説明

基礎杭、杭埋設治具、および、杭埋設方法

【課題】施工効率を向上できる基礎杭、杭埋設治具、および、杭埋設方法を提供する。
【解決手段】基礎杭20は、円筒部材21と、支持翼部材22と、円筒部材21における支持翼部材22の近傍かつ円筒部材21の内周側に設けられた棒状部材23と、を備えている。棒状部材23に対して杭埋設治具10の係合部材13を係合させ、地上に設置された油圧モータ4から回転トルクを与える。このため、被攪拌層IIから最も大きな抵抗力を受ける円筒部材21の最深部側に対して回転トルクを加えることができるので、円筒部材21が破損することがなく、円筒部材21および支持翼部材22を大きく形成したとしても、無理なく基礎杭20を回転することができる。したがって、施工効率を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上に構築される建造物と連結されて前記構造物を支持する基礎杭、この基礎杭を地中に埋設するための杭埋設治具、および、この杭埋設治具を用いて基礎杭を地中に埋設する杭埋設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に水田などや谷間、臨海などを埋め立てて宅地造成すると、地盤は比較的に軟弱な埋め立て地となる。このことから、すぐに住宅などの建造物を建てると地盤沈下を生じるおそれがある。このため、宅地造成をした後から住宅を建てるまでに、地盤沈下が収まるまで相当期間待たなければならない。また、埋め立て地でなくとも元来地盤が軟弱な場所では、建造物を建てることが困難である。
【0003】
そこで、従来、比較的に軟弱な地盤に建造物を建てる場合には、基礎杭を埋設し、この基礎杭に一体的に建造物を建てて、建造物の安定化を図っている。このような基礎杭を埋設する構成として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
【0004】
特許文献1に記載の構成において、基礎杭は、コンクリート杭部と、このコンクリート杭部の軸方向の一端に一体に設けられた杭施工治具と、コンクリート杭部の軸方向の他端に一体に設けられた座板とを備えている。
杭施工治具は、略円筒状の胴体部を有している。この胴体部の外周面には、一対の平板状の掘削翼が、胴体部の軸方向に対して交差した状態で例えば溶接により設けられている。これら掘削翼の角部には、楔状に形成された掘削爪部がそれぞれ設けられている。
座板は、周縁に略垂直に折曲するフランジ部を有した略円板リング状の円板部を有している。この円板部にて、複数の基礎杭が略同軸上に連結可能となっている。
また、基礎杭には、コンクリート杭部の座板が設けられた側の端部近傍の外周面に位置して、コンクリート杭部の径方向に突出する状態で一対の突起部が突設されている。これら突起部は、例えば鋼鉄製でコンクリート杭部の補強鉄筋に溶接されて設けられている。
そして、基礎杭は、油圧モータにてこの突起部に回転トルクが加えられることにより回転し、掘削翼により地中に埋設される。
【0005】
【特許文献1】特開2003−221827(第7頁、図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述した特許文献1に記載のような構成では、基礎杭を地中に埋設する際、基礎杭の回転を抑止する方向へ基礎杭が地盤から受ける摩擦力は、掘削翼に対して最も強く作用する。そして、突起部に対して加えた回転トルクは、地盤とコンクリート杭部の外周面との間の摩擦により切削翼に伝達するまでに減衰してしまい、切削翼が切削に要する必要最小限度の回転トルクよりも大きな回転トルクを突起部に加える必要がある。
【0007】
しかしながら、このような基礎杭を地中に回転しながら埋設している際に、地中における比較的硬質の土石に切削翼が衝突したような場合、突起部に過度の負荷が集中して、突起部や突起部近傍のコンクリート杭部が破損してしまうおそれがある。
また、同軸上で連結した複数の基礎杭を地中に埋設する場合、地上側における基礎杭の突起部に加えた回転トルクは、地中の最も深い位置における基礎杭の切削翼に伝達するまでに、連結した基礎杭の軸方向長さ分だけ大きく減衰することになる。このため、地上側における基礎杭の当該突起部にはより大きな回転トルクを加えねばならず、それぞれの基礎杭間の接合部に過度に負荷が掛かってしまう。これにより、当該接合部が破損して、地中に施工途中の基礎杭が取り残されてしまうおそれがある。このような場合、地中に取り残された基礎杭を引き抜き、再度基礎杭を埋設し直すなど、施工効率が著しく低下してしまうおそれがある、などの問題が一例として挙げられる。
【0008】
本発明は、上述したような問題点に鑑みて、施工効率を向上できる基礎杭、杭埋設治具、および、杭埋設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した目的を達成するために、本発明の基礎杭は、地上に構築される建造物と連結されて前記構造物を支持する基礎杭であって、軸方向の一端側に前記建造物が連結される円筒部材と、前記円筒部材の前記軸方向と前記軸方向に直交する方向とのそれぞれに平面が交差した状態で、前記円筒部材の外周面における前記軸方向の他端側に設けられた略平板状の支持翼部材と、前記円筒部材における前記支持翼部材の近傍かつ前記円筒部材の内周側に、前記円筒部材の径方向に略沿って設けられ、地上に設置された回転駆動手段から前記円筒部材の中心軸を中心に回転させる回転トルクを受ける棒状部材と、を具備したことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、地中から最も大きな摩擦抵抗力を受ける支持翼部材が設けられた円筒部材の最深部側に対して回転トルクを加えることができるので、必要最低限の回転トルクで済み、従来のように過度の回転トルクを付加することにより円筒部材が破損してしまうことがない。これにより、例えば継足円筒部材を円筒部材に連結する際に、円筒部材における上端部側を切除して研磨するなどの余分な加工をせずとも、そのまま継足円筒部材を円筒部材に連結できるので、材料費を低減できると共に工数を大幅に省略できる。
また、円筒部材の最深部側に対して回転トルクを加えることができるので、従来よりも円筒部材および支持翼部材を大きく形成したとしても、無理なく基礎杭を回転することができる。これにより、大きな円筒部材および支持翼部材を地中に埋設することが可能となるので、一本の基礎杭で建造物を支持できる力を大幅に向上することができる。よって、従来、建造物を建設するに当り所定の支持力を確保するために複数の基礎杭を埋設していたものを、1本の基礎杭を埋設するだけで充分な支持力を得ることができる。これにより、基礎杭の埋設本数を削減でき、作業工数および材料費の大幅な削減が実現できる。
したがって、施工効率を向上できる。
【0011】
さらに、本発明では、前記円筒部材の前記軸方向および前記径方向のそれぞれに略平行する平板状に形成された補強部材を具備し、この補強部材は、前記円筒部材の外周面における前記軸方向の他端側および前記支持翼部材における前記円筒部材の前記軸方向の他端に対向する側の面に一体的に設けられていることが好ましい。
本発明によれば、基礎杭の回転時において、補強部材を前記支持翼部材における前記円筒部材の前記軸方向の他端に対向する側の面に取り付けているので、補強部材への地中における土砂の衝突エネルギーは低く、補強部材が基礎杭の回転を妨げてしまうことを防げる。よって、基礎杭を円滑に回転することができる。
また、支持翼部材は、地中の土砂から受ける鉛直方向下側へ向かう応力に対して、補強部材に支持されることにより、鉛直方向上側へ向けて大きな反力を発生することができる。これにより、支持翼部材の厚さを薄くしても、支持翼部材は地中から受ける応力に充分に耐え得る強度を確保することができる。そして、支持翼部材の厚さを薄く形成可能にしたことで、円筒部材にダメージを与えることなく円筒部材と支持翼部材とを良好に溶接することができ、当該溶接部に充分な強度を付与することができる。
さらに、支持翼部材を補強部材で補強することで、支持翼部材を大きく形成することができ、一本の基礎杭で建造物を支持できる力を大幅に向上することができる。
したがって、基礎杭を良好に埋設でき、かつ、基礎杭の支持力を大幅に向上することができる。
【0012】
さらに、本発明では、前記棒状部材は、四角柱状に形成され、前記円筒部材には、前記棒状部材の両端側が挿通される四角形状の貫通孔が形成されていることが好ましい。
