】
本発明の実施の形態によると、基板複合体表面に一端が接続されたカーボンナノチューブ、すなわちカーボンナノチューブ複合体を製造することができる。しかし、本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合体は、基板表面とカーボンナノチューブの一端が直接接触しているものに限定されない。本発明の一実施形態では、基板表面には、アルミニウム原子と酸素原子とを含むバッファ層と、アルカリ金属を含む触媒金属含有粒子群からなる触媒層がこの順で形成されている。すなわち当該実施形態のカーボンナノチューブ複合体は、基板と、前記基板の少なくとも一方の表面に配置されたアルミニウム原子と酸素原子とを含むバッファ層と、前記バッファ層上に配置された、遷移金属及びアルカリ金属から構成される触媒粒子群からなる触媒層と、前記触媒粒子群に一端が接続されている複数本のカーボンナノチューブと、を有する。しかし、カーボンナノチューブ合成前においてアルカリ金属を含む触媒粒子群に含まれていた界面活性体は、カーボンナノチューブ合成時の加熱により除去又は分解されるので、本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合体には界面活性剤は実質的に含まれない。触媒金属含有粒子群の各粒子に、一本のカーボンナノチューブの一端が接続している。カーボンナノチューブの他端及び側面は、基板複合体表面と接続されていない。
【0073】
本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合体は、電気二重層キャパシタ、電気化学キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、有機電池、酸化金属又は導電性高分子を用いた擬似容量キャパシタ等のエネルギー蓄積デバイス全般において電極体として適用可能である。ここで、エネルギー蓄積デバイスに含まれる電極のうち少なくとも1つが、本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ複合体であればよい。以下、本発明の実施の形態に係る方法で製造されるカーボンナノチューブ複合体から構成される電極体をカーボンナノチューブ電極ともいう。
【0074】
電気二重層キャパシタ又は電気化学キャパシタでは、正負極ともに、カーボンナノチューブ電極を用いることが可能である。
【0075】
リチウムイオン二次電池では、通常、正極活物質としてコバルト酸リチウム等のリチウム酸化金属、シリコン化合物、又は、リチウム金属が用いられ、負極活物質としてグラファイト等が用いられている。カーボンナノチューブは、グラファイトと同じグラフェン構造を有するため、本発明の実施の形態では、負極として、グラファイトを含む電極の代わりに、カーボンナノチューブ電極を使用することができる。また、正極では活物質の担持材料としてカーボンナノチューブを用いることが可能である。すなわち、正極として、上述した正極活物質を担持したカーボンナノチューブ電極を使用することができる。
【0076】
リチウムイオンキャパシタでは、正極活物質として活性炭が、負極活物質としてグラファイトが提案されていることから、正負極のいずれか一方又は双方として、カーボンナノチューブ電極を用いることが可能である。
【0077】
有機電池では、正負極の少なくとも一方の活物質に有機材料を用いることが提案されていることから、当該有機材料の担持材料としてカーボンナノチューブを用いることが可能である。すなわち、活物質を担持したカーボンナノチューブ電極を正負極の少なくとも一方として使用することができる。
【0078】
上述のとおり本発明の実施の形態においては、カーボンナノチューブ複合体に含まれるカーボンナノチューブが電極活物質として機能するものであってもよいし、他の電極活物質のための担持材料として機能するものであってもよい。
【0079】
カーボンナノチューブの平均直径は約0.1〜100nmの範囲にある。イオン半径0.074nmのリチウムイオンや、イオン半径約0.5nmの電解質イオンがカーボンナノチューブの内部に侵入することを考えると、0.1〜10nmの範囲が望ましく、さらに望ましくは、0.1〜5nmの範囲である。
【0080】
単位面積当たりのカーボンナノチューブ密度が高くなるため、カーボンナノチューブ間の距離は短いことが好ましい。しかし、カーボンナノチューブ間の距離は、電解液中の電解質イオンが移動するのに十分な距離であることが望ましい。
