説明

塗布装置用スロットダイ、塗布装置、及び、塗布システム

【課題】バックアップロールに基材を巻き掛けることなく、吐出部から吐出される塗布液を基材に塗布することができる塗布装置用スロットダイを提供すること。
【解決手段】長手方向に移動する帯状の基材1に対して間隙を空けた状態で近接して配置される吐出部40を備え、吐出部40よりも基材移動方向に関して上手側で基材1を支持する上手側支持手段と、吐出部40よりも基材移動方向に関して下手側で基材1を支持する下手側支持手段との間に配置され、吐出部40から吐出される塗布液を基材1の塗布面に塗布する塗布装置用スロットダイSD2であって、基材幅方向に沿う横軸心Y2周りに回転自在で当該横軸心方向視にて外周面が円形状に形成され、且つ、吐出部40に基材移動方向で上手側に近接する箇所において、外周面が塗布面に接触する状態で基材1を支持する回転支持体50が設けられている塗布装置用スロットダイSD2。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長手方向に移動する帯状の基材に対して間隙を空けた状態で近接して配置される吐出部を備え、前記吐出部よりも基材移動方向に関して上手側で基材を支持する上手側支持手段と、前記吐出部よりも基材移動方向に関して下手側で基材を支持する下手側支持手段との間に配置され、前記吐出部から吐出される塗布液を基材の塗布面に塗布する塗布装置用スロットダイに関する。
【背景技術】
【0002】
上記塗布装置用スロットダイは、移動する基材に所望の膜厚で塗布液を塗布するものであり、例えば、基材としての帯状の金属シートに対して塗布液としての電極活物質溶液を所望の膜厚にて塗布する場合に用いられる。この塗布装置用スロットダイを用いて所望の膜厚の塗布液を塗布するためには、塗布装置用スロットダイが備える吐出部から吐出される塗布液が、基材と吐出部との間に位置する間隙において安定した液溜りを形成する必要がある。安定した液溜りを形成するためには、移動する基材の位置を安定させ、吐出部から安定して塗布液を吐出しなければならない。基材と吐出部との間に位置する間隙は、塗布しようとする塗布膜の膜厚が薄くなるほど狭くする必要があり、この間隙が狭くなるほど、基材の僅かな位置の変動も塗布状態に影響する。
そのため、従来では、移動する基材の位置を安定させた状態で吐出部から吐出される塗布液を塗布できるように、上手側支持手段と下手側支持手段との間に基材の一方の面を巻き掛けるバックアップロールを配置し、このバックアップロールに巻き掛けられた基材の他方の面を塗布面として塗布装置用スロットダイにより塗布液を塗布するようにしている。すなわち、移動する基材の位置がバックアップロールの外周面により規定されるため、移動する基材の位置を安定させた状態で吐出部から吐出される塗布液を基材の塗布面に塗布できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−92832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の塗布装置用スロットダイであると、基材に対して塗布液を塗布するためには、基材の塗布面の反対側の面をバックアップロールの外周面に巻き掛けなければならない。そのため、従来の塗布装置用スロットダイを用いて基材の両面に塗布膜を加工する場合は、まず、基材の一方側の面に塗布液を塗布した後、その塗布液を乾燥させ、その後、塗布加工済みの一方側の面をバックアップロールの外周面に巻き掛けて、基材の他方側の面に塗布液を塗布するといった手順で塗布膜を加工しなければならない。
このように、従来の塗布装置用スロットダイを用いると、基材をバックアップロールの外周面に巻き掛けなければならないために、基材の表面への塗布の後に塗布液を乾燥させた後しか裏面への塗布を行うことができず、基材の両面に塗布膜を加工する作業には長い時間を要していた。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みて為されたものであって、その目的は、バックアップロールに基材を巻き掛けることなく、吐出部から吐出される塗布液を基材に塗布することができる塗布装置用スロットダイを提供する点にある。
また、本発明の別の目的は、バックアップロールに基材を巻き掛けることなく、吐出部から吐出される塗布液を基材に塗布できる塗布装置用スロットダイを備えた塗布装置及び塗布システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明に係る塗布装置用スロットダイの第1特徴構成は、
長手方向に移動する帯状の基材に対して間隙を空けた状態で近接して配置される吐出部を備え、前記吐出部よりも基材移動方向に関して上手側で基材を支持する上手側支持手段と、前記吐出部よりも基材移動方向に関して下手側で基材を支持する下手側支持手段との間に配置され、前記吐出部から吐出される塗布液を基材の塗布面に塗布する塗布装置用スロットダイにおいて、
基材幅方向に沿う横軸心周りに回転自在で当該横軸心方向視にて外周面が円形状に形成され、且つ、前記吐出部に基材移動方向で上手側に近接する箇所において、前記外周面が前記塗布面に接触する状態で基材を支持する回転支持体が設けられている点にある。
【0007】
本特徴構成によれば、回転支持体が塗布装置用スロットダイに設けられて、この回転支持体が、吐出部に基材移動方向で上手側に近接する箇所において、基材の塗布面に接触する状態で基材を支持する。すなわち、基材を塗布面側から支持する。回転支持体は、基材幅方向に沿う横軸心周りに回転自在で当該横軸心方向視にて外周面が円形状に形成されているので、回転支持体は、基材の移動に伴って横軸心周りに回転する。そのため、回転支持体と基材との擦れを回避しながら、吐出部に近接する箇所において移動する基材を良好に支持することができる。
基材は、吐出部に基材移動方向で上手側に近接する箇所において回転支持体に支持されるため、基材における回転支持体の支持箇所から基材移動方向で吐出部に対応する箇所までの距離が短くなる。その結果、基材の移動に起因する基材の振動を防止して吐出部と基材との距離(間隙の大きさ)を安定させることができる。また、吐出部は回転支持体により支持される箇所に近接する箇所に塗布液を吐出することになるから、吐出部から吐出された塗布液が基材を押し移動させる圧力に抗して基材の位置を保持し易くなる。
したがって、吐出部に対応する箇所の基材の位置が安定することから基材と吐出部との間の塗布液の液溜りが安定して形成されるため、バックアップローラで塗布面の反対側の面を支持することなく基材の塗布面に対して所望の膜厚にて良好に塗布液を塗布することができる。