本発明によれば、棒状部材と、円筒部材における貫通孔とをそれぞれ単純な形状にしたことで、基礎杭の製造が容易にできる。また、軸直交方向断面が略正方形の棒状部材に対して、円筒部材における貫通孔は略正方形状であることから、棒状部材を円筒部材に強固に取り付けることができる。さらに、例えば、杭埋設治具における係合部材に略L字形状の切欠部を設けた場合、当該切欠部に対して軸直交方向断面が略正方形の棒状部材を係合させれば、係合部材と棒状部材との安定した係合状態を得ることができる。
【0013】
そして、本発明では、前記棒状部材は、前記円筒部材を貫通してその両端側が前記円筒部材の外周面から外側へ突出しており、前記支持翼部材における前記円筒部材の前記軸方向の他端に対向する側の面に当接して設けられ、前記支持翼部材を支持することが好ましい。
本発明によれば、基礎杭を回転して埋設する際、棒状部材の両端側への地中における土砂の衝突エネルギーは低く、棒状部材の両端側が基礎杭の回転を妨げることはない。すなわち、基礎杭を円滑に回転することができる。また、棒状部材の両端側を前記支持翼部材における前記円筒部材の前記軸方向の他端に対向する側の面に当接させて設けていることから、支持翼部材は、地中の土砂から受ける鉛直方向下側へ向かう応力に対して鉛直方向上側へ向けて反力を発生することができる。
したがって、基礎杭を回転するための棒状部材で支持翼部材を補強できるので、基礎杭を容易に製造できると共に、支持翼部材をさらに大きく形成して基礎杭の支持力を向上することができる。
【0014】
また、本発明では、前記円筒部材、前記支持翼部材および前記棒状部材は、それぞれ鋼材にて形成され、それぞれ溶接にて一体的に取り付けられることが好ましい。
本発明によれば、基礎杭を溶接にて形成できるので、基礎杭を簡易かつ安価に仕上げることができる。また、円筒部材、支持翼部材および棒状部材を、溶接にて一体的に形成することで、基礎杭に高い強度を付与することができる。さらに、円筒部材を鋼材で形成して基礎杭をいわゆる鋼管杭として構成することで、コンクリート杭や摩擦杭と比較して基礎杭自体の製造が容易にできる。
【0015】
上記の基礎杭を地中に埋設するための本発明の杭埋設治具は、前記円筒部材の内周側に挿通可能な柱状に形成され、前記回転駆動手段からの駆動力を軸方向の一端側に受けて、当該柱状における中心軸を中心として回転する駆動軸部材と、前記駆動軸部材の前記軸方向の他端側に一体的に設けられ、前記円筒部材の内側において前記棒状部材に係合して前記棒状部材に前記回転トルクを伝達する係合部材と、を具備したことを特徴とする。
本発明によれば、杭埋設治具を介して、回転駆動手段からの駆動力を基礎杭の最深部側に直接伝えることができる。よって、基礎杭の埋設において必要最小限の回転トルクを回転駆動手段から加えれば基礎杭を回転することができるので、省エネルギー効果が得られる。また、基礎杭における円筒部材の内側に杭埋設治具を挿入して基礎杭を回転しているので、杭埋設治具と地中の土砂とが接触することがなく、基礎杭を良好に回転できる。さらに、基礎杭の埋設作業が終了した際は、係合部材と棒状部材との係合を解除して杭埋設治具を取り外せるので、杭埋設治具を何度でも使用することができ、基礎杭の施工を経済的に行うことができる。
【0016】
この発明では、前記駆動軸部材の前記軸方向の一端面には、前記駆動軸部材の前記軸方向の外側に向けて突出した角柱状の突出部が設けられ、前記駆動軸部材の前記軸方向の他端面には、前記突出部と対応する凹状に形成されかつ前記突出部が嵌合可能な凹部が設けられ、前記凹部に前記突出部を嵌合させた状態で、前記突出部および前記凹部を前記駆動軸部材の前記軸方向と略直交する方向に貫通するロッドを具備し、前記駆動軸部材は、前記駆動軸部材における前記凹部に異なる前記駆動軸部材における前記突出部が嵌合されて前記ロッドが貫通されることにより、同一軸上で複数連結可能となっていることが好ましい。
本発明によれば、突出部を凹部に嵌合してロッドで固定するだけで、複数の駆動軸部材を簡単に連結することができる。しかも、ロッドによる固定であるので、杭埋設治具を何度でも使用することができ、基礎杭の施工を経済的に行うことができる。
【0017】
上記基礎杭を上記杭埋設治具を用いて地中に埋設する本発明の杭埋設方法は、前記支持翼部材が設けられた前記円筒部材の前記軸方向の他端側を地面に対向させて前記基礎杭を保持し、この保持した前記基礎杭における前記円筒部材の内周側に前記駆動軸部材および前記係合部材を挿通して、前記係合部材を前記棒状部材に係合させ、前記回転駆動手段により前記駆動軸部材の前記軸方向の一端側に前記駆動力を与えて前記棒状部材に前記回転トルクを伝達し、前記基礎杭を回転させながら地中に埋設することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、地中から最も大きな摩擦抵抗力を受ける支持翼部材が設けられた円筒部材の最深部側に対して回転トルクを加えることができるので、必要最低限の回転トルクで済み、従来のように過度の回転トルクを付加することにより円筒部材が破損してしまうことがない。これにより、例えば継足円筒部材を円筒部材に連結する際に、円筒部材における上端部側を切除して研磨するなどの余分な加工をせずとも、そのまま継足円筒部材を円筒部材に連結できるので、材料費を低減できると共に工数を大幅に省略できる。
また、円筒部材の最深部側に対して回転トルクを加えることができるので、従来よりも円筒部材および支持翼部材を大きく形成したとしても、無理なく基礎杭を回転することができる。これにより、大きな円筒部材および支持翼部材を地中に埋設することが可能となるので、一本の基礎杭で建造物を支持できる力を大幅に向上することができる。よって、従来、建造物を建設するに当り所定の支持力を確保するために複数の基礎杭を埋設していたものを、1本の基礎杭を埋設するだけで充分な支持力を得ることができる。これにより、基礎杭の埋設本数を削減でき、作業工数および材料費の大幅な削減が実現できる。
したがって、施工効率を向上できる。
【0019】
この発明では、前記基礎杭における前記円筒部材の少なくとも一部が地中に埋設されている状態において、前記駆動軸部材の前記軸方向の一端部に新たな前記駆動軸部材を連結し、前記円筒部材と略同一の外径および内径を有する継足円筒部材の内周側に当該新たな前記駆動軸部材を挿通し、前記円筒部材における前記軸方向の一端部と前記継足円筒部材の軸方向の一端部とを同一軸上で連結し、前記回転駆動手段により前記新たな駆動軸部材の前記軸方向の一端側に前記駆動力を与えて前記棒状部材に前記回転トルクを伝達し、前記基礎杭を回転させながら地中に埋設することが好ましい。
本発明によれば、当該連結作業を繰り返せば、基礎杭を長く形成することができ、地盤表層の軟弱な地層の深さが30mを超えるような土地にも基礎杭を支持層に固定することができる。
そして、基礎杭を複数の継足円筒部材の連結により長く形成したとしても、円筒部材の最深部側に対して回転トルクを直接伝達することができるので、円筒部材と継足円筒部材との溶接部においても大きな負荷が掛かることがない。つまり、円筒部材と継足円筒部材との間の溶接部が破損して、埋設途中の基礎杭が地中に取り残されるなどの問題を防ぐことができる。
したがって、基礎杭の施工効率を向上することができる。
【0020】
また、本発明では、攪拌手段にて地中を攪拌しながら攪拌された土層中に硬化剤を混入し、当該攪拌された土層中に前記基礎杭を埋設することが好ましい。
本発明によれば、基礎杭を攪拌された土層中に対して回転しながら埋設するので、基礎杭の支持翼部材を大きく形成したとしても基礎杭を円滑に回転することができる。また、埋設の際には基礎杭を鉛直方向下側に向けて押圧せずとも基礎杭の回転のみで、被攪拌層への施工を行うことができる。そして、基礎杭の埋設後、例えばセメント系の硬化剤が凝固することにより、基礎杭は高い支持力を得ることができる。
また、いわゆる地盤改良工法を採用したことで、土中の水分を利用するので硬化剤に多くの水を必要とせず、残土の排出量もセメントミルク工法などと比較して著しく低く留めることができる。このため、残土の処理に掛かるコストを抑えることができ、かつ、環境問題となる残土の排出量が少ないので環境問題の解決に対しても寄与できる。
【0021】
さらに、本発明では、前記基礎杭を埋設した後、前記杭埋設治具を前記基礎杭の内部から抜き出し、前記基礎杭の内部に硬化剤を充填することが好ましい。
