説明

塗料用容積流量計及び塗装システム

【課題】例えば、微細な異物の噛み込み等が発生した場合であっても、良好なメンテナンス性を得ること。
【解決手段】ケーシング36の内部に形成された貫通孔42内に回転可能に収装され、ねじれ方向が異なる第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46と、第1スパイラルギヤ44の回転を検知する近接センサ24と、ケーシング36の軸方向に沿った一端部にボルト38を介して着脱自在に連結され、メンテナンス孔50を有するエンドブロック40aとを備え、第1スパイラルギヤ44の一端部には係合穴70が形成され、ケーシング36からエンドブロック40aを離間させてメンテナンス孔50を開口させ、メンテナンス用工具を係合穴70と係合させて第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46を強制的に回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装(静電塗装を含む)に用いられる塗料の流量を測定することが可能な塗料用容積流量計及び前記塗料容積流量計が組み込まれた塗装システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車ボディの塗装ラインにおいて、塗料送出ラインの端末に配置された塗装ガンから塗料を吐出して、順次送られてくる自動車ボディを順次塗装する塗装システムが知られている。この場合、塗料供給装置と塗装ガンとの間には、自動車ボディに対して塗装ガンから吐出される塗料吐出量を計測する流量計が配置されている(例えば、特許文献1参照)。制御装置は、この流量計からの検出信号に基づいて、塗料送出ポンプから送出される塗料の流量を制御し、自動車ボディに対するオーバースプレーやスプレー不足を防止している。
【0003】
なお、特許文献2には、一対のねじれ方向の異なる同形同大のスパイラルギヤを用いた軸流式容積流量計が開示されているが、この軸流式容積流量計を塗装ラインにおける塗料の流量検出に用いることは困難である。この点については、後記で詳細に説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−272212号公報
【特許文献2】特許第4473328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来から用いている流量計としては、例えば、コリオリ式、超音波式、平ギヤ式、ロータ式等が挙げられる。
【0006】
コリオリ式流量計は、重量が嵩むと共に、設置スペースが大きくなる。また、コリオリ式流量計における流量計本体内の塗料流路の内径が極めて小さいため、流動性の小さい塗料(例えば、水溶性塗料やハイソリッド塗料等)には、不向きである。
【0007】
超音波式流量計は、流速を流量に変換する測定方法が液体粘度の変化に対応することができない、という問題がある。なお、コリオリ式流量計及び超音波流量計では、ノイズに弱いという傾向がある。
【0008】
平ギヤ式流量計では、平ギヤの歯数が多いためギヤ歯に付着して残存する塗料の色残り量が多大となり、切り替え塗料との混色防止のための洗浄作業に多大な時間を要すると共に、溶剤使用量が多くなるという難点がある。また、平ギヤ式流量計では、ギヤ歯側面及びギヤ軸に対する洗浄が困難であるため、塗料の固着による回転不足が発生するおそれがある。
【0009】
ロータ式流量計では、容積室の区切りが緩く一定のリーク量を前提としているため、塗料粘度との関係で計測値にバラツキが発生する。
【0010】
超音波式流量計やロータ式流量計は、他の方式の流量計と比較して計測精度が劣るという難点がある。また、コリオリ式流量計は、形状、計測方法からスプレーガンや回転ベル近傍部位に設置することが困難である。
【0011】
さらに、平ギヤ式を含むいずれの方式の流量計においても、実際の塗装ラインにおいて流量計自体のトラブルによって塗装ラインが停止するという問題がある。例えば、微細な異物の目詰まりや流量異常等の発生によって塗装ラインが停止する。この場合、保全者は、塗料を供給する塗料送出ポンプの側から順にメンテナンス作業を行い、最後に流量計を分解清掃することとなるが、流量計の流量検出機構が複雑である程、現場における分解清掃の困難性が増大する。
【0012】
例えば、コリオリ式流量計や超音波式流量計は、分解清掃自体が不可能であり、また、硬化反応型塗料(例えば、2液型塗料やUV(ultraviolet rays)塗料等)に不向きである。
【0013】
平ギヤ式流量計やロータ式流量計は、分解清掃を行うことが可能であるが、分解清掃作業に多大な時間を要し、また、清掃組付後に流量計の作動チェックを行う場合、塗装ラインを作動させ電気信号パルス等の出力があって初めて流量計の測定動作を確認することができるという問題がある。
