説明

塗布装置及び方法並びに前記塗布装置に装着されるチップ

【課題】塗布パターン幅を拡張させて前記塗布パターンの面積を従来と比較して増大させることにより、塗布時間を短縮することにある。
【解決手段】ガン本体12の内部に設けられた第1連通路42a及び第2連通路42bを介して塗布材料がそれぞれ送給され、ノズル20をそれぞれ有する第1チップ22及び第2チップ24を備え、前記第1チップ22及び第2チップ24は、前記ガン本体12の側面に相互に直交して設けられると共に、塗布材料が吐出されるノズル孔48の軸線Aに対して前記エア吐出孔44の軸線Bが約30度だけ傾斜するように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内装材、例えば、インストルメンタルパネル等の表面を覆う表皮材を成形するために、成形型の成形面に対しノズルによって塗布材料を塗布して硬化させる塗布装置及び方法並びに前記塗布装置に装着されるチップに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、インストルメントパネル等の表面を覆う表皮材の成形方法として、成形型の成形面に液状樹脂材料をノズルによって塗布し、これを硬化せしめる方法が開示されている。
【0003】
この特許文献1では、ロボットハンドの先端部に塗布ガンを付設し、前記塗布ガンに設けられたノズルによって成形型の成形面に対して前記液状樹脂材料をスプレー塗布する方法が記載されている。なお、前記液状樹脂材料が塗布された後、直ちに化学反応が開始されて硬化し表皮材が形成される。
【0004】
この場合、特許文献1では、単一のノズルを成形型の成形面に対して往復動作させる際、前記ノズルからの液状樹脂材料の吹き付け方向を該ノズルの移動方向を基準として斜め後方に設定することにより、ノズルの汚れが抑制されると共に、均一な厚さを有する表皮材が成形されるとしている。
【0005】
【特許文献1】特許第3830359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、塗布ガンに設けられた単一のノズルによって成形面に対して塗布材料を塗布する場合、成形面の形状が複雑で且つ狭小な部位に対して前記塗布材料を塗布するために、従来では、複数種類の中からその形状に対応した塗布ガンを適宜選択して塗布している。
【0007】
例えば、図11に示されるように、塗布部位の形状が徐々に幅狭となって閉塞するような袋状の部位1には、塗布ガンの軸と平行な直線方向(塗布ガンの変位方向と平行な方向)に沿ってのみ塗布材料が吐出される第1塗布ガン2を使用し、また、図12に示されるように、前記閉塞部位1に近接する下部側の幅広な部位3には、塗布ガンの軸線と直交する方向(塗布ガンの変位方向と直交する方向)に沿ってのみ塗布材料が吐出される第2塗布ガン4を使用している。
【0008】
このように、従来では、塗布部位の形状に対して吐出方向が異なる複数の塗布ガン2、4のいずれかを適宜選択し、且つ交換して塗布材料を塗布している。この結果、塗布方向が異なる複数種類の塗布ガンを準備しなければならず管理コストが高騰すると共に、その交換作業が煩雑であり且つ交換時間を要するという問題がある。
【0009】
また、従来では、塗布ガンによって塗布される塗布パターン幅が狭小であると共に、単一の方向に沿ってのみ塗布材料が吐出され、塗布ガンによって塗布される塗布パターンの面積が狭小なために、成形面に沿って前記塗布ガンを複数回往復動作させる必要があることから、多くの塗布時間を要するという問題がある。
【0010】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、複数の異なる方向に沿って同時に塗布材料を塗布すると共に、塗布パターン幅を拡張させて前記塗布パターンの面積を従来と比較して増大させることにより、塗布時間を短縮することが可能な塗布装置及び方法並びに前記塗布装置に装着されるチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、成形型の成形面に対しノズルによって塗布材料を塗布する塗布装置において、
本体と、
