説明

塗装方法

【課題】 水性塗料を用いた塗装工程後にプレヒートを行って第2の塗料によりウエット・オン・ウエット塗装を行う場合について、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させるようにする。
【解決手段】 水性塗料でなる第1の塗料を用いる第1塗装工程と、該第1塗装工程後に40〜70℃の温度条件と0.5〜2分の時間条件で行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて前記第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを備えた塗装方法であって、第1塗装工程での第1の塗料(水性塗料)による塗装をベル型回転噴霧式塗装機を用いて行い、シェーピングエアとして加温エア及び/又はドライエアを適用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水性塗料を用いた塗装方法、特に、水性塗料の塗膜上に第2の塗料でウエット・オン・ウエット塗装を行うようにした塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車等の車両の車体などに塗装を施す場合、いわゆる溶剤型塗料が多用されている。図12は、従来一般的な溶剤型塗料を用いた車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。この図に示すように、従来では、まず電着塗装を施して焼付乾燥を行い(ステップS51及びS52)、次に、電着塗膜の上に中塗り塗装を施して焼付乾燥を行い(ステップS53及びS54)、更に、中塗り塗膜の上にベース塗装およびクリア塗装を順次施して焼付乾燥を行うようにしている(ステップS55,S56及びS57)。特に、ベース塗装後のクリア塗装は、所謂ウエット・オン・ウエット塗装で行われるのが普通である。
【0003】
このように、自動車の車体塗装では、通常、電着塗装と中塗り塗装とベース塗装(及びクリア塗装)が施され多層の塗膜が形成されるが、このうち中塗り塗装およびベース塗装については、塗装品質および塗装作業性を確保する観点から、所謂、溶剤型塗料を用いるのが従来一般的である。特に、ベース塗装では、その後にウエット・オン・ウエット塗装でクリア塗装を行うことが好ましいので、かかるウエット・オン・ウエット塗装が可能な溶剤型塗料がより好適に用いられる。
【0004】
かかる溶剤型塗料は、塗装品質が優れ、また塗装工程での作業性も良好であるが、多量の有機溶剤を含有しており、この有機溶剤が塗装工程等を通じて周囲へ排出されることになる。このため、近年では、溶剤型塗料から水性塗料への転換が積極的に図られている。特に、ベースコート塗料は、中塗りコート塗料に比べて一般に有機溶剤の含有率が高いので、優先的に水性塗料への切り換えが進められている。
例えば、特許文献1には、所謂シェーピングエアを用いて水性ベースコート塗料の塗装を行うようにした自動車用ベースコート塗料の塗装方法が開示されている。
【0005】
ところが、この水性塗料を用いて塗装を行う場合には、塗布された塗料内部の水分の蒸発を促進するために、塗装後に所謂プレヒートを行うことが必須である。
図13は、中塗りコート塗料は溶剤型塗料でベースコート塗料のみに水性塗料を適用した車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。また、図14は、中塗りコート塗料およびベースコート塗料の両方に水性塗料を適用した車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【0006】
これらのフローチャートから良く分かるように、水性塗料を用いた中塗り塗装工程(ステップS63)並びにベース塗装工程(ステップS65及びステップS76)の後には、塗膜内部の水分の蒸発を促進するために、例えば所定温度の温風を吹き付けるプレヒート工程(ステップS66,ステップS74及びステップS77)が新たに設けられる。従って、このプレヒート工程で温風を供給するために、追加的なエネルギ消費が必要となる。
尚、図13及び図14の例では、ベース塗装の場合、ウエット・オン・ウエット塗装でクリア塗装を行うためには、プレヒート工程の後にクーリング工程(ステップS67及びステップS78)が更に必要とされるので、追加的な消費エネルギもより一層増大することになる。
【特許文献1】特開平5−305265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
周知のように、近年では、環境問題への関心の高まりに応じて、塗装工程についてもより一層の省エネルギ化が求められており、水性塗料を用いた塗装後の前記プレヒート工程についても、消費エネルギ低減の観点から、できるだけ低温で行えるようにすることが望まれている。
しかしながら、プレヒート温度をむやみに低くした場合には、水性塗料による塗膜内の水分の蒸発が不十分になり、後続する焼付乾燥工程で残存した水分が突沸しピンホール等の塗膜欠陥を生じさせる恐れがある。また、塗料粘度が低いのでクリア塗膜との混層が生じ易く、やはり平滑性悪化などの外観性の低下を招くことになる。特に、アルミニウム等のフレーク(鱗片状部材)を含有する水性塗料の場合には、両塗料による両塗膜間の界面の乱れが生じ、水性塗料による塗膜内でアルミフレークの配向性が損なわれて塗装面の光輝性が低下するという問題もある。
【0008】
また、プレヒート工程後の塗装については、例えば40℃程度以上の塗膜(例えばベース塗膜)上に溶剤型塗料(例えばクリアコート塗料)を用いてウエット・オン・ウエット塗装を行った場合、溶剤型塗料中の溶剤が急激に蒸発して塗料の粘度が上昇するため、流動性が低下して塗膜の平滑性が損なわれることが知られている。プレヒート工程後のクーリングは、かかる不具合の発生を防止することを基本的な目的として行われるものであるが、このクーリング工程についても、極力簡略化あるいは無くすることが望ましい。
【0009】
