説明

塗膜形成装置

【課題】リングコート工法を採用した塗膜形成装置特有の、塗料開始直後の相対的に高い圧力での塗料架橋後に形成される膜厚が速やかに安定させることができる塗膜形成装置を提供する。
【解決手段】円筒状の被塗装物を保持する被塗装物保持部、被塗装物の外側面の全周に対し円筒状部材の軸方向に向かって環状に塗料を吐出するスリットが設けられた塗布ノズル、被塗装物保持部と塗布ノズルとを被塗装物の軸に沿って相対的に移動させる移動部、および、塗布ノズルに塗料を供給する塗料供給部が設けられた塗膜形成装置において、塗布ノズルのスリットの幅を調整することによりスリットから吐出される塗料の吐出量を調整するスリット幅調整部が設けられ、かつ、スリット幅調整部が、スリットを構成する2つの部材のうちの一方の部材であって他方の部材に対して前後に移動可能に設けられた可動部と、可動部を駆動する可動部駆動部と、から構成されている塗膜形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンタ等に用いられる定着ベルトなどの無端状ベルトの基体などの円筒状被塗装物と塗料を吐出するノズル部とを相対移動することにより、円筒状被塗装物の表面に塗膜を形成するリングコート式の塗膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の原理に基づく複写機およびプリンタにおいて、トナーが転写された用紙を加圧しながら熱によりトナーを溶融して定着させる定着プロセスが存在する。最近、この定着プロセスで用いられる部品(定着ローラあるいは定着ベルト)には弾性層(厚さ:100〜300μm程度)が形成された耐熱性ゴム(シリコーンゴム)が使われる。
【0003】
前述した弾性層を形成するために従来、例えば、スプレー塗装方式の塗膜形成装置やディッピング方式の塗膜形成装置が用いられてきた。これらの塗膜形成装置では、塗料を溶剤で希釈して粘度を下げることにより、形成される塗膜の厚みを制御する。このために環境への負荷が大きく、望ましくない。
【0004】
また、塗料を溶剤で希釈することなく塗膜を形成する塗膜形成装置として、リングコート工法を採用した塗膜形成装置(例えば、特許文献1参照)がある。この塗膜形成装置は、軸が鉛直方向となるように保持した円筒状の基体を円環状の塗布ノズル内に通し、塗布ノズルを円筒状の基体の軸に沿って移動させながら、塗布ノズルの内周面から基体の外周面に向かって塗料を吐出することで、塗膜を形成するものである。このような塗膜形成装置は、塗料の供給が基体に塗布する量だけでよく、このため、塗料を溶剤で希釈する必要がない。
【0005】
しかしながら、この技術ではノズルから吐出される塗料の方向が水平であるために、塗装開始時にダイ内部の圧力を瞬間的に高めて(ピーク圧)、塗料を被塗装物へ吐出して架橋させる必要がある。ここで、塗料の吐出量はダイ内部の圧力に比例して増大するが、塗装開始時の圧力は通常時の1.5〜3倍となるために塗装開始時の塗料の吐出量も増大し、その結果、膜厚の被塗装物軸方向への均一性を確保することが困難であった。
【0006】
そこで特許文献1に記載の技術を実際に応用するときには、塗装開始時に形成される膜厚が厚い領域を、塗装後に切断することで対応してきた。しかしながら、被塗装物とダイとが大型化すると圧力の応答性が低下し、圧力を高めた後に定常の圧力に戻るまでの時間が長くなり、結果として、切断領域が長くなりコスト増大に繋がる。
【0007】