前記本体の内部に設けられた複数の連通路を介して塗布材料及び流体がそれぞれ送給され、前記ノズルをそれぞれ有する2以上の複数のチップと、
を備え、
前記チップには、前記ノズルに連通し塗布材料である樹脂材料が供給される樹脂用連通路と、前記ノズル側に向かって前記流体が吐出され、前記樹脂用連通路の中心軸に対して交差する中心軸を有する流体用連通路が設けられることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、ノズルに連通し塗布材料である樹脂材料が供給される樹脂用連通路の中心軸に対して交差する中心軸を有する流体用連通路(例えば、エア用連通路)をチップに設けることにより、前記エア用連通路から吐出されたエアの拡散作用によって樹脂用連通路から吐出された塗布材料が半径外方向に向かって徐々に拡散することにより塗布パターン幅が拡張され、この結果、塗布パターンの面積を増大させることができる。
【0013】
また、従来の塗布装置では塗布部位に対する塗布材料の吐出方向が単一の方向に限定されていたのに対し、本発明によれば、複数の連通路を介して送給された塗布材料を、複数のチップによって、例えば、異なる複数の方向に向かって同時に吐出することができる。従って、本発明では、成形型の成形面に対する塗布時間を大幅に短縮して塗布作業を効率的に遂行することができる。
【0014】
さらに、本発明では、前記本体を支持部に対して着脱自在に連結する連結機構を設けることにより、前記本体を支持部から取り外して連通路等を簡便に洗浄することができる。
【0015】
さらにまた、本発明では、前記複数のチップを、本体に形成された凹部に対して着脱自在に設けることにより、前記複数のチップを本体から取り外して、チップのノズル等を簡便に洗浄してノズル孔の目詰まりを好適に阻止することができる。なお、前記樹脂用連通路の中心軸と前記流体用連通路の中心軸との交差角度は、20度〜40度の範囲内に設定されるとよい。
【0016】
またさらに、本発明では、成形型の成形面における塗布部位の形状が徐々に幅狭となって閉塞する袋状の部位に対し、それぞれのノズルから塗布材料を吐出する方向が異なる複数のチップによって同時に塗布することにより、前記袋状の部位を好適に塗布することができる。
【0017】
またさらに、本発明では、成形型の成形面における塗布部位の形状が徐々に幅狭となって閉塞する袋状の部位に対し、ノズルから塗布材料を吐出する方向が異なる複数のチップのうち、直進方向に交差する方向に向かってのみ塗布するチップにより塗布材料を塗布した後、前記直進方向に向かってのみ塗布するチップにより塗布材料を塗布しつつ、或いはその塗布後に、本体を支持する支持部をその軸線中心に回転させ、次に直進方向に交差する方向に向かってのみ塗布するチップにより塗布材料を塗布し、これら複数のチップを選択し前記選択されたチップにより連続して塗布することにより、前記袋状の部位を好適に塗布することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、塗布パターン幅を拡張して塗布パターンの面積を従来と比較して増大させることにより、塗布時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る塗布装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0020】
図1において、参照符号10は、本発明の実施の形態に係る塗布装置を示す。この塗布装置10は、基本的に、円柱状に形成されたガン本体12と、前記ガン本体12をシャフト部14に対して着脱自在に連結する連結機構16と、前記ガン本体12の環状凹部18に対して着脱自在に連結され塗布材料が吐出されるノズル20を有する円盤状の第1チップ22及び第2チップ24とから構成される。
【0021】