図1は、プレヒート温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。尚、この例は、水性塗料(例えばベースコート塗料)を用いたベース塗装の後に3分間のプレヒートを行い、溶剤型塗料(例えばクリアコート塗料)を用いてウエット・オン・ウエット塗装を行った場合についてのもので、プレヒート時間は3分間であり、プレヒート後にクーリングを行うことを前提としている。この場合には、グラフから分かるように、水性塗料の塗膜の水分含有率を目標値以下とするには、また、仕上がり性を目標値以上とするには、プレヒート温度を略80℃程度以上に設定する必要がある。
【0010】
更に、従来のプレヒートでは、温風の吹き付け等により塗膜の表面から加温されるだけであるので、塗膜表面では水分の蒸発が促進され易いが、塗膜内部まで迅速には熱が伝わり難く、塗膜内部での水分の蒸発が不十分になりがちである。従って、水分の蒸発効率を高めることは困難であり、プレヒート温度を一定以上に高く設定せざるを得ない。また、このことがクーリング工程の必要性を招いている。
例えば、水性ベースコート塗料を用いた塗装の後にウエット・オン・ウエット塗装でクリア塗装を行う場合について、70℃を越える温度で2分間を越えるプレヒートを行った場合には、前述のクーリング工程が必要であることが知られている。
【0011】
この発明は、以上のような技術的課題に鑑みてなされたもので、水性塗料を用いた塗装工程後にプレヒートを行って第2の塗料によりウエット・オン・ウエット塗装を行う場合について、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させることができる塗装方法を提供することを、基本的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者等は、上記の目的を達成するために研究開発を重ねる中で、水性塗料を塗装機により微粒化されたミスト状態とし、且つ、噴霧する際のシェーピングエアに加温エア又は乾燥エアを用いることにより、塗装後のプレヒートでの水分の蒸発効率を有効に高め得ることを見出した。これは、塗料を微粒化されたミスト状態とすることで、塗料の粒子径が小さくなり単位質量当たりの表面積が大きくなり、しかも、シェーピングエアに加温エア又は乾燥エアを用いることと相俟って、塗装時における水分や溶剤の蒸発速度が効果的に高められることによるものと考えられる。尚、このように、塗料を微粒化されたミスト状態にして噴霧塗布し得る塗装機としては、所謂、ベル型回転噴霧式塗装機が知られている(例えば特開平10−99736号公報参照)。
【0013】
図2は、シェーピングエア温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。尚、この例は、水性塗料(例えばベースコート塗料)を用いたベース塗装の後にプレヒートを行い、溶剤型塗料(例えばクリアコート塗料)を用いてウエット・オン・ウエット塗装を行った場合についてのもので、プレヒート時間は2分間でプレヒート温度は40℃である。このようにプレヒート温度がかなり低い場合でも、グラフから分かるように、シェーピングエア温度を略40℃程度以上に設定することにより、水性塗料の塗膜の水分含有率を目標値以下とし、また、仕上がり性を目標値以上とすることが可能である。
【0014】
また、図3は噴霧塗料の粒子径が水性塗膜の乾燥性に及ぼす影響を模式的に示したグラフである。このグラフに示すように、粒子径が小さいほど塗膜の乾燥性は向上する。また、シェーピングエアとして加温エアを用いることにより、室温エアを用いた場合に比して、塗膜の乾燥性向上の効果が高められることが分かる。尚、シェーピングエアとして乾燥エアを用いた場合にも同様の効果が得られる。
【0015】
また、図4は、噴霧塗装におけるシェーピングエアの温度がプレヒート時間に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。このグラフから、シェーピングエアとして加温エアを用いることにより、室温エアの場合に比してプレヒート時間を短縮できることが分かる。尚、シェーピングエアとして乾燥エアを用いた場合にも同様の効果が得られる。
このように、プレヒート条件をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させるには、噴霧塗装においてシェーピングエアに加温エア及び/又は乾燥エアを用いることが有効である。
【0016】
そこで、本願請求項1の発明(第1の発明)に係る塗装方法は、水性塗料でなる第1の塗料を用いる第1塗装工程と、該第1塗装工程後に40〜70℃の温度条件と0.5〜2分の時間条件で行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて前記第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを備えた塗装方法であって、前記第1塗装工程での第1の塗料による塗装をベル型回転噴霧式塗装機を用いて行い、シェーピングエアとして加温エア及び/又はドライエアを適用することを特徴としたものである。
【0017】
ここに、プレヒート温度の上限値を70℃としプレヒート時間の上限値を2分間としたのは、プレヒート温度および時間がこれら各値を越えると、プレヒート工程後にクーリングを行うことが必須となるからである。また、プレヒート温度の下限値を40℃としプレヒート時間の下限値を0.5分間としたのは、プレヒート温度および時間がこれら各値を下回ると、水性塗料でなる第1の塗料の塗膜内の水分を蒸発させるプレヒート効果が有効に得られないからである。
【0018】
また、本願請求項2の発明(第2の発明)は、前記第1の発明において、前記シェーピングエアは、40℃以上の温度条件と50RH%以下の湿度条件の少なくとも一方の条件を満たすものであることを特徴としたものである。
【0019】
ここに、シェーピングエアの温度の下限値を40℃とし湿度の上限値を50RH%としたのは、温度が40℃未満で且つ湿度が50RH%を越える場合には、水性塗料(第1の塗料)塗装時における塗膜の水分含有量を効率よく低減することが難しいからである。
【0020】
