説明

塗装鋼板及び鋼板の塗装方法

【課題】クロムを使用することなく、屋外使用時も局所的な錆発生やエッジ部のフクレがみられず、外観の著しい劣化が起こらない塗装鋼板及び鋼板の塗装方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ノンクロメート下塗り塗膜及び上塗り塗膜を設けた塗装鋼板であって、上記上塗り塗膜は、骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種を含有し、光沢が10以下であることを特徴とする塗装鋼板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装鋼板及び鋼板の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板やめっき鋼板を基材として外観の意匠性や保護性能を高めるための塗膜が形成された塗装鋼板が家電製品等に広く利用されている。このような塗装においては、高い耐食性を付与することができるクロム系下塗り塗装が行われてきた。しかしながら、クロムは環境への悪影響が懸念されるためその使用が制限されつつある。このため、クロムを含まずに充分な保護性能を有する塗装鋼板が必要とされている。例えば、特許文献1及び2には、リン酸金属塩やアパタイト等を防錆剤として含有する塗料組成物が開示されている。
【0003】
しかしながら、上述のようなノンクロム系下塗り塗装では、従来のクロム系下塗り塗装ほどの耐食性を付与することが難しい。このため、エアコンの室外機等のような屋外使用を想定した用途に適用することが困難であった。具体的には、ノンクロム系下塗り塗装を行った塗装鋼板を屋外使用品に適用すると、上塗り塗膜に著しい錆発生がみられ、外観不良、密着性の低下が起こるとともに、特にエッジ部においてフクレが生じるという問題があった。
【0004】
特許文献3には、カルシウムイオン交換されたシリカ微粒子を、特定の皮膜形成性樹脂成分と組合せた塗料が開示されている。しかしながら、化成処理においてはクロメート処理を行うものであった。更に、下塗塗料としての使用については記載されているが、上塗塗料として使用することについて言及はない。
【0005】
エッジ部のフクレを抑えることができる塗料組成物として、リン化合物及びバナジウム化合物を用いた塗料組成物が開示されているが(例えば、特許文献4参照)、クロメート系防錆顔料の使用を必須とするため、ノンクロム化という目的を達成することができるものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−43212号公報
【特許文献2】特開平10−17795号公報
【特許文献3】特開平11−222575号公報
【特許文献4】特開平6−9902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、クロムを使用することなく、屋外使用時も局所的な錆発生やエッジ部のフクレがみられず、外観の著しい劣化が起こらない塗装鋼板及び鋼板の塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ノンクロメート下塗り塗膜及び上塗り塗膜を設けた塗装鋼板であって、上記上塗り塗膜は、骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種を含有し、光沢が10以下であることを特徴とする塗装鋼板である。
【0009】
上記塗装鋼板は、表面の湿潤抵抗が10+8Ω・cm以下であることが好ましい。
【0010】
上記塗装鋼板において、骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種の含有量は、上塗り塗膜の樹脂成分100体積部に対して0.1〜100体積部であり、平均粒子径は1〜100μmであることが好ましい。
上記骨材は、一部又は全部がマイカであることが好ましい。
上記塗装鋼板は、家電外装品用又は外装建材用に使用することができる。
【0011】
本発明は、鋼板に、ノンクロメート下塗り塗料組成物を塗布して下塗り塗膜を形成する工程及び上塗り塗料組成物を塗布して上塗り塗膜を得る工程を含む鋼板の塗装方法であって、上記上塗り塗料組成物は、骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種を含有し、上記上塗り塗膜は、表面の光沢が10以下であることを特徴とする鋼板の塗装方法でもある。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の塗装鋼板は、骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種を含有し、塗膜表面の光沢が10以下である上塗り塗膜を有することを特徴とするものである。表面の光沢が10以下となる範囲で、骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種を含有することにより、ノンクロム系防錆下塗り塗装を設けた塗装鋼板であっても、局所的な錆発生やエッジ部のフクレがみられないものである。
【0013】