なお、前記シャフト部14は、図示しない多関節ロボットのロボットアームの一端部に装着され、前記ロボットアームによって相互に直交するXYZの3軸方向に沿って変位自在に設けられる。前記ロボットアームは、前記ガン本体12の姿勢を変化させるために、前記シャフト部14の基端部を中心に揺動させる揺動軸と、前記シャフト部14の軸線中心に回転させる回転軸を、少なくとも備えるのが通常である。また、直交する3軸方向の移動軸、すなわちX軸、Y軸、Z軸に係る移動ユニットを備えた工作機械において、前記移動ユニットの前端に前記揺動軸と、回転軸を有するロボットアームを備え、前記ロボットアームの一端部に装着してもよい。塗布ガンとは、成形型の成形面に塗布材料を塗布して自動送りされるものであり、本実施の形態においては、基本的に、塗布したい方向を定めてガン本体12を向ける移動手段が含まれていない。
【0022】
前記連結機構16は、シャフト部14の一端部に連結されるロッド部26と、内周面に雌ねじ部28が設けられ前記ロッド部26の外周面を囲繞するロックリング30とを有する。前記ロッド部26及びシャフト部14の内部には、前記第1チップ22及び第2チップ24のノズル20にそれぞれ連通して液状の塗布材料を供給する第1通路32a及び第2通路32bと、前記第1チップ22及び第2チップ24のノズル20に対してそれぞれエアを送給する第1エア通路34a及び第2エア通路34bとが設けられる。
【0023】
この場合、前記第1通路32a及び第2通路32bは、図示しない第1切換機構を経由して塗布材料供給源(図示せず)に接続され、一方、第1エア通路34a及び第2エア通路34bは、図示しない第2切換機構を経由してエア供給源(図示せず)に接続される。
【0024】
なお、図示しない第1切換機構は、第1通路32a及び第2通路32bの両者に対して塗布材料を同時に供給する場合と、前記第1通路32a又は第2通路32bのいずれか一方に対して塗布材料を供給する場合(第1通路32aと第2通路32bとのいずれかを選択する場合をも含む)とが適宜選択されて切り換え可能に設けられる。また、図示しない第2切換機構は、第1エア通路34a及び第2エア通路34bの両者に対してエアを同時に送給する場合と、前記第1エア通路34a又は第2エア通路34bのいずれか一方に対してエアを送給する場合(第1エア通路34aと第2エア通路34bとのいずれかを選択する場合をも含む)が適宜選択されて切り換え可能に設けられる。
【0025】
前記ガン本体12の一側面には、前記ロッド部26が挿入される開口部36を有し外周面に前記ロックリング30の雌ねじ部28に螺合する雄ねじ部38が形成された円筒部40を有する。
【0026】
また、前記ガン本体12の内部には、前記ロッド部26の第1通路32aと第1チップ22のノズル20とを連通させ、前記第1チップ22のノズル20側に向かって塗布材料を供給する第1連通路42aと、前記ロッド部26の第2通路32bと第2チップ24のノズル20とを連通させ、前記第2チップ24のノズル20側に向かって塗布材料を供給する第2連通路42bとが設けられる。
【0027】
さらに、前記ガン本体12の内部には、前記ロッド部26の第1エア通路34aと第1チップ22のエア吐出孔44とを連通させ、前記第1チップ22のエア吐出孔44に向かってエアを送給する第1エア連通路46aと、前記ロッド部26の第2エア通路34bと第2チップ24のエア吐出孔44とを連通させ、前記第2チップ24のエア吐出孔44に向かってエアを送給する第2エア連通路46bとが設けられる。
【0028】
この場合、図3に示されるように、塗布材料が吐出されるノズル孔48の軸線Aに対して前記エア吐出孔44の軸線Bが約30度だけ傾斜するように設定されているため(傾斜角度θが約30°)、前記エア吐出孔44の軸線がノズル孔48の軸線と平行な場合と比較して、塗布パターンの幅を拡幅させて前記塗布パターンの面積を増大させることができる。
【0029】
すなわち、図8に示されるように、ガン本体100の軸線と直交する方向に向かってのみ塗布材料が吐出される比較例に係る垂直ガン102では、塗布材料が吐出されるノズル孔104の軸線Cとエア吐出孔106の軸線Dとがそれぞれ平行に配置されているため、塗布パターン幅が狭小となる。
【0030】