更に、本願請求項3の発明(第3の発明)は、前記第1又は第2の発明において、前記第1の塗料がフレーク状(鱗片状)の光輝材を含有する水性ベースコート塗料であり、前記第2の塗料はクリアコート塗料であることを特徴としたものである。
【0021】
また更に、本願請求項4の発明(第4の発明)は、前記第1〜第3の発明の何れか一において、前記第2の塗料は溶剤型塗料であることを特徴としたものである。
【0022】
また更に、本願請求項5の発明(第5の発明)は、前記第1〜第4の発明の何れか一において、前記ベル型回転噴霧式塗装機のベル回転数は20000rpm以上に設定されていることを特徴としたものである。
【0023】
ここに、ベル回転数の下限値を20000rpmとしたのは、ベル回転数20000rpm未満では、噴霧塗料の粒子径を十分に小さくして単位質量当たりの表面積を十分に大きくすることが難しく、従って、塗装時における水分や溶剤の蒸発速度を有効に高めることが難しいからである。
【0024】
また、本願請求項6の発明(第6の発明)は、前記第1〜第5の発明の何れか一において、前記シェーピングエアの被塗物表面での流速は150NL(ノーマル・リットル)/分以上に設定されていることを特徴としたものである。
【0025】
ここに、シェーピングエアの被塗物表面での流速の下限値を150NL/分としたのは、エア流速と光輝材の配向性は一般に相関し、シェーピングエアの被塗物表面での流速がこの値未満では、前記配向性の確保が難しいからである。
【0026】
更に、本願請求項7の発明(第7の発明)は、前記第1〜第6の発明の何れか一において、前記第1の塗料が水性ベースコート塗料で前記第2の塗料はクリアコート塗料であり、前記第1塗装工程の前に第2の水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行い、該中塗り塗装後に前記第1の発明に記載のプレヒート工程と同一条件でプレヒートを行い、該プレヒート後に、前記水性ベースコート塗料でなる第1の塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う、ことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0027】
本願の第1の発明によれば、第1塗装工程での水性塗料でなる第1の塗料による塗装をベル型回転噴霧式塗装機を用いて行い、シェーピングエアとして加温エア及び/又はドライエアを適用したことにより、水性塗料(第1の塗料)塗装時における塗膜の水分含有量を比較的簡単な方法で効率よく低減できる。従って、プレヒートの低温化及び/又は短時間化を図っても、水分の突沸によるピンホールの発生や上層との混層による平滑性の悪化等の不具合発生を有効に抑制できる。この場合において、プレヒート工程での温度が40〜70℃であり、時間が0.5〜2分とされていることにより、クーリング工程の簡略化あるいは不要化を図ることができる。
【0028】
また、本願の第2の発明によれば、基本的には、前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、シェーピングエアは、40℃以上の温度条件と50RH%以下の湿度条件の少なくとも一方の条件を満たすものであるので、水性塗料(第1の塗料)塗装時における塗膜の水分含有量を効率よく低減することができる。
【0029】
更に、本願の第3の発明によれば、基本的には、前記第1又は第2の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、第1の塗料がフレーク状の光輝材を含有する水性ベースコート塗料であり、第2の塗料はクリアコート塗料である場合において、両塗料による両塗膜間の界面の乱れが生じて水性塗料(第1の塗料)による塗膜内で光輝材の配向性が損なわれ、塗装面の光輝性が低下することを有効に抑制できる。
【0030】
また更に、本願の第4の発明によれば、第2の塗料が溶剤型塗料であることにより、前記第1〜第3の発明の何れか一と同様の作用効果をより確実に奏することができる。
【0031】
また更に、本願の第5の発明によれば、基本的には、前記第1〜第4の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、ベル型回転噴霧式塗装機のベル回転数は20000rpm以上に設定されていることにより、噴霧塗料の粒子径を十分に小さくして単位質量当たりの表面積を十分に大きくすることでき、従って、塗装時における水分や溶剤の蒸発速度を有効に高めることができる。
【0032】
また、本願の第6の発明によれば、基本的には、前記第1〜第5の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、シェーピングエアの被塗物表面での流速は150NL/分以上に設定されていることで、光輝材の配向性を確保できる。
【0033】
更に、本願の第7の発明によれば、水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行った後にプレヒートを行い、更にその後に水性ベースコート塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う場合についても、前記第1〜第6の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本実施形態で用いるベル型回転噴霧式塗装装置について説明する。尚、このベル型回転噴霧式塗装装置は、従来公知のものと同様のものであり、例えば特開平10−99736号公報に開示されたものと同様の構成を備え同様の作用をなすものである。
このベル型回転噴霧式塗装装置は、図5〜図7に示すように、内部にエアモータ(図示省略)を内蔵する塗装機本体1と、該塗装機本体1の先端側に回転可能に設けられたベルカップ2と、該ベルカップ2の径方向外側に向かってシェーピングエアFsを噴出するシェーピングエア形成手段3とを備えて構成されている。
【0035】