従来の塗装鋼板は、湿潤抵抗が高い上塗り塗膜によって塗膜中への水の侵入を防ぎ、遮蔽することによって基材の耐食性を保持しようとするものであった。しかしながら、上塗り塗膜上に数箇所の水の侵入点が発生してしまうと、この侵入点付近に局所的な錆が発生する。このような局所的な錆発生は、基材の耐久性を著しく低下させてしまう。また、エッジ部はその形状のために特に水の浸入点となるクラック等の塗膜欠陥が生じやすく、上記問題が生じやすい。
【0014】
本発明の塗装鋼板は、骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種を含有するものである。上記骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種を上述したような光沢を満たす添加量で含有することにより、上塗り塗膜に微細な隙間が生じ、その隙間に水が浸入する。すなわち、本発明の塗装鋼板において、上記上塗り塗膜は、局所的に水が浸入するものではなく、微細な隙間を通じて塗膜全体に微量の水が浸入するものである。水が塗膜全体に浸入し、塗膜全体に水を含むことになり、仮に腐食電流が発生してもこの腐食電流が塗膜全体に流れることになる。その結果、意外にも腐食の進行が低下する。このため、傷つき等で発生した塗膜欠陥部やエッジ部において、水が浸入したとしても、その部分での局所的な錆の発生速度が低下することによって、全体としての錆の進行が低下し、端面や傷つき部でのフクレの発生が低下し、クロムを使用した場合と同等の耐食性が得られるものである。
【0015】
すなわち、従来は上塗り塗膜の湿潤抵抗を大きくして水の浸入を抑制することによって防錆機能を付与されていたものに対し、逆に塗膜の湿潤抵抗を小さくすることで防錆性能が向上することを見出すことによって本発明は完成されたものである。本発明の塗装鋼板は、上記のように、上塗り塗膜の湿潤抵抗性を一定値以下にすることによって、耐食性が向上したものである。これにより、クロムを使用しない塗装によって高い防錆性能を有する塗装鋼板を得ることができる。
【0016】
上記上塗り塗膜は、塗膜表面の光沢が10以下となるように、上記骨材、シリカ及び防錆顔料の粒径及び含有量を調節したものである。すなわち、光沢が10以下となるように、微細な隙間を生じさせる程度に骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種を含有することによって、上塗り塗膜の湿潤抵抗を所望の範囲とすることができ、上述したような作用を得ることができる。
【0017】
上記上塗り塗膜の光沢は、スガ試験機株式会社製デジタル変角光沢計(60℃グロス)を用いることにより測定することができる。
本発明において、上記上塗り塗膜の光沢は10以下であるが、5以下がより好ましい。また、光沢の下限は特に限定されないが、例えば、1以上であることが好ましい。
【0018】
上記骨材、シリカ及び防錆顔料の平均粒子径は、1〜100μmであることが好ましい。上記平均粒子径が1μm未満であると、分散性が低下するおそれがある。上記平均粒子径が100μmを超えると、外観不良、塗膜物性低下を引き起こす可能性がある。上記平均粒子径は、コールターカウンター法により測定した値である。
【0019】
上記上塗り塗膜における骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種の含有量は、塗膜表面の光沢を10以下にできる範囲であれば特に限定されないが、固形分換算で上塗り塗膜中の樹脂100体積部に対して0.1〜100体積部であることが好ましい。0.1体積部未満であると、所望の効果が得られないおそれがある。100体積部を超えると、樹脂含有量が減少し、上塗り塗膜の密着性が低下するため好ましくない。上記含有量は、10〜40体積部であることがより好ましい。
【0020】
上記骨材、シリカ及び防錆顔料としては特に限定されず、通常、用いられるものを一種又は二種以上併用して使用することができる。例えば、ホタル石、珪砂、石英等の天然素材;陶磁器粉砕物、アクリルビーズ、ガラスビーズ、炭酸カルシウム粉砕物、マイカ(雲母)片等の骨材を挙げることができる。
【0021】
上記シリカとしては特に限定されず、通常塗料に配合されるシリカを使用することができる。なかでも、艶消し剤として使用されているニップシールE−200A(東ソーシリカ株式会社製)等のシリカを好適に使用することができる。
【0022】
上記防錆顔料としては、ノンクロム系防錆顔料であれば特に限定されず、例えば、リン酸塩顔料、バナジン酸塩顔料、モリブデン酸塩顔料、リンモリブデン酸塩顔料等が挙げられる。具体例としては、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム/五酸化バナジウム混合物、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ストロンチウム、リンモリブデン酸アルミニウム系顔料、カルシウムシリカ系顔料等を挙げることができる。
【0023】