ここで、このような膜厚不良域を短くする方法として特開2003−190862号公報(特許文献2)ではダイの内圧変化に応じて塗装速度を調整することで膜厚の安定化を図っている。しかし、この技術は、図14(a)〜図14(b)にその工程を順にモデル的に示すように、平面に対して上方から吐液を供給する技術であって、基本的には図15(b)に示すような圧力変化しかない塗布技術であって、図15(a)に示すような塗装開始時のダイ内圧の急激な上昇や塗料吐出量の急激な増大は想定されておらず、このために、この技術を応用した場合であっても、塗装速度の調整のみで膜厚を安定化させることが現実的に難しく、この技術をノズルと被塗装物との間隔が広い特許文献1の技術に応用した場合には、むしろ、塗装膜厚不良域を増大させてしまう可能性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、本発明は、リングコート工法を採用した塗膜形成装置の上記問題点を解決する、すなわち、塗料開始直後の、相対的に高い圧力での塗料架橋後に形成される膜厚が速やかに安定させることができる塗膜形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の塗膜形成装置は、上記問題点を解決するために、請求項1に記載の通り、円筒状の被塗装物を保持する被塗装物保持部、前記被塗装物の外側面の全周に対し該円筒状部材の軸方向に向かって環状に塗料を吐出するスリットが設けられた塗布ノズル、前記被塗装物保持部と前記塗布ノズルとを前記被塗装物の軸に沿って相対的に移動させる移動部、および、前記塗布ノズルに前記塗料を供給する塗料供給部が設けられた塗膜形成装置において、前記塗布ノズルのスリットの幅を調整することにより該スリットから吐出される塗料の吐出量を調整するスリット幅調整部が設けられ、かつ、前記スリット幅調整部が、前記スリットを構成する2つの部材のうちの一方の部材であって他方の部材に対して前後に移動可能に設けられた可動部と、該可動部を駆動する可動部駆動部と、から構成されていることを特徴とする塗膜形成装置である。
【0010】
また、本発明の塗膜形成装置は請求項2に記載の通り、請求項1に記載の塗膜形成装置において、前記可動部駆動部としての圧電素子、該塗布ノズル内の前記塗料の圧力を検知する圧力測定器、および、該圧力測定器で検知された前記塗料の圧力に応じて前記圧電素子により前記塗布ノズルのスリットの幅を制御するスリット幅制御手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の塗膜形成装置は請求項3に記載の通り、請求項2に記載の塗膜形成装置において、前記圧電素子が、てこを介して前記可動部を駆動するものであり、かつ、該てこの支点が、該可動部側の作用点よりも該圧電素子側に設けられた力点に近い位置に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塗膜形成装置は、前記塗布ノズルのスリットの幅を調整することにより該スリットから吐出される塗料の吐出量を調整するスリット幅調整部が設けられ、かつ、前記スリット幅調整部が、前記スリットを構成する2つの部材のうちの一方の部材であって他方の部材に対して前後に移動可能に設けられた可動部と、該可動部を駆動する可動部駆動部と、から構成されているので、リングコート工法を採用した塗膜形成装置で必要な塗布開始の際の、塗料架橋のために塗布ノズルの内部圧力が高められて架橋が形成されるときの圧力が高い場合であっても、スリット幅を小さくすることによって塗料の吐出量の増大を防ぐことができ、被塗装物の軸方向の膜厚を均一にすることが可能となる。
【0013】
また、請求項2に記載の塗膜形成装置は、前記可動部駆動部としての圧電素子、該塗布ノズル内の前記塗料の圧力を検知する圧力測定器、および、該圧力測定器で検知された前記塗料の圧力に応じて前記圧電素子により前記塗布ノズルのスリットの幅を制御するスリット幅制御手段を備えているので、実際の塗布ノズル内の圧力を制御に利用できるのでより効果的に、塗料の吐出量を時間軸に対し一定に保つことができ、結果として被塗装物の軸方向の膜厚を均一にすることが可能となる。
【0014】