前記ベルカップ2は、略円錐筒状を呈しており、その基端部に設けられた円盤状の塗料拡散板4に向かって供給された塗料Pを遠心力により霧化状態となすものであり、エアモータにより回転駆動される駆動軸5の先端に共回り可能に取り付けられている。符号6は塗料拡散板4の外周側に形成された塗料噴出口であり、塗料拡散板4の内面側に供給され、遠心力により霧化状態とされた塗料がこの塗料噴出口6を通ってベルカップ2の内周面に沿うように拡散されることとなっている。
【0036】
前記駆動軸5の中心部には、前記塗装機本体1側に固定された塗料供給管7が挿通されており、該塗料供給管7の先端には、前記塗料拡散板4の内面側に臨むようにして塗料供給用のノズル8が設けられている。なお、塗料供給管7は、駆動軸5の回転駆動時にも回転することはない構成とされている。
【0037】
前記シェーピングエア形成手段3は、前記塗装機本体1内に形成されたエア通路9と、該エア通路9の先端部に形成されたエアチャンバ10と、該エアチャンバ10に連通された状態で前記塗装機本体1の先端面に環状に所定間隔で形成された多数のエア噴出口11とによって構成されている。つまり、これらの多数のエア噴出口11から噴出されたエアにより前記ベルカップ2の径方向外側に略円筒状のシェーピングエアFsが形成されることとなっている。
【0038】
本実施の形態では、前記塗装機本体1に、シェーピングエアFsを180°間隔で径方向に横切るエアカーテンFcを噴出するエアカーテン形成手段12が設けられている。
該エアカーテン形成手段12は、前記塗装機本体1内に前記エア通路9とは別途形成された第2のエア通路13と、該エア通路13の先端部に形成されたエアチャンバ14と、該エアチャンバ14に連通された状態で前記塗装機本体1の先端面に180°間隔で対称位置に一対ずつ形成された半径方向に延びるスリット状のエア噴出口15,…,15とによって構成されている。つまり、これらのエア噴出口15,…,15から噴出されたエアにより前記シェーピングエアFsを180°間隔で径方向に横切る略平面状の一対ずつのエアカーテンFc,…,Fcが形成されることとなっている(図7及び図8参照)。すると、シェーピングエアFsは、エアカーテンFc,…,Fcにより2分割されて、略楕円円弧状を呈することとなる。
【0039】
以上のように構成されたベル型回転噴霧式塗装装置を用いた塗装について、例えばメタリック塗装を行う場合を例にとって説明する。
メタリック塗装を行う場合には、鱗片状部材F(フレーク)を含有する塗料Pが塗料供給管7を介して塗料拡散板4の内側に供給される。そして、塗料拡散板4の内側に供給された塗料Pは、ベルカップ2の回転に伴う遠心力により拡散霧化されて塗料噴出口6から噴出され、ベルカップ2の内周面に沿って略円筒状に拡散される。
【0040】
一方、シェーピングエア形成手段3により形成されたシェーピングエアFsは、前述したように、エアカーテンFcによって2分割されて略楕円円弧状となる。
従って、シェーピングエアFsに乗って塗着面に向かう塗料P中の鱗片状部材Fは、図8に示すように、略同一方向(即ち、楕円の長径と平行な方向)に並ぶこととなる。この現象は、鱗片状部材Fの大きさに関係なく生ずる。
【0041】
そこで、ベル型回転噴霧式塗装装置を前記鱗片状部材Fの並び方向と直交する方向(即ち、図8の矢印X方向)に移動させると、塗着面においては鱗片状部材Fが略同一方向に並ぶこととなり、縞状の塗装ムラが生じることはなくなる。しかも、シェーピングエアFsの流れを乱したりする必要がないので、ベル型回転噴霧式塗装装置の利点である高い塗着効率を維持できる。
【0042】
すなわち、かかるベル型回転噴霧式塗装装置によれば、シェーピングエアに乗って塗着面に到達する塗料中の鱗片状部材の向きが略同一方向に整えられるところから、塗装ムラのないメタリック塗装を行うことができることとなり、ベル型回転噴霧式塗装装置の利点である塗着効率の高さを維持しつつ、良好なメタリック塗装が行えるという優れた効果がある。また、例えばエアカーテン形成手段を追加するだけで、メタリック塗装に適したものとすることができるので、コスト的にも有利である。
尚、本実施形態に係るベル型回転噴霧式塗装装置では、具体的には図示しなかったが、前記シェーピングエア形成手段3のエア通路9(図5参照)に連通する通路内に空調室が設けられ、該空調室内に空調装置が配置されている。そして、この空調装置を制御(或いは運転状態を設定)することにより、シェーピングエアFsとして吹き出されるエアの温度及び/又は湿度を制御(或いは設定)することができるようになっている。
【0043】
本実施形態では、水性塗料を用いた塗装工程後にプレヒートを行って第2の塗料によりウエット・オン・ウエット塗装を行う場合について、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させることができるようにするために、水性塗料でなる第1の塗料を用いる第1塗装工程と、該第1塗装工程後に40〜70℃の温度条件と0.5〜2分の時間条件で行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて前記第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを行うものであり、少なくとも前記第1塗装工程での第1の塗料による塗装をベル型回転噴霧式塗装機を用いて行い、シェーピングエアとして加温エア及び/又はドライエアを適用するようにした。
【0044】
そして、本発明の効果を検証するために、適用塗料,塗装条件,プレヒート条件などを様々に変更して種々の試験を行った。
以下、この試験について説明する。まず、試験で用いる各種塗料の調製方法について説明する。
本実施形態に係る試験では、電着塗装を施した電着板に中塗り塗装,上塗り塗装(ベース塗装),クリア塗装を順次施す塗装が行われる。このうち、ベース塗装には、以下のように調製した水性ベースコート塗料を用いた。
【0045】
<水性ベースコート塗料の調製>
水性ベースコート塗料としては、以下の各成分をそれぞれ所定の重量部ずつ添加し、均一に分散することで、水性ベースコート塗料Aを得た。
・アクリルエマルジョンA:220重量部
・イオン交換水:55重量部
・ジメチルアミノエタノール:1重量部
・アミノ樹脂:20重量部(三井サイアナミド(株)製のサイメル327)
