説明

塞栓治療用コイル

【課題】製造がきわめて容易であり、かつ、高い器質化促進効果を発揮することができる塞栓治療用コイルを提供する。
【解決手段】血管内手術の際に血管内に留置して塞栓治療を行うためのコイルであって、金属からなるコイル本体と、前記コイル本体の表面に担持された式(1)で表されるペプチド及び/又は前記ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルとからなる塞栓治療用コイル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造がきわめて容易であり、かつ、高い器質化促進効果を発揮することができる塞栓治療用コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
動脈瘤、動静脈奇形や動静脈瘻等の血管障害や腫瘍への栄養動脈の塞栓治療等においては、塞栓材料を用いた血管内治療が行われる。即ち、カテーテル先端を処置部位近傍へと導き、この先端から塞栓材料を処置部に注入し、又は、先端に塞栓材料を有するガイドワイヤーをこのカテーテルを通じて処置部に挿入し、塞栓材料部を離脱させて処置部に留置する。塞栓材料自体と塞栓材料上に形成された血栓により、処置部への血流が遮断され、治療が行われる。このような塞栓材料として、コイルが好適に用いられている。
【0003】
本治療法の有効性と安全性は明らかであるが、ここ数年、急速に塞栓材料としてコイルが適用された症例が増加するとともに、その限界が徐々にではあるが明らかになってきた。例えば、動脈瘤の治療では、瘤内への血液の流れ込みを防止するために、瘤内へ留置するコイルの体積分率を30%以上とすることにより、瘤内で血栓が形成され、線維芽細胞及び血管内皮細胞が増殖し、動脈瘤内で血栓が器質化され、更に動脈瘤の入り口が内皮細胞で覆われ、治癒するものと期待されていた。しかし、動物実験モデルや剖検例の処置部を観察すると、コイル留置後長期経過した後もコイルの周囲は器質化されず、特に動脈瘤の開口部ではコイルが直接に血流に接している状態であることが判った。このような状態では、コイルから血栓が剥離し、血管が閉塞されて脳梗塞を引き起こす可能性を無視できない。また、瘤内へ流入する血流により瘤が破裂する危険性も考えられる。このため、器質化を促進するコイルの開発が望まれていた。
【0004】
器質化を促進するコイルとしては、イオン注入を行った白金コイルや、イオン注入を行った白金コイル上にコラーゲンを吸着させたコイルが開発されており、動物実験では効果があると発表されている(非特許文献1、2)。しかしながら、これらのコイルは、単にコイルの表面への細胞の接着性を向上させたものでしかなく、積極的に器質化を促進するものではない。また、高コストのイオン注入によることから高価にならざるを得ず、現在まで普及していない。
【0005】
これに対して特許文献1には、金属製のコイル本体と、該コイル本体の表面に固定化された細胞増殖因子又は細胞増殖因子の遺伝子を含むベクターとからなるコイルが開示されている。これは、細胞増殖因子又は細胞増殖因子の遺伝子を含むベクターをコイル表面に固定化することにより、コイルより細胞増殖因子を徐々に放出させたり、又は、細胞増殖因子の遺伝子を含むベクターを周囲の細胞へと感染させることで、処置部で細胞の増殖を促進し、器質化を促進するというものである。このようなコイルを用いることにより、より確実の塞栓治療を行えると同時に、器質化を促進して血栓の形成防止や瘤の破裂防止を図ることが期待される。
【0006】
しかしながら、細胞増殖因子や細胞増殖因子の遺伝子を含むベクターを血流に押し流されない程度に強固にコイルの表面に固定するためには、コイルの表面に極性基を有する膜を形成させた後に、細胞増殖因子や細胞増殖因子の遺伝子を含むベクターをイオン間相互作用により結合させる等の面倒な処理が必要であった。他の固定化方法、例えば化学的な結合を行った場合には、細胞増殖因子や細胞増殖因子の遺伝子を含むベクターの多くは失活してしまうことも問題であった。更に、細胞増殖因子や細胞増殖因子の遺伝子を含むベクターを結合させ得たとしても、不安定で失活しやすいことから、取り扱い性や保存性に劣るという問題もあった。
【特許文献1】特開2001−299769号公報
【非特許文献1】Y.Murayama,Y.Suzuki,F.Vinuela, et al.,Developement of a Biologically active Guglielmi Detachable Coil for the Treatment of Cerebral Aneurysms. PartI: InVitro Study,AJNR Am J.Neuroradiol,20,1986−1991(1999)
【非特許文献2】Y.Murayama,F.Vinuela,Y.Suzuki,Developement of a Biologically active Guglielmi Detachable Coil for the Treatment of Cerebral Aneurysms. PartII:An Experimental Study in a Swine Aneurysm Model, AJNR Am J.Neuroradiol,20,1992−1999(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、製造がきわめて容易であり、かつ、高い器質化促進効果を発揮することができる塞栓治療用コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、血管内手術の際に血管内に留置して塞栓治療を行うためのコイルであって、金属からなるコイル本体と、前記コイル本体の表面に担持された下記式(1)で表されるペプチド及び/又は前記ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルとからなる塞栓治療用コイルである。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
