説明

塗膜形成法およびスピンコータ

【課題】 基材の周縁部に生じる盛り上がりを除去して、均一な膜厚を有する塗膜を形成することができる塗膜形成方法及びスピンコータを提供する。
【解決手段】 塗膜形成方法では、基材5表面に塗膜を形成する塗膜形成方法であって、基材5の上面に塗膜を形成するための塗液21を配置する塗膜配置工程と、基材5を所定の軸回りに回転させる基材回転工程と、基材5の上部から基材の上面周縁部にエアを吹き付けるエア吹き付け工程とを備え、エア吹き付け工程では、基材5の中心部から当該基材の外側に向けてエアを吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜形成方法及びスピンコータに関し、具体的には、基材表面に均一な膜厚の塗膜を形成するめの方法、及びこのような方法において用いられるスピンコータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディスプレイ材料、機能性フィルム等の映像表示分野、磁気テープ類等の情報記録分野、インクジェット用紙等の紙分野、薄膜電池や電子回路基板等の電気・電信関連分野、ローパスフィルタ等の光学関連分野、撥水・防水・消臭といった機能繊維分野などの多くの分野において、基板等の基材の表面に均一な厚さの膜を形成するために、所謂スピンコート法が採用されている。このスピンコート法では、塗膜を形成するための塗液が表面に配置された基材を、回転駆動するステージ上に固定し、このステージを回転させて、ステージの回転によって生じる遠心力を用いて塗液を広げる。そして、スピンコート法では、ステージの回転速度及び回転時間を調整することによって膜厚を調整する。
【0003】
このようなスピンコート法を用いた場合、ステージの回転軸に近い膜の中心部では、膜厚を高精度で均一にすることができるが、ステージの回転軸から遠い基材の周縁部では、膜の厚さが中央部よりも厚くなってしまうという問題があった。即ち、遠心力により塗液を広げると、塗液が基材の中央から周縁部に向かって流れて、基材の周縁部に塗液が集まる。そして、ステージを回転させている間は、基材の周縁部に集まった塗液は、遠心力により基材の周縁部からステージ外に飛散するが、ステージの回転を停止させると、塗液の表面張力により基材の周縁部に塗液が集中してしまうからである。
【0004】
特に、ローパスフィルタ等の光学関連分野においては、
高精度の膜厚が要求されるため、膜厚の誤差を、所望の厚さに対して±数μm程度に抑える必要があるが、従来のスピンコート法では、周縁部の盛上り中央部に比べ数十μm以上厚くなるため、誤差を±数μm程度に抑えることができなかった。
【0005】
これを解決するための手段としては、特許文献1に記載されたスピンコート法が知られている。具体的には、特許文献1に記載されたスピンコート法では、塗液を広げている間、又は広げた後に、ステージ上に配置された基材の下側から、基材の下面に向けてエアを吹き付けて、基材の中央部から基材の周縁部に向かうエアの流れを作り出す。そして特許文献1によれば、基材の中央部から基材の周縁部に向かうエアの流れを作り出すことによって、基材の周縁部よりもさらに外側に負圧を生じさせて、基材の周縁部に集まった塗液を基材の外側に向けて引っ張ることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−164727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているスピンコート法では、基材の下側から基材の外側に向けて流れるエアによって生じる負圧を用いて、基材の周縁部の盛り上がりを無くすこととしているため、例えば、膜の厚さを比較的厚くしようとした場合には、塗液を引っ張る力が十分ではなく、基材の周縁部の盛り上がりを無くすことができない。結果として、特許文献1に記載されているスピンコート法では、形成しようとする膜の厚さや使用する塗液の粘度によっては、盛り上がりを無くすことができず、高精度の膜厚の塗膜を形成することができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、