・光輝性顔料:20.9重量部(例えば旭化成社製のアルミペーストMH8801)
・表面調整剤:4.5重量部(例えばエアープロダクツ社製のサーフィノール440)を均一分散することで得た。
【0046】
前記光輝性顔料は、鱗片状をなす発色材としての光輝材を含有する。なお、これに限定されることなく、光輝性顔料は、発色材として、光輝材の代わりに、光干渉材を含有しても、あるいは、光輝材及び光干渉材の両方を含有してもよい。
尚、かかる水性ベースコート塗料Aの調製方法、及び、以下に説明するアクリルエマルジョンAの製造方法は、例えば特開2001−240791号公報に開示されるように、公知である。
【0047】
<水性ベースコート塗料A用のアクリルエマルジョンAの製造>
水性ベースコート塗料Aに含有されるアクリルエマルジョンAは、次のようにして製造した。
アクリルエマルジョンAの製造に際しては、まず、反応容器に脱イオン水136重量部を加え、これを窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温させた。続いて、以下の組成を有するモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.24重量部及び脱イオン水10重量部からなる開始剤溶液と、を2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間にわたって同温度で熟成した。
【0048】
<アクリルエマルジョンAに用いるモノマー乳化物の組成>
・メタクリル酸メチル:10.22重量部
・アクリル酸エチル:58.36重量部
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:7.42重量部
・アクリルアミド:4.00重量部
・アクアロンHS−10:0.5重量部(第一工業製薬社製)
・アデカリアソープNE−20:0.5重量部(旭電化社製)
・脱イオン水:80重量部
【0049】
更に、次のような組成を有するモノマー乳化剤と、過硫酸アンモニウム0.06重量部及び脱イオン水10重量部からなる開始剤溶液と、を80℃で0.5時間にわたり並行して反応溶液に滴下した。滴下終了後、2時間にわたって同温度で熟成した。
<モノマー乳化剤(第2段階目)の組成>
・アクリル酸エチル:15.07重量部
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:1.86重量部
・メタクリル酸:3.07重量部
【0050】
続いて、これを40℃まで冷却し、400メッシュのフィルタで濾過した後、脱イオン水67.1重量部及びジメチルアミノエタノール0.32重量部を加えてpH6.5に調整し、平均粒子径200nm,不揮発分25%のアクリルエマルジョンAを得た。
本実施形態では、アクリルエマルジョン及び水性ベースコート塗料は、それぞれ一種類のみとした。
【0051】
本実施形態では、前記水性ベースコート塗料を用いた塗装工程の前工程として、中塗りコート塗料を用いた塗装が行われる。この中塗りコート塗料としては、以下の3種類(A〜C)のものを用意した。
中塗りコート塗料A:溶剤型塗料OTOH870グレー(日本ペイント社製)
中塗りコート塗料B:溶剤型塗料OTOH880L48(日本ペイント社製)
中塗りコート塗料C:水性塗料であり、以下のような組成を有するものを調整した。
【0052】
<水性中塗りコート塗料Cの調整>
この中塗りコート塗料Cは、以下の各成分をそれぞれ所定の重量部ずつ添加し、均一分散することによって調製した。尚、かかる水性塗料の調製方法は、例えば特開2002−146282号公報に開示されるように、公知である。
・ポリエステル樹脂:30重量部(酸価50,水酸基価120,数平均分子量2000のもの)
・アミノ樹脂:25重量部(サイメル327:三井サイアナミッド社製)
・アクリル樹脂:15重量部(酸価50,水酸基価150,数平均分子量5000のもので、アミド基含有エチレン性モノマー20質量%,酸性基含有エチレン性モノマー10質量%,水酸基含有エチレン性モノマー50質量%及び他のエチレン性モノマー50質量%の共重合体)
・ウレタン変性ポリエステル樹脂:30重量部(pHが約7.5であるコロイダル分散ウレタン変性ポリエステル樹脂)
・二酸化チタン:60重量部
・カーボンブラック:1重量部
・アクリル系表面調整剤:0.2重量部
・イオン交換水:161.2重量部
【0053】
また、ベースコート塗料を用いた塗装後に、ウエット・オン・ウエット塗装にて塗装されるクリアコート塗料としては、以下のもの(1種類のみ)を用いた。
クリアコート塗料A:マックフローO−600クリア(日本ペイント社製)
【0054】
本実施形態に係る各試験おいて上述の各種塗料を試験塗装する塗装板は、以下のようにして作製した。
<電着板の作製>
まず、電着塗装を施す電着板を作製した。
:リン酸亜鉛処理した厚みが0.7mmで、縦100mm,横300mmのダル鋼板を用意し、これにPN120M(日本ペイント社製)を乾燥膜厚が20μmになるように電着塗装を施し、160℃で30分間にわったて焼付乾燥した。
【0055】
<中上塗り板の作製>
上記のようにして得られた電着板に、試験条件に応じて、中塗り塗装,ベース塗装,クリア塗装を行うことで中上塗り板を得た。これらの塗装には、前述のベル型回転噴霧式塗装装置を用いた。
【0056】
このようにして得られた中上塗り板について、その塗装面の光輝感および仕上がり性の評価を行った。各評価の仕方は、具体的には以下による。
<光輝感の評価>
光輝感の評価には、変角光度計MA−68(X−Rite社製)を用いて、中上塗り板塗装面のフロップインデックス(FI)を光輝感として測定した。
そして、フロップインデックスが12以上であった場合を非常に良好である(◎)、フロップインデックスが10以上12未満であった場合を良好である(○)、フロップインデックスが10未満であった場合を良好でない(×)としてランク付けを行い評価した。
【0057】
<仕上がり性の評価>
仕上がり性の評価には、ウェーブスキャン(Wavescan)DOI(BYK社製)を用いて、中上塗り板塗装面のWa/Wd値を仕上がり性として測定した。