また、請求項3に記載の塗膜形成装置は、前記圧電素子が、前記圧電素子が、てこを介して前記可動部を駆動するものであり、かつ、該てこの支点が、該可動部側の作用点よりも該圧電素子側に設けられた力点に近い位置に設けられている構成により、塗布ノズル内部のより大きい圧力変化に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る塗膜形成装置により塗装されて製造された製品の一例である画像形成装置の定着ベルト、および、その断面のモデル図である。
【図2】本発明に係る塗膜形成装置の例5を示すモデル図である。
【図3】塗布ノズル7付近のモデル断面図である。
【図4】図4(a)塗布ノズル7の軸を通る垂直面でのモデル断面図である。図4(b)塗布ノズル7のモデル上面である。
【図5】動作時の塗膜形成装置5のノズル内圧力の時間変化を示す説明図である。
【図6】図6(a)塗膜形成装置5の初期状態を示すモデル図(一部断面図)である。図6(b)図6(a)における塗布ノズル7付近のモデル拡大断面図である。
【図7】図7(a)塗料供給部6の作動により塗装ノズル7に塗料14が供給された状態を示すモデル図(一部断面図)である。図7(b)図7(a)における塗布ノズル7付近のモデル拡大断面図である。である。
【図8】被塗装物18が被塗装物保持部9にセットされた状態を示すモデル図である。
【図9】図9(a)塗料供給部6からの塗装ノズル7への塗料14の供給が再開され、塗料14が架橋した状態を示すモデル図(一部断面図)である。図9(b)図9(a)における塗布ノズル7付近のモデル拡大断面図である。
【図10】図10(a)通常塗布時の状態を示すモデル図(一部断面図)である。図10(b)図10(a)における塗布ノズル7付近のモデル拡大断面図である。
【図11】塗装領域の下端がスリット21と同じ高さとなり、塗膜形成が終了したときの塗膜形成装置5の状態を示すモデル図である。
【図12】塗料塗布済みの被塗装物18を装置から取り外す状態を示すモデル図である。
【図13】移動ベース20を下降させた状態を示すモデル図である。
【図14】特許文献2に記載された技術を説明するためのモデル図である。
【図15】図15(a)特許文献1に記載された技術を用いたときに生じるノズル内の圧力の時間変化を示すモデル図である。図15(b)特許文献2に記載された技術を用いたときに生じるノズル内の圧力の時間変化を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る塗膜形成装置の一例の動作について、以下に図面を参照して説明する。
【0017】
図1に本発明に係る塗膜形成装置により塗装されて製造された製品の一例である画像形成装置の定着ベルト、および、その断面のモデル図を示す。符号1は定着ベルト(被塗装物)の基材であり、その材質は樹脂(一般的に高い耐熱性を有するためにポリイミドが選択される)で、無端状ベルト形状(円筒形状)をしており、厚みは通常50〜120μmである。基材1の外側面に弾性層2としてシリコーンゴム層、次いで、離型層3としてフッ素樹脂(一般的にPFA(パーフルオロアルコキシアルカン))層が、この順で積層されており、弾性層2の外側面部分4は接着性向上のためにコロナ放電処理された後、プライマ剤が塗装されている。ここで弾性層2の厚さは通常100〜250μm、離型層3の厚さは通常10〜30μmである。
【0018】
以下に、本発明に係る塗膜形成装置を用いて弾性層2を塗装によって形成する例について説明する。
【0019】
図2に、本発明に係る塗膜形成装置の例5を示す。この塗膜形成装置5は、液状の塗料を供給する塗料供給部6、塗布ノズル7、被塗装物移動部8、被塗装物保持部9、基台部10、リフト部11、および、図示しない制御部を備えている。
【0020】
塗料供給部6は、シリンダポンプ15、チューブ12等を備えている。チューブ12は、シリンダポンプ15と後述する塗布ノズル7の固定部13とを接続しており、シリンダポンプ15は、チューブ12を通して塗布ノズル7内に塗料14を供給する。
【0021】