上述した問題点を解決するためになされたものであり、形成しようとする膜の厚さや使用する塗液の粘度に関わらず、基材の周縁部に生じる盛り上がりを除去して、均一な膜厚を有する塗膜を形成することができる塗膜形成方法、及びこのような塗膜形成方法において用いられるスピンコータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、基材表面に塗膜を形成する塗膜形成方法であって、前記基材の上面に塗膜を形成するための塗液を配置する塗膜配置工程と、前記基材を所定の軸回りに回転させる基材回転工程と、前記基材の上部から前記基材の上面周縁部にエアを吹き付けるエア吹き付け工程とを備え、前記エア吹き付け工程では、前記基材の中心部から当該基材の外側に向う方向に沿って,エアを吹き付けることを特徴とする。
【0010】
このように構成された本発明によれば、基材回転工程によって、基材の上面に配置された塗液の厚さをほぼ均一にし、次いでエア吹き付け工程を実施する。そしてエア吹き付け工程において、基材の中心部から基材の外側に向けて、基材の上面周縁部にエアを吹き付けることによって、基材の周縁部の塗液を基材の外側に向う方向に沿って飛ばすことができる。そしてこれにより、基材の周縁部に形成される盛り上がりを除去することができ、塗液の中央部及び周辺部において、塗液の厚さを均一にすることができる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、エア吹き付け工程では、基材の上面にエアを吹き付けるのと同時に、基材の中心部から基材の外側に向う方向に沿って、基材の下面にエアを吹き付ける。
【0012】
このように構成された本発明によれば、基材の上面にエアを吹き付けるのと同時に、基材の下面にもエアを吹き付けることによって、基材の上面から飛ばされた塗液が、基材の下面に回り込むのを防止することができる。
【0013】
また、本発明は、基材表面に塗膜を形成するためのスピンコータであって、塗膜が形成される基材を保持し、且つ該基材を所定の軸回りに回転させるステージと、基材の上部から基材の上面周縁部にエアを吹き付ける上エア吹き付け部とを備え、該上エア吹き付け部は、基材の中心部から当該基材の外側に向う方向に沿って,エアを吹き付けることを特徴とする。
【0014】
このように構成された本発明によれば、ステージを回転させることによって、基材の上面に配置された塗液の厚さをほぼ均一にし、次いで上エア吹き付け部により、塗液にエアを吹き付ける。そして上エア吹き付け部によって、基材の中心部から基材の外側に向う方向に沿って、基材の上面周縁部にエアを吹き付けることによって、基材の周縁部に形成された盛り上がりを、基材の外側に向けて飛ばすことができる。そしてこれにより、基材の周縁部の盛り上がりを除去することができ、塗液の中央部及び周辺部において、塗液の厚さを均一にすることができる。
【0015】
また、本発明において好ましくは、基材の中心部から基材の外側に向う方向に沿って、基材の下面にエアを吹き付ける下エア吹き付け部をさらに備える。
【0016】
このように構成された本発明によれば、基材の上面にエアを吹き付けるのと同時に、基材の下面にもエアを吹き付けることができ、これにより基材の上面から飛ばされた塗液が、基材の下面に回り込むのを防止することができる。
【0017】
また、本発明において好ましくは、上エア吹き付け部は、円板形状を有し、その外周全周に沿って形成された吹出口を備える。
【0018】
このように構成された本発明によれば、上エア吹き付け部の外周全周に沿って形成された吹出口により、基材の周縁全周に形成された盛り上がりを同時に除去することができ、作業効率を向上させることができる。
【0019】
また、本発明において好ましくは、下エア吹き付け部は、ステージとの間に所定の間隔をもってステージを囲む筒状体を備え、この筒状体と
ステージの間に形成された流路を介してエアを基材の下面に吹き付ける。
【0020】
また、本発明において好ましくは、上エア吹き付け部は、先端が基材の上面に向けて配置されたチューブ状部材によって構成されている。
【0021】
また、本発明において好ましくは、下エア吹き付け部は、先端が基材の下面に向けて配置されたチューブ状部材によって構成されている。
【0022】
このように構成された本発明によれば、ステージを回転させながら、先端が基材に向けて配置されたチューブ状の上エア吹き付け部によって基材の上面にエアを吹き付けることにより、基材の周縁部に形成された盛り上がりを除去することができる。そして、これにより、塗液の中央部及び周辺部において、塗液の厚さを均一にすることができる。