本発明によれば、基礎杭を土中に埋設した後、基礎杭における円筒部材や継足円筒部材の内部に、例えばセメントミルクなどの硬化剤を充填することにより、基礎杭の強度を高めることができる。すなわち、円筒部材や継足円筒部材は、円筒部材や継足円筒部材に対する土中から押圧力に抗することができ、土中からの押圧力により潰されてしまうなどの事態を防ぐことができる。また、例えば円筒部材に対して複数の継足円筒部材を連結して基礎杭を構成した場合、硬化剤により円筒部材および継足円筒部材を内部から一連に連結することができるので、円筒部材と継足円筒部材との良好な連結状態を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態では、いわゆる地盤改良工法において本発明の基礎杭を地中に埋設する構成について例示するが、これに限らず、いわゆるセメントミルク工法において基礎杭を地中に埋設する構成や、基礎杭を回転させて直に地中に埋設する構成など、いずれの構成でも適用できる。
【0023】
〔杭埋設装置の構成〕
まず、基礎杭を埋設するための装置構成について図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る杭埋設方法において、杭埋設装置で基礎杭を埋設する動作を示す概念図である。図2は、杭埋設治具を示す斜視図である。
【0024】
図1において、1は杭埋設装置で、この杭埋設装置1は、クレーン2を有したクレーン車両3と、回転駆動手段としての油圧モータ4と、杭埋設治具10と、を備えている。油圧モータ4は、クレーン2の先端側に設けられており、クレーン車両3の図示しないエンジンの駆動により、油圧モータ4の一端に設けられたスプライン出力軸5を正逆両方向に回転する。
【0025】
杭埋設治具10は、図1および図2に示すように、スプライン出力軸5の軸方向一端側に取り付けられ、油圧モータ4からの駆動力を受けて基礎杭20に回転トルクを伝達する。この杭埋設治具10は、モータ側駆動軸部材11と、駆動軸部材12と、係合部材13と、を備えている。
【0026】
モータ側駆動軸部材11は、例えば鋼材などにて、スプライン出力軸5の外径よりも径大の略円柱状に形成されている。
【0027】
そして、このモータ側駆動軸部材11の軸方向一端面には、スプライン出力軸5の軸方向一端側と対応する凹状の図示しないモータ側係合凹部が形成されている。このモータ側係合凹部の内周には、スプライン出力軸5の軸方向一端側がモータ側駆動軸部材11と同一軸を有する状態で嵌合する。
なお、スプライン出力軸5の外周面およびモータ側係合凹部の内周面には軸方向に沿った図示しない複数の溝が形成されている。これにより、スプライン出力軸5の外周面およびモータ側係合凹部の内周面が互いに噛み合うので、油圧モータ4からの駆動力が杭埋設治具10に確実に伝達される。
【0028】
また、モータ側駆動軸部材11の軸方向他端面側には、モータ側駆動軸部材11と同一軸を有す六角柱状の凹部11Aが設けられている。そして、モータ側駆動軸部材11の軸方向他端側における所定の位置には、凹部11Aの内周面からモータ側駆動軸部材11の外周面へ向け貫通形成された複数の貫通孔11Bが設けられている。
【0029】
駆動軸部材12は、例えば鋼材などにて、モータ側駆動軸部材11と略同じ外径寸法を有した略円柱状に形成されている。この駆動軸部材12の軸方向長さ寸法は、例えば6mなどに設定されている。
【0030】
そして、駆動軸部材12の軸方向一端面には、突出部12Aが一体的に設けられている。
この突出部12Aは、モータ側駆動軸部材11の凹部11Aに対応する凸状かつ凹部11Aに嵌合可能な六角柱状に形成され、駆動軸部材12と同一軸を有した状態で駆動軸部材12の軸方向外側に向けて突出している。また、突出部12Aの所定の位置には、駆動軸部材12の軸方向に略直交する一対の貫通孔12A1が設けられている。これにより、突出部12Aをモータ側駆動軸部材11の凹部11Aに嵌合した状態において、突出部12Aの貫通孔12A1とモータ側駆動軸部材11の貫通孔11Bとで駆動軸部材12の軸方向に略直交する一連の貫通孔が一対形成される。そして、貫通孔11B,12A1にて形成された当該貫通孔には図示しないロッドが挿通され、このロッドを当該貫通孔に対して固定することにより、モータ側駆動軸部材11と駆動軸部材12とが一体的に連結される。
【0031】
また、駆動軸部材12の軸方向他端面側には、モータ側駆動軸部材11の凹部11Aと略同様の六角形状の凹部12Bが設けられている。そして、駆動軸部材12の軸方向他端側における所定の位置には、凹部12Bの内周面から駆動軸部材12の外周面へ向け貫通形成された複数の貫通孔12Cが設けられている。
【0032】
なお、駆動軸部材12は、同一軸上で複数連結可能となっている。
すなわち、例えば、モータ側駆動軸部材11に対して2本の駆動軸部材12を連結する場合、まず、1本目の駆動軸部材12の突出部12Aをモータ側駆動軸部材11の凹部11Aに嵌合する。そして、図示しないロッドを貫通孔11B,12A1にて形成された貫通孔内に挿通して固定することにより、モータ側駆動軸部材11と1本目の駆動軸部材12とが一体的に連結される。さらに、1本目の駆動軸部材12の凹部12Bに対して2本目の駆動軸部材12の突出部12Aを嵌合させ、1本目の駆動軸部材12における貫通孔12A1と2本目の駆動軸部材12の貫通孔12Cとで形成された一連の貫通孔に図示しないロッドを挿通して固定する。これにより、モータ側駆動軸部材11に対して、1本目の駆動軸部材12と2本目の駆動軸部材12とが一体的に連結される。
【0033】
係合部材13は、例えば鋼材などにて略有底円筒状に形成されている。
すなわち、係合部材13は、駆動軸部材12と略同じ外径寸法を有した円筒部13Aを有している。この円筒部13Aの軸方向一端面には円盤状の底部13Bが一体的に設けられている。この底部13Bにおける円筒部13Aが設けられた面の反対面には、突出部13Cが一体的に設けられている。
【0034】
この突出部13Cは、駆動軸部材12における突出部12Aと略同様で、駆動軸部材12の凹部12Bに対応する凸状かつ凹部12Bに嵌合可能な六角柱状に形成され、円筒部13Aと同一軸を有した状態で円筒部13Aの軸方向に略沿って突出している。
また、突出部13Cの所定の位置には、円筒部13Aの軸方向に略直交する一対の貫通孔13C1が設けられている。これにより、突出部13Cを駆動軸部材12の凹部12Bに嵌合した状態において、突出部13Cの貫通孔13C1と駆動軸部材12の貫通孔12Cとで円筒部13Aの軸方向に略直交する一連の貫通孔が一対形成される。そして、貫通孔12C,13C1にて形成された当該貫通孔には図示しないロッドが挿通され、このロッドを当該貫通孔に対して固定することにより、駆動軸部材12と係合部材13とが一体的に連結される。
【0035】
また、円筒部13Aの軸方向他端側には、一対の略L字形状の切欠部13Dが設けられている。
具体的には、一対の切欠部13Dは、円筒部13Aの軸方向他端側において、円筒部13Aの径方向で対称となる位置に設けられている。そして、それぞれの切欠部13Dは、円筒部13Aの軸方向他端面から軸方向略中央に亘り所定の幅の直線状に切り欠かれている。さらに、切欠部13Dは、円筒部13Aの軸方向略中央における当該直線状の一端部から、円筒部13Aを軸方向他端側から見て時計回り方向(以下、当該時計回り方向を逆方向と称し、その逆の反時計回り方向を正方向と称して適宜説明する。)へ向けて所定の幅の直線状に切り欠かれて、ここに後述する基礎杭20の棒状部材23と係合する係合部13D1が形成されている。これにより、切欠部13Dは、全体として略L字形状に形成されている。なお、切欠部13Dの開口端側は円筒部13Aの軸方向他端縁へ向けて拡開する状態に形成されている。また、切欠部13Dにおける直線状の線幅は、後述する棒状部材23の略正方形状の軸直交断面における一辺の長さよりも、若干大きく設定されている。
【0036】
〔基礎杭の構成〕
次に、基礎杭の具体的な構成について図面に基づいて説明する。図3は、基礎杭の要部を示す正面図である。図4は、基礎杭の要部を示す底面図である。
【0037】
基礎杭20は、図1に示すように、軸方向が鉛直方向に略沿う状態で地中に埋設され、地上に構築される図示しない建造物と連結されて当該構造物を支持する。この基礎杭20は、図3および図4に示すように、円筒部材21と、支持翼部材22と、棒状部材23と、補強部材24と、を備えている。
【0038】
円筒部材21は、例えば厚さ6mmの鋼板にて円筒状に形成され、軸方向長さ寸法は例えば6mに設定されている。また、円筒部材21の外径寸法は例えば260mmに設定され、円筒部材21の内径寸法は例えば254mmに設定されている。なお、この円筒部材21の内径寸法は、杭埋設治具10における駆動軸部材12および係合部材13の外径寸法よりも大きく設定される必要がある。
そして、円筒部材21は、軸方向が鉛直方向に略沿う状態で地中に埋設され、軸方向一端側に建造物が連結可能となっている。
また、円筒部材21の軸方向他端部には、円錐状の杭頭部21Aが一体的に設けられている。