このように、本特徴構成によれば、バックアップロールに基材を巻き掛けることなく、吐出部から吐出される塗布液を基材に塗布することができる塗布装置用スロットダイを得るに至った。
【0008】
本発明に係る塗布装置用スロットダイの第2特徴構成は、前記吐出部が、基材幅方向に沿うスリット状の吐出口を備えて前記吐出口から塗布液を基材幅方向で均一に吐出するように構成され、前記回転支持体が、基材横幅方向に対応した長さの長尺状の単一のロール体にて構成され、前記回転支持体の軸心方向を調節自在な調節手段を備えて構成されている点にある。
【0009】
本特徴構成によれば、回転支持体は、基材横幅方向に対応した長さの長尺状の単一のロール体にて構成されているので、基材の横幅全体を連続的に支持できる。しかも、調節手段により回転支持体の軸心方向を調節することで、回転支持体の軸心方向をスリット状の吐出口との位置関係で本来あるべき基材幅方向に適切に一致させることができる。ここで、スリット状の吐出口は、基材の横幅方向に沿うように配置されているので、回転支持体による支持箇所からスリット状の吐出口までの距離は基材幅方向に関して一様に揃うことになる。したがって、スリット状の吐出口から塗布液を基材幅方向で均一に吐出することで、基材と吐出部との間において基材幅方向に関して同じ条件の下で液溜りを形成させることができ、塗布状態を基材幅方向で一様にすることができる。
このように、本特徴構成によれば、基材幅方向に関する液溜りの形成状態を一様に揃えることができるので、基材に対して塗布液を幅方向に関して一様に塗布できる。
【0010】
本発明に係る塗布装置用スロットダイの第3特徴構成は、前記回転支持体の軸心方向での中間箇所において前記回転支持体の前記外周面に当接して、前記回転支持体の横軸心と平行な横軸心周りに回転自在なガイドローラが設けられている点にある。
【0011】
吐出部に対応する箇所での基材の位置を安定させるためには、回転支持体を極力吐出部に近接させることが好ましいが、そのためには、回転支持体の外径を小さくして、吐出部との干渉を回避することが好ましい。しかしながら、回転支持体の外径を小さくすると、回転支持体の軸強度が低下し、回転支持体にて基材を支持する反作用により回転支持体の軸心が湾曲する傾向が増大する。
その点、本特徴構成によれば、回転支持体はその軸心方向の中間箇所をガイドローラにて支持されるので、回転支持体の外径を細くしても、ガイドローラにより軸強度が補われることで、回転支持体の回転軸が湾曲する事態を防止できる。したがって、回転支持体により基材を基材幅方向で一様に支持できる状態を維持しつつ、回転支持体の外径を細くして回転支持体を極力吐出部に近接させることができる。
【0012】
本発明に係る塗布装置用スロットダイの第4特徴構成は、前記吐出部を備えるスロットダイ本体における前記吐出部よりも基材移動方向で上手側に位置する部分に、基材幅方向に沿う凹入部が形成され、前記回転支持体が、横軸心方向視で、その一部分が前記凹入部に凹入した状態で配置されている点にある。
【0013】
本特徴構成によれば、回転支持体を、その一部分が凹入部に凹入した状態で配置することで、回転支持体とスロットダイ本体とを干渉させることなく、スロットダイ本体における吐出部に基材移動方向で上手側に極力近付けた状態で回転支持体を配置することができる。
【0014】
本発明に係る塗布装置用スロットダイの第5特徴構成は、前記回転支持体が、前記吐出部を備えるスロットダイ本体に一体的に取り付けられている点にある。
【0015】
本特徴構成によれば、回転支持体とスロットダイ本体とは一体として取り扱うことができるので、例えば、既存の塗布装置におけるスロットダイを本発明に係る塗布装置用スロットダイに交換する作業が行い易く、また、例えば、回転支持体とスロットダイ本体と配置関係を予め調整しておけば、回転支持体とスロットダイ本体とを一体的に位置調整等を行うことができる等、使い勝手がよいものとなる。
【0016】
本発明に係る塗布装置用スロットダイの第6特徴構成は、前記吐出部が、基材の移動方向に直交する方向よりも上手側に傾斜する斜め方向に向けて塗布液を吐出するように構成されている点にある。
【0017】
本特徴構成によれば、基材移動方向に直交する方向よりも上手側に傾斜する斜め方向に向けて塗布液を吐出することで、基材と吐出部との間隙のうち、スリット状の吐出口より基材移動方向で上手側に位置する部分に向けて塗布液が吐出され、当該部分で基材と吐出部との間に液溜りが形成される。これにより、移動する基材により塗布液の液溜りが基材移動方向で下手側に引き付けられた状態となっても、吐出口が露出し難くなるので、塗布膜に気泡が混入する塗布不良や、塗布膜が部分的にかすれる又は途切れる等の塗布不良の発生を防止できる。
【0018】
本発明に係る塗布装置の第1特徴構成は、本発明に係る塗布装置用スロットダイの第1〜第6特徴構成を備えた塗布面用塗布手段と、基材移動方向で当該塗布装置用スロットダイよりも上手側又は下手側の箇所で、基材の前記塗布面の反対側の面に塗布液を塗布する反対面用塗布手段を備えた点にある。
【0019】
本特徴構成によれば、塗布装置は、本発明に係る塗布装置用スロットダイの第1〜第6特徴構成を備えた塗布面用塗布手段を備えているので、バックアップロールに基材を巻き掛けることなく、吐出部から吐出される塗布液を基材に塗布することができる。したがって、塗布面用塗布手段にて塗布面に塗布液を塗布し、その塗布面用塗布手段における塗布装置用スロットダイよりも基材移動方向で上手側又は下手側の箇所において、反対面用塗布手段にて塗布面の反対側の面に塗布液を塗布できる。
このように、本特徴構成によると、基材の一方の面へ塗布液を塗布した後に、その塗布液を乾燥させずに、そのまま他方の面へ塗布液を塗布することができる塗布装置を得るに至った。
【0020】
本発明に係る塗布装置の第2特徴構成は、前記上手側支持手段が、基材横幅方向に沿う横軸心周りに回転自在な支持用ロール体にて構成され、前記下手側支持手段が、基材の前記塗布面とその反対側の面の夫々に対して気体を噴出して基材を非接触で支持する送風式支持手段にて構成されている点にある。
【0021】
本特徴構成によれば、支持用ロール体にて構成された上手側支持手段にて基材を支持することで、吐出部の上手側で基材を確実に支持できる。
基材の塗布面とその反対側の面の夫々に対して気体を噴出して基材を非接触で支持する送風式支持手段にて構成された下手側支持手段にて基材を支持することで、吐出部の下手側で基材の塗布面に塗布された不塗布液が乾燥していなくても基材を支持できる。
