説明

塗布ノズル、ペーストの塗布方法、およびプラズマディスプレイ用部材の製造方法

【課題】超音波エロージョンが進行することで吐出口が侵食される塗布ノズルにおいて、エロージョンの発生を防止するためのダミーを設けた塗布ノズルを提供することである。
【解決手段】塗布ノズルの終端部に位置する吐出口または位置決めマークの近傍に、複数個の凹みまたは突起を列をなして設け、吐出口または位置決めマークから離れるに従って前記複数個の凹みの深さもしくは突起の高さ、または前記吐出口面内での前記複数個の凹みもしくは突起の径が漸次小さくなるように配置することで、塗布ノズルの超音波洗浄の際に発生していた吐出口または位置決めマーク近傍での超音波エロージョンを防止し、塗布ノズルの超音波エロージョンによる性能劣化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波洗浄時の超音波による損傷を排した塗布ノズルの改良、ならびに超音波洗浄によって清浄化された塗布ノズルを使用した塗布方法、ならびに本塗布方法によってプラズマディスプレイ用部材を製造するプラズマディスプレイ用部材の製造方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭用大型テレビにおいては、その表示方式がブラウン管からプラズマディスプレイ(PDP)や液晶ディスプレイ(LCD)などの平面ディスプレイ(FPD)に急速に代わりつつある。
【0003】
PDPは、前面板と背面板との間に設けられた放電空間内でプラズマ放電を生じさせ、この放電空間内に封入されたガスから発生する紫外線を、R(赤)、G(緑)、B(青)各色の放電空間内に設けた蛍光体に当てることで発光させカラー表示を行うものである。
【0004】
主要部材である背面板は、ガラス基板上に隔壁で構成される格子状もしくはストライプ状の微細パターンの溝に、RGBの蛍光体ペーストが塗布されて蛍光体層が形成されている。このパターン溝へのRGB蛍光体ペーストの塗布には、一般にスクリーン印刷法やフォトリソ法などが用いられてきたが、近年は塗布ノズルを使った塗布が、ペーストの使用効率が高くて安価で、しかも塗布が容易であることなどからよく使用されるようになってきている(例えば特許文献1)。
【0005】
この塗布ノズルは、高粘度の蛍光体ペーストを画素サイズに相当する微細な溝内に向けて吐出するため、直径で50〜150μm程度の微細な吐出口が一列状に同一平面内に通常数十〜数百個設けられ、高精彩カラー画面に対応する場合には1000個以上も設けられる。またこの塗布ノズルの吐出口は、画素の配置ピッチにあわせて吐出口相互の距離も精密に整えられている。
【0006】
このように精密に製作された塗布ノズルを使用して、蛍光体ペーストを画素に対応した微細なパターン溝に塗布する時には、塗布ノズルの吐出口が溝の直上にくるように精度良く位置決めをすることが必要となるが、そのために塗布ノズルの吐出口近傍に、位置決めマークが設けられ、これが位置決め時に活用される。この位置決めマークは吐出口と区別できる形状や大きさで形成され、多くの場合、吐出口面の形状が円形や十字状の凹みまたは突起となる。
【0007】
さてこの塗布ノズルで蛍光体ペーストを長時間塗布しつづけると、吐出口およびその内表面で蛍光体ペースト、ペースト内に含まれる蛍光体粒子の凝集物、その他の異物等が詰まるほか、吐出口が形成される平面である吐出口面にも蛍光体ペーストが付着し、継続使用が困難となる。したがって所定枚数の背面板に蛍光体ペーストを塗布したら塗布ノズルを交換し、再使用できるように塗布ノズルの外表面だけでなく微細な吐出口の内表面もよく洗浄することが行われる。
【0008】
以上の塗布ノズルの精密洗浄には、洗浄性の高さから超音波洗浄が適用される。塗布ノズルの超音波洗浄は、洗浄槽内に満たされた洗浄液内に塗布ノズルを浸漬し、塗布ノズルの吐出口を含む吐出口面と超音波振動子の振動面とを一定間隔で平行に向かい合わせ、超音波振動子から照射される超音波を吐出口や吐出口面に作用させることで、効果的に行われる。