さらに、円筒部材21の軸方向他端側には、円筒部材21の径方向で対称となる所定の位置に、略正方形状に貫通形成された図示しない一対の貫通孔が設けられている。
【0039】
支持翼部材22は、例えば厚さ32mmの鋼板にて、短辺が500mmで長辺が1000mmの長方形状に形成され、円筒部材21の軸方向他端側に一対で設けられている。これら支持翼部材22における長辺のうち一方側には、図示しない円弧状の切欠部が設けられている。この切欠部が円筒部材21の外周面に当接して溶接されることにより、支持翼部材22が円筒部材21の外周面に一体的に取り付けられている。そして、一対の支持翼部材22は、円筒部材21の軸方向および当該軸方向と直交する方向に対して交差する状態で、円筒部材21の一径方向上において円筒部材21を間に挟んだ状態で設けられている。この支持翼部材22と円筒部材21の軸方向とのなす角は、例えば3.5度に設定されている。
【0040】
棒状部材23は、例えば鋼材にて軸直交方向断面が略正方形の四角柱状に形成されている。この棒状部材23の軸方向長さ寸法は、円筒部材21の外径寸法よりも長く、例えば280mmに設定されている。
そして、棒状部材23は、円筒部材21の軸方向下端側に形成された図示しない貫通孔に挿通されて、円筒部材21の中心軸を通りかつその径方向に略沿う状態に設けられている。当該貫通した状態で、棒状部材23の軸方向両端側23Aは、円筒部材21の外周面から円筒部材21の径方向外側へ向けて例えば10mmほど突出している。
さらに、棒状部材23は、支持翼部材22よりも円筒部材21の軸方向他端寄りに支持翼部材22に当接して設けられている。そして、棒状部材23は、溶接にて円筒部材21における図示しない貫通孔に一体的に取り付けられると共に、棒状部材23の軸方向両端側が支持翼部材22に一体的に取り付けられている。これにより、棒状部材23の軸方向両端側23Aにて支持翼部材22を支持可能となっている。
【0041】
補強部材24は、例えば厚さ32mmの鋼板にて、略三角形状に形成された部材である。
具体的には、補強部材24は、図3および図4に示すように、第1の補強部材24Aと、第2の補強部材24Bとを備え、一対の支持翼部材22のそれぞれに対応して設けられている。
【0042】
第1の補強部材24Aは、支持翼部材22の長手方向両端側のうち一端側、すなわち、円筒部材21の杭頭部21Aへ向けて近づく状態に傾斜した端部側に設けられている。また、円筒部材21の軸方向および径方向に略平行する状態で、円筒部材21の外周面から、支持翼部材22の当該長手方向一端側における2つの角部のうち円筒部材21から最も遠い位置にある角部へ向けて延出している。そして、円筒部材21の外周面および支持翼部材22における円筒部材21の軸方向他端側の面に、溶接にて一体的に取り付けられている。
【0043】
第2の補強部材24Bは、支持翼部材22の長手方向両端側のうち他端側、すなわち、円筒部材21の杭頭部21Aから離れる状態に傾斜した端部側に設けられている。また、円筒部材21の軸方向および径方向に略平行する状態で、円筒部材21の外周面から、支持翼部材22の当該長手方向他端側における2つの角部のうち円筒部材21から最も遠い位置にある角部へ向けて延出している。そして、円筒部材21の外周面および支持翼部材22における円筒部材21の軸方向他端側の面に、溶接にて一体的に取り付けられている。
【0044】
なお、上記のような構成の基礎杭20において、円筒部材21は、同一軸上で複数本連結することが可能となっている。
すなわち、円筒部材21を複数本連結する場合は、地中最も深く位置する円筒部材21の軸方向他端側にのみ、杭頭部21A、支持翼部材22、棒状部材23、補強部材24が設けられている。そして、当該円筒部材21の軸方向一端部に対して、継足円筒部材25の軸方向一端側が溶接により連結される。この継足円筒部材25は、当該円筒部材21と同一の材料にて形成され、当該円筒部材21と略同一の外径および内径を有し、軸方向長さが例えば6mに設定された円筒部材である。そして、継足円筒部材25の軸方向他端部に、新たな継足円筒部材25の軸方向一端部を溶接により繋ぎ合わせ、この繰り返しにより円筒部材21に対して複数本の継足円筒部材25を同一軸上に連結することが可能となる。
【0045】
〔基礎杭の埋設動作〕
このような構成の基礎杭20を、杭埋設装置1を用いて地中に埋設する動作について、図面に基づいて説明する。図5は、基礎工事の全体の流れを説明するための概念図であり、図5(A)は第1の工程を示し、図5(B)は第2の工程を示し、図5(C)は第3の工程を示す。図6は、基礎杭埋設時における杭埋設治具の連結動作を説明するための正面図であり、図6(A)は連結する前の杭埋設治具を示し、図6(B)は連結した後の杭埋設治具を示す。
【0046】
まず、基礎工事の全体の流れについて説明する。図5に示すように、本実施の形態における基礎工事では、軟弱な地層を攪拌しながら攪拌した地層中に硬化剤を混入し、当該攪拌した地層中に基礎杭20を埋設する、いわゆる地盤改良工法を採用している。
【0047】
具体的には、図5(A)に示す第1の工程では、オーガマシンなどの図示しない攪拌手段にて、地盤表層の軟弱な地層Iの所定の部位を攪拌し、鉛直方向に略沿った円柱状の被攪拌層IIを形成する。この被攪拌層IIを形成する際には、攪拌手段から例えばセメント系の硬化剤を吐出し、被攪拌層IIにおける土砂と硬化剤とを混ぜ合わせる。そして、図示しない建造物を支持するのに充分な硬度を有する支持層IIIに達するまで被攪拌層IIを形成する。被攪拌層IIを支持層IIIに達する所定深度まで形成したら、攪拌手段を鉛直上下方向に往復して、被攪拌層IIを充分に攪拌する。そして、硬化剤が被攪拌層IIに万遍なく混ぜ合わされたら攪拌手段を被攪拌層IIから取り出して、第1の工程が終了する。
なお、第1の工程を終えた状態では、被攪拌層IIは、予め地層Iに含まれていた水分などを吸収して所定の粘度を有した状態で液状化しており、所定時間経過後に硬化する。
【0048】
そして、図5(B)に示す第2の工程は、本発明の杭埋設方法を用いる工程であり、杭埋設装置1を用いて基礎杭20を未硬化状態の被攪拌層II中に埋設する。この第2の工程については、後で詳述する。さらに、図5(C)に示す第3の工程では、基礎杭20を被攪拌層II中に埋設した後、基礎杭20の内部に例えばセメントミルクなどの硬化剤を充填する。そして、所定時間の経過後に被攪拌層IIおよび基礎杭20内部の硬化剤が充分に硬化した状態で、地表面に突出した基礎杭20の円筒部材21の上端部にコンクリート基礎IVを一体的に設ける。これにより、一連の基礎工事が終了する。なお、コンクリート基礎IV上には、図示しない建造物が建設される。
【0049】
ここで、図5(B)に示した第2の工程について詳述する。
まず、予め、円筒部材21に対して、支持翼部材22、棒状部材23および補強部材24を取り付け、図3および図4に示す基礎杭20を構成しておく。そして、現場にて、杭埋設装置1のスプライン出力軸5に杭埋設治具10を連結する。すなわち、図6(A)に示すように杭埋設治具10の各部を解体した状態で現場に運搬し、図6(B)に示すようにスプライン出力軸5にモータ側駆動軸部材11を取り付け、このモータ側駆動軸部材11に対して駆動軸部材12および係合部材13を取り付ける。
【0050】
そして、図1に示すように、基礎杭20における杭頭部21Aを被攪拌層IIに対向させ、基礎杭20の円筒部材21の軸方向が鉛直方向に略沿う状態で、基礎杭20を保持する。この基礎杭20を保持した状態において、クレーン車両3のクレーン2を操作して、基礎杭20における円筒部材21の内周側に、駆動軸部材12および係合部材13を挿通する。そして、基礎杭20における円筒部材21の内側において、係合部材13を棒状部材23に係合させる。
【0051】
ここで、係合部材13を棒状部材23に係合させる動作について、図7に基づいて説明する。図7は、基礎杭を中心軸に沿って破断した状態で、杭埋設治具の係合部と基礎杭の棒状部材との係合状態を示す正面図であり、図7(A)は係合部に棒状部材が係合した状態を示し、図7(B)は係合部に棒状部材が係合していない状態を示す。
【0052】
まず、クレーン2を操作して円筒部材21内において杭埋設治具10を鉛直方向下側に移動する。そして、係合部材13における切欠部13Dに棒状部材23を挿入し、図7(B)に示す状態にする。この後、油圧モータ4を駆動して杭埋設治具10を円筒部13Aを正方向に僅かに回転させて、図7(A)に示すように切欠部13Dにおける係合部13D1に棒状部材23を係合させる。
【0053】