そして、Wa/Wd値が15未満であった場合を非常に良好である(◎)、Wa/Wd値が15以上20未満であった場合を良好である(○)、Wa/Wd値が20以上であった場合を良好でない(×)としてランク付けを行い評価した。
【0058】
次に、本実施形態で行った各種試験について説明する。
これら試験は、以下の3種類(試験I〜試験III)に大別される。これら各試験においては、水性ベースコート塗料を用いたベース塗装後に、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット塗装でクリア塗装を行い、焼付乾燥によって仕上げる点については共通である。各試験は、ベース塗装の前工程が以下のように異なる。
・試験I:溶剤型中塗りコート塗料Aで中塗り塗装を行った後に焼付乾燥を行い、その後にベース塗装を行う。
・試験II:溶剤型中塗りコート塗料Bで中塗り塗装を行った後にプレヒートも焼付乾燥も行わず、その後にウエット・オン・ウエット塗装でベース塗装を行う。
・試験III:水性中塗りコート塗料Cで中塗り塗装を行った後にプレヒートを行い、その後にウエット・オン・ウエット塗装でベース塗装を行う。
【0059】
まず、試験Iについて説明する。
<試験I>
この試験Iでは、図9のフローチャートに示すように、用意された電着板(ステップS1参照)に、溶剤型の中塗りコート塗料Aを用いて中塗り塗装を施した後に焼付乾燥を行い(ステップS2,S3)、その後に水性ベースコート塗料Aを用いてベース塗装を施しプレヒートが行われる(ステップS4,S5)。そして、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット(W/W)塗装でクリア塗装を施し焼付乾燥が行われる(ステップS6,S7)。尚、プレヒート後のクーリングは行わなかった。
【0060】
試験Iにおいては、全実施例および全比較例について、中塗り塗装工程およびクリア塗装工程における使用塗料および各塗装条件等は共通である。
<中塗り塗装>
・中塗り塗料:溶剤型中塗りコート塗料A
・塗装膜圧:30μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:回転数25000rpm,吐出速度200cc/分
・シェーピングエア:温度20℃,湿度70RH%,流速150NL/分(被塗物表面での流速:以下同じ)
・プレヒート:無し
・焼付乾燥条件:140℃で20分
【0061】
<クリア塗装>
・クリア塗料:溶剤型クリアコート塗料A
・塗装膜圧:35μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:回転数25000rpm,吐出速度150cc/分
・シェーピングエア:流速150NL/分
・焼付乾燥条件:140℃で20分
【0062】
ベース塗装工程については、塗装装置のベル回転数,シェーピングエア条件及びプレヒート条件を以下のように種々変更して塗装を行った。
<ベース塗装>
・ベース塗料:水性ベースコトート塗料A
・塗装膜圧:1次塗膜6μm,2次塗膜6μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:吐出速度は200cc/分で一定、回転数は15000,20000,50000rpmの3種類
・シェーピングエア:温度は20,30,40,70,100℃の5種類、湿度は30,50,70,75RH%の4種類、流速は140,300,500NL/分の3種類
・プレヒート温度:30,40,55,70℃の4種類
・プレヒート時間:0.5,0.4,2分の3種類
【0063】
試験Iの試験結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果から良く分かるように、ベル型回転噴霧式塗装装置のベル回転数が塗装の外観品質に大きな影響を及ぼしており、本発明実施例の中でもベル回転数を50000rpmと高く設定したもの(実施例25〜48)については、仕上がり性および光輝感の両方共に特に良好な結果(◎)が得られている。
一方、比較例6では、ベル回転数が15000rpmと(20000rpmよりも)低く設定されており、このため仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。従って、ベル回転数の下限値としては20000rpmに設定することが好ましい。
【0066】
比較例1及び比較例2は、プレヒート条件が本発明実施例のものとは異なっており、仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。
すなわち、比較例1ではプレヒート時間が0.4分と(0.5分よりも)低く設定されており、十分なプレヒート効果が得られていないものと考えられる。従って、プレヒート時間の下限値は0.5分とすることが好ましい。また、比較例2ではプレヒート温度が30℃と(40℃よりも)低く設定されており、十分なプレヒート効果が得られていないものと考えられる。従って、プレヒート温度の下限値は40℃とすることが好ましい。
【0067】
比較例3は、プレヒート時間が3分間と(2分よりも)長く設定されており、クリア塗料塗装時のベース塗膜の温度が高すぎてクリアの流動性が低下したものと考えられる。
比較例4は、プレヒート温度が90℃と(70℃よりも)高く設定されており、クリア塗料塗装時のベース塗膜の温度が高すぎてクリアの流動性が低下したものと考えられる。
【0068】
比較例5は、シェーピングエア流速が140NL/分と(150NL/分よりも)低く設定されており、シェーピングエアによる水分の蒸発効果が低下したものと考えられる。
比較例6は、シェーピングエア温度が30℃と(40℃よりも)低く設定されており、シェーピングエアによる水分の蒸発効果が低下したものと考えられる。
【0069】
比較例7は、シェーピングエア温度が100℃と(70℃よりも)高く設定されており、クリア塗料塗装時のベース塗膜の温度が高すぎてクリアの流動性が低下したものと考えられる。