【0009】
これは、超音波振動子の振動面から照射された超音波が洗浄液を介して塗布ノズルの吐出口面に伝わる時に、吐出口面との接液部でキャビテーションが発生し、このキャビテーションが、発生・消滅する際に生じる衝撃力が吐出口面や微細な吐出口の内表面にも伝わって、それらの面に付着している蛍光体ペースト乾燥物、蛍光体粒子凝集物、異物等からなる汚れを掻き落とすからである。
【0010】
特に10Pa・s以上の高粘度ペーストの場合、塗布ノズルへの固着力が強いため、キャビテーションの強い比較的低周波(50kHz以下)の超音波洗浄を行う必要があるが、この低周波の超音波洗浄では、洗浄力が強い反面エロージョンが発生しやすいという問題がある。
【0011】
以上のように塗布ノズルを超音波洗浄するとキャビテーションによって高い洗浄性がえられる。しかし一方で、キャビテーションによって洗浄液と接する塗布ノズルの吐出口面に超音波エロージョン(壊食)が発生するという問題がある。これは、キャビテーションのあまりにも高い衝撃力により、塗布ノズルの吐出口面が削りとられるというもので、特に吐出口列両端にある吐出口に超音波エロージョンが集中して、吐出口の縁が削りとられる。吐出口にこのような削れが生じると正確なパターン塗布ができなくなって、この塗布ノズルはもはや使用できなくなる。
【0012】
また、吐出口面に凹みである位置決めマークが吐出口近傍に設けられていると、この位置決めマークにおいても超音波エロージョンが発生し、その縁が削られ形状が変化してセンサーによる位置決めマークの認識が困難になり、塗布ノズルの位置決めが行えない。
【0013】
以上のように塗布ノズルをそのまま繰り返し超音波洗浄すると、塗布ノズルが使用できなくなり、塗布ノズルの寿命が大幅に短くなるという問題があった。
【0014】
そこで発明者らは、吐出口列両端にある吐出口および位置決めマークの近傍に誘起部を設け、キャビテーションによる超音波エロージョンの発生箇所を誘起部に移動させ、吐出口および位置決めマークにおける超音波エロージョンの発生を抑制することを提案した(特許文献2)。これによって超音波エロージョンの発生箇所は誘起部に移動し、吐出口あるいは位置決めマークそのもの傷は回避できた。しかし、誘起部を吐出口の近くに設けると、超音波洗浄を繰り返す内に、誘起部で発生した超音波エロージョンが近傍の吐出口まで進行、拡大し、終には吐出口を侵食してしまい、その効果を果たすことが出来ないことが分かった。また、誘起部を多数設け、吐出口から離すことも考えられるが、両端となる吐出口付近には誘起部を設置できるスペースが小さく限られていることが多く、困難である。
【0015】
また、超音波エロージョンが発生する表面に凹凸を施すことによって、マイクロジェットによる打撃力を拡散することが提案されているが(例えば特許文献3)、塗布ノズルの吐出口面に凹凸を形成すると、吐出口の縁がギザギザ形状となって粗くなり、そのために正確に蛍光体ペーストを吐出できなって精密なパターン塗布が出来ないので、塗布ノズルへの適用は困難である。
【特許文献1】特開2004−000928号公報
【特許文献2】特開2007−253150号公報
【特許文献3】特開2005−335416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、塗布ノズルを超音波洗浄する時に発生する超音波エロージョンによる吐出口の損傷を皆無にすることのできる塗布ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は、ペーストを吐出するための複数個の吐出口が吐出口面内に列をなして形成されているとともに、列の両端にある吐出口の近傍より他の吐出口から離れる方向に複数個の凹みまたは突起が列をなして形成されている塗布ノズルであって、前記複数個の凹みの深さもしくは突起の高さ、または前記吐出口面内での前記複数個の凹みもしくは突起の径が、前記列の両端にある吐出口より離れるにしたがって漸次小さくなることを特徴とする塗布ノズルを提供する。なお、ここで、「凹み部または突起部の径」とは、吐出口の位置する平面における凹み部または突起部の外縁上の少なくとも2点が接した内接円の直径をいう。