リフト部11は基台部10に立設され、モータ、リニアエンコーダを備えており、被塗装物移動部8と移動カラー19とを備えた移動ベース20を昇降駆動させることができる。
【0022】
移動カラー19は、円筒状に形成され、被塗装物保持部9と同軸に保持されており、被塗装物18を上面に載置しながら上下(図1中両矢印方向)に移動させる。
【0023】
移動ベース20は、移動カラー19を支持している。このように、リフト部11は移動ベース20をモータにより昇降させることで、被塗装物18を塗布ノズル7に対して相対的に上下移動させる。
【0024】
また、図示しないリニアエンコーダは、移動ベース20、すなわち、起動ベースの移動カラー19に載置された被塗装物18の位置を検出し、検出した被塗装物18の位置を、制御部に出力する。
【0025】
基台部10の上には、被塗装物保持部9とテーブル16を支える4本の支柱17とが設けられている。円柱状の被塗装物保持部9は、その軸が鉛直となるように設置されている。この例では被塗装物保持部9の全長は、被塗装物18の全長の約2倍である。
【0026】
被塗装物保持部9は、円筒状の被塗装物18の筒部に挿入されて、被塗装物18を保持する。このとき、被塗装物保持部9の外周面と被塗装物18の内周面とが互いに密着するために被塗装物18は断面が真円になるように保持され、その結果、被塗装物18のいずれの箇所であっても塗布ノズル7からの距離は一定に保たれる。
【0027】
制御部は、周知のRAM(タイマー兼用)、ROM、CPUなどを備えたコンピュータである。制御部は、塗料供給部6、塗布ノズル7、および、リニアエンコーダに接続されており、これらからの信号を受け、また、これらを制御して、塗膜形成装置5全体の制御を行う。また、図示しない動作継続スイッチ、および、移動部復帰スイッチが塗膜形成装置5に備えられており、これらが制御部に接続されている。
【0028】
テーブル16上に設けられた塗布ノズル7は、中空の円環状に形成されており、被塗装物保持部9と同軸に配置されている。塗布ノズル7の内部の空間には、前述した塗料供給部6から塗料14が供給される。塗布ノズル7の内径は被塗装物保持部9に保持された被塗装物18の外径よりも大きく、両者の間の隙間(コーティングギャップ)CGは、形成する弾性層2の厚みの約1.5〜2倍程度となっている。塗布ノズル7は、被塗装物18の外側面の全周に対し該円筒状部材の軸方向に塗料供給部6から供給された塗料14を環状に吐出し、塗布ノズル7は、前述したコーティングギャップCGによって、被塗装物18の外周面に所定の厚みの弾性層2を形成することができる。
【0029】
図3に塗布ノズル7のモデル断面図を示す。塗布ノズル7は主として固定部13と可動部22から構成されている。
【0030】
一方、塗布ノズル7の可動部22は図中両矢印方向に移動可能であり、この結果可動部22と固定部13との間で形成されるスリット21の幅は可変となっている。
【0031】
可動部22の移動の際に、スリット21の幅の円周方向のばらつきを抑えるために、固定部13と可動部22とはこの例では鋼球(コロなどでもよい)からなるガイド材23を介して接している。可動部22と固定部13との間から塗料14が外部へ漏洩することを防ぐためにこの例ではDリングが取り付けられている。
【0032】
このような塗布ノズル7への塗料14の供給は、固定部13の底面の円周方向4点に設けられた配管25を介して行われる。塗料供給部6から塗布ノズル7内部へ供給された塗料14は、固定部13の全周の内部に設けられたマニホールド26に一時的に蓄えられることで、スリット21の全周へ均一な圧力で送られ、全周に亘って均一な吐出が可能となっている。
【0033】
塗料供給部6の作動により塗布ノズル7内部に塗料14が満たされると、塗布ノズル7内の圧力が高まり、その圧力に押されて可動部22が持ち上げられる。このとき、可動部22の上面に取り付けたバネ27が圧縮されるために、可動部22は自重とバネ27による付勢力との和と塗布ノズル7の内部圧力とが釣り合う位置で止まる。