また、基材の上面にエアを吹き付けるのと同時に、下エア吹き付け部からも基材の下面にもエアを吹き付けることで、基材の上面から飛ばされた塗液が、基材の下面に回り込むのを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
このように、本発明によれば、基材の周縁部に生じる盛り上がりを十分に除去して、均一な膜厚を有する塗膜を形成することができる

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかるスピンコータの概略を示す断面図である。
【図2】図1のスピンコータの一部を拡大した断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態にかかるスピンコータの概略を示す断面図であり、スピンコータを用いた塗膜形成方法について説明するための図である。
【図4】本発明の第1の実施形態にかかるスピンコータの概略を示す断面図であり、スピンコータを用いた塗膜形成方法について説明するための図である。
【図5】本発明の第1の実施形態にかかるスピンコータの概略を示す断面図であり、スピンコータを用いた塗膜形成方法について説明するための図である。
【図6】本発明の第2の実施形態にかかるスピンコータの概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について詳述する。以下の実施形態では、本発明にかかる塗膜形成方法及びスピンコータを、光学的ローパスフィルタを製造するために用いるものとして説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、基材の表面に均一な厚さの塗液を形成する必要ある他の用途にも適用可能である。
【0026】
本実施形態で製造されるローパスフィルタは、デジタルカメラ等の撮像系においてモアレを抑制するのに使用される光学部品である。このローパスフィルタは、基板上に形成した液体状の光重合性組成物の均一な厚さ塗膜を紫外線等で硬化させることによって製造される。この製造工程では、紫外線等によって塗膜を硬化させる際、塗膜上に所定間隔をおいてフォトマスクを配置するため、塗膜の厚さが誤差±数μmの範囲にあることが求められる。
【0027】
このローパスフィルタの製造方法における塗膜形成では、液体状の光重合性組成物を基板の表面に供給し、この基板をスピンコータのステージに配置して回転させ、光重合性組成物を基板の表面に分配し、基板表面に塗膜を形成する。尚、光重合性組成物としては、(メタ)アクリロイル基を含む(メタ)アクリルモノマーや、ビニル基、アリル基等の多官能モノマーを含有する光重合組成物が用いられる。その後、エアノズルの吹出口から吹き出したエアによって、基材の周縁部にある光重合性組成物を除去し、均一な厚さの塗膜を得る。
【0028】
次いで、光重合組成物の塗膜上に、例えば100μm程度の間隙をおいて、フォトマスクを配置し、光重合組成物の塗膜に紫外線を照射し、照射部位の光重合性組成物を硬化させる。紫外線としては、平行光かつ光強度分布が略一定なものが好ましい。次いで、フォトマスクを取り除いた状態で、再度、光重合組成物の塗膜に紫外線を照射し、光重合性組成物を更に硬化させる。このような処理によって、モアレを抑制することができるローパスフィルタ等として使用される、屈折率が異なる柱状構造体を内部に有する成形体が形成される。
【0029】
次に、上記ローパスフィルタ製造工程中に行われる塗膜形成について詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態にかかるスピンコータの概略を示す断面図であり、図2は、図1のスピンコータの一部を拡大した断面図である。
【0030】
先ず、図1に示すように、スピンコータ1は、所定の軸回りに回転駆動するステージ3を備える。ステージ3は、加工対象となる基材5を配置するための平坦な円形板7と、円形板7を支持するための円柱状の支柱9を備える。このステージ3は、モータ等の駆動手段(図示せず)により、支柱9の軸回りに回転駆動する。また、基材7には、真空チャック(図示せず)が設けられ、この真空チャックは、円形板7の上面に配置された基材5を円形板7上に固定する。