【0018】
また、位置決めマークに対しても同様に、ペーストを吐出するための複数個の吐出口が吐出口面内に列をなして形成されているとともに、前記吐出口列の近傍の吐出口面内に位置決めマークが形成されており、さらに前記位置決めマークの近傍より前記複数の吐出口から離れる方向に複数個の凹みまたは突起が形成されている塗布ノズルであって、前記複数個の凹みの深さもしくは突起の高さ、または前記吐出口面内での前記複数個の凹みもしくは突起の径が、前記位置決めマークより離れるにしたがって漸次小さくなることを特徴とする塗布ノズルを提供する。
【0019】
さらに、本発明は、超音波洗浄された上述の塗布ノズルを用いてペーストを基板に吐出して塗布を行うことを特徴とするペーストの塗布方法を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、本発明が上述のペーストの塗布方法を用いて蛍光体ペーストを塗布することを特徴とするPDP用部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、塗布ノズルの超音波洗浄時に超音波エロージョンが集中発生する特定の吐出口や位置決めマークの近傍に、形状を最適化した凹みや突起を複数個列状に設けたので、超音波エロージョンの発生をこれらの凹みや突起に完全に移行させて分散させるので、特定の吐出口や位置決めマークの超音波エロージョンによる損傷を皆無にすることが可能となる。その結果、塗布ノズルを強力に超音波洗浄しても、塗布ノズルが使用不能となって寿命が低下することがなくなり、洗浄品位も高い状態を常に維持することが可能となる。また、高い清浄性を有する塗布ノズルで常にパターン塗布できるのであるから、高い塗布品位維持が容易にえられるとともに、安定して高い生産性で塗布を行うことができる。
【0022】
上記の優れた塗布方法でPDPを製造するのであるから、高精細のパネルであっても、高い生産性で低コストにて、高品質のPDPを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の最良の実施形態をPDP用の蛍光体ペーストを塗布する塗布ノズルに適用した場合を例にとって、図を参照しながら説明するが、本発明の塗布ノズルは高粘度ペースト用の塗布ノズルであればよく、特にPDP用蛍光体ペーストの塗布ノズルに限定されるものではない。
【0024】
図1は、本発明の塗布ノズルの正面断面図、図2は本発明の塗布ノズルの吐出口面を示す概略平面図、図3は本発明の塗布ノズルの端部吐出口近傍の部分拡大図、部分側面断面図である。
【0025】
図1を参照すると、本発明の塗布ノズル1とマニホールド6で構成される塗布ノズルユニット10が示されている。塗布ノズル1にはペーストを吐出するための吐出口2が列をなして設けられている。また、マニホールドにはペースト供給口5、加圧空気供給口9、ノズルユニット内の蛍光体ペースト8の残量検知手段(図示せず)が設けられている。ペースト供給口5に接続されたペースト供給ユニット7からペーストを塗布ノズルユニット10内に供給する。加圧空気供給口9に制御された加圧空気を負荷することで、塗布ノズルユニット10に対して相対的に移動する基板に向けて吐出口2から蛍光体ペースト8を吐出する。
【0026】
塗布ノズル1の寸法としては特に制限はないが、幅10〜200mm、厚さ0.01〜20mm、長さはガラス基板全面に1回の塗布動作で少なくとも1色の蛍光体ペースト全てを塗布できる長さ(42インチPDP用ガラス基板であれば約1m以上)であれば好適である。特に30インチ以上の大型のPDP蛍光体塗布用であればさらに好適である。
【0027】