【0014】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、例えば、微細な異物の噛み込み等が発生した場合であっても、良好なメンテナンス性を得ることが可能な塗料用容積流量計及び塗装システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成するために、本発明は、塗料が導入・導出されるインレットポート及びアウトレットポートを有するケーシングと、前記ケーシングの内部に形成された貫通孔内に回転可能に収装され、ねじれ方向が異なる一対のスパイラルギヤと、前記一対のスパイラルギヤのいずれか一方のスパイラルギヤの回転を検知するセンサと、前記ケーシングの軸方向に沿った一端部に着脱自在に連結され、メンテナンス孔を有する連結部材と、を備え、前記一対のスパイラルギヤのいずれか一方のスパイラルギヤの一端部には、係合部が形成され、前記メンテナンス孔を開口させ、メンテナンス手段を前記係合部と係合させて前記一対のスパイラルギヤを強制的に回転させることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、例えば、比較的微細な異物が一対のスパイラルギヤの間に噛み込まれて回転が停止した場合、メンテナンス孔を開口させた後、メンテナンス手段をスパイラルギヤの係合部と係合させて一対のスパイラルギヤを強制的に回転させることができる。この結果、一対のスパイラルギヤ間の噛み込みをなくすことができ、メンテナンス性を向上させることができる。
【0017】
また、本発明では、ケーシングから連結部材を離間させ、一対のスパイラルギヤを貫通孔から取り出してメンテナンスを行うことにより、より一層メンテナンス性を向上させることができる。なお、本発明では、メンテナンス孔を通じてのメンテナンス作業と、一対のスパイラルギヤを貫通孔から取り出して行うメンテナンス作業とを、適宜、選択することが可能である。
【0018】
さらに、本発明は、インレットポート及びアウトレットポートが、ケーシングの軸線に対して略直交する方向に並設されることにより、貫通孔内を流通する塗料の液溜まりの発生を抑制することができる。
【0019】
さらに、本発明は、塗料を送出する塗料送出ポンプと、上記に記載の塗料用容積流量計と、前記塗料用容積流量計のアウトレットポートから導出された塗料を被塗装物に向かって吐出する塗装ガンと、スパイラルギヤの回転を検知するセンサからの検出信号に基づいて、前記塗料送出ポンプから送出される塗料の流量を制御するコントローラと、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明では、このような構成とすることにより、メンテナンス性が向上した塗装システムを得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、例えば、微細な異物の噛み込み等が発生した場合であっても、良好なメンテナンス性を得ることが可能な塗料用容積流量計及び塗装システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る流量計が組み込まれた塗装システムの概略構成図である。
【図2】図1に示す流量計の分解斜視図である。
【図3】(a)は、流量計の軸方向に沿った縦断面図、(b)は、(a)のX−X線に沿った縦断面図、(c)は、(a)のY−Y線に沿った縦断面図である。
【図4】第1スパイラルギヤ及び第2スパイラルギヤの両端部に配置された軸受部材の概略構成図である。
【図5】(a)〜(c)は、メンテナンス孔を通じてメンテナンスを行う第1メンテナンス作業の説明図である。
【図6】(a)〜(c)は、ケーシングの貫通孔から第1スパイラルギヤ及び第2スパイラルギヤを取り出してメンテナンスを行う第2メンテナンス作業の説明図である。
【図7】第1スパイラルギヤ及び第2スパイラルギヤの回転を抑制する磁石ブレーキ構造を示す説明図である。
【図8】本実施形態に係る流量計を風力発電システムに組み込んだ他の実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る流量計が組み込まれた塗装システムの概略構成図である。
【0024】
図1に示されるように、塗装システム10は、所定色の塗料が貯留された塗料タンク12と、サーボモータ14の駆動によって前記塗料タンク12内に貯留された塗料を吸入し、この塗料を送出する塗料送出ポンプ16と、インレットポート18aが前記塗料送出ポンプ16と接続される流量計(塗料用容積流量計)20と、前記流量計20のアウトレットポート18bと接続され図示しないロボットのアームを介して自動車ボディ(被塗装物)に所定量の塗料を吐出する塗装ガン22と、流量計20に付設された近接センサ24から検出信号が導入されるコントローラ26とを備えて構成されている。
【0025】
なお、塗料タンク12と塗料送出ポンプ16との間には配管28aが配設され、塗料送出ポンプ16と流量計20のインレットポート18aとの間には配管28bが配設され、流量計20のアウトレットポート18bと塗装ガン22との間には配管28cが配設される。