したがって、両面塗布が可能な塗布装置にて基材の両面に塗布液を塗布した場合に、塗布液が乾燥していない状態で基材を適切に支持することができる。
【0022】
本発明に係る塗布システムの特徴構成は、本発明に係る塗布装置用スロットダイの第1〜第6特徴構成又は本発明に係る塗布装置の第1又は第2特徴構成を備え、基材を繰り出す繰出手段、基材に塗布された塗布液を乾燥させる乾燥手段、及び、塗布液が乾燥した状態の基材を巻き取る巻取手段が設けられている点にある。
【0023】
本特徴構成によれば、繰出手段から繰り出された基材を、塗布面に塗布液を塗布するためにバックアップロールに巻き掛けることなく、吐出部から吐出される塗布液を基材の塗布面に塗布して、塗布された塗布液を乾燥手段にて乾燥させた後、その基材を巻取手段にて巻き取ることができる塗布システムを得ることができる。
また、塗布装置として本発明に係る塗布装置の第1又は第2特徴構成を備えたものを用いた場合は、基材の一方の面又は他方の面のいずれかを塗布面として、一方の面及び他方の面に塗布液を順次塗布した後、乾燥手段にて基材の両面をまとめて乾燥させることができる。したがって、各面毎に塗布液の塗布及び乾燥を行うシステムに比べ、基材の両面に塗布膜を加工する作業時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】塗布システムの全体側面図
【図2】平板状温風送風ユニットの(a)斜視図及び(b)側面図
【図3】塗布装置の全体側面図
【図4】裏面塗布手段の拡大側面図
【図5】第2スロットダイを取り外した状態の裏面塗布手段の拡大正面図
【図6】第2スロットダイの斜視図
【図7】第2スロットダイの分解斜視図
【図8】第2スロットダイにおけるロールユニットの分解斜視図
【図9】第2スロットダイの先端部の拡大縦断側面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る塗布システムSの全体側面図である。塗布システムSは、金属製で帯状のシート1(基材の一例)の両面に、塗布材を溶媒に溶かした流動性のある塗布液を膜状に塗布し、乾燥させる。塗布液は、シート1に対して、シート移動方向で一定間隔の隙間を空けた縞状になるように間欠的に塗布される。本実施形態では、シート1は、リチウムイオン電池などの二次電池の電極板となるアルミニウム箔や銅箔であり、塗布材は、コバルト酸リチウムなどの電極活物質やセラミックなどの多孔質絶縁膜である。
【0026】
図1に示すように、塗布システムSは、シート繰出装置A、塗布装置B、初期乾燥装置C、本乾燥装置D、及び、シート巻取装置Eがシート移動方向で上手側から順に並ぶ状態で直線状に配置されている。
【0027】
シート繰出装置Aは、塗布対象のシート1が巻き付けられた横軸心のシートロール2と複数のガイドロールを備えて構成されている。シートロール2の一端部には、シートロール2の回転駆動を制動する繰出ブレーキ装置3を備えている。繰出ブレーキ装置3は、塗布装置Bにより移動駆動されるシート1が設定テンションにて塗布装置Bに繰り出されるように、図外の制御手段により制動トルクがサーボ制御される。これにより、シート繰出装置Aは、シート1を繰り出す繰出手段として機能する。
【0028】
塗布装置Bは、設定移動速度にてシート1を移動させながら、シート1の表裏両面に塗布液を塗布する。塗布装置Bは、シート1の表裏両面のうち一方側塗布面(以下表面という。)に塗布液を塗布する表面塗布手段B1と、シート1の表裏両面のうち他方側塗布面(以下裏面という。)に塗布液を塗布する裏面塗布手段B2とを、シート移動方向で、表面塗布手段B1が裏面塗布手段B2よりも上手側において塗布作用する状態で配置されている。表面塗布手段B1は、バックアップロール4と第1スロットダイSD1とがシート1を挟んで対向配置されて構成された従来周知の塗布手段であり、本発明の反対面用塗布手段として機能する。裏面塗布手段B2は、詳しくは後述するが、本発明の塗布装置用スロットダイとしての第2スロットダイSD2を備えており、本発明の塗布面用塗布手段として機能する。つまり、塗布装置Bは、シート1の塗布面に塗布液を塗布する第2スロットダイSD2を備えた裏面塗布手段B2と、シート移動方向で第2スロットダイSD2よりも上手側の箇所で、シート1の塗布面の反対側の面に塗布液を塗布する反対面用塗布手段としての表面塗布手段B1とを備えており、シート1の両面に一挙に塗布液を塗布できる塗布装置となっている。
【0029】
初期乾燥装置Cは、シート1を通過させる間隙を形成する状態で上下に間隔を隔てて配置された一対の平板状送風ユニット5を備えて構成されている。上下一対の平板状送風ユニット5は、図2(a)に示すように、上側送風ユニット5U及び下側送風ユニット5Dからなり、それぞれが、多数の噴出孔6を互いに対向する面に備えている。そして、図2(b)に示すように、上側送風ユニット5Uの多数の噴出孔6からシート1の表面に向けて常温又は高温のエアーが噴出され、下側送風ユニット5Dの多数の噴出孔6からシート1の裏面に向けて常温又は高温のエアーが噴出されることで、上側送風ユニット5U及び下側送風ユニット5Dの間を移動するシート1を非接触で支持した状態で、シート1両面の塗布液を乾燥させる。なお、初期乾燥装置Cにおけるシート1の支持高さは、上側送風ユニット5U及び下側送風ユニット5Dのそれぞれの送風量を変更することで調節自在となっている。
このように、初期乾燥装置Cは、シート1の塗布面としての裏面とその反対側の面としての表面の夫々に対して気体を噴出してシート1を非接触で支持しており、送風式支持手段として機能する。
【0030】
本乾燥装置Dは、複数の非接触乾燥機7をシート移動方向沿って直線状に連続して並べて構成されている。各非接触乾燥機は、シート1の幅寸法よりも長い長尺状のノズル8を、その長手方向をシート1の横幅方向に沿う姿勢で、シート移動方向に間隔を隔ててかつ移動するシート1を挟んで上下に交互に配置して構成されている。
【0031】
シート1の表面側(図1において本乾燥装置Dが設置された部分ではシート1の上側)に配置される複数のノズル8は噴出される温風流路の上流側で互いに連通しており、共通の供給部から高温のエアーが供給され、各ノズル8からシート1の表面に向けて高温のエアーが噴出される。シート1の裏面側(図1において本乾燥装置Dが設置された部分ではシート1の下側)に配置される複数のノズル8も同様に、各ノズル8からシート1の裏面に向けて高温のエアーが噴出される。つまり、非接触乾燥機7では、移動するシート1の両面に対して高温エアーを噴出させることで、シート1を非接触で支持しながらシート1の両面の塗布液を乾燥させる。このようにして、本乾燥装置Dは、複数の非接触乾燥機7によりシート1の両面の塗布液を乾燥させることができるようになっている。