尚、DVD等の中心部に孔が開いている基材に塗膜処理を施すためのスピンコータに関しては、ステージの中心部にセンターピンを設け、このセンターピンを利用して基材をステージに固定する構成としてもよい。
【0031】
また、スピンコータ1は、ステージ3の上側に設けられたエアノズル11と、ステージ3の下側に設けられたエア吹出筒13を備える。エアノズル11は、その中心部が、ステージ3の回転軸と重なるように、ステージ3の上方に固定される。また、エアノズル11は、中心部に形成されたエアの導入口15と、その外周全周に沿って形成された吹出口17を備え、導入口15と吹出口17が連通するようになっている。また、円板形状のエアノズル11の外周近傍は、下側に向けて曲げられており、吹出口17が、エアノズル11の周方向外側下方に向けて開口する。
【0032】
エア吹出筒13は、ステージ3の支柱9から所定の間隔をもって配置され、ステージ3の支柱9の径方向外側を囲む筒形状によって構成される。そして、ステージ3の支柱9及び円形板7と、エア吹出筒13の間には、全周に亘ってエアの流路19が形成される。また、エア吹出筒13の下側にはエア導入口(図示せず)が設けられており、このエア導入口からエア吹出筒13内にエアを導入すると、エアは、エア吹出筒13の壁とステージ3の支柱9の間に設けられた流路19を通って上方に流れる。そして、エアは、ステージ3の円形板7とエア吹出筒13との間を通ってステージ3の円形板7の径方向外側に向けて流れる。
【0033】
次に、図2を参照して、スピンコータ1についてさらに詳述する。図2に示すように、エアノズル11は、エアが基材5の中央から周縁に向かって流れるように、吹出口17からのエアの吹き出し方向が基材5の上面の垂線Aに対して角度αをなすように構成される。この角度αは、鋭角とされ、より具体的には45度乃至80度であることが好ましく、60度乃至80度であることがより好ましく、70度乃至80度であることがさらに好ましい。角度αを上記範囲に設定することにより、塗液にエアが当たったとき、塗液が基材5の中央側に向かって流されるのを防止することができる。
【0034】
また、エアノズル11の吹出口17の幅Sは、例えば、0.1mm乃至0.15mmに設定される。また、吹出口17の下端から基材5の上面までの距離L1は、0.5mm乃至2.0mmに設定されるのが好ましい。距離L1をこのように設定することにより、エアノズル11から吹き出したエアの風速が、塗液に到達する前に低下して、除去効果が低下するのを防止することができる。また、エアノズル11は、吹出口17からのエアが基材5に当たる位置と基材5の縁との距離L2が1mm乃至5mmとなるように配置されるのが好ましい。また、基材5とエア吹出筒13との間の距離L3は、0.1mm乃至0.15mmに設定されるのが好ましい。距離L3をこのように設定することにより、基材5上から除去された塗液が、流路19内に入り込むのを防止することができる。また、エアノズル11の吹出口17から吹き出るエアの風速は、30m/s乃至400m/sとなるように設定されるのが好ましい。
【0035】
尚、上記の各値は、塗液の粘度、形成する塗膜の厚さ等に応じて適宜変更することができる。
【0036】
次に、スピンコータ1を用いた塗膜形成方法について、図3乃至図5を参照して詳述する。ここで、図3乃至図5は、スピンコータの概略を示す断面図であり、スピンコータを用いた塗膜形成方法について説明するための図である。
【0037】
本実施形態における塗膜形成方法においては、先ず、基材5の上面に、塗膜を形成するための塗液21を配置する。このとき塗液21は、ステージ3の円形板7の中心部近傍に配置される。次いで、ステージ3を軸回りに回転させる。これにより、ステージ3の円形板7の中心部近傍に配置された塗液が、遠心力により広げられ、円形板7の周縁部に広がる。そして、ステージ3の回転を停止させると、図4に示すように、ステージ3の円形板7の中心部近傍での塗液の厚さが所望の厚さとなる。一方で、ステージ3の円形板7の周縁部近傍には、塗液21の表面張力により、盛り上がりが形成される。
【0038】
