説明

塗布方法および塗布装置

【課題】円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に塗料を塗布する塗布方法および塗布装置において、安定した層厚で迅速に塗布することができるようにする。
【解決手段】レンズ本体1をレンズ縁面1cの周方向に回転可能に保持し、レンズ縁面1cの中心軸Lに平行な軸回りの2方向に回転可能に設けられた、塗布ローラ7A、7Bによって、レンズ本体1のレンズ縁面1cを弾性押圧状態に挟持し、塗布ローラ7A、7Bのローラ面7aに塗料20を供給しつつ、塗布ローラ7A、7Bを同方向に回転させることで、レンズ本体1を中心軸L回りに回転させて、ローラ面7a上の塗料20をレンズ本体1のレンズ縁面1cに塗布し、その後、塗布ローラ7A、7Bを互いに逆方向に回転させて、レンズ本体1を塗布ローラ7A、7Bによって挟持された位置から退避させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に塗料を塗布するための塗布方法および塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、レンズなどの円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子は、光学素子の外径決め工程である心取り切削により外周部が粗面化され、いわゆる砂目になっていることが多い。光学機器の性能向上に伴って、外周部の粗面での散乱光が像面に到達し、許容できないゴースト、フレアなどが発生する場合がある。この場合、光学素子の外周部に、予め、例えば黒色塗料などの光吸収性塗料を塗布して遮光層を形成している。
光学素子の外周部は光学素子の位置決めに用いられるので、必要な位置決め精度を確保するためには、遮光層は薄層に形成しかつ膜厚バラツキも抑制する必要がある。
このため、人手によらずに、光学素子の外周部に塗料を塗布する塗布装置および塗布方法が、種々提案されている。
例えば、特許文献1には、光学素子を保持する保持手段と、光学素子に塗布するための塗料を供給するための塗料供給手段と、回転することにより塗料供給手段から供給される塗料が移される第1ロールと、回転することにより第1ロールから塗料が移される第2ロールであって、光学素子に塗料を転写するための第2ロールと、第1ロールと塗料供給手段の間隔を調整し第1ロールと第2ロールとの軸間隔を調整するための軸間調整装置とを備える光学素子用塗料の塗布装置が記載されている。
この塗布装置では、光学素子を被塗布物固定機構部に固定し、被塗布物固定機構部を回転させ、塗料供給手段から、第1ロール、第2ロールを経て移送される塗料を、第2ロールから光学素子の外周部の粗面に転写する。このとき、軸間調整装置を備えることで、被塗布物固定機構部の回転軸と第2ロールの回転軸との軸間距離を調整して塗布を行うようにしている。
【特許文献1】特開平7−308614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の塗布装置および塗布方法には、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、軸間調整装置を備えることで、被塗布物固定機構部の回転軸と第2ロールの回転軸との軸間距離を調整して塗料の塗布を行うため、一定膜厚の塗布が可能とされている。特許文献1には、詳細な装置構成が開示されていないが、このような軸間調整装置を構成するには、少なくとも、被塗布面と各ローラのローラ面との間の位置関係を高精度に検出する検出手段と、この検出手段の検出信号に応じて、各回転軸の位置をリアルタイムに制御する制御手段とが必要となる。このため、装置構成が複雑となり、高価な装置となってしまうという問題がある。
また、光学素子を高精度に芯出しして固定し、ローラとの間の軸間距離を固定することも考えられるが、各光学素子を固定するたびに芯出し工程を行わなければならないため作業時間が増大し、迅速な塗布が行えないという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に塗料を、安定した層厚で迅速に塗布することができる塗布方法および塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の塗布方法は、円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に塗料を塗布するための塗布方法であって、前記光学素子を、前記被塗布面の周方向に回転可能に保持し、前記被塗布面の中心軸に平行な軸回りの2方向に回転可能に設けられた、少なくとも1組のローラ対によって、前記光学素子の前記被塗布面を該被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に挟持し、前記少なくとも1組のローラ対の、少なくともいずれか1つのローラのローラ面に前記塗料を供給しつつ、前記ローラ対の各ローラを同方向に回転させることで、前記光学素子を前記被塗布面の中心軸回りに回転させて、前記ローラ面上の塗料を前記光学素子の前記被塗布面に塗布し、その後、前記ローラ対の互いに対向するローラを逆方向に回転させて、前記光学素子を前記ローラ対によって挟持された位置から退避させる方法とする。
この発明によれば、光学素子を、被塗布面の周方向に回転可能に保持し、被塗布面の中心軸に平行な軸回りの2方向に回転可能に設けられた、少なくとも1組のローラ対によって、光学素子の前記被塗布面を該被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に挟持するので、少なくとも1組のローラ対によって、光学素子の位置が芯出しされるとともに、ローラ対から略均一な押圧力を受ける状態で挟持される。
そして、少なくとも1組のローラ対の、少なくともいずれか1つのローラのローラ面に塗料を供給しつつ、ローラ対の各ローラを同方向に回転させることで、光学素子を被塗布面の中心軸回りに回転させ、ローラ面上の塗料を、光学素子の被塗布面に塗布することができる。このとき、光学素子の被塗布面には、各ローラから均等な押圧力が作用しているため、塗料の塗布厚さも均等になる。
その後、ローラ対の互いに対向するローラを逆方向に回転させることで、光学素子をローラ対によって挟持された位置から退避させることができる。
なお、本明細書では、「弾性押圧状態」を広義に用いて、圧縮変形されると復元力を発生する反発性材料から押圧力を受ける状態を指すものとする。このため、弾性押圧状態で光学素子が受ける押圧力は、厳密な意味での弾性体からの押圧力には限定されない。
【0006】
本発明の第1の塗布装置は、円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に塗料を塗布するための塗布装置であって、前記光学素子を、前記被塗布面の周方向に回転可能に保持する光学素子保持台と、該光学素子保持台に保持された前記光学素子の前記被塗布面の軸方向に直交する方向に沿って、前記光学素子保持台を搬送する搬送機構と、該搬送機構の搬送経路を挟んで互いに対向する位置に、それぞれ、前記光学素子保持台に保持された前記光学素子の前記被塗布面を該被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に挟持可能、かつ前記被塗布面の中心軸に平行な軸回りの2方向に回転可能に設けられた駆動ローラと従動ローラとを有する少なくとも1組のローラ対と、前記駆動ローラを回転させる回転駆動部と、前記駆動ローラおよび前記従動ローラのうちの、少なくとも1つのローラのローラ面に前記塗料を供給する塗料供給部と、前記搬送機構を制御して、前記ローラ対からの押圧力がつり合った状態で前記光学素子が挟持されるつり合い挟持位置に対する前記光学素子保持台の進退動作を行うとともに、前記搬送機構の進退動作に同期して前記回転駆動部の回転方向を制御することで、前記つり合い挟持位置における挟持時に前記駆動ローラを一定方向に回転させて前記光学素子を前記被塗布面の中心軸回りに回転させ、前記つり合い挟持位置からの退避時に前記駆動ローラを前記一定方向とは逆方向に回転させる制御部とを備える構成とする。
この発明によれば、光学素子保持台に光学素子を保持させて、制御部によって搬送機構を駆動し、光学素子保持台を光学素子の被塗布面の軸方向に直交する方向に沿って搬送し、光学素子を、駆動ローラと従動ローラとを有する少なくとも1組のローラ対によって被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に挟持されるつり合い挟持位置に移動させる。
駆動ローラおよび従動ローラのうちの少なくとも1つのローラのローラ面には、塗料供給部によって塗料が供給される(以下、塗料が供給されるローラを他のローラと区別するため転写塗布ローラと称する)。そして、制御部によって回転駆動部を一定方向に回転駆動することで、駆動ローラを回転させる。この駆動ローラの回転力は、挟持された光学素子に伝達される。