そして、係合部材13を棒状部材23に係合させた後、油圧モータ4を駆動させてスプライン出力軸5を正方向へと回転させて、杭埋設治具10を回転させる。この油圧モータ4の駆動による杭埋設治具10の回転により、基礎杭20の棒状部材23に油圧モータ4からの回転トルクが伝達し、基礎杭20の全体が杭埋設治具10と共に回転する。これにより、基礎杭20は、図1に示すように、支持翼部材22により被攪拌層IIにねじ込まれる状態で埋設されていく。
【0054】
この基礎杭20の回転動作について、図8に基づいて説明する。図8は、基礎杭の埋設時における回転動作を説明するための正面図である。図8に示すように、油圧モータ4を駆動させてスプライン出力軸5を正方向へと回転させると、支持翼部材22の長手方向両端側のうち一端側、すなわち、第1の補強部材24Aが設けられた側の端部から被攪拌層II中の土砂Vに突き当たる。さらに正方向へ回転させると、土砂Vは、支持翼部材22における円筒部材21の軸方向一端側の面、すなわち、支持翼部材22の図中上側の面に沿って流動する。この土砂Vが流動する際、支持翼部材22が円筒部材21の軸方向および当該軸方向と直交する方向に対して交差する状態で取り付けられているので、支持翼部材22の図中上面に衝突した土砂Vにより支持翼部材22は鉛直方向下側へ向けて押し出される。これにより、基礎杭20および杭埋設治具10が全体的に鉛直方向下側へと進出する。したがって、基礎杭20に対して鉛直方向下側へ向けて荷重を加えなくとも、油圧モータ4からの回転トルクのみで基礎杭20が鉛直方向下側へと進出する。
【0055】
なお、この基礎杭20の正方向への回転時において、支持翼部材22の図中上面では、土砂Vが支持翼部材22の図中上面に沿って一定方向に流動し、土砂Vは支持翼部材22の図中上面に強く衝突する状態となっている。一方、支持翼部材22の図中下面側では、土砂の流動量が著しく低い状態となっている。
このため、棒状部材23の両端側は、支持翼部材22の図中下面側に当接して設けられているので、棒状部材23の両端側への土砂の衝突エネルギーは低く、棒状部材23の両端側が基礎杭20の正方向への回転を妨げることはない。また、棒状部材23の両端側は支持翼部材22の図中下面側に設けられていることから、支持翼部材22は、土砂Vから受ける鉛直方向下側へ向かう応力に対して、円筒部材21に一体的に取り付けられた棒状部材23に支持されたことにより、鉛直方向上側へ向けて反力を発生する。
そして、補強部材24は、円筒部材21の軸方向および径方向に略平行する状態で、円筒部材21の外周面および支持翼部材22の図中下面側に取り付けられているので、補強部材24への土砂の衝突エネルギーは低く、補強部材24が基礎杭20の正方向への回転を妨げることはない。また、補強部材24は、支持翼部材22の図中下面側において円筒部材21の軸方向および径方向に略平行する状態で設けられている。このことから、支持翼部材22は、土砂Vから受ける鉛直方向下側へ向かう応力に対して、補強部材24に支持されたことにより、鉛直方向上側へ向けて大きな反力を発生する。
【0056】
さらに、複数本の継足円筒部材25を円筒部材21に連結して、基礎杭20を深く埋設する場合について説明する。ここでは、動作の一例として、1本の継足円筒部材25を円筒部材21に連結するケースで説明する。
【0057】
まず、初期状態として、基礎杭20は、1つの円筒部材21に杭頭部21A、支持翼部材22、棒状部材23および補強部材24が設けられている。また、杭埋設治具10は、モータ側駆動軸部材11に対して1本目の駆動軸部材12および係合部材13が連結されており、基礎杭20の円筒部材21内に挿入されて、係合部材13に棒状部材23が係合した状態となっている。さらに、棒状部材23が係合部材13に係合した状態で、モータ側駆動軸部材11は、円筒部材21の軸方向一端側すなわち図1における上端側よりも外側に位置している。
【0058】
そして、この基礎杭20を回転して被攪拌層II中に埋設し、円筒部材21の一部が被攪拌層II中に埋設されたところで、基礎杭20の回転を一度停止する。ここで、棒状部材23を係合部材13に係合させたまま、モータ側駆動軸部材11と1本目の駆動軸部材12とを連結している図示しないロットを外して連結を解除する。そして、1本目の駆動軸部材12に対して2本目の駆動軸部材12を連結する。
この状態において、継足円筒部材25を運搬して、継足円筒部材25内部に2本目の駆動軸部材12を挿通する。そして、被攪拌層II中に埋設されていない側の円筒部材21の端部と、継足円筒部材25の軸方向一端部とを、互いに同一軸を有す状態で溶接にて連結する。さらに、2本目の駆動軸部材12にモータ側駆動軸部材11を連結する。再度、油圧モータ4により2本目の駆動軸部材12の軸方向一端側に駆動力を付与し、継足円筒部材25にて延長された基礎杭20を被攪拌層II中に埋設する。
なお、上記動作を繰り返すことにより3本以上の継足円筒部材25を円筒部材21に連結することができる。
【0059】
このように、複数本の継足円筒部材25を円筒部材21に連結して基礎杭20を深く埋設する場合、支持翼部材22、円筒部材21の外周面および継足円筒部材25の外周面のそれぞれは、被攪拌層IIから大きな摩擦抵抗力を受ける。特に、基礎杭20の最深部側すなわち支持翼部材22近傍では、被攪拌層IIから受ける摩擦抵抗力が最大となる。
しかしながら、油圧モータ4からの回転トルクを杭埋設治具10を介して基礎杭20の棒状部材23に伝達するので、油圧モータ4からは、基礎杭20の最深部側が被攪拌層IIから受ける摩擦力を若干超える程度の必要最低限度の回転トルクを加えれば、基礎杭20は充分に回転する。また、円筒部材21と継足円筒部材25との溶接部には、大きな負荷が掛からない。
【0060】
そして、基礎杭20を所定の位置まで埋設したら、油圧モータ4を逆方向に回転して棒状部材23と係合部材13との係合状態を図7(A)の状態から図7(B)の状態へと変化させ、棒状部材23と係合部材13との係合を解除する。そして、クレーン2を操作して杭埋設治具10を鉛直方向上側に移動して、基礎杭20内部から取り外す。
【0061】
〔基礎杭、杭埋設治具および杭埋設方法の作用効果〕
上述したように、上記実施の形態では、基礎杭20、杭埋設治具10および杭埋設方法は以下の作用効果を奏する。
【0062】
(1)基礎杭20に、軸方向の一端側に建造物が連結される円筒部材21を設けている。この円筒部材の外周面における軸方向他端側に、円筒部材21の軸方向と当該軸方向と直交する方向とのそれぞれに平面が交差した状態で、略平板状の支持翼部材22を設けている。また、円筒部材21における支持翼部材22の近傍かつ円筒部材21の内周側に、円筒部材21の径方向に略沿って、棒状部材23を設けている。この棒状部材23に対して、地上に設置された油圧モータ4から円筒部材21の中心軸を中心に回転させる回転トルクを与えることが可能となっている。
【0063】
このため、被攪拌層IIから最も大きな摩擦抵抗力を受ける支持翼部材22が設けられた円筒部材21の最深部側に対して、回転トルクを加えることができるので、必要最低限の回転トルクで済み、従来のように過度の回転トルクを付加することにより円筒部材21が破損してしまうことがない。これにより、継足円筒部材25を円筒部材21に連結する際に、円筒部材21における上端部側を切除して研磨するなどの余分な加工をせずとも、そのまま継足円筒部材25を円筒部材21に連結できるので、材料費を低減できると共に工数を大幅に省略できる。
また、円筒部材21の最深部側に対して回転トルクを加えることができるので、従来よりも円筒部材21および支持翼部材22を大きく形成したとしても、無理なく基礎杭20を回転することができる。これにより、大きな円筒部材21および支持翼部材22を被攪拌層IIに埋設することが可能となるので、一本の基礎杭20で建造物を支持できる力を大幅に向上することができる。よって、従来、建造物を建設するに当り所定の支持力を確保するために複数の基礎杭を埋設していたものを、1本の基礎杭20を埋設するだけで充分な支持力が得られるので、基礎杭の埋設本数を削減でき、作業工数および材料費の大幅な削減が実現できる。
したがって、施工効率を向上できると共に、工事を安価に行うことができる。
【0064】
(2)基礎杭20に、円筒部材21の軸方向および径方向に略平行する平板状に形成した補強部材24を、円筒部材21の外周面における軸方向他端側および支持翼部材22における円筒部材21の軸方向他端と対向する側の面に一体的に設けている。
このため、基礎杭20の正方向への回転時において、補強部材24を支持翼部材22における円筒部材21の軸方向他端と対向する側の面に取り付けられているので、補強部材24への土砂の衝突エネルギーは低く、補強部材24が基礎杭20の正方向への回転を妨げることを防ぐことができる。よって、基礎杭20を円滑に回転することができる。