【0034】
本例では、通常塗装時、すなわち、塗布ノズル7の内部圧力が安定して所定の厚さでの塗装が継続して行われるとき、での、このスリット21の幅が0.5〜1mm程度となるようにバネ27の強度と長さとあらかじめ調整してある。
【0035】
このような塗布ノズル7では、塗布ノズル7内部の圧力が低い場合には、可動部22は自重とバネ27による付勢力とにより下降するが、固定部13と取付具28とに形成されたストッパ29に可動部22の凸部が当接することで、スリット21が完全に閉じないようにしている。このことにより、スリット21が完全に閉じた場合に生じる、塗布ノズル7に塗料14が満たされ、内部の圧力が上昇しても、スリット21内に塗料14が入らずに、可動部22が持ち上がらなくなることを防止している。
【0036】
塗料14の吐出量は、塗布ノズル7の内部圧力とスリット21の幅とで決まるが、塗布ノズル7の内部圧力は、塗装開始時には、塗布ノズル7から被塗装物18への塗料14の架橋のために、通常塗装時の1.5〜3倍にまで高くされ(ピーク圧)、従来技術であるスリット21の幅が一定の場合では、塗料14の吐出量が多くなる。この吐出量の増加により塗装膜が厚くなり、膜厚不領域となる。これに対し、本発明では、この塗装開始時の圧力が高い時期に、スリット21の幅を小さくすることで吐出量を減少させるようにすることで、塗布ノズル7の内部圧力が高くなっても塗料吐出量を一定に保ち、被塗装品における膜厚不良部分の低減を可能とする。
【0037】
スリット21幅を調整する調整部30は、圧電素子31(積層型)、てこ(梃子)32、内圧センサ33から構成されている。圧電素子31は前述した制御部にその動作を制御されている。前述した塗料供給部6からの塗料供給が開始されると、それと同期して制御部により圧電素子31に電圧が印加されて、鉛直方向の上向きに全長が拡大する。本例ではこの変位量は30〜50μm程度である。圧電素子31の全長が長くなると、圧電素子31の上側に設置されたてこ32の力点32a側に上向きの荷重がかけられる。その荷重はてこ32を介して作用点32cとして可動部22の上面に伝えられる。また、このてこ32では、力点32aから支点32bまでの長さL1よりも、支点32bから作用点32cまでの長さL2の方が長くなっており、作用点32c側に伝えられる荷重は小さくなり、変位量は大きくなる。ここで、本例ではL2はL1の4〜6倍に設定し、可動部22へ伝えられる変位量を150〜250μm程度にしている。これのように変異量を拡大することにより、スリット21の幅をより細くすることが可能となり、その結果、塗布ノズル7の内部圧力が通常塗装時の1.5〜3倍となるピーク圧(図5(ノズル内圧力の変化を示す図)におけるP2)時でも、塗料14の吐出量を通常塗装時と同等に保つことができる。マニホールド内に塗料が充填されたときに上記のセンサ33は圧力を感知し、図5におけるP1を検出できる(センサ33は塗料の流れを妨げないところであればマニホールド26内のどこに設置しても良い)。
【0038】
また、吐出開始後ピーク圧印加終了後(図5におけるP2〜P4)は、固定部13に埋め込まれた内圧センサ33が塗布ノズル7の内部圧力を検出し制御部へ出力し、制御部はそれに応じて圧電素子31へ付与する電圧の制御を行う。これによりスリット21の幅を内部圧力に対応する幅に調整することで、塗料14の吐出量を一定に保つ。
【0039】
以上の調整部30は、塗布ノズル7の軸を通る垂直面でのモデル断面図(図4(a))、および、モデル上面図(図4(b))に示すように、塗布ノズル7の上面の4箇所に設けられており、制御部により全て同時に同じ動作を行う。
【0040】
次に上記塗装装置の動作を、図6〜図13を用いて順に、その一連の流れを説明する。
【0041】