光学素子は、光学素子保持台上では被塗布面の周方向に回転可能に保持されているとともに、少なくとも1組のローラ対によって、被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に保持されているので、駆動ローラからの回転力を受けて、光学素子が被塗布面の中心軸回りに回転する。この回転によって、駆動ローラの対向位置にある従動ローラは、駆動ローラと同方向につれまわり回転する。
このとき、光学素子の回転中心がずれると、各ローラからの押圧力のバランスがくずれて復元力が作用し、押圧力がつり合う位置に調芯されるので、回転中心が安定するとともに、光学素子の被塗布面に各ローラから作用する押圧力が均一化される。この結果、転写塗布ローラから、被塗布面に塗料が転写される。また、転写された塗料は、転写塗布ローラ以外の駆動ローラ、従動ローラを通過して、それぞれから均等な押圧力を受けることで、層厚が均等になる。
制御部は、光学素子の被塗布面の全体に必要量の塗料が塗布されるだけ駆動ローラを回転させると、駆動ローラの回転方向を切り替えて、逆方向に回転させる。このとき、従動ローラは慣性を有するため、これに同期して回転方向が変化することはないから、互いに逆方向の回転が実現される。
一方、駆動ローラの回転方向の切り替えに合わせて、この駆動ローラの回転により光学素子が押し出される方向に搬送機構を駆動して、光学素子をつり合い挟持位置から退避させる。
以上で、光学素子の被塗布面に塗料が塗布、および塗布された光学素子の取り出しが完了し、次の光学素子への塗布が可能となる。
なお、各ローラは、径方向内側に圧縮変形されたときに、径方向外側に復元力を発生させることができる適宜の反発性材料を採用することができる(以下も同様)。
【0007】
本発明の第2の塗布装置は、円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に塗料を塗布するための塗布装置であって、前記光学素子を、前記被塗布面の周方向に回転可能に保持する光学素子保持台と、該光学素子保持台に保持された前記光学素子の前記被塗布面の軸方向に直交する方向に沿って、前記光学素子保持台を搬送する搬送機構と、該搬送機構の搬送経路を挟んで互いに対向する位置に、それぞれ、前記光学素子保持台に保持された前記光学素子の前記被塗布面を該被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に挟持可能、かつ前記被塗布面の中心軸に平行な軸回りの2方向に回転可能に設けられた2本の駆動ローラを有する少なくとも1組のローラ対と、前記各駆動ローラを回転させる回転駆動部と、前記駆動ローラのうちの、少なくとも1つのローラのローラ面に前記塗料を供給する塗料供給部と、前記搬送機構を制御して、前記ローラ対からの押圧力がつり合った状態で前記光学素子が挟持されるつり合い挟持位置に対する前記光学素子保持台の進退動作を行うとともに、前記搬送機構の進退動作に同期して前記回転駆動部の回転方向を制御することで、前記つり合い挟持位置における挟持時に前記各駆動ローラを一定方向に回転させて前記光学素子を前記被塗布面の中心軸回りに回転させ、前記つり合い挟持位置からの退避時に前記ローラ対をなす2つの駆動ローラを互いに逆方向に回転させる制御部とを備える構成とする。
この発明によれば、光学素子保持台に光学素子を保持させて、制御部によって搬送機構を駆動し、光学素子保持台を光学素子の被塗布面の軸方向に直交する方向に沿って搬送し、光学素子を、2本の駆動ローラを有する少なくとも1組のローラ対によって被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に挟持されるつり合い挟持位置に移動させる。
駆動ローラのうち少なくとも1つのローラのローラ面には、塗料供給部によって塗料が供給される(以下、塗料が供給される駆動ローラを他の駆動ローラと区別するため転写塗布ローラと称する)。そして、制御部によって回転駆動部を一定方向に回転駆動することで、各駆動ローラを回転させる。これら各駆動ローラの回転力は、挟持された光学素子に伝達される。
光学素子は、光学素子保持台上では被塗布面の周方向に回転可能に保持されているとともに、少なくとも1組のローラ対によって、被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に保持されているので、各駆動ローラからの回転力を受けて、光学素子が被塗布面の中心軸回りに回転する。
このとき、光学素子の回転中心がずれると、各ローラからの押圧力のバランスがくずれて復元力が作用し、押圧力がつり合う位置に調芯されるので、回転中心が安定するとともに、光学素子の被塗布面に各駆動ローラから作用する押圧力が均一化される。この結果、転写塗布ローラから、被塗布面に塗料が転写される。また、転写された塗料は、転写塗布ローラ以外の駆動ローラを通過して、それぞれから均等な押圧力を受けることで、層厚が均等になる。
制御部は、光学素子の被塗布面の全体に必要量の塗料が塗布されるだけ駆動ローラを回転させると、対向位置にある2本の駆動ローラを互いに逆方向に回転させる。
一方、駆動ローラの回転方向の切り替えに合わせて、この駆動ローラの回転により光学素子が押し出される方向に搬送機構を駆動して、光学素子をつり合い挟持位置から退避させる。
以上で、光学素子の被塗布面に塗料が塗布、および塗布された光学素子の取り出しが完了し、次の光学素子への塗布が可能となる。この場合、退避方向は、駆動ローラの回転方向を適宜設定することで、つり合い挟持位置に搬送される方向と同方向および逆方向のいずれにも設定することができる。
【0008】
また、本発明の各塗布装置では、前記塗料供給部は、前記ローラ面に対して、径方向外側から前記塗料を供給するものであることが好ましい。
この場合、塗料供給部をローラの外部に設けることができるので、塗料の交換や塗布膜厚の調整が容易となる。
【0009】
また、本発明の各塗布装置では、前記ローラ面に前記塗料が供給されるローラは、少なくとも前記ローラ面が多孔質材料で形成され、ローラ内部には前記塗料が前記多孔質材料から滲出可能に貯留され、これにより前記塗料供給部を兼ねることが好ましい。
この場合、ローラ面に塗料が供給されるローラ(転写塗布ローラ)が塗料供給部を兼ねるので、塗料供給部を別に設ける場合に比べて簡素な構成とすることができる。
【0010】
また、本発明の各塗布装置では、前記光学素子保持台は、前記光学素子の回転時に、該光学素子の光学面をすべり支持するすべり保持部を備えることが好ましい。
この場合、すべり保持部を備えることにより、光学素子保持台に回転機構を備えることなく、光学素子を、被塗布面の周方向に回転可能に保持することができる。このため、簡素な構成の装置とすることができる。
【0011】
また、本発明の各塗布装置では、前記ローラ対は、1組からなり、前記光学素子は、前記ローラ対の各ローラの回転中心を結ぶ直線上に挟持されることが好ましい。
この場合、光学素子が、1組のローラ対によって、各ローラの回転中心を結ぶ直線上に挟持されるため、1組のローラ対の軸間距離を予め設定しておくことで、塗布厚さの設定を行える。そのため、2組以上のローラ対を用いる場合に比べて、条件設定が容易となる。
【0012】
また、本発明の前記ローラ対が1組からなる塗布装置では、前記ローラ対の前記駆動ローラは、ローラ面に、軸方向に貫通する凹部が設けられ、前記制御部は、前記光学素子保持台を前記つり合い挟持位置に移動する際、前記駆動ローラの凹部が前記光学素子に当接するように、前記駆動ローラの回転位置を制御することが好ましい。
この場合、光学素子をつり合い挟持位置に移動する際、駆動ローラの凹部が光学素子に当接するので、光学素子が確実につり合い挟持位置に位置づけることができるとともに、駆動ローラの回転開始時にスリップが発生しにくくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗布方法および塗布装置によれば、少なくとも1組のローラ対によって、光学素子の被塗布面をその中心軸に向かって弾性押圧状態に挟持し、つり合い挟持位置でローラ対を回転させて被塗布面に塗料を塗布するので、円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に、塗料を安定した層厚で迅速に塗布することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0015】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る塗布装置について説明する。
図1(a)、(b)は、それぞれ本発明の第1の実施形態に係る塗布装置で塗料が塗布された光学素子の一例を示す平面図およびそのA−A断面図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す模式的な平面図である。図3は、図2におけるB−B断面図である。図4は、図2におけるC−C断面図である。図5は、本発明の第1の実施形態に係る塗布装置の制御に係る機能構成を示す機能ブロック図である。