【0026】
コントローラ26には、流量計20で検出された塗料流量を、例えば、デジタル表示する流量表示部30が設けられる。また、コントローラ26からサーボモータ14に対して制御信号を導出してその回転速度を制御することにより、塗装ガン22に対して供給される塗料供給流量(塗装ガン22から被塗装物に対して吐出される塗料量)を制御している。
【0027】
図1中における破線内の領域は、高電圧が印加される塗装ブース32内を示している。塗装ブース32とコントローラ26と間には、セーフティバリア34が設けられる。また、塗装ガン22は、例えば、スプレーガンや回転ベル等によって構成される。
【0028】
次に、流量計20について詳細に説明する。図2は、流量計の分解斜視図、図3(a)は、流量計の軸方向に沿った縦断面図、図3(b)は、図3(a)のX−X線に沿った縦断面図、図3(c)は、図3(a)のY−Y線に沿った縦断面図である。
【0029】
図2及び図3(a)に示されるように、この流量計20は、容量型流量計からなり、四角柱状に形成されたケーシング36と、前記ケーシング36の軸方向に沿った一端面及び他端面にそれぞれ複数のボルト38を介して連結される一対のエンドブロック40a、40bとを備える。一対のエンドブロック40a、40bとケーシング36との間には、連結部位をシールするシール部材39が設けられる。また、一方のエンドブロック40bをケーシング36と一体的に形成して有底箱体に構成してもよい。なお、エンドブロック40aは、連結部材として機能するものである。
【0030】
ケーシング36には、一端面から他端面に向かって軸方向に沿って貫通する貫通孔42が形成され、前記貫通孔42内には、回転速度検出用の第1スパイラルギヤ44と、塗料送出用の第2スパイラルギヤ46とが噛み合った状態で装填される。前記貫通孔42は、ケーシング36の軸方向から見て、2つの円形の一部が重畳した形状に4つの円弧形状が結合された複合形状からなる(図3(b)、図3(c)参照)。
【0031】
また、近接センサ24が装着された側面37bと対向するケーシング36の一側面37aには、塗料送出ポンプ16から塗料が送給されるインレットポート18aと、塗装ガン22にむけて塗料を排出するアウトレットポート18bとが略平行に設けられる(図3(a)参照)。
【0032】
一対のエンドブロック40a(40b)は、それぞれ、環状のフランジ部48を有する。近接センサ24に近接する一方のエンドブロック40aの中心部には、ケーシング36の軸方向に沿って貫通する円形状のメンテナンス孔50が形成される。前記メンテナンス孔50の内周面には、雌ねじ部が設けられ、前記雌ねじ部と螺合する雄ねじ部が形成された第1ねじ部材52によってメンテナンス孔50が閉塞される。また、第1ねじ部材52には、貫通するねじ孔を介して第2ねじ部材54が螺入される。なお、第1ねじ部材52と第2ねじ部材54とを一体的に形成するようにしてもよい。
【0033】
前記メンテナンス孔50は、ケーシング36内の貫通孔42と連通するように設けられ、後記するように、第1ねじ部材52を取り外して開口したメンテナンス孔50を通じて、貫通孔42内に収装された第1スパイラルギヤ44を手動で強制的に回転させることができる。近接センサ24から離間する他方のエンドブロック40bは、平板状のブロック体によって形成され、ケーシング36に形成された貫通孔42の一端を閉塞する。
【0034】
この第1スパイラルギヤ44と第2スパイラルギヤ46とは、ケーシング36の貫通孔42内で相互に噛合するように設けられる。第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46は、それぞれねじれ方向が異なり螺旋状に延在する歯部を有する。図3(a)に示されるように、第2スパイラルギヤ46の歯部(太歯)の厚さは、第1スパイラルギヤ44の歯部(細歯)の厚さよりも厚くなるように形成されている。第1スパイラルギヤ44と第2スパイラルギヤ46とは、螺旋状に延在する各歯部が接触する4個所の接触部位を有し、この4個所の接触部位間で区画された3つの室58a〜58cが貫通孔42内に形成される。この3つの室58a〜58cは、計量室として機能するものである。
【0035】
また、ケーシング36の軸方向から見て、第1スパイラルギヤ44は、ケーシング36の軸線と直交する縦断面の略中心位置に配置され、第2スパイラルギヤ46は、前記ケーシング36の縦断面の中心位置から上側に偏位した位置に配置される(図3(b)参照)。この場合、第1スパイラルギヤ44は、近接センサ24の被検知対象からなり、第2スパイラルギヤ46は、貫通孔42内を3つに区画する区切りとして機能すると共に、各室58a〜58c内に導入された塗料を押し出す機能を併有する。このような第1スパイラルギヤ44と第2スパイラルギヤ46との噛合によって塗料のシェア(せん断)が回避される。
【0036】