更に、上記上塗り塗膜は、表面の湿潤抵抗が10+8Ω・cm以下であることが好ましい。従来の上塗り塗膜は、できるだけ水の侵入を遮蔽しようとするものであったため、湿潤抵抗は高いものであった。一方、本発明における上塗り塗膜は、塗膜全体に水が浸入する傾向にあるため、湿潤抵抗が10+9Ω・cm程度であった従来の上塗り塗膜よりも湿潤抵抗が低いことが好ましい。上記湿潤抵抗は、使用する樹脂や骨材、シリカ及び防錆顔料の使用量等によって上記範囲内のものに調整することができる。
【0024】
上記湿潤抵抗は、下記の方法により測定する値である。
(1)図1のように装置をセットし、純水を装置のメガネセルに満たす。
(2)35℃で1週間放置後、絶縁抵抗計(ケースレー・インスツルメンツ(社)製 絶縁抵抗計 6517A型)により、塗膜の抵抗を測定する。
【0025】
絶縁抵抗計の測定条件は下記のとおりである。
(1)0.5Vと−0.5Vの電圧を60秒ずつ交互にかけ、60、120、180、240、300秒後の電流値を測定する。
(2)R=(1(V)×π×0.75(Oリングの面積))/((5回の電流の平均値)(A)×2)
単位面積当たりの抵抗値を計算する。
【0026】
上記上塗り塗膜は、上塗り塗料組成物をプレコートメタル鋼板に塗布することにより得ることができる。上記上塗り塗料組成物は、上記骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種と塗膜形成性樹脂とを含むものであることが好ましい。上記塗膜形成性樹脂としては特に限定されず、上記骨材、シリカ及び防錆顔料を好適に分散させることができるものであればよい。
【0027】
上記塗膜形成性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、エポキシウレタン樹脂、変性エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、アクリルエポキシ樹脂、アクリルフェノール樹脂、アクリルフェノールエポキシ樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂等の各種変性ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、イソシアネート硬化型アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酸無水物変性ポリプロピレン樹脂等からなる熱硬化性樹脂;塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化オレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル、塩化ビニリデン及びこれらを共重合したビニル樹脂、セルロース系樹脂、アセタール樹脂、アルキド樹脂、塩化ゴム系樹脂熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂等を挙げることができる。上記熱硬化性樹脂には、必要に応じてメラミン樹脂等のアミノ樹脂;ブロックイソシアネート等の架橋剤を併用して用いることができる。
【0028】
上記樹脂成分のなかでも、特に、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、フッ素樹脂を使用することが好ましい。
【0029】
上記ポリエステル樹脂は、多価アルコールと塩基酸との重縮合により得られるものである。上記多価アルコールの具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−、1,3−、2,3−、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、ヒドロキシアルキル化ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート(BASHPN)、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ポリエトフメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス−(ヒドロキシエチル)イソシアナート等の1種又は複数種を挙げることができる。
【0030】
また、上記塩基酸の具体例としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、無水エンド酸等の1種又は複数種を挙げることができる。
【0031】
上記シリコーン変性ポリエステル樹脂は、上記ポリエステル樹脂100質量部に対して、有機シリコーン(例えば、官能基として−SiOCH、−SiOHを有する数平均分子量300〜1000の有機シリコーン)5〜50質量部を反応させて得ることができる。ここで用いられるポリエステル樹脂の物性は、特には限定されないが、例えば分子量は500〜30000であるのが好ましく、1000〜25000であるのが更に好ましい。なお、分子量が30000を超えると、粘度が高くなってその取り扱いが難しくなるおそれがある。他方、分子量が500より小さいと所期の性能が得られなくなるおそれがある。
【0032】
上記アクリル樹脂としては、例えば以下のようなモノマーから通常の方法により重合したものを挙げることができる。