【0016】
本実施形態の塗布装置は、円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に塗料を塗布するためのものである。このような光学素子の一例として、以下では、図1(a)、(b)に示すレンズ本体1の場合の例で説明する。
レンズ本体1は、例えば、ガラスによって形成され、凸面からなるレンズ面1a、1bを表裏に備えた両凸レンズである。そして、これらレンズ面1a、1bの外周部には、円筒面状のレンズ縁面1cが形成されている。本実施形態では、レンズ縁面1cは、いわゆる砂目加工がなされた粗面である。また、レンズ縁面1cの中心軸Lは、レンズ本体1の光軸に一致されている。
このようなレンズ本体1は、この状態で光学機器などに使用すると、レンズ面1a、1bから入射し、レンズ本体1内部からレンズ縁面1cに向かう光がレンズ縁面1cで散乱され、散乱された一部の反射光が像面に到達して、フレアやゴーストを発生させるおそれがある。
本実施形態の塗布装置は、このようなフレアやゴーストにつながる散乱光を抑制するため、レンズ縁面1cを被塗布面として、例えば黒色エポキシ系塗料など、光吸収性を有する塗料20(図2、4参照)を塗布して乾燥させることで、レンズ縁面1cに入射光を吸収する遮光膜層2を形成するものである。
【0017】
本実施形態の塗布装置60の概略構成は、図2〜5に示すように、基台3上に、搬送機構4、保持台5、塗布ローラ7A、7B(ローラ)、モータ10(回転駆動部)、塗料供給部12A、12B、および制御部14を備える。
塗布装置60は、独立した装置構成としてもよいが、レンズ本体1の形状を形成するまでの他の製造工程を行う装置部分を有し、レンズ50を連続的に製造するレンズ製造システムの一部を構成していてもよい。この場合、基台3、搬送機構4、および制御部14は、レンズ製造システムの他の装置部分と兼用する構成であってもよい。
【0018】
搬送機構4は、基台3上の水平方向の一方向である搬送方向Tに沿って延在され、保持台5を載置する上面4aを延在方向に沿って搬送するものであり、例えば、ベルトコンベア機構や、水平移動ステージ機構などを採用することができる。
上面4aは、後述する保持台5の円板部下面5eに対する摩擦係数が十分大きな材質からなり、搬送に伴って保持台5に作用する水平方向の慣性力に抗しうる摩擦力が、円板部下面5eとの間に発生するようになっている。
また、搬送機構4は、特に図示しないが、例えば、モータやアクチュエータなどの駆動部と、例えばエンコーダなどの位置検出部とを備える。そして、それぞれは、制御部14と電気的に接続され、制御部14からの制御信号に応じて、駆動部が上面4aの位置や移動速度などを変化させるとともに、位置検出部が上面4aの移動位置の情報を制御部14に通信できるようになっている。
【0019】
搬送機構4の搬送方向Tに対する両側方には、それぞれ、搬送方向上流側から搬送方向Tの中間部まで延ばされた搬送ガイド6が、搬送機構4の搬送方向Tに直交する方向の中心に対して対称な位置関係に設けられている(図2参照)。
各搬送ガイド6は、図3に示すように、搬送機構4を側面から覆う側壁部6bと、搬送機構4の上面4aの搬送方向Tに対する左右両端側を、上方から覆うガイド部6aとを備える。そして、各ガイド部6aの互いに対向するガイド面6dによって、搬送方向Tに沿って延びる幅w(図2参照)の開口が形成されている。
各ガイド部6aの下面であるガイド面6cは、搬送機構4の上面4aに対して、一定高さだけ離間された位置に設けられている。
【0020】
保持台5は、レンズ本体1をレンズ縁面1cの周方向に回転可能に保持する部材である。本実施形態では、円板部5d上にレンズ保持部5cが重ねられてなる。
レンズ保持部5cは、上端部にレンズ本体1のレンズ面1bと略同じ曲率を有する凹球面からなる保持面5a(すべり保持部)を有し、外周部が直径W(ただし、W<D、W<w)の円筒面からなる円柱状部分である。
円板部5dは、このレンズ保持部5cと同軸で、搬送ガイド6の開口幅wより大きな外径を有する円板状部分である。
円板部5dの円板部上面5bは、円板部下面5eに平行な平面であり、円板部5dの厚さ(円板部下面5eと円板部上面5bとの距離)は、搬送機構4の上面4aと搬送ガイド6のガイド面6cとの間の隙間よりもわずかに薄い寸法とされる。
また、保持面5aの外周部をなし、保持面5aの上端に形成されるエッジ部5fは、円板部下面5eに平行な平面に整列するように形成されている。
【0021】
保持台5の材質は、少なくともレンズ保持部5cは、レンズ本体1のガラス材料に対する摺動特性が良好な合成樹脂で形成され、これにより、載置されたレンズ本体1が、保持面5a上ですべり支持され、レンズ本体1に対してレンズ縁面1cの周方向に回転力を付勢した場合、保持面5a上で回転できるようになっている。
回転時に保持面5aとレンズ面1bとが当接する位置は、レンズ本体1の有効領域外であることが好ましい。例えば、保持面5aの曲率をレンズ面1bの曲率に比べてわずかに大きくしておき、レンズ保持部5cの外周部の外径をレンズ本体1の有効領域より大径としておくことで、保持面5aの外周のエッジ部5fがレンズ本体1の有効領域外に線状に当接した状態で、保持、回転させることが可能となる。
ただし、合成樹脂の摺動特性が良好で、レンズ本体1の回転時の摺動によってレンズ面1bに、傷や汚れなどが発生しない場合には、保持面5aは、レンズ面1bのどこに当接してもよい。
【0022】
塗布ローラ7A、7Bは、レンズ本体1のレンズ縁面1cに塗料を塗布するため、搬送機構4の搬送経路を挟んで互いに対向する位置に、配置されたローラ対である。そして、少なくともローラ面7aの近傍は、径方向内側に圧縮変形されたときに、径方向外側に復元力を発生させる反発性材料、例えば、非発泡体または発泡体のゴム、エラストマー、多孔質樹脂材料などから構成される。なお、反発性材料は、このように、ゴム弾性を有する材料の他に狭義の弾性体を含むものとする。
塗布ローラ7A、7Bの材質や形状は、異なっていてもよいが、本実施形態では、それぞれ共通である。
ローラ面7aは、平滑な円筒面としてもよいし、塗料の保持性能を向上するため表面に凹凸形状を有していてもよい。例えば、発泡体を切削することで、表面に凹凸が形成されていてもよいし、非発泡体の表面に凹凸形状を成形してもよい。また、弾性材料の表面に微細繊維状、あるいは多孔質状の層状部材を積層した構成としてもよい。
【0023】
塗布ローラ7A、7Bは、それぞれの中心に設けられた回転軸8A、8Bが鉛直方向に配置され、基台3上に立設された支持部13A、13Bの上端部の軸受9によって、鉛直軸回りに回転可能に支持されている。
回転軸8A、8Bの搬送方向Tにおける位置は、搬送ガイド6の延在方向の端部の近傍とされる。
塗布ローラ7A、7Bの形状は、いずれも半径R、厚さtの円板状で、ローラ面7aの中心が、回転軸8A、8Bの中心P、Pに一致して取り付けられている。
ここで、厚さtは、レンズ縁面1cの光軸方向の幅よりも大きい寸法とされる。
また、半径Rは、D/2よりも大きな寸法とすることが好ましい。
【0024】
回転軸8A、8Bの軸間距離Pは、塗布ローラ7A、7Bの各ローラ面7aが距離d(ただし、d<D)を隔てて離間する距離とされ、線分Pが搬送機構4の搬送方向Tに水平面内で直交し、線分Pの中点Qが搬送機構4の搬送方向Tに直交する幅方向の中心に位置するような位置関係に設定される。
塗布ローラ7A、7Bの高さ方向の位置は、塗布ローラ7A、7Bの各ローラ面7aの高さ方向の中心位置が、搬送機構4の上面4aに載置された保持台5上に保持されるレンズ本体1のレンズ縁面1cの高さ方向の中心位置と略一致する設定とする。これにより、保持台5に保持されたレンズ本体1のレンズ縁面1cは、各ローラ面7aの高さ方向の範囲内に配置される。
【0025】
このような位置関係により、レンズ縁面1cの中心軸Lが点Qに一致する位置にレンズ本体1を搬送された場合、塗布ローラ7A、7Bの各ローラ面7aがそれぞれΔ=(D−d)/2だけ圧縮されるようになっている。そのため、レンズ本体1は、この圧縮量Δに応じた復元力がレンズ縁面1cからレンズ縁面1cの中心軸Lに向かってそれぞれ作用し、弾性押圧状態で塗布ローラ7A、7Bに挟持されるようになっている。
レンズ本体1が、レンズ縁面1cの中心軸Lに作用する力がつり合った状態で、塗布ローラ7A、7Bによって挟持される位置を、以下では、レンズ本体1のつり合い挟持位置と称する。本実施形態のレンズ本体1のつり合い挟持位置は、レンズ縁面1cの中心軸Lの水平方向の位置が点Qに一致する位置である。
【0026】
また、本実施形態の塗布ローラ7Aは、図4に示すように、回転軸8Aの下端側でモータ10からの回転力を伝動する伝動機構11に接続されており、自転可能な駆動ローラとなっている。