図4は、第1スパイラルギヤ及び第2スパイラルギヤの両端部に配置された軸受部材の概略構成図である。
第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の軸方向に沿った両端部には、それぞれ、異径の軸受部材60a、60bが設けられる(図2及び図3(a)参照)。この軸受部材60a、60bは、図4に示されるように、ギヤ軸61の端部に装着されてギヤ軸61を回転自在に軸支するベアリング62と、前記ベアリング62の一部を樹脂材料で被覆するリテーナ64とを有する。なお、ベアリング62としては、例えば、メンテナンスフリーで自己潤滑性を有するオイレスベアリング(登録商標)が用いられると好適である。
【0037】
両端部に軸受部材60aが装着された第1スパイラルギヤ44の軸方向に沿った全長は、両端部に軸受部材60bが装着された第2スパイラルギヤ46の軸方向に沿った全長よりも大きく設定されている(図3(a)参照)。この場合、第1スパイラルギヤ44は、一方の軸受部材60aがケーシング36の貫通孔42内に形成された第1環状段部66aに当接すると共に、他方の軸受部材60aがエンドブロック40aの内壁に当接することで、所定位置に位置決めされて保持される。また、第2スパイラルギヤ46は、一方の軸受部材60bがケーシング36の貫通孔42内に形成された第2環状段部66bと当接することで所定位置に位置決めされて保持される。
【0038】
近接センサ24に近接する第1スパイラルギヤ44の一端面には、後記するメンテナンス用工具(六角レンチ)68(図5(c)参照)と係合する係合穴(六角穴)70が歯部側に窪んで形成される。この係合穴70は、係合部として機能するものである。本実施形態では、係合穴70をその一例として側面視して正六角形状に形成しているが、これに限定されるものではなく、メンテナンス孔50を通じて挿入されるメンテナンス用工具68と係合可能な形状で、第1スパイラルギヤ44を強制的に回転させることが可能な形状であればよい。なお、メンテナンス用工具68は、メンテナンス手段として機能するものである。
【0039】
近接センサ24は、ケーシング36の孔部に装着され、例えば、セラミック等の絶縁性材料で形成されたカプラ72を有する。このカプラ72を設けることにより、センサ本体が塗料と接液することが回避されると共に、電気的に絶縁される。近接センサ24によって第1スパイラルギヤ44の回転速度(回転数)を検出した検出信号(電気信号)は、コントローラ26に導出される。この近接センサ24の検出方式としては、例えば、誘導形、静電容量形、超音波形、光電形、磁気形のいずれであってもよい。
【0040】
本実施形態に係る流量計20が組み込まれた塗装システム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0041】
塗料送出ポンプによって圧送され、ケーシング36のインレットポート18aから導入された塗料は、室58a内に充填されて第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の歯部を押圧し、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46を相互に回転させる。室58a内に充填された塗料は、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の回転作用によって、室58b及び室58cへと順次移行し、アウトレットポート18bから導出される。
【0042】
この場合、第1スパイラルギヤ44の回転速度が近接センサ24によって検出され、この検出信号が図示しないリード線を通じてコントローラ26に導入される。コントローラ26では、近接センサ24からの検出信号に基づいて塗装ガン22へ送給される塗料の流量を演算し、流量表示部30でその検出流量がデジタル表示される。
【0043】
なお、室58a〜58cに充填された塗料は、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の歯部が互いに噛合して接触すると共に、歯部が貫通孔42の内壁と摺接することにより、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の両端の軸受部材60a、60bが配置された部位への進入が阻止される。
【0044】
次に、流量計20のメンテナンス作業について説明する。
例えば、塗料中に含有する比較的微細な異物が第1スパイラルギヤ44と第2スパイラルギヤ46との間に噛み込まれて、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の回転が停止した場合、図5に示される第1メンテナンス作業を遂行する。
【0045】