比較例8は、ベルの回転数が15000rpmと(20000rpmよりも)低く設定されており、塗料粒子径が相対的に大きく、シェーピングエアによる水分の蒸発効果が低下したものと考えられる。
【0070】
次に、試験IIについて説明する。
<試験II>
この試験IIでは、図10のフローチャートに示すように、用意された電着板(ステップS11参照)に、溶剤型の中塗りコート塗料Bを用いて中塗り塗装(ステップS12)を施した後に、プレヒートも焼付乾燥も行わずに、水性ベースコート塗料Aを用いてウエット・オン・ウエット塗装でベース塗装を施しプレヒートが行われる(ステップS13,S14)。そして、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット(W/W)塗装でクリア塗装を施し焼付乾燥が行われる(ステップS15,S16)。尚、プレヒート後のクーリングは行わなかった。
【0071】
試験IIにおいては、全実施例および全比較例について、中塗り塗装工程およびクリア塗装工程における使用塗料および各塗装条件等は共通である。
<中塗り塗装>
・中塗り塗料:溶剤型中塗りコート塗料B
・塗装膜圧:20μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:試験Iの場合と同一で、回転数25000rpm,吐出速度200cc/分
・シェーピングエア:試験Iの場合と同一で、温度20℃,湿度70RH%,流速150NL/分(被塗物表面での流速:以下同じ)
・プレヒート:無し
・焼付乾燥:無し
【0072】
<クリア塗装>
:クリア塗装工程での使用塗料及び塗装条件は、試験Iの場合と同一とした。
【0073】
<ベース塗装>
ベース塗装工程については、試験Iの場合と同一の塗料を用い、塗装装置のベル回転数,シェーピングエア条件及びプレヒート条件を、試験Iの場合と同様に種々変更して塗装を行った。
【0074】
試験IIの試験結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2の結果から良く分かるように、ベル型回転噴霧式塗装装置のベル回転数が塗装の外観品質に大きな影響を及ぼしており、本発明実施例の中でもベル回転数を50000rpmと高く設定したもの(実施例25〜48)については、仕上がり性および光輝感の両方共に特に良好な結果(◎)が得られている。この傾向は、試験Iの場合と同様であった。
一方、比較例6では、他の条件は本発明実施例に該当するが、ベル回転数のみが15000rpmと(20000rpmよりも)低く設定されており、このため仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。従って、ベル回転数の下限値としては20000rpmに設定することが好ましい。この傾向は、試験Iの場合と同様であった。
また、比較例1〜比較例5についても、試験Iの場合と同様の結果が得られた。
【0077】
次に、試験IIIについて説明する。
<試験III>
この試験IIIでは、図11のフローチャートに示すように、用意された電着板(ステップS21参照)に、水性の中塗りコート塗料Cを用いて中塗り塗装を施した後にプレヒートを行い(ステップS22,S23)、焼付乾燥は行わずに、水性ベースコート塗料Aを用いてウエット・オン・ウエット(W/W)塗装でベース塗装を施しプレヒートが行われる(ステップS24,S25)。そして、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット塗装(W/W)でクリア塗装を施し焼付乾燥が行われる(ステップS26,S27)。尚、何れのプレヒートについても、プレヒート後のクーリングは行わなかった。
【0078】
試験IIIの中塗り塗装工程については、塗装装置のベル回転数,シェーピングエア条件及びプレヒート条件を以下のように種々変更して塗装を行った。
<中塗り塗装>
・中塗りコート塗料:水性中塗りコート塗料C
・塗装膜圧:20μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置の吐出速度条件および回転数条件:試験Iと同一
・シェーピングエア:温度条件及び湿度条件は試験Iと同一、流速は140,150,300,500NL/分の4種類とした。
・プレヒート温度:試験Iと同一
・プレヒート時間:試験Iと同一
【0079】
<ベース塗装>
ベース塗装工程については、試験Iの場合と同一の塗料を用い、塗装装置のベル回転数,シェーピングエア条件及びプレヒート条件を、試験Iの場合と同様に種々変更して塗装を行った。
【0080】
クリア塗装工程については、全実施例および全比較例について、各使用塗料および各塗装条件等は共通であり、それぞれ試験Iと同一とした。
【0081】
試験IIIでの中塗り塗装条件を表3に示し、ベース塗装条件と試験結果とを表4に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
表3及び表4の結果から良く分かるように、ベル型回転噴霧式塗装装置のベル回転数が塗装の外観品質に大きな影響を及ぼしており、本発明実施例の中でもベル回転数を50000rpmと高く設定したもの(実施例25〜48)については、仕上がり性および光輝感の両方共に特に良好な結果(◎)が得られている。この傾向は、試験Iの場合と同様であった。
【0085】
比較例1〜比較例8については、試験Iの場合と同様の結果が得られた。
更に、比較例9〜比較例16についても、中塗り塗装とベース塗装の違いがあるだけで、比較例1〜比較例8と同様の結果(つまり、試験Iの場合と同様の結果)が得られた。
【0086】
以上、説明したように、本実施形態によれば、水性塗料を用いた塗装(中塗り塗装及び/又はベース塗装)をベル型回転噴霧式塗装機を用いて行い、シェーピングエアとして加温エア及び/又はドライエアを適用したことにより、水性塗料塗装時における塗膜の水分含有量を比較的簡単な方法で効率よく低減できる。従って、プレヒートの低温化及び/又は短時間化を図っても、水分の突沸によるピンホールの発生や上層との混層による平滑性の悪化等の不具合発生を有効に抑制できるのである。この場合において、プレヒート工程での温度が40〜70℃であり、時間が0.5〜2分とされていることにより、クーリング工程の簡略化あるいは不要化を図ることができるのである。