(1)(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、N−メチロールアクリルアミド等のヒドロキシル基を有するエチレン性モノマー及びそれらのラクトン付加物。
(2)(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基を有するエチレン性モノマー。
(3)(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸n−ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどの上記モノマー(1)及び(2)と重合可能なエチレン性モノマー。
(4)(メタ)アクリロニトリル、スチレン等。
【0033】
上記シリコーン変性アクリル樹脂は、上記アクリル樹脂100質量部に対して、上記したような有機シリコーン5〜50質量部を反応させて得ることができる。
【0034】
上記樹脂成分の硬化剤としては、アミノ樹脂又はブロックイソシアネートが用いることができる。上記アミノ樹脂としては特に限定されず、例えば、n−ブチル化メラミン樹脂やイソブチル化メラミン樹脂等のメラミン樹脂やベンゾグアナミン樹脂等を挙げることができる。上記樹脂は、メラミン、ベンゾグアナミン等のアミノ化合物に、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド等のアルデヒドを付加反応又は付加縮合反応させて得られたものを、炭素数1〜4の1価アルコールでエーテル化して得ることができる。上記メラミン樹脂の具体例としては、アルコキシ基がメトキシ基、エトキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基などであるアルコキシメチルメラミン樹脂等を挙げることができる。
【0035】
熱硬化性樹脂である上記アクリル樹脂又は上記ポリエステル樹脂(それぞれシリコーン変性樹脂を含む)と架橋剤であるメラミン樹脂との使用比率は、例えば(アクリル樹脂又はポリエステル樹脂)/(メラミン樹脂)=9/1〜6/4(質量比)が好ましく、8/2〜7/3がより好ましい。ここで、架橋剤の量が多すぎると加工性が低下し、逆に架橋剤の量が少なすぎると耐食性、耐湿性、耐薬品性などが低下する。
【0036】
上記ブロックイソシアネートとしては、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタリンジイソシアネート等を挙げることができる。これらのブロックイソシアネートを架橋剤として用いる場合は、(−NCO)/(−OH)当量比が、6/4〜2/8であるのが好ましい。この比率が大きすぎると加工性が低下し、逆に小さすぎると、耐食性、耐湿性、耐薬品性が低下する。
【0037】
上記フッ素樹脂としては特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン樹脂や、フッ化ビニル樹脂をケトン系溶剤に分散したものを用いることができ、またフロロオレフィンビニルエーテルコポリマー、フロロオレフィンビニルエステルコポリマー等に代表される硬化型フッ素樹脂も用いることができる。
【0038】
上記上塗り塗料組成物における上記塗膜形成性樹脂の配合量は、25質量%以上であることが好ましい。25質量%未満であると、加工性低下、塗装作業性の低下、塗膜強度の低下等を生じるおそれがある。
【0039】
上記上塗り塗料組成物は、微粒化チタン、着色顔料、体質顔料及び染料を用いて着色してもよく、また光輝性顔料として、アルミ箔、ブロンズ箔、スズ箔、金箔、銀箔、チタン金属箔、ステンレススチール箔、ニッケル・銅等の合金箔、プラスチックで被覆した金属箔、箔状フタロシアニンブルー等の金属箔顔料を用いることができる。上記着色顔料としては、特に限定されず、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、コールダスト、タルク等の着色無機顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、アゾオレンジ、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド、等の着色有機顔料;アルミニウム粉、アルミナ粉、ブロンズ粉、銅粉、スズ粉、亜鉛粉、リン化鉄等を挙げることができる。
【0040】
上記上塗り塗料組成物は、更に、有機架橋微粒子及び無機微粒子も配合するものであってもよい。更に、各種添加剤を配合することができる。配合することができる各種添加剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等の硬化触媒、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤、フェノール系、スルフォイド系、ヒンダードアミン系等の酸化防止剤、シリコーンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、ワックス等の滑剤などの添加剤を挙げることができ、これらを塗料中に配合すれば、塗料性能や塗膜性能を改善することができる。また、上記上塗り塗料組成物は、水性、溶剤系のいずれであってもよい。
