説明

堤体の防災強化方法

【課題】 河川・湖沼・海岸などの堤体の最大保水量の向上や堤体自身の補強などを行って堤体を質的に強化することができ、周辺環境への影響も軽減することのできる、堤体の防災強化方法を提供すること。
【解決手段】既存の堤体の最大保水量を向上させるための堤体の防災強化方法であって、水底を掘削して掘り下げ、前記掘削土を築堤部材として再利用することを特徴とする、堤体の防災強化方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川・湖沼・海岸などの堤体の破壊や土砂の流出を防止するために、堤体を質的に強化する堤体の防災強化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、河川堤防などの堤体の老朽化がすすみ、豪雨、地震などの災害に対して十分な対策が施されている堤体が少なく、早急な河川の整備・補強が必要とされているものが多い。
【0003】
従来、河川・湖沼・海岸などの堤体の破壊や土砂の流出の防止策としての堤体の防災強化方法は、堤体の築増が一般的である。
【0004】
対象とする堤体が指針で定められる必要最小限の断面形状(以下、基本断面形状)を満たしていない場合には、原則として基本断面形状の確保を行い、前記基本断面形状に基づいて盛土を行って堤体の高さを高くしたり、堤体の天端部の幅を広げ、法面の勾配を緩くするなどの対策を行っていた。
【特許文献1】特開2003−020625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の堤体の防災強化方法には、以下のような問題の少なくとも一つの問題があった。
<1>堤体を築増するためには、施工用地の確保が必要であり、近隣の既設構造物(住宅、道路、鉄道など)への影響が大きい。
<2>新たな盛土材の運搬作業による交通量の増加や、周辺の大気の汚染などの周辺の住環境への影響が大きい。
<3>堤体の築増に新たな盛土材を確保する必要があるため、コストの負担が大きく、非経済的である。
<4>堤体の天端部に新たな盛土をするために既存の樹木を伐採してしまうと、天端部に樹木が再植樹できないため、景観を損ねてしまう。
【0006】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたもので、本発明の目的は、河川・湖沼・海岸などの堤体の最大保水量の向上や堤体自身の補強などを行って堤体を質的に強化することができ、周辺環境や景観面への影響も軽減することのできる、堤体の防災強化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような課題を解決するために、本願の第1発明は、既存の堤体の最大保水量を向上させるための堤体の防災強化方法であって、水底を掘削して掘り下げ、前記掘削土を築堤部材として再利用することを特徴とする、堤体の防災強化方法を提供するものである。
【0008】
また、本願の第2発明は、本願の第1発明に記載の堤体の防災強化方法において、前記掘削土を再利用することにより、堤体の堤内地側に堤体補強土構造物を施工することを特徴とする、堤体の防災強化方法を提供するものである。
【0009】
また、本願の第3発明は、本願の第2発明に記載の堤体の防災強化方法において、前記堤体補強土構造物は、前記掘削土を再利用した補強盛土構造体であることを特徴とする、堤体の防災強化方法を提供するものである。
【0010】
また、本願の第4発明は、本願の第2発明に記載の堤体の防災強化方法において、前記堤体補強土構造物は、複数の透水性袋体に、前記掘削土を詰め込んで形成した拘束土塊を積層した、積層構造体であることを特徴とする、堤体の防災強化方法を提供するものである。
【0011】
また、本願の第5発明は、本願の第2発明乃至本願の第4発明の何れかに記載の堤体の防災強化方法において、前記堤体補強土構造物内部にドレーンを設置することを特徴とする、堤体の防災強化方法を提供するものである。
【0012】
また、本願の第6発明は、本願の第1発明に記載の堤体の防災強化方法において、堤体の堤外地側に胸壁を設置し、当該胸壁より上方の天端部分へ前記掘削土を用いた盛土を行い、当該盛土箇所に植樹を行うことを特徴とする、堤体の防災強化方法を提供するものである。
【0013】
また、本願の第7発明は、本願の第1発明に記載の堤体の防災強化方法において、堤体の堤外地側に胸壁を設置し、当該胸壁より上方の天端部分へ前記掘削土を用いた盛土を行い、当該天端部分の既存樹木の保護を行うことを特徴とする、堤体の防災強化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