伝動機構11は、例えば、ギヤ列や、タイミングベルトおよびタイミングベルトプーリからなる機構を採用することができる。
一方、本実施形態の塗布ローラ7Bは、軸受9によって回転支持されているのみで、伝動機構11やモータ10には接続されておらず、塗布ローラ7Bに作用する外力によって、回転する従動ローラとなっている。
【0027】
モータ10は、塗布ローラ7Aを回転軸8Aを中心として回転させる回転駆動部を構成するもので、支持部13A内に配置され、図5に示すように、制御部14に電気的に接続されている。そして、制御部14によって、回転の起動、停止、回転方向の切り替え、回転速度制御などを行うことができるようになっている。
モータ10のモータ種類は、回転方向を切り替えることができれば、特に限定されない。例えば、ステッピングモータやDCモータなどを採用することができる。
【0028】
塗料供給部12A、12Bは、それぞれ塗料20を塗布ローラ7A、7Bのローラ面7aに供給するための機構である。
本実施形態の塗料供給部12A、12Bは、いずれも、塗料20が貯留された塗料タンク(不図示)に接続された供給チューブ12bを介して、塗料20を圧送し、供給チューブ12bの先端の塗料供給口12aから、塗料20が吐出される機構を採用している。
供給チューブ12bは、塗布ローラ7A(7B)のローラ面7aの近傍では、図に向かって斜め上方向から延ばされ、塗料供給口12aは、供給チューブ12b先端が斜め方向に切断された形状からなり、この切断面が、塗布ローラ7A(7B)のローラ面7aの周方向の一定位置において、ローラ面7aからローラ径方向に一定の隙間を空けて対向されるように配置されている。
図2、4では、塗料供給部12A(12B)の周方向の配置位置を、直線P上に描いているが、これは一例であり、周方向の配置位置は、これに限定されない。
また、特に図示しないが、塗料供給部12A(12B)の近傍には、レンズ縁面1cに転写されないでローラ面7a上に残留した塗料20をクリーニングするクリーニング機構を設けてもよい。
本実施形態では、このような塗料供給部12A、12Bを設けることで、塗布ローラ7A、7Bのいずれにも塗料20が供給可能となっている。すなわち、塗布ローラ7A、7Bはいずれも転写塗布ローラとなっている。
【0029】
制御部14は、図5に示すように、搬送機構4、モータ10、塗料供給部12A、12Bに電気的に接続され、それぞれの動作を制御する制御信号を送出し、制御に必要な情報を取得できるようになっている。
例えば、搬送機構4に対しては、搬送機構4の起動、停止、および搬送速度制御を行う制御信号を送出し、基準位置からの搬送距離の情報を取得できるようになっている。
また、モータ10に対しては、モータ10の起動、停止、回転方向の切り替え、および回転速度制御を行う制御信号を送出し、モータ10からエンコーダ出力などに基づいて回転速度等の情報を取得できるようになっている。
また、塗料供給部12A、12Bに対しては、塗料20の吐出開始、吐出停止、および吐出量を制御する制御信号を送出できるようになっている。
制御部14の装置構成としては、専用のハードウェアを用いてもよいが、本実施形態では、CPU、メモリ、外部記憶装置、入出力インターフェースなどを備えたコンピュータによって、制御用のプログラムを実行させることで実現している。
【0030】
次に、本実施形態の塗布装置60を用いた塗布方法について、塗布装置60の動作とともに説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態に係る塗布方法を説明するフローチャートである。図7(a)は、本発明の第1の実施形態に係る塗布装置の塗料塗布時の様子を示す模式的な平面図である。図7(b)は、本発明の第1の実施形態に係る塗布装置の塗料塗布終了後の様子を示す模式的な平面図である。
なお、図7(a)、(b)では、塗料供給部の図示を省略している。
【0031】
本実施形態の塗布方法は、塗料20を、図6に示すフローに基づいて、レンズ本体1に塗布する。
まず、ステップS1では、光学素子を光学素子保持台に保持させる。
すなわち、人手またはマニピュレータ(不図示)等によって、レンズ本体1を、レンズ面1bが下向きとなる状態に保持し、保持台5の保持面5a上に載置する。
このとき、レンズ本体1は、レンズ縁面1cの中心軸Lが略鉛直方向に沿う姿勢とし、かつ、保持面5aの鉛直方向に延びる中心軸とレンズ縁面1cの中心軸Lとの水平方向の位置が略一致するように配置する。なお、後述するように、これらのレンズ本体1の姿勢は、多少ずれていても、つり合い挟持位置では、矯正される。
【0032】
本実施形態では、保持面5aは、レンズ面1bと略同じ曲率を有するので、レンズ縁面1cの軸方向を略鉛直方向に揃えて載置することで、保持面5aによって、水平方向の位置も同時に位置決めされる。例えば、保持面5aの曲率をレンズ面1bに比べてわずかに大きくする場合には、エッジ部5fが、レンズ面1bに線接触して、エッジ部5fの中心位置にレンズ本体1の水平方向の位置が位置決めされる。
【0033】
次に、ステップS2では、光学素子保持台をつり合い挟持位置に移動させる。
まず、レンズ本体1が保持された保持台5を搬送方向上流側の搬送機構4の上面4a上の一定の載置位置に搬送方向Tおよび搬送方向Tに直交する方向に位置決めして載置する。例えば、レンズ保持部5cを、搬送ガイド6のガイド面6dで形成される開口の中央に配置する。これにより、保持台5の中心と点Qとを通る直線は、線分Pと略直交する位置関係となる(図2参照)。
そして、保持台5の円板部5dが上面4aと搬送ガイド6のガイド面6dとの間に挟まれた状態になっている(図3参照)。
【0034】
そして、制御部14からの制御信号によって、搬送方向Tに沿う搬送を開始し、つり合い挟持位置まで上面4aを移動させる。
保持台5は、自重に応じた摩擦力を上面4aから受けるため、搬送中も上面4aに対して相対移動しない。そのため、保持台5、および保持台5に保持されたレンズ本体1の水平方向の位置は、上面4aの移動位置に同期されている。
本実施形態では、保持台5の上面4a上の載置位置の情報を、予め制御部14に記憶しておくことにより、制御部14は、つり合い挟持位置まで移動するための目標移動量を決定する。また、保持台5および保持台5に保持されたレンズ本体1の位置は、制御部14が、搬送機構4の位置検出部から取得する搬送距離の情報により算出することができる。
【0035】
制御部14は、保持台5がつり合い挟持位置に移動したら、搬送機構4を停止させる。
図7(a)に示すように、本実施形態のつり合い挟持位置では、レンズ縁面1cの中心軸Lと点Qが一致され、レンズ本体1の直径方向の対向する2箇所で、塗布ローラ7A、7Bが当接されている。ここで、塗布ローラ7A、7B間の各ローラ面7aの対向する距離dは、レンズ本体1の直径Dより小さいので、塗布ローラ7A、7Bとの当接部では、塗布ローラ7A、7Bが径方向内側に圧縮され、その復元力がレンズ本体1に押圧力F、Fとしてそれぞれ作用する。
このとき、本実施形態では、塗布ローラ7A、7Bの外径がレンズ本体1の外径より大きい構成としておくと、相対的に曲率の小さい塗布ローラ7A、7Bからなる隙間内に、相対的に曲率の大きなレンズ本体1が挿入されるため、レンズ縁面1cの侵入が円滑に行われるとともに、つり合い挟持位置での保持状態をより安定させることができる。
押圧力F、Fは、レンズ本体1による圧縮量が同じであれば同じなので、つり合い挟持位置では、押圧力F、Fはつり合うことになる。
【0036】
仮に、搬送方向Tに直交する方向の保持台5の載置位置、または、保持台5上に保持されたレンズ本体1の位置に誤差が発生した場合、レンズ本体1は保持面5a上で載置されているだけなので微小量であれば水平方向に移動できるから、押圧力F、Fの差の分の力がレンズ本体1に作用して線分Pに沿ってレンズ本体1を移動させる。このため、やはりレンズ本体1はつり合い挟持位置に移動される。
すなわち、レンズ本体1は、つり合い挟持位置では調芯された状態で、塗布ローラ7A、7Bに挟持される。
【0037】
次に、ステップS3では、ローラ面に塗料を供給しつつ、ローラ対を同方向に回転させ、被塗布面に塗料を塗布する。
本ステップでは、制御部14は、塗料供給部12A、12Bに対して、塗料20の供給を開始する制御信号を送出するとともに、モータ10に対して、塗布ローラ7Aが、レンズ本体1との当接部で、搬送方向Tと反対側に接線方向の駆動力fを作用させる方向に、モータ10を回転させる制御信号を送出する。
これにより、本実施形態では、塗布ローラ7Aが、図7(a)の図示反時計回りに回転され、塗布ローラ7Aのローラ面7aに順次塗料20が供給されていく。
そして、レンズ本体1との当接部では、塗布ローラ7Aからの駆動力fが、レンズ縁面1cに作用するため、レンズ本体1が転動を開始する。