【0032】
このように、初期乾燥装置C及び本乾燥装置Dは、シート1に塗布された塗布液を乾燥させるので、乾燥手段として機能する。
【0033】
シート巻取装置Eは、横軸心のアウトフィード駆動ロール9と、アウトフィード駆動ロール9の外周面とシート1との間のすべりを防止するべくアウトフィード駆動ロール9にシート1を押し当てる横軸心のアウトフィードピンチロール10と、複数の横軸心のガイドロールと、塗布材が塗布されたシート1が巻き付けられる横軸心の巻付ロール11とを備えて構成されている。
【0034】
アウトフィード駆動ロール9は図外のアウトフィードモータにより回転駆動される。アウトフィードモータは、図外の制御手段が実行する回転速度制御及び回転トルク制御により、その回転速度及び回転トルクが制御される。回転速度制御は、アウトフィード用設定速度を目標値とするサーボ制御であり、回転トルク制御は、アウトフィード用設定トルクを目標値とするサーボ制御である。アウトフィード用設定速度は、塗布装置Bにおけるバックアップロール4を回転駆動するシート移動用モータの回転速度よりも設定比率だけ高速側で追従する形態で、シート移動用モータの回転速度に基づいて変更設定される。アウトフィード用設定トルクは、シート1の所望のテンションとアウトフィード駆動ロール9の回転半径等に基づいて設定される固定値である。
【0035】
これにより、塗布装置Bの表面塗布手段B1により塗布液が塗布される箇所からシート移動方向で下手側の部分におけるシート1のテンション及び移動速度がそれぞれ所望の大きさに維持されるようになっている。
【0036】
巻付ロール11は、巻付モータにより回転駆動されるが、この巻付モータの回転速度は、速度制御及びトルク制御されているアウトフィードモータにより回転駆動されるアウトフィード駆動ロール9が送り出すシート1の移動速度と、巻付ロール11に巻き付けられているシート1の外周部分の回転速度とが同期するように、アウトフィードモータの回転速度及び巻付ロールに巻き付けられているシート1の回転半径方向の厚み寸法に基づいて、サーボ制御される。
【0037】
このように、シート巻取装置Eは、塗布液が乾燥した状態のシート1を巻き取る巻取手段として機能している。
【0038】
塗布装置Bは、図3に示すように、シート幅方向の両外側に位置する一対の本体フレーム12の間に、表面塗布手段B1及び裏面塗布手段B2並びにバックアップロール4及び複数のガイドロール13を備えて構成されている。なお、図3は、塗布装置Bのシート幅方向の中間位置での縦断側面図であるため、一対の本体フレーム12の一方だけが図示されている。
【0039】
バックアップロール4に対してシート1を押し付けるためのニップロール14が設けられている。ニップロール14の両端部は、本体フレーム12の外側の側面に横軸心周りに揺動自在に取り付けられた一対の屈曲支持アーム15の一端部に回転自在に軸支されている。一対の屈曲支持アーム15のそれぞれの基端部には、揺動操作用のエアシリンダ16のロッドの先端部が連結されており、エアシリンダ16を出退作動させることで、ニップロール14をバックアップロール4に対して当接する当接位置とバックアップロール4から離間する離間位置とに位置切換自在となっている。
【0040】
シート1をバックアップロール4に巻き掛ける作業を行うときは、ニップロール14を離間位置して、ニップロール14とバックアップロール4との隙間にシート1を通すことになる。また、塗布システムSの運転時は、ニップロール14を当接位置にして、バックアップロール4に巻き掛けられているシート1をニップロール14にて押し付けた状態で、バックアップロール4を図外のシート移動用モータにより回転駆動することで、バックアップロール4とシート1とのすべりを防止できる。バックアップロール4は、シート移動用モータにより一定速度で回転駆動されるため、シート1も一定速度で移動する。
【0041】
表面塗布手段B1が備える第1スロットダイSD1は、位置調節用のエアシリンダ17及び回転操作ノブ18を備えた位置調節機構ADJにより図3の矢印aに示す方向に沿って移動自在に取り付けられている。これにより、バックアップロール4に対する第1スロットダイSD1の相対距離を調節して、バックアップロール4に巻き掛けられたシート1と第1スロットダイSD1の先端部との間隔を所望の値に調節できるようになっている。シート1と第1スロットダイSD1の先端部との間隔は、シート1の表面に塗布する塗布膜の膜厚、塗布液の粘性、シート1の移動速度、吐出される塗布液の塗布圧等に応じて適切な値が決定される。
【0042】
第1スロットダイSD1の位置調節機構ADJは、裏面塗布手段B2が備える第2スロットダイSD2を矢印bに示す方向に沿って移動可能とする位置調節機構ADJと同じ構成である。第1スロットダイSD1は、シート1に対する吐出角度が固定状態で取り付けられているのに対して、第2スロットダイSD2は、シート1に対する吐出角度が調節可能な状態で取り付けられている点で異なるが、両者の支持構造は基本的には同じであるため、第2スロットダイSD2の支持構造を代表して後に説明する。
【0043】
バックアップロール4のシート移動方向で下手側に配置されたガイドロール13aは、運転用位置(図3で実線で示す位置)とこれより上方に位置するメンテ用位置(図3で仮想線で示す位置)とに位置切換自在に設けられている、このガイドロール13aをメンテ用位置に位置させることで、第2スロットダイSD2とシート1とを離間させておくことができるので、第2スロットダイSD2を位置調節機構ADJにより矢印bに沿って後退させた場合に、第2スロットダイSD2とシート1との間隔が大きくなり、第2スロットダイSD2についてのメンテナンス作業を行い易い。
【0044】
図4にも示すように、第2スロットダイSD2は、長手方向に移動するシート1に対して間隙を空けた状態で近接して配置される吐出部40を備えている。シート1と吐出部40との間に形成される間隙の大きさ(シート1と吐出部40との間隔)は塗工しようとする塗布膜の膜厚に応じて好ましい大きさに設定される。第2スロットダイSD2は、吐出部40よりもシート移動方向に関して上手側でシート1を支持する上手側支持手段としてのガイドロール13aと、吐出部40よりもシート移動方向に関して下手側で基材を支持する下手側支持手段としての初期乾燥装置Cとの間に配置されて、吐出部40から吐出される塗布液をシート1の裏面に塗布する。そして、上手側支持手段が、シート横幅方向に沿う横軸心周りに回転自在な支持用ロール体としてのガイドロール13aにて構成され、下手側支持手段が、送風式支持手段としての初期乾燥装置Cにて構成されている。