<1>河床掘削により、河川水位が低下するため、実質的に堤体の最大保水量が向上する。
<2>河床掘削により発生した掘削土を既存堤体の補強に有効活用することができ、経済的である。
<3>ドレーンを設置して堤体内に浸透した浸透水を排水することにより、河川流水による既存樹木の倒壊や根こそぎを防止することができ、堤体の安定性が向上する。
<4>新たな施工用地の買収を伴わずに堤体の質的強化が可能となる。
<5>胸壁を設置することにより、特殊堤の設計基準に準拠した形で当該盛土箇所へ新たな樹木の植樹が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0016】
<1>前提とする堤体1
図2は、本発明に係る堤体の防災強化方法の実施前の堤体の外観図であり、河川の両側に堤体1が築堤され、河床掘削前の水底部2の深さをL1とする。
【0017】
<2>掘削工程
図1に、堤体の河床掘削後の堤体の外観図を示す。
水底部2を従来周知の掘削機械によって深さHだけ掘削し、水底部2の高さをL1からL2まで下げる。
この掘削作業は、例えば工事区間の上流域から下流域の間にバイパス流路を形成したり、あるいは、水底を複数に分割し、一部を流路として残し、他の範囲を掘削するなどの流水対策を行う。
前記掘削作業により、堤防の天端部から水底部2までの高さをH1からH2へと大きく確保する。
【0018】
<3>堤体補強工程
従来の掘削土の処理は、廃棄物として取り扱われ、脱水後廃棄処分や焼却処分を行う必要があり、その処分のコスト負担が大きいものであるが、本願は、前記掘削土を堤体の外方に堤体補強土構造物を施工する際の築堤部材として再利用することができるものである。
【0019】
以下に、堤体1の躯体厚を増強するために、堤体1の外方に施工する堤体補強土構造物3の施工例を示す。
【0020】
(1)堤体補強土構造物3の第1施工例
図3(a)に、公知の補強土工法によって、堤体1の外方に設置された補強盛土構造体4の詳細を示す。
補強盛土構造体4は、盛土40と、地盤補強材41と、壁面材42と、からなり、地盤補強材41を一定の層厚ごとに敷き詰めながら、前記盛土40を転圧して盛土層を形成し、前記盛土層の外面に壁面材42を複数段に積層して擁壁を形成する。
盛土40は、前記掘削工程により発生した掘削土を浚渫し、ポンプでくみ出して脱水したものを使用する。脱水方法は、例えば浚渫土を高圧の脱水機によって強制的に脱水する機械脱水工法などの従来周知の方法を用いる。
地盤補強材41は、ジオテキスタイルやジオグリッドなどの高分子製の網状体からなり、前記盛土40の補強材としての機能と壁面材42の控材としての機能を兼ねるものである。
壁面材42はコンクリート製などのプレキャストパネルなどを用いる。
【0021】
なお、脱水後の掘削土にポリエステルやポリプロピレンなどの合成繊維を混入して繊維混合補強土を形成し、前記繊維混合補強土を盛土40として使用することもできる。前記繊維混合補強土は引っ張り補強材として機能し、疑似的な粘着力や靭性を有するため、堤体内部の剪断抵抗が増大し、安定した堤体を築堤することができる。
【0022】
(2)堤体補強土構造物3の第2施工例
図3(b)に、公知の拘束土工法によって、堤体1の外方に設置された積層構造体5の詳細を示す。
積層構造体5は、複数の透水性袋体51に、中詰め材50を袋詰めして形成した拘束土塊を積層して形成し、土の拘束効果によるインターロッキング作用により、耐衝撃性・耐久性に優れた効果を得ることができる。
拘束土塊は、土の分散や流れ出しを防止しながら脱水を行う袋詰め脱水処理工法などの公地の方法によって構築される。
中詰め材50は、前記掘削工程によって発生した掘削土を浚渫したものをそのまま使用することができる。
袋体51は、ポリエステルやレーヨン等からなる繊維性のシートを、袋状に縫製したものであり、水分のみを分離することが可能なろ過機能を備えるものである。
前記拘束土塊を積み上げることにより、自身の重量による圧密や、天日による乾燥によって中詰め材50が脱水処理される。
【実施例2】
【0023】
図4に示すように、堤体補強土構造物3の内部にドレーン材6を配置してもよい。
堤体に浸透した河川水や雨水をドレーン材6で集排水し、堤体1と道路の間に設けた堤脚水路7に集めて排水することで、浸透水のラインをドレーン材6まで移動することができ、堤体1の飽和による脆弱化を防止することができ、堤体1の安定性が向上する。