塗布ノズル1の材料としては、ステンレス鋼など防錆に優れた金属材が好ましい。これは、錆などの異物が、塗布ノズル1の表面からパターン塗布の塗液であるペーストに混入すると微細な吐出口2の詰まりの原因となるため、錆びにくく、傷つきにくい材質が適しているからであるが、塗布ノズルとしての機能を損なわなければこれに限るものではなく、公知の各種材料が使用できる。
【0028】
塗布ノズル1には、蛍光体ペーストを吐出するための吐出口2が列をなして複数設けられている。ここに列をなしてとは、複数個の吐出口2の並び方が何らかの規則で表現できる吐出口の一連の並び方のことである。例えば、吐出口相互の距離が不等ピッチに並ぶ連なりや、複数の吐出口が蛇行しながら並ぶ連なり、千鳥に並ぶ連なりなどである。
【0029】
吐出口2の形状・配置はガラス基板全面に1回の塗布動作で基盤上の所定の溝内に精確にペーストを塗布できるように適宜選ぶことが出来るが、例えば直径50〜1000μmの吐出口2を長手方向にピッチ0.03〜5.0mmで1並びに500〜4000個形成したものが好ましい。図1の例では、吐出口2は直線上に1列に配置されているが、特にこれに限るものではない。また、これらの吐出口を形成する面は曲面であっても良いが、塗布ノズルの加工の便から、この例では平面としている。
【0030】
吐出口2の加工方法としては、ノズル材料や吐出口形状に合わせて、放電加工やレーザー加工、ドリル加工など公知の加工方法を適宜選ぶことが出来る。
【0031】
吐出口2の両端には、超音波洗浄する際に両端部の端部吐出口2aで発生するエロージョンを防止するために、凹み部が設けられている。(ここで凹み部は、吐出口と似た形状をしていることから、以下では凹み部をダミーと呼び、吐出口の近傍に設けるものを吐出口ダミー、位置決めマークの近傍に設けるものを位置決めマークダミーぶこととする。)
図3(a)(b)の部分拡大図に示すように、吐出口2が形成されている面に、その吐出口2とさらに列をなして、吐出口ダミー3a、3b、3cが設けられている。吐出口ダミー3a、3b、3cは、直径および深さが端部吐出口側から離れる方向に漸次小さくなるように設けられている。端部の小さな吐出口ダミー3cに向かってキャビテーションが徐々に弱くなる結果、これまで端部に集中していたキャビテーションは集中しにくくなり、設けられた複数のダミーにキャビテーションが分散し、キャビテーションの崩壊時に起こる衝撃力が分散低下することで端部吐出口2aおよび吐出口ダミー3a、3b、3cでエロージョンが発生しにくくなる。
【0032】
この例では、吐出口ダミーは片側で3個(反対側にも3個)設けられているが、設置スペースが許せばさらに多く設けてもよい。加工コストの点から、3個以上10個以下の範囲内で適宜設置スペースに合わせて設けるとよい。
【0033】
ダミーの形成は、例えば、ドリルやリーマなどで切削しても良いし、ダイスやポンチなどを用いて鍛造的に転写しても良く、とくにこれらに限らず塗布ノズル1の材質とダミーの形状により各種の加工法を用いることができる。また、突起形状のダミーを貼付け設置しても良い。
【0034】
端部吐出口2aに隣接する吐出口ダミー3aの直径は、25μm以上500μm以下であるのが好ましい。この値が25μm未満、あるいは500μmを超える場合、ダミーの効果がなくなり、端部吐出口2aで超音波エロージョンが発生する。さらに好ましくは、50μm以上300μm以下である。端部吐出口2aから最も遠い吐出口ダミー3cの直径は25μm以下であるのが好ましい。
【0035】
また吐出口ダミー3aの深さは、吐出口2のある表面を基準として25μm以上であることが好ましい。この値が25μm未満では、ダミーが存在しないのと同様に端部吐出口2aでエロージョンが発生してしまい、ダミーの効果がない。端部吐出口2aから最も遠い吐出口ダミー3cの深さは25μm以下であるのが好ましい。
【0036】