【化1】

上記式(1)で表されるペプチド(CAS No.179170−18−4;分子量931)は、アレルギー性及び非アレルギー性炎症抑制作用、免疫抑制作用、抗菌作用、抗腫瘍作用等を示し、炎症抑制剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗腫瘍剤等の用途に有用な物質であることが知られており(特開平8−119993号公報等)、外科的切開、胃潰瘍、火傷、裂傷等の創傷を治癒するための創傷治癒剤に用いることにより、有用性の高い創傷治癒効果を発揮すること(特開平9−176188号公報)、サイトカインの一種である形質転換増殖因子(TGF−β)の産生を誘導すること(阿部佳子ら、Eur J Pharmacol. 2000 17;408(2):213−8.)も知られている。
本発明者らは、鋭意検討の結果、上記式(1)で表されるペプチド及び/又は該ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルの溶液を塗布し、乾燥させたコイルを用いれば、これを血管内に留置することにより確実の塞栓治療を行えると同時に、著しく器質化を促進して血栓の形成防止や瘤の破裂防止を図ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記式(1)で表されるペプチド及び/又は該ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルは、細胞増殖因子や細胞増殖因子の遺伝子を含むベクターに比べて極めて安定であり、また、エタノール、メタノール、アセトニトリル等の溶剤に失活することなく容易に溶解させることができる。これを塗布して乾燥したコイルでは、該ペプチド等が非常に安定であるので、取り扱いや使い勝手等に優れる。
上記式(1)で表されるペプチド及び/又は該ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルは、上述のようにTGF−β1等の細胞増殖因子の誘導作用を有することが知られていおり、該ペプチドが直接的又は間接的に血小板やマクロファージ等の細胞に作用することにより、細胞からのTGF−β1等を誘導すると考えられる。その結果、誘導されたTGF−β1が器質化を促進し、塞栓治療の作用を発揮すると考えられる。
【0011】
本発明の塞栓治療用コイルは、コイル本体と該コイル本体に担持された特定のペプチドとからなる。
上記コイル本体は、本発明の塞栓治療用コイルの本体をなすものであって、血管に留置することにより処置部への血流を遮断する役割を有するものである。
【0012】
上記コイル本体の大きさや形状としては、従来より塞栓治療において用いられる塞栓材料としてのコイルと同様のものが挙げられる。具体的には例えば、直径50〜150μm程度の金属からなる線材を、適用しようとする血管の内径に合わせた直径となるように巻回したもの等が挙げられる。
【0013】
上記コイル本体を構成する金属としては、ある程度の生体適合性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ステンレス鋼、タンタル又はタンタル合金、白金又は白金合金、金又は金合金、コバルトベース合金等が挙げられる。なかでも、生体内での反応性が少なくほとんど毒性を示さないことから、白金又は白金合金が好適である。また、ステンレス鋼等からなるコイルの表面に金や白金等の貴金属メッキを施したものも好適に用いることができる。
【0014】
上記コイル本体は、生体適合材料、生分解性材料、合成樹脂により被覆されていてもよい。
上記生体適合性材料としては、血小板が付着し難く組織に対して刺激性を示さないものであれば特に限定されず、例えば、糖類、シリコーン、ポリエーテル型ポリウレタンとジメチルシリコンの混合物又はブロック共重合体、セグメント化ポリウレタン等のポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート、ポリメトキシエチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレートとスチレンの共重合体(例えば、HEMA−St−HEMAブロック共重合体)、フィブリン等が挙げられる。
【0015】
上記生分解性材料としては、生体内で酵素的、非酵素的に分解され、分解物が毒性を示さないものであれば特に限定されず、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸−ポリカプロラクトン共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリα−アミノ酸、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0016】