【0081】
(実施の形態3)
本実施の形態では、カーボンナノチューブ複合体を電極体として含む、少なくとも一対の電極体を捲回して含む捲回型構造のエネルギーデバイス20について説明する。ここで、カーボンナノチューブ複合体とは、本発明の実施の形態の基板複合体表面にカーボンナノチューブの一端が接続されている形態を意味する。
【0082】
図5(a)は当該実施形態における捲回型構造のエネルギーデバイス20において電極体を捲回する際の状態を示す斜視図であり、図5(b)は捲回した電極体を封口部材と一体化して金属ケースへ挿入する際の状態を示す斜視図である。
【0083】
エネルギーデバイス素子21は陽極側リード線22を接続した陽極23と陰極側リード線24を接続した陰極25とをその間にセパレータ26を介在させて捲回することにより構成されている。そしてこのエネルギーデバイス素子21の陽極側リード線22と陰極側リード線24にはゴムよりなる封口部材27が取り付けられる。さらにこのエネルギーデバイス素子21に駆動用電解液を含浸させた後、アルミニウムより構成された有底円筒状の金属ケース28内にエネルギーデバイス素子21を収納する。この収納により、金属ケース28の開口部に封口部材27が位置し、そしてこの金属ケース28の開口部に横絞り加工とカーリング加工を施すことにより封口部材27が金属ケース28の開口部に封着されて金属ケース28の開口部が封口される。
【0084】
本発明の実施の形態のエネルギーデバイスでは、陽極23又は陰極25のいずれか一方又は双方に本発明の実施の形態のカーボンナノチューブ複合体を用いる。また、陽極23又は陰極25が複数の電極体から構成される場合には、その内の少なくとも1つが本発明の実施の形態のカーボンナノチューブ複合体であればよい。
【0085】
セパレータに要求される物性は、エネルギーデバイスの種類には原理的に依存しないが、特にリフロー対応が必要とされる場合には、耐熱性が要求される。耐熱性が要求されない場合には、ポリプロピレン等の合成高分子系の材料を、耐熱性が要求される場合にはセルロース系の材料を用いることができる。セパレータの膜厚は特に限定されないが、10μm〜50μm程度のものを用いる。
【0086】
電解液は、エネルギーデバイスの種類によって異なる材料を選択することができる。電解液に含まれる溶媒としては、使用電圧範囲によって電気化学的分解が起こらないよう、適切な電位窓を持ったものを選択する。一般的にプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、又はそれらの混合溶媒を用いることができる。はんだ付けのためのリフロー対応が必要となる場合には、リフロー時に電解液が沸騰しないよう、スルフォランなどの高沸点溶媒を用いることができる。
【0087】
電解液に含まれる電解質としては、様々な公知の材料、例えば電気二重層キャパシタ用途としてはテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、リチウムイオン二次電池用途としてはリチウムペンタフルオロフォスフェート等を用いることができる。これらイオン性電解質のイオン直径に対応する直径を持つカーボンナノチューブを合成することにより、単位重量あたりのエネルギー密度がもっとも大きなエネルギー蓄積デバイスを作製することが可能になる。例えば、溶媒としてプロピレンカーボネートを含み、電解質としてテトラエチルアセテート・テトラフルオロボレートを含む電解液(LIPASTE−P/EAF069N、富山薬品工業製、濃度0.69M)を用いることができる。
【0088】
この実施形態では、捲回形のエネルギーデバイスを示したが、これに限定されない。本発明の実施の形態のエネルギーデバイスは、電極体を捲回せずに積層して含む積層型のものであってもよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0090】
(基板複合体の製造)
まず、基板複合体の製造手順を説明する。
【0091】
実施例(サンプルA〜サンプルC)では、基板13としてアルミニウム基板を用いた。当該アルミニウム基板表面には、自然酸化による酸化アルミニウムからなるバッファ層14が形成されている。バッファ層上に、界面活性体をオレイン酸とし、金属コアを酸化鉄、アルカリ金属をナトリウムとする触媒金属含有粒子群からなる触媒層を形成した。
【0092】