図6(a)は初期状態、すなわち、塗料供給部6の作動前の状態を示す装置全体図(一部断面図)であり、図6(b)は塗布ノズル7付近のモデル拡大断面図である。
【0042】
図示されているように初期状態では塗装ノズル7の内部は塗料14が満たされておらず、ノズル内圧力は0であり、可動部22はその自重とバネ27の荷重とにより下降し、ストッパ29により最低位置に保持されている。このとき、スリット21は完全には閉じてはおらず、後述する塗料の通り道が確保された状態となっている。このときのスリット21の幅は、この例では通常塗装時と比べて150〜250μm小さくなっている。また、このとき、移動カラー19は下方の位置で保持されている。この移動カラー19の保持位置は、後述する移動カラー19の上面に被塗装物18をセットしたときにスリット21の先端の位置が被塗装物18の塗装開始位置と一致する位置である。
【0043】
図7(a)は塗料供給部6の作動により塗装ノズル7に塗料14が供給された状態を示すモデル図(一部断面図)であり、図7(b)は塗布ノズル7付近のモデル拡大断面図である。
【0044】
装置操作者は、図示しないスイッチを操作することにより塗料供給部6を制御し、塗料14を、チューブ12と配管25とを経て、塗布ノズル7の内部へ供給させる。塗布ノズル7の内部(マニホールド26)が塗料14で満たされたのち、塗料14がスリット21の先端から吐出され始める。このとき、装置操作者は手動で塗料14の供給を停止する。このときの塗布ノズル7の内部圧力は図5におけるP1に達する。その後スリット21の先端に付着した塗料14を清掃して除去する。
【0045】
上記塗料14の供給停止までに、スリット21にも塗料14が供給され、その圧力によって可動部22に対し上方への荷重が印加されて、その結果、可動部22は持ち上がり、スリット21の幅が大きくなる。その結果、可動部22が持ち上がるとバネ27が圧縮され、可動部22に対し、下方へ付勢する。可動部22の自重とバネ27の付勢力との和と塗料14の圧力(図5中P1)とが均衡する位置で可動部22の上昇は停止するが、このときのスリット21の幅は通常塗装時と比べて狭い。このようにスリット21に塗料14が供給された状態で、塗膜形成装置5は後述する図示しない動作継続スイッチが押されるまで待機する。
【0046】
次に図8で下矢印で示すように、ベルト基材1にコロナ放電処理が施された被塗装物18を被塗装物保持部9に、この例では装置操作者がセットする。このとき円筒状の被塗装物18の内側を被塗装物保持部9が貫通するように被塗装物保持部9の先端から被塗装物18をセットし、被塗装物18下端を移動カラー19の上面に載置する。このときスリット21の先端は上述のように被塗装物18の塗装開始位置に位置している。
【0047】
装置操作者は、被塗装物18をセットした後、図示しない動作継続スイッチを操作する(図5における上向き矢印)。制御部は動作継続スイッチのオン信号を受けて図9で示すように、塗料供給部6からの塗装ノズル7への塗料14の供給を再開させる。このとき、制御部は、再開直後の塗料14の塗装ノズル7の内部圧力が、スリット21から吐出される塗料14が被塗装物18外側面に確実に架橋することがあらかじめ確認された条件(塗料供給部6の所定出力および所定時間。「架橋形成条件」と云う)になるように、塗料供給部6を制御する。このとき、塗布ノズル7の内部圧力は通常塗装時の1.5〜3倍(図5中P2)になり、スリット21から被塗装物18外側面に向けて塗料14が架橋するに充分な圧力で塗料14が吐出されて、塗料14が両者間を架橋する(図9(a)および図9(b)参照)。
【0048】
このとき、制御部は圧電素子31に塗布ノズル7の内部圧力に応じて電圧を印加する。この例では圧電素子31の全長の最大変位量は30〜50μmであり、電圧印加により長くなった圧電素子31はてこ32の力点32aを上方に押し上げる。圧電素子31の変位量はてこ32により増幅され、作用点32c側の可動部22の上面に伝えられる。