上記合成樹脂としては特に限定されず、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、シリコーンゴム(RTVゴム)、熱可塑性ポリウレタン、フッ素樹脂(例えば、PTFE、ETFE、熱可塑性フッ素樹脂等)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、低密度ポリプロピレン等)、ポリエステル、ポリカプロラクトン、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリイミドカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等やこれらの混合物等が挙げられる。
【0017】
上記式(1)で表されるペプチドは、ストレプトマイセス属に属する該ペプチド生産菌株、例えば、放線菌ストレプトマイセス・ノビリス(Streptomyces nobilis、以下「S.ノビリス」という)を培養し、得られた培養液又は同液の乾固物若しくは培養菌体から有機溶剤によって抽出された抽出物を、各種クロマトグラフィーに付し、目的物を含むカラムクロマトグラフィー画分を再結晶処理することにより得られる。
【0018】
上記ペプチドを得るための放線菌S.ノビリスは、公的保存機関から入手可能であり、例えば、理化学研究所の保存菌(JCM4274)(これは米国においてATCC19252、及び、オランダにおいてCBS198.65としても保存)等の菌が使用できる。
上記ペプチドを得るための具体的方法としては、例えば、本発明者らが先に出願したWO96/12732号公報に記載の方法が挙げられる。
【0019】
本発明の塞栓治療用コイルでは、上記ペプチドと上記ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルとを同時に用いる場合や、上記ペプチドに代えて、上記ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルを用いた場合でも、同様の効果を発揮することができる。
【0020】
上記ペプチドの薬理学的に許容される塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩;トリエチルアミン塩やピリジン塩等の有機アミン塩のような有機塩基との塩;塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸付加塩;酢酸塩、マレイン酸塩等の有機カルボン酸付加塩;ベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸付加塩;アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等のアミノ酸との塩等が挙げられる。
【0021】
上記ペプチドの薬理学的に許容されるエステルとしては、例えば、少なくとも1つの適当な置換基を持っていてもよいメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル等のアルキルエステル、例えばアルカノイルオキシアルキルエステル(例えば、アセトキシメチルエステル、プロピオニルオキシメチルエステル、ブチリルオキシメチルエステル、バレリルオキシメチルエステル、ピバロイルオキシメチルエステル、ヘキサノイルオキシメチルエステル、1−又は2−アセトキシエチルエステル、1−,2−又は3−アセトキシプロピルエステル、1−,2−,3−又は4−アセトキシブチルエステル、1−又は2−プロピオニルオキシエチルエステル、1−,2−又は3−プロピオニルオキシプロピルエステル、1−又は2−ブチリルオキシエチルエステル、1−又は2−イソブチルオキシエチルエステル、1−又は2−ピバロイルオキシエチルエステル、1−又は2−ヘキサノイルオキシエチルエステル、イソブチリルオキシメチルエステル、2−エチルブチリルオキシメチルエステル、3,3−ジメチルブチリルオキシメチルエステル、1−又は2−ペンタノイルオキシエチルエステル等)、アルカンスルホニルアルキルエステル(例えば、2−メシルエチル等)、モノ−、ジ−又はトリハロアルキルエステル(例えば、2−ヨードエチルエステル、2,2,2−トリクロロエチルエステル等)、アルコキシカルボニルオキシアルキルエステル(例えば、メトキシカルボニルオキシメチルエステル、エトキシカルボニルオキシメチルエステル、2−メトキシカルボニルオキシエチルエステル、1−エトキシカルボニルオキシエチルエステル、1−イソプロポキシカルボニルオキシエチルエステル等)、フタリジリデンアルキルエステル又は(5−アルキル−2−オキソ−1,3−ジオキソール−4−イル)アルキルエステル[例えば(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソール−4−イル)メチルエステル、(5−エチル−2−オキソ−1,3−ジオキソール)メチルエステル、(5−プロピル−2−オキソ−1,3−ジオキソール−4−イル)エチルエステル等]等、アルケニルエステル(例えば、ビニルエステル、アリルエステル等)、アルキニルエステル(例えば、エチニルエステル、プロピニルエステル等)、少なくとも1つの適当な置換基を持っていてもよいアリールアルキルエステル、例えば、非置換又は置換モノ、ジ又はトリフェニルアルキルエステル(例えば、ベンジルエステル、4−メトキシベンジルエステル、4−ニトロベンジルエステル、フェネチルエステル、トリチルエステル、ベンズヒドリルエステルビス(メトキシフェニル)メチルエステル、3,4−ジメトキシベンジルエステル、4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルベンジルエステル等)等、少なくとも一つの適当な置換基を持っていてもよいアリールエステル(例えば、フェニルエステル、4−クロロフェニルエステル、トリルエステル、t−ブチルフェニルエステル、キシリルエステル、メシチルエステル、クメニルエステル等)、フタリジルエステル等が挙げられる。