近接センサ24に近接するエンドブロック40aに締結されていた第1ねじ部材52及び第2ねじ部材54を取り外して、メンテナンス孔50を外部に露呈(開口)させる(図5(a)、(b)参照)。続いて、作業者は、例えば、六角レンチ等からなるメンテナンス用工具68を前記メンテナンス孔50からケーシング36側に向かって挿入し、メンテナンス用工具68の先端部を第1スパイラルギヤ44の一端面に形成された係合穴70に係合させる。メンテナンス用工具68の先端部が係合穴70と係合した状態を保持しながら、メンテナンス用工具68のグリップ68aを所定方向に回転させる(図5(c)参照)。
【0046】
このようにして、異物の噛み込みによって回転停止状態にある第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46を強制的に回転させることにより、第1スパイラルギヤ44と第2スパイラルギヤ46との間での噛み込みをなくすことができる。その際、歯部の形状を螺旋状とすることにより、噛み込まれた微細な異物を取り易くすることができる。
【0047】
微細な異物を取り除いた後、エンドブロック40aに対して第1ねじ部材52及第2ねじ部材54を締結することにより、メンテナンス孔50が閉塞されて元の状態に復帰する。
【0048】
なお、ケーシング36及びエンドブロック40aの一部をガラス材又は透明材料で形成することにより、第1スパイラルギヤ44と第2スパイラルギヤ46との噛み込み状態を外部から容易に視認することができる。この結果、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46への異物の噛み込みに対して、迅速にメンテナンス作業を遂行することができる。
【0049】
次に、図6に示される第2メンテナンス作業について説明する。
先ず、ケーシング36に対してエンドブロック40aを締結している複数のボルト38を取り外し、ケーシング36の端面からエンドブロック40aを離間させる(図6(a)、(b)参照)。ケーシング36の端面からエンドブロック40aを離間させることにより貫通孔42が外部に露呈し、前記貫通孔42内に収装されていた第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46をケーシング36の軸方向に沿って引き出す。相互に噛合した状態にある第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46は、一体的にスライドして貫通孔42から外部に取り出される(図6(c)参照)。
【0050】
なお、作業者は、後記するように、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の回転停止の原因等に対応して、図5に示される第1メンテナンス作業と図6に示される第2メンテナンス作業とを適宜選択することができる。
【0051】
次に、本実施形態に係る流量計の特徴事項を以下に説明する。
第1に、本実施形態では、メンテナンス機能を有し、しかも、メンテナンス作業を簡便に遂行することができる。
すなわち、ケーシング36内へ圧送されてきた塗料は、第1スパイラルギヤ44と第2スパイラルギヤ46との接触部位で区画された室58a〜58c内に充填される。室58a〜58c内に充填された塗料の流れ方向及び流れ速度に沿って第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46が回転し、所定容量の塗料をアウトレットポート18bから連続的に排出することができる。第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の嵌め合い形状及び加工精度により、ギヤ歯の歯数を必要最小限に抑制することができる。このため、色替え洗浄時における色混じりや色残りの発生を抑制することができる。
【0052】
例えば、ケーシング36内の通常のメンテナンスは、図6に示される第2メンテナンス作業を選択し、ケーシング36の端面に締結されたエンドブロック40aを外し、軸長が大きく設定された第1スパイラルギヤ44を略水平方向に沿って引き出すことにより、軸長が小さく設定された第2スパイラルギヤ46も一緒にスライドさせて貫通孔42から取り出すことできる。再度の組付時においても、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46が相互に噛合した状態で貫通孔42内に挿入することにより、噛み合せや設置位置を簡便に位置決めすることができる。また、ケーシング36の側面やエンドブロック40a、40bを透明樹脂やガラスで製造することにより、メンテナンス時期を目視にて判断することができる。さらに、塗装ラインの稼働中において、塗装流量の異常の原因が流量計20自体であるのかの判断や、メンテナンス完了後の動作チェックを目視で確認することができる。
【0053】