【0041】
上記上塗り塗膜は、ノンクロメート下塗り塗膜上に形成されたものである。すなわち、本発明は防錆力が弱いノンクロメート下塗り塗膜であっても、充分な耐食性を得ることができるものである。上記ノンクロメート下塗り塗膜は、ノンクロメート下塗り塗料を基材上に塗布し、焼き付けることにより形成することができる。上記ノンクロメート下塗り塗料としては特に制限されず、例えば、ノンクロム系防錆顔料及び塗膜形成性樹脂を含むものが挙げられる。上記ノンクロメート下塗り塗料は、更に、必要に応じて各種可塑剤や添加剤を含むものであってもよく、例えば、体質顔料、着色顔料、安定剤、顔料湿潤剤、分散剤、レベリング剤、流れ止め剤等を含むものであってもよい。
【0042】
上記ノンクロム系防錆顔料としては特に限定されず、例えば、上述のものを挙げることができる。
上記ノンクロム系防錆顔料は、下塗り塗膜の固形分全量に対して1〜60質量%の範囲の量で添加することが好ましい。過小では耐食性向上に効果がなく、過大になると樹脂量が少なくなりすぎることにより、加工性が低下する。上記塗膜形成性樹脂としては特に限定されず、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等をイソシアネート樹脂等の硬化剤と併用した組成物等を挙げることができる。
【0043】
本発明の塗装鋼板の基材となる鋼板としては特に限定されず、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、合金化亜鉛メッキ鋼板、亜鉛・アルミニウム合金メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、ステンレス鋼板、冷延鋼板、アルミニウム板等の金属板を使用することができる。上記金属板の厚さとしては、例えば、下限0.20mm、上限1.50mmの範囲内であることが好ましい。
【0044】
上記鋼板は、下塗り塗装前に化成処理剤による表面処理を施したものであることが好ましい。上記表面処理としては、使用する鋼板に応じて適宜選択することができ、例えば、重金属を含まない処理等を挙げることができるが、なかでも、クロムを含まないノンクロメート処理であることが好ましく、リン酸系処理がより好ましい。
【0045】
本発明の塗装鋼板は、上述の上塗り塗膜を有するものであるため、ノンクロム系下塗り塗膜を有する場合にも、局所的な錆発生が起こらないために著しい外観の悪化が生じず、エッジ部のフクレもみられない。したがって、屋外使用にも好適に適用することができる。上記塗装鋼板は、エアコンの室外機、給湯器等の家電外装品、屋根、壁等の外装用建材として使用することができる。
【0046】
本発明は、上述した塗装鋼板を得ることができる鋼板の塗装方法でもある。具体的には、鋼板に、上述した下塗り塗料組成物を塗布して下塗り塗膜を形成した後、上述の上塗り塗料組成物を塗布して塗膜表面の光沢が10以下である上塗り塗膜を得る工程を含むものである。
【0047】
上記下塗り塗料組成物及び上塗り塗料組成物の塗装方法としては特に限定されず、例えば、スプレー塗装、カーテン塗装、ロールコーター塗装によって行うことができる。
上記上塗り塗膜の膜厚としては特に限定されないが、10〜30μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲未満であると、隠蔽性が低下して上塗り塗膜としての色相安定性が低下する。上記範囲を超えると、加工性が低下する場合があるため好ましくない。
【0048】
上記上塗り塗膜を得る工程は特に限定されず、例えば、下塗り塗料組成物を塗布した後焼付けを行い、その後上塗り塗料組成物を塗布し、上塗り塗膜の焼付けを行うものであってもよいし、基板となる鋼板に下塗り塗料組成物を塗布した後、焼き付けを行わずにウェットオンウェットで上塗り塗料組成物を塗布し、同時に焼き付けを行うものであってもよい。下塗り塗膜及び上塗り塗膜の焼き付け条件は、いずれも塗装鋼板の到達する最高温度が塗膜の焼付けに最も適するように好ましく設定されたものであり、具体的には180〜250℃であり、処理時間は10〜200秒であることが好ましい。
【発明の効果】
【0049】
本発明により、クロム系防錆を使用することなく、長期の屋外使用にも耐えうる高い防錆性能を有する塗装鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また、実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0051】
実施例1〜11、比較例1〜16
厚さ0.5mmの溶融亜鉛めっき鋼板をアルカリ脱脂後、ノンクロム系化成処理剤である日本ペイント社製リン酸系処理サーフコートEC2310を塗布し、乾燥した。上記処理後の鋼板に対して、ノンクロム系防錆塗料である日本ペイント社製エポキシ系塗料NSC681を下塗り塗料組成物として乾燥膜厚5μmとなるように塗布し、最高到達温度200℃にて30秒焼付けた。上記下塗り塗装後の鋼板に対して、日本ペイント社製ポリエステル系塗料NSC300HQにマイカ、シリカ、ガラスビーズ、カルシウムシリカ系防錆顔料(商品名:シールデックス、富士シリシア科学社製)を塗膜の光沢が1〜70の範囲となるように配合したものを上塗り塗料組成物として乾燥膜厚15μmとなるように塗布し、最高到達温度210℃にて40秒焼付けた。