これに対し、図9に示されるように、本実施の形態では、ガン本体12の軸線と直交する方向に沿って延在し塗布材料が吐出されるノズル孔48の軸線Aと、エア吐出孔44の軸線Bとがそれぞれ約30度の交差角度をもって交差するように設定されている。換言すると、塗布材料が吐出されるノズル孔48の軸線Aに対して、その入射角度が30度だけ傾斜するようにエア吐出孔44が設けられているため、前記エア吐出孔44から吐出されたエアの拡散作用によってノズル孔48から吐出された塗布材料が半径外方向に向かって徐々に拡散することにより、塗布パターン幅が拡張される。なお、ガン本体12の軸線と直交する方向に沿って延在し塗布材料が吐出されるノズル孔48の軸線Aと、エア吐出孔44の軸線Bとの交差角度は、20度〜40度の範囲内で設定されるとよい。
【0031】
図3において、第1チップ22及び第2チップ24は、円盤状の外周面に形成された雄ねじ部50とガン本体12の環状凹部18の内周面に形成された雌ねじ部52とが螺合して取り外し可能に設けられる。前記第1チップ22及び第2チップ24とガン本体12の環状凹部18との間には保持部材54が介装される。
【0032】
なお、前記保持部材54とガン本体12との間にはシールリング56が設けられ、前記シールリング56によって第1エア連通孔46a及び第2エア連通孔46bの気密性が保持される。また、前記エア吐出孔44は、平面視した保持部材54の周方向に沿って等角度離間して、複数個配設されるとよい。
【0033】
この場合、第1チップ22のノズル孔48の軸線は、円柱状に形成されたガン本体12の軸線と略平行となるように配設され、ノズル20からガン本体12の軸線方向(シャフト部14の軸線方向)と略平行な水平方向に沿って塗布材料が吐出され、一方、第2チップ24のノズル孔48の軸線は、前記ガン本体12の軸線と略直交する方向に配設され、ノズル20からガン本体12の軸線方向(シャフト部14の軸線方向)と直交する鉛直下方向に向かって塗布材料が吐出される。
【0034】
第1チップ22の塗布範囲の角度を超えて、且つ第1チップ22及び第2チップ24のそれぞれから同時に吐出した場合、第1チップ22から吐出される塗布材料が半径外方向に向かって拡散され拡張された塗布パターンと、第2チップ24から吐出される塗布材料が、半径外方向に向かって拡散され拡張された塗布パターンとが、重なり合わない角度に前記第2チップ24のノズル孔48の軸線を設定することができる。前記第1チップ22から吐出される塗布材料が拡散され拡張された塗布パターンと、前記第2チップ24から吐出される塗布材料が拡散され拡張された塗布パターンとが、例えば、第1チップ22及び第2チップ24のそれぞれから同時に吐出した場合、塗布面(塗布パターン)が重なり合わないので、塗布材料を削減することができると共に、塗布パターンに凹凸ができなくて好都合である。従って、第2チップ24のノズル孔48は、第1チップ22のノズル孔48に略直交して配設するとよい。しかしながら、第1チップ22及び第2チップ24のそれぞれから同時に吐出した場合、それぞれの塗布パターンが重なり合った方がよいときには、第1チップ22の塗布範囲の角度を超えないで、且つ第1チップ22及び第2チップ24のそれぞれから同時に吐出した場合、第1チップ22から吐出される塗布材料が半径外方向に拡散され拡張された塗布パターンと、第2チップ24から吐出される塗布材料が半径外方向に向かって拡散され拡張された塗布パターンとが、重なり合う角度に、前記第2チップ24のノズル孔48の軸線を設定すればよい。
【0035】
本発明の実施の形態に係る塗布装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0036】
ここで、表皮材として、例えば、インストルメントパネル66を製造する工程を、図7A〜図7Eに基づいて概略説明する。
【0037】
先ず、図7Aに示されるように、成形型68の成形面70に離型剤を塗布する。前記離型剤としては、ワックス系、ソープ系のいずれでもよく、艶ムラをなくすために塗布後にウェスによる手拭きを行うことが好ましい。
【0038】
離型剤を塗布した後、図7Bに示されるように、シャフト部14の先端部に付設された本実施の形態に係る塗布装置10を用いて、インストルメントパネル66の最表面となるインモールドペイント(IMP)を均一に塗布する。このIMPは着色及び耐光性を目的として塗布される。続いて、図7Cに示されるように送風乾燥を行った後、図7Dに示されるように、図示しない塗布装置を用い、ウレタン樹脂材料が成形面70に均一に塗布された前記IMPの固化裏面に塗布される。