稼働中において塗料の流量異常が発生し、その原因が流量計20の第1スパイラルギヤ44と第2スパイラルギヤ46との間の異物の噛み込みであると作業者が判断した場合、図5に示される第1メンテナンス作業を選択し、ケーシング36の端面に締結されたエンドブロック40aに形成されたメンテナンス孔50を開口させ、前記メンテナンス孔50にメンテナンス用工具68(例えば、六角レンチ)を挿入し、第1スパイラルギヤ44の軸端に形成された係合穴70(例えば、六角穴)に嵌め込む。このような外部から人為的且つ強制的に回転させることにより、第1スパイラルギヤ44と第2スパイラルギヤ46との間に微細異物が噛み込んで回転停止となった場合であっても、異物の送り出し又は送り戻しを容易に行うことができる。この結果、流量計20の分解清掃が不要となり、極めて短時間で停止した塗装ラインを復帰させることができる。
【0054】
第2に、本実施形態では、近接センサ24として、例えば、本質安全防爆構造近接センサを用いることにより、速度検出用の第1スパイラルギヤ44に対して磁性体や反射体を取り付けることが不要となる。また、ケーシング36の材料としてアルミニウムやアルミニウム合金を用い、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の材料として、窒化鋼を用いることにより、小型・軽量化を達成することができる。従って、スプレーガンや回転ベル等の近傍部位に流量計20を設置することが可能となり、塗料の瞬間吐出量を検出することができる。この結果、均一塗膜を形成して高品質な塗装を遂行することができる。
【0055】
第3に、本実施形態では、計測性能の低下を抑制することができる。
すなわち、ギヤ式流量計やロータ式流量計では、色替え洗浄時、塗料流路内を流通するクリーニング用のエアの押圧力によってギヤやロータが高速回転する。この高速回転により摺接部位が磨耗してリーク量が増大し、色替え回数が計測能力に大きく影響を及ぼす。
【0056】
これに対し、本実施形態では、図7に示されるような磁石ブレーキ構造80が採用されている。従来のギヤ式流量計やロータ式流量計では、その計測部位の材質がSUSで形成されているのに対し、本実施形態では、ケーシング36がアルミニウムで、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46が窒化鋼で形成されることにより、外部から非接触で磁石82によって第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の高速回転を抑制することができる。
【0057】
図7に示されるように、本実施形態における磁石ブレーキ構造80は、ケーシング36を間にして相互に離間して対向配置された一対のシリンダ84a、84bと、シリンダ84a、84bのピストンロッド86の先端部に装着された磁石82とを備える。この場合、色替え洗浄時において、洗浄工程が開始されてクリーニング用のエアが塗料流路内を流通するのと同期して、一対のシリンダ84a、84bを作動させピストンロッド86を伸長させることにより、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46に対して磁力が影響する位置まで磁石82をケーシング36に接近させる。これにより、クリーニング用のエアがケーシング36の貫通孔42内を流通する場合であっても、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の高速回転が抑制され、磨耗による計測能力の低下を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、塗料の流れ方向が変わった場合、図示しない2つの近接センサ24、24を角度が異なる離間位置に並設配置することにより、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の回転方向を2つの近接センサ24、24で判別することができる。角度が異なる離間位置とは、例えば、ケーシング36の中心軸線と平行な水平線に対して、一方の近接センサ24を水平線よりも上部側に配置し、他方の近接センサ24を水平線よりも下部側で水平線に沿って並列に配置した位置をいう。このようにして2つの近接センサ24、24を配置することにより、容易に塗料の逆流検知をすることができ、流量管理を確実に遂行することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、水性塗料の性質からシェア(せん断)されると変質するという問題も、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46を用いることにより、好適に回避することができる。すなわち、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46を加工容易な材質で、且つ、単純形状で構成することにより、高精度な加工が得られ、塗料のリークをなくして低粘度から高粘度まで広い範囲で計測することが可能となり、液体粘度が安定しない水性塗料の影響を回避することができる。
【0060】