【0045】
図3〜図5に示すように、表面塗布手段B2が備える第2スロットダイSD2は、矢印bに沿ってシート1に対して接近離間移動自在な取付プレート19にボルト固定されている。取付プレート19の両端部には、シート幅方向で間隔を隔てて配置された一対の位置調節機構ADJが連結されている。図5は、第2スロットダイSD2を取り外した状態で取付プレート19の取付面に垂直な方向から見た場合の取付プレート19及び一対の位置調節機構ADJを示した図である。
【0046】
位置調節機構ADJの夫々は、取付プレート19が連結される一対のスライドブロック20と、これらを第2スロットダイSD2の接近離間方向に案内するガイドレール21と、ガイドレール21が固設された台座22と、取付プレート19の出退移動方向で後退側の端部に立設された被操作部23と、この被操作部23にピストンロッド17Lの先端部が連結された前述の出退操作用エアシリンダ17と、第2スロットダイSD2の出退移動方向に対して傾斜した案内面24Sが形成された断面台形状の楔部材24と、前述の回転操作ノブ18を上端部に備えたダイ位置微調整用ネジ25と、このダイ位置微調整用ネジ25の正逆回転に伴ってその軸心方向に沿って螺進する連係ブロック26と、連係ブロック26に連結されて連係ブロック26と一体的にダイ位置微調整用ネジ25の軸心方向に沿って移動自在なガイドブロック27と、台座22から立設された取付部28に取り付けられてガイドブロック27の移動を案内するガイドレール29と、連係ブロック26のダイ位置微調整用ネジ25に関して反対側に取り付けられて多数のローラが配置された当接面が楔部材24の案内面24Sに当接する状態で配置されたローラ付きブロック30とを備えて構成されている。
【0047】
この構成であれば、位置調節用エアシリンダ17の伸張縮退動作や回転操作ノブ18の回転操作により、被操作部23が矢印bに沿う方向に移動操作され、これにより、第2スロットダイSD2の矢印bに沿う方向における位置が調整される。
【0048】
具体的には、位置調節機構ADJの位置調節用エアシリンダ17を設定伸張状態とすることで、ピストンロッド17Lの突出動作により被操作部23が押し操作されて、第2スロットダイSD2の矢印bに沿う方向での大まかな位置決めが行われる。そして、この状態で回転操作ノブ18を正逆に回転操作して連係ブロック26を螺進させることで、ローラ付きブロック30がダイ位置微調整用ネジ25の軸心方向に沿って移動操作され、このローラ付きブロック30の移動に伴って、楔部材25の案内面24Sを介して被操作部23が矢印bに沿う方向に押し引き操作される。回転操作ノブ18を一回転操作したときに被操作部23が矢印bに沿って移動する量は、ダイ位置微調整用ネジ25のネジピッチと楔部材25の案内面24Sの傾きにより決定する微小な量となっているため、回転操作ノブ18を回転操作することで、第2スロットダイSD2の矢印bに沿う方向における位置の微調整が可能である。
【0049】
台座22は、図4で一部切り欠いて示すように、台座取付用ブロック31の上面に複数箇所でボルト連結されている。台座取付用ブロック31には、台座22が取り付けられた側とは反対側に、揺動姿勢調整用フランジ31Fが形成されている。台座取付用ブロック31は、揺動姿勢調整用フランジ31Fが備えるボスにより、本体フレーム12に横軸心Y1周りで揺動自在に取り付けられている。揺動姿勢調整用フランジ31Fには、揺動半径方向で異なる位置に形成された一対の円弧状の案内用長孔33a・33bが設けられており、本体フレーム12には、これらの案内用長孔33a・33bに係合するガイドピン34a・34b、及び、揺動姿勢調整用フランジ31Fに先端部が当接する揺動位置設定用ボルト35が螺合する支持ブロック36が設けられている。
【0050】
これにより、台座取付用ブロック31を横軸心Y1周りに揺動させて、第2スロットダイSD2のシート1に対する姿勢を所望の姿勢に調整して、揺動位置設定用ボルト35の先端部を揺動姿勢調整用フランジ31Fに当接させることで第2スロットダイSD2の姿勢を保持することができるようになっている。なお、一対の位置調節機構ADJは、それぞれの台座取付用ブロック31に取り付けられたブラケット31Bに両端が接続された断面コの字状の連結プレート32により互いに連結されている。
【0051】
ちなみに、前述の通り、第1スロットダイSD1は位置調節機構ADJにより図2で矢印aに示す方向に位置調節自在であるが、第1スロットダイSD1を移動自在に支持する台座取付用ブロック31は、本体フレーム12に固定状態で支持されているため、第1スロットダイSD1のシート1に対する姿勢は調節できず、接近離間方向の位置のみ調節できる。
【0052】
図5に示すように、取付プレート19のダイ取付領域19Tには、ダイ取付用孔19Bが複数形成されており、図4に示すように、ダイ取付ボルト37を、ダイ取付用孔19Bを貫通させる状態で第2スロットダイSD2の側面部に形成されたボルト孔38(図6参照)に締め込むことで、第2スロットダイSD2を取付プレート19に固定する。
【0053】
第2スロットダイSD2には、その内部に塗布液を供給するための供給管39が接続されている。供給管39は図外の塗布液供給ポンプに接続されている。第2スロットダイSD2の吐出部40から吐出される塗布液の吐出圧が所望の圧力となるように、塗布液供給ポンプの作動速度がサーボ制御されている。なお、以下の説明では、矢印bに沿う方向で第2スロットダイSD2の供給管39が接続された側を後端側、反対側を先端側という。
【0054】
図4、図6及び図7に示すように、第2スロットダイSD2は、塗布液を吐出する吐出部40を備えるスロットダイ本体41と、吐出部40よりもシート移動方向で上手側に配置されるロールユニット42とから構成されており、ロールユニット42はスロットダイ本体41に一体的に取り付けられている。後述するようにロールユニット42は、回転支持体としての吐出部ロール50を備えている。したがって、第2スロットダイSD2は、回転支持体としての吐出部ロール50が、吐出部40を備えるスロットダイ本体41に一体的に取り付けられている。
【0055】