上記触媒金属含有粒子は以下の手順で合成した。まず溶媒として水30mlとエタノール40mlの混合液にFeCl・6HO(金属塩)5.4g及びオレイン酸ナトリウム(配位分子)18.3gを混合させ、約4時間還流した。次にこの溶液から有機相を分離し、エバポレーターを用いて溶媒を除去した。有機相を分離する際に、無極性溶媒を加えて精製工程を行なったが、その際、精製の回数を調整することで、ナトリウムが完全に除去された溶液(比較例)、及び、ナトリウムがある程度残留した溶液(実施例)を得た。
【0093】
【表1】

【0094】
具体的には、粒子合成プロセス途中で、Naを多量に含む極性溶媒相と無極性溶媒相とが分離した。この極性溶媒相を除去することにより第1回の精製を行った。その後、水などの極性溶媒をさらに加えた後、再度極性溶媒相を除去することで、第2回および第3回の精製を行った。得られた溶液に基板をディップコートして基板複合体を得た。得られた基板複合体表面の触媒金属含有粒子群に対し、X線光電子分光法(XPS)によりX線を照射することで、各溶液の構成元素の原子濃度比を得、当該濃度比から各溶液中の遷移金属に対するナトリウムのモル濃度を算出した。結果を表1に示す。表1に示すように、精製回数を増すごとに溶液中に含まれるNa量は減少した。
【0095】
溶媒を除去して得られたワックス状の金属前駆体:Fe(Oleate)9gに対し、オレイン酸(界面活性体)1.43g及び1−ヘキサデセン(溶媒)50gを混合し、この混合溶液を昇温速度約2.8℃/minで274℃まで昇温し約60分の熟成を行った。熟成後、エタノールを加えて酸化鉄ナノ粒子(触媒金属含有粒子)を析出させた。
【0096】
得られた触媒金属含有粒子を、ディップコート法により、各基板に塗布して各実施例及び比較例の基板複合体を得た。その後、各実施例及び比較例の基板複合体に酸素プラズマを照射し、触媒金属含有粒子に含まれるオレイン酸を除去した。
【0097】
得られた基板複合体表面の触媒金属含有粒子群に対し、X線光電子分光法(XPS)によりX線を照射することで、各構成元素の原子濃度比を得、当該濃度比から各粒子群中のナトリウムモル濃度を算出した。結果を表2に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
表1および表2に示したXPSの測定機器としてはPHI Quantera SXMTM(アルバック・ファイ株式会社)を使用した。測定条件は以下のとおりである。測定領域範囲は250μm×250μmとした。Spectral Acquisitionモード、100μm、25W、15kVにて測定した。Na1sピーク検出にあたっては次のとおり設定した:Acqusition Lowre=1066.00(eV);acqusition width=20.00(eV);No.of sweeps=1;Pass energy=55.00(eV);Step size=0.05(eV);Ratio=6;Measurement time=8(Acq.Cycles).
【0100】
(触媒金属含有粒子群を表面に有する基板複合体のSEM観察結果)
触媒金属含有粒子群が形成された各基板複合体の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
【0101】
図6は、サンプルA(比較例)、サンプルB(実施例)、及びサンプルC(実施例)の触媒金属含有粒子群が形成された基板表面のSEM写真を示す。サンプルA(比較例)のSEM写真から、触媒金属含有粒子がナトリウムを含有していないために、粒子の一部が凝集しており、粒子によって基板表面の一部が被覆されておらず、露出していることが分かる。サンプルB(実施例)及びサンプルC(実施例)のSEM写真から、サンプルA(比較例)と比較して、露出している基板表面が少なく、粒子が基板表面に分散性よく配置されていることが分かる。特に、ナトリウム濃度が高いサンプルC(実施例)で分散性が最も優れていることから、粒子群中のナトリウム濃度が増加すると、基板表面での粒子の分散性が向上することが分かる。
【0102】
(触媒金属含有粒子群による基板表面の被覆率の算出結果)
上で得られたSEM写真に基づき、触媒金属含有粒子群による基板表面の被覆率を算出した。当該被覆率は、微粒子円面積/基板面積により示されるもので、解析ソフトWinROOF(三谷商事株式会社)を用いて導き出した。
【0103】