【0039】
前記ウレタン樹脂材料の塗布が終了した後、図7Eに示されるように、加熱(キュア)にて硬化を促進せしめた後、脱型してインストルメントパネル66が得られる。
【0040】
次に、本実施の形態に係る塗布装置10の作用効果について以下に詳細に説明する。
【0041】
シャフト部14及びロッド部26の第1通路32a及び第2通路32bを介して供給された液状の塗布材料は、ガン本体12の内部に形成された第1連通路42a及び第2連通路42bに導入される。前記第1連通路42aに導入された塗布材料は、第1チップ22のノズル孔48に沿って供給され、第1エア通路34aを介して供給されるエアの作用下に、前記第1チップ22のノズル20からガン本体12の軸線と平行な水平方向に沿って吐出される。一方、前記第2連通路42bに導入された塗布材料は、第2チップ24のノズル孔48に沿って供給され、第2エア通路34bを介して供給されるエアの作用下に、前記第2チップ24のノズル20からガン本体12の軸線と直交する鉛直下方向に向かって吐出される。
【0042】
従って、本実施の形態では、ガン本体12から相互に直交する2方向に向かって塗布材料が同時に吐出されて、成形型68の成形面70に対してスプレー塗布される。すなわち、図示しないロボットアームの変位作用下に、第1チップ22を介してガン本体12の直進方向に向かって塗布材料が塗布されると共に、第2チップ24を介してガン本体12の軸線方向と直交する方向に向かって塗布材料がそれぞれ同時に塗布される。
【0043】
従来の塗布ガンでは塗布部位に対して塗布材料の吐出方向が単一の方向に限定されていたのに対し、本実施の形態では、相互に直交する複数の方向に向かって同時に塗布材料を吐出することができる(図4参照)。
【0044】
従って、本実施の形態では、成形型68の成形面70に対する塗布時間を大幅に短縮して塗布作業を効率的に遂行することができる。なお、本実施の形態では、第1チップ22及び第2チップ24を用いて2方向に塗布材料が吐出されることで説明しているが、塗布材料の吐出方向は前記2方向に限定されるものではなく、複数個のチップを相互に直交する方向に配置することにより、2方向以上の複数の方向に対して塗布材料を吐出することができる。さらに、本実施の形態では、複数個のチップを相互に直交する方向に配置することで説明しているが、これに限定されるものではなく、複数個のチップ(チップの軸線)がお互いに交差している方向で配置されていればよい。
【0045】
ここで、本実施の形態に係る塗布装置10と図8に示される比較例に係る垂直ガン102とを用いて、成形面に対してそれぞれ塗布した場合の実験結果を図10に示す。なお、前記実験では、塗布材料の吐出量を30g/min、吐出速度を300mm/sec、塗布距離を30mmに設定した。
【0046】
図10中において、実線で示される特性曲線Eは、本実施の形態に係る塗布装置10を用いて相互に直交する2方向に同時に塗布した場合における変位位置と膜厚との関係を示したものであり、破線で示される特性曲線Fは、前記比較例に係る垂直ガン102によって塗布した場合を示したものである。
【0047】
比較例に係る垂直ガン102では、塗布パターン幅10(mm)で膜厚が8(μm)であったのに対し、本実施の形態では、塗布パターン幅25(mm)で膜厚が20(μm)となる結果が得られた。このような実験結果から、本実施の形態では、塗布パターン幅が拡張して塗布パターンの面積が増大していると共に、塗布された膜厚が所定の基準値(20μm)を超えた膜厚が形成されていることがわかった。この結果、本実施の形態では、ワークに対する塗布品質を向上させることにより、塗布回数を従来と比較して減少させることができた。
【0048】
また、本実施の形態では、連結機構16を介してガン本体12が図示しないロボットアームの一端部に装着されるシャフト部14のロッド部26から取り外し可能に設けられているため、取り外したガン本体12の塗布材料が流通する第1連通路42a及び第2連通路42bを簡便に洗浄することができる。従って、塗布材料が流通する流路の途中から分解することができるため、前記流路中の任意の箇所が詰まった場合であっても、簡便に取り除くことができる。この結果、本実施の形態では、塗布成形を連続して遂行した場合であっても、ノズル20等の詰まりが阻止されて安定した塗布パターン幅を得ることができる。