【0087】
また、特に、水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行った後にプレヒートを行い、更にその後に水性ベースコート塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う場合についても、前記と同様の作用効果を奏することができる。
【0088】
なお、本発明は、例示された実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明では、水性塗料を用いた塗装工程後にプレヒートを行って第2の塗料によりウエット・オン・ウエット塗装を行う場合について、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させることができ、例えば自動車の車体の塗装工程などにおいて有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】プレヒート温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。
【図2】シェーピングエア温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。
【図3】噴霧塗料の粒子径が水性塗膜の乾燥性に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。
【図4】噴霧塗装におけるシェーピングエアの温度がプレヒート時間に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態にかかるベル型回転噴霧式塗装装置の要部を示す断面図である。
【図6】図5のY6−Y6断面図である。
【図7】前記ベル型回転噴霧式塗装装置における塗装機本体の前面図である。
【図8】前記ベル型回転噴霧式塗装装置によるシェーピングエアの形成状態を示す説明図である。
【図9】試験Iでの塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図10】試験IIでの塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図11】試験IIIでの塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図12】溶剤型塗料を用いた従来の車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図13】中塗りコート塗料は溶剤型塗料でベースコート塗料のみに水性塗料を適用し、プレヒート後にクーリングを行う車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図14】中塗りコート塗料およびベースコート塗料の両方に水性塗料を適用し、プレヒート後にクーリングを行う車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0091】
1 塗装機本体
2 ベルカップ
3 シェーピングエア形成手段
Fs シェーピングエア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性塗料でなる第1の塗料を用いる第1塗装工程と、該第1塗装工程後に40〜70℃の温度条件と0.5〜2分の時間条件で行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて前記第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを備えた塗装方法であって、
前記第1塗装工程での第1の塗料による塗装をベル型回転噴霧式塗装機を用いて行い、シェーピングエアとして加温エア及び/又はドライエアを適用することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記シェーピングエアは、40℃以上の温度条件と50RH%以下の湿度条件の少なくとも一方の条件を満たすものであることを特徴とする請求項1記載の塗装方法。
【請求項3】
前記第1の塗料がフレーク状の光輝材を含有する水性ベースコート塗料であり、前記第2の塗料はクリアコート塗料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装方法。
【請求項4】
前記第2の塗料は溶剤型塗料であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項5】
前記ベル型回転噴霧式塗装機のベル回転数は20000rpm以上に設定されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項6】
前記シェーピングエアの被塗物表面での流速は150NL/分以上に設定されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項7】
前記第1の塗料が水性ベースコート塗料で前記第2の塗料はクリアコート塗料であり、
前記第1塗装工程の前に第2の水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行い、
該中塗り塗装後に請求項1に記載のプレヒート工程と同一条件でプレヒートを行い、
該プレヒート後に、前記水性ベースコート塗料でなる第1の塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う、
ことを特徴とする請求項1〜6の何れか一に記載の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−181446(P2006−181446A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376529(P2004−376529)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】