【0022】
また、上記ペプチド及び/又は上記ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルは、非晶質又は結晶のいずれの形態であってもよいが、非晶質であることが好ましい。
【0023】
上記コイル本体の表面に、上記式(1)で表されるペプチド及び/又は該ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルを担持させる方法としては特に限定されず、上記式(1)で表されるペプチド及び/又は該ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルを溶媒に溶解した溶液を調製し、該溶液をコイル本体に塗布したり、該溶液中にコイル本体を浸漬した後、乾燥させる方法が挙げられる。
【0024】
上記コイル本体の表面における上記式(1)で表されるペプチド及び/又は該ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルの担持量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1μg/10mm coilである。0.1μg/10mm coil未満であると、充分な器質化促進効果が得られないことがある。上限については特に限定されないが、実質的には100μg/10mm coil程度が限界であろう。
【0025】
本発明の塞栓治療用コイルを血管内、特に血管傷害部位に留置することで、コイルの周囲の器質化を促進できる。上記血管障害部位とは、例えば、動脈瘤、動静脈奇形、動静脈瘻等が挙げられる。また、本発明の塞栓治療用コイルは、腫瘍への栄養動脈の塞栓治療にも有用である。
【0026】
本発明の塞栓治療用コイルを血管の動脈瘤内に留置した状態を説明する模式図を図1に示した。
図1においては、血管2の動脈瘤3内に塞栓治療用コイル1が留置されている。塞栓治療用コイル1を留置することで、動脈瘤3内に線維芽細胞4を増殖させて動脈瘤3内を器質化でき、更に、動脈瘤3の開口部を血管内皮細胞5で覆うことができる。この結果、血栓の飛散、動脈瘤の破裂を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、製造がきわめて容易であり、かつ、高い器質化促進効果を発揮することができる塞栓治療用コイルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0029】
(ペプチドの調製)
理化学研究所から入手した放線菌S.ノビリス(JCM4274)を、酵母エキス0.2%(w/v)添加澱粉・アンモニウム培地50mLを含む500mL容坂口スラスコ5本で、26℃、150rpm、120時間振盪培養(前々培養)した。続いて同培地12Lを含む20L容ジャーファメンターに前々培養菌液240mLを接種し、26℃、410rpm、通気量4L/分で24時間培養(前培養)した。更に、澱粉・アンモニウム培地(蒸留水100mL中に可溶性澱粉を1g、リン酸水素二カリウムを0.05g、塩化アンモニウムを0.05g含む)140Lを含む200L容ジャーファメンターに、前培養菌液12Lを接種し、26℃、24時間種培養した。
【0030】
次いで、澱粉・アンモニウム培地1400Lを含む2000L容タンクに、種培養菌液140Lを接種し、26℃、140rpm、通気量700L/分、pH7.5で7日間培養した。
【0031】
培養終了後、濾過により菌体を濾別した。このようにして得られた菌体6.34kg(湿重量)のうち、菌体1kg(湿重量)にジクロロメタン3Lを加え、室温で15時間攪拌後、菌体を濾別し、菌体抽出液を得た。菌体については、同操作を3回繰り返した。得られた菌体抽出液を濃縮後、シリカゲル担体120gに吸着させた。本吸着シリカゲル担体をシリカゲルカラムにより精製した。
【0032】
シリカゲル担体800gを充填した径8.0cmのカラムに上記抽出物吸着担体約120gをチャージし、シリカゲルカラムを作成した。このシリカゲルカラムを下記の条件を用いて精製を行った。溶出溶剤として、a)ヘキサン:酢酸エチル=4:6を4L、b)酢酸エチルを3.5L、c)メタノール2Lを、この順に流速500mL/時間で流した。分画は、溶剤組成を変更する毎に行い、特に酢酸エチルの溶出画分は500mLずつ分画した(従って、酢酸エチルについては、溶出画分数は合計7画分となる)。
【0033】
上記の各溶出画分について、それぞれ、ODS−80TM、内径4.6mm×長さ25.0cmのカラム(東ソー社製)を用いたHPLC(日立社製、ポンプL−6000、L−6200、検出器L−3000、カラムオーブン655A−52)によって、検出波長210nm、カラム温度40℃、流速1ml/分の条件で、溶離液として水:アセトニトリル=3:7を用いて、純度を確認した。
【0034】
上記のHPLCによる純度確認において、リテンションタイムが12〜15分で溶出されるピーク面積が、全溶出ピーク面積の80%以上を占めることが確認されたシリカゲルカラム溶出画分を合わせ、同一画分とした。本画分を濃縮乾固後、メタノール−ジクロロメタン系を用いて繰り返し再結晶を行い、柱状結晶3.5gを得た。