図7は、サンプルA(比較例)、サンプルB(実施例)、及びサンプルC(実施例)における触媒金属含有粒子中のナトリウムモル濃度に対する被覆率の関係を示すグラフである。サンプルA(比較例)では被覆率が65.84%、サンプルB(実施例)で80.90%、サンプルC(実施例)では88.08%であった。以上から、ナトリウムを含有していないサンプルAに対し、ナトリウムを含有しているサンプルB及びサンプルCでは高い被覆率を示すことが分かる。
【0104】
微粒子を円であるとすると、円を最密充填した場合に得られる被覆率の上限値は90.7%であるが、サンプルCではこの上限値に極めて近い被覆率が得られており、本発明の実施の形態に係る触媒金属含有粒子群によって最密充填に近い状態が達成されていることが分かる。
【0105】
(カーボンナノチューブ複合体の製造)
次に、カーボンナノチューブ複合体の製造手順を説明する。
【0106】
以上で得られた基板複合体を用い、上述の方法に従いカーボンナノチューブの合成を行った。その際、炭化水素ガスとしてメタンガスを使用した。カーボンナノチューブの合成時間は30秒に設定した。以上により、カーボンナノチューブ複合体を製造した。
【0107】
(カーボンナノチューブ複合体の断面SEM観察結果)
カーボンナノチューブが表面に形成された複合体の断面をSEMにより観察した。
【0108】
図8は、サンプルA(比較例)、サンプルB(実施例)、及びサンプルC(実施例)のカーボンナノチューブ複合体の断面のSEM写真を示す。いずれのサンプルにおいても複数のCNTが、一端が基板複合体表面に接続され、他端が垂直方向に伸長するように形成されていた。しかし、さらに詳細に比較したところ、ナトリウムを含有していないサンプルAでは、CNT同士に多数の隙間が存在していることが分かった。一方、ナトリウムを含有しているサンプルB及びCでは、CNT間の隙間が減少しており、形成されたCNTの本数が増加し、CNTの直進性(垂直配向性)が向上していることが分かった。
【0109】
以上の結果より、ナトリウムを含有する触媒金属含有粒子群を用いることで、基板上に、分散性良く触媒金属含有粒子を配置することが可能となり、また、当該粒子を利用してカーボンナノチューブを合成することで、カーボンナノチューブの密度を増加させることが可能となることも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、カーボンナノチューブ形成用基板、プラズモン共鳴を利用したデバイスの構成部材、または、高密度磁気記録媒体として好適に利用可能な基板複合体を提供することができる。また、高密度でカーボンナノチューブが形成されたカーボンナノチューブ複合体を低コストで提供することができる。このカーボンナノチューブ複合体を電極体としてエネルギーデバイスで使用し、さらにそのエネルギーデバイスを電子機器又は輸送デバイスに搭載することにより、エネルギー密度の高いエネルギーデバイス及び電子機器又は輸送デバイスを、低コストで提供することが可能になる。
【符号の説明】
【0111】
10 基板複合体
12 触媒金属含有粒子群
13 基板
14 バッファ層
15 金属コア
16 界面活性体
17 カーボンナノチューブ複合体
18 カーボンナノチューブ
20 エネルギーデバイス
21 エネルギーデバイス素子
22 陽極側リード線
23 陽極
24 陰極側リード線
25 陰極
26 セパレータ
27 封口部材
28 金属ケース
30 携帯電話
40 自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の少なくとも一方の表面に配置された粒子群を有する層と、を備え、前記層は、遷移金属及びアルカリ金属を含む、基板複合体。
【請求項2】
前記アルカリ金属がナトリウムである、請求項1記載の基板複合体。
【請求項3】
前記層を構成する全元素に対する前記アルカリ金属のモル濃度が0.1%以上5%以下である、請求項1又は2記載の基板複合体。
【請求項4】
前記層を構成する全元素に対する前記アルカリ金属のモル濃度が0.1%以上20%以下である、請求項1又は2記載の基板複合体。
【請求項5】
前記層をX線光電子分光法で分析した場合の全元素に対する前記アルカリ金属のモル濃度が0.1%以上5%以下である、請求項1又は2記載の基板複合体。
【請求項6】
前記層をX線光電子分光法で分析した場合の全元素に対する前記アルカリ金属のモル濃度が0.1%以上20%以下である、請求項1又は2記載の基板複合体。
【請求項7】