本実施形態では、図1に示されるように、流量計20が塗料送出ポンプ16と塗装ガン22との間に配置され、配管28a〜28c内に塗料が流通するとその流量・流速に対応してケーシング36の貫通孔42内の第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46が回転する。この第1スパイラルギヤ44の回転速度を近接センサ24で検知し、その検出信号(電気パルス信号)をコントローラ26に導出する。コントローラ26では、近接センサ24から出力された検出信号を流量値に変換して流量表示部30で表示する。
【0061】
この表示される流量値が、予め設定された設定値と比較して偏差がある場合、コントローラ26は、その偏差がゼロとなるようにフィードバック信号(制御信号)を塗料送出ポンプ16(サーボモータ14)に導出する。このフィードバック信号に基づいて塗料送出ポンプ16から塗装ガン22へ送出される塗料の流量が制御され、適正な流量の塗料が塗料送出ポンプ16から送出される。この結果、本実施形態では、被塗装物に対して塗布必要量のみを供給することにより、美粧仕上げを得ることができると共に、オーバースプレーを防止して塗料の無駄を削減することができる。
【0062】
次に、本実施形態に係る流量計20を風力発電システム100に組み込んだ他の実施形態を図8に示す。
この場合、塗装ガン22に供給されるエア(霧化エア)を利用してタービンブレード102を回転させ、その回転力を風量発電装置104で電気に変換して蓄電し、流量計20に付設された近接センサ24の電源として取り出すものである。なお、図1に示される構成要素と同一要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0063】
塗装ラインでは、例えば、スプレーガンや回転ベル等に霧化エアが利用されており、この霧化エアのエネルギを利用する。そこで、図示しないエア供給源から供給されるエアによってエア流路上に設けられたタービンブレード102を回転させ、その回転力を風力発電装置104に伝達して電気に変換する。前記風力発電装置104で蓄電された電気は、近接センサ24のセンサ用電源として取り出される。なお、電力不足の場合には、塗装ブース32内の照明も利用し、ソーラーパネルを用いた他の発電装置を補助電源として利用してもよい。
【0064】
次に、特許文献2(特許第4473328号公報)に開示された軸流式容積流量計と本実施形態とを比較検討する。
結論として、特許文献2に開示された軸流式容積流量計(以下、従来技術に係る流量計という)を塗装ラインにおける塗料の流量検出に用いることは困難であると思料する。以下、その理由を述べる。
【0065】
第1に、従来技術に係る流量計では、一対のねじれ方向の異なる同形同大のスパイラルギヤが収容されるケーシングと、前記ケーシングの流入側端を封止する流入側蓋と、流出側端を封止する流出側蓋とを備え、前記流入側蓋に流入口を形成すると共に、前記流出側蓋に流出口を形成する構成が採用されている。従来技術に係る流量計では、このように構成されることにより、ケーシング内の塗料溜まり量が多くなり、色替え洗浄時における廃液ロスが増大する。また、一対のスパイラルギヤが同形同大に構成されているため、塗料をシェア(せん断)し、変質させるおそれがある(特に、水性塗料やUV塗料に顕著)。さらに、主塗料であるメタリック色のメタルによる磨耗・リークを起こし易いという難点がある。
【0066】
第2に、従来技術に係る流量計では、一対のスパイラルギヤの両端部の軸受部をそれぞれラジアル玉軸受けで構成しているため、ベアリングに付着・残存した塗料によるベアリング色残りにより、洗浄後に供給される新たな塗料との間で色混じり不良が発生するおそれがある。また、ベアリングに付着した塗料が硬化してスパイラルギヤの回転不良が発生するおそれがある。
【0067】
第3に、従来技術に係る流量計では、一対のスパイラルギヤのいずれか一方の後端に取り付けられた磁石円盤と、前記磁石円盤の回転を検出する検出部とを備える構成が採用されているが、磁石円盤の取り付けによってスパイラルギヤのギヤ歯の直径が大きくなり、装置全体が大型化する。また、鉄粉等の微細異物が一対のスパイラルギヤ間に噛み込まれることにより、一対のスパイラルギヤの回転が停止するおそれがあるが、特許文献2には、この点に関するメンテナンスについて何ら開示乃至示唆されていない。さらに、一対のスパイラルギヤの一方の後端にのみ検出部を配置した場合、塗料の流れの正逆を検知することができず、逆流検知が困難である。
【0068】
第4に、従来技術に係る流量計では、一対のスパイラルギヤの高速回転領域での使用を可能とするためにカウンタウェイトを取り付けてスパイラルギヤの回転バランスを保持するようにしているが、このような構成では、低速回転領域における一対のスパイラルギヤの起動が困難となる。塗料システムにおける塗料の計測は、例えば、約10〜350ml/minの低速回転領域であることや塗料の動粘性の影響を受けるため、低速回転領域でスパイラルギヤを起動させようとすると、カウンタウェイトの重量分だけスパイラルギヤに大きな負荷がかかるからである。