【0049】
このとき、あらかじめ調べられた、塗布ノズル7の内部圧力、スリット幅、および、塗装ノズル7からの塗料14の突出量の関係に従って、制御部は塗布ノズル7の内部圧力を示す内圧センサ33からの信号に従って、塗布ノズル7からの塗料14の突出量が通常塗装時の突出量と同じになるように圧電素子31を制御して、スリット幅を調整する(図5中、P2からP4の間)。
【0050】
制御部は塗料の上記架橋に合わせた、あらかじめ調べたタイミングで、以下の2つの動作を同時に開始する。
【0051】
第一の動作は、塗料供給部6の塗料14の供給圧力を通常塗装時に切り替える信号を塗料供給部6に送る。この信号を受け、塗料供給部6はその塗料14の塗装ノズル7の供給圧力を通常塗装時の供給圧力に切り替える。
【0052】
第二の動作としては、内圧センサ33からの信号で検知される塗布ノズル7の内部圧力のチェックを続け、この圧力が通常塗装時の圧力となったとき(図5中、P4)に、圧電素子31への印加電圧の出力を中止し、その後、通常塗装が継続される(図5中、P5以降の水平部)。
【0053】
第三の動作として、制御部は、リフト部11のモータに指示を送り、被塗装物移動部8と移動カラー19とを備えた移動ベース20を上昇させることにより、被塗装物18を上方に駆動させる。このとき、制御部はリニアエンコーダにより上昇速度をチェックして一定の速度で上昇するようにリフト部11のモータを制御する。
【0054】
塗膜形成装置5は、上記第一および第三の動作を、リニアエンコーダで検出される、被塗装物18のあらかじめ定められた塗装領域の下端が、スリット21と同じ高さとなる(図5における下向き矢印)まで継続するが、この間、通常塗布が継続実施される(図10(a)および図10(b)参照)。
【0055】
上記塗装領域の下端がスリット21と同じ高さとなったとき(図11参照)に、制御部は、塗料供給部6による塗料14の塗布ノズル7への供給、および、リフト部11による移動ベース20(被塗装物18)の上昇を、それぞれ停止させる。このとき、塗布ノズル7の内部圧力は通常塗装時の圧力から低下して、最終的に図5中P5で示されるレベルで一定となる。
【0056】
装置操作者は、塗料塗布済みの被塗装物18を装置から取り外し(図12参照)後工程へ送るとともに、移動部復帰スイッチを操作することにより移動部復帰信号を制御部に送信する。制御部は移動部復帰信号を受けてリフト部11のモータに指示を送り、被塗装物移動部8と移動カラー19とを備えた移動ベース20をリニアエンコーダで検出されるその高さが図8で示された位置に至るまで下降させ(図13参照)、その後制御部は図示しない動作継続スイッチが再度押されるまで待機する。
【0057】
装置操作者は、再度、新たなコロナ放電処理が施された被塗装物18を被塗装物保持部9にセットした後、動作継続スイッチを操作し、以降、図9〜図13に示される上記一連の動作を繰り返す。
【0058】
上記のように制御部は圧力測定器である内圧センサ33で検知された塗料14の圧力に応じて圧電素子31により塗布ノズル7のスリット塗布ノズルの幅を制御するスリット幅制御手段の機能を有している。
【実施例】
【0059】
以下に本発明に係る塗膜形成装置5を用いて塗膜形成を行った実施例について述べる。
【0060】
被塗装物として、定着ベルト用の円筒状の基体を選択した。具体的には、ポリイミドからなる、外径147.2mm、長さ420mm、厚さ110μmの無端状ベルトの外側面にコロナ放電処理を施したものを用いた。塗装領域は軸方向中央部の幅405mmの部分で、塗料としては熱硬化型シリコーンエラストマー(粘度25Pa・s)のものを用いた。
【0061】
ここで、定着ベルト用の中間製品として加硫後に要求される塗装膜厚は200±30μmである。
【0062】
コーティングギャップは330μm、通常塗装時の塗布ノズル7のスリット21の幅は700μm、被塗装物18の軸方向移動速度は30mm/秒、塗料供給部6からの塗料の吐出速度は2.72mL/秒に設定した。