【0049】
さらに、本実施の形態では、ノズル20を有する第1チップ22及び第2チップ24自体を、ねじ嵌合されているガン本体12の環状凹部18から取り外して簡便に洗浄することができる。
【0050】
さらにまた、本実施の形態では、図示しない切換機構(例えば、切換弁)の切換作用下に、第1チップ22を介して直進方向に向かってのみ塗布材料を吐出する場合(図5参照)と、第2チップ24を介して鉛直下方向に向かってのみ塗布材料を吐出する場合(図6参照)とを適宜選択して使用することができる。
【0051】
例えば、第2チップ24を介して鉛直下方向に向かってのみ塗布材料を塗布する場合、シャフト部14を図示しないロボットアームによって図6の紙面垂直方向に向かって複数回往復移動させた後、第1チップ22を介して直進方向に向かってのみ塗布材料を吐出し、シャフト部14を図示しないロボットアームによって図5の紙面垂直方向に向かって複数回往復移動させて塗布することが考えられる。しかしながら、このような塗布方法であると、図5の紙面垂直方向に向かって複数回往復移動させて塗布する時間に隣り合う往経路復経路において粘度差が発生し、成形型の成形面における塗布部位の形状が徐々に幅狭となって閉塞する袋状の頂部を形成する際に不都合が生じる場合がある。
【0052】
そこで、本実施の形態では、前記成形型の成形面における塗布部位の形状が徐々に幅狭となって閉塞する袋状の部位に対し、ノズルから塗布材料を塗布する方向が異なる複数のチップのうち、直進方向に交差する方向に向かってのみ塗布するチップにより塗布材料を塗布(図6参照)した後、直進方向に向かってのみ塗布するチップにより塗布材料を塗布しつつ、或いはその塗布後に、ガン本体12を支持するシャフト部14(支持部)をその軸線中心に回転させ、次に直進方向に交差する方向に向かってのみ塗布するチップにより塗布材料を塗布(図6参照)しつつ、これら複数のチップを選択してこれらチップにより連続して塗布することにより、成形型の成形面における塗布部位の形状が徐々に幅狭となって閉塞する袋状の頂部を形成するときに粘度差が発生することがなく、成形型の成形面における塗布部位の形状が徐々に幅狭となって閉塞する袋状部位に対し、連続して塗布することができるため前記のような不都合をなくすことができる。このように本実施の形態では、塗布方法の自由度をより一層向上させることができる。
【0053】
またさらに、本実施の形態では、成形型の成形面における塗布部位の形状が徐々に幅狭となって閉塞する袋状の部位に対し、それぞれのノズル20から塗布材料を吐出する方向が相互に直交する第1チップ22及び第2チップ24によって同時に塗布することにより、前記袋状の部位を好適に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態に係る塗布装置の概略構成縦断面図である。
【図2】図1の塗布装置において、シャフト部の円筒部からガン本体を取り外した状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の塗布装置において、ガン本体の環状凹部から第1チップ及び第2チップを取り外した状態を示す縦断面図である。
【図4】図1の塗布装置において、相互に直交する2方向に配置された第1チップ及び第2チップから同時に塗布材料を吐出した状態を示す縦断面図である。
【図5】図1の塗布装置において、前記第1チップのみから塗布材料を吐出した状態を示す縦断面図である。
【図6】図1の塗布装置において、前記第2チップのみから塗布材料を吐出した状態を示す縦断面図である。
【図7】図7A〜図7Eは、表皮材として、インストルメントパネルを製造する工程を示す説明図である。
【図8】比較例に係る垂直ガンの塗布パターン幅を示す縦断面図である。
【図9】図1の塗布装置の塗布パターン幅を示す一部省略縦断面図である。