スロットダイ本体41は、シート移動方向で上手側に位置する上手側ピース41aと、シート移動方向で下手側に位置する下手側ピース41bとを複数の接合ボルト43(図7参照)にて気密状態で接合した2ピース構造となっている。
【0056】
図7に示すように、上手側ピース41aは、接合面44aからピース内部側に凹入形成したチャンバー空間45を備えている。チャンバー空間45には、塗布液をチャンバー空間45まで供給する塗布液供給路46が連通しており、供給管39から供給された塗布液が第2スロットダイSD2の内部のチャンバー空間45に充填されるようになっている。
【0057】
また、上手側ピース41aの接合面44aのうち、チャンバー空間45から吐出部40に至りかつシート幅方向の長さが塗工幅に相当する長さの領域には、接合面44aよりも僅かに凹入形成された流路形成用凹入部47が形成されている。流路形成用凹入部47は、上手側ピース41aと下手側ピース41bとの接合状態において、第2スロットダイSD2の内部にチャンバー空間45と吐出部40とを連通する流路48(図4及び図9参照)を形成し、吐出部40にシート幅方向に沿うスリット状の吐出口40Sを形成する。下手側ピース41bの接合面44bは、凹入部等は形成されておらず、完全な平面状に形成されている。
【0058】
図7等では流路形成用凹入部47の形状が理解できるように流路形成用凹入部47の凹入量を誇張して記載しているが、接合面44aからの実際の凹入量は例えば、0.2mm〜1.0mm程度である。供給管39から供給された塗布液は、チャンバー空間45に充填されることで、塗布液はシート幅方向で均圧化される。チャンバー空間45に充填された塗布液は、流路48に案内されてシート1に向けて上斜め方向に流動し、吐出口40Sから押し出されることになる。これにより、第2スロットダイSD2は、吐出口40Sから塗布液をシート幅方向で均一に吐出するようになっている。
【0059】
ロールユニット42は、シート横幅方向に対応した長さの長尺状の単一のロール体にて構成された回転支持体としての吐出部ロール50と、吐出部ロール50の軸心Y2方向(シート幅方向)での中央部及び両端部において吐出部ロール50の外周面に当接して、吐出部ロール50の横軸心Y2と平行な横軸心周りに回転自在な複数対のガイドローラ51とが一体的に組み付けられている。一対のガイドローラ51にて吐出部ロール50の軸心方向の中間箇所としての中央部を接触支持することで、吐出部ロール50の湾曲を防止している。
【0060】
吐出部ロール50は、シート幅方向に沿う横軸心Y2周りに回転自在で当該横軸心方向視にて外周面が円形状に形成され、且つ、吐出部40にシート移動方向で上手側に近接する箇所において、外周面がシート1の裏面に接触する状態で基材を支持している。
【0061】
図6〜図8に示すように、吐出部ロール50は、一対のロール体支持ブラケット52・52に回転自在に両端部を支持された状態で、長手方向がシート幅方向に沿う長尺状に形成されたベースプレート53に取り付けられている。一対のロール体支持ブラケット52は、吐出部ロール50の回転軸50aの端部が挿入される挿通孔52aと、一対のガイドローラ51を回転自在に支持する回転基台51aの連結突部が挿入される一対の挿通孔52bを備えており、ロール体支持ブラケット52に一対のガイドローラ51の回転基台51aがボルト54にて固定さている。
【0062】
ベースプレート53の長手方向の両端部に、一対のロール体支持ブラケット52がボルト55にて固定され、ベースプレート53の長手方向の中央部付近に、一対のガイドローラ51を回転自在に支持するガイドローラ支持ブラケット56がボルト固定されている。ガイドローラ支持ブラケット56の頂部は、吐出部ロール50との干渉を避けるために凹入形成されている。ベースプレート53の両端部における長手方向でロール体支持ブラケット52の取り付け箇所より内方側箇所には、スロットダイ本体41が備える一対のガイドピン57が挿通する案内ガイド孔58が形成されている。また、ベースプレート53には、ロールユニット固定用ボルト59を融通状態で挿通させる長孔60が長手方向に分散して3個形成されている。そして、後述するように一対のアジャスタボルト65にてベースプレート53が位置決めされた状態で、ロールユニット固定用ボルト59により第2スロットダイSD2のロールユニット取付部分61に対してベースプレート53が固定される。
【0063】
第2スロットダイSD2の上手側ピース41aの先端側部分には、ガイドピン支持ブロック62及びアジャスタボルト支持ブロック63が取り付けられている。
【0064】
ガイドピン支持ブロック62は、上手側ピース41aの先端側部分のロールユニット取付部分61からシート幅方向で両端の外方側に突出する状態で、ビス64にて固定されている。ガイドピン支持ブロック62には、ガイドピン57が突設されており、ベースプレート53の取り付け時に、案内ガイド孔58とガイドピン57とが当接することにより、ベースプレート53のロールユニット取付部分61に対する位置が案内される。案内ガイド孔58の内径はガイドピン57の外径よりも数mm程度大きくしているので、一対のアジャスタボルト65によりベースプレート53の位置調整が可能となっている。
【0065】
アジャスタボルト支持ブロック63は、ベースプレート53の上手側ピース41aの先端側部分におけるシート幅方向で離間した複数箇所(2箇所)にビス66により固定されている。アジャスタボルト支持ブロック63には、アジャスタボルト65が螺合しており、この先端部がベースプレート53の端面53Tに当接することで、ベースプレート53の位置及び姿勢が決定する。そして、2つのアジャスタボルト65のねじ込み量を格別に変更することで、ベースプレート53の位置及び姿勢を調節することができる。これにより、ロールユニット42における吐出部ロール50の回転横軸心Y2が、吐出部40におけるスリット状の吐出口40Sの長手方向の向きに一致するように、吐出部ロール50の取付姿勢を調節できるようになっている。このように、第2スロットダイSD2は、吐出部ロール50の軸心方向を調節自在な調節手段としてアジャスタボルト65を備えている。
【0066】