この例では、複数の吐出口ダミーはその直径と深さが共に端部吐出口側から離れる方向に漸次小さくなるように設けられているが、これに限るものではない。吐出口ダミーの直径あるいは深さのいずれか一方が端部吐出口側から離れる方向に漸次小さくなり、他方が漸次大きくなるように設けらてもよい。但しその場合は、吐出口ダミーの直径あるいは深さのいずれか一方が他に比べて十分な割合で小さくなることが必要である。吐出口ダミーの外表面と吐出口の位置する面で形成される体積が、端部吐出口側から離れる方向に小さくなるようにダミーを形成しても良い。
【0037】
また、複数の吐出口ダミーを設ける位置は、端部吐出口2aと吐出口ダミー3a、または隣り合うダミーの距離(それぞれの外縁間の最短距離)が5000μm以下の範囲であることが好ましい。5000μmを超えると、ダミーの効果がなくなり、端部の吐出口で超音波エロージョンが発生することがある。さらに好ましくは、この距離が300μm以上3000μm以下の範囲であることが好ましい。
【0038】
また、吐出口ダミーは、超音波エロージョンを誘起することができればかならずしも凹み部である必要はなく突起部であってもよいし、凹み部と突起部を組み合わせたものでも良い。本発明で重要なのは、端部吐出口から離れる方向に、漸次浅くまたは低くなる複数のダミーを有していることである。
【0039】
図4は本発明の塗布ノズルの位置決めマーク近傍の吐出口面の部分拡大図および部分側面断面図である。端部吐出口2aに対する吐出口ダミー3a〜3cと同様に、位置決めマーク21の近傍より前記複数の吐出口から離れる方向に位置決めマークダミー3i、3j、3kが位置決めマーク21と列をなすように3個設けてある。
【0040】
位置決めマークダミー3i、3j、3kは、直径および深さが位置決めマーク21から離れる方向に漸次小さくなるように設けられている。最も小さな位置決めマークダミー3kに向かってキャビテーションが徐々に弱くなる結果、これまで位置決めマーク21に集中していたキャビテーションは集中しにくくなり、設けられた複数の位置決めマークダミーにキャビテーションが分散し、キャビテーションの崩壊時に起こる衝撃力が分散低下することで位置決めマーク21および位置決めマークダミー3i、3j、3kでエロージョンが発生しにくくなる。
【0041】
位置決めマーク21に隣接する位置決めマークダミー3iの直径は、25μm以上500μm以下であるのが好ましい。この値が25μm未満、あるいは500μmを超える場合、ダミーの効果がなくなり、端部吐出口2aで超音波エロージョンが発生する。さらに好ましくは、50μm以上300μm以下である。位置決めマーク21から最も遠い位置決めマークダミー3iの直径は25μm以下であるのが好ましい。
【0042】
また位置決めマークダミー3iの深さは、吐出口2のある表面を基準として25μm以上であることが好ましい。この値が25μm未満では、位置決めマークダミーが存在しないのと同様に端部吐出口2aでエロージョンが発生してしまい、ダミーの効果がない。位置決めマーク21から最も遠い位置決めマークダミー3iの深さは25μm以下であるのが好ましい。
【0043】
この例では、複数の位置決めマークダミーはその直径と深さが共に位置決めマーク21から離れる方向に漸次小さくなるように設けられているが、これに限るものではない。位置決めマークダミーの直径あるいは深さのいずれか一方が位置決めマーク21から離れる方向に漸次小さくなり、他方が漸次大きくなるように設けらてもよい。但しその場合は、位置決めマークダミーの直径あるいは深さのいずれか一方が他に比べて十分な割合で小さくなることが必要である。位置決めマークダミーの外表面と吐出口の位置する面で形成される体積が、端部吐出口側から離れる方向に小さくなるように位置決めマークダミーを形成しても良い。
【0044】
また、複数のダミーを設ける位置は、位置決めマーク21と位置決めマークダミー3i、または隣り合うダミーの距離(それぞれの外縁間の最短距離)が5000μm以下の範囲であることが好ましい。5000μmを超えると、ダミーの効果がなくなり、端部の吐出口で超音波エロージョンが発生することがある。さらに好ましくは、この距離が300μm以上3000μm以下の範囲であることが好ましい。