【0063】
ここで、上記塗料に関してあらかじめ調べた吐出速度2.72mL/秒を実現するときの、ノズル内圧力P(kPa)とスリット幅D(μm)との関係を示す式はD=9860/P+425であり。制御部はこのノズル内圧力とスリット幅との関係からスリット幅を、吐出速度2.72mL/秒になるように制御した。
【0064】
また、比較例1として、塗膜形成装置5と同様の、ただしスリット幅が700μmと固定の塗布ノズルを備えた塗膜形成装置を用いた以外は、同条件で塗膜形成を行った。
【0065】
これら得られた塗装品について、それぞれ同条件で加硫を行い、軸方向の厚さ変化を測定した。
【0066】
その結果、実施例に係る塗装品では膜厚は200μmに対して厚さむらが±15μm未満と極めて少なく、これに対して、比較例1に係る塗装品での厚さむらは±30μm超で基準を満たさない部分が生じたためにその部分を除去する必要が生じた。
【符号の説明】
【0067】
1 ベルト基材
2 弾性層(シリコーンゴム)
3 離型層(フッ素樹脂)
4 プライマ(接着層)
5 本発明に係る塗膜形成装置
6 塗料供給部
7 塗布ノズル
8 被塗装物移動部
9 被塗装物保持部
10 基台部
11 リフト部
12 チューブ
13 固定部
14 塗料
15 シリンダポンプ
16 テーブル
17 支柱
18 被塗装物
19 移動カラー
20 移動ベース
21 スリット
22 可動部
23 ガイド材
24 シール材
25 配管
26 マニホールド
27 バネ
28 取付具
29 ストッパ
30 調整部
31 圧電素子
32 てこ
32a 力点
32b 支点
32c 作用点
33 内圧センサ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0068】
【特許文献1】特開2008−188482号公報
【特許文献2】特開2003−190862号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の被塗装物を保持する被塗装物保持部、前記被塗装物の外側面の全周に対し該円筒状部材の軸方向に向かって環状に塗料を吐出するスリットが設けられた塗布ノズル、前記被塗装物保持部と前記塗布ノズルとを前記被塗装物の軸に沿って相対的に移動させる移動部、および、前記塗布ノズルに前記塗料を供給する塗料供給部が設けられた塗膜形成装置において、
前記塗布ノズルのスリットの幅を調整することにより該スリットから吐出される塗料の吐出量を調整するスリット幅調整部が設けられ、かつ、
前記スリット幅調整部が、前記スリットを構成する2つの部材のうちの一方の部材であって他方の部材に対して前後に移動可能に設けられた可動部と、該可動部を駆動する可動部駆動部と、から構成されている
ことを特徴とする塗膜形成装置。
【請求項2】
前記可動部駆動部としての圧電素子、該塗布ノズル内の前記塗料の圧力を検知する圧力測定器、および、該圧力測定器で検知された前記塗料の圧力に応じて前記圧電素子により前記塗布ノズルのスリットの幅を制御するスリット幅制御手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成装置。
【請求項3】
前記圧電素子が、てこを介して前記可動部を駆動するものであり、かつ、該てこの支点が、該可動部側の作用点よりも該圧電素子側に設けられた力点に近い位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−235206(P2011−235206A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106563(P2010−106563)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】