図4及び図9に示すように、スロットダイ本体41の上手側ピース41aにおける吐出部40よりもシート移動方向で上手側に位置する部分に、ロールユニット42を配置するための凹入部49がシート幅方向に沿って形成されている。凹入部49は、第1凹入部49aと第2凹入部49bとが連続する状態で形成されている。第1凹入部49aは、吐出部ロール50とスロットダイ本体41との干渉を避けるために形成されており、第2凹入部49bは、一対のガイドローラ51のうちスロットダイ本体41に近い側のものとスロットダイ本体41との干渉を避けるために形成されている。このように、吐出部ロール50が、横軸心方向視で、その一部分が第1凹入部49aに凹入した状態で配置されている。これにより、吐出部ロール50を吐出部40に極力近接させて配置することが可能となっている。
【0067】
第2スロットダイSD2は、吐出部40におけるスリット状の吐出口40Sが形成されている端面が、移動するシート1に対して並行になるように、図9のような姿勢で配置されている。このため、塗布液が流動する流路48は、シート1の移動方向に直交する方向よりも上手側に傾斜する斜め上方向に向いている。つまり、吐出部40は、シート1の移動方向に直交する方向よりも上手側に傾斜する斜め上方向に向けて塗布液を吐出するように構成されている。
【0068】
シート1に塗布される塗布液の塗布状態は、シート1と吐出部40との間隙に形成される塗布液の液溜りの大きさ、形状、流動状態等により変化し、この液溜りの形成状態は、シート1の移動速度、シート1のテンション、塗布液の粘性、塗布液の吐出圧等に支配されるため、シート1の移動速度やテンションや塗布液の吐出圧が微妙に変動すると、液溜りの形成状態も変動することになる。
【0069】
この点、本実施形態では、図9に示すように、流路48による塗布液の流動方向を側面視で斜め上方とし、吐出部40の端面を水平方向に沿う向きをすることで、吐出口40Sから斜め上方向に向けて吐出された塗布液は、吐出部40の水平方向に沿う端面のうちスリット状の吐出口40Sよりシート移動方向で上手側の部分である上手側端面に広がり易く、しかも、吐出部ローラ50と吐出部40との間は空間が確保されている。そのため、液溜りの形成状態が変動するとしても、吐出部40の上手側端面とシート1との間の部分である上手側部分を大小に変形させ、液溜りの下手側部分(吐出部40の水平方向に沿う端面のうちスリット状の吐出口40Sよりシート移動方向で下手側の部分である下手側端面とシート1との間に位置する部分)の形成状態を極力安定させるとことができる。したがって、液溜りの形成状態の変動があっても、シート1に塗布される塗布液の膜厚が自動的に安定調整される。
【0070】
また、シート移動方向で上手側に傾斜する斜め方向に向けて塗布液を吐出口から吐出することで、移動するシート1により塗布液の液溜りがシート移動方向で下手側に引き付けられた状態となっても、吐出部40の上手側端面とシート1との間に安定して液溜りが形成される。このため、吐出口40Sが露出することを防止でき、結果として、塗布膜に気泡が混入する塗布不良や、塗布膜が部分的にかすれる又は途切れる等の塗布不良の発生を防止できる。
【0071】
以上のように、実施形態の塗布システムSにおける第2スロットダイSD2では、吐出部40の上手側に近接する吐出部ローラ50を吐出部40に極力近付けて配置するべく、スロットダイ本体41の吐出部側の端部に凹入部49を形成するとともに、吐出部ローラ50の外径を小さくし、さらに、小径化により低下する吐出部ローラ50の軸強度を補うべくガイドローラ51を設けている。
【0072】
このように構成することで、吐出部40に近接する箇所でシート1を吐出部ローラ50にて支持することができ、シート1における吐出部ローラ50の支持箇所からシート移動方向で吐出部40に対応する箇所までの距離が短くなるので、シート1の移動に起因する振動の振幅が大きくなることを防止して、吐出部40とシート1との距離(間隙の大きさ)を安定させることができる。また、吐出部40は吐出部ローラ50により支持される箇所に近接する箇所に塗布液を吐出することから、吐出部40から吐出された塗布液がシート1を移動させる圧力に抗してシート1の位置を保持し易くなる。しかも、ガイドローラ51により吐出部ローラ50の軸強度を補っているので、吐出部ローラ50はシート幅方向で直線状態を良好に維持でき、吐出部ローラ50による支持箇所から吐出部40までの距離はシート幅方向に関して一様になる。
【0073】
したがって、実施形態の塗布システムSにおける第2スロットダイSD2の構成であれば、シート1と吐出部40との間の塗布液の液溜りが時間的にもシート横幅方向に関して空間的にも安定して形成されるため、バックアップローラで塗布面の反対側の面を支持することなくシート1の裏面に対しても所望の膜厚にて良好に塗布液を塗布することができる。そして、本実施形態における塗布システムSでは、バックアップローラで表面を支持することなくシート1の裏面に対しても良好に塗布液を塗布できるため、第1スロットダイSD1によりシート1の表面に塗布した塗布液を乾燥させなくても、第2スロットダイSD2による塗布を行うことが可能である。したがって、シート1の両面に塗布膜を塗布するために要する作業時間を大幅に削減できる。
【0074】
〔別の実施形態〕
以上、発明者によってなされた発明を発明の実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。以下、本発明の別実施形態を例示する。
【0075】
(1)上記実施形態では、反対面用塗布手段としての表面塗布手段B1が、基材移動方向で塗布装置用スロットダイとしての第2スロットダイSD2よりも上手側の箇所で、基材の塗布面(上記実施形態でいう裏面)の反対側の面(同表面)に塗布液を塗布するものを例示したが、塗布装置用スロットダイ及び反対面用塗布手段の基材移動方向での配置順序を入れ換えたものでもよい。この場合、反対面用塗布手段は、基材移動方向で塗布装置用スロットダイよりも下手側にて基材に塗布液を塗布することになり、バックアップローラに塗布済みの面を基材を巻き掛けることはできないため、反対面用塗布手段としては、本発明の塗布装置用スロットダイを備えて構成すればよい。
【0076】
(2)上記実施形態では、吐出部が、基材移動方向に直交する方向よりも上手側に傾斜する斜め上方向に向けて塗布液を吐出するように、塗布装置用スロットダイの取り付け姿勢が設定されたものを例示したが、塗布装置用スロットダイの側面視の設置姿勢は適宜変更可能である。例えば、吐出部が、基材移動方向に直交する方向よりも上手側に傾斜する斜め下方向に向けて塗布液を吐出するような姿勢でもよい。
【0077】
(3)上記実施形態では、回転支持体の外周面に当接して、回転支持体の横軸心と平行な横軸心周りに回転自在な複数対のガイドローラが設けられたものを例示したが、例えば、回転支持体の軸心方向の長さが十分短い場合には、これらのガイドローラを設けなくてもよい。また、ガイドローラを回転支持体の軸心方向での中央部1箇所と両端部に複数対設けたものを例示したが、ガイドローラの配置個数及び配置箇所は適宜変更可能である。またいずれの場合において、ガイドローラが対を為す形態でなくてもよい。