【0045】
また、ダミーは、超音波エロージョンを誘起することができればかならずしも凹み部である必要はなく突起部であってもよいし、凹み部と突起部を組み合わせたものでも良い。本発明で重要なのは、端部吐出口から離れる方向に、漸次浅くまたは低くなる複数のダミーを有していることである。
【0046】
ここで塗布ノズルの洗浄に使用する超音波の周波数範囲は5kHz以上100kHz以下、超音波強度が0.5W/cm以上であることが好ましい。この範囲を外れると超音波キャビテーションの強度が小さくなり、洗浄能力が十分でなくなるので好ましくない。
本発明の塗布ノズルは、高粘度な塗液のパターン塗布を継続するために超音波洗浄が必要であって、その塗液の粘度が1Pa・s以上であるペーストをパターン塗布できる塗布ノズルとして好適に用いることができるが、粘度が1〜1000Pa・sの範囲である高粘度なペーストや、さらに粘度が10〜100Pa・sの範囲である高粘度なペーストをパターン塗布する塗布ノズルに用いると、超音波出力を敢えて緩和しないまま、この塗布ノズルの超音波洗浄を行ったとしても、この洗浄の前後で吐出口の縁などが削られることがなく正確なパターン塗布が継続できる点で、非常に好ましい。
【0047】
なお、高粘度なペーストの代表的な例としては、例えばプラズマテレビ製造用の蛍光体ペーストを塗布する蛍光体ペースト塗布ノズルをあげることができる。
【0048】
洗浄液は、洗浄する塗液や塗布ノズルの材質によって、各種公知のものが利用できる。特に蛍光体粉末、有機溶媒、有機バインダ(樹脂成分)を主成分とする蛍光体ペーストの場合、該有機溶媒や該樹脂成分を溶解することのできる洗浄溶媒(通常は有機溶媒)を用いるのが良い。この様な有機溶媒として、アセトン、エタノール、ダイアセトンアルコール、IPA(イソプロピルアルコール)、MEK(メチルエチルケトン)、フッ素系溶剤、各種非危険物溶剤(例えば、商品名エリーズ:旭化成)など各種溶剤から適宜選択することができる。さらに、この様な洗浄を、数段に渡って行うとさらに洗浄効果が高まる。数段とは、例えば、1次洗浄としてダイアセトンアルコール洗浄、2次洗浄としてアセトン洗浄、仕上げ洗浄として純水洗浄などを行うことができ、いずれの場合にも超音波を照射して洗浄性を高めると良い。
【実施例】
【0049】
実施例1
図1に示す塗布ノズル1を製作した。吐出口2は直径110μmの円形で、幅100mm、長さ1m、厚さ500μmのステンレス鋼板上に、一直線上に500μmピッチで1920個設けた。その両端に位置する端部吐出口2aから500μmピッチで、端部吐出口2aから離れる方向に順に吐出口ダミー3a、3b、3cを一直線上に設けた。吐出口ダミー3aは直径100μmで深さが300μmの凹み、吐出口ダミー3bは直径50μmで深さが100μmの凹み、吐出口ダミー3cは直径20μmで深さが20μmの凹みであった。
【0050】
さらに、吐出口2が並ぶ一直線に直交して位置決めマーク21を通る一直線上に、位置決めマーク21からから離れる方向に1mmピッチで、順に位置決めマークダミー3i、3j、3kを設けた。位置決めマークダミー3iは直径200μmで深さが100μmの凹み、位置決めマークダミー3jは直径100μmで深さが50μmの凹み、位置決めマークダミー3kは直径25μmで深さが20μmの凹みであった。
【0051】
この塗布ノズル1をダイアセトンアルコールが入った洗浄槽に投入し、超音波強度が1.0W/cmで周波数25kHzの超音波を1時間照射した後、塗布ノズルを純水が入った洗浄槽に入れ替えて、超音波強度が1.0W/cmで周波数25kHzの超音波を1時間照射する超音波洗浄を、10回繰り返し実施した。超音波洗浄完了後に、塗布ノズル1の吐出口、吐出口面と位置決めマークをマイクロスコープで観察したが、損傷している部分はなく、超音波エロージョンの発生はないことが確認できた。