このとき、レンズ本体1は、保持面5aによって回転可能に保持されるとともに、塗布ローラ7Aに対向してレンズ本体1を押圧する塗布ローラ7Bが軸受9によって回転可能に支持された従動ローラであるため、レンズ本体1、塗布ローラ7Bは、それぞれ図7(a)の図示の時計回り、反時計回りに連れ回り回転する。
このとき、塗布ローラ7Aは、塗布ローラ7Bがスリップを起こすことなく良好に連れ回りするように回転速度が漸増する回転速度を制御することが好ましい。
【0038】
このようにして、塗布ローラ7Aのローラ面7a上の塗料20は、被塗布面であるレンズ縁面1c上に順次転写されていく。一方、塗料供給部12Bから供給された塗料20も、同様にして、塗布ローラ7Bの回転とともに搬送され、レンズ本体1との当接部で、レンズ縁面1cに転写される。
ここで、レンズ本体1は、保持面5a上では載置されているだけなので、回転中も押圧力のバランスを保つように調芯される。
【0039】
このように、レンズ本体1は、塗布ローラ7A、7B上の塗料20が、当接部に到達してから、半回転以上回転すると、レンズ縁面1cの全周に、塗料20が塗布される。塗布ローラ7A、7Bの当接部での押圧力F、Fは、均等なので、塗料20の供給量が等しくなるように塗料20の供給量およびモータ10の回転速度を制御すれば、塗料20の塗布厚を略均一にすることができる。
塗布された塗料20は、順次乾燥していき、乾燥された塗料20によって、遮光膜層2が形成される。
【0040】
次に、ステップS4では、駆動ローラの回転方向を切り替える。
本ステップでは、制御部14からモータ10に回転方向を逆方向に切り替える制御信号を送出して、図7(b)に示すように、塗布ローラ7Aを図示の時計回りに回転させる。
この結果、塗布ローラ7Aの当接部では、駆動力fが急速に減少したのち反対方向に駆動力が作用する。一方、レンズ本体1、塗布ローラ7Bには、慣性があるため、回転方向の切り替え直後では、ステップS3と同方向に回転し続ける。特に、塗布ローラ7Bは、レンズ本体1に比べて大径のため慣性も大きく、また塗布ローラ7Aからの力はレンズ本体1を介して伝達されることと相俟って、より長時間にわたって同方向の回転が維持される。
このため、レンズ本体1には、塗布ローラ7A、7Bから搬送方向Tの駆動力成分が作用し、レンズ本体1が、搬送方向T側に付勢される。
【0041】
次に、ステップS5では、光学素子保持台をつり合い挟持位置から退避させる。
本ステップでは、制御部14は、ステップS4の実行により、塗布ローラ7Bの回転が停止しないうちに、搬送機構4を搬送方向Tに駆動する制御信号を送出する。そのため、塗布ローラ7Bの慣性の大きさによっては、本ステップは、ステップS4と同じタイミングで実行してもよい。
これにより、レンズ本体1は、図7(b)に示すように、塗布ローラ7A、7Bからそれぞれ駆動力g、gで付勢されつつ、搬送方向Tに移動され、つり合い挟持位置から退避される。
このように、レンズ本体1に搬送方向T側に移動させる付勢力が作用する間に、保持台5が搬送方向Tに移動されるので、レンズ本体1は、円滑につり合い挟持位置から退避される。
保持台5が、ある程度、搬送方向T側に移動すると、レンズ本体1は、塗布ローラ7A、7Bから離間するため、回転が停止し、保持面5a上に載置状態で搬送される。
【0042】
以上で、レンズ本体1のレンズ縁面1cに遮光膜層2が形成されたレンズ50が形成される。
また、上記ステップS1〜S5を繰り返し、搬送機構4上に、順次、レンズ本体1が保持された保持台5を供給することで、複数のレンズ本体1に順次塗料20を塗布して、レンズ50を連続的に製造することができる。
【0043】
本実施形態によれば、1組のローラ対によって、レンズ本体1のレンズ縁面1cをその中心軸Lに向かって弾性押圧状態に挟持し、つり合い挟持位置でローラ対を回転させてレンズ縁面1cに塗料20を塗布するので、レンズ本体1に、塗料を安定した層厚で塗布することができる。
また、レンズ本体1は、搬送機構4によって、つり合い挟持位置に移動されて停止し、レンズ本体1の位置調整やローラ対の軸間距離の調整などからなる調芯工程を行うことなしに、ローラ対が半周程度回転する間に塗料20の塗布が終了し、その後、つり合い挟持位置から退避されるため、調芯工程を備える従来の塗布方法に比べて、迅速に塗布することができる。
【0044】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る塗布装置について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す図2におけるC−C断面図である。
【0045】
本実施形態の塗布装置60Aは、図8に示すように、上記第1の実施形態の塗布装置60のモータ10、制御部14に代えて、モータ10A、10B(回転駆動部)、制御部14A(図5参照)を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0046】
モータ10A(10B)は、伝動機構11を介して塗布ローラ7A(7B)を、回転軸8A(8B)を中心として回転させる回転駆動部を構成するもので、支持部13A(13B)内に配置され、図5に示すように、制御部14Aに電気的に接続されている。
モータ10A(10B)の構成は、上記第1の実施形態のモータ10と同様の構成を採用することができる。
制御部14Aは、上記第1の実施形態の制御部14と同様な構成を有し、モータ10A、10Bのそれぞれの動作を独立に制御できるようになっている。
このため、本実施形態のモータ10A、10Bは、いずれも自転可能な駆動ローラを構成している。
【0047】
塗布装置60Aを用いた塗布方法は、上記第1の実施形態と同様に、図6に示すフローに基づいて行われるが、ステップS3、S4、S5における具体的な動作は、以下のようになる。
【0048】
本実施形態のステップS3では、制御部14Aは、塗料供給部12A、12Bに対して、塗料20の供給を開始する制御信号を送出するとともに、モータ10A、10Bを回転制御する。
制御部14Aは、塗布ローラ7Aが、レンズ本体1との当接部で、搬送方向Tと反対側に駆動力fを作用させる方向に、モータ10Aを回転させる制御信号を送出する。また、モータ10Bに対して、モータ10Aと同方向に同速度で回転させる制御信号を送出する。
これらの結果、図7(a)に示すのと同様に、塗布ローラ7A、7Bが、それぞれ図7(a)の図示反時計回りに回転され、塗布ローラ7A、7Bの各ローラ面7aに順次塗料20が供給されていく。
そして、レンズ本体1との当接部では、塗布ローラ7A、7Bからの駆動力fが偶力となってレンズ縁面1cに作用するため、レンズ本体1がレンズ縁面1cの中心軸Lを中心に、図示時計回りに回転を開始する。
このため、塗布ローラ7A、7Bの各ローラ面7a上の塗料20は、レンズ縁面1c上に順次転写されていく。
ここで、レンズ本体1は、保持面5a上では載置されているだけなので、回転中も、押圧力のバランスを保つように調芯される。
【0049】
このように、レンズ本体1は、塗布ローラ7A、7B上の塗料20が、当接部に到達してから、半回転以上回転すると、レンズ縁面1cの全周に、塗料20が塗布される。塗布ローラ7A、7Bの当接部での押圧力F、Fは、均等なので、塗料20の供給量が等しくなるように塗料20の供給量およびモータ10A、10Bの回転速度を制御すれば、塗料20の塗布厚を略均一にすることができる。
塗布された塗料20は、順次乾燥していき、乾燥された塗料20によって、遮光膜層2が形成される。
【0050】
次に、本実施形態のステップS4では、制御部14Aからモータ10Aに回転方向を逆方向に切り替える制御信号を送出して、図7(b)に示すように、塗布ローラ7Aを図示の時計回りに回転させる。
本実施形態のステップS5では、制御部14Aは、搬送機構4を搬送方向Tに駆動する制御信号を送出する。このとき、ステップS4の結果、塗布ローラ7A、7Bの当接部では、レンズ縁面1cに対して塗布ローラ7A、7Bからそれぞれ搬送方向Tの駆動力成分が作用し、レンズ本体1が、搬送方向T側に付勢される。
これにより、レンズ本体1は、円滑に搬送方向Tに移動され、つり合い挟持位置から退避される。
【0051】
塗布装置60Aによれば、このように、1組のローラ対をそれぞれ駆動ローラとするので、つり合い挟持位置でのレンズ本体1に対して、中心軸Lの回りの偶力を作用させることができる。このため、レンズ本体1に作用する駆動力が対称的となり、レンズ本体1を迅速に安定して回転させることが可能となる。
【0052】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
図9(a)は、本発明の第2の実施形態の変形例に係る塗布装置の概略構成を示す模式的な部分平面図である。図9(b)は、本発明の第2の実施形態の変形例に係る塗布装置によって、光学素子をつり合い挟持位置に挟持した状態を示す模式的な部分平面図である。
【0053】