【0078】
(4)上記実施形態では、送風式支持手段が一対の平板状温風送風ユニットを備えて構成されたものを例示したが、これに代えて、断面円形の円筒体の外周面に気体噴出孔を多数設けて、円筒内部から外部に向けて気体を噴出させて、円筒体に巻き掛けられた基材を非接触で支持する非接触支持胴体を備えて構成されたものであってもよい。この場合、非接触支持胴体を基材移動方向に複数並べて、基材の一方の面と他方の面とを交互に巻き掛けるようにしてもよい。
【0079】
(5)上記実施形態では、下手側支持手段が基材を非接触で支持する送風式支持手段にて構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、下手側支持手段が、基材の横幅方向の両端部を上下両側から挟持するローラを一対又は基材移動方向に並ぶ状態で複数対備えて構成したものでもよい。また、スロットダイの吐出部が基材幅方向で同一直線上に複数のスリットを備えて構成する等して、基材の幅方向で互いに離間した複数列の塗布領域に対して塗布液を塗布する場合は、基材の両面又は表面若しくは裏面の非塗布領域となる基材幅方向で中間箇所を回転体で接触支持する形態で下手側支持手段を構成することができる。
【0080】
(6)上記実施形態では、本発明に係る塗布装置用スロットダイをシートの両面に塗布可能な塗布装置に適用したものを例示したが、本発明に係る塗布装置用スロットダイは、基材の片面にのみ塗布する塗布装置にも適用可能である。
【0081】
(7)上記実施形態では、回転支持体がスロットダイ本体に一体的に取り付けられているものを例示したが、例えば、上記実施形態で、ロールユニット42を取付プレート19に取り付ける等、回転支持体をスロットダイ本体とは各別に取り付けてもよい。
【0082】
(8)上記実施形態では、塗布液が、シート1に対して、シート移動方向で一定間隔の隙間を空けた縞状になるように間欠的に塗布されるものを例示したが、これに代えて、塗布液が、シート1に対して、シート移動方向で連続的に塗布されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0083】
S 塗布システム
A 繰出手段
B 塗布装置
B1 反対面用塗布手段
B2 塗布面用塗布手段
C 下手側支持手段(送風式支持手段)、乾燥手段
D 乾燥手段
E 巻取手段
SD2 塗布装置用スロットダイ
1 基材
13a 上手側支持手段(支持用ロール体)
40 吐出部
40S 吐出口
41 スロットダイ本体
49a 凹入部
50 回転支持体(単一のロール体)
51 ガイドローラ
65 調節手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に移動する帯状の基材に対して間隙を空けた状態で近接して配置される吐出部を備え、前記吐出部よりも基材移動方向に関して上手側で基材を支持する上手側支持手段と、前記吐出部よりも基材移動方向に関して下手側で基材を支持する下手側支持手段との間に配置され、前記吐出部から吐出される塗布液を基材の塗布面に塗布する塗布装置用スロットダイであって、
基材幅方向に沿う横軸心周りに回転自在で当該横軸心方向視にて外周面が円形状に形成され、且つ、前記吐出部に基材移動方向で上手側に近接する箇所において、前記外周面が前記塗布面に接触する状態で基材を支持する回転支持体が設けられている塗布装置用スロットダイ。
【請求項2】
前記吐出部が、基材幅方向に沿うスリット状の吐出口を備えて前記吐出口から塗布液を基材幅方向で均一に吐出するように構成され、
前記回転支持体が、基材横幅方向に対応した長さの長尺状の単一のロール体にて構成され、
前記回転支持体の軸心方向を調節自在な調節手段を備えて構成されている請求項1記載の塗布装置用スロットダイ。
【請求項3】
前記回転支持体の軸心方向での中間箇所において前記回転支持体の前記外周面に当接して、前記回転支持体の横軸心と平行な横軸心周りに回転自在なガイドローラが設けられている請求項2記載の塗布装置用スロットダイ。
【請求項4】
前記吐出部を備えるスロットダイ本体における前記吐出部よりも基材移動方向で上手側に位置する部分に、基材幅方向に沿う凹入部が形成され、
前記回転支持体が、横軸心方向視で、その一部分が前記凹入部に凹入した状態で配置されている請求項1〜3の何れか1項に記載の塗布装置用スロットダイ。
【請求項5】
前記回転支持体が、前記吐出部を備えるスロットダイ本体に一体的に取り付けられている請求項1〜4の何れか1項に記載の塗布装置用スロットダイ。
【請求項6】
前記吐出部が、基材移動方向に直交する方向よりも上手側に傾斜する斜め方向に向けて塗布液を吐出するように構成されている請求項1〜5の何れか1項に記載の塗布装置用スロットダイ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の塗布装置用スロットダイを備えた塗布面用塗布手段と、
基材移動方向で当該塗布装置用スロットダイよりも上手側又は下手側の箇所で、基材の前記塗布面の反対側の面に塗布液を塗布する反対面用塗布手段を備えた塗布装置。
【請求項8】
前記上手側支持手段が、基材横幅方向に沿う横軸心周りに回転自在な支持用ロール体にて構成され、
前記下手側支持手段が、基材の前記塗布面とその反対側の面の夫々に対して気体を噴出して基材を非接触で支持する送風式支持手段にて構成されている請求項7記載の塗布装置。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか1項に記載の塗布装置用スロットダイ又は請求項7若しくは8に記載の塗布装置を備え、
基材を繰り出す繰出手段、基材に塗布された塗布液を乾燥させる乾燥手段、及び、塗布液が乾燥した状態の基材を巻き取る巻取手段が設けられた塗布システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−13856(P2013−13856A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148470(P2011−148470)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(510150237)株式会社暁機械製作所 (3)
【Fターム(参考)】