次いで、エアノズル11によって基材5の上面にエアを吹き付けるのと同時に、エア吹出筒13によって基材5の下側から基材5にエアを吹き付ける。そしてエアノズル11から基材5の上面に吹き付けられたエアにより、エアが円形板7に当たる位置よりも、円形板7の周方向外側にある塗液を、円形板7の外側に飛ばすことができる。このときエアノズル11の吹出口17は、エアノズル11の周方向全周に亘って設けられているため、円形板7の周縁部近傍の塗液を、全周に亘って同時に飛ばすことができる。
【0039】
これにより、図5に示すように、円形板7の周縁部にある、塗液の盛り上がり及び盛り上がりの下にある塗液を基材5上から除去することができる。これにより、基材5上に、厚さが均一で、基材5の径から、除去した周縁部の幅を差し引いた径を有する円形の塗膜を形成することができる。
【0040】
また、このとき、エア吹出筒13によって円形板7の下側からエアを吹き付けることによって、円形板7の上面から飛散した塗液が、円形板7の縁を回り込んで円形板7の側部に付着し、又は流路19に入り込むのを防止することができる。
【0041】
尚、エアノズル11からエアを吹き付けるのは、ステージ3の回転により塗液を周縁部まで全面に塗膜を形成してからが好ましい。塗液が周縁部まで広がる前にエアを吹き付けると、エアによって上手く塗膜が形成されないためである。塗膜形成後にエアを吹き付ける際はステージ3を停止した状態でも良いが、ステージ3を回転させながらでも良い。回転させながら吹き付ける際は、ステージ3の回転速度が速すぎると所望の膜厚より更に薄くなってしまうため、塗膜を形成する回転速度よりも十分に遅い回転数である必要がある。
尚、エア吹出筒13によるエアの吹き付けだけは、塗膜を形成した後ではなく、ステージ3を回転させて塗液21を広げている間に開始することが好ましい。これにより、塗液21を広げている間、塗液21が円形板7の縁を回り込んで流路19に入り込むのを防止することができる。
【0042】
次に、本発明の第2の実施形態について詳述する。尚、第2の実施形態にかかるスピンコータは、上述の第1の実施形態にかかるスピンコータ1と同一の構成を有する箇所があるため、該箇所については詳細な説明を省略し、差異のある箇所についてのみ詳細な説明をする。
【0043】
図6は、第2の実施形態にかかるスピンコータを示す断面図である。図6に示すように、スピンコータ31は、ステージ3の円形板7の上側及び下側にそれぞれ、チューブ状のエア吹出部33,35を備える。
【0044】
上側エア吹出部33及び下側エア吹出部35は、上述のエアノズル11及びエア吹出筒13とは異なり、基材5の全周ではなく、基材5の一点にエアを吹き付けるようになっている。
【0045】
さらに上側エア吹出部33及び下側エア吹出部35は基材5の中心から同一直線状に配置されるのが好ましい。エア吹出部が同一直線状に無い場合、上側エア吹出部によって除去した際の回り込みを防ぐ下側エア吹出部のエアの効果が無くなる場合がある。
【0046】
また、上側エア吹出部33の吹出口37は、エアの吹き出し方向が、上述のように円形板7の上面の垂線Aに対して角度αをなすように構成される。この角度αは、鋭角とされ、より具体的には45度乃至85度であることが好ましく、60度乃至85度であることがより好ましく、70度乃至80度であることがさらに好ましい。角度αを上記範囲に設定することにより、塗液にエアが当たったとき、塗液が基材5の中央側に向かって流されるのを防止することができる。
【0047】
上側エア吹出部33の吹出口37の最下面と基材5の上面までの距離L4は、0.5mm乃至2.0mmに設定されるのが好ましい。距離L4をこのように設定することにより、上側エア吹出部33から吹き出したエアの風速が、塗液に到達する前に低下して、除去効果が低下するのを防止することができる。また、上側エア吹出部33の吹出口33の先端面と基材5の縁との距離L5が1mm乃至5mmとなるように配置されるのが好ましい。
【0048】
下側エア吹出部35の吹出口39の最上面と基材5の下面までの距離L6は、0.5mm乃至2.0mmに設定されるのが好ましい。距離L6をこのように設定することにより、上側エア吹出部33から吹き飛ばされた塗液が基材5裏面に回り込むのを防ぐための効果が低下するのを防止することができる。また、下側エア吹出部35の吹出口39の先端面と基材5の縁との距離L7が1mm乃至2mmとなるように設置されるのが好ましい。
【0049】