本変形例は、上記第2の実施形態の塗布ローラ7A、7Bに代えて、同様にローラ対をなす塗布ローラ17A、17B(ローラ)を備え、これに合わせて、制御部14Aによる塗布ローラ17A、17Bの制御動作を変更したものである。
塗布ローラ17A(17B)は、塗布ローラ7A(7B)のローラ面7a上の1箇所に、厚さ方向に貫通する略円筒面状の凹部17aが設けられている。
凹部17aの深さは、このため、図9(a)のように、凹部17aが、線分P上で互いに対向された場合、対向距離dが、d<D<dを満足するように設定する。
回転軸8A、8Bに対する各凹部17aの位置は、取付時に予め調整しておき、制御部14Aは、モータ10A、10Bから、各凹部17aの周方向の位置情報を取得できるようになっている。
【0054】
本変形例では、レンズ本体1をつり合い挟持位置に移動させる図6のステップS2は、次のように変形して実行される。
本変形例のステップS2では、上記第2の実施形態と同様に、レンズ本体1が保持された保持台5を搬送機構4の上面4a上に載置し、制御部14Aからの制御信号によって、搬送方向Tに沿う搬送を開始し、つり合い挟持位置まで上面4aを移動させる。
一方、制御部14Aは、レンズ本体1が塗布ローラ17A、17Bに接触するまでの間に、塗布ローラ17A、17Bを回転させて、図9(a)に示すように、塗布ローラ17A、17Bの各凹部17aを線分P上で互いに対向する位置に移動させておく。
これにより、レンズ本体1が、つり合い挟持位置に移動する際、上記第2の実施形態のローラ面7a間の距離dに比べてわずかに広い距離dの隙間に入り込んでいくため、円滑につり合い挟持位置に移動することができる。
また、つり合い挟持位置では、図9(b)に示すように、レンズ縁面1cが各凹部17aに嵌り込み、中心軸Lに向かって安定した押圧力が作用するともに、搬送方向Tへの移動を抑制することができる。
そのため、搬送機構4の移動誤差やレンズ本体1の保持位置の誤差が、ある程度あっても、凹部17aがない場合に比べて行き過ぎや侵入不足が起こりにくくなる。そのため、確実につり合い挟持位置に移動することができる。
そして、ステップS3に移行する場合、回転開始時に、周方向のスリップをよりよく抑制することができるので、レンズ本体1の回転をより安定して始動させることができる。したがって、上記第2の実施形態に比べて、塗布ローラ17A、17Bの回転の立ち上がり時間を短縮することが可能となり、塗布に要する時間をより短縮することができる。
【0055】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る塗布装置について説明する。
図10は、本発明の第3の実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す模式的な平面図である。図11(a)は、本発明の第3の実施形態に係る塗布装置に用いるローラの概略構成を示す模式的な断面図である。図12は、本発明の第3の実施形態に係る塗布装置の制御に係る機能構成を示す機能ブロック図である。
【0056】
本実施形態の塗布装置60Bは、図10、12に示すように、上記第1の実施形態の塗布装置60の塗布ローラ7A、7B、制御部14(図2、5参照)に代えて、ローラ対をなす塗布ローラ70A、70B(ローラ)、制御部14Bを備え、塗料供給部12A、12Bを削除したものである。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0057】
塗布ローラ70A(70B)は、図11(a)に示すように、塗布ローラ7A(7B)と同様な寸法の円板状とされ、板厚方向に離間して配置された2枚の円板が中心部で板厚方向に貫通する管状部材で接合されたケーシング部70bと、ケーシング部70bを外周方向から覆う円環状の多孔質部70aとからなる。
多孔質部70aの外周面は、レンズ本体1のレンズ縁面1cと当接するローラ面7aを構成している。
ケーシング部70bの材質は、反発性材料からなる必要はなく、塗料20が透過しない材質であれば、特に限定されない。例えば、適宜の金属や合成樹脂などを採用することができる。
多孔質部70aの材質は、反発性材料であり、かつ塗料20が浸透、滲出可能な材料を採用する。例えば、連続気泡性を有するスポンジや、塗料20が浸透、滲出可能な樹脂膜などを採用することができる。
塗布ローラ70A、70Bの配置は、図10に示すように、上記第1の実施形態の塗布ローラ7A(7B)と同様の位置関係に配置される。
【0058】
このような構成により、塗布ローラ70A(70B)は、これらケーシング部70bと多孔質部70aとで囲まれた円環状の塗料充填空間が形成されている。また、特に図示しないが、ケーシング部70bの上部には、図示しない塗料供給孔が設けられ、塗料充填空間内に、塗料20を継ぎ足し可能に貯留することができるようになっている。
ケーシング部70bの中心部の管状部材は、その内径部において、回転軸8A(8B)に固定されている。
【0059】
制御部14Bは、上記第1の実施形態の制御部14から、塗料供給部12A、12Bを制御する機能を削除したものである。
【0060】
本実施形態の塗布装置60Bは、上記第1の実施形態と、塗料20をローラ面7aに供給する方法が異なっているだけである。
本実施形態の塗布ローラ70A(70B)によれば、塗料充填空間に塗料20を貯留することで、塗料20が、内部側から、毛細管現象によって多孔質部70aに浸透し、ローラ面7aから、径方向外側に塗料20が滲出できるようになっている。
このため、塗料20が塗料充填空間に貯留されている限り、ローラ面7aから連続的に塗料20を滲出させることができる。塗布ローラ70A、70Bが回転されると、遠心力によって、内部側の塗料20が多孔質部70aに移動するため、塗布ローラ70A、70Bの回転時に、特に安定して、ローラ面7aから塗料を滲出させることができる。塗料20の滲出量は、多孔質部70aの浸透特性などを調整しておくことで、回転時に一定の塗料が、ローラ面7aに滲出するようにしておく。
したがって、本実施形態では、塗布ローラ70A、70Bは、常時、各ローラ面7aに塗料20を供給可能な塗料供給部を兼ねている。
【0061】
本実施形態の塗布装置60Bの動作は、上記第1の実施形態の塗料供給部12A、12Bに対する制御を省略した他は、図6に示すフローに基づいて、上記第1の実施形態と同様に行うことができる。その詳細は、上記第1の実施形態の説明から容易に理解されるため、以下では、説明を省略する。
【0062】
塗布装置60Bによれば、ローラ対が塗料供給部を兼ねるので、簡素かつコンパクトな装置とすることができる。
【0063】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
図11(b)は、本発明の第3の実施形態の変形例に係る塗布装置に用いるローラの概略構成を示す模式的な断面図である。
【0064】
本変形例は、上記第3の実施形態の塗布装置60Bにおいて、塗布ローラ70A、70Bに代えて、塗布ローラ71A、71B(ローラ)を備えたものである。
塗布ローラ71A(71B)は、図11(b)に示すように、塗布ローラ70A(70B)と同様の外形を有し、内部に塗料20を貯留可能が多孔質材料であって、反発性材料からなる多孔質ローラ71aと、多孔質ローラ71aを回転軸8A(8B)に固定する取付フランジ部71bとからなる。
多孔質ローラ71aには予め塗料20が浸透されており、ローラ面7aに常時塗料20が供給されている状態にある。また、特に図示しないが、多孔質ローラ71aの上下面は、塗料20の滲出を防止するシール材が設けられていてもよい。
本変形例によれば、多孔質ローラ71aに浸透された塗料20が、多孔質ローラ71aの毛細管現象、回転時の遠心力、押圧時の体積変化などによって、レンズ縁面1cに回転しつつ押圧された状態で、ローラ面7aから、レンズ縁面1cに塗料20を供給することができる。
本変形例では、塗料20が減少した場合、多孔質ローラ71aの内部に塗料20を補充するようにしてもよいし、使い切りとして新しい別の多孔質ローラ71aに交換してもよい。
【0065】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態に係る塗布装置について説明する。
図13は、本発明の第4の実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す模式的な平面図である。
【0066】
本実施形態の塗布装置60Cは、図13に示すように、上記第2の実施形態の塗布装置60Aの塗布ローラ7A、7B、制御部14に代えて、それぞれ、塗布ローラ72A、72B(ローラ)、制御部14C(図5参照)を備え、さらに、もう1組の塗布ローラ72A、72Bと、これらを支持するための回転軸8A、8Bと、これら回転軸8A、8Bをそれぞれ回転させる2つの伝動機構11、モータ10A、10Bとを備える。
以下、上記第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0067】