また、支持翼部材22は、土砂Vから受ける鉛直方向下側へ向かう応力に対して、補強部材24に支持されて鉛直方向上側へ向けて大きな反力を発生することができる。これにより、支持翼部材22の厚さを薄くしても、支持翼部材22は被攪拌層IIから受ける応力に充分に耐え得る強度を確保することができる。そして、支持翼部材22の厚さを薄く形成可能にしたことで、円筒部材21にダメージを与えることなく円筒部材21と支持翼部材22とを良好に溶接することができ、当該溶接部に充分な強度を付与することができる。
さらに、支持翼部材22を補強部材24で補強することで、支持翼部材22を大きく形成することができ、一本の基礎杭20で建造物を支持できる力を大幅に向上することができる。
したがって、基礎杭20を良好に埋設でき、かつ、基礎杭20の支持力を大幅に向上することができる。
【0065】
(3)棒状部材23を、軸直交方向断面が略正方形の四角柱状に形成している。また、円筒部材21に、棒状部材23の両端側23Aが挿通される略正方形状の貫通孔を形成している。
このため、棒状部材23および円筒部材21における貫通孔を単純な形状にしたことで、基礎杭20の製造が容易にできる。また、軸直交方向断面が略正方形の棒状部材23に対して、円筒部材21における貫通孔は略正方形状であることから、棒状部材23を円筒部材21に強固に取り付けることができる。さらに、杭埋設治具10における係合部材13の略L字形状の切欠部13Dに対して、軸直交方向断面が略正方形の棒状部材23を係合させるので、係合部材13と棒状部材23との安定した係合状態を得ることができる。
【0066】
(4)棒状部材23を、円筒部材21を貫通させてその両端側23Aを円筒部材21の外周面から外側へ突出させて設けている。また、棒状部材23を、支持翼部材22よりも円筒部材21の軸方向他端寄りに支持翼部材22と当接させて、棒状部材23で支持翼部材22を支持している。
このため、基礎杭20を正方向へ回転して埋設する際、棒状部材23の両端側への土砂Vの衝突エネルギーは低く、棒状部材23の両端側が基礎杭20の回転を妨げることはない。すなわち、基礎杭20を円滑に回転することができる。また、棒状部材23の両端側を支持翼部材22よりも円筒部材21の軸方向他端寄りに支持翼部材22と当接させて設けていることから、支持翼部材22は、土砂Vから受ける鉛直方向下側へ向かう応力に対して鉛直方向上側へ向けて反力を発生することができる。
したがって、基礎杭20を回転するための棒状部材23で支持翼部材22を補強できるので、基礎杭20を容易に製造できると共に、支持翼部材22をさらに大きく形成して基礎杭20の支持力を向上することができる。
【0067】
(5)円筒部材21、支持翼部材22および棒状部材23を、それぞれ鋼材にて形成し、それぞれを溶接にて一体的に取り付けている。
このため、基礎杭20を溶接にて形成できるので、基礎杭20を簡易かつ安価に仕上げることができる。また、円筒部材21、支持翼部材22および棒状部材23を、溶接にて一体的に形成することで、基礎杭20に高い強度を付与することができる。さらに、鋼管の円筒部材21で基礎杭20(いわゆる鋼管杭)を構成することで、コンクリート杭や摩擦杭と比較して基礎杭20自体の製造が容易にできる。
【0068】
(6)杭埋設治具10に、円筒部材21の内周側に挿通可能な略円柱状の駆動軸部材12を設けている。この駆動軸部材12は、油圧モータ4からの駆動力を軸方向一端側に受けて、駆動軸部材12の中心軸を中心として回転する。また、駆動軸部材12の軸方向他端側に一体的に係合部材13を設け、円筒部材21の内側においてこの係合部材13に棒状部材23を係合させることにより、棒状部材23に回転トルクを伝達可能にしている。
このため、杭埋設治具10を介して、油圧モータ4からの回転トルクを基礎杭20の最深部側に直接伝えることができる。よって、基礎杭20の埋設において、必要最小限の回転トルクを油圧モータ4から加えれば、基礎杭20を充分に回転できるので、省エネルギー効果が得られる。また、基礎杭20における円筒部材21の内側に杭埋設治具10を挿入して基礎杭20を回転させているので、杭埋設治具10と被攪拌層IIとが接触することがなく、基礎杭20を良好に回転できる。さらに、基礎杭20の埋設作業終了後は、係合部材13と棒状部材23との係合を解除して杭埋設治具10を取り外せるので、杭埋設治具10を何度でも使用することができ、基礎杭20の施工を経済的に行うことができる。
【0069】
(7)駆動軸部材12の軸方向一端面には、駆動軸部材12の軸方向外側に向けて突出した六角柱状の突出部12Aを設けている。また、駆動軸部材12の軸方向他端面側には、突出部12Aと対応する凹状に形成されかつ突出部12Aが嵌合可能な凹部12Bを設けている。そして、駆動軸部材12の凹部12Bに異なる駆動軸部材12の突出部12Aを嵌合させ、これら突出部12Aおよび凹部12Bを駆動軸部材12の軸方向と略直交する方向に図示しないロッドを貫通させることで、複数の駆動軸部材12が同一軸上で連結可能となっている。
このため、突出部12Aを凹部12Bに嵌合してロッドで固定するだけで、複数の駆動軸部材12を簡単に連結することができる。しかも、ロッドによる固定であるので、杭埋設治具10を繰り返して使用することができ、基礎杭20の施工を経済的に行うことができる。
さらに、突出部12Aを六角柱状に形成しているので、突出部12Aを凹部12Bに確実に係合することができる。そして、例えば突出部12Aを四角柱状に形成した場合と比較すると、軸直交方向断面が円状の駆動軸部材12に対して、突出部12Aを六角柱状に形成した方が駆動軸部材12の軸方向一端面に連結された面積が広くなるので、突出部12Aと駆動軸部材12との間で発生するねじれ力にも充分に対抗することができる。つまり、基礎杭20の埋設時に杭埋設治具10が破損してしまい、作業を中止しなければならなくなるなどの事態の発生を防ぐことができる。
【0070】
(8)基礎杭20の埋設時に基礎杭20に継足円筒部材25を連結する場合、円筒部材21の少なくとも一部が被攪拌層II中に埋設されている状態において、駆動軸部材12の軸方向一端側に新たな駆動軸部材12を連結する。そして、円筒部材21と略同一の外径および内径を有する継足円筒部材25の内周側に当該新たな駆動軸部材12を挿通し、円筒部材21における軸方向一端部と継足円筒部材25の軸方向一端部とを同一軸上で連結する。さらに、油圧モータ4により新たな駆動軸部材12の軸方向一端側に回転トルクを与えて、棒状部材23に回転トルクを伝達させ、基礎杭20を回転させながら被攪拌層II中に埋設する。
このため、当該連結作業を繰り返せば、基礎杭20を長く形成することができ、地盤表層の軟弱な地層Iの深さが30mを超えるような土地にも基礎杭20を支持層IIIに固定することができる。
そして、基礎杭20を複数の継足円筒部材25の連結により長く形成したとしても、円筒部材21の最深部側に対して回転トルクを加えることができるので、円筒部材21と継足円筒部材25との溶接部においても大きな負荷が掛かることがない。すなわち、円筒部材21と継足円筒部材25との間の溶接部が破損して、埋設途中の基礎杭20が地中に取り残されるなどの問題を防ぐことができる。
したがって、基礎杭20の施工効率を向上することができる。
【0071】
(9)図示しない攪拌手段にて地中を攪拌しながら攪拌された土中に硬化剤を混入して被攪拌層IIを形成している。そして、この被攪拌層IIに対して基礎杭20を埋設する、いわゆる地盤改良工法にて鋼管杭を埋設する工法を採用している。
このため、基礎杭20を液状化した被攪拌層IIに対して回転しながら埋設するので、基礎杭20の支持翼部材22を大きく形成したとしても基礎杭20を円滑に回転することができる。また、埋設の際には基礎杭20を鉛直方向下側に向けて押圧せずとも基礎杭20の回転のみで、被攪拌層IIへの施工を行うことができる。そして、基礎杭20の埋設後、被攪拌層IIが凝固することにより基礎杭20は高い支持力を得ることができる。
また、いわゆる地盤改良工法を採用したことで、被攪拌層IIの形成に際して土中の水分を利用するので多くの水を必要とせず、残土の排出量もセメントミルク工法などと比較して著しく低く留めることができる。このため、残土の処理に掛かるコストを抑えることができ、かつ、環境問題となる残土の排出量が少ないので環境問題の解決に対しても寄与できる。
【0072】