前記粒子群は、アルカリ金属を含まず遷移金属、遷移金属の化合物または遷移金属の合金から構成される複数の遷移金属粒子と、遷移金属を含まずアルカリ金属から構成される複数のアルカリ金属粒子とを含み、
前記層は、2つの前記遷移金属粒子の間に、1以上の前記アルカリ金属粒子が配置されることで構成される、請求項1〜6のいずれかに記載の基板複合体。
【請求項8】
前記粒子群は、1つの粒子の中に遷移金属とアルカリ金属の双方を含む複合粒子を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の基板複合体。
【請求項9】
前記遷移金属が、鉄、コバルト、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜8のいずれかに記載の基板複合体。
【請求項10】
表面にカーボンナノチューブを形成するための基板複合体であって、
前記基板複合体は、基板と、前記基板の少なくとも一方の表面に配置された触媒粒子群を有する触媒層と、を備え、
前記触媒層は、遷移金属及びアルカリ金属を含む、基板複合体。
【請求項11】
前記アルカリ金属がナトリウムである、請求項10記載の基板複合体。
【請求項12】
前記触媒層を構成する全元素に対する前記アルカリ金属のモル濃度が0.1%以上5%以下である、請求項10又は11記載の基板複合体。
【請求項13】
前記触媒層を構成する全元素に対する前記アルカリ金属のモル濃度が0.1%以上20%以下である、請求項10又は11記載の基板複合体。
【請求項14】
前記触媒層をX線光電子分光法で分析した場合の全元素に対する前記アルカリ金属のモル濃度が0.1%以上5%以下である、請求項10又は11記載の基板複合体。
【請求項15】
前記触媒層をX線光電子分光法で分析した場合の全元素に対する前記アルカリ金属のモル濃度が0.1%以上20%以下である、請求項10又は11記載の基板複合体。
【請求項16】
前記触媒粒子群は、アルカリ金属を含まず遷移金属、遷移金属の化合物または遷移金属の合金から構成される複数の遷移金属粒子と、遷移金属を含まずアルカリ金属から構成される複数のアルカリ金属粒子とを含み、
前記触媒層は、2つの前記遷移金属粒子の間に、1以上の前記アルカリ金属粒子が配置されることで構成される、請求項10〜15のいずれかに記載の基板複合体。
【請求項17】
前記触媒粒子群は、1つの粒子の中に遷移金属とアルカリ金属の双方を含む複合粒子を含む、請求項10〜15のいずれかに記載の基板複合体。
【請求項18】
前記遷移金属が、鉄、コバルト、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10〜17のいずれかに記載の基板複合体。
【請求項19】
請求項10〜18のいずれかに記載の基板複合体と、
前記触媒粒子群に一端が接続されている複数本のカーボンナノチューブと、を有する、カーボンナノチューブ複合体。
【請求項20】
前記基板が、金属基板又は半導体基板である、請求項19記載のカーボンナノチューブ複合体。
【請求項21】
前記基板が、アルミニウム基板である、請求項19記載のカーボンナノチューブ複合体。
【請求項22】
正極と負極からなる少なくとも一対の電極体を含み、前記正極及び前記負極の少なくとも1つが、請求項19〜21のいずれかに記載のカーボンナノチューブ複合体である、エネルギーデバイス。
【請求項23】
前記エネルギーデバイスは、電気二重層キャパシタ、擬似容量キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、又は、リチウムイオン2次電池である、請求項22記載のエネルギーデバイス。
【請求項24】
請求項22又は23に記載のエネルギーデバイスと電気回路とを備え、前記エネルギーデバイスから前記電気回路に電流が供給される、電子機器。
【請求項25】
請求項22又は23に記載のエネルギーデバイスと駆動部とを備え、前記エネルギーデバイスから前記駆動部に電流が供給される、輸送デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−224530(P2012−224530A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138128(P2011−138128)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】