【0035】
この物質の構造は、種々の機器分析データよりWO96/12732号公報に記載された物質と同一であり、上記式(1)で表されるペプチドであることがわかった。
得られたペプチドの機器分析データを以下に示す。
【0036】
1.MS
・ESI−MS:m/z=913.6(M+H−HO)、931.6(M+H)、953.6(M+Na)
・HRFAB−MS
Found:m/z=913.5079(M+H−HO)、m/z=913、953、931(913がメイン,931は非常に小さい)
Calcd for:C456912
m/z=913.5053
【0037】
2.IR
IR:3,400cm−1:−OH,−NH
2,900cm−1:アルキル基
1,750cm−1:−C(=O),−O−
1,650cm−1:−C(=O),−NH−
【0038】
3.アミノ酸分析
加水分解物としてD−セリン、L−アラニンおよびD−N−メチル−フェニルアラニンが認められた。
【0039】
(実施例1)
得られたペプチドをエタノールに溶解して1.5重量%エタノール溶液を調製した。
一方、素線径50μmの白金−タングステン(8%)合金線を巻回させ、直径300μm、長さ5mmの白金コイルを得た。
得られた白金コイルをペプチドのエタノール溶液に浸漬した後、乾燥した。この浸漬−乾燥を3回繰り返して、塞栓治療用コイルを得た。
なお、HPLCを用いて測定したところ、白金コイル上のペプチドの担持量は約6μg/10mm coilであった。
【0040】
(比較例1)
実施例1と同様に素線径50μmの白金−タングステン(8%)合金線を巻回させ、直径300μm、長さ5mmのコイルとしたものを作製して、これを用いた。
【0041】
(評価)
ウィスターラット(オス、体重300〜350g)の外頚動脈を頚動脈分岐部より5mmのところで結紮し、この盲端にした外頚動脈を動脈瘤のモデルとした。
この動脈瘤モデル内に実施例1及び比較例1で作製した塞栓治療用コイルを留置した。
留置後、3、7、14、28及び42日後に犠牲死させて該当する血管を取り出し、分岐部より2mmのところで切開した。
切開部分の断面のエオシン・ヘマトキシリン(HE)染色及びマッソントリクローム(MT)染色像を図2〜6に示した。
【0042】
図2〜6より、実施例1のコイルを用いた群では、早期から動脈瘤内に血流の残存と見られる腔が少なくなり、7日後には動脈瘤内の器質化が進んでいるのが判った。42日後には動脈瘤だけでなく開口部においても充分な器質化が確認された。また、内頚動脈、総頚動脈の血管壁障害や閉塞は認められなかった。
一方、比較例1のコイルを用いた群では、3日後でも動脈瘤内に血流の残存と見られる腔が認められ、コイルの表面に薄い器質化は認められるものの、全体としては血管内膜の肥厚化のみで閉塞率は不充分であった。
【0043】
図2において、器質化された部位はHE染色では細胞核が集まって見え、MT染色では青く染色される。一方、血液が凝固した部位はHE染色では細胞核が乏しく見え、MT染色では赤又は橙に染色される。これを利用して、コンピュータを用いた画像解析により、器質化された部位の占める割合を算出した。
結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、製造がきわめて容易であり、かつ、高い器質化促進効果を発揮することができる塞栓治療用コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の塞栓治療用コイルを血管の動脈瘤内に留置した状態を説明する模式図である。
【図2】コイル留置後3日後における切開部分断面のエオシン・ヘマトキシリン(HE)染色及びマッソントリクローム(MT)染色像である。
【図3】コイル留置後7日後における切開部分断面のエオシン・ヘマトキシリン(HE)染色及びマッソントリクローム(MT)染色像である。
【図4】コイル留置後14日後における切開部分断面のエオシン・ヘマトキシリン(HE)染色及びマッソントリクローム(MT)染色像である。
【図5】コイル留置後28日後における切開部分断面のエオシン・ヘマトキシリン(HE)染色及びマッソントリクローム(MT)染色像である。
【図6】コイル留置後42日後における切開部分断面のエオシン・ヘマトキシリン(HE)染色及びマッソントリクローム(MT)染色像である。
【符号の説明】
【0047】
1 塞栓治療用コイル
2 血管
3 動脈瘤
4 線維芽細胞
5 血管内皮細胞


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内手術の際に血管内に留置して塞栓治療を行うためのコイルであって、
金属からなるコイル本体と、前記コイル本体の表面に担持された下記式(1)で表されるペプチド及び/又は前記ペプチドの薬理学的に許容される塩若しくはエステルとからなる
ことを特徴とする塞栓治療用コイル。
【化1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−63803(P2010−63803A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235339(P2008−235339)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【Fターム(参考)】