(10)基礎杭20を埋設した後、杭埋設治具10を基礎杭20の内部から抜き出し、基礎杭20の内部に例えばセメントミルクなどの硬化剤を充填する。これにより、基礎杭20の強度を高めることができる。すなわち、円筒部材21や継足円筒部材25に対して被攪拌層II中から押圧力が加えられても、円筒部材21や継足円筒部材25の内部が硬化剤にて充填されているため被攪拌層II中からの押圧力に抗することができ、円筒部材21や継足円筒部材25が被攪拌層II中からの押圧力により潰されてしまうなどの事態を防ぐことができる。また、例えば円筒部材21に対して複数の継足円筒部材25を連結して基礎杭20を構成した場合、硬化剤により円筒部材21および継足円筒部材25を内部にて一連に連結することで、円筒部材21と継足円筒部材25との良好な連結状態を維持することができる。
【0073】
(11)杭埋設治具10における係合部材13に、L字形状の切欠部13Dを形成している。そして、基礎杭20の棒状部材23に対して係合部材13を係合する際は、円筒部材21内において杭埋設治具10を鉛直方向下側に移動して切欠部13Dに棒状部材23を挿入し、杭埋設治具10を正方向に僅かに回転させることにより、切欠部13Dにおける係合部13D1に棒状部材23が係合する。また、基礎杭20の埋設後、基礎杭20内部から杭埋設治具10を取り外す場合は、杭埋設治具10を逆方向に回転して棒状部材23と係合部材13との係合を解除し、杭埋設治具10を鉛直方向上側に移動することにより基礎杭20内部から取り外す。
このため、基礎杭20の棒状部材23に対して係合部材13を容易に係脱でき、基礎杭20の埋設後、杭埋設治具10は何度でも繰り返し使用することができる。また、切欠部13DがL字形状であるので、基礎杭20の回転時に棒状部材23と係合部材13との係合状態が解除されることがないので、基礎杭20の安定した施工が実現できる。
【0074】
(12)支持翼部材22の形状を略長方形状としている。このため、支持翼部材22の加工において、鋼板を直線状に切断するだけで支持翼部材22を製造できるので、高い製造効率を確保することができる。また、この略長方形状の支持翼部材22を備えた基礎杭20を埋設した場合、支持翼部材22により広い面積で円筒部材21を安定して支持できるので、基礎杭20の良好な支持力を得ることができる。そして、略長方形状の支持翼部材22に対して補強部材24を設けているので、基礎杭20の回転時に支持翼部材22が被攪拌層IIから大きな摩擦抵抗力を受けたとしても十分に補強でき、支持翼部材22が破損することを防ぐことができる。
【0075】
(13)支持翼部材22を、円筒部材21の一径方向上において円筒部材21を間に挟んだ状態で一対で設けている。このため、支持翼部材22が円筒部材21に対してバランスよく取り付けられているので、基礎杭20の回転時に軸ぶれすることがなく、基礎杭20を良好に埋設することができる。
【0076】
〔実施の形態の変形〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0077】
すなわち、例えば、前記実施の形態では、いわゆる地盤改良工法において基礎杭20を被攪拌層II中に埋設する構成について例示したが、これに限らず、いわゆるセメントミルク工法において基礎杭20を地中に埋設する構成や、基礎杭20を回転させて直に地中に埋設する構成など、いずれの構成でも適用できる。
【0078】
前記実施の形態では、円筒部材21を鋼材で形成したいわゆる鋼管杭を例示したが、これに限らず、例えば円筒部材にコンクリート管を用いて、基礎杭をコンクリート杭または摩擦杭として構成してもよい。このような場合、図3に示した基礎杭20における円筒部材21の軸方向一端側、すなわち、軸方向長さが短い円筒部材と、支持翼部材22と、棒状部材23と、補強部材24とを備えた鋼製の杭先端部材を形成し、この杭先端部材にコンクリート管を連結する構成などとすることが一例として挙げられる。このような構成でも、前記実施の形態と略同様の作用効果を奏する、すなわち、基礎杭の施工効率を向上できる。
【0079】
前記実施の形態では、円筒部材21の軸方向他端部に、円錐状の杭頭部21Aを一体的に設けるとしたが、これに限らない。すなわち、例えば、円筒部材21の軸方向他端部に、紡錘状の杭頭部を一体的に設けてもよく、このような構成でも前記実施の形態と同様の作用効果を奏する、すなわち、基礎杭の施工効率を向上できる。また、例えば、図9に示すように、円筒部材21に杭頭部21Aを設けずに円筒状のままとする構成としてもよい。なお、図9は、前記実施の形態の一変形例における基礎杭の要部を示す正面図である。この図9に示す構成の場合、基礎杭20Aの埋設において、円筒部材26の内部にも被攪拌層II中の土砂が充填されるので、排出残土の量をより低減することができると共に、前記実施の形態と略同様の作用効果を奏する、すなわち、基礎杭20Aの施工効率を向上できる。
【0080】
前記実施の形態では、支持翼部材22の形状を略長方形状としたが、これに限らない。すなわち、例えば図10に示すように、支持翼部材27を角丸の長方形状とする構成としてもよい。なお、図10は、前記実施の形態の一変形例における基礎杭の要部を示す底面図である。このような構成の場合、基礎杭20Bが被攪拌層IIから受ける摩擦抵抗力が低減するので、基礎杭20Bの埋設を円滑に行うことができる。また、例えば図11に示すように、支持翼部材28を半円状に形成する構成としてもよい。なお、図11は、前記実施の形態の一変形例における基礎杭の要部を示す底面図である。このような構成の場合、基礎杭20Cが被攪拌層IIから受ける摩擦抵抗力をより低減することができるので、基礎杭20Bの埋設をより円滑に行うことができる。なお、これらの構成においても、前記実施の形態と略同様の作用効果を奏する、すなわち、基礎杭20B,20Cの施工効率を向上できる。
【0081】
前記実施の形態では、支持翼部材22を一対で設けるとしたが、これに限らない。すなわち、例えば一枚の螺旋状の支持翼部材を設ける構成や、3枚以上の支持翼部材を設ける構成としてもよい。このような構成においても、前記実施の形態と略同様の作用効果を奏する、すなわち、基礎杭の施工効率を向上できる。
【0082】
前記実施の形態では、棒状部材23を軸直交方向断面が正方形の四角柱状に形成するとしたが、これに限らない。すなわち、例えば図12に示すように、棒状部材29を軸直交方向断面がひし形の柱状に形成する構成としてもよい。なお、図12は、前記実施の形態の一変形例における基礎杭の要部を示す正面図である。このような構成の場合、棒状部材29の支持翼部材22に対向する2面を支持翼部材22の円筒部材21への取り付け角度に対応させ、棒状部材29の軸方向両端側を支持翼部材22に当接させて溶接すればより確実に支持翼部材22を支持できる。また、このような構成においても、前記実施の形態と略同様の作用効果を奏する、すなわち、基礎杭の施工効率を向上できる。
【0083】
前記実施の形態では、基礎杭20を埋設した後、基礎杭20の内部に例えばセメントミルクなどの硬化剤を充填するとしたが、これに限らない。すなわち、基礎杭20の内部に充填する硬化剤としてはいずれでもよく、例えば基礎杭20の埋設により地表面に押し出された被攪拌層IIにおける硬化剤を含んだ土砂を、基礎杭20内部に充填するなどの構成としてもよい。このような構成の場合、排出残土の量をより低減することができると共に、前記実施の形態と同様の作用効果を奏する、すなわち、基礎杭20Aの施工効率を向上できる。また、例えば、基礎杭20の内部に硬化剤を充填しない構成としても構わない。
【0084】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造、部材の寸法、および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【0085】
〔実施の形態の作用効果〕