【0052】
比較例17
骨材を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして塗装鋼板を得た。
【0053】
比較例18
化成処理剤として、日本ペイント社製クロム系処理サーフコートNRC352を、下塗り塗料組成物としてクロム系下塗り塗料組成物である日本ペイント社製NSC655を使用したこと以外は、実施例1と同様にして塗装鋼板を得た。
【0054】
得られた各塗装鋼板の上塗り塗膜の光沢及び湿潤抵抗を下記方法により測定した。
<光沢>
スガ試験機株式会社製デジタル変角光沢計(60°グロス)にて測定した。
【0055】
<湿潤抵抗>
上記湿潤抵抗は、下記の方法により測定した。
(1)図1のように装置をセットし、純水を装置のメガネセルに満たした。
(2)35℃で1週間放置後、絶縁抵抗計(ケースレー・インスツルメンツ(社)製 絶縁抵抗計 6517A型)により、塗膜の抵抗を測定した。
【0056】
絶縁抵抗計の測定条件は下記のとおりとした。
(1)0.5Vと−0.5Vの電圧を60秒ずつ交互にかけ、60、120、180、240、300秒後の電流値を測定した。
(2)R=(1(V)×π×0.75(Oリングの面積))/((5回の電流の平均値)(A)×2)
単位面積当たりの抵抗値を計算した。
【0057】
<評価>
得られた塗装鋼板に、素地まで達する縦平行カットを2本入れた。更に、塗装鋼板を沖縄県宮古島の日本ペイント宮古島ウェザリング試験場にて、4年間環境暴露試験に供した。カット部及び端面のフクレ幅を測定し、結果を表1〜5に示す。また、カット部に発生した錆の評価を下記基準に従って行った。結果を表1〜5に示す。また、実施例1、比較例17及び18のカット部及び端面の写真を図2〜7に示す。
【0058】
(カット部サビ評価基準)
5:全くサビが認められない。
4:全体の25%サビが発生
3:全体の50%サビが発生
2:全体の75%サビが発生
1:全面サビが発生
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
本発明の塗装鋼板は、カット部及び端面のフクレが抑制されていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の塗装鋼板は、ノンクロム系下塗り塗装を施した場合にも、局所的な錆発生がみられず、外観の著しい低下が起こらない。また、エッジ部のフクレも抑制される。したがって、家電外装品、外装建材等にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】湿潤抵抗を測定するための装置の模式図である。
【図2】実施例1のカット部フクレ写真である。
【図3】実施例1の端面上バリフクレ写真である。
【図4】比較例17のカット部フクレ写真である。
【図5】比較例17の端面上バリフクレ写真である。
【図6】比較例18のカット部フクレ写真である。
【図7】比較例18の端面上バリフクレ写真である。
【符号の説明】
【0067】
11 試験板
12 メガネセル
13 純水
14 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノンクロメート下塗り塗膜及び上塗り塗膜を設けた塗装鋼板であって、
前記上塗り塗膜は、骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種を含有し、
光沢が10以下であることを特徴とする塗装鋼板。
【請求項2】
表面の湿潤抵抗が10+8Ω・cm以下である請求項1記載の塗装鋼板。
【請求項3】
骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種の含有量は、上塗り塗膜の樹脂成分100体積部に対して0.1〜100体積部であり、平均粒子径は1〜100μmである請求項1又は2記載の塗装鋼板。
【請求項4】
骨材は、一部又は全部がマイカである請求項1、2又は3記載の塗装鋼板。
【請求項5】
家電外装品用又は外装建材用である請求項1、2、3又は4記載の塗装鋼板。
【請求項6】
鋼板に、ノンクロメート下塗り塗料組成物を塗布して下塗り塗膜を形成する工程及び上塗り塗料組成物を塗布して上塗り塗膜を得る工程を含む鋼板の塗装方法であって、
前記上塗り塗料組成物は、骨材、シリカ及び防錆顔料からなる群より選択される少なくとも一種を含有し、
前記上塗り塗膜は、表面の光沢が10以下であることを特徴とする鋼板の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−119360(P2009−119360A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295894(P2007−295894)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(503234872)日本ファインコーティングス株式会社 (13)
【Fターム(参考)】