【実施例3】
【0024】
現状では、築増後の堤体1に新たに植樹することが認められておらず、堤体1の築増をするために堤体1に現存する樹木を除去してしまうと、堤体1への再植樹ができず、樹木の根による堤体1の安定性向上の利点を得られない問題があるほか、天端部に樹木が再植樹できないことを理由として堤体周辺の景観を損なうことを理由に、補強作業に着手できなかった問題があった。
しかし、本実施例に係る堤体の防災強化方法にあっては、堤体1の内地側に胸壁を設置し、当該胸壁より上方の天端部分へ当該掘削土を用いた盛土を行うことで、特殊堤の設計基準に準拠した形で当該盛土箇所へ新たな樹木の植樹が可能となるほか、既存の樹木の根元にも十分な土量を確保することができるため、堤体1の景観を損なうことなく、安全性を確保することができる。
【0025】
従って、本願による防災強化工法は、堤体1のすそ幅を変えず、河川の水流及び既存の護岸等をそのまま維持しながら、河床掘削を行って堤体1を実質的にかさ上げすることにより、堤体1の最大保水量を増加させることができるとともに、当該掘削によって発生した掘削土を堤体1の補強に再利用することができるため、効率よく堤体1の質的強化を行うことができる。
【0026】
また、本願による防災強化工法によれば、桜堤などの景観のよい堤体においても、特殊堤の設計基準に準拠した形で新たな樹木の植樹が可能となるため、景観を損なうことなく、堤体1の質的強化を行うことができる。
【0027】
また、本願による防災強化工法の実施にあたって、新たな施工用地の確保や、新たな盛土材の運搬作業なども不要であるため、堤体1の間近に迫った民家や道路などの既設構造物に対する影響を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の堤体の河床掘削後を示す外観図。
【図2】本発明の堤体の河床掘削前を示す外観図。
【図3】本発明の堤体補強土構造物の実施例を示す正面図。
【図4】本発明の堤体補強土構造物にドレーン材を設置した正面図。
【符号の説明】
【0029】
1・・・堤体
2・・・水底部
3・・・堤体補強土構造物
4・・・補強盛土構造体
40・・盛土
41・・地盤補強材
42・・壁面材
5・・・積層構造体
50・・中詰め材
51・・袋体
6・・・ドレーン材
7・・・堤脚水路
L1・・掘削前の水底深さ
L2・・掘削後の水底深さ
H・・・掘削深さ
H1・・掘削前の水底から天端部までの距離
H2・・掘削後の水底から天端部までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の堤体の最大保水量を向上させるための堤体の防災強化方法であって、
水底を掘削して掘り下げ、
前記掘削土を築堤部材として再利用することを特徴とする、
堤体の防災強化方法。
【請求項2】
請求項1に記載の堤体の防災強化方法において、前記掘削土を再利用することにより、堤体の堤内地側に堤体補強土構造物を施工することを特徴とする、堤体の防災強化方法。
【請求項3】
請求項2に記載の堤体の防災強化方法において、前記堤体補強土構造物は、前記掘削土を再利用した補強盛土構造体であることを特徴とする、堤体の防災強化方法。
【請求項4】
請求項2に記載の堤体の防災強化方法において、前記堤体補強土構造物は、複数の透水性袋体に、前記掘削土を詰め込んで形成した拘束土塊を積層した、積層構造体であることを特徴とする、堤体の防災強化方法。
【請求項5】
請求項2乃至4の何れかに記載の堤体の防災強化方法において、前記堤体補強土構造物内部にドレーンを設置することを特徴とする、堤体の防災強化方法。
【請求項6】
請求項1に記載の堤体の防災強化方法において、堤体の堤外地側に胸壁を設置し、当該胸壁より上方の天端部分へ前記掘削土を用いた盛土を行い、当該盛土箇所に植樹を行うことを特徴とする、堤体の防災強化方法。
【請求項7】
請求項1に記載の堤体の防災強化方法において、堤体の堤外地側に胸壁を設置し、当該胸壁より上方の天端部分へ前記掘削土を用いた盛土を行い、当該天端部分の既存樹木の保護を行うことを特徴とする、堤体の防災強化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−9481(P2007−9481A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190054(P2005−190054)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【Fターム(参考)】