上述したように、前記実施の形態では、基礎杭20に、軸方向の一端側に建造物が連結される円筒部材21を設けている。この円筒部材の外周面における軸方向他端側に、円筒部材21の軸方向と当該軸方向と直交する方向とのそれぞれに平面が交差した状態で、略平板状の支持翼部材22を設けている。また、円筒部材21における支持翼部材22の近傍かつ円筒部材21の内周側に、円筒部材21の径方向に略沿って、棒状部材23を設けている。この棒状部材23に対して、地上に設置された油圧モータ4から円筒部材21の中心軸を中心に回転させる回転トルクを与えることが可能となっている。このため、被攪拌層IIから最も大きな摩擦抵抗力を受ける円筒部材21の最深部側に対して回転トルクを加えることができるので、必要最低限の回転トルクで済み、従来のように過度の回転トルクを付加することにより円筒部材21が破損してしまうことがない。また、円筒部材21および支持翼部材22を大きく形成したとしても、無理なく基礎杭20を回転することができる。これにより、従来、建造物を建設するに当り所定の支持力を確保するために複数の基礎杭を埋設していたものを、1本の基礎杭20を埋設するだけで充分な支持力が得られるので、基礎杭の埋設本数を削減でき、作業工数および材料費の大幅な削減が実現できる。したがって、施工効率を向上できると共に、工事を安価に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、地上に構築される建造物と連結されて前記構造物を支持する基礎杭、この基礎杭を地中に埋設するための杭埋設治具、および、この杭埋設治具を用いて基礎杭を地中に埋設する杭埋設方法として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施の形態に係る杭埋設方法において、杭埋設装置で基礎杭を埋設する動作を示す概念図である。
【図2】前記実施の形態における杭埋設治具を示す斜視図である。
【図3】前記実施の形態における基礎杭の要部を示す正面図である。
【図4】前記実施の形態における基礎杭の要部を示す底面図である。
【図5】前記実施の形態における基礎工事の全体の流れを説明するための概念図であり、図5(A)は第1の工程を示し、図5(B)は第2の工程を示し、図5(C)は第3の工程を示す。
【図6】前記実施の形態における基礎杭埋設時における杭埋設治具の連結動作を説明するための正面図であり、図6(A)は連結する前の杭埋設治具を示し、図6(B)は連結した後の杭埋設治具を示す。
【図7】前記実施の形態における基礎杭を中心軸に沿って破断した状態で、杭埋設治具の係合部と基礎杭の棒状部材との係合状態を示す正面図であり、図7(A)は係合部に棒状部材が係合した状態を示し、図7(B)は係合部に棒状部材が係合していない状態を示す。
【図8】前記実施の形態における基礎杭の埋設時における回転動作を説明するための正面図である。
【図9】前記実施の形態の一変形例における基礎杭の要部を示す正面図である。
【図10】前記実施の形態の一変形例における基礎杭の要部を示す底面図である。
【図11】前記実施の形態の一変形例における基礎杭の要部を示す底面図である。
【図12】前記実施の形態の一変形例における基礎杭の要部を示す正面図である。
【符号の説明】
【0088】
4…油圧モータ(回転駆動手段)
10…杭埋設治具
12…駆動軸部材
12A…突出部
12B…凹部
13…係合部材
20,20A,20B,20C…基礎杭
21,26…円筒部材
22,27,28…支持翼部材
23,29…棒状部材
23A…棒状部材の両端側
24…補強部材
25…継足円筒部材
II…被攪拌層(攪拌手段にて攪拌された土層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上に構築される建造物と連結されて前記構造物を支持する基礎杭であって、
軸方向の一端側に前記建造物が連結される円筒部材と、
前記円筒部材の前記軸方向と前記軸方向に直交する方向とのそれぞれに平面が交差した状態で、前記円筒部材の外周面における前記軸方向の他端側に設けられた略平板状の支持翼部材と、
前記円筒部材における前記支持翼部材の近傍かつ前記円筒部材の内周側に、前記円筒部材の径方向に略沿って設けられ、地上に設置された回転駆動手段から前記円筒部材の中心軸を中心に回転させる回転トルクを受ける棒状部材と、
を具備したことを特徴とする基礎杭。
【請求項2】
請求項1に記載の基礎杭において、
前記円筒部材の前記軸方向および前記径方向のそれぞれに略平行する平板状に形成された補強部材を具備し、
この補強部材は、前記円筒部材の外周面における前記軸方向の他端側および前記支持翼部材における前記円筒部材の前記軸方向の他端に対向する側の面に一体的に設けられている
ことを特徴とする基礎杭。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の基礎杭において、
前記棒状部材は、四角柱状に形成され、
前記円筒部材には、前記棒状部材の両端側が挿通される四角形状の貫通孔が形成されている
ことを特徴とする基礎杭。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の基礎杭において、
前記棒状部材は、前記円筒部材を貫通してその両端側が前記円筒部材の外周面から外側へ突出しており、前記支持翼部材における前記円筒部材の前記軸方向の他端に対向する側の面に当接して設けられ、前記支持翼部材を支持する
ことを特徴とする基礎杭。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の基礎杭において、
前記円筒部材、前記支持翼部材および前記棒状部材は、それぞれ鋼材にて形成され、それぞれ溶接にて一体的に取り付けられる
ことを特徴とする基礎杭。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の基礎杭を地中に埋設するための杭埋設治具であって、
前記円筒部材の内周側に挿通可能な柱状に形成され、前記回転駆動手段からの駆動力を軸方向の一端側に受けて、当該柱状における中心軸を中心として回転する駆動軸部材と、
前記駆動軸部材の前記軸方向の他端側に一体的に設けられ、前記円筒部材の内側において前記棒状部材に係合して前記棒状部材に前記回転トルクを伝達する係合部材と、
を具備したことを特徴とする杭埋設治具。
【請求項7】
請求項6に記載の杭埋設治具において、
前記駆動軸部材の前記軸方向の一端面には、前記駆動軸部材の前記軸方向の外側に向けて突出した角柱状の突出部が設けられ、
前記駆動軸部材の前記軸方向の他端面には、前記突出部と対応する凹状に形成されかつ前記突出部が嵌合可能な凹部が設けられ、
前記凹部に前記突出部を嵌合させた状態で、前記突出部および前記凹部を前記駆動軸部材の前記軸方向と略直交する方向に貫通するロッドを具備し、
前記駆動軸部材は、前記駆動軸部材における前記凹部に異なる前記駆動軸部材における前記突出部が嵌合されて前記ロッドが貫通されることにより、同一軸上で複数連結可能となっている
ことを特徴とする杭埋設治具。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の基礎杭を、請求項6または請求項7に記載の杭埋設治具を用いて地中に埋設する杭埋設方法であって、
前記支持翼部材が設けられた前記円筒部材の前記軸方向の他端側を地面に対向させて前記基礎杭を保持し、
この保持した前記基礎杭における前記円筒部材の内周側に前記駆動軸部材および前記係合部材を挿通して、前記係合部材を前記棒状部材に係合させ、
前記回転駆動手段により前記駆動軸部材の前記軸方向の一端側に前記駆動力を与えて前記棒状部材に前記回転トルクを伝達し、前記基礎杭を回転させながら地中に埋設する
ことを特徴とする杭埋設方法。
【請求項9】
請求項8に記載の杭埋設方法において、
前記基礎杭における前記円筒部材の少なくとも一部が地中に埋設されている状態において、
前記駆動軸部材の前記軸方向の一端部に新たな前記駆動軸部材を連結し、
前記円筒部材と略同一の外径および内径を有する継足円筒部材の内周側に当該新たな前記駆動軸部材を挿通し、
前記円筒部材における前記軸方向の一端部と前記継足円筒部材の軸方向の一端部とを同一軸上で連結し、
前記回転駆動手段により前記新たな駆動軸部材の前記軸方向の一端側に前記駆動力を与えて前記棒状部材に前記回転トルクを伝達し、前記基礎杭を回転させながら地中に埋設する
ことを特徴とする杭埋設方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の杭埋設方法において、
攪拌手段にて地中を攪拌しながら攪拌された土層中に硬化剤を混入し、
当該攪拌された土層中に前記基礎杭を埋設する
ことを特徴とする杭埋設方法。
【請求項11】
請求項8ないし請求項10のいずれかに記載の杭埋設方法において、
前記基礎杭を埋設した後、前記杭埋設治具を前記基礎杭の内部から抜き出し、
前記基礎杭の内部に硬化剤を充填する
ことを特徴とする杭埋設方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−316465(P2006−316465A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138840(P2005−138840)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(393008751)有限会社マルイ基礎 (7)
【Fターム(参考)】