上側エア吹出口37および下側エア吹出口39から吹き出るエアの風速は30m/s乃至400m/sとなるように設定されるのが好ましい。
【0050】
尚、上側エア吹出部33と下側エア吹出部35配置場所によっては、吹出口の風速が同じでも、上面の除去と下面の回り込み防止のエアのバランスが取れなくなる事があるので、その時は適宜上側と下側のエアの風速を調整すればよい。
【0051】
尚、上記の各値は、塗液の粘度、形成する塗膜の厚さ等に応じて適宜変更することができる。
【0052】
そして、このようなスピンコータ31を用いて基材5上に塗膜を形成する場合、ステージ3を回転させて塗液を広げ塗膜を形成した後、ステージ3の回転速度を10rpm乃至100rpm程度に遅くして回転させながら、基材5が1回転乃至3回転する間だけ上側エア吹出部33及び下側エア吹出部35から同時に、基材5にエアを吹き付ける。なお、ステージ3の回転速度は、速すぎると所望の膜厚の塗膜より更に薄くなってしまうため、塗膜を形成する回転速度よりも十分に遅い回転数である必要がある。
尚、下側エア吹出部35によるエアの吹き付けは、ステージ3を回転させて塗膜を形成している間も吹き付けを行っても良い。これにより、塗液を広げている間の回り込みを防止することができる。
【0053】
このように、チューブ状の上側エア吹出部33及び下側吹出部35を用いて、ステージ3を回転させながら盛り上がりを除去するようにしても、基材5上に、上述のように均一な厚さの膜を形成することができる。
【実施例】
【0054】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0055】
本実施例では、φ120mm、厚さ0.7mmのガラス板(セラテックジャパン(株)製、商品名:D263)を基材として本塗膜形成法を行った。以下の記載において「部」は質量部を示す。
【0056】
基材上に配置する塗液としては、ポリオキシテトラメチレングリコールジメテクリレート(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルPBOM)25部、2,2ビスプロパン(第一工業製薬(株)製、商品名:ニューフロンティア BPEM−10)30部、フェノールエチルアクリレート(第一工業製薬(株)製、商品名:ニューフロンティア PHE)10部、ウレタンアクリレート組成物(第一工業製薬(株)製、商品名:GX−8662V)35部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名:IRGACURE 184)1.6部を混合したものを用いた。なお、塗液の20℃における粘度は1100mPa・sであった。
【0057】
(実施例1)
(1)エアノズルの設置
実施形態1(図1参照)において詳述したスピンコータを用いた。このとき、エアノズルは、スリット幅が0.1mm、エア吹き出し方向の角度は基材の上面の垂線に対して60度となるものを用いた。またエアノズルと基材の距離を、0.5mmに設置し、エアノズルから吹き付けたエアが基材に当たる位置と基材との縁との距離を、5mmに設置した。
【0058】
(2)塗膜の形成
上述のようなスピンコータのステージ上に基材を真空吸着によって固定した後、スポイトを用いて塗布面の中心付近に塗液50ml程度を垂らし、エア吹出筒から吹き出すエアの風速が30m/sとなるようにした。そして、エア吹出筒からエアが吹き出している状態で、ステージを600rpmで30秒間回転させ、膜厚が70μmとなるように制御した。
【0059】
ステージの回転を停止させた後、エアノズルから吹き出すエアの風速が約200m/sとなるように設定し、さらにエア吹出筒から吹き出すエアの風速が50m/sとなるように設定して、エアノズル及びエア吹出筒によって、同時に基材にエアを30秒間吹き付けた。
【0060】
この結果、基材上にφ約110mm、膜厚70μmの円が形成された。エアによって形成される中央部と周縁部の間の盛り上がりは、所望の膜厚より5μm程度厚い状態であった。また、基材の下面に塗液は付着していなかった。
【0061】
(比較例1)
ステージの回転を停止させた以降のエアによる処理を行わない以外は実施例1と同様に処理を行った。
【0062】
その結果、基材全面に塗膜が形成され、塗膜の中央部は膜厚は70μmであり、基材下面に塗液の付着はなかった。しかし、塗膜の周縁部に所望の膜厚より40μmほど厚い盛上りが形成されていた。