【0052】
さらに、この塗布ノズル1を組み立てて、蛍光体ペーストを背面板に設けられたストライプ状の溝に塗布したところ、溝に全て塗布することが可能であった。
【0053】
比較例1
図5(a)に示す、吐出口ダミー3a、3b、3cおよび位置決めマークダミー3i、3j、3kすべてを直径200μmで深さ100μmにする他は、実施例1と全く同じ塗布ノズル1aを製作した。
【0054】
この塗布ノズル1aを実施例1と同条件で超音波洗浄を1時間実施したところ、図5(b)のように、端部の吐出口ダミー3cおよび端部の位置決めマーク3kから超音波エロージョン模様4が発生していた。この塗布ノズル1kで、実施例1と同様にペースト塗布を行ったところ、問題なく塗布することができた。
【0055】
さらに超音波洗浄を繰り返し、前記最初の洗浄を含めて計10回実施した後、塗布ノズル1aの表面をマイクロスコープで観察すると、図5(c)のように、超音波エロージョン模様4が拡大し、端部吐出口2aや位置決めマーク21のエッジ部が壊食により侵食されて、超音波洗浄によって当該塗布ノズルが使用不能となった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の塗布ノズルの正面断面図である。
【図2】本発明の塗布ノズルの吐出口面を示す概略平面図である。
【図3】本発明の塗布ノズルの端部吐出口近傍の部分拡大図および部分側面断面図である。
【図4】本発明の塗布ノズルの位置決めマーク近傍の部分拡大図および部分側面断面図である。
【図5】比較例1で用いた塗布ノズルの拡大図である。
【符号の説明】
【0057】
1、1a 塗布ノズル
2 吐出口
2a 端部吐出口
3 ダミー
3a、3b、3c 吐出口ダミー
3i、3j、3k 位置決めマークダミー
4 超音波エロージョン模様
5 ペースト供給口
6 マニホールド
7 ペースト供給ユニット
8 蛍光体ペースト
9 加圧空気供給口
10 塗布ノズルユニット
21 位置決めマーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーストを吐出するための複数個の吐出口が吐出口面内に列をなして形成されているとともに、列の両端にある吐出口の近傍より他の吐出口から離れる方向に複数個の凹みまたは突起が列をなして形成されている塗布ノズルであって、前記複数個の凹みの深さもしくは突起の高さ、または前記吐出口面内での前記複数個の凹みもしくは突起の径が、前記列の両端にある吐出口より離れるにしたがって漸次小さくなることを特徴とする塗布ノズル。
【請求項2】
ペーストを吐出するための複数個の吐出口が吐出口面内に列をなして形成されているとともに、前記吐出口列の近傍の吐出口面内に位置決めマークが形成されており、さらに前記位置決めマークの近傍より前記複数の吐出口から離れる方向に複数個の凹みまたは突起が列をなして形成されている塗布ノズルであって、前記複数個の凹みの深さもしくは突起の高さ、または前記吐出口面内での前記複数個の凹みもしくは突起の径が、前記位置決めマークより離れるにしたがって漸次小さくなることを特徴とする塗布ノズル。
【請求項3】
超音波洗浄された請求項1または2に記載の塗布ノズルを用いてペーストを基板に吐出して塗布を行うことを特徴とするペーストの塗布方法。
【請求項4】
請求項3に記載のペーストの塗布方法を用いて蛍光体ペーストを塗布することを特徴とするプラズマディスプレイ用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−240901(P2009−240901A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89930(P2008−89930)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】