【0069】
上記の理由によって、従来技術に係る流量計を塗装システムに組み込むことは困難であると思料する。
【0070】
本実施形態では、例えば、比較的微細な異物が第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46の間に噛み込まれて回転が停止した場合、メンテナンス孔50を開口させた後、メンテナンス用工具68を第1スパイラルギヤ44の係合穴70と係合させて第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46を強制的に回転させることができる。この結果、第1スパイラルギヤ44と第2スパイラルギヤ46との間の噛み込みをなくすことができ、メンテナンス性を向上させることができる。
【0071】
また、本実施形態では、ケーシング36からエンドブロック40aを離間させ、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46を貫通孔42から取り出してメンテナンスを行うことにより、より一層メンテナンス性を向上させることができる。なお、本実施形態では、メンテナンス孔50を通じての第1メンテナンス作業と、第1スパイラルギヤ44及び第2スパイラルギヤ46を貫通孔42から取り出して行う第2メンテナンス作業とを、適宜、選択することが可能である。
【0072】
さらに、本実施形態は、インレットポート18a及びアウトレットポート18bが、四角柱状からなるケーシング36の軸線に対して略直交する方向に並設されることにより、貫通孔42内を流通する塗料の液溜まりの発生を抑制することができる。
【0073】
さらにまた、本実施形態は、塗料を送出する塗料送出ポンプ16と、流量計20と、前記流量計20のアウトレットポート18bから導出された塗料を被塗装物に向かって吐出する塗装ガン22と、第1スパイラルギヤ44の回転を検知する近接センサ24からの検出信号に基づいて、前記塗料送出ポンプ16から送出される塗料を制御するコントローラ26とを備えることにより、メンテナンス性が向上した塗装システム10を得ることができる。
【符号の説明】
【0074】
10 塗装システム
16 塗料送出ポンプ
18a インレットポート
18b アウトレットポート
20 流量計(塗料用容積流量計)
22 塗装ガン
24 近接センサ(センサ)
26 コントローラ
36 ケーシング
40a エンドブロック(連結部材)
42 貫通孔
44、46 スパイラルギヤ
50 メンテナンス孔
68 メンテナンス用工具(メンテナンス手段)
70 係合穴(係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料が導入・導出されるインレットポート及びアウトレットポートを有するケーシングと、
前記ケーシングの内部に形成された貫通孔内に回転可能に収装され、ねじれ方向が異なる一対のスパイラルギヤと、
前記一対のスパイラルギヤのいずれか一方のスパイラルギヤの回転を検知するセンサと、
前記ケーシングの軸方向に沿った一端部に着脱自在に連結され、メンテナンス孔を有する連結部材と、
を備え、
前記一対のスパイラルギヤのいずれか一方のスパイラルギヤの一端部には、係合部が形成され、
前記メンテナンス孔を開口させ、メンテナンス手段を前記係合部と係合させて前記一対のスパイラルギヤを強制的に回転させることを特徴とする塗料用容積流量計。
【請求項2】
請求項1記載の塗料用容積流量計において、
前記ケーシングから前記連結部材を離間させ、前記一対のスパイラルギヤは、前記貫通孔から取り出し及び挿入可能に設けられることを特徴とする塗料用容積流量計。
【請求項3】
請求項1又は2記載の塗料用容積流量計において、
前記インレットポート及び前記アウトレットポートは、前記ケーシングの軸線に対して略直交する方向に並設されることを特徴とする塗料用容積流量計。
【請求項4】
塗料を送出する塗料送出ポンプと、
請求項1乃至3のいずれか1項記載の塗料用容積流量計と、
前記塗料用容積流量計のアウトレットポートから導出された塗料を被塗装物に向かって吐出する塗装ガンと、
スパイラルギヤの回転を検知するセンサからの検出信号に基づいて、前記塗料送出ポンプから送出される塗料の流量を制御するコントローラと、
を備えることを特徴とする塗装システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−36918(P2013−36918A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174710(P2011−174710)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(592007575)東メンシステム株式会社 (7)
【Fターム(参考)】