【0063】
(実施例2)
(1)エアノズルの設置
実施例2では、実施形態2において詳述したスピンコータを用いた。このとき、上側エア吹出部および下側エア吹出部には、武蔵エンジニアリング(株)製の特殊ニードル(ニードル型式:SNA−18G)を用い、エア吹き出し方向の角度は,基材の上面の垂線に対して80度となるように曲げ加工を行ったものを用いた。また上エア吹出部の吹出口の最下面と基材の上面との距離を0.5mmに,下側エア吹出部の吹出口の最上面と基材の下面までの距離を0.5mmとした。さらに上下側エア吹出部の吹出口の先端面と基材の縁との距離を2mmに設置した。
【0064】
(2)塗膜の形成
前記スピンコータのステージ上に基材を真空吸着によって固定した後、スポイトを用いて塗布面の中心付近に塗液50ml程度を垂らし、ステージを600rpmで30秒間回転させながら、膜厚を70μmとした。
【0065】
次いで、600rpmで30秒間回転させた後にステージを10rpmで20秒間回転させながら上下エア吹出部から吹き出すエアの風速が約200m/sとなるように設定しエアを吹き付けた。
【0066】
その結果、基材上にφ約110mm、膜厚70μmの円が形成された。エアによって形成される中央部と周縁部の間の盛り上がりは、所望の膜厚より3μm程度厚い状態であった。また、基材の下面に塗液は付着していなかった。
(比較例2)
上下エア吹出部の下側エア吹出部からのエアの吹き付けを行わない以外は,実施例2と同様の処理を行った。
【0067】
その結果、基材全面に塗膜が形成され、塗膜の中央部は膜厚は70μmであり、基材下面に塗液の付着はなかった。しかし、塗膜の周縁部に所望の膜厚より40μmほど厚い盛上りが形成されていた。
【符号の説明】
【0068】
1,31 スピンコータ
3 ステージ
5 基材
11 エアノズル
13 エア吹出筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に塗膜を形成する塗膜形成方法であって、
前記基材の上面に塗膜を形成するための塗液を配置する塗膜配置工程と、
前記基材を所定の軸回りに回転させる基材回転工程と、
前記基材の上部から前記基材の上面周縁部にエアを吹き付けるエア吹き付け工程とを備え、
前記エア吹き付け工程では、前記基材の中心部から当該基材の外側に向う方向に沿って,エアを吹き付けること、
を特徴とする塗膜形成方法。
【請求項2】
前記エア吹き付け工程では、前記基材の上面にエアを吹き付けるのと同時に、前記基材の中心部から基材の外側に向う方向に沿って、前記基材の下面にエアを吹き付ける請求項1に記載の塗膜形成方法。
【請求項3】
基材表面に塗膜を形成するためのスピンコータであって、
塗膜が形成される基材を保持し、且つ該基材を所定の軸回りに回転させるステージと、
前記基材の上部から前記基材の上面周縁部にエアを吹き付ける上エア吹き付け部とを備え、
該上エア吹き付け部は、前記基材の中心部から当該基材の外側に向う方向に沿って、エアを吹き付けること、
を特徴とするスピンコータ。
【請求項4】
基材の中心部から基材の外側に向う方向に沿って、前記基材の下面にエアを吹き付ける下エア吹き付け部をさらに備える請求項3に記載のスピンコータ。
【請求項5】
前記上エア吹き付け部は、円板形状を有し、その外周全周に沿って形成された吹出口を備える請求項3に記載のスピンコータ。
【請求項6】
前記下エア吹き付け部は、前記ステージとの間に所定の間隔をもって前記ステージを囲む筒状体を備え、この筒状体と前記ステージの間に形成された流路を介して前記エアを前記基材の下面に吹き付ける請求項4に記載のスピンコータ。
【請求項7】
前記上エア吹き付け部及び/又は下エア吹き付け部は、先端が前記基材の上面及び/又は下面に向けて配置されたチューブ状部材によって構成されている請求項3に記載のスピンコータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−36847(P2011−36847A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282556(P2009−282556)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】