各塗布ローラ72A、72Bは、それぞれ塗布ローラ7A、7Bと同材質であり、外径のみがより小径の半径r(ただし、r<R)のローラからなる。
そして、図13に示すように、それぞれ搬送機構4の搬送経路を挟んで、搬送方向Tに直交する方向に対向されて、それぞれローラ対を構成している。そして、これら2組のローラ対は、つり合い挟持位置の中心Qを通り搬送方向Tに直交する直線Sを対称軸として、搬送方向Tに沿う方向に対称に配置されている。
各塗布ローラ72A、72Bの各ローラ面7aは、直径d(ただし、d<D)の円に外接する位置に配置され、各塗布ローラ72A、72Bの直線Sに沿う方向の対向距離はd(ただし、d<d)である。直径dは、上記第2の実施形態の距離dと略同じ寸法とする。また、各ローラの半径rは、レンズ本体1の半径(D/2)に比べて小さい寸法とし、距離d、dの差がなるべく小さくなるように設定することが好ましい。
【0068】
塗布ローラ72A、72Bの断面方向の構成は、例えば、図13におけるE−E断面が、図8に示すような断面となる。すなわち、上記第2の実施形態において、塗布ローラ7A、7Bが塗布ローラ72A、72Bに代えられ、それに応じて、水平方向の位置関係が変わっている。
一方、直線Sを挟んで対向するローラ対の断面は、特に図示しないが、図8において、塗料供給部12A、12Bを削除したものとなっている。
【0069】
制御部14Cは、図5に示すように、制御部14Aと同様の構成を有しているが、制御対象のモータ10A、10Bがそれぞれ2つである点が異なる。ただし、本実施形態では、モータ10A、10Bに対して、それぞれ上記第2の実施形態と同様の制御を行うようにしている。
【0070】
このように、塗布装置60Cは、対向する駆動ローラからなるローラ対を複数備えた場合の例になっている。
【0071】
次に、塗布装置60Cを用いた塗布方法について、塗布装置60Cの動作とともに説明する。
図14(a)は、本発明の第4の実施形態に係る塗布装置の塗料塗布時の様子を示す模式的な平面図である。図14(b)は、本発明の第4の実施形態に係る塗布装置の塗料塗布終了後の様子を示す模式的な平面図である。
【0072】
塗布装置60Cを用いた塗布方法は、上記第2の実施形態と同様に、図6に示すフローに基づいて行われる。
ただし、ステップS2では、レンズ縁面1cが、搬送方向上流側のローラ対である塗布ローラ72A、72Bとの距離dの隙間を通過して、点Qで表されるつり合い挟持位置に移動し、このつり合い挟持位置で、レンズ縁面1cが、2組の塗布ローラ72A、72Bと4箇所で当接され、それぞれから、レンズ縁面1cの中心軸Lに向かう押圧力を受ける点が異なる。これらの押圧力は、つり合い挟持位置では、つり合い状態にあり、レンズ本体1は、点Qに調芯された状態で挟持される。
また、ステップS3、S4、S5における具体的な動作は、以下のようになる。
【0073】
本実施形態のステップS3では、制御部14Cは、塗料供給部12A、12Bに対して、塗料20の供給を開始する制御信号を送出するとともに、2組のモータ10A、10Bを回転制御する。
2つのモータ10Aに対して、塗布ローラ72Aが、レンズ本体1との当接部で、搬送方向Tと反対側に駆動力を作用させる方向に、モータ10Aを回転させる制御信号を送出する。また、2つのモータ10Bに対して、モータ10Aと同方向に同速度で回転させる制御信号を送出する。
これらの結果、図14(a)に示すように、各塗布ローラ72A、72Bが、それぞれ図14(a)の図示反時計回りに回転される。そして、搬送方向上流側の塗布ローラ72A、72Bの各ローラ面7aに順次塗料20が供給されていく。
そして、レンズ本体1との当接部では、2組の塗布ローラ72A、72Bからの駆動力が偶力となってレンズ縁面1cに作用するため、レンズ本体1がレンズ縁面1cの中心軸Lを中心に、図示時計回りに回転を開始する。
このため、搬送方向上流側の塗布ローラ72A、72Bの各ローラ面7a上の塗料20は、レンズ縁面1c上に順次転写され、搬送方向下流側の塗布ローラ72A、72Bによって押圧され、塗布厚が均されていく。このとき、過剰な塗料20は、塗布ローラ72A、72Bに付着していく。
ここで、レンズ本体1は、保持面5a上では載置されているだけなので、回転中も、押圧力のバランスを保つように調芯される。
【0074】
このように、レンズ本体1は、搬送方向上流側の塗布ローラ72A、72B上の塗料20が、当接部に到達してから、半回転以上回転すると、レンズ縁面1cの全周に、塗料20が塗布される。2組の塗布ローラ72A、72Bの当接部での押圧力は、均等なので、塗料20の供給量が等しくなるように塗料20の供給量および2組のモータ10A、10Bの回転速度を制御すれば、塗料20の塗布厚を略均一にすることができる。
塗布された塗料20は、順次乾燥していき、乾燥された塗料20によって、遮光膜層2が形成される。
【0075】
次に、本実施形態のステップS4では、制御部14Cから2つのモータ10Aに回転方向を逆方向に切り替える制御信号を送出して、図14(b)に示すように、塗布ローラ72Aを図示の時計回りに回転させる。
本実施形態のステップS5では、制御部14Cは、搬送機構4を搬送方向Tに駆動する制御信号を送出する。このとき、ステップS4の結果、塗布ローラ72A、72Bの当接部で、レンズ縁面1cに対して各塗布ローラ72A、72Bからそれぞれ搬送方向Tの駆動力が作用し、レンズ本体1が、搬送方向T側に付勢される。そして、まず搬送方向上流側のローラ対から離脱し、つり合い挟持位置から退避される。
次に、搬送方向下流側のローラ対によって、搬送方向T側に付勢され、搬送方向下流側の塗布ローラ72A、72Bの間の距離dの隙間を通過して、搬送方向下流側に搬送される。
【0076】
塗布装置60Cによれば、このように、2組のローラ対を用いて、レンズ本体1をつり合い挟持位置に挟持するため、塗料20の塗布時に、挟持状態をより安定させることができる。
また、本実施形態では、塗布ローラ72A、72Bは、レンズ本体1に比べて小径とすることが好ましいので、レンズ本体1が比較的大径であっても、コンパクトな構成の装置構成とすることができる。
【0077】
なお、上記の説明では、塗布装置のローラ対が、1組または2組の場合の例で説明したが、ローラ対は、3組以上の複数であってもよい。
【0078】
また、上記の説明では、光学素子保持台が、保持台5のように保持面5aを有する場合の例で説明したが、光学素子を回転可能に保持できれば、複数の突起部などで、点状、線状の保持部を形成してもよい。
また、光学素子保持台は、調芯に支障がない形態であれば、光学素子を固定保持して光学素子とともに回転可能なものであってもよい。例えば、鉛直軸回りに回転可能かつ水平方向に移動可能な保持台に、光学素子をエア吸着などによって固定保持するといった機構でもよい。
【0079】
上記の説明では、レンズ本体1の位置を、搬送機構4の移動位置を取得して保持台5の位置から算出するとして説明したが、搬送機構4に沿って、レンズ本体1の位置を検出する位置センサを設け、この位置センサの出力によって、搬送機構4を制御できるようにしてもよい。位置センサとしては、光学式、機械式等の適宜の位置センサを採用することができる。
【0080】
また、上記の第2の実施形態の変形例では、ローラ対の両方に凹部を有する場合の例で説明したが、凹部の位置を制御できる駆動ローラであれば、一方の駆動ローラのみに設けた構成としてもよい。この場合、凹部をまったく有しない場合に比べて、良好に挟持することができる。
また、第1の実施形態の駆動ローラのローラ面に凹部を設けた構成としてもよい。
【0081】
また、上記の第2、第4の実施形態のように、ローラ対が2本の駆動ローラからなる場合では、例えば、上記第2の実施形態のステップS4で、塗布ローラ7Bの回転方向を逆方向に切り替え、ステップS5で、搬送機構4を搬送方向Tと反対側に駆動すれば、塗料の塗布が終了したレンズ本体1を搬送方向の上流側に戻すこともできる。
【0082】
また、上記の説明では、塗料供給部を複数備える場合の例で説明した。この場合には、互いに対向するローラ対にそれぞれ塗料を供給することで、塗布時間の短縮を図ることができる。ただし、塗料供給部は、少なくとも1つのローラに塗料を供給できれば、光学素子に塗布を行うことができるので、一方の塗料供給部は省略してもよい。
【0083】
また、上記の説明では、塗布厚が薄いため、塗料20が塗布中に乾燥するものとして説明したが、塗布中に完全には乾燥しない塗料を用い、塗布とつり合い挟持位置から退避した位置で、乾燥させる工程を設けてもよい。
【0084】
また、上記の各実施形態、各変形例に説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
例えば、第3の実施形態の塗料供給部を兼ねるローラは、第4の実施形態の塗布装置に用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る塗布装置で塗料が塗布された光学素子の一例を示す平面図およびそのA−A断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す模式的な平面図である。