【図10】図8に示す比較例に係る垂直ガンと、図1に示す本実施の形態に係る塗布装置とにおける膜厚と変位位置との関係を示す特性図である。
【図11】従来技術において、塗布ガンの軸と平行な直線方向に沿ってのみ塗布材料が吐出される第1塗布ガンによって塗布された状態を示す説明図である。
【図12】従来技術において、塗布ガンの軸線と直交する方向に沿ってのみ塗布材料が吐出される第2塗布ガンによって塗布された状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
10…塗布装置 12…ガン本体
14…シャフト部 16…連結機構
20…ノズル 22、24…チップ
26…ロッド部 30…ロックリング
32a、32b…通路 34a、34b…エア通路
36…開口部 40…円筒部
42a、42b…連通路 44…エア吐出孔
46a、46b…エア連通路 48…ノズル孔
54…保持部材 56…シールリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型の成形面に対しノズルによって塗布材料を塗布する塗布装置において、
本体と、
前記本体の内部に設けられた複数の連通路を介して塗布材料及び流体がそれぞれ送給され、前記ノズルをそれぞれ有する2以上の複数のチップと、
を備え、
前記チップには、前記ノズルに連通し塗布材料である樹脂材料が供給される樹脂用連通路と、前記ノズル側に向かって前記流体が吐出され、前記樹脂用連通路の中心軸に対して交差する中心軸を有する流体用連通路が設けられることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記本体を支持する支持部に対して該本体を着脱自在に連結する連結機構が設けられることを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記複数のチップは、本体に形成された凹部に対して着脱自在に設けられることを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記樹脂用連通路の中心軸と前記流体用連通路の中心軸との交差角度は、20度〜40度の範囲内に設定されることを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
成形型の成形面に対しノズルによって塗布材料を塗布する塗布装置に装着されるチップであって、
前記チップには、前記ノズルに連通し塗布材料である樹脂材料が供給される樹脂用連通路と、前記ノズル側に向かって前記流体が吐出され、前記樹脂用連通路の中心軸に対して交差する中心軸を有する流体用連通路とが設けられることを特徴とする塗布装置に装着されるチップ。
【請求項6】
成形型の成形面に対しノズルによって塗布材料を塗布する塗布方法であって、
前記成形型の成形面における塗布部位の形状が徐々に幅狭となって閉塞する袋状の部位に対し、それぞれのノズルから塗布材料を吐出する方向が異なる複数のチップによって同時に塗布することを特徴とする塗布方法。
【請求項7】
成形型の成形面に対しノズルによって塗布材料を塗布する塗布方法であって、
前記成形型の成形面における塗布部位の形状が徐々に幅狭となって閉塞する袋状の部位に対し、ノズルから塗布材料を吐出する方向が異なる複数のチップのうち、直進方向に交差する方向に向かってのみ塗布するチップにより塗布材料を塗布した後、
前記直進方向に向かってのみ塗布するチップにより塗布材料を塗布しつつ、或いはその塗布後に、本体を支持する支持部をその軸線中心に回転させ、次に直進方向に交差する方向に向かってのみ塗布するチップにより塗布材料を塗布し、これら複数のチップを選択し前記選択されたチップにより連続して塗布することを特徴とする塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−168179(P2008−168179A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1346(P2007−1346)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】