【図3】図2におけるB−B断面図である。
【図4】図2におけるC−C断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る塗布装置の制御に係る機能構成を示す機能ブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る塗布装置の動作を説明するフローチャートである。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る塗布装置の塗料塗布時の様子を示す模式的な平面図、および塗料塗布終了後の様子を示す模式的な平面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す図2におけるC−C断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の変形例に係る塗布装置の概略構成を示す模式的な部分平面図、および同塗布装置によって光学素子をつり合い挟持位置に挟持した状態を示す模式的な部分平面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す模式的な平面図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る塗布装置に用いるローラの概略構成を示す模式的な断面図、およびその変形例に係る塗布装置に用いるローラの概略構成を示す模式的な断面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る塗布装置の制御に係る機能構成を示す機能ブロック図である。
【図13】本発明の第4の実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す模式的な平面図である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る塗布装置の塗料塗布時の様子を示す模式的な平面図、および塗料塗布終了後の様子を示す模式的な平面図である。
【符号の説明】
【0086】
1 レンズ本体(光学素子)
1b レンズ面
1c レンズ縁面(被塗布面)
2 遮光膜層
4 搬送機構
4a 上面
5 保持台
5a 保持面
7A、7B、17A、17B、70A、70B、71A、71B、72A、72B 塗布ローラ(ローラ)
7a ローラ面
10、10A、10B モータ(回転駆動部)
12A、12B 塗料供給部
12a 塗料供給口
14、14A、14B、14C 制御部
17a 凹部
20 塗料
50 レンズ
60、60A、60B、60C 塗布装置
70A、 塗布ローラ
70a 多孔質部
71a 多孔質ローラ
中心軸(被塗布面の中心軸)
T 搬送方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に塗料を塗布するための塗布方法であって、
前記光学素子を、前記被塗布面の周方向に回転可能に保持し、
前記被塗布面の中心軸に平行な軸回りの2方向に回転可能に設けられた、少なくとも1組のローラ対によって、前記光学素子の前記被塗布面を該被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に挟持し、
前記少なくとも1組のローラ対の、少なくともいずれか1つのローラのローラ面に前記塗料を供給しつつ、
前記ローラ対の各ローラを同方向に回転させることで、前記光学素子を前記被塗布面の中心軸回りに回転させて、前記ローラ面上の塗料を前記光学素子の前記被塗布面に塗布し、
その後、前記ローラ対の互いに対向するローラを逆方向に回転させて、前記光学素子を前記ローラ対によって挟持された位置から退避させることを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に塗料を塗布するための塗布装置であって、
前記光学素子を、前記被塗布面の周方向に回転可能に保持する光学素子保持台と、
該光学素子保持台に保持された前記光学素子の前記被塗布面の軸方向に直交する方向に沿って、前記光学素子保持台を搬送する搬送機構と、
該搬送機構の搬送経路を挟んで互いに対向する位置に、それぞれ、前記光学素子保持台に保持された前記光学素子の前記被塗布面を該被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に挟持可能、かつ前記被塗布面の中心軸に平行な軸回りの2方向に回転可能に設けられた駆動ローラと従動ローラとを有する少なくとも1組のローラ対と、
前記駆動ローラを回転させる回転駆動部と、
前記駆動ローラおよび前記従動ローラのうちの、少なくとも1つのローラのローラ面に前記塗料を供給する塗料供給部と、
前記搬送機構を制御して、前記ローラ対からの押圧力がつり合った状態で前記光学素子が挟持されるつり合い挟持位置に対する前記光学素子保持台の進退動作を行うとともに、前記搬送機構の進退動作に同期して前記回転駆動部の回転方向を制御することで、前記つり合い挟持位置における挟持時に前記駆動ローラを一定方向に回転させて前記光学素子を前記被塗布面の中心軸回りに回転させ、前記つり合い挟持位置からの退避時に前記駆動ローラを前記一定方向とは逆方向に回転させる制御部とを備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
円筒面状の被塗布面を外周部に有する光学素子に塗料を塗布するための塗布装置であって、
前記光学素子を、前記被塗布面の周方向に回転可能に保持する光学素子保持台と、
該光学素子保持台に保持された前記光学素子の前記被塗布面の軸方向に直交する方向に沿って、前記光学素子保持台を搬送する搬送機構と、
該搬送機構の搬送経路を挟んで互いに対向する位置に、それぞれ、前記光学素子保持台に保持された前記光学素子の前記被塗布面を該被塗布面の中心軸に向かって弾性押圧状態に挟持可能、かつ前記被塗布面の中心軸に平行な軸回りの2方向に回転可能に設けられた2本の駆動ローラを有する少なくとも1組のローラ対と、
前記各駆動ローラを回転させる回転駆動部と、
前記駆動ローラのうちの、少なくとも1つのローラのローラ面に前記塗料を供給する塗料供給部と、
前記搬送機構を制御して、前記ローラ対からの押圧力がつり合った状態で前記光学素子が挟持されるつり合い挟持位置に対する前記光学素子保持台の進退動作を行うとともに、前記搬送機構の進退動作に同期して前記回転駆動部の回転方向を制御することで、前記つり合い挟持位置における挟持時に前記各駆動ローラを一定方向に回転させて前記光学素子を前記被塗布面の中心軸回りに回転させ、前記つり合い挟持位置からの退避時に前記ローラ対をなす2つの駆動ローラを互いに逆方向に回転させる制御部とを備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
前記塗料供給部は、前記ローラ面に対して、径方向外側から前記塗料を供給するものであることを特徴とする請求項2または3に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記ローラ面に前記塗料が供給されるローラは、少なくとも前記ローラ面が多孔質材料で形成され、ローラ内部には前記塗料が前記多孔質材料から滲出可能に貯留され、これにより前記塗料供給部を兼ねることを特徴とする請求項2または3に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記光学素子保持台は、前記光学素子の回転時に、該光学素子の光学面をすべり支持するすべり保持部を備えることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の塗布装置。
【請求項7】
前記ローラ対は、1組からなり、
前記光学素子は、前記ローラ対の各ローラの回転中心を結ぶ直線上に挟持されることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の塗布装置。
【請求項8】
前記ローラ対の前記駆動ローラは、ローラ面に、軸方向に貫通する凹部が設けられ、
前記制御部は、前記光学素子保持台を前記つり合い挟持位置に移動する際、前記駆動ローラの凹部が前記光学素子に当接するように、前記駆動ローラの回転位置を制御することを特徴とする請求項7に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−131508(P2010−131508A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309004(P2008−309004)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】